2006年9月〜10月

10月27日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより問答無用でお届け!>



祝、400万ヒットオーバーを記念して…。

美姫 「夜上さんの所から、夕凪ちゃんが来てくれました〜」

夕凪 「お久しぶりです、皆さん」

おひさ〜。

美姫 「元気そうで何よりだわ」

夕凪 「はい! 元気にしてました」

あー、ところでふとした疑問なんだがな。

美姫 「なに?」

いや、少し前にお前も何処かへ行ってただろう。

美姫 「あら、中々鋭いじゃない。そうよ、ちょっと夜上さんの所にね」

あー、やっぱりか。
でだ、何故、お前の剣には使った跡があって、夕凪の拳には赤いものがついているのかな?

美姫 「浩、世の中には知らなくて良いこともあるのよ」

夕凪 「どうしてもって言うのなら、教えてあげるけれどね」

激しく遠慮…。

美姫 「懸命な選択ね」

夕凪 「それじゃあ、これがお土産です」

(…………強奪したのをお土産と言っても良いのだろうか)

美姫 「何か言いたそうね」

いやいや、ただありがたいな〜と。

夕凪 「どうぞどうぞ、遠慮せずに。はい、美姫さん」

美姫 「それじゃあ、ありがたく頂くわね」

……夜上さん(涙)

美姫 「それじゃあ、早速だけれど…」

夕凪 「CMでーす」







それは春麗らかな昼下がりであった。
秋という季節を完全に忘れ去った四季は、
その代替と言わんばかりに冬将軍を僅か二ヶ月で退けて春の襟をしっかりと握り締めて日本に放り込んだ。
おかげで窓側後ろから二番目という好位置をキープし続ける俺は、
窓から差し込む温い日差しにうつらうつらと船を漕いでいた。
ハルヒも最近は静かなもので、
相変わらず聞いているんだか聞いてないんだかわからない態度で授業に出席している。
まぁ静かなのはいい事だよ。
こいつときたら昨年の四月に飛んでもない自己紹介を行ってからというもの、
五月に学校不認可の非合法団体を立ち上げ、退屈という理由で練習もなく草野球の試合に臨んでみたり
(しかも勝てそうもないからと世界的危機を勃発させそうになった)、
夏休みをメビウスの輪の中に放り込んでみたり、
映画撮影と称して学校のアイドル朝比奈さんの目からよくわらかない謎の不可視光線連続発射させてみたり、
たかがバレンタインチョコを渡すのに二回に渡り私有地の山を穴ぼこにしてみたり
(いやもちろん嬉しかった。だがホワイトデーを思い出すと……いや、今は止めておこう)と、
様々な迷惑行動を起こし、
挙句の果てに現実しか見つめていなかった俺の前に非現実な出来事をわんさかと体現させるという迷惑振りだ。
おかげで俺はそれまで培ってきた現実主義という価値観を百八十度転換せざるを得ない事になった訳だ。
こう言うとすごく苦労ばかりでマジで泣いている俺を想像させてしまうだろうが、
実は認めるまで時間はかかったものの、この一年は楽しかったと胸を張って言える。
暖かい日差しに俺は大きく欠伸をした。
だけど毎日が日曜日って訳でもあるまい。
今月頭に起きた黒幕付生徒会とハルヒの一戦や、長門の親戚でありながら、
意見が違うから強攻策にはしってしまえと送り込まれてきた宇宙人もどきを相手毎日走り回るのは勘弁してもらいたい。
どんな戦士にだって休息は必要だろ? 俺だってそうさ。
尤もそんな俺を癒してくれる存在がハルヒの訳のわからない謎の団体に居る訳で、
そんな存在の淹れてくれる御茶はそこいらの枯葉炒って御茶っ葉にしても天使の淹れた飲み物のように感じられる。
だから俺は六限終了のチャイムが鳴り終わると共に自席を立ち上がった。
授業などぼんやりと右から左に聞き流して、もう半年もすると大学受験主体になってくるんだから、
今から焦らなくてもいいじゃないか。という己の信念に従って放り投げておいた。
後ろの席に陣取っているハルヒは、
何やらやる事があるとショートホームルームすら受けずに教室から走り去っており、
俺は今日ものんびりとまだ残っている眠気を欠伸に変換しながら、
我等が涼宮ハルヒ率いる謎団体・SOS団が間借りしている文芸部室へと足を運んだ。



「あ、キョン君こんにちは。今、御茶淹れますね」

と、ノックの後で開いたドアの向こうで微笑んでくれたのは、朝比奈みくるさんだ。
一年年上とは思えない幼い顔立ちに似合わない見事な体を
ハルヒがどこからともなく入手してきたメイド服に身を包みながら、
今日も今日とてSOS団専属メイドとしてガスコンロに火をかけた。

「あ、今日は暖かいから冷たい御茶でも良かったかな?」

いえいえ、貴女が淹れてくれるものなら例え唐辛子が山盛りの飲み物でも天国の味が保障されますよ。
飲んだ瞬間に至福の甘露が喉を通り過ぎる筈です。谷口あたりなら間違いなく感涙しながら飲み干すでしょう。
薬缶を火に乗せつつ、まだ考えている朝比奈さんで視的癒しを感じつつ、
最近は指定席になっているパイプ椅子をだして腰を下ろした。
正面には相変わらず分厚くて、
何を言いたいのか理解できず理解したくないハードSFを読みふける長門有希の姿があった。
十ヶ月前までつけていた眼鏡は、今も復活を見せず裸眼のまま毎日部室の端っこで本を読んでいる。
個人的には眼鏡属性のない俺にとっては、今の長門のが見慣れているし可愛いと思うのだから、
まったく問題はない。

「はい、今日は自作ブレンドを試してみたの」

そう言いながら朝比奈さんが俺の前に香ばしい香りを放つ茶を置いてくれた。

「自作ですか?」

「うん。一人一人をイメージしてみたんです。今日はキョンくんの御茶ね」

ちなみにキョンというのは俺のニックネームだ。
そんな芸の細かい事までされなくても、貴女の御手が生み出す代物なら全てが最上級品ですよ?
それより俺はともかくハルヒのイメージの御茶ってどんなんだ?
とりあえず相槌を打ちながら俺をイメージしたという御茶を啜ってみる。

「……美味しいですよ」

何というかすごく日本的で落ち着く味だ。
舌に慣れている味が強いのは緑茶をベースにしているんだろう。そこに若干のウーロン茶か?
いや麦茶かもしれない。だからこんなにも香ばしいんだろう。
俺の感想が心底のものだとわかってくれたのだろう。
朝比奈さんは満面の笑みを浮かべると続いて部室内の掃除をし始めた。
俺も手伝えばいいのだが、前にそれを進言した際、

「これは私の仕事なんです。だからキョンくんは座ってて」

とやんわりと、それでいてはっきりと断れてしまったのだ。
そんな強気の朝比奈さんも可愛らしく、少し意地悪をしてみようかなとか考えていると、必ず邪魔が入るんだ。

「いや、遅れてしまいました。おや? 涼宮さんはまだですか?」

SOS団で俺以外男団員で、二枚目で頭もいいという嫌味を具現化させたらこんなになるだろうなと思える
好青年の小泉一樹は相変わらずの微笑フェイスを張り付かせながら部室へ入ってきた。
時間的に遅いためか朝比奈さんが着替えているのを確認するためのノックをせず入室すると、
長机を挟んで俺の前にパイプ椅子を出して座った。
朝比奈さんが愛想良く出迎えて、各個人専用湯飲みにキョンイメージブレンドの御茶を注いでいる。
そんな奴には生のドクダミあたりで十分ですよ。
と、まぁこれがハルヒを除くSOS団の全正式メンバーだ。
準メンバーを入れればまだ多いが、概ねこのメンツで行動する。
だが何というか揃いもそろって一筋縄では行かないメンバーで、
あろう事かハルヒの希望を無意識に集めきったのだから手に負えない。
もう少し俺の苦悩を分かち合えるメンバーはいなかったのか。
ハルヒは遅いものの、大体こういう時は休日恒例町へ不思議探しの散歩で目新しいルートでも考えてくる。

「みんな揃ってる? 明後日の探索は新しい場所へ乗り込むわ!
 毎回同じ場所も相手がこちらの油断を見て出てくる事も考えられるけど、
 やっぱり未知の世界へ乗り出していくのが人間としての本質よね!
 だから明日は――駅ね。いい? 遅刻は厳禁だからね!」

こんな感じに、だ。
だが今に思えばこれは別段変わったところもなく、強いてあげるならハルヒが指定した駅が電車の終点で、
基本的に海浜公園がメインになっているだけの、小さな町ってだけだった。
いや……止めておこう。ハルヒの所為じゃない。
無論、とんでもない事をしでかすのはハルヒであり、俺は基本的にそれを止めようとするだけだ。
だけど今回は違った。
朝比奈さん(大)が指定する規定事項の時空未来を形成するために、新しい未来人がやってきたり、
新たな宇宙人が姿を見せて、長門とSF光線バトルを繰り広げるのでもなく、
特定空間内限定超能力者の小泉の所属する『機関』が、
ハルヒを退屈させないためにミステリーツアーを提案してのでもない。
あくまで俺が悪い。
あの台詞をのたまった自分の前に行けるなら、俺は自分自身を間違いなく殴り倒しているだろう。
待ち合わせの駅を基点に何時も通りクジで班分けを行い、
夕方まで町中を練り歩き(練り歩くのはハルヒだけで、
俺は毎回ハルヒ以外のメンバーと休日の穏やかな時間を過ごすのだが)、
時間がきたらアヒル口のように唇を突き出したハルヒの小言を適当に流しつつ家路に着く。
これが何時ものパターンだ。
だがこの時の俺は浮かれていた。
午後の班分けで朝比奈さんと一緒になり、目新しい町並みを子供の頃、
見知らぬ隣町まで自転車で漕いで広がった景色を胸高鳴らせて眺めている気分を思い出しながら散策いている時、
彼女が誤って転んでしまったのだ。
俺は何とか後ろから支える事ができたんだが、
その時、思春期の男子であれば間違いなく頭の中でファンファーレを鳴らしたくなる
女性の中でも格段の柔らかさを持つ箇所を力いっぱい握ってしまい、
そして慌てて離れても掌に残った感触をほんの少し反芻してしまうのは、
同じ年齢の男子諸君であれば絶対に理解して頂けるだろう。
しかし、タイミングが悪かった。
駅前に戻り、全員から探索結果を聞いているハルヒの前でフィードバックしてしまったのだ。
間違いなく口元が緩んでしまう。
そんな俺の様子を、我等がトンデモ団体の団長が見逃す筈もなく、

「キョン! 何ニヤニヤ気持ち悪く笑ってるのよ!
 探索中に何かみくるちゃんにエッチな事でもしたんじゃないでしょうね!」

と鼻っ柱にすらりとした指を突きつけて怒鳴った。
正直、もう少し場所を考えろと言いたい。家に帰ってからでもいいだろう?
だけどその場に目が合った瞬間に顔を真っ赤にしながら俯いて、
体の前で組んだ指をモジモジさせている朝比奈さんがいてみろ。
そんな思考なんてあっさりと雲の彼方に消えてしまうぞ。
さりとて本当の事を言うなんて自殺行為はできず、長門の無感情な瞳と、知っているのかいないのか、
小泉の楽しげな微笑スマイル、そしてハルヒのご機嫌斜め(斜めじゃない時のがないか)が、
まるで肉を貫いたフォークのように俺を串刺しにしてくる。
ちなみに朝比奈さんは問い詰め免除だ。
もしそんな事になったら、間違いなく俺は死を選ぶぞ。
だが今責められているのは俺一人で、
朝比奈さんは口を開きかけるが恥ずかしそうに再び口を閉じるという可愛らしい仕草を繰り返しているだけだ。
無言でハルヒの指が鼻にめり込んだ。
いかん、本気で怒ってきている。
一年弱という時間の中で長門、小泉、朝比奈、ハルヒウォッチャーとなっていた俺は、
その表情が導火線に火がついたばかりだという事実に気付いた。
いかん。このままだと濡れ衣を十二単以上に着せられてヘタをしたら学校でまで大声で責め立てられてしまう。
結果は本人非公認朝比奈ファンクラブの学校男子生徒全員からの拳のプレゼントだ。
近い将来に起こりえかけえいる未来予想図に、背筋がそら寒くなる。
だから――俺は――。

「お前、入学した時の自己紹介で未来人と宇宙人と超能力者と異世界人とか行ってたけど、
 異世界人ってどんなのを希望しているんだ?」

なんて口走ってしまったんだ。
もう瞬間的に。
条件反射で。
自己防衛本能と言い換えてもいい。
聴いた瞬間に長門が数ミリ単位で目を見開き、小泉が笑顔を固まらせ、
朝比奈さんが恥ずかしさを忘れてあんぐりと口を大きく開きっぱなしにした。
その様子を視界に入れて、俺はようやく何を口走ったのかを悟った。
だけど俺の口はそんな失態にひっぱられて次の言葉を吐き出していた。

「別に何もなかったぞ。だけど最近お前は異世界人の事は何も言わないからな。
 どうせだったら朝比奈さんクラスの美人な異世界人でも出こないかなとか思ったんだよ」

それでも妄想癖があるんじゃないか!
とか叫んで起きたい台詞を口にしている自分に心の中で大きく溜息をついておく。
後で長門に何か変な事でもおきてやしないか確認しなければいけないな。
そんな俺の苦悩を他所に、ハルヒはしかめっ面を修復もせずに腕を組むと、
冬眠前の熊が威嚇するようなうなり声を上げた。

「そうね。まぁちゃんと話ができればそれ以上望まないわ。一緒に遊ぶのに容姿は関係ないもの。
 あ、でもコミュニケートしやすいから、一応人型希望よね。
 ったく、そんなスケベな妄想するんだったら不思議の一つでも発見しなさいよね!」

いやいや、お前の周囲にいる三人はそんな不思議の塊だぞ。
とは口にもできず、自らの迂闊さと、朝比奈バストによって妄想していた頭を軽く小突いた。

だから探索が終わった後、
すっかりSOS団不思議三人組と待ち合わせをする定番となった長門の高級マンションの近くで
再び待ち合わせした時に、空中から全身黒ずくめの、短めの日本刀を二本持った精悍な美青年が現れた時には、
ああ、やっぱりか。何て微妙に達観した意見を呟いてしまったんだ。

「こ……こは? 海鳴じゃないのか?」

青年は高町恭也と名乗った。


「カレイドスコープ現象による平行次元軸内第七千六億八千五十五万千二百二:三次元より
 異次元時空列同位体である事を確認」

 長門のすぐに理解できない説明を、

「なるほど。つまり彼もまた三次元の生命体ですがこの次元ではない……つまり異次元からやってきた訳ですね?」

 小泉が解説し、

「え? え? 緊急最優先コール?」

そこへ朝比奈さんが未来から指令を受けて、

「一体何がどうなってるんだ?」

「わからん」

と、取り残された俺と高町さん(年上だった)は慌てたり納得したり
じっとこっちに視線を投げかけている三人をぼんやりと眺めていた。





そんな訳で高町さんを元の世界に返すべく、俺の長い一週間が始まった。

「誰? そこの小泉くん並の美男子は?」

バレたら怖いので先に紹介するやいなや満足気に頷くハルヒの前で、
再び朝比奈さんを誘拐しようとする勢力が現れ、あっさりと剣術で撃退する高町さん。
それを見て楽しげなハルヒだが、このままにしておく訳にもいかず、

「わかりました。僕が何とかしましょう」

 と、小泉が動いた瞬間に届く世界的大泥棒の孫が残すような窃盗予告ではなくSOS団員誘拐予告。

「いいわ! これは私に対する挑戦ね! 受けて立とうじゃない!」

予告状を力いっぱい握り締めて、瞳の中に炎を燃え上がらせるハルヒと、動き出す『機関』
果たして俺は無事に高町さんを元の世界に戻せるのだろうか?



 涼宮ハルヒの挑戦

 2007年浩さんが書いてくれる筈。おそらく。多分(笑







ハルヒとのクロスか〜。
……って、へっ!? ちょ、ちょっと夜上さーーん!!
この最後の一文はなに、なに!?

美姫 「なるほど、浩が書くのね」

夕凪 「わぁー、知りませんでした。頑張ってくださいね」

って、ちょっと待てや!
俺も初耳だっての! うわ〜、こんな終わり方は初のパターン♪
って、嬉しげに言ってる場合じゃないぞ、俺!

美姫 「あらー、思った以上にテンパってるわね〜」

夕凪 「いや、本当に面白いぐらいに」

オーノー!

