2007年3月〜4月

4月27日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、奇声を発しながらお送り中!>



くけけけぇぇぇぇっ!

美姫 「いきなり何を」

いや、何となく?

美姫 「そこで疑問形を取られてもね」

まあ、冗談はこれぐらいにして。

美姫 「あ、冗談だったんだ。てっきりいつもの日課かと」

いつ、どこで、誰が、あんな事をした。

美姫 「毎日、外で、浩が、奇声を上げた」

あげとらん!

美姫 「自覚症状がないのね」

いや、そんな可哀想な目でみるなよ。
というか、本当にしてないっての。

美姫 「そうね、してない、してないわよ。黙っていてあげるのも優しさよね」

もの凄く気になる言い方の上に、最後の言葉が聞き逃せないんですけれど!
ま、まさか、本当にあげてるの?

美姫 「ウウン、アゲテナイヨ」

めっちゃ棒読みだし!
う、うぅぅ、まさか自覚ないままにそんな事をしてたなんて……。

美姫 「さぁ〜て、本当に冗談はこれぐらいにして…」

くけぇぇぇぇぇっ!

美姫 「…今度はなに?」

いや、自覚せずにやってたのなら、自覚してやりながら、徐々に回数を減らしていけば、その内。

美姫 「……ふっ」

あ、憐れんだ目で見られた後、鼻で笑われたよ。
う、うぅぅぅ。

美姫 「冗談って言ったのに聞いてなかったの?」

俺に気を使ってくれてるんだろう、良いんだよ、美姫。

美姫 「信じられないのは、それはそれでむかつくわね」

奇声を発しながら、変な踊りでも踊ってるから一人で進めてくれ…。

美姫 「いや、その落ち込み方も分からないから! 踊る必要はどこに!?」

くけくけくけぇぇっ!

美姫 「って、いい加減にしなさい!」

ぶべらっ!

美姫 「大体よく考えなさいよね。私がアンタに気を使うと思う?」

おお、思わないぞ! という事は本当に冗談だったのか。
って、美姫騙したな! よくも、今日という今日は……ぶげろばみょにょ〜〜んっ!

美姫 「今の納得のされ方はされ方でむかつくわ」

う、うぅぅ。これもお前の信用が厚いって事じゃないか…。

美姫 「その信用される内容が気に入らないのよ!」

ぶべらっ!
そんな勝手な……。

美姫 「ふんっ!」

ぐげっ! お、おまっ、人の頭を踏むな! って、ああ、やめて、やめてぇぇ〜〜。
グリグリは、そこからグリグリだけは〜〜!! みゅぎょぉぉぉぉぉぉっ!

美姫 「地べたに這いつくばってなさい、この雑魚が!」

な、何故、格ゲーの勝ち台詞ごときポーズを取りますか。
まだ負けとらんとです。

美姫 「いつになくしつこいわね」

流石の俺もこれだけ毎日、毎日、毎日……う、うぅぅ。な、泣かない、泣かないもんね!
兎に角、毎日やられていればレベルアップもする!
喰らえ、我が奥義! ジャンピング〜〜〜〜〜、土下座!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

美姫 「……はぁぁ。そんな事だと思ったわ」

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
隙あり!

美姫 「やっぱりね〜」

あ、あれれ〜? 何で、俺の攻撃は受け止められているのでしょうか?

美姫 「幾ら隙を付いてもね〜。アンタ、動き遅すぎ」

おおう! そんな簡単明瞭な弱点が!

美姫 「さ〜〜て、言う事はそれだけでOK? 祈りはすんだ? 覚悟は決まった?
    吹き飛ぶ台詞は考えた?」

あ、あはははは〜。さ、流石は美姫様。いや、もうお力を試そうとした私めが浅はかで……。

美姫 「それじゃあ、そろそろ行ってみようか?」

あはあはあは。弁解の余地は……。

美姫 「あると思う?」

思いません。

美姫 「流石ね。よく分かってるじゃない」

あ、あははは。その辺の信用は嫌というほど身に染みてますますから。

美姫 「うん、いい心がけよ犬」

い、犬ですかっ!

美姫 「何か文句でも? アンタと同じ扱いにされて、犬には可哀想だけれどね」

そ、そこまで言いますか……。

美姫 「それじゃあ、今度こそ本当に……」

ああ、天井がスライドして開いていくよ。
毎度、毎度、吹き飛ばされる度に穴を開けていたら、修復が大変だもんな〜。
って、そんな所に力をいれないで、美姫を止めてよ!

美姫 「吹っ飛べぇぇぇっ!」

どぐらぼっしゃりゅぎゅわぁぁぁぁっ!
昔、パンはパンでも食べれないパンは?
答えはフライパン、なんていうなぞなぞがあったけれど、腐ったパンも正解だよね〜〜〜〜!

美姫 「さーて、それじゃあいつものように、あの馬鹿が落ちてくるまでCMにいってみよ〜」







深夜の鍛錬の帰り道、恭也と美由希は何故かいつもとは違う道を通り帰っていた。
特に何かあったという訳ではなく、二人揃って何となくとしか言い様のない、そんな気分だったのだ。
近隣の市では通り魔事件などが起こり、連日ニュースで取り上げられている事も知っているし、
対岸の火事というような気持ちを持つほど、恭也たちは日常を過信してはいない。
ましてや、自分たちなら大丈夫であるなどとは考えてさえもいなかった。
なのにも関わらずである。
ひょっとすれば、何かの予感があったのかもしれない。
または、何かに呼ばれたのかも。力ある者は、同じく力持つ者に引かれる。
そんな言葉が示すように、二人は人通りのない、けれども住宅街のど真ん中でその人物と出会った、
欠けたる月をバックに、ただ静かに立つ着物姿の女。
その足元には、切り裂かれたばかりの元人であった物言わぬ亡骸。
まだ乾ききっていない血がアスファルトに流れ、
まだ新たな血で更に赤く染めあげようとするかのように、横たわった亡骸からは今も尚赤い液体が流れ出る。
女はただ無表情にそれを眺めていたかと思うと、恭也たちへと視線を移す。
まだ時間が経っていないと思われる遺体と、その傍に平然と立つ女。
この二つを結びつけるのにそう時間は掛からず、その結論を出したとしても仕方のない事ではある。
美由希は顔を青くしつつもその切り口の滑らかさに思わず息を飲む。
例え刃物を上手く使ったとしても、もう少し傷口には斬った痕、
反発するかのように抵抗した痕というものが出来る。
だが、その斬り口にはまったくそれが見受けられなかったのである。
どれほどの達人でも無理だろうと思わせるほどの綺麗な切口。
慎重に女へと視線をはわし、女の懐に小さなナイフのようなものがあるのに気付く。
だが、それ以外に武器らしきものは見受けられない。
ナイフ程度の刃物でこのような切り傷をつけれるものか。
また、遺体はあちこちが切り刻まれている。
短時間でナイフ一本のみでそれを成したとすれば、それこそとてつもない技量。
いや、不可能だ。普通ならば。
こちらを探るような不躾な視線を受けつつも、女は顔色一つ変える事無く平然と立ち、美由希へと顔を向ける。
そこには悲しみも怒りも本当に何も浮かんでおらず、美由希は思わず飛び掛ってしまう。
後ろで恭也の止める声が聞こえたような気もしたが、今の美由希には届かない。
ただ、目の前の殺人犯を捕らえる事しか考えられない。
何の感慨もなく、人を、命ある生き物を玩具のように分解する狂った殺人者。
それが美由希の出した答えである。
自分へと向かってくる美由希を見て、女は懐に手を伸ばしてナイフを取り出す。
同様に美由希も小太刀を抜き放ち、女へと振るう。
思ったよりも早い美由希の剣速に女は一旦後ろへと下がる。
それを追うように地面を蹴る美由希。
追撃してくる美由希を仕方なさそうに見遣りつつ、女は小さく零す。

「先に仕掛けてきたのはそっちだからな…」

遅いくる美由希の小太刀に合わせるように、女が手のナイフを振り、
瞬間、恭也は女の目の色が変化したように見えた。
実際にはそんな事はなく、ただ光の反射でそう見えただけなのかもしれない。
だが、嫌な予感を感じ取り、そんな事を考える暇もなく恭也は美由希の元へと走り出す。
勘を信じて迷わずに動く。普通ならば、そう簡単に出来るような事ではない。
だが、恭也はその直感に従い手足を動かす。
美由希の小太刀と女のナイフが合わさり甲高い音を立て……る事無く、
女のナイフはまるでそこには何もなかったと言わんばかりに美由希の小太刀を紙のように切り裂き、
そのまま美由希の脇腹へと突き立てようとして、ここでようやく甲高い音がする。
神速から抜け出した恭也は、今の現象を信じられないように見遣る。
だが、すぐに呆然となっている美由希の腰を抱いて女との距離を取る。
美由希は未だに呆然と根元から綺麗に折れた自身の小太刀を見ている。

「美由希!」

恭也の大声が耳元で響き、ようやく美由希は我に返る。

「なに、今の…。まるで手応えがなかった」

横で見ていただけの恭也であったが、美由希の言葉に小さく頷く。
神速の中で見た女の動きには可笑しな所など何もなかった。
本当に最初からの狙いどおりとばかりに、真っ直ぐに美由希の小太刀の根元へとナイフが振られ、
接触した瞬間に何もないようにそのまますっと、本当に軽く突き抜けていったのだ。
確かに、相手の武器を折れないかと言われれば決して出来ないとは言えないだろう。
だが、金属をあたかも紙のように、いや、まるで液体の中を通すかのようにして折れるかと言われれば。
それは恭也たちの反応を見れば分かる。
美由希は女を警戒するように見詰める。今のならば、倒れている遺体の斬り傷も納得がいくとばかりに。
だが、逆に恭也は小太刀を仕舞う。
慌てる美由希を抑えるようにして手で制し、恭也は目の前の女をじっと見詰める。
女も美由希ではなく恭也を敵として見たのか、それとも違う理由からか、恭也へと視線を合わせる。
暫し無言で向かい合う二人。やがて、恭也が小さく頭を下げる。

「どうやら、こちらの早とちりだったようで」

「気にするな。オレの用件は済んだ」

全く気にしていないというように背を向けて立ち去ろうとする女へと美由希が声を掛ける。
いや、恭也の言葉の意味が分からず、恭也へと問いかけたのか。

「どうして。犯人はあの人じゃ…」

「違う。持っている武器はあのナイフ一本。それは間違いない。
 そして、あのナイフは人を殺した後にしては綺麗すぎる」

恭也に指摘され、改めて美由希もそれに気付く。
気付いて気まずそうに女を見て、ゆっくりと頭を下げて謝る。

「謝罪ならさっき貰った。それよりも、お前たちもさっさと帰るんだな」

「待ってくれ。貴女はひょっとしてこの事件の犯人を知っているんじゃないのか?
 だから、こうして現場に現れた」

女は振り返り、恭也へと再び視線を合わせると小さく舌打ちする。

「どっかの馬鹿と似たような目だ。答えるまで帰してもらえそうもないな。
 …知らん。犯人が誰かなんてな。ただ、この事件に少し興味があっただけだ」

無言で見詰め合う恭也と女に、美由希は口を挟む事も出来ずにただ立ち尽くす。
やがて、恭也はその言葉から何を読み取ったのか、小さく嘆息する。

「そうですか。分かりました。なら、警察にはこちらで連絡をしておきます」

それに対する返答はただ無言で、女は今度こそ立ち去ろうとする。
そこへ恭也は今度は好奇心で思わず尋ねてる。

「最後に、言いたくなければ構わないのですが、美由希の小太刀を折ったあれは、あれは何なんですか」

「……別に大した事ではない。という返答では満足しないのだろうな。
 残念ながらお前らが期待しているような剣術の技とかではないな。
 あれはオレだからこそ、オレにしか出来ない事だ。ありとあらゆるモノを殺す線が見えると言ったら信じるか?」

どこか不敵にも取れる笑みを浮かべ、女はただ静かにそう返す。
意味が分からずに眉を寄せる恭也へと、女は目を若干だけ細める。

「生きているのなら、神様だって殺してみせる。
 それが、オレの力だ」

何故、ここまで語ったのか。
女自身も後になって不思議に思った事ではあったが、そう告げると今度こそ恭也たちに背を向ける。
歩き出した女へと、恭也はもう一度だけ声を掛ける。
何か聞きたい事が、言いたい事があったという訳ではない。
ただ、本当に何となくである。さっきの言葉の意味が理解できず、その説明を求めたのかもしれない。
だが、女があれ以上は語る事はないとも分かっていながら。
呼び止めておいて何も語らない恭也を不審に見遣りつつ、肩越しに振り返った女は再び前を向こうとして、

「貴女の名前は…」

「……変わった奴だな」

今更ということなのか、それともあんな現場に出くわしておきながらという意味なのか。
はたまた、もう会うこともないというのにという意味だったのか。
どうとでも取れるような口調と共に、女は顔を前へと向けて闇の中へと歩き出す。
その姿が小さくなる前に、不意に恭也の耳に女の声が届く。
本当に小さく、呟くような声で聞こえたのが不思議なぐらいであったが、恭也の耳はしっかりとそれを捉える。

「…両義式」

美由希がリスティへと謝りながら電話をする中、恭也は静かにその名を呟く。
何となく予感めいたものをまだ胸の中に燻らせたままに。



空と海の交わる世界 プロローグ 月夜の殺人鬼







みょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜。
ドガラグッシャッ、ゲブミ……。

美姫 「おかえり♪」

た、ただいま……。

美姫 「それじゃあ、重要なお知らせの発表〜」

いや、少しは休ませて…。

美姫 「CMの間に休んだじゃない」

いやいやいや!

