『夕日隠れの道に夕日影』

   〜アイリーン編 後日談〜






永いキスの後、二人はそっと離れる。
どこか照れ臭そうに、お互いに視線を逸らしつつ、それでもしっかりと抱きしめ合う。

「あ、そろそろ戻らないと……」

「そうですね」

そう言って恭也は名残惜しそうにアイリーンの体を離す。
そんな恭也に、アイリーンは拗ねたように言葉を投げる。

「恭也、私たちその、恋人同士になったんだよね」

照れながら言うアイリーンに、恭也も照れながら頷く。
そんな恭也を眺めつつ、アイリーンが言う。

「だったら、そんなに丁寧な言葉じゃなくて、もっとフィーと話す時みたいに、ね」

「あ、ああ。これからは気を付ける」

「うん、それで良し。後、勿論さん付けもなしだからね」

アイリーンの言葉に恭也が頷くのを見て、アイリーンは満足そうに頷くと恭也の左腕を自らのそれと絡ませ、歩き出す。
恭也は照れ臭かったが、あまりにも嬉しそうなアイリーンの姿と、また自分も嫌ではないため、何も言わなかった。



その日の夕食時。
恭也の横に座ったアイリーンは、笑顔で恭也の口へおかずを差し出す。
恭也もそれを文句一つ言わず、大人しく受け入れるとそれを食べる。
そんな二人をジト目で数人が見る中、対面に座ったゆうひが口を開く。

「どないしたんや、恭也くん。最初から断わらへんなんて、珍しいな。
 抵抗するだけ無駄と悟ったんか?それとも、アイリーンに脅されてるとか?」

「失礼ね、ゆうひ。私がそんな事するはずないでしょう。ただ、恭也は今右腕を痛めてるだけよ。
 だから、私が食べさせてあげてるだけじゃない。はい、恭也あーん」

アイリーンの言葉を聞き、フィアッセたちは慌てたように恭也を見る。

「恭也!まさか怪我してるの!」

「いや、怪我はしてない。ただ、少し右腕を痛めただけだから、そんなに心配しなくてもいい」

恭也の説明を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
と、同時にアイリーンとは逆隣に座ったフィアッセは、同じ様に恭也の口元へとおかず運ぶ。

「私たちを守るために痛めたんだもん、これぐらいは当然よね♪」

妙に嬉しそうに言うフィアッセを見ながら、ゆうひも同じ様に構える。

「安心して、フィー。恭也には私が食べさせてあげるから、フィーたちは気にしなくても良いわよ」

「そういう訳にはいかないわよ」

恭也を中心に、三人の間に火花が散る。
暫らくそうやってにらみ合っていたが、アイリーンは肩を竦めると、傍観していた恭也に声を掛ける。

「恭也は私に食べさせて欲しいわよね」

「えっと……」

「そんな事ないよね」

言葉を濁すと、すかさずフィアッセが言ってくる。
それを見ながら、アイリーンの方を窺うと、怒っているような拗ねているような表情を見せる。

「そうなんだ。恭也は私より、フィーやゆうひの方が良いんだ」

「そ、そんな事は……」

「じゃあ、私に食べさせて欲しい?」

「えっと……あ、ああ」

顔を赤くしながら頷く恭也に、アイリーンは満足気な顔をするが、それでは許さないと言わんばかりに告げる。

「だったら、ちゃんと言ってよ」

この言葉に恭也はうろたえるが、何かを期待するような目で見られ、ため息を吐くと共に覚悟を決める。

「アイリーンが食べさせてくれ」

「はい、よく出来ました」

アイリーンは本当に嬉しそうに笑うと、恭也の口元にフォークを運ぶ。
そうやって食べさせてもらっている中、恭也はフィアッセたちが驚いた顔でずっとこちらを見ていることに気付き、声を掛ける。

「フィアッセ、どうかしたのか?」

「な、何で……?」

「何がだ?」

「何で、アイリーンの事、呼び捨てにしてるの!それに、何か仲が良さそうだし!」

フィアッセの言葉にゆうひも頷く。
そんな二人を見ながら、アイリーンは胸を張り、顔の前で人差し指を立てると、左右に振る。

「呼び捨てにしてるのは、私が頼んだから。後、仲が良さそうじゃなくて、仲が良いのよ。
 ねー、恭也」

そう言うと、恭也の肩に頭を乗せ、フィアッセたちの方を見る。

「ど、どういう事よ。恭也!アイリーン!」

「そ、そや。説明してもらおうか」

捲くし立てる二人の言葉に、アイリーンは恭也の肩から頭を離し、見せつけるかのように今度は腕を組む。
そして、ゆっくりと口を開く。

「だって、私たち恋人同士だし。ね、恭也」

「ああ」

アイリーンの言葉に、恭也はただ頷く。
それを聞いて、フィアッセたちだけでなく、その周りでそのやり取りを聞いていた者たちも揃って声をあげる。

「い、一体、いつの間に」

「ふふふ。それは秘密よ」

フィアッセの追求を軽くいなし、アイリーンは全員に向って言い聞かせるように言い放つ。

「そういう訳だから、初日みたいな事はしたら駄目だからね」

そう言って、アイリーンは恭也の頬にキスをする。
所々から、大胆という言葉や、歓声が上がる。
そんな中、それらを眺めながら、ティオレはその顔に穏やかな笑みを浮かべていた。
視界の隅でそれを見た恭也も、ティオレに向って笑みを浮かべる。
それに気付いたのか、ティオレは頷くと、立ち上がり声をあげる。

「恭也、アイリーンおめでとう」

ティオレの言葉に、他の生徒たちも口々に祝福を送る。
フィアッセたちも複雑な胸中ながらも、素直に祝福する。
それらを受け、恭也とアイリーンは嬉しそうな笑みを零す。

「じゃあ、二人には仲の良い所を見せてもらわないとね」

そう言ったティオレの顔は、既に悪戯っ子の笑みに変わっていた。
それを見て、生徒たちも囃し立てる。
辺りを見渡し、アイリーンは恭也の方を見るとそっと目を閉じる。
そんなアイリーンを見て、恭也は周りの事を忘れたかのようにそっと抱き寄せる。
そして、本日二度目となるキスを、皆に祝福される中、交わすのだった。







おわり





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