美姫 「いや、少しは落ち着きなさいって」

夕凪 「そうですよ。冗談なんですから」

はぁー、はぁー、はぁぁぁ。そ、そうだったな。
いや、あまりにも突然な上に、突拍子もない終わり方だったんで驚いてしまったよ。

美姫 「さて、浩も落ち着いたみたいだし…」

夕凪 「恒例の尋問……もとい、詰問、じゃなくて質問ですね」

美姫 「そうよ。それで…」

夕凪 「SSは書けましたか〜」

…………てへ☆

美姫 「可愛くないのよ!」

夕凪 「気持ち悪いです!」

ぶべっ、ごばぁっ、ぼげっ、ぎょにょっ、にょわっ!
い、いたっ、ちょ、や、やめ…。む、むりむり。それはそっちには曲がらな……って、ぎゃぉすぅっ!
ま、まじで、や、やめ……、いやぁぁぁぁっ! だだだだだっ! も、もう、かんべ……。

美姫 「ぶっ飛べ〜」

夕凪 「消し飛べ〜」

ぶべらっ! ギャラクシー!
……………………。

美姫 「あ、はっきりと状況を聞く前にやってしまったわ」

夕凪 「わ、私も思わず。で、でも、あの返し方って事は聞くまでもなく…」

美姫 「まあ、そうよね。だったら、いつもの事だから気にしない、気にしない」

夕凪 「ですね!」

美姫 「まあ、そんなこんなで…」

夕凪 「そろそろ…」

美姫&夕凪 「CMよ〜」

美姫 「決して、誤魔化すためにいくんじゃないわよ♪」







それはある晴れた休日の事だった。
月村邸の広大な庭では、高町兄妹に、居候ズ。
そして、那美と久遠がお茶を楽しんでいた。

「ノエルももう良いから、一緒しようよ」

主人である忍の言葉に少し躊躇うも、結局はノエルはその言葉に甘えて席を同じくする。
暫くお茶を楽しんでいた一同だったが、恭也がここへ呼ばれた本題を切り出す。

「それで、俺たちに見せたいものってのは、何だ?」

「ふふふ。実はね、ちょっと前にさくらがヨーロッパの親戚の所に行ってたのよ。
 そこで、珍しい物を見つけたからって、お土産に持って帰ってきてくれたの」

「ほう。その珍しい物とは何だ?」

忍の言葉に興味深げに聞き返す恭也と、同じく興味をそそられたのか、美由希たちも忍へと注視する。
それらの視線を受け止めながら、忍は少しもったいぶるように咳払いを一つ。

「その前に、皆はノエルの動力源が電気だってのは知っているわよね」

忍の言葉に、何を今更と全員が頷く。
その反応も予測済みなのか、忍はただ笑みを湛えてひとさし指をピンと立てて、
まるで偉い学者が生徒へと説明するように、話し始める。

「電力で動く以上、充電はどうしても必用になるの。
 常々、私はそれを何とかできないかと悩んでいたわ。そんな時、さくらから…」

「お嬢様、流石にあまり焦らすのはどうかと…」

過去へと話が飛びそうになった所で、慣れた感じでノエルが忍を引き戻す。
ノエルの言葉に忍はチロリと舌を出して誤魔化すように笑うと、本題へと移る。

「まあ、早い話、さくらが見つけてきたのは、夜の一族のロストテクノロジーなんだけれどね。
 自動人形の動力をどうするかで悩んでいたのは、何も私だけじゃないって事。
 それどころか、永久に駆動する動力を開発しようとしていた節さえあるのよ」

「つまり、さくらさんが見つけたお土産というのは、その永久機関って事ですか」

美由希の言葉に、忍は小さく肩を竦める。

「うーん、おしいな〜、美由希ちゃん。永久機関はまだ開発されてないのよ。
 でも、莫大なエネルギー、この場合は電気だけれど、それを生み出す装置の開発はかなり進んでいたみたいね。
 殆ど、実現手前って所かしら。言うならば、半永久機関って所かしら。
 少量の電力を内部で増幅して、何倍にもするっていう。
 動力が切れかければ、残った電力をその装置にかけて、必要な分だけ増幅させるっていう」

「それは、常に少量の電力を残すようにすれば、ほぼ永久機関なんじゃないのか」

「まあ、恭也の言う通りなんだけれどね。
 でも、戦闘とかで全力を出して戦っている時にその余力があるかどうか。
 それにね、この装置の一番の問題は、大きすぎるのよね」

「つまり、内臓できないって事ですか」

那美の言葉に忍は頷く。

「おまけに、一般で使われている電気とはちょっと違ってね。
 家電なんかには使えないのよ。これは、装置の内部に付けられている魔力回路によるものなんだけれど…」

「いや、専門的な事は良い。どうせ聞いても分からないから」

恭也に遮られて不満顔を見せるが、すぐに笑みに変わる。

「うふふふ。ねえ、その装置見たくない?」

まるで、子供が新しい玩具を自慢するかのように、見せたくてうずうずしている忍に苦笑を洩らしつつ、
恭也たちは頷く。実際、どんなものかは多少の興味もあるし。
全員が頷いたのを見て、忍は指を一つ鳴らすとノエルに案内するように告げる。
忍の言葉に応え、ノエルは静かに立ち上がると、恭也たちを屋敷の地下へと誘う。

「実は、さくらが持って帰ってきたその装置は、あちこち壊れてたのよ。
 で、直すついでに多少の小型もしてみたって訳。
 これをこのまま研究していって、いずれはノエルに搭載できるようにまでしてみせるわよ!」

好奇心や知的探究心だけでなく、いやそれらよりも純粋にノエルを思う気持ちが感じられて恭也は小さく微笑む。
やや暗がりであったため、それに気付いた者は居なかったが。
同様に、先頭を歩くノエルが浮かべた笑みも誰にも気付かれなかった。

「ここです」

案内されて入った部屋の中には、確かに忍の言うように内蔵するにはやや大きな物体が一つ横たわっていた。
とは言っても、1メートルもないとは思われるが。

「ふふん。元は、直径3メートルの球体だったのよ。
 それを、ここまでに小型化にしたの。
 まあ言っても、古い同じような部品は普通に小型が進んでいたからってのもあるけれどね。
 何せ、作られたのがかなり昔だからね〜」

本人はそうは言うが、恭也たちは改めて忍を凄いと感じる。
特になのはは興味深そうに装置の周りを何度も行き来しながら、じっとその装置を眺めている。

「それで、これはもう稼動しているのか?」

「ううん、まだよ。今から稼動させようと思ってね。
 それで皆を呼んだのよ。という訳で、この新装置、スーパー忍ちゃん機関、略してS2…」

「もう少しましなネーミングはなかったのか」

「もう、いい所で止めないでよ恭也」

「そ、そうか、すまない」

いつにない迫力で睨む忍に、恭也は思わず謝ってしまう。
ふと見れば、ノエルも今にも頭を押さえそうな顔でやや俯き加減になっている。
どうやら、先に聞かされていたノエルも既に恭也と似たような事を口にしたのだろう。
ましてや、ノエルに関して言えば、完全に人事ではないのだ。
これが小型化に実現すれば、自分に内臓すると言われているのだから。

――スーパー忍ちゃん機関搭載、半永久稼動自動人形ノエル

ふいに、そう言ってノエルを紹介される映像がやけにリアルに恭也の脳裏に浮かび上がる。
ふと視線を感じて、いつの間にか下がっていた顔を上げると、ノエルと目が合う。
どうやら、同じような事を想像したらしいとお互いに悟り合うと、共に小さく肩を竦めて見せる。
そんな二人の様子に全く気付かず、忍は大きく咳払いをすると改めて装置へと手を翳す。

「という訳で、この新装置、半永久機関名称未定を稼動するわよ!」

恭也とノエルに言われたからか、さっきとは名前が変わっている装置に、
変わったというよりも、命名を先延ばしにした事に、恭也とノエルは思わず笑みを零す。
忍はそんな二人に気付きながらも、気付かないふりをしてスイッチを入れる。
部屋に重低音が響き、装置が静かに震動を始める。
思ったよりも静かに稼動する機械に、全員が目を向ける先でそれは起こった。
いきなり、機械から蒼白い稲光が噴き出す。
恭也と美由希、ノエルは咄嗟に近くに居るものを引き寄せ、庇うようにする。
だが、その稲光は意志を持っているかのように、恭也たちに当たる事無く、天井ギリギリを掠め、
壁際まで伸びたかと思えば、また引っ込むように縮み、今度は何条もの同じような稲光を発生させる。

「忍、これはこういうものなのか」

「分からないわよ。だって、初めての稼動だもの。
 でも、正直あまりいい予感はしないかも」

「同感だ。忍、あれを止めるにはどうすれば」

「止めるには、装置の下側に付いているパネルを開いて、緊急停止コードを入れれば…。
 って、でもあれじゃ近づけないわよ」

目の前で荒れ狂う稲光を見ながら言う忍に、恭也も頷く。
自分やノエル、美由希でも少し難しいかもしれない。
夜の一族とはいえ、何の鍛錬もしていない忍にあそこまで行けるかどうか。
これが、刃物で防げるようなものなら、恭也と美由希、ノエルで忍を連れて行くという選択肢もあるのだが。
どうするか考え込む恭也の意識を、忍の声が引き戻す。

「恭也、あれ!」

忍が指差すのは、例の装置。
それがどうしたのかと、恭也も装置へと目を向けて動きを止める。
まるで、今にも爆発しそうに、装置からは煙が立ち昇り、稲光が発生している周辺から、
爆発の前兆か、白い光が漏れ始める。

「危ない。皆、外へ…」

恭也がそう言うとほぼ同時に、部屋を白い光が包み込んだ。



「う……んんっ。どうなったんだ…」

目も眩む程の光が収まり、ようやく目が正常に戻った恭也は周囲を見渡す。
が、可笑しな事に、さっきまでは地下の部屋に居たはずなのに、今は周囲に何もない。
いや、何もない事はない。例の装置はしっかりとその場に鎮座しているのだから。
と、恭也はさっきまでの出来事を思い出し、他のものを探す。
が、探すまでもなく、すぐに全員が見つかる。
さっきと変わらぬ位置で、全員が同じように呆然と周囲を見渡していた。

「うちら、忍さんの家におったはずでは…」

「ここは外だよな」

レンと晶が呆然と呟くように、恭也たちの周囲はまるで何処かの野原のように見渡す限り何もなかった。
装置の方は、さっきまでの出来事が嘘のように静かに稼動を続けている。

「とりあえず、忍。あの装置は大丈夫なのか」

「あ、うん。ちょっと見てみる」

恭也の言葉に忍は装置へと近づいていく。
そのすぐ後ろに恭也は続き、何かあればすぐに忍を連れて逃げれるようにしている。
他の者が遠巻きに見守る中、忍は装置の確認をしていき、異常がない事を告げる。

「だとすると、残る問題は……」

「ここが何処かって事だよね、お兄ちゃん」

近くに寄ってきたなのはへと頷き返しながら、恭也は改めて周囲を見渡す。

「本当に何処なんだ、ここは」

「…恭ちゃん!」

呟く恭也へと、美由希が鋭い声で話し掛ける。
それは、剣士としての顔で、既に恭也も気付いており頷く。

「ああ。向こうの方に誰か居る。しかも…」

「戦っているみたい」

恭也と美由希は頷き合うと、ノエルに他の者たちの事を頼み、そちらへと様子を窺いに行く。
暫く進むと、不意に地面が消失していた。
いや、小さな崖となっており、争う声はその下から聞こえてきている。
恭也は美由希に頷くと、静かに気配を殺して近づいていく。
崖の下を覗き込んだ二人は、思わず声を失う。
それは、その下で行われている戦闘が刀によるものだからであり、
その身に纏っているものが、現代の物とは違うからでもあった。





「どうやら、タイムスリップしてしまったみたいね。
 原理は分からないけれど、あの装置が原因になっているのは間違いないわね。
 だとすれば、戻る方法もあるはず。どっちにしろ、こんな何もない所ではどうしようもないわね。
 とりあえず、落ち着けそうな所を見つけましょう」

――現代へと戻るため、改めて装置を点検する必要性が生じる中



「追い剥ぎなんか、テレビでしか見たことねぇぞ」

「確かにな。でも、アンタにはお似合いやないか」

「てめぇ、サル山のボス猿とか言う気だろう」

「ふっ、少しはかしこうなったみやいやな。チンパンジーに格上げしたろうか?」

「てめぇ。猿に謝れ!」

「って、意味分かって言ってるんか、このアホザル!」

「二人とも、やめなさーい」

「「だって、なのちゃん」」

「だっても何もありません! お兄ちゃんたちが居ないときに、しかもこんな状況で喧嘩は駄目でしょう!」

「「ごめんなさい」」

「分かれば宜しい」

「てめぇら、完全におちょくっているだろう、えぇ!
 おい、こいつらの身ぐるみを剥いで、俺たちの怖さを教えてやれ!」

――そう簡単に物事が進むはずもなく



「あまり過去に干渉するのは良くないとは思うんだがな…」

「でも、見捨てる事も出来ないしね」

「お、お前ら、何者だ」

「特に名乗る程の者でもないが、強いて上げるのなら……」

「通りすがりの旅の剣士よ!」

――色々な出来事に巻き込まれ



「分かりました。神の名を語り、苦難を押し付ける悪霊の退治は私に任せてください。
 時代は違えど、私は神咲の退魔士です。事情を知った以上、放っておく事は出来ません」

「微力ながら、私もお手伝いさせて頂きます」

「くぅ〜〜ん」

――立ち寄る先で起こる事件に首を突っ込んだり



「危ない所をありがとうございます。もし宜しければ、お名前を」

「高町恭也、内縁の妻忍ちゃんと、そのお仲間たちだ!」

「誰が内縁の妻なんですか、忍さん!」

「だったら、私は愛人で」

「ああ、那美さん何を。だったら、私は妾で!」

「美由希ちゃんまで! それなら、うちは…」

「おめぇなんか、ペットで充分だ。俺は…」

「猿は家来で充分やろう」

「あ、あはははは。えっと、妹です」

「は、はぁ」

――だが、そんな状況でも



「何かこうやって旅をしていると、諸国を正して回るどこぞの偉いご隠居さん気分になるわね〜」

「だったら、恭ちゃんがご老公かな?」

「じゃあ、お姉ちゃんやノエルさんがお供の人たちだね」

「オサルは食べる役って所か」

「んだとー!」

「あはは。それだと、私や久遠はどんな役なんだろう」

「うーん、お色気担当は私として、やっぱり町娘?」

「それって、酷い目にあうって事ですか」

「……ご老公。悪くないかもな」

「くぅ〜ん」

――彼らはいつも通り、どこか呑気だった。

事態の深刻さに気付いているのか!?
果たして、彼らは無事に現代へと戻れるのか!?

戦国高町隊 〜何処の時代に飛んだのかは不明編〜 近日……







う、うぅぅん。

す、住む場所をどうすれば……。
それなら、責任を持ってねえ。言って俺を見てくる小泉。
だが、確かに俺の責任という所もあるし。
しかし、俺の一存ではどうする事も出来ず、俺は思わず長門へと視線を向ける。
問題ない。
やはり、頼もしいぜ長門。いや、しかし、女性と済むのは。
問題ない。う、うーん、まあ、多分大丈夫だろう。
それよりも、ハルヒの奴…

う、うぅぅ〜〜。
ヒロインは、いやいや、現代に帰すために動くからヒロインは特になしで。
小泉が組織を使って、同時にハルヒの退屈を紛らわそうとしている訳だから。
いやいや、本当に狙っている一団とか。いやいや、ここはやっぱり冗談ってことに。
ああ、そのまえに恭也の存在をハルヒに説明したみたいだが、それは異世界からってのもなのか。
だとしたら……。

ねぇねぇ、あなたの居た世界では超能力とかはないの!
そうですね、俺の知り合いに似たような力を持っている人たちなら数人。
それって、手を使わずに物をもちあげたり
ああー、こいつはなんだってこんなにも良い笑顔を…。
そうですね、後はテレポートとか、逆に遠くのものを取り寄せたり。
ねぇ、他には何かないの。
そうですね。後は退魔士の知り合いとか、まあ、人とは少し違う知り合いもいますね。
でも、皆良い人たちばかりです。
うぅぅ〜ん、いいわね。よし、決めた!私があんたを元の世界に戻す方法を絶対に探してあげる。
だから、私もその世界に連れて行きなさい!
は、はぃぃぃぃ! 今、何と言いやがりましたか、ハルヒの奴。
いやいや、ある意味当然のような気もするが、って、お前は違う世界でも迷惑を掛ける気か。

ってな感じも面白いかも、とらいあんぐるハート番外 〜 The Melancholy of Haruhi Suzumiya 〜
あはははは〜。

夕凪 「あ、あのー、美姫さん」

美姫 「ちょっと今回はやりすぎたかな〜」

夕凪 「だ、大丈夫でしょうか」

美姫 「ああ、それは大丈夫よ。その点は信用できるから。ほっとけば、復活してるわ」

夕凪 「良かった〜」

美姫 「まあ、ただこのまま続けられなくなっちゃったけどね」

夕凪 「そうですね」

美姫 「まったく、このバカが!」

ぐげっ! あ、あははは。
やっぱり、みくるには色々とコスプレしてもらって……。

夕凪 「……あ、あははは」

美姫 「大丈夫だって! 心配性ね、夕凪は」

夕凪 「相変わらず、凄まじいですねお二人とも」

美姫 「まあね。それよりも…」

夕凪 「そうですね。それじゃあ、今週は…」

美姫 「この辺でお開きよ♪」

美姫&夕凪 「また来週〜」

げへへへへ〜〜。


10月20日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより全年齢対象でお届け!>



あ〜〜〜〜〜。

美姫 「いつにも増して、腑抜けているわね」

あ〜〜〜〜〜。

美姫 「しっかりしなさいよね!」

ぐげっ!
だってよ〜〜。

美姫 「はいはい。それよりも、今週は殆ど更新してないじゃない!」

うっ。だ、だからね…。

美姫 「問答無用!」

ぎゃぁっぁあぁぁあぁぁっぁっ!!

美姫 「はぁー。バカが不甲斐ないばっかりに、今週は早々にCMよ〜」







ここは海鳴市にある私立風芽丘学園。
お金持ちから一般市民まで幅広く生徒の集まる学園。
その昼休みの出来事。
昼食を終えた高町恭也は、最適な昼寝場所を探して校内をさ迷っていた。
今までなら、屋上や図書館と言った具合にいい場所があったのだが、
最近では屋上で昼食を取る生徒が増え、図書館も何故か人が多くなってきた。
故に、新たなる昼寝スポットを探すべく、人の居ない場所を探して南校舎を探索していた。
と、突き当たりにある教室に目が行く。

「第三音楽室? 聞いた事ないな。空き教室か」

丁度良いと恭也は扉を開ける。
それが、全ての始まりだとも知らずに。



「いらっしゃいませ、風芽丘ホスト部へ」

扉を開けた恭也を出迎えたのは、七人の美男子たち。
思わず呆然と立ち尽くす恭也へと、よく似た二人、双子の兄弟ががっかりしたような声を出す。

「「何だ男か」」

見事に揃って同じ事を言う双子に、中央に位置した一際派手な男が窘めるような事を口にする。

「さて、男でもお客さんはお客さんだ」

言って立ち上がると、恭也の肩に手を回してくる。

「さて、どのような者がお好みで?」

「……あー、すまんが説明を求める」

辺りを見渡し、一番まともそうに見える少年、藤岡ハルヒへと恭也は尋ねる。
それを見て、ハルヒは自分の時の事を思い出しながら、ここがホスト部という部である事を説明する。

「はぁ、そんな部活があるとはな。
 すまないが、俺は単に昼寝のできる場所を探していただけだ。
 これで失礼しよう」

肩に手を掛けた男、須王環の腕を除けると恭也は扉に手を掛ける。
恭也が立ち去った扉を、眼鏡を掛けた少年がじっと見詰める。

「鏡夜、どうかしたのか」

環の言葉に、鏡夜と呼ばれた少年は顎に手を当てて考え込むと、やがて口を開く。

「今の人は、高町恭也と言う人物なんだが、彼をうちにスカウトできれば、更に部費が潤うと思わないか?」

「あー、同じ名前だね」

この中で一番年少に見える、しかし、れっきとした風芽丘の三年である少年、
埴之塚光邦は何が嬉しいのか、鏡夜の言葉に全く関係のないことを口にして一人喜んでいる。
それを聞き流しながら、鏡夜は何やらじっと考え込む。
そんな鏡夜の態度に、ハルヒは嫌な予感をひしひしと感じるのだった。





「何故、俺がこんな事を…」

ブツブツと文句を言いながらも、与えられた制服へと腕を通す。

「こんな感じで良いのか?」

いまいち、この着方で合っているのか不安なのか、恭也は鏡を前にチェックをする。
しかし、結局は分からずにそのまま更衣室から出る。

「これで良いのか」

「ええ、上出来です」

鏡夜の言葉に憮然としながらも、恭也は着慣れない服装に居心地が悪そうにする。

「ああ、できればタイはもう少ししっかりと結んでください」

鏡夜の言葉に首元のタイを弄るが、鏡もなく上手く結べない。
それを見かねたのか、近くにいたハルヒがすっと手を伸ばして結んでやる。

「高町先輩、これで」

「ああ、ありがとう藤岡」

「いえ」

言って笑うハルヒに、恭也は思わず見惚れてしまうが、ハルヒの方は不思議そうに首を顰める。
後ろの方では、環が何やら怒鳴っているが、両腕を双子の光と馨に押さえられていた。
それらを無視し、恭也は鏡夜へと顔を向ける。