美姫 「つべこべ言わずに素直に続けるのと、もう一度お空の旅と。どっちが好き?」

さて、お知らせの件ですが(涙)

美姫 「そんな嬉し涙を流さなくても♪」

う、うぅぅ、泣いてない、泣いてないもんね!

美姫 「はいはい、そんなギャクは良いからね。ふざけてないでさっさとやる! これ正論」

いや、どっちがだよ! って突っ込んで良いか?

美姫 「却下。ほら、早く言いなさいよ」

グシュ、グシュ。えっと、来週の更新は、なしよ♪

美姫 「もっとちゃんと言いなさい!」

ぶべらっ!
う、うぅぅ。来週は一切の更新が出来なくなります。
投稿はして頂いても構いません、寧ろしてください。

美姫 「図々しいわね」

今更だな〜。

美姫 「いや、威張れないからね!」

ともあれ、アップとかは全て再来週に。

美姫 「ちょっ! じゃあ、来週は休みなの、ハートフルも」

だから、来週一週間は。

美姫 「却下、金曜だけでも何とかしなさい」

そ、そんなぁぁ〜。う、うぅぅ。

美姫 「お・ね・が・い♪」

ど、努力する。

美姫 「なら、アップは来週の金曜か土曜にはできるわね」

おいおいおいおーーい!

美姫 「そんな訳で、来週は更新が止まってしまいます」

うっ。いや、何とかしてみるよ……。はぁ〜。

美姫 「更新も掲示板への返答もないからって、閉鎖したのかと思わないでね♪」

いやいや、そこまで長い間更新しない訳じゃないぞ。

美姫 「アンタの事だから、一年間ぐらい放置しそうだもん」

お前……。

美姫 「あ、本気で怒った?」

それ、良いな〜。

美姫 「ぶっ飛べ、この馬鹿!」

ぶべらっ!

美姫 「冗談はこれぐらいにして」

お、俺は冗談ですんでないんだが……。

美姫 「次の更新まで一週間とご迷惑を、主にというか浩がお掛けしますが…」

あくまでも俺一人のせいなのな。

美姫 「違うの?」

いや、そう聞かれるとはっきりと否定できない……かも?

美姫 「ともあれ、この馬鹿がネットできない状況になる所為で更新できません。
    本当に馬鹿の分際で生意気よね。大体、馬鹿一人の都合じゃない。あ、Kも関係してるんだったかしら。
    ともあれ、皆、馬鹿が悪いんです。私は悪くないのよ。本当に馬鹿のくせに、この馬鹿が」

おーい、言葉に容赦がなくなってる上に、固有名詞が変わってしまってるよ?

美姫 「何よ、馬鹿」

うっ、さ、流石に泣くぞ。

美姫 「あー、はいはい。大変、お見苦しいところを主に浩がお見せしました」

って、またかい!
また俺のせいか!

美姫 「このHPに来てくださっている方、投稿してくださっている方にはご迷惑をお掛けします」

ともあれ、来週には頑張りますので。正確には、頑張らされる……。
でも、本当に更新できるかな……。

美姫 「根性よ、根性♪」

我が辞書に根性という文字はない。

美姫 「他にも色々とないわよね。知性とか品性とか、って言うか、ある文字の方が少なさそうよね」

ひどっ!

美姫 「あ、その代わりに妄想という文字でいっぱいになってるかもね」

お、おまえ、そこまで言うか……。

美姫 「って、大切なお知らせの件が変な感じになっちゃったじゃない」

ぶべらっ!
俺の所為かよ! また俺なのかよ!

美姫 「でも、用件は伝わってると思うし、OKよね」

良いのかよ! って事は、俺は殴られ損!?

美姫 「あ、そろそろ時間だ〜」

聞けよっ! 今回、いつにも増して扱いが酷くないか!?

美姫 「気のせいよ♪」

いやいや、そんな事はないだろう。

美姫 「気のせいだったら、この後メイドさんが待ってるのに?」

いやー、気のせいだよな〜。

美姫 「そうそう。それじゃあ、今週はこの辺にしておきましょうか」

だな。そろそろ良い時間だし。

美姫 「それじゃあ、また来週ね〜」

可能な限り努力はするが、保証はしません。

美姫 「しなさいよね!」

ぶべらっ!

美姫 「という訳で、来週にまた〜」

う、うぅぅ。また来週に。ではでは。


4月20日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、眠気眼を擦りながらお届け中!>



いきなりだが、今回は何と…。

美姫 「ゲストが登場〜」

しかも、初登場となれば嫌が上にも期待が高まる!

美姫 「そんな訳で早速登場していただきましょう」

どうぞ〜。

?? 「ボク、ブリジット・クローウェルというです」

という訳で、アインさんの所から来てくださりました。

ブリジット 「初めましてです」

ジーン。

美姫 「いや、ただの挨拶で感動しないでよ」

だって考えても見ろ。長いと言うほどでもないが、それなりに続けてきたこのコーナー。
こうまで俺に対して無害なゲストが……ぶべらっ!

美姫 「他の方々に失礼になるような事は言わないでよね」

う、ううぅぅ、殴られないという喜びを噛み締めていただけなのに…。

ブリジット 「え、えっと、大丈夫ですか」

見ろ、この優しさを。

美姫 「因みに、そいつに触れると意中の人と結ばれず、作中で不幸になるという言い伝えが…」

ああ、何で遠ざかるんだぁぁ。

ブリジット 「え、えっと、ほらイチと……です」

う、うぅぅぅ。美姫、お前そこまでして俺を苛めたいのか。

美姫 「うん♪」

ああ、そんなとびっきりの笑顔で残酷な。

美姫 「ブリジット、さっきの冗談だから」

ブリジット 「そうだったですか。すみませんです」

うぅぅ、いいんだよ慣れてるから。寧ろ、美姫がこんなに早く前言を撤回した事に驚きを…。

ブリジット 「それはいい事なのでしょうか」

触れないで!

ブリジット 「わ、分かったです。あ、それとここに来るならとお土産を持たされたです」

いつの間にやらお土産が恒例となりつつあるな。

美姫 「これぞ、私の人徳」

皆、美姫が怖いからな(ポツリ)

美姫 「私ってば、意外と耳が良いのよね♪」

意外って事もないと思うぞ。特に自分の悪口に関しては。

美姫 「うふふふふふ」

あははははは。

ブリジット 「こ、怖いです。で、でも、浩さんが珍しく美姫さんに対抗してるです」

あ、あは、あは、あはははは……うひゃひゃひゃひゃ。

ブリジット 「と思ったけれど、実際は既に虚ろな目でただ奇声を上げているだけです」

美姫 「ったく。結果が分かってるくせに懲りないというか、学習しないわよね」

失礼な。するが、それが次にいかされないだけだ。

ブリジット 「それを学習しないっていうです」

そうだったのかっ!!

美姫 「そんな、天動説を信じていたけれど、本当は地動説だったみたいな驚き方されても」

ブリジット 「よく分からない例えです」

美姫 「かもね。適当に言っただけだし」

まあ、冗談はそれぐらいにして…。

美姫 「そうね。お土産の方を頂こうかしら」

ブリジット 「はいです」

おみやげ〜♪

美姫 「それじゃあ、早速…」

ブリジット 「CMです」







「違うもんっ! お兄ぃちゃんは絶対に生きてるもんっ!!!!」

取り乱して叫ぶ美咲の前に座っているのは彼女の父親と祖父。
涙を流して訴える美咲を前に、二人とも本当に辛そうな表情で語りかける。

「…落ち着くんだ美咲。私達だってそう信じていたさ。いや、今でも信じている。しかし……」

「……そうじゃよ。確かに船の乗組員の人が確認してくれたんじゃ。行人は確かに船に乗って……」

美咲の兄、東方院行人が家を出てからもうそろそろ二月が経とうかという頃になった。
行人が家を出てすぐに彼が船に乗り、そして航海中に行方不明になったことは当然家族に真っ先に知らされた。
それを聞いて以来行人の母親は体調を崩して床に伏せている。
嵐の中を航海中だったその船に乗っていた乗客の証言から、
どうやら揺れの拍子に振り落とされてしまったらしい事が分かると、
その船の乗組員や元の会社の人間などは皆必死に行人の痕跡を探してくれた。
しかし嵐の中を航海中だったためその時の海は大荒れ。
誰も明言はしなかったが、本当に海に落ちたのだとしたら行人が助かっている可能性などゼロに等しかった。

「で、でもっ! お兄ぃちゃんは私との約束破ったことないもんっ!
 絶対にっ! 絶対に帰ってきて私の誕生日……お祝いしてくれるもん……」

次第に小さくなっていく美咲の声が、本当は可能性が低い、でも信じたいという彼女の気持ちを如実に表している。

「しかしな、いつまでもそう言っておったらアイツが乗った船の会社の方々にもご迷惑がかかるんじゃ」

「…分かってくれ、美咲。もうこれ以上は…」

「分からないよっ! なんでっ?! なんで皆お兄ぃちゃんはもう帰ってこないほうがいいみたいにっ…」

「やめんか美咲!」

再び興奮してまくし立てる美咲に、祖父が一喝する。
驚いた美咲の視線に入ってきたのは何かに必死で絶えているといった表情の自分の父親の、
今までに見たことがないほど憔悴しきった表情だった。
それもそうだろう。行人が突然の家出に踏み切ったそもそもの原因は父である彼にあったのだから。
初めの子供、しかも男の子だということもあって彼は行人にそれはもう尋常でないほどの期待を抱いていた。
叩けば叩くほど起き上がり、強くなる我が子は彼にとって密かな自慢だったのだ。
しかし押さえつけ、それに反発させることで強く育てようというやり方は、
性格的にはこれ以上ないほど行人向きではあったが、しかしまだ十台前半の少年にとっては重く、
辛くいものでもあり、そして何よりそれに答え続けられるほどの精神的な強さなど持ち合わせているはずもなかった。
もう少し自分が気長に行人の成長を見守れていたら。
もう少し行人本人の気持ちも考えてやれていたら。
父親としての彼の後悔の念は、その場の他の誰よりも重かった。
そんな自分の父親を見て美咲は、少し冷静になる。悲しいのは自分だけではない。
むしろ原因を作ってしまった父は自分以上に辛いだろう。
そう考え直した美咲は、しかしそれでも信じていた。行人は絶対に生きている、と。
そして彼女は一つの決意をする。



