『Sweet Valentine』




2月13日 夕暮れ


遠野家の調理場ではいつものごとく、琥珀が夕食の用意に勤しんでいた。

「ふんふんふーん」

そこへ秋葉が顔を見せる。

「ちょっと琥珀、いいかしら」

「あら、秋葉さま。どうかしましたか?」

「ちょっと、聞きたい事があるんだけど」

「はい、何でしょうか」

「チョコレートとは、どうやって作るの」

「はい?」

「だ、だから、チョコレートの作り方よ」

琥珀は胸の前で、ッポンと一つ手を叩く。

「ああ、なるほど。そういう事ですか。わかりました」

「な、何が判ったっていうのよ」

「つまり、秋葉さまは、明日の為にチョコレートを作りたいんですね」

その言葉を聞いた秋葉は、顔を赤くしながらも。反論する。

「なにを言ってるんです。なぜ私が、兄さんにチョコレートを上げないといけないんですか」

「あれ、誰も志貴さんに上げる為とは、言ってませんが」

「///っっ、べ、別にいいでしょう。一つも貰えないと可哀相でしょ。

 だから、せめて私からだけは、上げた方が良いかなって思っただけよ」

「まあまあ、秋葉さま。落ち着いて下さい。

 それに、志貴さんにチョコレートを上げられる方って、わたしを含めて結構、いると思いますよ。

 翡翠ちゃんも今日、買って来てたみたいですし」

「な、えーと、ほ、ほら、兄さんには日頃からお世話になっているし、その、一応、いろいろと感謝してるし・・・」

「冗談ですよ、秋葉さま。夕食後にお教えいたしますから。そんなに慌てないで下さい」

「別に慌ててなんかいません。とりあえず、夕食後ということね」

「はい。では、夕食後に」



夕食後、志貴を部屋へと追い返した秋葉は、琥珀からチョコレート作りを教えてもらう為、調理場へと向かう。

その夜、結構遅くまで、調理場の光が落ちる事はなく、

そこからは、琥珀の楽しそうな声と、どこか疲れた感じのする秋葉の声が響いていたとか・・・。



  ◇◇◇◇◇



2月14日 夜

− 志貴 視点 −


夕食後、秋葉に誘われ庭へと出る。

さっきから秋葉は、ソワソワして落ち着きがないな。

「どうしたんだ、秋葉」

「え、何がですか」

「いや、落ち着きがない様な気がするんだけど」

「そんな事はありませんよ、兄さん」

「それなら良いけど。で、なんの用なんだ、秋葉」

「それはですね・・・」

秋葉はしばらく躊躇った後、俺にラッピングされた箱を手渡す。

これで事情が飲み込めた俺は、秋葉からのそれを受け取る。

「べ、別に、深い意味はないですからね」

「そうなのか。それは、残念だな。俺は、秋葉から貰えてものすごく嬉しいんだけどな」

「な、何を言ってるんですか、兄さん。他の子からもたくさん貰って、喜んでたみたいですけど」

「まあ、そりゃ少しは嬉しいさ。でも、やっぱり秋葉から貰えるのが、一番嬉しいからな。

 秋葉は俺にとって、特別だから」

「わ、私にとっても兄さんは特別です」

「それは、兄妹として?」

「っちがいます!わ、わかってて聞いてるでしょ」

秋葉は少し拗ねた顔をして、俺を見上げてくる。

「開けてもいいか?」

「ええ、別に構いません」

ラッピングをはがして、箱を開けと、中には一口サイズのチョコレートが綺麗に並べられていた。

「へえ、秋葉の手作りか。早速、一つ貰うよ」

言って、口の中に一つ放り込む。その一挙動全てを、秋葉は心配そうに眺めている。

「あ、おいしい」

「本当?兄さん」

「ああ、初めて作ったとは思えないな」

「ああ、良かった。少し、心配だったんですけど」

「本当においしいよ。秋葉も食べてみるか」

「いえ、私は結構です。それは、兄さんにって作った物ですから」

「いいから、いいから、1個だけでも食べてみなよ」

言って、秋葉の口に放り込む。

「ちょっ、兄さん。・・・あ、本当ですね、ちゃんとした味になってる」

「なんだ秋葉、今の台詞は。おまえ、まさか味見してなかったのか」

秋葉は、ばつの悪そうな顔をしてそっぽを向くが、すぐに反論してくる。

「いいじゃないですか。ちゃんと出来ていたんですから」

「それは結果論だろ」

「結果が良ければ、それでいいじゃないですか。

 それに、ちゃんと琥珀に言われたとおりに作ったんですから、大丈夫だと思っていました」

秋葉は、完全に開き直り、俺にこちらに詰め寄ってくる。

「はぁー、わかった、わかった、俺が悪かった。って言うと思うか」

こちらに詰め寄ってきた秋葉の腕を取り、引き寄せる。

「ちょ、兄さん、何をするんですか」

ジタバタと暴れる秋葉の腰を片手で押さえつけて、逃げられないようにする。

「さてと、秋葉。少し、お仕置きが必要だな」

「な、なんでですか」

「味見をしなかったのはこの際、大目にみよう。だが、俺のチョコレートを一つ食べたからな。それのお仕置きだな」

「あ、あれは兄さんが食べろって、おっしゃたんじゃないですか。それに、兄さんが勝手に、口の中に放り込んだんでしょうが」

「そうだったかな?じゃあ、勝手に返してもらうよ」

「何を訳の判らない事を、言って・・・ん、んぐ、んんっ」

何かを言いかけていた秋葉の口を、俺の口で塞ぐ。

最初は暴れていた秋葉だったが、徐々に大人しくなり、されるがままになる。

かなりの時間、秋葉とキスを交わし、どちらともなく離れる。

「うん、甘い」

「・・・・・」

「秋葉?」

まだ、ボーとしている秋葉に声をかける。

「あ、兄さん・・・。って、いきなり何をなされるんですか」

「いや、何ってキス」

「そういうことを言ってるんじゃないんです」

「理由は簡単だよ。秋葉の事が好きだからに決まってるだろ。秋葉は嫌だったのか」

「そ、それは」

「秋葉が嫌だったんなら、もうしないよ」

「その言い方は卑怯です」

「で、どうなの、秋葉」

「っっ、どうして、兄さんはこういう時、意地悪になるんですか」

「さあ、何の事かな?それより、どっち?俺にキスされるのは嫌?」

「///っ、い、嫌じゃないです・・・。私も兄さんの事、その、・・・好きですから

「秋葉」

再び、秋葉に顔を近づけていく。そして、今度は先程よりも激しいキスをする。

・・・・・

・・・



「ふぅー、秋葉、そろそろ中に入ろうか。あまり長い間、外にいると体が冷えるからな」

「そうですね」

俺と秋葉は、家の中へと並んで歩く。

その途中、秋葉はニ、三歩先に足を進めて、振り返る。その顔には、悪戯を思いついた子供の様な笑みが浮かんでいる。

     

秋葉は言いたい事を言い終え、中へと入っていく。

残された俺は一人、夜空を見上げながら苦笑する。また、騒がしくなりそうだな。









     兄さん、お返しは3倍と決まっているそうですから   





<Fin>





<あとがき>

いやー、やっと行事物SS完成。

考えてみると、行事に関するSSはこれが最初なんですねぇー。

14日までに間に合うかどうか、焦りまくりましたが、どうにか間に合った。いやー、よかった、よかった。

今回は月姫の秋葉ネタで書きましたが、あまり、甘い展開ではないかも。

まだまだ、修行が足りませんな。

では、また次回。



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