「で、何をすれば良いんだ」

「そうですね、今日はとりあえず見学しててください。
 それで、彼らの働きぶりを覚えて頂き、明日から実習ですね」

眼鏡を押し上げながら告げる鏡夜に、恭也はそっと溜め息を吐くのだった。





「お疲れ様です、高町先輩」

「ああ。しかし、思った以上に疲れるな」

「まあ、そうですね。というよりも、あの方たちの所為で、必要以上に疲れている気もしますが…」

互いに望んで入部した訳でもなく、超が付くほどの金持ちであるあの六人と違い、
庶民な二人は、何かと通じるものがあったのか、連帯感のようなものを抱き始めていた。

「本当に、同情しますよ高町先輩」

「藤岡にもな」

互いに苦笑を浮かべつつ、肩を落として溜め息を一つ。
時折、一般常識を疑いたくなるような連中といるせいか、恭也やハルヒの苦労は口にするまでもなかった。
連中のブレーキとなるのが、大抵はこの二人という事もあり、連帯感は日増しに強まっていく。

「ああ、そうだ藤岡」

「ハルヒで良いですよ、高町先輩。
 正直、庶民的高町先輩が入って来てくれて、少しは楽になりましたし、事情も他人事には思えませんから。
 そっちの方が、これからもあの人たちを相手にする同盟者同士って感じですし」

「そうか。なら、俺も恭也で良いぞ。
 本当に、ハルヒがいて助かった。本当に金持ちの考える事は分からん」

「金持ちが、というよりも先輩たちが、ですけどね。恭也先輩」

「確かにな」





「なんて愛らしいんだ…。君の前でひざまずき忠誠を誓う僕になってでも、ずっと見ていたい」

ホスト部No.1 2年A組 須王 環(すおう たまき)

「馨……、ああ、なんて可愛いんだ」

「光…」

双子ホスト 1年A組 常陸院 馨&光(ひたちいん かおる&ひかる)

「崇、崇〜〜!」

「…………」

ロリショタ系ホスト 3年A組 埴之塚 光邦(はにのづか みつくに)
それに使える者 3年A組 銛之塚 崇(もりのづか たかし)

「部費は多いにこした事はないからね」

ホスト部副部長にして店長 2年A組 鳳 鏡夜(おおとり きょうや)

財ある暇な少年による、同じく暇を持て余すお嬢様たちをもてなす部。
それが、風芽丘ホスト部であった。

「巻き込まれた俺は良い迷惑だがな」

「まあ、今更何を言っても無駄ですけどね」



このお話は――

「って、オープン前のテーマパークでどうして迷子になるんだ!」

「恭也先輩、それよりも前、前」

「って、蛇ー!! 鏡夜、何だあれは!?」

「うむ、リアリティは大事だろう」

「あははは〜、蛇だよ崇」

「…蛇だ」

「喜んでいる場合じゃ…」

「馨っ! そっちにも蛇が!」

放課後を優雅に――

「お嬢様方、お茶のお変わりはどうですか」

「恭也先輩も大分、慣れてきましたね」

「だからって、お父さんは娘をあげませんよ」

「殿の戯言はおいておいて…」

「確かに、慣れたみたいだね」

「まあ、実家が喫茶店らしいから、元々接客ではそう問題もなかったしな」

「きょうちゃんの計画通りって感じだね〜」

「……策士」

けれど、日々は騒がしく過ごす事となる――

「だから、どうしてお前たちは一つの事をするのに、ここまで大げさにするんだ」

「はぁー。今更、言うだけ無駄ですよ」

「ふっ。すまないな、二人とも。これが生まれ持っての気品の差というやつか」

「まあ、単に暇なのと…」

「金が余っているからで気品は関係ないけれどね」

「これは上手く利用すれば、部費が……」

「崇、崇。あっちに行ってみよう」

「……」

ホスト部へと入部させられた、高町恭也と藤岡ハルヒのお話。

風芽丘ホスト部 2007年春………… 忘却の彼方へ







ひ、酷すぎるっ! ドメスバイオテクノロジーだ。

美姫 「何、それ?」

いや、だから…。

美姫 「まあ、言いたい事は分かるけれど、間違っているからね、それ」

がっがぁぁーーん!!

美姫 「にしても、本当に今週は更新がね〜」

うっうぅぅ。色々とあったのですよ。

美姫 「何がよ」

体がだるかったり、体がだるかったり。

美姫 「って、ただのサボリじゃない!」

いや、流石に冗談だって。
DUELをな、ちょっと色々と。

美姫 「で、書けてないと」

うぅぅ、すまんこって。

美姫 「謝る前に書け!」

書いてたら、謝るか!

美姫 「ちっ、そこに気付くなんて。珍しく鋭いじゃない」

えっへん! って、喜んで良い所か、今の。

美姫 「まあ、微妙な所ね」

ぐっ。

美姫 「ともあれ、ビシバシと書かせるわよ」

うぅぅ。頑張ってはいるんだよ〜〜。

美姫 「泣き言は聞きつけないわ!」

のぉぉ〜〜。

美姫 「それじゃあ、また来週ね〜」

だれか、だれか〜〜!


10月13日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーよりそこのけ、そこのけ、お届け!>



うーん、朝夕はかなり涼しくなったんだが、まだ昼間が暑いな。

美姫 「今日は13日の金曜日ね」

もう秋だと言うのに、まだまだ暑い日が続くよ。

美姫 「ふふふ、何かが起こりそうな、よ・か・ん♪」

冬はまだか〜。

美姫 「ううん、起こりそうもないのなら、私が起こすのよ!」

って、いきなり不吉な事を言うなよ、美姫。

美姫 「本当に昼間は暑いわね」

いや、何かが起こりそうな予感って、何故そんなに嬉しそうなんだ、お前は。
お前の起こりそうって言うのは、不吉な事なんだろう。

美姫 「でも、場所によっては紅葉が出始めていたりするから、やっぱり秋なのよね。
    まあ、暑いことに変わりはないんだけど」

って、お前が起こしてどうする! お前が!
って言うか、その矛先って、間違いなく……。

美姫 「まあ、もうすぐ冬でしょうけど、すぐにはならないわよ流石に。
    でも、寒気を感じたいと言うのなら、良い方法があるわよ♪」

俺だろうっ!

美姫 「うふふふふ」

ゾクゾク。うおー、急に寒気が……。

美姫 「あら、良かったじゃない、一瞬でも冬が味わえて」

というか、ややこしいからこの会話は止めよう。

美姫 「そうね。私たちは兎も角、見ている人が混乱するわ」

っていうか、どっちの話題から入っても、行き着く先は俺への折檻なんだな。

美姫 「まあ、当然の帰結ってやつね」

……(涙)

美姫 「冗談よ、冗談。今回はたまたまよ、たまたま」

その言葉が全然、全く、これっぽちも信じられないのは何故?

美姫 「それは貴方に人を信じる心が足りないからよ」

そ、そうだったのか! って、何か違う気がします、先生!

美姫 「はいはい。冗談はこの辺にして、本題に戻りましょう」

はい、戻りたくありません!

美姫 「あー、それを聞いて結果が分かったわ」

おお、そうか。では、恒例のは無しということで。

美姫 「ええ、いいわよ」

おお! 何事も言ってみるもんだな。

美姫 「離空紅流、紅蓮神凪!!」

ぶびょもみゅおぉぉぉぉぉぉぉっ!!

美姫 「消し炭と化して消えろ……」

サラサラサラ〜。

美姫 「さーて、いつものコーナーを飛ばした所為で、ちょっといつもよりも早いかもしれないけれど。
    ここで一発、CMよ〜」







カランカランという大きな鈴の音が鳴り響く、ここは海鳴市にある商店街の一角。
手に持った鈴を大きく振って音を出すおじさんに、恭也は少し恥ずかしげに周りを見渡す。

「はい、大当たり〜。特賞だよ、兄ちゃん。
 ペア温泉旅行のチケットだ。彼女さんとでも行ってきな」

そう言って恭也へと賞品を手渡す。
おりしもクリスマスまで後数日と迫ったとある休日。
暇つぶしに外へと出て、そのついでと足りなかったものなどを買った際に貰った福引券。
それがまさかこのような形になるとは。
残念賞が関の山だと思っていた恭也は、この棚ボタのように手にしたチケットを手に高町家へと帰る。
吐く息も白く、恭也は少し曇った空を見上げて、肩を竦めると桃子へとプレゼントしようと考えるのだった。

「ただいま」

そう告げて家へと入る。
リビングの方が賑やかなのは、恐らく美由希たちがいるからだろうか。
とりあえず買い足したものを補充し、恭也もリビングへと顔を出す。

「あ、お師匠お帰りなさい。外は寒かったでしょう。何かあったかいもんでも作りましょうか」

「いや、自分でやるから良いよ」

「ほな、お願いします」

立ち上がろうとするレンを制し、恭也は自分でキッチンに立ち急須と茶葉を用意する。
お茶を淹れて戻ると、なのはとレンがゲームで対戦をしていた。
丁度、レンと交代した晶が負けたのか、少しへ込み気味に恭也にお帰りと言う。
それに返しつつ、恭也は楽しそうに遊ぶ三人を見遣り、ソファーに腰を降ろす。
隣に座っている美由希は、読んでいる本に集中しているのか、顔を上げることも無く挨拶をしてくる。
礼節云々と注意しようかとも思ったが、客人ではなく自分相手なので口うるさく言うのは止めておく。
そんな恭也の胸中など知る事もなく、美由希は本に目を落としたまま湯呑みを手に取り、口へと運ぶ。
が、既に中身はなく、美由希は読み続けるか淹れて来るか一瞬だけ躊躇う。
その様子に苦笑を洩らすと、恭也は黙って美由希の湯飲みにお茶を注いでやる。

「あ、ありがとう」

「いや。それよりも、今度は何を読んでいるんだ」

「今は推理小説。恭ちゃんも後で読んでみる」

「そうだな。まあ考えておく」

恭也の言葉に今度は美由希が小さく笑うと、再び本へと集中する。
冬の休日は、こうしてゆっくりと過ぎていく。
この時はまだ、平穏のまま。



夕食後、恭也は思い出しかのようにポケットからチケットの入った包みを取り出して、
そっとテーブルの上に置く。

「まあ、そういう訳だ」

「えっと、恭也?
 何がそういう訳なのか説明してくれないと、流石の桃子さんも分からないんだけど」

息子の無口ぶりというか、横着さに引き攣った笑みを浮かべる桃子へ、恭也は福引で当たった事を説明する。

「という訳で、年末から年始にでも行って来たらどうかと思って」

恭也の顔を見て、桃子は説明が極端に短かったのは照れていたからかと判断し、そのチケットを手に取る。
それをざっと見た桃子は、そっとチケットをテーブルに置く。

「うーん、ありがたいお言葉なんだけど、年末年始にかけての利用は無理みたいね。
 ほら、ここに」

「あ、本当だ」

桃子の指す個所を覗き込み、美由希がそう洩らす。

「じゃあ、他の日にすれば?」

「うーん、流石にお店を閉めるのはね。特に、この時期はクリスマスとかで稼ぎ時だしね。
 うちのクリスマスケーキを楽しみにしてくれている人たちもいるし」

「なら、クリスマスの後にでも行けば?」

恭也の再度の言葉に少し考え込むも、桃子は首を振る。

「やっぱり、年末年始は家でゆっくりしたいからね。
 だから、これは貴方が使いなさい。私はその心遣いだけを頂戴しておくわ。
 恭也も偶にはゆっくりと休みたいでしょう」

「そうか。なら、これは俺が使わせてもらうよ」

言って恭也はチケットを再び自分の手に戻す。
それを見ながら、美由希は恭也へとじっと視線を向ける。

「恭ちゃん、それってペアだよね」

「ああ、そうみたいだけど」

「じゃあ、もう一人は誰と行くの?」

「もう一人か。まあ、別に一人で行っても良いんだけれど。
 何だ、美由希も行きたいのか? だったら、一緒に行くか?」

「良いの!?」

「ああ、別に俺は構わないが…」

「ちょっと待ってください、師匠! 俺も行きたいです」

「お師匠、うちも!」

あっさりと恭也が美由希の同行を許した瞬間、晶とレンからもそんな言葉が飛び出す。
それを困ったように見つつ、恭也はチケットをテーブルの上に置く。

「そんなに行きたいのなら、俺は今回は良いから。
 お前たちの中で話し合って決めたら良い」

「いや、それだと意味がないというか…」

「お師匠が当てた景品なんですから、お師匠はとりあえず決定という事で良いかと」

「そうそう。後の一人を誰にするかで…」

恭也の言葉に揃って三人は恭也に行くように勧める。
特にそこまで行きたいという訳ではない恭也は、何故そんな事を言うのかと不思議に思いつつも、
美由希たちの厚意だと解釈する。

「いや、お前たちの言葉は嬉しいが…」

再度、先程と同じ提案をしようとする恭也だったが、既に美由希たちは聞いておらず、
残る一人を誰にするのかと討論が始まっていた。
それを何とも言えない顔で見ていた恭也の元に、今までずっと無言だったなのはがそっと近づき、
無言のまま、恭也の袖をクイクイと引っ張る。
恭也がなのはへと視線を向けると、なのははじっと無言のまま何か訴えるように恭也を見詰める。

「……あの三人の話し合いはいつ終わるか分からないからな。
 なのは、一緒に行くか?」

「うん!」

恭也の言葉に、なのはは満面の笑みでそう答える。
それに気付かずに、まだ討論している三人と、恭也となのはの二人を見ながら、桃子は小さく笑う。

(誰に似たのかちゃっかりしてるわね、なのはは。
 まあ、私には弾に甘えてくるけれど、恭也には滅多に甘えられないんだし、
 今回はなのはの味方をしてあげましょうか)

この後の事を考えて桃子はそう結論を下すと、加熱していく討論を展開する三人を静かに見るのだった。



「何でじゃぁぁぁぁぁっ!」

魂からの叫び声を上げる冬木の虎こと、藤村大河。
それを宥めるのは、ここ衛宮家の住人、衛宮士郎その人である。

「だから仕方ないだろう、藤ねえ」

「仕方ないって何よ、仕方ないって!
 何で、どうして、私だけ?」

士郎の言葉に益々ヒートアップする虎へ、その熱を冷ますかのように冷たい平静な声が浴びせられる。

「どうしても何も、先生が先生だからでしょう」

「う〜〜〜」

「ね、姉さん。えっと、藤村先生、仕方ないですよこればっかりは」

凛にそっと注意をしてから、同じように大河を宥める桜。
それでもまだ収まらない虎へ、イリヤがばっさりと切り捨てるように告げる。

「仕事なんだから、どうしようもないでしょう。
 大丈夫よ、タイガの分までわたしたちが楽しんできてあげるから」

「うがぁぁぁーー!!」

「お、落ち着けって、藤ねえ。ちゃんとお土産買ってきてやるから」

「うぅぅ、本当に?」

「ああ。だから、な」

「うぅぅぅぅぅ、本当は嫌だけど今回だけは納得してあげるわ!」

「納得も何も、仕事の都合で行けないのは、先生自身の問題なんですけどね」

「うぐっ! 桜ちゃん、遠坂が苛める〜〜」

「ああ、はいはい」

桜は苦笑しつつ、抱きついてくる大河の頭を撫でてやる。
それを黙って見詰めるのは、桜のサーヴァントであるライダーであった。
何処か羨ましそうにも見える様子で、じっと桜と大河の様子を窺う。

「来年の春には士郎がロンドンに行くから、少しでも楽しい思い出を作ってあげようと思ったのに〜」

と、大河の洩らした言葉に士郎は思わず大河の顔を見て話し掛けようとするが、
その横からイリヤが先に声を掛ける。

「建前は置いておいて、本心は?」

「私が仕事している時に、士郎だけ楽しむなんて許せないぃぃっ!」

再び上がる虎の咆哮に、士郎は少しでも感動した自分がバカだったと腰を降ろす。
一方、今までの騒ぎなど気にも止めず、セイバーは一人マイペースにお茶を啜っていた。
いや、今話していた内容が分かっていないのか、セイバーは士郎へと視線を移す。
それを受けて、士郎は苦笑いを見せつつもセイバーへと簡単に説明をしてやる。

「つまり、俺たちが冬休みに入ったら、温泉に行くって話」

「失礼な。そこまでは分かっています、シロウ。私はそこで温泉玉子なるものを食すのですから」

「いや、まあ、それ以外にも色々あるんだけれど、まあ、それは良いか。
 えっと、じゃあセイバーは何を聞きたかったんだ?」

「何故、大河が怒っていたのか、です」

「ああ。つまり、藤ねえだけ仕事が入ったんだよ。
 だから藤ねえだけ留守番って事になったんだけど、本人がそれを納得しなかったと」

「なるほど、そういう事でしたか。それは残念ですが仕方ないですね」

「ああ。まあ、そういう訳だから、俺たちだけでも楽しもうな」

「はい」

見詰め合って笑い合う二人を、大河は未だに拗ねたまま見詰める。
その視線を背中に受けて、士郎は明日の夕飯のおかずを一品増やして機嫌を取ろうかと算段するのだった。



少し郊外にある大きな屋敷。
その屋敷のリビングで、この屋敷の主と、その兄が向かい合って夕食後のティータイムを楽しんでいる。
だが、屋敷の主、遠野秋葉の機嫌は何処か悪かった。

「まったく。
 折角、誰の邪魔もない静かな温泉街でのんびりと兄さんや琥珀たちと羽を伸ばせると思ったのに」

「ははは、仕方ないさ、秋葉」

「何が仕方ないですか! まったく、あの連中ときたら。わざとやっているんじゃないでしょうね!」

「まあまあ、抑えて下さい秋葉様」

「ええ、分かっているわ」

琥珀に言われ、秋葉はゆっくりと息を吐き出すと、静かにティーカップを置く。

「琥珀も悪いわね。楽しみにしていたんでしょう」

「いえいえ、私の事はお構いなく」

「何だったら、琥珀も兄さんたちと一緒に行っても良いのよ」

「それだと、秋葉様のお世話をする人がいないじゃないですか」

「自分の事ぐらい自分で…」

「駄目ですよ。そんな事を仰っても、何も出来ないじゃありませんか。
 それに、私は秋葉様のお世話をするの、そんなに嫌いではありませんし」

「そう。なら勝手にしなさい」

「ええ、そうさせてもらいますね」

琥珀の言葉に照れて、誤魔化すように髪を掻き揚げてそっぽを向く秋葉の態度に、
琥珀はばれないように盆で口元を隠しつつ、小さな笑みを見せる。
が、志貴はそのまま素直に顔に出してしまい、秋葉に軽く睨まれる。