翌日、彼女は隣町、海鳴市のとある喫茶店にやってきた。目的は人に会うため。
その人は今年高校を卒業したばかりの男。
東方院の家とは古くからの付き合いがあり、父が認め、兄である行人が兄と呼称し尊敬した、
美咲にとっても頼れる…、

「恭也お兄ぃちゃん! 助けてほしいのっ!」

「ん? 美咲か。どうしたんだ? ……いや、そうではないな。俺は何をすればいい?」

行人が行方不明であることから船から落ちたらしいということまですべての事情を知っている恭也は、
それでも美咲の必死の訴えをきちんと聞いていた唯一の人間だった。
そして今回もまた、恭也は突然何の連絡もなく訪れ事情の説明もなく助けを求めた美咲にただ手を差し伸べる。

「…………あれ?」

しばらく立ち尽くしていた美咲は、自分が涙を流していることに気付いた。
気遣い、哀れみ、悲しみ。
そういった視線は行人がいなくなってから何度となく受けてきたし、
そういった人たちは皆、どうにかして美咲を諭そうとしてきた。
そんな人たちに対する度、口には出さずとも心の中で反発し続けてきた美咲。
しかし目の前の恭也はそんなことすら些細な問題であるかのような優しい視線を向けてくれる。

「美咲、色々あったのだろうがとりあえず……」

その優しげな視線を回りに向けた恭也は、再び目を美咲に向けると今度は困ったように軽く頬を掻きながら、
空いた手で優しく頭を撫でる。

「話してくれなければどうしようもないぞ?」

そう言って頭を撫で続ける恭也の胸に、美咲は飛び込んでしばらく泣いた。
そして周囲の視線の痛い中何とか落ち着いた美咲から事情を聞いた恭也。

「そうか。美咲は行人が生きていると、そう思うのか」

「…うん。皆はもう……でも私は信じないよ。お兄ぃちゃんは絶対に私との約束破らないもん」

きちんと話を聞いてくれる恭也に対しては、切々と思いを語る美咲。
そんな美咲に、恭也は普段は見られないような優しげな微笑を、小さくではあるが浮かべる。

「そうだな。誕生日の約束か……。少々遅刻しすぎだな。ちょっと迎えにいってみるか」



そして恭也は美咲と共に行人の足取りを徹底的に追い、
そして確かに問題の船に乗った事を突き止め、そしてその船に乗ってみる。
穏やかな海の上を順調に航海していた恭也達を乗せた船だったが、やがて天候が崩れ始め……

「降ってきたな。風邪でも引いたらこの先に響くし、中に入るか」

「そうですね。でももうちょっとだけ……あっ!」

突然の美咲の小さな叫び声。
少し後ろを離れて歩いていた美咲のそんな声に、恭也は反射的に振り返る。
と同時に恭也の脇をすり抜けていく子供達。美咲の姿がないことを瞬時に確認すると、恭也は急いで身を乗り出し、
そして落ちていく美咲を発見するとそのまま何の躊躇もなく飛び降りた。

「美咲っ! こっちだ!」

何とか手を伸ばし、背中から抱えるように美咲を引き寄せた恭也。落ちたショックからか、美咲は気を失っている。
飛び降りるときとっさに飛針でロープを切って海に落とした救命用の浮き輪を捕まえ、
それに美咲をつかまらせたその時だった。

「ん? この音は……」

地響きのような音に気付き、まさかと眉を顰める恭也。
恐る恐る視線を後ろに向けると……

「冗談ではないぞ…」

言葉どおり、冗談のような大津波が迫り、そして二人はなすすべなくそれに飲み込まれた。



≪ねぇメイメイ。なんで砂浜をランニングなの?≫

「芸には体力もかかせないです。ステージは長いですから〜……あれ?」

チャイナ服の少女と河童。
そんな普通なら奇妙な取り合わせだがこの土地では日常になってしまった二人のうちのチャイナ服の少女、
メイメイがふとその視線を海岸のほうへと向け、そして何かを発見した。
河童の遠野さんもそれを見て、そして二人で近寄ってみると、

「ひゃ、ひゃややや〜ん!こ、こここっここれは?!」

『人だね。どうやら打ち上げられたみたいだ。メイメイ、皆を呼んできて』

「は、はいですっ!」

どうやら打ち上げられたらしい女の子が岩にもたれかかっている。
メイメイに人を呼びに行かせた遠野さんはその後姿を見送ると、何かに導かれるように奥の茂みへと向かっていった。
そして程なく、おばばを初めとした島の人間が集まり始める。

「なんとっ!? 今度はオナゴかえ?」

到着するなりそう言って驚いていたおばばだったが、
ふとその視線をそのまま何かを追うようにゆっくりと傍の茂みのほうへと向ける。

「どうやらもう一人いるようですの」

そう言って眼鏡の少女ちかげが指をさした先には一人分の足跡。

「と、遠野さんが追いかけていったみたいです」

戻ってきたメイメイは、その隣に真新しく残る友人の河童の足跡に気付く。
心配そうに茂みに視線を向けるメイメイ。

「大丈夫よ。まちねぇと互角にやりあう遠野さんに限って外から来た人にいきなりやられたりしないって」

くまくまに乗っかったゆきのが能天気な声でそう言って笑うが、

「いえ、そうじゃないですよ。
 遠野さん河童だから外から来た人がいきなり遠野さんと出くわしたりなんかしたら……」

『……ああ〜……』

「と、ともあれまずは彼女の応急処置をしないといけませんわ……」

なんとも言いがたい空気が流れたのをちかげが何とか打破しようと、
そう言ってゆきのに頼んでくまくまに少女を乗せてもらう。
そしておばばの家に向かおうとした丁度その時、遅れてすずとあやね、しのぶと行人が噂を聞いてやってきた。

「婿殿、また外から流れ着いたらしいぞ。気を失っておるが、命に別状はなさそうじゃ」

「100年に一回あるかないかの出来事がほんの数ヶ月の間に二回もなんて……これは調べてみる必要がありますの」

「とりあえずおばばの家に運ぶらしいよ」

おばば、ちかげ、ゆきのの言葉にすずたちも興味深げにくまくまに乗った少女を覗き込む。
そして行人もそれに倣って覗き込んだ。

「……そんな……嘘だろ?」

「行人? どしたの?」

小さく呟いた行人の声が届いたのか、すずが不思議そうに行人の顔を覗きこむ。
しかし当の本人は今度ばかりは近すぎるすずの顔にも赤面する余裕すらないらしく、
そればかりかついに手に持った木刀を落とした。そして、

「おい美咲! しっかりしろ美咲!」

取り乱してくまくまからその少女を奪い取るようにして抱えると、揺さぶって何とか起こそうとする。
何が起こっているのかが全くわかっていない大半の中、
すずたちには行人が少女に呼びかけているその名前に聞き覚えがあった。

「ねぇ、美咲ってたしか…」

「行人様の妹の名前だったはずよ」

「ほう。師匠の妹君でござるか?」

「そのようですわね。なんという美味しいしちゅえ〜しょんなんでしょう♪」

「…しちゅえ〜しょん?」

行人に遠慮しているのか、誰からともなく声を潜めて話し合うすずたち。
その間にも行人は何とかしてその少女、美咲を起こそうとしている。

「しっかりしてくれ! 美咲ったら!」

「婿殿! やめんか!」

さすがにこれ以上はよくないと思ったのか、おばばが行人を軽くはたいて止める。
なんとか冷静さを取り戻した行人は、少女を背中に乗せると、

「早く行こう」

と今度は皆を急かすようにそう言って先頭にたつ。そして歩き出したその時、

「…ん……お兄ぃちゃん?」

「美咲?! 大丈夫か!?」

意識を取り戻した美咲が行人の背中の上で声を上げた。
敏感にそれに反応して首だけ回した行人。しかし、

「お兄ぃちゃんだ…やっぱり生きてたんだ! お兄ぃちゃぁぁぁん!!!!」

叫び、泣き出し、首に抱きついてきた美咲に行人はどうすることも出来ずに
ただ美咲が落ち着くまで好きなようにさせていた。



「でね。お兄ぃちゃんは死んじゃったことにされそうになったから探しに来たの。
 そしたら船から海に落ちちゃって」

ようやく落ち着いた美咲をとりあえずすずと行人の住む家に連れてきた一同は、そこで美咲の事情を聞きだした。

「なんかおんなじところでおんなじ目にあうって兄妹っぽいよね」

「ははは…面目ない」

美咲のことを気にかける行人を見たすずの少々とげのある一言に、
行人は頭を掻きつつ照れたようにそう言ってすずに笑顔を向ける。
すぐに機嫌の直ったすずだったが、今度はそれをみた美咲がむくれたように頬を膨らませていた。

「それより、えっと…美咲さんでよろしいですの?」

「え? あ、はい。えっと…」

「あ、私はちかげと申しますの。それでですね、美咲さん」

「はい。なんでしょう?」

「美咲さんはお一人で船に乗られたんですの?」

ちかげの突然の質問に、あの場に遅れてきた行人、すず、しのぶの三人が首を傾げる。
三人にちかげが砂浜にあった足跡の説明をしていると美咲が、

「そうだっ! 恭也お兄ぃちゃん!」

「なにっ?! 恭也さんが一緒だったのか!?」

「うん。でも海に落ちちゃってからどうなったのかは……」

美咲の言葉に行人も驚きの声を上げる。しかしその声はどことなく嬉しそうだ。

「なぁダンナ。その恭也ってのは誰なんだ?」

「そうでござる。拙者も気になるでござるよ」

りんとしのぶのドジっ娘コンビが行人の嬉しそうな様子が気になったのか、そう言って行人によってくる。
それを見て説明をしている行人にまたむくれた視線を向ける美咲と、同じく面白くなさそうなすず。
二人がついに耐え切れなくなったのか不満の声を上げようと口を開いたその時、

「ああ、やっぱりここだったのね」

≪探したよ、メイメイ≫

縁側からまちと遠野さんが顔を覗かせた。

「まち、どうしたの?」

「遠野さん、どうだった?」

行人とメイメイがそれぞれにそう言って上がるように促す。
普段なら一も二もなく上がって強引に行人の隣に陣取るまちだったが、

「それよりも先に行人様、お客様をお連れしました」

と一度顔を引っ込めて誰かを呼びにいく。

「それで? 遠野さんはなんでまちねぇと一緒だったの?」

すずが一足先に上がってきた遠野さんにお茶を出しながら尋ねる。

≪それがね、アチキが足跡を追っていったら当の本人がまちと話してたんだ。なんか人を呼んでほしいとかで≫

「それならなんですぐに帰ってこなかったデスカ?」

≪そ、それは……ごめんメイメイ。またちょっとまちとやりあってて≫

そんな話をしていると、どこに待たせていたのかようやくまちが戻ってくる。

「それではどうぞ」

まちがそう言うと、全身真っ黒な服に包まれた男、恭也が小さな微笑を浮かべて顔を出した。
意識を失う直前になんとなくみた、自分を助けに来てくれたのは本当だった事を知って嬉しそうに笑う美咲。
そして行人は、

「…まさかまた貴方に会えるとは思いませんでしたよ、恭也さん」

「こっちこそ。やはり生きていたか。美咲に感謝するんだな、行人」

こうして藍蘭島に新たな住人が加わった。
妹の美咲と再会した行人は、大切な兄の置かれた状況をこれからいやというほど認識することになる美咲は、
そして行人に続く島で二人目の男となってしまい、これから間違いなくとんでもない目にあうであろう恭也は、
これからいったいどうなる?!



『恭也と美咲もながされた藍蘭島』 第00話 〜また流されて〜

もしかしたらもうちょっと続く…………かも?







ながされて、とのクロス〜。

美姫 「何やら楽しそうな事になりそうね」

騒々しい毎日が始まるのだ!

ブリジット 「えっとえっと…」

素晴らしいお土産だよ。

美姫 「うんうん」

ブリジット 「そう言ってもらえて嬉しいです」

美姫 「さて、お土産で満足したところで…」

また来しゅ……ぶべらぼえぇっ!