「はぁ、遠坂の会議は今に始まった事ではないですから、仕方ないといえば仕方ないんですけれどね。
 ですが、そんなに重要な会議を、よりによってその日にしなくても…」

未だに未練がましいのか、少し恨めし気な様子の秋葉に志貴が声を掛ける。

「まあ、それが済んでからこっちに来たら良いよ」

「ええ、勿論そのつもりです。翡翠、兄さんの事をお願いしますね」

「はい、勿論でございます」

「まあ、秋葉たちが来るまで、こっちはこっちでのんびりと過ごさせてもらうよ」

「ええ、そうしてください」

「ですが志貴さん。幾ら二人きりだからって、翡翠ちゃんに手を出したら駄目ですよ〜」

「こ、琥珀さん、何を言って…………、あ、秋葉?」

琥珀の言葉に慌てる志貴と、顔を真っ赤にさせて俯く翡翠。
そして、鋭い眼差しで志貴を睨む秋葉。
そんな三者三様の様子を、琥珀は面白そうに眺めるのだった。



「はい、はい、分かりました。では、後日改めて」

先方へとそう言って締め括ると、神咲薫は電話の受話器をそっと置く。
それを見計らい、彼女の隣に霊剣に宿る霊、十六夜が姿を見せる。

「電話は終わったのですか、薫」

「ああ。十六夜、数日後に出掛けることになったから」

「またお仕事ですか」

「ああ。まあ、そんなに大事ではないから安心して」

「そうですか。それで、今度の行き先は?」

「ああ、今度は…」

薫が告げた場所を聞き、十六夜はポンと小さく手を合わせる。

「それなら、仕事の後に少し足を伸ばして温泉で二、三日のんびりしましょう」

「何を言っとるね、十六夜」

「たまには良いじゃありませんか。それに、ここの所、続けてお仕事をしているでしょう。
 そろそろ身体を休めないといけませんよ」

「うちはまだまだ大丈夫だから」

「何を言っているんですか。ここ最近、ずっと除霊が続いているのに。
 それに、年末年始に掛けて忙しくなるかもしれないんですから。
 休める時に休んでおかないと」

「分かった、分かったから。ただし、婆ちゃんの許可が出たらじゃけんね」

「はい、分かってますよ」

反対される事はないだろうと分かっているからか、十六夜は薫の言葉に小さく笑い返す。
それが全てを見透かされているようで、少し面白くないのだが、
それを口に出すと負けたような気になるので、薫は何も言わずに足早に祖母のいる部屋へと向かう。
そんな様子が益々子供じみているのだが、薫は気付かない。
十六夜は更に笑みを深くしながらも、下手に突っつくような事はせず、静かにその後に続く。



外はもの凄く吹雪いているために視界が悪く、家の中からも外の様子をはっきりと見る事は出来ない。
やけに静かな家の中、ランプの明りに照らされた薄暗い部屋の中に一つの影があった。
男なのか女なのか。その年さえも定かではない影は、ゆっくりと楽しそうに喜悦の笑みを浮かべる。

「くっくっくくく。
 現世に留まる強力な力を秘めた英霊に、聖杯としての器になるほどのポテンシャルを持つ少女。
 妖しに反応する退魔一族七夜の生き残り。そして、長き退魔の歴史を持つ一族の当主とその霊剣。
 更には、今では廃れた暗殺剣を、今も尚引き継ぐ若き剣士か。
 よもや、これが仕組まれた事とは気付くまい」

静かに、静かに呟かれる言葉を聞くものは、ここには誰も、何もない。
影は一人、部屋の中央に立ち、何が可笑しいのか肩を小さく振るわせる」

「ふふふふ。ここに、全ての駒は揃う。さあ、始めようではないか。
 楽しい、楽しい宴をな……」

引き寄せられるように、一つの地に集う時、何かが始まる……。



クロス作品 タイトル未定 20007年スタート







うーん、とりあえずはキリリクから先かな。

美姫 「いや、いきなり何事もなかったかのように話し始められても」

あははは。それこそ今更だろう。

美姫 「そうなんだけど、自分で言う?」

まあまあ。とりあえず、次のアップはキリリクかDUELか。

美姫 「終盤だものね」

ああ。

美姫 「でも、言いながら全く違うものがアップするのがアンタよね」

ぐっ。ど、努力します。

美姫 「はいはい。頑張ってね」

そ、それじゃあ、今週は…。

美姫 「そうね。この辺で。それじゃあ、また来週ね〜」

ではでは。


10月6日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより問答無用でお送り!>



とうとう10月。

美姫 「秋ね〜」

秋だな〜。

美姫 「秋、よね〜」

ああ、秋だぞ〜。

美姫 「って、いい加減に止めておかない?」

ああ、同感だ。
ついつい、まったりと始まってしまったな。

美姫 「始めた、の間違いでしょうに」

というか、俺だけの所為じゃないだろう。

美姫 「まあ、あれね」

何だ?

美姫 「秋だから」

いや、それはもう良いって。

美姫 「さーて、冗談はこの辺にして…」

くっ。恒例のやつか。

美姫 「ええ、そうよ。とりあえず、キリリクはあげたみたいだけど」

な、何とか。

美姫 「他のは? 何か、DUELばっかりのようなんだけど」

いや、事実そうなんだがな。
他のもやっているんだけど、ついつい、DUELの方にいってしまう。

美姫 「まあ、もうすぐ終わりだからね」

ああ。最終決戦に関しては既に考えているからな。
後は書くだけ。

美姫 「それがトロイのよね〜」

ぐっ、人が気にしている事を。

美姫 「う〜〜ん、こうアンタをチクチク突っつくのって、快感なのよね」

嫌な趣味だな、おい。悪趣味すぎるぞ。

美姫 「無力なバカが、無力なりにあがく姿。あぁぁ、最高〜♪」

うぅぅ(涙)

美姫 「そんな、嬉し涙を流すほど喜ばなくても」

喜んでるか!

美姫 「まあ、アンタを弄るのはこのぐらいにして」

いや、出来れば弄らないで……。

美姫 「今週も早速だけれど、CMにいってみよう」

シクシク(泣)

美姫 「それじゃあ、レッツCM〜」







「お兄ちゃんは誰にも渡しません!」

レイジングハートを手に構え、鋭い眼差しで睨みつける少女、高町なのは。
髪を頭の左側で一つに纏めたポニーテールの先が、上空の風に吹かれて揺れる。

「幾ら、なのはが相手でもこれだけは駄目。
 だって、恭也さんには私の大事なものをあげたから…」

そのなのはから距離を開け、バルディッシュを構えつつも頬を恥ずかしげに染めるフェイト。
彼女の長く伸びた髪も、風にはためくように揺れる。
そんなフェイトの様子に、なのはは顔を引き攣らせつつも笑みを見せる。

「大事なものって何かな〜? ひょっとして、少し前の不意打ちの頭突きのこと?」

「頭突きじゃないよ。あれはキス」

まさに宙で火花を散らす二人。
その間に甲冑を来た少女。八神はやてが割って入る。

「はいはい。二人とも、まだ熱くならんと。
 勝負の時間までもう少しやから、おとなしい待たんなあかんで」

はやては疲れたような顔を懸命に作りつつも、その瞳に楽しさを隠し切れずに二人に注意する。
そのはやての後ろ、丁度、なのはとフェイトとから等間隔の位置に、
言葉もなく佇むシグナムは、何処か余裕の窺える表情で二人の様子を静観している。

「その余裕の笑みは何なのかしらね、シグナム」

「シャマルか」

ふいに背後から掛けられた声に、シグナムは驚く事無く平然と返す。
それを少しだけ面白くなさそうな顔をしながらも流し、シャマルは首を傾げる。

「まさか、なのはちゃんたちよりも自分の方が優勢だとかいう現れかしら?」

「どうだろうな。だがまあ、恭也とは剣の話で気が合うのは確かだな。
 暇な時などは、よく手合わせもしているしな」

「ふーん。でも、それって女として見られていないかもね」

「そ、そんな事はない!」

「やっぱり、恭也さんはおしとやかな人が好きなんじゃないかしら。
 美味しい料理を差し入れしてくれるような」

「美味しい料理? 誰か美味しい料理を作れるような人が恭也の周りにはいたかな。
 ああ、桃子さんがいたか。だが、桃子さんは恭也の母親だからな」

「何を言っているのよ。ほら、身近にいるじゃない。
 例えば、今シグナムの目の前とか」

「……シャマルではないのは確かだからな。ああ、主の料理は確かに美味しいからな」

「そ、そりゃあ、はやてちゃんの料理が美味しいのは認めるけれど…。
 私がいるじゃない! 私だって、偶に失敗していたけれど、今は普通に作れるんですからね。
 それに、恭也さんだって美味しいって言ってくれたし」

「お世辞、というやつではないのか」

「……シグナムとは、一度ゆっくりと話し合ったほうが良いと思うのよね」

「奇遇だな。私も今、そう感じたところだ」

「「ふふふふ」」

目だけは真剣そのもに、口だけで笑みを作りって笑い合う二人。
そんな二人へ、はやてが近づく。

「ほら、シグナムとシャマルもそんな所で笑い合ってないで。
 シャマルはあっちで準備してや」

「はい、分かりました」

はやての言葉にシャマルはシグナムに向けていたものとは違う、
本当の笑みを浮かべて、はやての指す先、シグナムの正面、こちらもなのは、フェイトと等間隔の位置につく。
四人それぞれが正方形の頂点となるように立ち、はやてはゆっくりとそれらの中心へと移動する。
四人の顔を見渡すと、はやてはゆっくりと上へと上昇を始める。

(あ、あかん。なんや楽しいなってきた。
 にしても恭也さんも罪な人やね。まあ、皆の気持ちも分からんではないけどな。
 うーん、うちとしてはなのはちゃんが勝った時のを見てみたいかも。禁断の兄妹愛。
 やっぱり、これや。いやいや、でも、フェイトちゃんの方がおもろいかもな。
 なのはちゃんとやったら、兄妹やさかい、世間的に言い訳がつくからおもろない。
 やっぱり、ここはフェイトちゃんに頑張ってもろうて……)

一定の距離を飛ぶと、はやてはピタリと止まる。
顔だけは真剣に、四人を見下ろしながら、心の中では更なる思考を進める。

(うーん、シグナムともおもろそうやな。
 似たような二人だけにな。それに、二人とも真面目やさかい、からかい甲斐があるからな〜。
 二人一緒なら、からかうネタも増えるし、二倍以上楽しめるやろう。うんうん。
 やっぱり、シグナムが勝つほうが良いかも。
 いやいや、シャマルが勝ってもおもろいかもな。
 う、うぅぅぅ、あかん、うちには一つに決められん!
 誰が勝ってもおもろい事になるで!)

はやては笑いそうになる口元を押さえ込み、ゆっくりと右手を上げる。

(せやから、この勝負ではっきりさせるんやで、皆!
 誰が勝っても、不倫や、不倫! あ、まだ婚約だけやったか。まあ、ええわ。
 って、あ、あかん、わ、笑いがこれ以上は押さえきれんかも……)

噴き出しそうになるのを堪え、はやては右手を振り下ろす。

「勝負、はじめ!」

それを合図に、なのはたちが一斉に動き出すのだった。



魔法少女リリカルなのはStrikerS 2007年放送開始! 
 ※注)作中は勝手な想像(妄想)です。本編とは全くもって、一切関係ありません。







うーん、第三期。
リアルタイムで見れるのか。

美姫 「まあ、深夜枠ならアンタは無理でしょうね」

うぅぅ。夜は眠くなるんだよ〜。

美姫 「はぁぁ」

いいもん、いいもん。

美姫 「ビデオ録画も無理と」

う、うぅぅぅ。って、まだ始まってもいないのに落ち込んでも仕方ないだろう。

美姫 「まあ、そうだけどね。あ、それよりも、SSの方は結局、どうなってるの」

いや、だからCM前に言った通りだが。

美姫 「つまり、他は全く進んでいないって事?」

まあ、そうなるな。

美姫 「いや、そこで自身満々なのは可笑しいからね」

あはははは。
が、頑張ってはいるんだよ、美姫ちゃん。

美姫 「頑張られてもね〜。形として見えないと」

うぅぅ、ちょびヒゲはわざとじゃないんだよ。

美姫 「いや、関係ないから」

意地悪だよ。

美姫 「はいはい。意地悪で結構よ。それじゃあ、意地悪ついでに、無理矢理アンタに書かせようかしら」

な、なははははは〜。

美姫 「笑って誤魔化すな!」

ぶげっ! くぅぅぅっ! 内側、内側に響くぅぅぅ。

美姫 「ほら、アンタがバカやってる所為で時間が」

俺の所為なのか……?

美姫 「他に誰がいるのよ」

いえ、俺の所為です、はい。

美姫 「まったく。とりあえず、今週はこの辺にしておくわよ」

ういっす。

美姫 「それじゃあ、また来週ね〜」

ではでは。


9月29日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーよりいけない電波に乗せてお送り中!>



はぁぁ、早いもので9月ももうお終いだよ。

美姫 「本当よね〜」

月日の経つのは早いもんじゃの〜。
なあ、婆さんや。

美姫 「そうですね〜、お爺さん。って、誰が婆さんよ!」

べべらっばっ!

美姫 「まったく、うら若き乙女を掴まえて失礼にも程があるわよ」

うぅぅ。ギャグなのに。っていうか、お前ものったくせに……。

美姫 「さーて、それじゃあ今週も元気にやってみよう♪」

って、無視!?
というか、既に怪我してるんですけど!

美姫 「さてさーて、今日一発目のお便りは〜」

いやいや、そんなコーナーないし、手紙も来てないし。

美姫 「それじゃあ、CM〜」

って、可笑しいから、それ!







私立風芽丘学園。
ここは、女子の制服の多さから知る人ぞ知る学園であった。
が、同時に音楽の世界や舞踏、政財界関係においても、一部の者たちが知る学園でもあった。
それというのも……。

「裕人さ〜ん」

大勢の女子生徒に囲まれた彼女、
「白銀の星屑(ニュイ・エトワーレ)」の二つ名を持つ学園のアイドル、
乃木坂春香が存在していたからだった。
容姿端麗にして才色兼備の令嬢。
故に彼女の通う学園も、自ずとその関係者の一部では有名なのであった。
春香に呼ばれた男子生徒、綾瀬裕人に、男子女子問わず、この場にいた者たちの視線が向かう。
どれも殺気めいており、呼ばれた裕人はただ苦笑するのみ。
そんな裕人を教室の一番後ろ窓側の席で少し同情的な目付きで見詰める高町恭也。
彼の横には、自分に向けられたのではなく、
たまたま近くにいた裕人へと向けられた視線にも関わらず、
小さなその身をびくりと震わせる、長い髪を一本のお下げにして、
首に黒のチョーカーを着けた一人の少女。
ここ最近、恭也の傍でよく見るようになった、
いや、彼女の傍で恭也を見るようになったと言うべきか、ともあれ、
「忠犬ハチ公」の通称で通じる、八咲せつなの姿も見られた。
せつなのそんな仕草に苦笑を零す恭也に、隣に椅子を持ってきて、
正に忠犬よろしく座っているせつなは可愛らしく首を傾げる。
それに苦笑ではなく、違う種の笑みを浮かべながら、恭也は軽く首を横に振る。

「いや、何でもない。ただ、綾瀬の奴も大変だなと思っただけだ」

「そ、そうですね」

恭也の言葉に納得したのか、コクコクと頷くせつな。
授業が始まる前の朝の一時。
教室にいる者たちの殆どの注意は、裕人と春香へと向かい、
残る者たちは友人たちとの会話に集中している。
そんな少し騒がしい教室の後ろで、せつなは目を細めてにっこりと笑う。
特に何かある訳でもないのだが、自然と零れてくるといった感じで。
その笑みを眺めながら、恭也は少し物思いに耽るのだった。



それは梅雨が明ける少し前のこと。
昼食をさっさと済ませ、残りの時間は昼寝にしようと恭也は廊下を少し足早に歩いていた。
久しぶりに除く太陽に、生徒たちも外へと出ているのか、廊下は静かで他に人も見当たらない。
と、階段を登り終えた恭也へと、丁度、角を曲がってきた女子生徒がぶつかる。
つい窓を見ていて、注意が散漫になっていたのか、恭也はその女子生徒を受け止める事もできず、
女子生徒は廊下に尻餅をついてしまう。

「ああ、すいませ……」

すぐに謝罪を口にする恭也の口が動きを止める。
同様に、目の前の少女も座り込んだまま、やや呆然とした、困ったような顔を見せる。
二人の視線が追う先は、共に同じ。
少女が尻餅を着いている場所より数センチ前。
恭也の足がある先よりも、同じく数センチ前。
そこに乾いた音を立てて転がり落ちたのは、見るからに凶器と訴えかけている抜き身の小さなナイフ。
そして、先端の鋭く尖った針状の物体。
恭也や美由希などが、小刀や飛針と呼んでいるものであるが、
一般人である少女からすれば、それは単なる凶器。
互いに困ったようにお互いの顔を見て、再び落とした凶器へと視線を向ける。
泣きそうな、困った顔をする少女には悪いと思いつつ、恭也は素早く周囲を確認する。

(よし、他の人はいない。階段も良し!)

周囲に誰も居ない事を確認するなり、恭也は小刀と飛針を素早く回収。
未だに固まっている少女を置いて足早に立ち去ろうと背中を向ける。

(ちょっとぶつかったぐらいなら、大丈夫だ。きっと向こうも俺の顔など覚えていまい)

「あ、あの、高町くん……」

と思ったのも束の間、恭也は名前を呼ばれて足を止めてしまう。

(しまった。ここで知らない顔をして行けば、まだ誤魔化せたかも)

そう思いつつも足を止めてしまったため、仕方なく、少しだけ振り返る。
振り返って、恭也はさっきの考えを否定せざるを得なかった。
なぜなら、恭也にぶつかったのはクラスメイトでもある八咲せつなだったからである。
恭也は再度、周囲を見渡して誰も居ない事を確認すると、未だに座り込んでいるせつなの傍にしゃがみ込む。

「ちょっとだけ、すまない」

そう断りを入れるなり、返事も待たずにせつなを抱き上げる。
混乱し、自分の状況に顔を赤くするせつなを抱いたまま、恭也は階段を段飛ばしで駆け上がる。
そのまま屋上へと通じる扉の前で一旦立ち止まると、向こうの気配を探り、
誰も居ない事を確かめてから、屋上へと出る。

屋上に備えられているベンチへとせつなを降ろすと、恭也はその前に立って真剣な顔付きで見詰める。
顔を赤くして俯くせつなへと、恭也はゆっくりと語り出す。

「詳しい事は言えないんだが、俺の家は昔から剣術と呼ばれるものをやっているんだ。
 それで、さっきのはそれで使う物なんだが、どうやら朝の鍛錬の後、
 仕舞うのを忘れて、そのまま持ってきてしまったみたいなんだ。
 出来れば、黙っていてくれると助かる。俺が剣術をしていると言うことも含めて」

若干の嘘を交えつつ語る恭也の言葉を聞いて、せつなは整理するようにゆっくりと顔を上げる。

「誰かに話されると困るんですか?」

「ああ。特に、来年、風校にやってくる妹の美由希に知られるのは一番まずいな。
 隠し持つべき武器を落としてしまうなど、御神の剣士にあるまじき行為だからな。
 先生に知られるのは兎も角として、弟子でもある美由希にだけは絶対に知られるわけにはいかない。
 だから、どうか黙っていて欲しい」

「え、えっと…、えっと、先生に知られるのも普通は困ると思うんですけれど…」

恭也の言葉に何とも言えない顔を見せるせつなを、恭也は真剣な顔付きでじっと見詰める。
見詰められて顔を赤くしつつも、せつなは再び何かを考え、ようやく小さく頷く。
それにほっと胸を撫で下ろす恭也の眼前に、せつなの顔が飛び込んでくる。
勢いよく立ち上がったせつなは、真剣な顔付きで恭也へと近づくと、小さな声でお願いをする。