美姫 「そんな訳ないでしょうが!」

あははは、あははは。お星さまがキラキラ。

ブリジット 「わぁぁ、しっかりするです。ありえないものを見るんじゃないです」

美姫 「大丈夫、大丈夫」

ブリジット 「で、でも、首が変な方向に曲がってるです」

美姫 「……だ、大丈夫、大丈夫」

ブリジット 「美姫さんがそう言うのなら、です」

美姫 「言ってブリジットは浩をそっと横たえ、静かに手を合わせる。
    その横で私もまた手を合わせ、冥福を…」

変なナレーションつけるな!
しかも、それって全然、大丈夫じゃないだろう!
明らかに俺、逝っちゃってるよな!

美姫 「冗談じゃない」

おまっ、流石に笑えねぇぞ。

美姫 「それよりも、進み具合はどうなのよ。最近、全然更新してないように見えるんだけど」

俺は胸を押さえるとその場に蹲り、苦悶の表情を浮かべながら膝を着く。
お、俺の事は気にせず先に進んでくれ……。
その言葉に一瞬だけ躊躇するも、美姫とブリジットは踵を返してこの場から立ち去って……立ち去って……あれ?
あ、あのー。

美姫 「貴方だけを置いてなんて行ける訳ないじゃない。
    それに、そこまで苦しむのなら、せめて私の手で一思いに。
    悲しげにそう告げると、私は静かに腰にある刀へと手を添える」

だが、やはり時間がない事を思い出した美姫は、渋々とその手を引っ込め……。

美姫 「ようとして、やはり一気に刀を抜き放つ」

……あ、あはははは。さ、さーて、冗談はこれぐらいにしておこうか。

美姫 「そうね。アンタを存分にぶっ飛ばしたら終わりにしようかしら」

いや、ほら、ゲストを放置するのはよくないよ、うん。

ブリジット 「すみませんです。初めてなので、上手く合せれませんです」

美姫 「気にしなくて良いのよ。いきなりこんな事をした、このバカが悪いんだから。
    それも含めて……」

あ、いや、いや……。は、話し合おう!
ブリジットちゃんも来てるんだし、ここは穏便に。

ブリジット 「ワクワク、です。PAINWEST名物が目の前で見れるなんて、返ったら自慢できるです」

い、いつから名物に!? というか、俺の意見は無視!?

美姫 「それはいつもの事じゃない。それに、こうまで期待されているのよ?
    初ゲストの夢を壊す気?」

ゆ、夢ではないと思うぞ。というか、期待って……。
…………ちらり。

ブリジット 「ワクワク、ドキドキです」

…………ええぇぇい、やるならやれ!

美姫 「よく言った!」

……やっぱり止めてっ!

美姫 「もう遅い!」

ぶべらっ! どんごりあ〜〜〜〜!! 美姫の…、アホウ〜〜。

美姫 「何ですって!」

みゅごにゃばゃゃゃゃ!! どげしっ!

ブリジット 「おおう、二段ヒットです!
       まさか、空中に投げ飛ばされた浩さんに更なる追撃があるなんて、です」

美姫 「お気に召したかしら」

ブリジット 「良いものを見せてもらったです」

美姫 「うーん、今の力からすると、当分は空の上かしら。その間に次のCMにいっちゃいましょう」

ブリジット 「はいです」

美姫 「それじゃあ、CMよ〜」







精霊と呼ばれる人ではないものが存在する世界。
この世界では科学とは別に、精霊に力を借りるための神曲と呼ばれる技術も存在した。
神曲を奏でる者はすべから神曲楽士(ダンティスト)と呼ばれる。
これは、少々変わった神曲楽士のお話。



「…………」

朝の食卓。いつもなら住人たちによる賑やかなはずの席は、しかし今日はやけに静かである。
その原因となっている、紅みがかった髪の女性は不機嫌さを隠しもせず、ただ黙々と箸を動かす。
そんな様子を遠巻きに眺めていたこの家の家長桃子はそっと恭也へと顔を寄せる。

「ちょっと恭也。アンタ、何したのよ」

「……俺が原因なのは確定なのか」

恭也の憮然とした言葉に桃子だけでなく、他の者も一旦動きを止め、揃って頷いて返す。
分かっていた反応とはいえ、やはり目の前でそう返されるとさしもの恭也も拗ねたくなってくる。
とは言え、拗ねた所で事態が変わる訳でもなく、箸を止めて恭也は暫し考えるもやはり首を振る。

「いや、心当たりがないな」

言った瞬間、材質が木で出来た何かがへし折れる音が発生する。

「む、すまんな、晶。箸が折れてしもうた。悪いが新しいのと変えてくれんか」

不機嫌な顔のままそう言われ、晶はすぐに新しい箸をその女性へと手渡す。
礼を言って受け取ると、再び食事を再開する女性であったが、桃子はそれを横目で窺いつつ恭也へと顔を戻す。
無言で何とかしろと言われているのは理解できたが、何をどうすれば良いのか分からない。
本当に原因に心当たりもないのだが、今までの反応から原因は自分らしい。
そこで恭也はもっとは早い手段を取る事にする。
ここで注意するのは、早い手段であって最良の手段ではないという事だろうか。
事もあろうに恭也は、その不機嫌さ丸出しの女性へと話し掛ける。

「アルシェラ、何を怒っているのだ」

何の捻りも遠回しに探るというようなこともなく、直球そのものでずばりと問い掛ける恭也に、
桃子は思わずテーブルに思いっきり頭を打ち下ろし、なのはは乾いた笑みを見せる。
再び、何かが折れる音がするも、今度は晶もレンも替えを出すために立つ事は出来ない。
恭也の言葉にアルシェラがゆっくりと恭也をにらみ付けるように顔を向ける。
自然、皆の食事の速さがあがる。一刻でも早く、この場から立ち去るために。
そんな事に気付かず、恭也はただ不思議そうにアルシェラを見返すのみ。

「お主、昨夜の約束をよもや忘れたとは言わないだろうな」

「いや、覚えているが」

「覚えている、じゃと?」

「ああ。だから、それはすまないと言っただろう。
 仕方ないだろう。ユフィンリー さんから急に依頼が来たんだから。
 本来ならフォロンにさせるつもりだったらしいんだが、別件でフォロンは昨日から出ているらしくてな。
 先方の都合で今日にしてくれと今朝方に連絡があったらしんだから」

「それならば、ツゲ自身が行けば良かろう」

「だから、ユフィンリーさん自身も今日は仕事の予定が入っていると言っているだろう」

朝から、正確には朝食の少し前に掛かって来た電話の内容を伝えてから何度か繰り返した事を再び口にする。
ようやく桃子たちにもアルシェラの不機嫌な理由が納得できて一様に頷くも、
それでこの場の空気が変わるはずもなく、寧ろ思い返してか更に怒気を膨らますアルシェラから離れるべく、
慌てて残りのご飯をかき込み、次々に出かけて行く。

「今日は一日余に付き合う約束をしたくせに…」

誰もいなくなったリビングで、拗ねたように椅子の上で膝を抱えるアルシェラ。
悪いと思いつつも恭也は何とかアルシェラを宥めるに掛かる。
結局の所、恭也の頼みごとを断れるはずのないアルシェラには、最終的には頷く以外の道はないのだが。
それでも、今回の件の埋め合わせと仕事が早く終わった後は、
当初の予定通りに行動する事を約束させる辺りは抜け目ないが。



町外れの今は使われなくなったビル。
そのビルの解体が恭也たちに回ってきた仕事の内容であった。
重機を入れることが出来ない狭い路地に面しており、それを代わりに精霊の力でという事である。
既にビルの内部へと入ったアルシェラと、ビルの前で立つ恭也。
共に準備を終えて無線で連絡を取り合う。

「準備は良いか」

「いつでも良いぞ。さっさと終えて、当初の予定通りにデートと行こうではないか」

「この後、昨夜約束した予定通りになるのなら、後日に埋め合わせの約束をさせられた分、
 俺の方が割に合わないような気がするんだが」

「そんな事はない。半日を無駄にするのじゃからな」

不敵な笑みを浮かべてアルシェラは通信の向こうで苦笑を浮かべているであろう恭也へときっぱりと言う。
それを聞きながら、実際に苦笑を浮かべていた恭也は不意に表情を改め、短く始めるぞと告げる。

「いつでも良い。さあ、奏でるがよい。余とお主を結ぶ絆たる神曲を」

アルシェラの静かな声に呼応するように、恭也は腰に差した小太刀をニ刀抜き放つ。
それを舞うように振ると、特殊な加工を施された小太刀から音が零れ落ちる。
舞うように縦に横にと振るたびに、音は高く低くその音色を変えて鳴り響き、
一つの音と音が連なり、曲を形作っていく。
その曲に聞き惚れていたアルシェラは、閉じていた瞳を静かに見開く。
先ほどまで感じられなかった力が、今は全身に張り巡っているのが分かる。
腕を軽く振っただけで、その風圧で壁が吹き飛び、柱が折れ飛ぶ。
恭也の指示に従い、恭也の奏でる神曲に合わせて力を振るうアルシェラ。
ビルが倒壊するのに五分と掛からなかった。



仕事を終えたアルシェラは、朝の不機嫌さが嘘のようにご機嫌で恭也の腕を取る。

「さあて、それでは何処へと行くかの」

「その前にユフィンリーさんに報告しないと駄目だろう」

「むぅ、面倒いの」

「我侭を言うな」

「分かっておる。さっさと済ませるんじゃぞ」

拗ねたようにそっぽを向くアルシェラに笑みを零し、恭也はユフィンリーへと仕事完了の連絡を入れるのだった。

精霊と人とが共存する世界。
人々は精霊の起こす奇跡に頼り、精霊は人の奏でる音楽を糧としてこの世界に顕在する。
これは、共に支え合いながら暮らすこの世界にいる、一人の神曲楽士と一人の精霊のお話。

神曲奏界ポリフォニカ ソード・シリーズ プロローグ 「変な神曲楽士」 近日…………







あぁぁぁぁぁぁぁっ。どがっしゃーーっっ!
……た、ただいま。

美姫 「おかえり」

ブリジット 「おかえりです」

美姫 「戻ってきて早速なんだけれど、進み具合はどう?」

空に吹き飛ばされている間に、何を書けと?

ブリジット 「そこは根性です。信じているです」

いや、信じられても…。

美姫 「それはそれとして、実際どうなのよ」

確かに、最近ペースが落ちているような。
な、なぜだ。

美姫 「単にさぼっているからでしょう」

ブリジット 「それは駄目です」

いやいや、そんな事はないぞ、うん。
とりあえず、リリカルだ。リリカルを頑張るぞ。

ブリジット 「その割には今週はまだ見てないです」

うおっ! い、言うてはならん事を。

ブリジット 「ご、ごめんなさいです」

美姫 「謝らなくて良いわよ。こいつが悪いんだから」

くっ。純粋なブリジットちゃんと違い、流石は腹黒……ぶべらっ!

美姫 「ごめん、よく聞こえなかった〜」

……う、麗しき姫さま仰る通りでございます。
爺自身が悪うございます。

美姫 「分かってるじゃない。それじゃあ、ちゃんとキリキリ働くのよ」

畏まりました。

ブリジット 「え、えっと、ボクは何の役をすればいいです?」

美姫 「そんなに深く考えなくても良いのよ。ようは、あいつをぶっ飛ばすというオチがあれば」

ぶっ飛ばすなよ! というか、オチって何だ、オチって!
オチの度に殴られるのかよ!

美姫 「まあ、冗談はさておき」

ったく。

美姫 「それじゃあ、そろそろ時間ね」

ブリジット 「もうですか?」

ああ、本当に名残惜しいよ。
このまま美姫と交換したいぐら…ぶべらっ!

美姫 「どうだった?」

ブリジット 「楽しかったです。また機会があれば期待です」

幾らでも歓迎だよ。何より、美姫みたいにすぐ手が出ない所が非常に良…ぶべらっ!