「さっきの、もう一度よく見せてもらっても良いですか」

「さっきの? 小刀と飛針のことか。しかし、見ても面白いものではないし、
 ましてやあれはれっきとした武器だから、そう人に見せるものでは」

「た、高町くんは人に見せれないような危ない武器を持っているんですか」

「……分かった」

せつなの言葉に、恭也は諦めて小刀と飛針を一つずつ取り出す。
だが、決してせつなへは渡さない。

「見せるのは百歩譲って良いが、危ないから触るのは駄目だぞ」

恭也の言葉に頷きながら、せつなは少しだけ離れて携帯電話で写真を撮る。
何をしているのか不思議がる恭也に今度は近づき、次に近くから飛針と小刀の写真を撮る。

(まさか、美由希の奴みたいに刀剣マニアなのか…)

恭也がそんな事を考えていると、せつなは撮った写真を確認し、何度か恭也と自分の足元を見比べる。

「えっと、高町くん、それを持ち上げて…」

「こうか?」

違う角度から写真でも撮りたいのか、恭也の言い付けを守って飛針や小刀には触らず、
恭也に持ち上げてもらうように頼む。
まさに忠犬と苦笑する恭也に、せつなは細かく注文して写真を撮る。
最後に、自分も入れての写真を何度か確認しながら撮り直し、ようやく満足そうな笑みを、
一仕事終えたような表情を見せる。
まさに、ふ〜、と言わんばかりに額の汗をハンカチで拭くせつなに恭也は小さな笑みを刻んでいた。

「それじゃあ、この事は秘密に…」

「はい。そ、そそそそれで、ですね」

立ち去ろうとする恭也を、顔を真っ赤にしながら呼び止める。

「こ、この事を秘密にして欲しければ、私の奴隷(いぬ)になってください!」

「…………はぁっ!?」

「さ、逆らうと、これを……」

言ってせつなが見せたのは、先ほど撮った写真。
ただし、今見せられている一枚は、
恭也が凶器を手にせつなへと迫っているように見えなくもない写真だった。

「これは、最後に撮ったやつ……か」

自分の目付きの悪さに肩を落としつつ、この写真を見た者に誤解だと言ったとして、
果たして何人が信じてくれるだろうか。
そう考え、恭也は大きく肩を落とす。
どう見ても、か弱い女性を脅している写真にしか見えない。
ならば、データを消すまでと手を伸ばした恭也だったが、
いち早く察知したせつなは自分の背中へと携帯電話を隠す。
その所為で、恭也の腕は空を切り、勢い余ってそのまませつなへと伸び。
フニョンという柔らかくもしっかりとした弾力のある感触に、恭也は元よりせつなさえも動きを止める。
恭也の視線はずっとそこを見ており、せつなも固まっていた状態からゆっくりと首を下に下ろし、
恭也の手に鷲掴みにされた自分の胸を見て、一瞬で顔を赤くしたかと思うと、
その瞳に涙を込み上げて、ぽろぽろと零し出す。

「す、すまない!」

慌てて手を離すも、せつなは声もなく涙を零すのみ。
恭也だけが悪いわけではないのだが、流石に罪悪感でいっぱいになってくる。
何とか泣き止まそうとするも、元々女性の扱いが得意という訳でもなく、
恭也もしどろもどろに言葉を紡ぐ。
やがて、泣き止まないせつなを見て意を決したのか、

「分かった。さっきの条件を飲もう。だから、頼む。
 泣き止んでくれないか」

恭也の言葉に、小さく声を引き攣らせると、まじまじと恭也を見詰める。

「良いんですか?」

「良いも何も、君から言い出したことだろう。
 それに、その写真は虚偽だとしても、その、さっきの行為は弁解のしようもないから」

「あ、そ、それじゃあ、これからよろしくお願いします!」

何とか涙を止め、真っ赤になった目のまま勢いよく頭を下げるせつなを見て、
恭也は、そんなに悪いようにはならないだろうと、何処か楽観視する。
果たして、その判断は正しかったのか、間違っていたのか。
それはまだ分からない。

高町恭也。
女性に縁のない生活を送っていた彼は、この日初めて女性から大胆な言葉を聞かされる。
ただし、その内容はとんでもないものだったが……。

「恭也くん、恭也くん。はい、プレゼントです」

「これは?」

「流石に首輪はまずいだろうから、チョーカーです」

「これを着ければ良いんだな」

「はい。あ、私が着けてあげますね。……はい、出来ました」

「ああ」

「えへへへ、ほら、お揃いです♪」

「いや、お揃いって…。これは奴隷の証、首輪の代わりなんじゃ……」



これは、高町恭也と八咲せつな、



「恭也さん、私の事も名前で呼んでください」

「しかし、一応というか、八咲さんは俺の主人なんだろう」

「むぅ、だったら命令します。名前で呼んでください」

「命令している割には、お願いに聞こえるんだが…。
 まあ、良いか。えっと、せつなさん。これで良いのか?」

「えっと、今度はさんを付けないでお願いします」

「せつな」

「…はう〜〜」

「…まあ別に構わないんだが。普通の奴隷と主人みたいじゃないな。
 いや、俺としては助かるから良いんだが。やっぱり、せつなは良い人のようだしな」



凶狼と忠犬との主従関係の物語……?



キョウハクDOG'S Heart プロローグ 「こうして私は犬になる」 近日…………?







シクシクシクシク。

美姫 「うーん、CMもあけた事だし、どのぐらい進んだのか教えてもらおうかな?」

シクシク。

美姫 「ふんふん。殆ど出来てないじゃない! このバカッ!」

べべらぁっ!
……って、俺何も言ってないし、泣いているのはスルーだし。

美姫 「え、じゃあ、出来てるの? 進んでいるの?」

ホワイトペーパー。

美姫 「白い紙? ……白紙って、しょもないことするな!」

ばぼらっ!
じょ、冗談じゃないか。

美姫 「さっきの発言が? それとも出来ていないって発言が? 私としては後者を望むわ」

……ふっ。

美姫 「やっぱり出来てはいないのね」

さてさて、そろそろ頑張ろうかな〜。

美姫 「はぁぁ。まあ、良いわ。そこを何とかさせるのが私の役目」

って、痛い! 痛いよ、美姫!
って、こめかみをグリグリするのはやめてぇぇぇ〜〜。
がっ! あ、足を絞らないで〜〜〜〜!!

美姫 「腕はちゃんと無傷にしてあげるから安心しなさい」

ってなにを!? 今の言葉を聞いて、何を安心しろと!?

美姫 「うん? ああー、腕が無事だった〜。これでSSが書けるよ。
    美姫には感謝だな、ってなるでしょう」

いやいやいや。腕以外が無事じゃないなら、それはありえないから。
というか、そこまでボロボロにされて、何でお礼を言っているんだよ、俺は!

美姫 「さあ? アンタの考えまで私に聞かれても?」

今、言ったのはお前じゃないか!

美姫 「あー、はいはい。文句は書き終わったら聞いてあげるわ」

それだったら、いつまで経っても言えないじゃないか!

美姫 「って、書く気なし!? つべこべ言ってないで、さっさと書け!」

ぐぅっ! す、すいません。
わ、私が間違っておりました。

美姫 「分かれば良いのよ」

頑張ります…。

美姫 「うんうん。それじゃあ、今週はこの辺にしておきましょう」

は〜い。

美姫 「それじゃあ、また来週ね〜」

ではでは。


9月22日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより発信中!>



早いもので9月も半分以上が過ぎたな

美姫 「何をしみじみと言っているのよ」

いや、何となく?

美姫 「何となくって…」

ふっ。人はたまには歩みを緩めたくなるものなのだよ。

美姫 「うーん、何処から突っ込んで欲しい?」

いや、突っ込むところないだろう!

美姫 「えっと、まず私はアンタを人として分類してない」

ひ、ひでぇ。

美姫 「次に、緩めるって、アンタ常に緩みっ放しじゃない。たまには加速して欲しいわね」

これまたひでぇな、おい。

美姫 「じゃあ、たまに歩みを緩めるアンタの今のSSの進捗状況は?」

あ、あははは。ま、まあ、美姫の言うことも一理あるかもな、うん。

美姫 「はぁ〜」

だ、だって!

美姫 「言い訳しないの」

うぅぅ。ラストに近いせいか、DUELの方はさくさくと進むんだな、これが。

美姫 「の割にはアップしてないわね」

頭の中では……。

美姫 「書け!」

うぅぅ。と、とりあえず、DUELを書き始めてる。
後は、キリリクを。

美姫 「あ、そう言えば、400万ヒットなのよね」

うんうん。まさか、ここまで来るとは。

美姫 「いやー、予想もしなかったわ」

フィーア 「というわけで、おめでとうございまーす」

って、フィーア!?

美姫 「あ、ようやく来たのね」

フィーア 「はい♪ これを買いに行ってて、少し遅れましたけど」

美姫 「綺麗な花束ね」

フィーア 「400万ヒットということで、記念に。
      うちのアハトから、軍資金はたんまりとうば……もらったんで」

いや、今、言いかけたのは何!? そっちの方が気になるんだけど!
ね、ねっ! アハトさんは無事なのか!?

美姫 「うーん、本当に綺麗ね」

フィーア 「お姉さまには適いませんよ〜」

美姫 「ふふ、嬉しい事を言ってくれるじゃない」

おーい。アハトさんは無事なのか〜。

美姫 「浩、これ花瓶に活けといて」

あ、はい、ただいま! って、違う! (言いつつ、花瓶を取り出してしまう俺って……)

フィーア 「それじゃあ、改めて400万ヒットおめでとうございます」

美姫 「ありがとう」

おお、ありがとう。いやいや、本当に感慨深いな。
まあ、区切りで言えば500万の方が良いんだろうがな。

美姫 「その時はその時で祝えば良いのよ」

だな。よし! この調子で、500万を目指すぞ!

美姫 「まあ、アンタの頑張り次第ね」

う、うん、頑張る!

美姫 「さて、話も一区切り着いた所で…」

今週もやってみよう!

フィーア 「その前に…」

美姫 「あ、フィーアが来たって事は、そっちも…」

フィーア 「勿論です! 400万ヒット記念にお姉さまの所に伺うと言ったら、快く書いてくれました」

ねえ、本当だよね、その言葉。
裏や嘘、虚偽はないよね。

美姫 「この場合、どれも同じ意味だと思うけど?」

だから、お前たちの普段の態度のせいで、俺の言葉使いも可笑しくなってるんだよ!

フィーア 「酷い! 私たちの所為にするなんて」

あ、ああー! ご、ごめんなさい。だから、泣かないでー!

美姫 「ひ〜ろ〜。フィーアが泣いちゃったじゃないの! どうする気」

いや、あの、その……って、その目薬はなんなんですかっ!

フィーア 「ちっ、ばれたか。可笑しいな〜、アハトにはばれなかったのに」

う、嘘泣きして書かせたのか。な、何て奴だ……。
美姫、お前からも注意しておけ。流石にこれは…。

美姫 「駄目よ、フィーア。女の涙はいざという時の武器なのよ。
    こんな事で簡単に使ったら…。SSを書かせるぐらい、フィーアなら涙なしにできるでしょう」

フィーア 「そうでしたね。てへっ☆ ちょっと失敗しちゃった。
      書かせるぐらいなら、ちょっと脅せば良かったのに」

美姫 「もう、このあわてんぼうさんめ」

フィーア 「あははは」

って、注意の仕方が違いますよ! ねえ、ちょっと!

フィーア 「それじゃあ、とりあえずは…」

美姫 「CMよ〜」







神は滅びた。
今までの破滅の元凶たる神は、救世主候補達の手によって倒された。
平和が、訪れたのである。


「平和な時に、俺のようなものは不要だ」
その言葉を残し、一人の青年は愛する者達を置いて何処かへと消えてしまった。
だが、そんなことで諦めるような柔な恋じゃない。
乙女達は、立ち上がる。


「例え次元が違おうと、必ず会う……そう、決めたからな」
青年が護り抜いた女性、妖術剣士 ロベリア・リード


「私を置いて行ったこと、必ず後悔させてあげるわ」
同じく、青年が命を賭して護り抜いた少女 イムニティ


「今度は、私達が貴方を探し出して……その心を救ってみせるわ」
嘗ては敵対した一人、だけど恋する乙女 ルビナス・フローリアス


「もう、待つのは御免です……だから、必ず追いかけます」
青年の心に触れ、その理想に自分の居場所を見出した女性 ミュリエル・アイスバーグ


「今度こそ、あの人の心に私の存在を繋ぎとめてみせます」
一度は拒絶されながらも、その想いを持ち続けた少女 リコ・リス



そして……彼はいた。
「いらっしゃいま………せ…………」
彼がいた場所……そこは何と……っ!!!


「「「「「「喫茶翠屋ぁっ!!?」」」」」


海鳴に戻ってきた恭也とそれを追いかけてきたロベリア達との日常が幕を開ける。
戦いはないけど、乙女の争いは頻繁に。
むしろ、所構わず恭也のいる場所は修羅場一歩手前。
こんな日常の中で、恭也は誰を選ぶのか!?


破滅の中の堕ち鴉外伝
恋する乙女と、堕ち鴉?


堕ち鴉が終了したらもしかしたら公開。

勿論あのキャラたちも……?







これまた、面白そうなお話が。

美姫 「これは是非ともやって欲しいわね」

フィーア 「本人はどうするのか悩んでいるみたいですけどね」

まあ、どうなるかは分からないって事で。

フィーア 「はい、その通りです!」

美姫 「さてさて、アハトさんからネタSSをもらった以上、こっちも…」

いや、もらわなくても、どうせやらせるくせに。

フィーア 「つべこべ言わない!」

って、何故、フィーアに言われなきゃ…ブツブツ。

フィーア 「それじゃあ、お姉さま」

美姫 「CM、いってみよ〜♪」







「お待ちしておりましたわ、瑞穂さん、紫苑さま」

とある大学のキャンパスで、二人の美女に話し掛けるのは、こちらもまた美しい一人の女性。

「貴子さん!?」

「うふふふ。貴子さんもこちらの大学でしたのね」

「はい。私、厳島の家を出まして…」

どうやら知り合いらしい三人は、久方の再会を喜ぶように楽しげに話を躱す。
この美女三人という姿は流石に目を引くようで、
数人の学生たちがちらほらと貴子たちの方を気にしながら通り過ぎて行く。
いや、正確には美女二人に男性一人、なのだが。
更に言えば、このうちの二人は婚約までしていたりもするのだが、
それらは外側から見ているだけの人間に分かるはずもなく、
結果として美女三人による団欒と言う図が出来上がっていた。



「まいったな」

入学式が終わったはずの講堂から出てくるなり、その人物は困ったような声を上げる。

「やはり、引越しの片付けは今日にしておけばよかったか」

遅くまで引越しの荷物を簡単に片付けていた恭也は、襲いくる眠気に勝てずに入学式で眠ってしまい、
さっき目が覚めた所だった。
その間、誰にも起こしてもらえなかった事に、恭也はやはり強面が原因かと自分の頬を軽く擦る。
実際はその逆で、起こそうとした者もあまりにも気持ちよさげに眠る恭也の顔に見惚れ、
中々起こせなかったのだが。
恭也はまだ僅かに残る眠気を吹き飛ばすように腕を空へと伸ばすように伸びをすると、
改めて自分が居る所を不思議そうに見渡す。

「まさか、本当に合格するとはな」

やや苦笑交じりに呟きながら、合格した事を伝えたときの家族の信じられないといった顔を思い出す。
桃子やなのはは、純粋に喜んでくれたのだが。

(まあ、俺のあの学力からすれば驚かれても当たりまえだがな)

そんな事を思いつつ、恭也は歩き出す。
何故、恭也が海鳴を離れてこの大学へと通うことになったのか。
それは今から数ヶ月も前へと遡る。



「あうっ。痛いよ、恭ちゃん」

そう恨めしげ見てくるのは、今しがた恭也に軽く小突かれた妹の美由希であった。

「お前が悪い」

「うぅぅ。そうやって、すぐに人の頭を殴るんだから。
 私は恭ちゃんと違って、まだ勉強を諦めた訳じゃないのに。
 このままだとバカになっちゃうよ」

美由希の言葉に、恭也は僅かに眉をピクリと震わせるが、美由希は気付かない。

「そりゃあ、恭ちゃんみたいに勉強を諦めていたら良いけどさ…。
 大体、すぐに暴力に訴えるのってどうかと思うんだけど。
 まあ、私に口で勝てないから腕力に頼るのは分かるけどね。
 力では恭ちゃんの方が上だけど、早さ、頭の回転の速さも含めて、それは私の方が上だし」

何も言い返してこない恭也に、ついつい美由希は調子に乗ってべらべらと喋る。
美由希の正面では、この会話を聞き、恭也の表情や雰囲気を目にした晶やレンが必死で手を振り、
美由希に何かを伝えようとしているが、目を閉じて優越感に浸っている美由希には当然、見えていない。
尚も喋る続ける美由希へ、諦めたのか晶とレンが揃って手を合わせて合掌するのと、
恭也の拳骨が美由希の頭に落ちるのがほぼ同時。
先程の痛みなど可愛らしく思うほどの痛みに、美由希は言葉もなく蹲り頭を押さえる。
涙目で恭也を見上げ、そこで美由希は恭也の静かな怒りを目の当たりにする。

「あ、あはははは。ええっと、今のは何ともうしましょうか…」

しどろもどろとなる美由希を冷ややかに見下ろし、恭也は一言告げる。

「弟子にそこまでバカにされるとはな。
 良いだろう。俺だってその気になれば出来ると見せてやろうではないか」

言って恭也はとある大学を受験すると言った。
言ってしまったのだ。
この時の事は殆ど勢いの上であり、この場に居た美由希や晶、レンたちも聞いた直後こそ騒いだものの、
数日後にはすっかり忘れて普通に過ごしていた。
そう、それは恭也自身でさえも。
だが、それを思い出される出来事が起こるのである。
それは、いつもの夕食後のこと。
特にする事もなく、何とはなしになのはと一緒にテレビを見ている恭也へと、
桃子が思い出したかのように、まるで明日の天気の話をするかのように軽く話し掛ける。

「あ、恭也。アンタが前に言っていた大学の願書、ちゃんと出しておいてあげたからね」

「はぁっ!? いや、俺は大学にはいかないと言って…」

「何を言ってるのよ。店の事は良いから、貴方は自分のやりたい事をやりなさい」

「だから…」

恭也の言葉を遠慮と受け取ったのか、桃子は笑いながらソファーに腰を降ろすと続ける。

「偶然、この前聞いちゃったのよ。まさか、恭也があの大学に行きたいって思ってるなんてね。
 どうせアンタの事だから、何の準備もしてないんでしょう。
 だから、私が全てやってあげたからね。後は、自分で頑張んなさい」

そう言われても思い当たる節のない恭也は懸命に記憶を探り、ようやくあの日の事を思い出す。
それは、その話を聞いていた美由希たちも同じだったようで、揃って複雑な顔になる。
そんな事に気付かず、桃子は恭也が勉強にも興味を持ったとご機嫌だった。

「いや、しかし、俺の成績で…」

「大丈夫。信じてるから♪」

そう気楽に言ってくれる桃子の手前、それ以上は何も言うことが出来ず、
恭也は受けるだけならと、自分を納得させるのだった。
その日の鍛錬で、美由希がいつも以上にしごかれたのは、最早言うまでもない事だろう。
受かる事はないだろうと思いつつも、努力を怠る訳にもいかず、
恭也は様々な知り合いから勉強を教わり、そして受験を挑んだのだった。



「まさか、答えが分からずに勘で埋めた所の半分以上が正解していたとは…」

後に自己採点した結果に一番驚いたのは、他ならぬ恭也自身であった。
だが、この時はまだ受かるとは思っていなかったのだ。
所が、実際には恭也はこの大学の敷地にいる。
それも学生として。
一度、大きく息を吐き出し、気持ちを入れ替えると恭也はいつの間にか止まっていた足を再び動かすのだった。
と、その足を再び止め、ふと目に付く三人の女性を見る。

「月村や神咲さんも綺麗だったが、居る所には居るものなんだな。
 ん? だが、あっちの女性は何処かで見かけたような…」

恭也が見詰める視線の先では、貴子や紫苑と楽しそうに話している瑞穂の姿があった。
記憶を辿るように考え込む恭也へと、その視線に気付いたのか瑞穂が振り返る。
二人の視線が合わさろうとした瞬間、突然強風が吹き抜けていく。
咄嗟にスカートを押さえる貴子の手から、抱えていたプリント数枚飛ぶ。
恭也は殆ど反射的に飛んでくるプリントをジャンプして掴むと、態勢を崩す事無く着地する。
だが、一枚だけ恭也の方へと飛ばずに木の方へと飛んだものがあったらしく、
枝に一枚だけ引っ掛かっていた。
とりあえず、恭也は貴子の元へ行く。
その際、僅かだが怯えるように半歩身を引きかけた貴子を見て、男性が苦手なのだろうと判断し、
必要以上に近づかないように気を付けながら、プリントの下の方を持って貴子へと差し出す。

「はい、どうぞ。あなたので間違いないですよね」

「あ、ありがとうございます」

礼を言いながら、プリントの上の部分を掴んで恭也からプリントを受け取ると、
木の上に引っ掛かったプリントを目で追う。
同じように上を見上げ、紫苑は手を頬に当てながら困ったような声を上げる。

「困りましたわね。まさか、木に登るわけにもいきませんし」

「かなり高い位置にありますからね。それに、そこに登るまでに掴むような場所もないですし」

紫苑の言葉に瑞穂も同意するように声を上げる。
貴子の困った様子から、それなりに大事なものなのだろう。
恭也は手近に落ちていた手ごろの大きさの石を拾い上げると、貴子へと尋ねる。

「少し汚れたり皺になっても問題はありませんか」

「え、ええ。あそこにあるのは、提出しなければいけないものではないですから」

「そうですか。それなら…。
 危ないですから、少しだけ下がっててください」

恭也の言葉に従って三人が下がるのを見届けると、恭也は拾った石をプリントの引っ掛かっている枝へと当てる。
衝撃で枝が小さく揺れた所へ、すかさず次の石がぶつかって大きく揺れる。
それによって落ちてきたプリントを、恭也は軽く跳んで掴むと貴子へと渡す。

「多分、そんなに汚れてはいないと思いますけれど、どうですか」

「…ええ、全く問題ないですわ」

「それは良かった。それじゃあ、俺はこれで失礼します」

「あ、あの、ありがとうございます」

「いえ、大した事ではありませんから」

もう一度頭を下げて軽く挨拶を投げると、恭也はそのまま三人に背中を向けて歩いていった。
その後姿を見ながら、紫苑は感心したような声を上げる。

「やっぱり男性は凄いですわね。あんなに高く跳べるなんて」

「いえ、紫苑。さっきのを一般男性の基準とされると、かなり困るんですけど」

「そうなんですか?」

「ええ」

本気で聞いてくる紫苑に苦笑しつつ、瑞穂は頷く。
恭也が去ってほっと胸を撫で下ろす貴子を見ながら、紫苑は小さく笑う。

「先程の方、悪い人ではないみたいですね」

「ええ。見ず知らずの僕たちに…」

「いえ、そうではなくて。
 勿論それもありますけれど、あの方、貴子さんが少し怯えたのを見て、距離を取っていたんですよ」

「そうだったんですか」

紫苑の言葉に瑞穂だけでなく、声に出さないまでも貴子も驚いていた。
しかし、貴子の方は言われれば思い当たる節があるのか、すぐに納得する。
そんな二人の反応を楽しげに見ながら、紫苑は本当に楽しそうに口を開く。

「多分、またあの方とは出会うような、そんな気がしますわ。
 本当に、瑞穂さんと一緒に居ると退屈しませんね」

「えっと、今回の事に関しては僕は関係ないんじゃないかな…」

「そんな事はありませんわ。私は瑞穂さんが傍に居てくれるだけで、こんなにも幸せになれるんですもの」

「紫苑…」

頬を赤らめつつ顔を見合わせる二人の間に、貴子が少し遠慮がちに、
けれどもきっぱりと割り込んでくる。

「瑞穂さんも紫苑さまもそれぐらいにして頂けませんか。
 流石に、目の前でそういう事をされると、少し困りますので」

「ああ、ごめんなさい、貴子さん」

「ごめんなさい、貴子さん」

「いえ、こちらこそ。そ、それよりも、これから大学内をご案内しますから」

貴子の言葉に二人は頷くと、揃って貴子の後について歩き出すのだった。

新たに見知らぬ土地へとやって来た恭也。
そこにも新しい出会いは待っていて、
今日のこの出会いもまた、新しい出会いだったと知るのは、もう少し後の話。

剣士と姫は恋をする







いやー、またまたおと僕ネタで。

美姫 「今回は少し変わったパターンかしらね」

どうかな。いや、他にも色々とネタはあったんだけどな。

フィーア 「もうすぐアニメスタートですからね」

まあ、そういう事だ。

美姫 「うーん、新ネタじゃないのね」

まあまあ。って言うか、今まで、何とクロスさせてきたか覚えてないって。

フィーア 「それって威張る事じゃないような…」

美姫 「確かにね」

いや、そうなんだけどね。
まあ、100にはいってないとは思うけど。

フィーア 「次回までに数えておくとか」

いや、大変だから、それ。
同じ作品でやっているのもあるし。

美姫 「Fateとかは、3回か4回ぐらいやったものね」

ああ。おと僕もこれで何回目だ。
2回か、3回か。

フィーア 「勿論、それらはまとめて1で」

美姫 「当然よね。幾つの作品とクロスさせたかを数えるんだから。
    あ、これも当然ながら、雑記内だけよ」

って言うか、何故数えないといけないんだ?

フィーア 「うーん、何となく?」

誰が数えるか!

美姫 「さて、浩をおちょくるのもこのぐらいにして…」

って、やっぱりからかわれていたのかよ!

フィーア 「そろそろお開きですかね」

美姫 「そうね。勿論、フィーアはこの後、ゆっくりしていくんでしょう」

フィーア 「はい♪」

それじゃ、今週は…。

美姫 「ここまでね」

それじゃあ。

美姫&フィーア 「また来週〜」


9月15日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はじめるわよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより人力で発信中〜!>



朝夕は大分涼しくなってきた今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

美姫 「急な気温の変化に体調を崩さないように気を付けて下さいね」

秋の夜長をお付き合いさせて頂きますのは…。

美姫 「毎度お馴染み、紅美姫と…」

氷瀬浩でございます。

美姫 「それでは早速、今日最初のナンバー…」

って、いつまでやるんじゃぁ!

美姫 「やっぱり、こういうのって止める人間がいないと困るわね」

ああー、いつもと違う口調で疲れた。

美姫 「だらしないわね、あれぐらいで」

はいはい。さーて、いよいよDUELも大詰めだしな。

美姫 「あら、珍しく自分からSSに触れるなんて」

いや、流石にあそこまで来たら止まらないだろう。

美姫 「問題は、遅筆って事ね」

ぐっ。そればっかりはどうしようもないじゃないか…。

美姫 「はいはい、いじけないの。まあ、珍しくやる気みたいだしね」

まあな。俺の脳内では既に激しいバトルが…。

美姫 「で、肝心のテキストにはまだ一行も書けてないと」

あははは。

美姫 「まあ、DUELに関しては問題ないみたいだし、問題は他の作品ね」

これがもう、さっぱり。

美姫 「いや、威張らないでお願いだから」

まあ、それはさておき…。

美姫 「勝手におかれてもね〜」

ぐっ。ほ、ほら、あれだ。

美姫 「じ〜〜」

何と言いますか。

美姫 「じ〜〜〜〜」

その、ですね…。

美姫 「じ〜〜〜〜〜〜」

だ、だから……。

美姫 「じ〜〜〜〜〜〜〜〜」

う、うぅぅ。精一杯頑張ります。

美姫 「期待してるわよ、ご主人様♪」

頑張る……、うん、頑張るよ!

美姫 「うんうん。飴も大事って事よね」

何か言ったか?

美姫 「ううん、何も。さーて、それじゃあCMよ〜」







ぼんやりと意識が覚醒していくのを、高町恭也は感じていた。
どこか体がだるく感じるのは、思ったよりも長く眠ってしまったからか、
それとも、本当に久しぶりに熟睡してしまったからか。
まだ僅かに眠気が思考能力を邪魔するように絡み付いてくるのを気力で吹き飛ばし、恭也はその身を起こす。
まずは時間の確認と思ったものの、ここは恭也の部屋ではなかった。
やけに寒い感じの部屋。
明かりが付いていないが、ある程度夜目の利く恭也は、
目を凝らしてコンクリート壁に囲まれた部屋であると見て取る。
思ったよりも大きな部屋らしく、恭也が寝ていたベッドの両横にも同じくベッドが置かれている。
恭也が眠っていたベッドも含め、全部で六つ程が横に並ぶ。
それらを確認し終えると、恭也はゆっくりとベッドから起き出す。

「ここはどこだ?」

一瞬、自分は捕まったのかとも思ったが、それにしては外に見張りが居る気配も、
扉に鍵が掛かっている様子もなかった。
疑問に思いつつ扉を開けて外に出た恭也は、この場所自体は初めてだが、
似たような場所には見覚えがあると感じる。

「……病院?」

恭也は自分が居る場所に見当を付けると、自分の体の様子を窺う。
特にこれと言って怪我をしている様子も、治療をされた跡もない。
なのに何故、自分は病室に居たのだろうかと。
疑問を感じつつ、今しがた自分が出てきたばかりの部屋を振り返り、今度こそ恭也は絶句する。
恭也の視線の先、病室の番号などを割り振ったプレートの文字を見たからだった。

――霊安室

間違いなくそう書かれている部屋から、自分は今出てきた。
となると、今の自分は幽霊なのか。
自分の両掌を見詰め、やけに実体感があることに安堵し、確認するためにもう一度部屋に戻る。
流石に息を詰め、自分が眠っていたベッドを見遣ると、
そこには危惧したように自分の体が横たわっているなどという事もなく。
恭也はとりあえずはほっと胸を撫で下ろすと、こうなった経緯を思い出そうとする。
確か、あれは学校からの帰り道……。



「危ない!」

誰かがそう叫んだのを聞き、恭也は背後の横断歩道を振り返る。
見れば、小さな女の子が荷車に荷物を山と乗せて歩いていた。
信号が赤なのに気付かず、女の子は身体を前に倒して横断歩道へと踏み出し、
そこへ車が突っ込んできたのだ。
運転手も気付いてブレーキを掛けるが、このままでは女の子は車に轢かれてしまう。
恭也は考えるよりも先に体が動き、その女の子の元へと駆け出す。
特に意識した訳でもなく、自然と体が動いたのだ。
だが、このままでは確実に間に合わないだろう。
恭也は車の速度、女の子までの距離を見てそう考える。
同時に神速を使い、自身を通常の世界から切り離す。
時間が止まったように知覚する中を、もどかしいほどにゆっくりと駆ける。
神速を用いても、間に合うかどうかは怪しいところではある。
それでも恭也は足を動かし、手を伸ばす。
車が少女にぶつかるのと、恭也が少女の元に辿り着くのがほぼ同時。
駄目だったかと後悔する間もなく、驚くべき出来事が目の前で起こる。
少女にぶつかった車が、まるで鉄の壁にでもぶつかったかのように凹み、
そのまま方向を変えて滑っていく。
運の悪い事に、その変わった進路上に恭也はいた。
少女を助ける以前に、一転して自分の生命が危機に陥り、恭也は地面を蹴って少女の方、前へと跳ぶ。
同時に神速が切れて、恭也の視界に少女にぶつかりスピンした車の横っ面が迫る。
それ以降の記憶が全く無く、気付いたら霊安室にいたという訳だ。

「……つまり、俺は一度死んだのか?」

だとすれば、何故、今こうして生きている。
恭也は理解できないと頭を軽く振るが、
死んだと思った人間が後で息を吹き返したという話を聞いた事があったと思い出す。
まさか、自分がそんな経験をするとは人生とは分からないものだと思うも、
すぐに家族たちの事に気付き、安心させようと電話を掛けることにする。
廊下を適当に歩き、案内板を見つけて現在位置を知ると恭也は外へと出るために歩き出す。
が、すぐに途中にあった時計に刻まれた時間を思い出し、正面口は閉まっているだろうと判断する。
一階へと上がり、恭也はこの病院が自分のよく知っている海鳴病院だと理解する。
だとすれば、一階に電話ボックスがあったはずだと向かう。
が、自分のポケットに何も入っていない事に気付き、ナースステーションへと向かう。
必要ない電気は落とされている薄暗い廊下を足音も立てずに歩きながら、
恭也は向こうの角からこちらへと来る気配を感じる。
自分の事を伝え、どうなったのかを知るには丁度良いと、恭也はやって来るであろう人を待つ。
程なくして、フラフラと何処か憔悴した様子で角を曲がって現れたのは、
恭也の良く知る、高町家の主治医となりつつある女性だった。

「あ、フィリス先生」

知り合いの姿に、恭也は気安く声を掛ける。
だが、声を掛けられたフィリスはびくりと震えたかと思うと、じっと恭也の顔を見詰め、
その顔が徐々に歪んでいく。目の端に見る間に涙が溢れていき…。

「きゃぁぁぁっ! きょ、恭也くんの幽霊!
 そ、それは確かに会いたかったですけれど、ゆ、幽霊はーー!!
 うぅぅ、こんな事なら、素直に夜勤を替わってもらえば良かったぁぁぁ!
 仕事をしていた方が、悲しみを忘れれると思って、無理して夜勤なんかしなければ…。う、ううぇぇぇぇ!」

「え、えっと……」

フィリスがかなりの怖がりだった事を思い出し、恭也は困ったように頬を掻く。
こんな事態は流石に予想外だったとは言え、このままにしておく訳にもいかず、
恭也は怖がらせないように、出来るだけゆっくりと話し掛ける。

「フィリス先生、あの…」

「ぐす、ぐす、うぅぅ、ひっ、ひっく。
 恭也くん、会えて嬉しいですけど、でも、でも幽霊は…」

「いえ、ですから…」

泣きじゃくるフィリスを困ったように見下ろす恭也。
そんな生前と変わらぬ恭也の態度に、フィリスも少し落ち着いたのかゆっくりと恭也の方を振り返る。

「恭也くん、ちゃんと記憶があるんですね」

「まあ、ありますけど…」

「そ、そうですか。なら、大丈夫ですよね。恭也くんが悪霊になるなんてないですよね。
 だったら、幽霊でも十六夜さんとかと一緒な訳ですし…」

話が通じると分かった途端、泣き止んだフィリスは自分に言い聞かせるように何度か呟くと、
ようやく恭也の正面へと立つ。
まあ、その足がまだ僅かに震えてはいたが、恭也はそれを見ない事にする。

「そ、それでどうしたんですか、恭也くん。
 ひょっとして、何か遣り残した事とかあったとか。
 だったら、那美ちゃんを呼びましょうか」

「いえ、ですから俺の話を聞いてください」

「恭也くんの話。え、そ、そんな、まさか…。
 恭也くんの遣り残した事ってそういう事なの。だったら、もっと早く言ってくれれば良かったのに。
 あ、でも、まだ心の準備が。あ、でも、それを言ったら成仏なんて事になったら困るし…。
 一層の事、薫さんとかに相談して、このままこの世に留まれるように…」

一人で勝手にブツブツと呟きながら考え込むフィリスに、
恭也はどうしたものか困ったような顔で、ただ立ち尽くす。
と、そこへ先ほどのフィリスの悲鳴を聞きつけたのか、
数人のナースが手にモップやらバケツを持って駆けつける。

「フィリス先生っ! 大丈夫ですか!」

勢い良く先頭を突っ切って駆けて来たのは、恭也もかなり顔なじみとなった看護士の一人だった。
その看護士は恍惚とした表情のフィリスと、その横で困ったような顔を見せる恭也を見て、
状況が分からずに、ただただ首を傾げる。
が、その横に居るのが恭也だと思い直し、これまた悲鳴を上げそうになる。
それを何とか手を上げて、落ち着くようにと恭也は伝える。
その恭也の仕草から、看護士は生身のものを感じてとりあえず悲鳴を飲み込む。

「えっと、本当に恭也くんなの」

「ええ。そう訪ねられるという事は、やはり俺は一度…」

「え、ええ。手術したんだけれど、手遅れで。でも、どうして」

「いえ、俺にも何が何だか。それで、説明を受けようと、ナースステーションの方へ行こうとして、
 フィリス先生にここで会ったんです」

顔なじみの看護士の後ろの数人にも恭也は見覚えがあり、そちらへと会釈をしつつ続ける。
ここに居る者たちは運び込まれた恭也がどうなったのか知っている者たちなのか、
一様に驚きつつも、その顔に喜びを隠せずに居る。
だが、この時、誰も、恭也自身でさえも不思議に思わなかった、
いや、死んだと思っていた者が生き返った事に喜びと驚きの余り、そこまで気が付かなかった。
恭也の体の何処にも、怪我らしきものがなかった事に。
瀕死に近い状態で運び込まれたのだ。幾ら手術をしたといっても、何らかの傷跡は残るものであるのに。
まあ、服を着た状態なので分からないというのもあっただろうが。
ともあれ、何処かにトリップしているフィリスを何とか正気に戻し、深夜だという事を気にしつつも、
看護士やフィリスの強い勧めで自宅へと電話を掛ける恭也。
結果、深夜にも関わらず電話の向こうは非常に騒がしい事となり、電話口で恭也がそれを窘める程であった。
今すぐ来ると言う桃子たちを何とか説得した頃には、既に良い時間となっていた。
恭也は知らないが、あの後、夜中の二時近いというのにも関わらず、
桃子は恭也に関係した所、月村邸やさざなみ寮などへと電話を掛けたらしい。
深夜の、まさに草木も眠るような時間帯に掛かってきた電話に対し、
しかし、何処からも文句が出なかったというのを聞いた時、恭也は本当に皆に感謝した。
が、これは少し先の話で、今は恭也は仮眠室で眠っていた。
明日、いや、既に今日の朝一に検査する段取りをフィリスが取り、その結果次第では即退院となる。
恭也は助かった事に胸を撫で下ろしつつ、自分が助けようとした少女がどうなったのかと考えを巡らす。
ふと閉じていた目を開け、上半身を起こすと扉の方を見遣る。

「何か用でも?」

「…ほう」

恭也の言葉に感心したような声が答え、扉がゆっくりと開かれる。
暗闇の中より現れたのは、その周囲の闇と同化しそうなほど黒いドレスを身に纏った一人の女性。
僅かに差し込む廊下からの明りを受けて、流れるような美しい金髪が絹のようなさらりと流れ落ちる。
暗闇の中でもはっきりと分かるほどの真紅の瞳を恭也へと向け、女はその唇を開く。