美姫 「そうね。また機会があれば、いつでも来てね」

ブリジット 「ありがとうです」

いや、もう本当に大歓げ…ぶべらっ! ……って、今のは何で?

美姫 「あ、ごめん。つい」

そうか、ついか。じゃあ、仕方ない…訳あるかっ!
おまえな、今のは幾らなんでも…ぶべらっ!

美姫 「煩い」

ふぁ、ふぁい。すいません……。

ブリジット 「あははは。やっぱり楽しいです」

俺は楽しくないんだけど……。

美姫 「(無視)また来てねブリジット」

(慣れてる)そうそう、またな。

ブリジット 「はいです」

それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫&ブリジット 「また来週〜(です)」


4月13日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、恐怖に慄きながらもお送り中!>



PCがまたしても不調。

美姫 「本当に怖い状態よね」

んだんだ。まったくもって、怖い怖い。
まあ、最近は大分調子も良いから、もう大丈夫なんじゃないだろうかとかも思い始めてるんだが。

美姫 「その油断が…」

データは常にバックアップ!
これ基本だね。

美姫 「私としてはデータが消えても書いてくれるのなら構わないけれどね」

いや、それは無理だろう。
データが消えたときの脱力感と言ったら……。

美姫 「そこを無理矢理にでも書かせるのが私のお仕事」

……ガクガクブルブル。
う、うぅぅぅ、恐ろしい過去の記憶がよみがえる……。

美姫 「ほらほら、そんな部屋の隅っこで、膝を抱えて畳の目を数えながら震えてないで」

いじめない? いじめない?

美姫 「いじめる!」

うわぁぁ〜〜ん! そこは嘘でもいじめないって言おうよ!

美姫 「嘘でも良いんだ」

……やっぱり正直にお願いします。

美姫 「ともあれ、最近はPCの調子も良いみたいだし」

大丈夫だろうと高をくくりながらお送りするぜ!

美姫 「あ、止まった」

ぎゃおぉぉぉす!

美姫 「嘘よ、嘘」

いや、その嘘は本当に笑えないから……。

美姫 「確かにね。今のは本当に反省するわ」

はぁ〜、驚きすぎて心臓がバクバクだよ。

美姫 「とりあえず、それを落ち着ける意味でもCMへ〜」







ある朝のこと。
いつものように早朝に目を覚ました恭也は、まだ眠る住人たちを起こさぬように、
殆ど習慣と化したように自然とその身体を洗面所へと向かわせる。
そして、いつものように顔を洗おうとして、何気に映った鏡を見て動きを止める。
もし、今襲撃されたとしても反応する事も出来ずに容易く討ち取られるのではないか。
そう思わせるほど無防備に、ただ呆然と鏡を呆けたように眺める。
軽く目を擦り、もう一度見つめるも変化がない事を確認すると、恭也は大きな溜め息を吐き出し、
小さく頭を振って洗面所に手を付くと頭を垂れる。

(確かに、今までにも様々な事に巻き込まれ、時には首を突っ込んだ。
 だが、それもようやく落ち着いてやっと日常に戻ったと思ったのに……)

諦めや悟りの境地にでも達したかのような心境で、恭也はゆっくりと身体を起こし、
やはり見間違いが錯覚ではない事を確認すると、肩を落とす。
落としながらももう一度視線を前へと戻せば、そこには長い黒髪の美しい女性がこちらを見つめていた。
その変わらぬ事実をもう何度も確認して、ようやくこれが恭也は現実だと受け入れる。

(今度は鏡の世界か……。一体、誰の仕業だ。
 いや、流石に鏡の世界に知り合いはいないからな。
 もしかして、変な事件に巻き込まれる体質になってしまったのか)

原因として考えられる要因として、最近知り合った某寮の人々を思い出す。
あそこに出入りするうちに、あの場所だけでなく自分にもそんな性質が生まれてしまったのではと。
割かし本気でそう考えてしまうも、恭也はそれを振り払い、
先程から何か言いたそうにこちらを見ている女性へと顔を向ける。
何か言いたいのはこちらも同様なのだが、やはり先に説明を求めるべきだろう。
そう判断して恭也は鏡の向こうの女性へと話し掛ける。

「楽観的な希望というよりも、俺の希望として尋ねますが、もしかして場所を間違っていたりとかは…」

だが、恭也が話し掛けるのと同じくして、女性も口を動かして話し掛けていた。
お互いにタイミングを計り、どうやらそれが重なったらしい。
少々バツの悪い思いをしつつも、恭也はふと気付く。
それは、向こうの声が聞こえないという事実であった。
どうやら、鏡を一枚隔てた向こうとこちらとでは、声さえも通らないらしい。
これではコミュニケーションが取れない。
見れば、向こうも同じように困った顔をして恭也を見つめてくる。
どうしようかと悩んだのも一瞬、紙に字を書けば良いと気付き、それを実行しようとする。
その時、同じように起きだした美由希が背後に現れ、鏡の女性を見て驚いた顔を向けると、
失礼にも指差してワナワナと震え出す。
それを鏡越しに見遣りながら、恭也は幾らお化けが苦手でこのような事態とは言え、
その失礼な態度を注意しなければならないと、美由希へと振り返る。

「あ、あなたは誰ですか!?」

「落ち着け、美由希。驚くのも無理ないが、人を指差すのはどうかと思うぞ」

「わ、私の名前まで知ってるなんて…」

「何を言ってるんだ。いや、それよりもお前は向こうの声が聞こえたのか?」

「いい加減に名乗ってもらえませんか」

美由希の態度に困惑を見せつつ、恭也は鏡の向こうの女性へと謝罪しようと顔だけ振り返り、
再び動きを止める。向こうでも同じように背中を向け、顔だけを恭也へと向けている。
それだけならば偶然ということもあるだろうが、その向こうには美由希が普通に鏡に映っているのである。

(待て、落ち着け。そう言えば、俺はさっき鏡越しに美由希の姿を見たはずだ。
 という事は、目の前のあれは普通の鏡ということか。つまり、鏡に映った女性というのは……)

自分の考えついた答えを認めたくないのか、恭也は再び鏡と向き合うと、右手を上げ、左手を上げ、
腕を下ろし、首を捻り、など思いつく限りに様々な動きを見せる。
それに遅れる事無く、鏡の向こうの女性は全く同じ動きをして見せるに至り、恭也はようやく納得する。

「つまり、これが俺ということか……」

がっくりという形容がぴったりくるほどに頭を垂れる恭也の肩から、長い黒髪が滑り落ちる。
それを手に取りながら、

「初めから、これを確認しておけば良かったんじゃないか」

冷静に見えて焦っていたのだろうと改めて自分の行動を振り返りつつ、
未だにこちらを警戒する美由希へと話し掛ける。

「とりあえず、信じられないかもしれないが俺だ」

「……だから、誰なんですか」

「恭也だよ」

何を言ってるんだという視線に耐えながら、恭也は自分が本人であると信じさせるために、
事細かな家庭の事情を口にし、次いで昔の美由希の話を持ち出す。
その話を顔を赤くして遮りつつ、ようやく美由希は恭也だと信じる。
すると、次の疑問が浮かんでくる。

「何で女性に、それもそんな美少女になってるのよ!」

「それこそ俺が聞きたい……」

疲れた声で、それでも住人を起こさないように気をつけつつ、恭也は美由希を連れて部屋に戻る。
当然、今日の鍛錬は中止として。
対策を練るため、美由希と共に部屋に戻った恭也を待ち構えていたかのごとく、

「いやー、中々戻ってきぃひんから、どないしたんかと思いましたで」

ライオンのぬいぐるみが出迎える。
何故、恭也の部屋にぬいぐるみがあるのかという理由はとても簡単で、
それがなのはからのプレゼントだからである。
例えゲームセンターのクレーンゲームの景品であろうと、なのはが自分の小遣いを使って取り、
それをプレゼントとして差し出したのだ。
恭也が無碍に出来るはずもなく、最終的にはこうして部屋に飾られる事となったのである。
とはいえ、昨日までは間違いなく普通のぬいぐるみであった。
呆然と入り口で佇んでいた二人であったが、恭也はゆっくりと腕を持ち上げると、
これが夢でないと確かめるためか、頬を思いっきり抓り上げる。

「いたっ、いたたたた、痛いよ、恭ちゃん!
 た、確かめるんなら、自分の頬でやってよ!」

うぅぅ、と呻きながら頬をさする美由希を無視し、恭也はライオンへと話し掛ける。

「どうやら、こうなった原因はお前にあるらしいな」

今にも斬り付けんばかりの気迫で静かに近付く恭也に、ライオンも思わず後退りしながら、
知っている限りの事情を説明しだす。
曰く、恭也は『ケンプファー』と呼ばれる女戦士として選ばれたのだと。
男だという反論を聞いたライオンは、戦うための存在であるケンプファーは全て女性であるから、
選ばれてしまった為に女性になったのだろうと。
元々、ケンプファーは変身できるらしいので、それが恭也の場合は女性化なのだろうと。
敵が誰なのかは分からないが、確実に存在すること。それも、同じケンプファーという存在が。
しかし、戦う理由も、選ばれた理由も、ライオンは知らないと言う。
自分はただのナビゲータだと。変身に関しては慣れれば自分の意志で行えるようになるとも。
それらの説明を右から左に聞き流しつつ、恭也はとりあえずは美由希を見つめる。
咄嗟に頬を両手で庇いながら距離を開けつつも、
美由希は恭也へと、求めているであろう質問に対する答えを投げる。

「夢じゃないからね」

「……夢なら悪夢で済むが、現実だとどうなるんだ」

「えっと、戦うしかないのかな? でも、無意味な争いは…」

「なるべく関わらないようにしよう」

「まあ、どうなるかは分かりませんけれどな。ケンプファーは同士は引き合うもんやさかい。
 向こうがやる気満々やった場合は、やるしかないでっせ」

とりあえずはライオンに枕をぶつけて黙らせると、恭也は目下の悩み、女性化した身体を見下ろす。

「今一番の問題は……」

「それだよね」

美由希も疲れたように恭也を見つめる。
と、その目の前で恭也の身体が光を放ち、あっという間に元の姿に戻る。

「戻った」

「ああ、時間が経てば戻るんだ。
 でも、自分の意志で変身できないって事は、急に女性になる事もあるって事じゃ…」

その指摘に恭也は枕と格闘を続けるライオンの後ろ首を掴んで持ち上げると、美由希の推論を聞かせる。
当然のように返って来た答えは。

「まあ、その姐さんの言う通りですな〜」

「くっ、何とできないのか」

「そりゃあ、無理ですわ。何とか練習して、自分の意志で変身できるようにすれば別でしょうが」

ある意味無責任な発言に、今度はライオンは布団に埋め、恭也は頭を抱え込みたい気分に陥る。
そんな恭也を励ますように声を掛けてくる美由希に口止めを約束させ、とりあえずは日常へと戻る事にする。
だが、この日を境に、恭也の周辺は更なる非日常的なものへと変わっていくのだった。
ケンプファーという存在として……。

高町恭也のケンプファーライフ プロローグ 「突然女の子」 近日……金星辺りで公開。







美姫 「さーて、CMも終わった事だし、SSの状況を」

久しぶりにシャナとのクロスを書いた。

美姫 「それだけ? というよりも、もっと頻繁に更新しなさいよね」

ま、まあ、反省はしている。だが、あれはゆっくりまったりとした更新を。

美姫 「言い訳無用!」

ぶべらっ!

美姫 「で、他は?」

と、とりあえず、長編は『リリ恭なの』を中心にやっていくつもりです。
可能なら、合間合間に短編と他の長編を入れる形で。

美姫 「メインは『リリ恭なの』なのね」

ああ。いよいよ終盤だからな。
心情的には一気にいきたい所だ。

美姫 「まあ、アンタのペースじゃ、のんべんだらりって感じでしょうけれどね」

ぐぅ。が、頑張るもん。

美姫 「精々、頑張るが良いわ」

って、偉そうだな。

美姫 「偉いもの」

う、うぅぅ、俺の、俺の立場ってつくづく…。

美姫 「今更じゃない。気にしない、気にしない」

シクシク。と、落ち込むのはこれぐらいにして、頑張らねば。

美姫 「いつになく前向きな」

あははは〜。偶にはな。

美姫 「本当に偶によね」

えっへん!