「フランドルの巻き添えで死んだみたいだったのでな、気紛れに数日限りの命を与えたのだが…」

「フランドル? 気紛れ? それに、命を与えたって…」

「フランドルというのは、お前が助けようとした奴だ。
 あの時、お前は一度死んだんだよ。それを私の血を分け与え、命を与えてやったのだ」

俄かには信じられない事だったが、恭也にはどうしても目の前の女が嘘を吐いているようには見えず、
とりあえずは礼を言う。
しかし、女はそれを一笑する。

「言ったであろう。気紛れだと。それに、数日の命だ」

「どういう事ですか」

「そのままの意味だ。今のお前は私の血の効力で生きている。
 その効力が切れれば、お前はまた死ぬ。逆に、血の効果が切れなければ不死身だ」

「治す方法は…」

「そんなものあるか」

恭也は女の言った言葉を整理する。
つまり、自分は一度死に、目の前の女の血で蘇ったのだと。
そして、その効力は数日で切れる。

「どうすれば良いんですか」

「簡単な事。効力が切れる前に、再び私の血を口にすれば良いだけだ」

「あなたは一体、何者なんですか」

「私か? 私はお前たち人間が化け物と呼ぶものだよ。
 尤も、お前も既にこちら側だがな。まあ、精々、生き延びた数日を楽しめ。
 私の用はもうすんだ。ちゃんと生き返ったのかを確認しに来ただけだからな」

恭也は複雑な顔で女の背中を見詰める。
助けてもらった事になるのだが、それは期限付きであった。
だが、それを恨んでも仕方ない。
数日間だけでも生き返れたのなら、その間にできる事だけはしておこうと気持ちを切り替える。
すぐに切り替えれる訳ではないが、それでも喚き、目の前の女にあたるような事はしない。
女の方も、もう興味もないのか、扉に手を掛けて出て行こうとする。
が、その足が動きを止める。
同時に、恭也も視線を女の見ている壁、いや、その向こう側へと向ける。

「ほう、気付くか。血の盟約の効果、ではないようだな。くっくく。
 中々面白い奴だな。だが、これはお前には関係の無い事だ。
 大人しくここで眠っているが良い」

女は言い置いてこの場を去って行く。
恭也はその背中を見送りながら、先ほど感じた気配に首を傾げる。
気配を感じたようにも感じたが、今はそれらは消えている。
だが、それは勘違いではないというのは、女の言葉からも確かだろう。
と、不意に胸の中を何かが這い回るような感触を受ける。
胸を押さえて目を閉じれば、一瞬だがあの女の顔が浮かぶ。
何故と考えるよりも早く、恭也は部屋を飛び出す。
何故かは分からないが、今までよりも感官が鋭利になり、遠くに離れている気配まで感じ取れる。
複数の気配が一つを囲む。恐らく、その一つなのが女のものだろう。
てっきり、女の仲間だと思っていたが、今では殺気まで感じられる。
恭也は何故、あの時すぐに後を追わなかったのかと悔やみつつ、病院から外へと飛び出す。
自分には関係ないと無視できないのが恭也の性格であり、また恭也はあの女に期限付きとはいえ、
命を救われているのだ。となると、高町恭也がこんな場合に取る行動はただ一つ。
彼をよく知る者なら、恭也のこの行動に疑問を抱かないだろう。
だが、初対面とも言えるあの女は、突然現れた恭也に驚きの顔を見せる。
それは、女を襲っている者たちも同様らしく、行き成り現れた乱入者に一瞬だけ戸惑いを見せる。
その一瞬の隙に恭也は神速を発動し、今しも女の背後から爪を付きたてようとしていた者の腕を掴み取る。

(…爪?)

相手の凶器、そして掴んだ腕に覆われた毛皮に恭也は訝しげに眉を顰めるが、

「跳べ!」

女の突然の声に、それらを認識するよりも早く、言葉に従って上へと跳ぶ。
腕を掴んだまま跳躍した恭也の足元を何かが通過し、
腕をつかまれてがら空きになったソレの横腹へと突き刺さる。
女の振り回したチェーンソーに身体を切り裂かれ、ソレが悲鳴を上げる。
ここに至り、ようやく恭也はソレの姿を認識する。

「狼男?」

恭也の呟きに応えるように、狼男の視線が恭也を捉える。
しかし、それはすぐに光を失い、ゆっくりと倒れ伏す。

「ふん。一応、礼を言っておこう」

「別にお礼はいりませんよ。俺は借りを返したいだけですから」

「借り?」

「あなたは俺の命を救ってくれましたから」

「ふむ」

女は暫く何事かを考え込む。
その間も、残った狼男四人が恭也と女を取り囲む。

「お前、名は?」

「高町恭也ですけど…」

「恭也、私の事は姫と呼べ!
 借りを返すというのなら、少し手伝え」

襲い掛かってきた狼男の腕をチェーンソーで切り落とし、姫はそこから狼男たちの包囲を抜ける。
その後に続きながら、恭也は何を手伝うのか問い掛ける。

「奴らの生命力はかなり強力でな。中々しぶとい。
 一匹一匹解体していっても構わないが、時間が掛かるし面倒くさい」

出来ないのではなく、出来るが面倒くさいから嫌なのだそうだ。
それを聞きながら、恭也はこんな状況だと言うのに思わず苦笑を洩らす。

「この先でフランドルが準備をして待っている。そこまで、あいつ等を誘き寄せろ。
 私は一足先に行っているから」

「分かりました。ですが、あいつらの狙いは姫なのでは?」

「問題ない。今のお前からは、私の血の匂いがするだろうからな。
 お前が目の前に姿を見せれば、まずはお前を狙ってくるだろう」

姫の言葉に頷くと、恭也は踵を返して来た道を戻り始める。
この夜の出来事が、後の恭也の運命を大きく変えることとなる。
数日とはいえ、今までと同じ場所に戻る事も出来たのだ、さっきまではまだ。
だが、これより後、恭也は怪物を統べる王族の王位争いに巻き込まれる事となるのだった。



怪物王女と守護剣士 プロローグ 終

          次回、第1話 「新たなる守護者の誕生」 近日、脳内アップ!







ふ〜。って、やっぱりこれって短編一つなり、長編の続きなり書けるよな。

美姫 「今更よね」

ぐっ。って、お前がやらせてるんだろう!

美姫 「酷いわ。浩だって、あんなにノリノリで書いているくせに」

いや、否定はせんが…。

美姫 「だったら、いいじゃない♪」

確かに良いかもな。
楽しいし。

美姫 「うんうん。そうじゃなくちゃね」

さーて、今回は短いがこの辺で。

美姫 「そうね。それじゃあ、ちょっと早いけれど…」

今週はここまで!

美姫 「また来週ね〜」


9月8日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はじめるわよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーよりお送り中〜!>



早いものでもう九月。

美姫 「本当よね〜」

うんうん。さて、そんな訳でまたらいしゅ……ぶべらっぼへっ!

美姫 「その冗談は流石に笑えないわよ」

……お、俺もわ、笑えな……ぐぅ。

美姫 「自業自得よ」

か、軽い冗談だったのに…。

美姫 「冗談に聞こえなかったのが、今回の敗因ね」

そっか。…って、待て待て。
何か可笑しいぞ、おい。

美姫 「どこが?」

いや、そんな真顔で聞き返されると自信が…。

美姫 「ふっ、勝った」

勝ち負けは関係ないような…いえ、俺の負けです、はい。

美姫 「ふふふ。さーて、勝って気分も良いまま…」

CMです。

美姫 「って、アンタが言うんじゃないわよ!」

ぶべらっ!

美姫 「まったくもう。それじゃあ、気を取り直して…」

し……、CM……ガク。

美姫 「ふふーん。いい根性してるじゃない。で、倒れた振りしていれば安心だと思ってる?」

す、少し。

美姫 「本当に」

いや、実は全くもって意味ないかな〜、とか思い始めている。

美姫 「くす、正解♪」

ちょっ、や、やめ、それは流石にしゃれに……あ、あ、あああああああああ〜〜〜〜〜。

美姫 「ふ〜。それじゃあ、今度こそ本当にCMよ〜」







「ねえ、恭也。アンタ、このお店知ってる?」

放課後、いつものように店を手伝っていた恭也に桃子が話し掛けてくる。
そう言って桃子に見せられた地図は、三日ほど前に恭也が歩いていた通りにあった店で、
とある事情から知っていると言える店であった。

「ああ。だが、どうかしたのか」

「いや、別にどうこうって訳じゃないんだけれどね。
 ちょっとどんな所か見てきて欲しいかな、って」

「偵察と言うわけか」

「んー、そうでもないんだけどね。実は、ここの店長と知り合いなのよ。
 最近、店を出したって言ってたから、近いうちにお邪魔するって話してたんだけど、忙しくて中々行けなくて」

「それで、代わりに挨拶して来いと」

「そうなの! お願い!」

「…はぁ、そういう理由なら仕方ないな」

恭也はそう言うと翠屋のエプロンを外して駅へと向かう。
そこから数駅先にある街の通りに面した一角。
そこが恭也の向かう店だった。
店の前で恭也は少しだけ躊躇した後、扉を開いて中へと入る。
新たな来客に気付いてウェイトレスの一人が声を掛けてくる。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

笑顔で迎え入れる女の子は、俗に言われるメイド服というものを着込み、笑顔を向けてくる。
店内にいる女の子は皆、多少アレンジがされており形は違うもののメイド服を着て働いている。
『Maid Latte』
これがこの店の名前であり、メイド喫茶と呼ばれて分類されたりもする喫茶店である。
恭也に言葉を投げかけた少女は、満面の笑顔から引き攣った笑顔に変わると、
目だけを笑わさずに睨み付けると言う芸当をやりながら、小さな低い声を出す。

「高町、貴様何のつもりだ。そんなに私を馬鹿にしたいのか。
 それとも、精神的に追い詰めて楽しんでいるのか…」

「あ、鮎沢、落ち着けって。今日、俺はここの店長に用があって来たんだから」

「店長に?」

「ああ。うちの母親に頼まれてな」

「……そうか。だが、店長は今は留守だからな。どうする」

「そうだな。それじゃあ、またせてもらえるか。丁度、喫茶店だしな」

「くっ。こ、こちらへどうぞ」

恭也の言葉に一瞬だけ顔を顰めるも、鮎沢は恭也を席へと案内する。
席についてメニューを決めた恭也に頭を下げて鮎沢が奥へと引っ込むと、
同じ職場の女の子が話し掛けてくる。

「美咲ちゃん、あの男の子と知り合いなの?」

「ちょっと格好いいわね、彼」

「…単に同じ学校ってだけですよ」

そう返すと奥へとメニューを通す。
席に座ってどこかぼんやりとしている恭也を一瞥すると、美咲は思わず頭を抱えそうになる。
全ては三日前の出来事が悪いんだとばかりに。



鮎沢美咲。
つい最近まで男子校だった所為か、共学化した今も男子生徒が八割という星華高校に通う少女である。
男子校だった名残か、無造作に振舞う男子生徒に対して力のない女子生徒はただ耐えるのみという現状を見かね、
それを変えるべく努力を重ねて、遂には初の生徒会長となる。
文武両道にして、男子生徒さえも恐れる星華高のちょっとした有名人でもある。
そんな彼女はこの店でバイトをしており、その事を秘密としていた。
そう、三日前のあの日までは。



「ふー。頼まれた物は以上だな。さて、帰るか」

放課後、桃子に頼まれていた買い物を済ませた恭也は、駅へと向かって歩いていた。
途中、近道をしようと路地を曲がり、裏路地へと入った恭也はそこで足を止める。
恭也の目の前には、何処かで見たことのある少女がメイド服に身を包み、
今しも出し終えたゴミ袋を前に一息吐いていた。
向こうもこちらに気付き、二人の視線がぶつかる。

「……高町!?」

「…鮎沢、か。こんな所で、そんな格好で何を…」

言って恭也は美咲が出てきたであろう、扉が半開きになっている所を見る。
『メイド・ラテ』
そう小さく書かれた文字を見つけ、表の通りにある喫茶店『Maid Latte』を思い出す。

「ああ、バイトか」

「…………終わった」

納得した恭也に対し、美咲は顔を真っ青にさせるとフラフラと店の中へと入っていく。
その背中に声を掛けようとするが、その目の前で拒絶するかのように扉が閉められる。
中からは、美咲を心配した声が幾つか上がり、今日は早く上げれとか言っているのが聞こえてくる。
恭也はそっと溜め息を吐き出すと、その場を後にするのだった。

美咲がバイトを終えて裏口から姿を見せると、そこには恭也が壁にもたれるようにして待っていた。

「…何をしている。もしや、私を嘲笑いに…」

何か言いかける美咲の言葉を遮るように恭也は美咲の前に立つと、その顔をじっと見詰める。
美咲は負けるものかとばかりに恭也の顔を睨み返す。
やがて、先に目を逸らしたのは恭也だった。
小さく勝ったを勝ち誇る美咲には気付かず、恭也はどこか安心したような顔を見せる。
それは小さな変化で普段から彼の周りにいる家族なら兎も角、美咲はそれには気付かなかった。
だが、続く恭也の言葉に美咲は思わずその顔を見上げる。

「どうやら、もう大丈夫そうだな」

「何がだ?」

「いや、さっきの鮎沢は体調が悪そうだったからな。
 なのに、こんな時間までバイトをすると言い張っていただろう。
 俺と会ってから体調を悪くしたみたいだったからな。
 だから、ちょっと気になってここで待っていたんだ。
 だが、なんともないようで安心した」

「……そうか。だが、それと今までお前がしてきた事は別だからな!」

お礼を言いたいのに言いなれていないのか、上手く言えずに結局はそんな事を口にする。
しかし、恭也はそれに気付かずにただ肩を竦める。

「またそれか」

「またも何もない! 私は常に女性の味方なのだ。
 だから、多くの女子生徒を泣かせたお前を許すわけにはいかん!」

「…俺も泣かせるつもりはなかったんだ。だが、仕方ないだろう。
 ああいうのははっきりと断らないと、逆に真剣に告白してきた子たちに失礼になる」

「それでもだ!」

さよう、このような事情からお互いに顔見知りとなった二人なのである。
美咲は恭也に食って掛かるも、恭也はそれを軽くいなす。
また、恭也自信が間違った事は言っておらず、それは美咲にも分かっているのだが、
そこに感情が付いていかないのである。
それさえも恭也は分かった風に美咲に接し、決して激昂したりしない。
それがまた、同い年のくせに子ども扱いされているようで腹が立つという悪循環を生む結果となっている。
当然、当事者の二人はそこまで細かく自分たちを分析できている訳ではなく、
殆ど反射行動と化しつつもあるのだが。

「分かった。とりあえず、真剣に聞いておく。
 それよりも、具合が悪いんだったら早退すれば良かったんじゃないのか。
 ここからも中の声は聞こえてきたんだが、恐らくは店長だろうが、そう進言していたかと思うが」

「……家庭の事情だ」

駅へと歩きながら、美咲はそう説明する。

「うちは私の他にも妹が一人いて、私が頑張らないと母が無理をする。
 母は身体が弱くてな…。だから、何かと融通の利くあの店でのバイトをしているんだ」

「そうか」

それっきり二人は無言のまま駅まで歩く。
恭也は元から自分から話す方ではないし、美咲は美咲で、
明日には学校中に自分がメイド喫茶でバイトしているという事を広められるとずっと考えていて無言となる。

(このままでは、男子生徒に舐められてしまうかもしれん。
 いや、会長がメイドと知られれば、今まで通りにいくとは思えない。
 築いてきた信頼も地の底か…。一層の事、ここで高町の口を封じるか)

大げさに考え込み、遂には物騒な事まで考え始める美咲だったが、いつの間にか駅まで着いており、
恭也はさっさと切符を買っていた。
定期のある美咲はその背中に飛び掛るかどうか悩みつつ、
今ホームへとやって来た電車の音を聞いてさっさと改札を潜り抜けるのだった。
一方の恭也は、再び体調が悪くなってきたような美咲を心配して家まで送るか聞いたのだが、
無言だったために、先に切符を購入したのだった。
だが、切符を購入して戻ってきた恭也が見たのは、駅の階段を駆け上る美咲の姿だった。
やや呆然とその背中を見送った後、恭也は小さく笑い出す。

「まあ、あれだけ元気なら大丈夫だろう」

そう結論付けると、既にホームから走り出した電車の音を聞きながら、ゆっくりと改札を潜る。



思わず三日前の出来事を思い返してしまった美咲は慌てて首を振る。
あれから三日経つが、校内でメイドという言葉を聞いた覚えはない。
それはつまり、恭也が何も言いふらしていないということである。
恭也の事を知る者からすれば当然の事だが、ある種目の仇のように思っている美咲には、
されが何かを企んでいるとも取れなくもなく、無意味な警戒を続けていた。

(もしかして、店長に用と言うのも嘘で…)

そんな思考すら浮かんでくる美咲だったが、仕事中という事を思い出し、
それらの考えを全て頭の隅へと追いやって働き出す。
その様子を恭也は少し感心したように見詰める。
学校ではあまり見せない営業用のにこやかな笑顔で客と接し、テキパキと仕事をこなしていく美咲。
その姿を恭也は知らず目で追っていた。
恭也の視線を感じつつ、美咲はそれを意識しないようにしながら動く。

(くっ、何だ、何がしたいんだ高町。私のこんな格好を見て、馬鹿にしているんだな。
 …新手の嫌がらせか)

恭也の視線に無意味のプレッシャーを感じながらの美咲のバイトは続くのだった。
この後、戻ってきた店長と恭也は何かやら話をし、ようやく帰っていった。
恭也の言葉が嘘ではなかったという事なのだが、美咲の頭には既にそんな事はなく、

(高町ー!)

ただただ、いつもよりも疲労した身体に恭也への恨みを積もらせるのだった。

こんな感じで深く関わる事となった二人。
この二人がどんな話を紡いでいくのかは、まだ誰にも分からない。

生徒会長と一般生徒はメイド様と剣士様!  近日、脳内絶賛公表中!







美姫 「これまた新しいというか、これとのクロスとはね」

あははっははっは〜。恐れ入ったか。

美姫 「いや、別に」

ぐっ。

美姫 「それよりも、SSの方はどうなっているのよ」

人生日々是良好。日々是快眠。

美姫 「いや、言っている意味は分からないけれど、言いたい事は分かったわ」

おお、さすがだな。

美姫 「まあ、要約すれば何も進んでいないのを誤魔化しているって事よね」

うわー、要約しすぎだよ、それ。

美姫 「でも、事実でしょう」

……その通りです。

美姫 「くすくす。久しぶりにお仕置きのフルコースっていうのも良いかもね」

あ、あははははは。我日々命危機。

美姫 「変な日本語を止めなさい」

はい!

美姫 「さて、それじゃあ後でたっぷりとね」

う、うぅぅぅ。ガクガク。

美姫 「さて、それじゃあ今週はこの辺にしておきましょうか」

ううぅぅぅ。皆さん、無事に来週も会えることを祈っていてください。

美姫 「人聞きの悪い。どうせ、明日にはぴんぴんしてるでしょうに」

いや、否定はしないが…。

美姫 「ともあれ、根主はここまで!」

それでは…。

美姫 「また来週ね〜♪」


9月1日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

フィーア 「はじめるわよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより宇宙からの電波と共に発信中!>



しかし、九月に入ってもまだ暑いとは。

美姫 「今日はまだましじゃない」

フィーア 「そうですよね。暑いのも少しはましになってきてますね」

それでも暑いんじゃぁぁぁ!