美姫 「褒めてないからね」

……えっと〜、そろそろ時間が〜。

美姫 「褒めてないわよ」

……わ、分かってるもん! シクシク。

美姫 「さーて、存分に凹ました所で…」

いいもん、いいもん。どうせ、どうせ。

美姫 「はいはい、終わるわよ〜」

おお、もうそんな時間が。
皆、今週はどうだったかな〜!
良い事があった人は、来週もそうだよ良いね。
悪い事があった人は、来週こそ良い事があるよ!
そんな訳で…。

美姫 「って、相変わらず立ち直るの早すぎ!
    おまけに、もう終わるのに無意味にテンションあげてるしっ!」

それじゃあ、今週は……ぶげらっぱぁ!

美姫 「あまりにも鬱陶しかったからつい」

うぅぅ、つい、でお前は人を吹き飛ばすのか。

美姫 「ほら、時間、時間」

ふぅ〜。ようやくいつものテンションに戻った所で、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


4月6日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今月も元気にお届け中!>



いやー、何だかんだと言って、もう四月。
早いもんですよ。

美姫 「本当よね〜。まあ、ここ最近は急に冷え込んだりしたけれど、もう春なのね」

いやはや、ついこの間まで新年だ、新年だと騒いでいたのにな。

美姫 「いや、それは流石に可笑しいでしょう」

まあまあ。にしても、はぁぁ〜、春か。

美姫 「言葉だけ聞くとやっと来たかって感慨深そうにも見えるけれど、かなり憂鬱そうな溜め息よね」

まあな。理由は聞かなくても分かるだろう。

美姫 「まあね。色んな方からも心配してもらって」

いや、本当にありがたい限りです。
しかし、花粉症なんてなるもんじゃないね。もう、この話題だけでずっといけそうだよ。

美姫 「話題というよりも、愚痴でしょうが」

まあな。と、まあいつまでもグダグダと言ってても仕方ないしな。

美姫 「そうそう、前向きにSSの一つでも書きなさい」

こう書きたいという欲求は強いんだが、上手く文にならないんだよな。
うーん、つくづく文章って難しいよな。

美姫 「しみじみ考えている暇があれば、さっさと書く、書く」

へいへい。そろそろ『とらハ学園』も書きたいな。

美姫 「定期的な更新をしなくなってから随分と経つものね」

ネタはあるんだがな。ともあれ、今年はリリカルと込められし、あとはとらみてを完結に向けて。

美姫 「出来るの?」

が、頑張って。す、少なくとも、リリカルだけは終わらせるように。

美姫 「なら、私もそのためにビシバシと今まで以上に!」

いや、お前にはどうかそのままで居て欲しいんだが。

美姫 「遠慮なんていらないわよ」

遠慮とかじゃなくてね。

美姫 「ビシビシ。飴を与えずに鞭のみで。寧ろ、鞭の連打で」

飴を上げようよ。俺が可哀想だよ。

美姫 「余裕がある内は駄目ね」

全くありません!

美姫 「ありまくるじゃない」

こういった相互の不理解がいつしか大きな問題に。

美姫 「その場合はアンタが悪いって事になるだけだから」

ですよねっ!
シクシク。

美姫 「泣いている暇なんてないのよ! 新しい季節。心機一転頑張って!」

言ってる事は間違ってないんだろうけれど、何でだろう。
この背筋が凍りつくような感覚は。

美姫 「ほらほら」

う、うぅぅ。頑張ります〜〜。

美姫 「うんうん。やっぱり新学期だけあって、アンタも素直ね」

俺はいつだって素直だっての。

美姫 「御託は良いのよ!」

いやいやいや。今のは…。

美姫 「問答無用!」

って、んな理不尽なぁぁぁっ!

美姫 「ん〜、やっぱりこれをしないと調子が今いちでないのよね。
    それじゃあ、そろそろ恒例のCMよ〜」







それは唐突で、突拍子もない出会いであった。
この出会いが後の恭也の運命を大きく変える事となる切っ掛けであったなど、この時には知るよしもなく…。



事の起こりは数日ほど前の翠屋での事。
リスティから護衛の話が来た事から始まる。

「護衛ですか? ですが、自分はまだ学生ですけど」

この春知り合ったリスティとは、その後も那美やフィリス繋がりで暫し会ったりしており、
今では軽く話などする仲である。
とは言え、まだ高校も出ていない自分にそんな仕事の話が来るという事に小さな驚きを感じてそう聞き返す。
そんな恭也の態度に微笑を浮かべつつ、リスティは事情を話し始める。

「ああ。とは言っても、そう難しく考えなくても良いんだ。
 僕と知佳の知り合いのお嬢さんで、パーティーの間だけ傍で護衛をしてくれないかって。
 ただでさえ退屈なパーティーで、ただでさえそういうのを嫌う子だからね。
 如何にもガードって感じの人が傍にいたら肩が凝るだろう。
 どうにかしてくれと泣きつかれたまでは良かったけれど、万が一があっても困る。
 そこでふと君の事を思い出したって訳さ。
 友達なんだ、お願いできないかな」

リスティの真面目な口調と表情に恭也はその話を引き受けたのであった。



リスティより話を聞いた数日後、恭也は理恵と名乗る女性のガードをしながら、パーティー会場の隅にいた。

「良いんですか、こんな端っこで」

「ええ、構いませんわ。今日の私はお客として招かれた立場で、主役は私ではないですから。
 挨拶はもう済みましたし、私個人に用事がある人はいないでしょうから。
 佐伯としての私に用があるのなら、向こうからやって来ますわ」

そう笑顔で言い放つ理恵に苦笑で返しつつ、共通の知人であるリスティや知佳、
那美たちさざなみの住人の話に花を咲かせる。
とは言え、恭也は主に聞き役ではあったが。
パーティーも終わりに近付き、問題もなく護衛の仕事も終えるかと思えたその時、不意に騒動が起こる。
恭也は理恵を庇うと騒ぎの起こっているほうへと視線を凝らす。
見れば、別に襲撃とかそういう大したものではなく、
単にパーティーに招かれている客の一人が酔って暴れているみたいである。
とは言え、他の客の迷惑には違いがなく、使用人たちが止めに入るも強く出れずにいた。
そこへ一人のメイドが近付いていく。
その姿を見て恭也は思わず息を呑む。
確かに美しい容姿に綺麗な黒髪と目を惹く要素はあるのだが、
それ以上に恭也の目を引いたのはその背中に背負われた、一本の大きな刀であった。
女性の肩ほどまであるだろうか、反りのある片刃に柄が顔の横、殆ど頭と同じぐらいまでに伸びている。
ほぼ、身長と変わらないほどの大きな刀を持ったメイドに、他の客たちも距離を開けるように離れる。
だが、酔っている男性は突然近付いてきたメイドの腕を取ると、酌をしろと騒ぎ出す。
瞬間、メイドの手が翻り、あっという間に男は地面に転がされていた。
何が起こったのか分からずに目をぱちくりさせる男へ、メイドはもう一方の手に持っていたコップを逆さまにし、
中に入っていた水を男の顔目掛けて落とす。

「客とは言え、周りの迷惑を考えよ。どうだ、酔いは覚めたか?
 まだ覚めぬというのならば、次はバケツで持ってこようか」

未だに呆然とする主に代わり、その男のボディーガードらしき男がメイドの後ろからそっと近付いていき、
襲い掛かろうとした所を恭也に止められる。
メイドは気付いていたのか、男の攻撃に振り返るも、それを見て恭也に頭を下げる。

「さて、護衛する者として護衛者を傷つけられて怒る気持ちも分からなくもないが、
 この場合は明らかにこちらの方が正しいと思うのだが?」

暗にここは引けと言われている事に気付いたものの、
大勢の前で若い恭也に諭されて取り押さえられた事が気に障ったのか、男は恭也へと殴りかかる。
それを予想していた恭也は小さく嘆息すると、軽く半身を捻り、男の腕を取って足を払う。
そのまま腕の関節を決めて、再び男に同じ問い掛けをする。
今度は男は素直に引き下がる事を口にする。
それを聞いて男を解放した恭也は、まずは近付いてきた理恵に少しの間とはいえ、離れてしまった事を謝罪し、
次いで、メイドへと軽く挨拶する。

「余計なお世話だったようですね」

「いや、そんな事はない。まさか、この場で助けてもらえるとは思っていなかった。
 こちらこそ、礼を言う。まあ、どっちにしろ、クビだな」

「ですが、この場合、非は明らかに…」

「確かにな。だが、別に構わないさ。どうせ、今夜限りのヘルプだからな。
 元々、知り合いが人手が足りないからどうしてもと言うから手伝っていただけだし。
 私は探している人がいるんで」

メイドの言葉に恭也は深く尋ねていいものかどうか悩む。
それを察したのか、メイドは小さく笑うと、

「明確に誰を、という訳ではないから。
 ただ、私が仕えるべき主を、主に相応しい方をお探ししている。
 本来なら、お仕えすべき人が居たのだが…」

悲しげに目を伏せたのを見て、何かあったのだろうと察して恭也はそれ以上は何も聞かない。
と、その背後から先ほどの男が不意をついたつもりなのか、再び襲い掛かってくる。
呆れを通り越して、最早何も感じる事無く恭也は振り向きざまに徹を込めた蹴りを放ち、今度は完全に沈黙させる。
これ以上、ここにいても仕方ないと理恵を見れば、向こうも察してくれたらしく小さく頷き返してくれる。
それを受けてこの場を去ろうと最後にメイドを見れば、その顔には驚愕がはっきりと浮かんでいた。

「そ、そんな、今のはまさか……でも……」

「あの、どうかしましたか」

「し、失礼ですが、あ、あなた様のお名前は。もしや、不破と何か関係が…」

メイドの洩らした言葉に目付きも鋭く、恭也は周囲を見渡す。
しかし、他の者たちは今のやり取りを聞いていた様子もなく、ただ遠巻きに事態を見ているだけである。
それを確認すると恭也はメイドと理恵の手を取ってこの場を足早に立ち去る。
理恵を車まで送り届けると、恭也は申し訳なさそうな顔を見せる。

「何か事情があるんですね。それじゃあ、ここで構いませんよ。
 流石に、もう大丈夫でしょうから」

「すいません」

理恵の言葉に甘え、理恵の車を見送った恭也はメイドへと向き直る。
その瞳は先程よりも鋭く、油断なくメイドを見つめる。
と、不意にメイドは膝を付いて頭を下げる。
慌てる恭也へとメイドは構わずに話し出す。

「私の名前はメイヤと申します。代々、不破家に仕えしメイド剣士」

初めて聞く単語に眉を顰めるも、それよりも気になった事を尋ねる。

「不破に仕える?」

「はい。御神を守る不破。その不破のあらゆるお世話をする者、それが私たち一族でした。
 ですが、私たち一族も今では殆ど…。失礼ですが、お名前をお聞かせ願いませんか」

「高町恭也。旧姓、不破恭也です」

「っ! きょ、恭也様! ま、まさか、このような形でお会いする事ができるなんて。
 あの結婚式の日、恭也様も亡くなられたとばかり思ってましたが。生きて、生きておられたのですね」

メイヤの言葉に頷くも、いまいち自体の飲み込めない恭也へ、
メイヤは自分は恭也に仕えるべく修行していた事を伝える。

「代々、不破家に仕えてはや幾星霜。
 滅んだ後はこれぞという主人を探して幾年。
 ようやくここに、我が仕えるに相応しき主人を見つけてみれば、不破のご嫡男。
 これもまた運命の思し召しでございます。
 つきましては、何卒、どうか何卒、再びお仕えする許可を。恭也様、いえ、御主人様」

「いや、そんな事を言われても…」

「駄目でしょうか」

懇願するような瞳に恭也は何とか抗い、何のとか諦めさせようとするも言葉が出てこずにただ見つめ合う。
結果、一時間ほどの時間両者ともにピクリとも動かず、とうとう恭也のほうが折れる。
こうして、恭也の元にメイヤと名乗るメイドが仕える事となるのであった。


「従者が主人と同じ卓に着くわけには参りません!」

「いや、だけど食事は皆で取った方が」

「御主人様がそう仰られるのであれば…」

――過去、不破に仕えし、戦闘能力を有するメイドがいた

「失礼を承知でお願い致します。今後、御主人様の食事は私にお任せください」

「あ、あー、それは晶やレンに聞いてくれ」

――それが再び、現代によみがえる。

「わ、私は御主人様にお仕えするメイド。そんな好意など……、好意なんて……」

ただ一人認めたご主人様に従い、ご主人様の為に戦うメイド剣士メイヤ。
彼女と恭也の物語はまだ始まったばかりである。

御主人様とメイドは剣士 プロローグ 近日?