美姫 「おお、響け魂のソウル!?」

フィーア 「叫ぶのにそんなに力を入れてたら、逆に余計に暑くなるんじゃ…」

ぬおおぉぉっ! ぬかったわ!
最早、我が命運もここまでか……。
全国統一……、所詮は見果てぬ夢よ。

美姫 「しっかりしてください、御主人様」

美姫か。今までよくぞ仕えてくれた。ご苦労であった。
最早、わしもここまで。わし亡き後、お前は自由に生きるが良い。
お前を縛るものなど何もないのだからな……。

美姫 「なにを気弱な事を仰っているんですか、御主人様!
    あの日、私に語った夢は、夢はどうなさるのですか! 御主人様じゃなければ…」

夢か……。懐かしい思い出だ。

美姫 「そんな事を仰らないで下さい。
    あの全国支配後、全ての女性にメイド服着用を命じるという夢を叶えるのではないのですかっ!」

……時代がそれを求めなかったという事だ。
悔いはないとは言えん。じゃが、わしはここ…まで……。

美姫 「あ、ああ…。そんな…。御主人様、目を、目を開けてください!」

…………。

フィーア 「あ、あのー。お姉さま、浩さん?」

はっ! つ、つい力いっぱい叫んだあまり、頭の回路がショートしてしまったようだ。

美姫 「いやー、付き合うのも疲れるわね」

いや、かなりノリノリだったような気もするが…。

美姫 「フィーアをほったらかしたままだったわね」

フィーア 「いえ、私の勉強不足でした!
      次があれば、今度は!」

美姫 「いい心がけよ」

って、勝手にそんな事をさせるなよ。
アハトさんに悪いだろう。

美姫 「浩、よく考えてみなさい。何も知らない真っ白な心のフィーアに、色々と仕込むのよ」

……つまり、自分色に染め上げる。

フィーア 「あのー、本人の目の前でそうはっきり言われても。
      あ、でも、お姉さまになら染められても……きゃっ」

美姫 「フィーア?」

フィーア 「そ、そんな駄目です。でも、お姉さまが仰るのでしたら。
      私はお姉さまの人形♪ ふふふ、可愛いわよ、フィーア。
      ああ、お姉さま。あら、いけない子ね。タイが曲がっているわよ。
      あ、ありがとうございます。ふふ、気を付けなければ駄目よ。
      はい。あ、お姉さま、今度の日曜日なんですが……。
      それで、二人はデートの約束を取り付けて…」

…お、おーい。
ひょっとして、俺たちが仕込まなくても充分なんじゃ…。

美姫 「そ、そのようね…。というよりも、ここに来るようになって、アンタの所為でって可能性も」

って、俺は病原菌かよ!

フィーア 「とまあ、冗談はこのぐらいで」

って、冗談かよ!

美姫 「当たりまえでしょう。フィーアはいい子なんだから。ね」

フィーア 「はーい。その証拠に、今日も素敵なプレゼントを持ってきました〜」

おお、これはっ!?

美姫 「アハトさんが最後の力を振り絞って書いたものね!」

いや、単に病み上がりだっただけだし。
って、その状態のアハトさんに書かせたのか!

フィーア 「大丈夫だって」

ほ、本当に大丈夫だったのか?

フィーア 「うん。今ごろは寝てるはずだよ」

全然、大丈夫じゃねー!

フィーア 「何かね、無理矢理書かせたら、書き終えると同時に寝たの」

いや、それは絶対に寝たんじゃない。

美姫 「何か言ってた?」

フィーア 「うーん、っと。涙を流しながら、もうこれで勘弁してくださいって」

美姫 「おかしな寝言ね」

フィーア 「ですよね」

寝言じゃねぇー! って言うか、お前らなんて事を……。
ああ、アハトさん、大丈夫ですか! あぁぁ、これで風邪をこじらせたら…。

フィーア 「大丈夫だって」

なにが!?

フィーア 「お姉さま第一よ!」

うわぁ、全然大丈夫じゃねぇー。

美姫 「うんうん。やっぱりそうよね〜」

って、こっちはあっさりと納得してるし!

フィーア 「ともあれ、CMですよ、お姉さま」

うわぁ、最早アハトさんの容体は話題にするしないのね。

美姫 「うーん、今回はいつもとはちょっと違った感じでCMにいきましょう」

フィーア 「はい!」

うぅぅ。アハトさん、本当にお体には気を付けて下さい。
こいつらに、容赦や情けなんて言葉はありませんよ。
ああ、某有名な頭痛薬でも半分は優しさで出来ているというのに……。

フィーア 「お姉さま、大変です!」

美姫 「どうしたの、フィーア。そんなに慌ててはしたないわね」

フィーア 「あ、ごめんなさい。つい、早くお姉さまにお知らせしたくて」

美姫 「ふふふ。可愛い子ね。ほら、髪が乱れているわよ」

フィーア 「あ、ありがとうございます」

美姫 「それで、そんなに急いでまで私に知らせたかった事ってなに?」

フィーア 「あ、それです。な、何と、CMなんですよ、CM」

美姫 「CM? それがどうかしたの?」

フィーア 「はい! 何と私たちがCMになるんです」

美姫 「まあ、そうなの」

……いや、なってないからな。

フィーア 「それで、つい嬉しくて。
      これでお姉さまの素晴らしさをもっと多くの人に知ってもらえるんですよ」

美姫 「ふふ、本当にいい子ね。それはつまり、同時に貴女の可愛らしさをたくさんの人が知るってことね

フィーア 「そ、そんな…。可愛いだなんて」

む、虚しいよ。一人、取り残される僕…。

美姫 「でも、そうなるとフィーアをもう一人占めできなくなるわね」

フィーア 「そんな事はないです! 私の一番はいつまでもお姉さまだけです。
      それよりも、私はお姉さまの方が心配です!」

いや、美姫の本性をCMにしたら、誰も近づかないだろうから……ぶべらっ!

美姫 「ふふ。可愛い事を言ってくれるわね。
    それじゃあ、そのCMとやらを見てましょうか」

フィーア 「はい!」

ドナドナド〜ナ、ド〜〜ナ〜〜。私は無視されて〜(涙)

フィーア 「あ、でもやっぱりお姉さまを一人占めしたいので、違うCMを流しちゃいます!」

美姫 「あらあら、困った子ね」

いや、本当にやったら大問題だからな。







夏もほぼ終わり、学校は2学期へと突入した。
ここ、私立竜鳴館でも同じことで、今日から2学期の始まりだった。


「おい聞いたか、レオ」
「どうしたんだよ、フカヒレ」
朝、学校に来て教室でだべっているレオ達の所に、フカヒレがやってくる。
「なんでも今日から転校生が来るらしいぜ」
「なんだそりゃ、今更かよ」
フカヒレの言葉に、レオは言い返す。
「それも3年らしいぜ、何で今頃になってこんなやばい所に来たんだろな」
「確かに、3年になって態々ここにくるたぁ、果たしてどんなヤバイやつかね」
二人の親友、スバルもありえないといった風に言う。
「まぁ後で、見にいってみようぜ」
フカヒレの言葉に頷き、3人は始業式のある体育館へと移動した。



つつがなく始業式も終わり、レオ達は生徒会長の姫に呼ばれ、生徒会室……通称竜宮へやってきた。
「うぃーっす」
「ちぃーっす」
中に入ると、姫がよっぴーをはべらしながら寛いでいた。
テーブルの方には椰子も来ている。
「姫、今日は何でまた?」
レオ達も椅子に座り、姫に尋ねる。
「今日転入生が来たでしょ、館長から学校案内をしてやれっていわれてねー」
「館長が?」
姫の言葉に、レオたちは驚く。
「なんでも、古い知り合いの息子さんだから丁重に、だって。 何で私が男の案内なんてしないといけないのかしら」
「エリー、館長の言うことなんだから、ちゃんとしないと駄目だよぉ」
なだめるように、よっぴーが姫に言う。
「あれ、乙女さんは?」
部屋を見回して、風紀委員の鉄 乙女がいないことに気付いたスバルが尋ねる。
「乙女先輩? そういえばまだ来てなかったわね……」
姫がそう言うのと同時に、外から剣戟の音が響く。
「なっ、なんだっ!?」
皆は驚き、生徒会室を出る。
そこには……


「やるな、鉄」
「そっちこそ、また腕を上げたんじゃないのかっ」
一人の青年が、乙女と剣を交えていた。
青年の両手には二本の小太刀。
「乙女さんっ! 一体どうしたんだっ!!?」
その光景を見たレオが叫ぶ。
「レオっ、お前たちは危ないから下がっていろ!」
乙女がそう叫ぶと同時に、目の前から小太刀が襲い掛かる。
「はぁぁぁぁぁ!!」
それから、数合二人は剣を交える。
「万物、悉く斬り刻め……地獄蝶々っ!!!」
抜刀からの一撃が、青年に襲い掛かる。
「御神流 奥義之壱 虎切っ!」
青年も、一瞬にして小太刀を鞘に戻し、それを再び抜刀する。
二人の剣が、空中でぶつかり合う。
「……ふぅ」
「……ふっ」
そして、お互いは剣を鞘に戻す。
「以前剣を交えた時より数段強くなったな、鉄」
「あぁ、お前のほうこそ」
そう言いあい、二人は笑う。
「おっ、乙女さん!」
そんな二人に、レオたちが駆け寄る。
「おぉ、レオ。 すまなかったな、時間をとらせた」
「いや、別に構わないけど……そっちの人は?」
乙女の隣に立つ青年を見ながら、レオは尋ねる。
他の人達も、皆かなり気になっている様子である。
「あぁ、こいつは今日転校してきた私の古い友人の、高町 恭也だ」
「高町 恭也です、よろしく」
そう言って、恭也はレオに手を差し出す。
「よっ、よろしく……」
そう言って、レオは恭也の手を握り返す。
(うわっ、すげぇ掌だな……)
握った時に感じたマメなどの感覚に、レオはそう思う。
「ところで鉄、友人ではないだろう?」
意地の悪い顔をしながら、恭也は乙女に言う。
「むっ、そうだったな……訂正しよう」
少々顔を赤くして、乙女が次にはなった言葉は衝撃的なものだった。
「こいつは私の古い友人でもあるが、私の許婚だ」
その瞬間、この世界は確実に止まった……




突然竜鳴館に転校してきた青年、高町 恭也はあの鉄 乙女の許婚だった。
恭也の存在により巻き起こされる面白可笑しな日常。
笑いもあれば、スポコンもあり?
とらきす 〜Triangel Heart〜

いつかしたら公開







美姫 「という訳で、少しいつもと違う感じでCMに言ってみたんだけれど…」

フィーア 「所々で、変な声があって失敗ですね」

いや、変な声ってあーた。

美姫 「嫌だわ、心霊現象かしら」

フィーア 「お姉さま、怖い!」

美姫 「よしよし」

いや、幽霊よりもお前らの方が怖いよ。

フィーア 「うるさいわよ」

がっ!

フィーア 「ったく、何で邪魔するかな」

じゃ、邪魔なんかしてないっての。

美姫 「まあ、それはそれとして」

いや、置いておくなよ…。

美姫 「SSの方はどうなのよ」

……絶賛、停滞中!

美姫 「威張って言うことじゃないでしょうっ!」

ぶべらばっぼ〜〜ん!!

フィーア 「あ、飛んだ。…………落ちた」

ぐぅっ。こ、これが重力か。

美姫 「馬鹿な事言ってないで、さっさと書きなさいよね」

うぅぅ、すまん。

美姫 「とりあえず、CMいってみよ〜」

フィーア 「CM、それは一時の安らぎ」

いや、色々と違うから。







「いやー、正に夢のようだよ。はっ! もしかして、夢なのかも。
 現実の俺は、未有ちゃんとデートの途中とか!?」

「フカヒレ、うるさいぞ。それと、お前の場合はゲームでデートだろうが!」

生徒会室で叫ぶフカヒレに、容赦ないきぬの言葉が突き刺さる。

「そんな事言ったって、仕方ないじゃないか。この状況を見ろよ。
 姫によっぴー、それに乙女先輩と美女だらけのこの状況を。まさにハーレムだぞ。
 一瞬、夢と思ったとしても仕方あるまい」

「そこに加えて、この美少女のボクがいるんだもんね」

「いや、バカはそれ以上でも以下でもないからな」

「んだとぉ! フカヒレの分際で!」

「フカヒレの分際ってなんだよ! 全国のフカヒレさんに謝れ!」

「んな名前ねぇよ!」

「絶対か、絶対にないか!」

「はーい、そこの二人漫才はいい加減やめにしてくれないかな?」

いつまでも終わりそうもない二人の言い争いを、姫こと霧夜エリカが止める。
二人が納まったのを見て、エリカは話を再会する。

「こうして対馬くんたちに生徒会に入ってもらった訳だけど、まだ役員が一人足りないのよね」

会長を務める姫、書記の佐藤良美、そして副会長の鉄乙女。
この三人だけで運営してきた生徒会だが、ここに来て新たな人員が加わった。
副会長に恭也、会計にレオ、書記にスバル、会計監査にきぬと新一である。
だが、本来は会計がもう一人いるのである。
そこでエリカはレオたちにもう一人を見つけてくるようにと話をしたのである。

「見つけてくるって言ってもなー。そう都合よく能力があって入ってくれる人物なんているのか…」

「対馬くん、違う違う。私が見つけて来いって言ってるの。分かる?
 もう確定なのよ」

「さいですか…」

流石に姫と言われるだけの事はあると思いつつ、レオは大人しく従う。
そこへ、エリカは更なる注文をつける。

「出来れば一年生が良いわね。殆どの二年生や三年生の乳は揉んだし。
 新たに開拓しないとね。もちろん、巨乳よ。それと、見た目も結構大事よ。
 そこに能力があれば言うことなしだけど、そこまで我侭は言わないわ」

「普通は能力が先なのでは?」

「無駄だ、高町。姫にそのような常識が通じると思うか」

乙女の言葉に恭也は簡単に納得する。

「とりあえず、一年生の名簿があれば見せてもらえるかな佐藤さん」

「うん、ちょっと待ってね対馬くん」

レオの言葉に良美は席を立つと棚の中から一冊の名簿を取り出す。
受け取って中を覗き、レオは思わず言葉を飲む。
横から覗き込んだスバルも思わず声を洩らす。

「こいつは凄いな。名前に所属する部活や委員。住所まであるぞ」

「とりあえず、これでどうする?」

メンバー集めをするために動き出したレオたちを見て、エリカたちも自分の仕事へと戻って行く。
特にアイデアも出ないまま名簿とにらめっこして数分。
新一が不意に指を刺す。

「この子なんてどうだ。香なんて如何にも可愛らしい名前じゃないか。
 きっと、名前のとおり芳しい香がするんだろうな〜。間違いなく美人だ」

「いや、名前だけで判断するのかよ」

「美人だろうが違うかろうが、まずフカヒレなんかは相手にされないね」

呆れたように呟くスバルに対し、カニが馬鹿にしたように言う。

「名前だけでここまで妄想できるのも凄いと思うがな」

ある意味感心する恭也に、レオは苦笑する。

「よし! この子を探し出そう。帰宅部だからな。すぐに行動しないと帰っちまう
 あ、最初は俺が声を掛けるから、お前らは隠れていてくれよ。俺の華麗な話術でいちころだぜ」

「悪い、俺は部活だ」

「ああ、行って来い」

「ほんと悪いな」

スバルが抜けるのを見て、新一はその背中を見送る。

「スバルが居なくても、まだ恭也がいる!」

「お前、自分で声掛けるなんて言っておきながら、スバルや恭也を利用する気だったのか」

「うっ、ち、違うぞ」

「動揺してるぞ」

「まあまあ、レオ。こいつはお前以上にヘタレなんだから仕方ないって」

「ヘタレって言うな! 恭也、お前は違うと言ってくれるよな!」

「ああ、分かったから、やるならさっさとしよう。行くぞ、レオ、カニ、ヘタヒレ」

「……い、今、ヘタヒレって言ったよね、ね」

「聞き間違いだろう、フカヒレ」

「嘘だー!」

叫ぶ新一の前に立ち、恭也は真面目な顔をする。

「これが嘘を言っている顔か」

「うっ、そう言われると…。でも、恭也はすぐに真顔で嘘を言うし…」

「ほら、恭也もフカヒレをからかってないで行こうぜ」

「そうだな」

「ちょっと待て! からかうってなんだよ!
 やっぱり、言ったのか!? なあ、なあ」

「「「うるさい、さっさと行くぞ、ヘタヒレ」」」

「う、うわぁぁーーん、皆して馬鹿にしやがってー!」

「馬鹿にじゃなくて、ヘタレ扱いしたんだがな」

カニの言葉に新一はとうとう膝を着く。

「へっ、へへへ。拝啓、おかーさま、お元気ですか。
 僕はもう駄目です。皆がヘタレって言うんです」

「いや、事実だし」

「と言うか、本当にさっさと行くぞ、フカヒレ」

カニの突込みを押さえ込み、恭也が声を掛ける。
顔を上げた新一に、レオが後ろを指差しながら続ける。

「いい加減にしておかないと、姫の雷が落ちる」

「ああー、同じ罵倒されるのなら、カニよりも姫の方がいい〜」

「うわっ、こいつマジだ。どうしよう、レオ、恭也」

「ああ〜、早く、はやく〜〜」

「あのね、あなたたち。いい加減にさっさと行動して欲しいんだけど?」

エリカのガン飛ばしに新一は過去の姉によるトラウマが掘り起こされて震え出す。
溜め息を吐き出すと、恭也はその襟首を掴んで引き摺って行くのだった。
レオたちが出て行った後、エリカは一つ溜め息を吐き出す。

「チームワークは凄いんだけど、すぐに漫才になるのは問題よね。
 まあ、見ている分には楽しくて良いんだけど。それにしても、対馬くんたちが居たとは。
 まさに盲点だったわね。流石は乙女先輩ね」

「いや、推薦しておいて何だが、こうも簡単に姫が承認するとは思わなかった」

「だって、対馬くんってからかうと面白いし?」

「あ、あはははは」

エリカの言葉に良美はただ苦笑するしかなかった。
一方、生徒会室で話題になっているとも知らず、レオたちは残る一人を探すべく行動を開始する。
こうして、レオたちによる生徒会メンバーの確保活動が幕を開けるのだった。

つよきすハート







はっ。つい、アハトさんのCMが面白くて、前にやったネタをまたやってしまった!

美姫 「微妙に続きっぽいところがミソね」

フィーア 「まあ、使い回しじゃないから良いんじゃないですか」

美姫 「確かにね。さて、それじゃあ、私たちはこの後お茶でもしましょう」

フィーア 「はーい」

えっと、俺は…。

美姫 「勿論、SSを書くのよ」

や、やっぱり。

フィーア 「それじゃあ、今日はここまでですね」

美姫 「ええ、そうね」

それじゃあ…。

美姫&フィーア 「また来週〜」










          



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