生涯、ご主人様と決めたお方にお仕え致します。







美姫 「またピンポイントなネタを」

わ、分かる人はいるさ、きっと、うん、…多分。

美姫 「別に良いけれどね」

だよな。こういうのは俺が楽しければ。

美姫 「んな訳あるか!」

ぶべらっ! ……な、何で?

美姫 「まず、私が楽しくなくちゃ駄目でしょう!」

や、やっぱりかよ……ガク。

美姫 「あらあら、珍しくいいところに入っちゃったわね。
    そんな訳で、今週はこの辺で。また来週〜」


3月30日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、緊急避難完了としてお送り中!>



そんなこんなで今週も始まってしまいましたが…。

美姫 「まるで嫌だと言わんばかりの言いようね」

いえいえ、そんな事はありませんですのよ。

美姫 「口調が思いっきり変だから」

まあ、冒頭の軽いトークはこれぐらいにして…。

美姫 「そうね。今回はアンタに構っている暇はないのよね。ゲストの紹介をしないと」

酷い言われようだが、いつもの事だし。美姫の言う通りにゲストの紹介を。

美姫 「今回は安藤さんの所から、蓉子さんが来てくれました」

蓉子 「お久しぶりです」

どもども〜。

美姫 「元気そうで何よりだわ。安藤さんも元気にしてる?」

蓉子 「ええ、おかげさまで」

うんうん、健康が一番だからね。

美姫 「それで、例のものは?」

蓉子 「もう、ばっちり」

何だ、例のやつって?

蓉子 「これよ、これ」

あー、美姫さん?

美姫 「蓉子ちゃんがこっちに来るって言ってたから、安藤さんに書いてもらうように依頼したの」

蓉子 「書かせたわ。ごねたけれど、そこは丁寧にお願いしてね♪」

美姫 「話し合いは大切よね」

蓉子 「最後にはもう喜んで手を動かしてたわね。その前にちょこっと痙攣してたけれど」

……今さっき健康が一番って話をしてなかったか?

美姫 「だから、健康は大事よねって話をしたら良いって蓉子ちゃんに話したのよ」

蓉子 「ええ、そうよ。美姫さんの言う通りにしたら、ほらこんなに簡単に」

そういう意味での大事かよ! ってか、それって脅は……うん、健康って大事♪

美姫 「でしょう。まあ、私たちは健康そのものだけどね」

蓉子 「そうそう」

う、うぅぅぅ。各方面に美姫の影響が出ているような気がするのは俺の気のせいだろうか。
もう申し訳なさでいっぱいだよ。

蓉子 「なにやら落ち込んでいるみたいだけれど」

美姫 「まあ、ほっとけばその内立ち直るでしょう。それよりも…」

蓉子 「そうですね。それじゃあ、はいこれ」

美姫 「ありがと〜。それじゃあ、早速…」

美姫&蓉子 「CMよ〜」







深夜の海鳴大学病院。
そのとある診察室に、淡々と紙をめくる音を響かせる一人の朴念仁の姿があった。
海鳴大学1年生。そして、古くより護りの剣を貫く流派の師範代でもあるその青年の名は高町恭也。
そう、恭也だ。
大切な人を護るというその一心で、起動者殺しと呼ばれた自動人形の最終機体を機能停止に追い込み、
怨念に憑かれた祟り狐の雷撃に三度耐え、最強の御神の剣士との死闘の中で奥義の極地に達した規格外の代名詞。
そんな彼が親しいものの危機を知って、黙っているはずがなかった。

「正直、難しいと思うよ」

自分の調べてきたことをまとめた資料に目を通す恭也へと、
リスティは火の着いていないタバコを弄びながらそう言った。

「埋葬機関の第9位っていえば、話が通じないことで有名だからね」

「ですが、民間人を巻き込むのは規約とやらに抵触するんでしょう?」

「正式な代行者としての任務であればね。でも、ここ海鳴においてそれはあり得ない」

リスティは言う。日本の退魔師協会が定める不可侵領域、海鳴はその一つなのだと。

「つまり、正当な手順を踏んでの抗議は無意味だと?」

「そういうことだ。まあ、玄関先で散々待たされた挙げ句、やっぱダメとか言われるのがオチだろうよ」

すっと目を細めるアダルトモードのユキに、奏次郎は気だるげにそう言うとソファの上に寝転がった。

「だからって、あんな物騒な女を放っとくわけにもいかないでしょ。
 調査対象の子を殺されでもしたら事だし、何より奏次郎に銃を向けた奴をあたしは許さない」

「まあ、俺のことはともかくそいつは確かにまずいわな。
 ユキ、おまえちょっと行って如月はるかの様子を見てきてくれ」

「あの女が襲ってきた場合は?」

「一応忠告はしてやったからな。正当防衛の範囲を逸脱しない程度になら戦っても良いぞ」

「了解」

 奏次郎の指示に頷き、ユキは猫モードに変化すると部屋を出ていった。

「……あの、やっぱり良いです」

 周囲に気を配りつつ雑誌に目を落とす恭也に、対面の席に座っていたはるかが顔を上げてそう言った。

「お気持ちは嬉しいですけど、わたしなんかのせいで高町さんや美由希さんが危険な目に遇われるかと思うと、
 申し訳なくて……」

「では、逆に聞きますが、あなたが危険な目に遇うのを黙って見過ごせとおっしゃるんですか?」

「それは……」

 やや強い口調で反論され、はるかは言葉に詰まる。

「如月さん。俺にとってあなたは友人だ。
 友人が危ない目に遇っていて、それを助けようとするのは当然のことではないんですか?」

「殺されてしまうかもしれないんですよ」

「覚悟の上です。でもまあ、簡単に殺されてやるつもりもありませんが」

あまり得意ではない笑顔を浮かべてそう言う恭也に、はるかは諦めにも似た溜息を漏らす。

「護るために奪うか。
 ならば、わたしのこの行動も起こり得る災厄から人々を護るものだと理解してもらいたいものだな」

己の覚悟を語る現代の剣士に、エルシアは超重火器の銃口を向けながらそうごちる。

「やれやれ、人間一人殺すのに機関砲まで持ち出すとは。
 そこまで形振り構ってられないわけでもないだろうに」

白煙の立ち昇る瓦礫の下から這い出しながら、呆れたように呟く奏次郎。

「バカな、あの瓦礫の下敷きになって無傷だと!? 貴様、本当に人間か」

「これでも神様に愛されてるんでね。まあ、諦めてくれ」

おどけたような調子で肩を竦めてそう言う男に、エルシアはぎりっと奥歯を噛み締める。

「姉さん、さゆり姉さんなの!?」

「わたしはサユリ。でも、残念だけど、あなたの姉さんじゃないわ」

 追い詰められたはるかを救ったのは、姉と同じ名前の姉の姿をした少女だった。

「おまえは、おまえたちはこの世にいてはいけないのだ!」

「どうして!? わたしはただ、普通に生活していたいだけなのに」

「どっちが悪者かなんて、言うまでもないだろ。加勢するぞ、ユキ」

「あたしはあたしを救ってくれた人のために戦う。それだけだよ」

傷ついたその身に雷神より借り受けし稲妻を携え、荒れ狂う弾丸の嵐の中へと飛び込む白き猫神の少女。

「バカな、固有結界だと!? しかも、これは……」

食われる世界。

「だから言ったのだ。あの女はやがて災厄となる。見ろ、これがその災厄だ!」

塗り替えられていく世界の中で、吐き捨てるようにそう言ったシスターの顔には確かな恐怖が浮かんでいた。

「では、あれを止めるためにははるかさんに自分を取り戻させるしかないんですね」

そう確認する剣士の心には、既に一つの決意があって……。

「これでも一応如月の魔女の魔術刻印を継承しているから。
 似せただけの人形の業ではオリジナルには及ぶべくもないけれど、
 心象世界の拡大を防ぐくらいはやってみせるわ」

「済みません。無理をさせてしまいます」

「謝罪なんていらないわ。だって、妹の世話を焼くのは姉の仕事だもの。でしょ、高町恭也」

頭を下げる青年に、少女は優しげな微笑を浮かべてそう言った。

「いい加減にしろよ
 。奪われる痛みを知っているおまえが臆病な狂信者どもの戯言を理由に奪う側に回るのかよ!」

「わたしから家族を奪った貴様がそれを言うのかっ!」

轟く銃声は女の慟哭か。
復讐を果たすために被り続けた狂気の仮面。それを男は剥がすことが出来るのか。
そして、暴走を始めた固有結界に取り込まれたはるかの運命は……。

   *

  Labyrinth of the heart
  近日……。

   *

 心が迷宮に閉ざされたとき、あなたはそこから抜け出すことが出来ますか?







という訳で、再びLabyrinthのCMありがと〜。

美姫 「うーん、やっぱり本家の人が書く方がキャラが動くわね」

くそっ! 負けないぞ!

蓉子 「つまり、また書くと」

……あ、あははは。じ、時間と相談させてください。

美姫 「相変わらず、弱い意志ね」

それが自慢なんです♪

蓉子 「そこまではっきりと言えるのは確かに凄いかも」

美姫 「あー、ダメダメ。少しでも褒めたら調子に乗るから」

いや、今のは褒めてるのか。
まあ、何にせよ面白そうだよな、やっぱり。

美姫 「ウズウズしてるのは本当みたいよね」

うん。まあ、とりあえずは置いておこう。

蓉子 「まあ、気に入ってもらえたのなら良かったわ」

気に入りましたとも。
しかし、とりあえずは現在の長編を完結させるのが先だ!

美姫 「珍しいわね。アンタがやる気を見せるなんて。じゃあ、ついでに聞こうかしら」

蓉子 「どれぐらい進んでいるのか、ですね」

ふっ。全然できてません!

美姫 「口だけか!」

ぶべらっ! ……気持ちだけだと言ってくれ。

蓉子 「大した違いはないような気がするんだけど」

美姫 「蓉子ちゃん、燃やしちゃって」

蓉子 「了解♪」

や、ちょっ、流石にそれは洒落で済まないって!
あ、あちちちぃぃっ! あ、あつっ! な、なに、これ!
き、消えないぃぃぃ。地面を転がっても消えないよ、この炎ぉぉぉぉっ!

蓉子 「私の炎を熱いで済まされるのも複雑ね」

いやぁぁぁぁっ! ゆっくりと身を焦がされていくこの感覚! き、気持ち悪いぃぃぃ。
熱い、痛い、苦しい。

美姫 「あちゃー。下手に手加減するから。
    もっと全力でいっても良いのに。相手を人間だと想定しちゃあ駄目よ」

いや、そこは想定しておけよ!

美姫 「全身から煙を立ち昇らせながら、既に何事もなかったかのように話し掛けてくるアンタを?」

蓉子 「次からは気を付ける事にするわ」

いや、そんな事に気を使わなくていいから!

美姫 「ああ、そろそろ次のCMの時間ね」

また! またか! またスルーなのか!

蓉子 「それじゃあ…」

美姫&蓉子 「CMで〜す」

いや、聞けよお前ら!







西暦20XX年。
人類はゆっくりと、だが確実に滅亡へと向かって歩み始めていた。



夏も近付きつつあるそんなある日、高町家に一通に手紙が届けられた。

「文部科学省から? しかも俺宛て?」

不思議そうに何度も見返すが、やはりそこに書かれているのは自分宛てに間違いないようである。
そんな恭也の様子を眺めていたなのはたちであったが、不意に美由希が納得したように手を打つ。

「そっか。遂に恭ちゃんの授業態度の悪さが文部科学省にまで届いて…。
 ああ、我が兄ながら情けない」

黙したまま封を切り中を改める恭也に、美由希は更に調子付いたのか更に続ける。

「全く、ちゃんと勉強しないからそんなのが来るんだよ。
 きっと、何処かに幽閉でもされて無理矢理勉強させられるんじゃないの?
 ああ、無理か。だって、今までちゃんと勉強してなかったのに、急に恭ちゃんが出来る訳ないよね。
 もしかしたら、小学校からやり直しとか? はいは〜い、1+1=2ですよ〜とか」

とことん調子に乗る美由希を、なのはたち妹三人組みは少し哀れみを含んだ目で見つめる。
その顔は如実にいい加減に学習しなよといたもので、その目はいつの間にか手紙から顔を上げて、
静かに美由希を見つめている恭也に気付くように促すものに変わる。
美由希もようやく気付いたのか、恐る恐る恭也の方を向くと、暫しの沈黙を挟んだ後、
徐に相好を崩してにへらと表現するのが相応しい感じで大きな笑みを見せる。

「なぁ〜んてね。こんなの冗談だって分かってるよね、恭ちゃん。
 もうそんな怖い顔したら駄目だよ。あははは〜、あ、あは、あはは…」

「可哀想な妹よ。普段から何もない所でこける奴だとは思っていたが、遂に打ち所が悪かったか。
 だが、安心しろ美由希。兄はそんなお前を決してないがしろにしたりはしないぞ。
 例え、一人ランドセルを背負って小学生と一緒に通学する事になっても、
 俺はそんなお前から50メートル離れた所で他人のフリをしながら見守ってやる」

「それ、完全に見捨ててるのと同じ! って言うか、何で私が小学生からやり直さないといけないの。
 恭ちゃんじゃあるまいし…あっ!」

「やっぱり、そんな事を思っていたのか?」

「いや、だからあれは冗談でね。ほら、怒らないで…」

慌てて恭也を宥める美由希に、恭也は疲れたように肩を落とすと、
中に入っていた手紙をテーブルの上に置く。
読んでみろとばかりに顎で手紙を指しながら、その内容を簡単に話して聞かせる。

「確かに封筒には俺の名前があったが、中の手紙は俺とお前宛てだ」

「え、えー! 何で! 私、恭ちゃんと違って真面目に授業だって受けてるのに!」

「落ち着け、馬鹿弟子。国の偉い人がわざわざ一個人の授業態度に手紙なんぞ出すか。
 詳しくは分からないが、俺とお前を転入させたいらしい」

「転入? 二学期から?」

「いや、今すぐにでもと書いてあったな」

「何で?」

あまりの事態に美由希も思考力が止まったのか、単語、単語で区切って尋ねてくる。
それに恭也も訳が分からないなりに返しつつ、

「さあな。そこまでは書いてなかった。ただ、説明をしたいので都合の良い日を教えてくれと」

「えっと、明日の日曜日でも良いのかな」

「良いんじゃないのか。向こうからそう言ってるんだしな。駄目なら、断ってくるだろう。
 なら、明日にでもするか」

「うん。分からないまま過ごすのも気持ち悪いから、さっさと知りたいし」

「じゃあ、俺は今から連絡するからな」

「お願い」

そんなやり取りの後、恭也は立ち上がると電話の元へと歩き出し、リビングを出る前で足を止めて振り返る。

「そうそう、美由希。今日の鍛錬が楽しみだな。
 明日は予定が入る事になるかもしれないから、今日の鍛錬はちゃんと生き延びろよ」

それだけを言い捨てて立ち去るその背中に向けて美由希は泣きそうな声で叫ぶ。

「生き延びるって何!? ねぇ、ちょっと! きょ、恭ちゃん、本気じゃないよね。ねぇ」

美由希の悲痛な声に、しかし恭也は振り返る事はなかった。
美由希はネジの切れたブリキのように、ギギギと首を回して一部始終を見ていたなのはたちへと視線を移す。

「ほ、本気じゃないよね、ね」

「えっと、うちはそろそろ夕ご飯の支度をせなあきませんから」

「あー、なのはちゃん、ゲームでもしようか」

「う、うん、そうだね晶ちゃん」

「ね、ねぇ、誰か、誰でも良いから否定してよ、ねぇ、ねぇってば!」

そんな美由希の叫びだけが、暫くリビングに木霊するのだった。



「ここが新東雲学園研究都市か」

「凄いよね。この埋立地全てがそうなんでしょう」

「みたいだな。問題は、何故俺たちがこんな所に転入させられたのか、だな」

「だよね。確かに手紙よりは詳しい説明をしてくれたけれど、結局は分からず終いだったしね。
 なのに、よく来る気になったよね」

「そういうお前もな」

恭也の言葉に美由希はただ黙る。
理由など簡単で、恭也が来ると言ったからである。
だが、それを口にするつもりもなく、理由がそれだけでもなかったからだ。
だから、美由希はそちらの理由を口にしようとし、同時に恭也の声と重なる。

「「勘だ(かな)」」

共に顔を合わせて小さく笑い合うと、二人はとりあえずは指定された場所へと向かう。
そこで待っていた研究主任の伊集院観影に簡単な建物の配置を説明されると、
恭也と美由希は部屋の場所を教えられて、今日はここで解散と一方的に言われる。
どうも研究の方が忙しいらしく、立ち去る観影の背中を見送りながら、
二人は教師も兼ねているという言葉に不安を感じる。
そんなに研究で多忙なのに、授業が出来るのだろうかと。
美由希は割と本気で心配していたが、恭也はすぐにそう問題でもないかと切り替え、教えられた部屋を目指す。
その途中、恭也は前方から歩いてくる人影に気付いて立ち止まる。
向こうもこちらに気付いたらしく、二人に気付くと小さく頭を下げる。

「こんにちは」

「ええ、こんにちは」

「あ、こ、こんにちは」

立ち止まった少女の挨拶に返す恭也の隣で、美由希は少し驚いた後に挨拶を返す。
少女はじっと恭也と美由希を見つめる。
普通ならじっと見つめられて居心地が悪くなる所だが、少女の雰囲気の柔らかさか別段そのような事も感じず、
ただ二人は困惑したように少女を見返す。
それが分かったのか、少女は慌てて頭を下げて謝る。

「ああ、すいません。初対面の方をじっと見ているなんて。本当にごめんなさい」

「いえ、気にしてませんよ」

恭也は少女にそう声を掛け、そこで少女の目が光を宿していない事に気付く。
美由希も気付いたのか、小さく息を呑む気配が伝わる。
そんな妹の態度に内心で呆れつつも、恭也は何事もなかったかのように話し掛けようとして、
少女が美由希の態度に気付く。

「ご覧のように、冬芽は目が見えないのです。
 ですが、魂魄を感じる事が出来るのでそう困る事はないんですよ」

前に那美から聞いたことがあるような単語に反応する二人に、自らを冬芽と呼ぶ少女は少しだけ語ってみせる。
曰く、人だけでなくあらゆる物にあり、
それを見ることで霊的な目として物や人の居る位置が大まかに分かるのだろうだ。

「へー、凄いですね」

「はい、凄いんです」

美由希の素直な感想に可笑しそうに小さく微笑みながら冬芽はそう返す。
だが、その後で少しだけ困った顔になる。

「ですが、それでもやっぱり分からない事とかもありますけれどね。
 今も、部屋の鍵が合わなくて聞きに行こうと思ってたところなんです」

「部屋の鍵が? 出掛ける前はちゃんとかかったんですよね」

冬芽の言葉に恭也が尋ね返すも、冬芽は小さく頭を振る。

「いえ。それが先ほどこちらに来たばかりなので」

「あ、それじゃあ私たちと同じだね」

「ああ、そうなんですか。あ、申し送れましたが、私、刀伎直冬芽(ときのあたい ふゆめ)と申します」

冬芽の自己紹介に恭也と美由希も自らの名を語る。

「部屋は何処ですか?」

「この先、一番奥だと伺ったのですが」

「俺の隣ですね」

「そうなんですか」

「ええ。俺たちも今日来た所なんです。
 どうやら、来た順に部屋を割り当てているのかもな」

隣同士という事で、恭也たちは冬芽を連れてもう一度部屋へと向かう。
その途中軽い話をしている間に、冬芽と美由希が同じ学年だと分かると冬芽は嬉しそうな顔を見せる。
他愛もない話をしている内に一番奥の部屋へとやってき、冬芽は鍵を取り出す。

「ここのはずなんですが…」

「あー。そういう事か。ユメ」

話している内にユメと呼んでくれと呼ばれ、その様に呼びかける恭也に冬芽は顔を向ける。

「どうかしましたか、恭也さん」

「ああ。ここは部屋じゃなくて物置きのようだぞ」

「ああ、どうりで鍵が合わないはずですね」

「きっと、冬芽ちゃんの目の事を知らなかったんだよ」

納得する冬芽に美由希も合点がいったとばかりに言い、冬芽の鍵を取るとその隣の部屋の鍵穴に差し込み回す。

「あ、やっぱり。空いたよ、冬芽ちゃん」

「ありがとうございます。お礼という訳ではありませんが、お茶でも…。
 あ、そう言えば、まだ荷解きも終わってませんでしたね」

既に運び込まれている荷物の箱を前に苦笑する冬芽に、二人は顔を見合わせて小さく頷くと、
その手伝いを申し出る。慌てて迷惑だからと断る冬芽であったが、二人の言葉に甘えて手伝ってもらう事にする。
そんなこんなで冬芽の荷解きで二人はその日の残りを殆ど費やし、自分たちの部屋に戻る頃には夕暮れであった。
と、部屋に戻る二人を見送りに来た冬芽も含めた三人は、こちらへとやって来る二人の男女に気付く。

「あ、えっと。お隣さんかな。今日からここで暮らす事になる丸目蔵人(まるめ くろうど)。
 で、こっちがりっちゃん」

「もう、蔵人さん。そんなんじゃ伝わりませんよ。
 私は觀興寺六花(かんこうじ りっか)です。よろしくお願いしますね」

二人に対して三人もまた名乗るも、自分たちも今日からだと告げる。
和やかに話が進む中、ゆっくりと運命の歯車が回り始める。



「全部で八つの鍵が必要。鍵とは即ち、君たち八人の事だ。
 君たち八人が選ばれたのは、ある共通点からだ」

――ゆっくりと世界を侵食していく散花蝕(ペトレーション)

「古流剣術の使い手にして、精神的な適正を持っているというね」

――それを解決するための研究チームに協力する事となる恭也たち。
  その方法とは……。

「ほう、御神流か。噂には聞いたことがあるが、使い手に合うのは初めてだな。
 くっくっく。蔵人といい、恭也といい。俺を殺せそうな奴が一度に目の前に現れるとはな」

「信綱に勝てるなんて思わないよ。恭也先輩にも勝てるかどうか」

「俺も勝てそうもないな。だが、蔵人…」

「その割には、負けるって顔もしてねぇぜ」

恭也の言葉に続けるように言う信綱の言葉に、恭也もまた頷く。
それに不敵な笑みを見せる蔵人を楽しげに眺めながら、信綱は恭也へと視線を変える。

「それと恭也。お前のその意見は御神としての言葉か? それとも恭也としての言葉か?」

「どういう事だ?」

「お前は御神だけじゃないんだろう? 確か、御神には裏があったよな」

「つくづく怖い男だな」

不敵に笑いあう恭也と信綱を眺めながら、この場にいた双子の妹の方――黒衣が呆れたように肩を竦める。

「はぁ、何が楽しいのかしらね。まあ、私はお姉ちゃんさえ無事ならどうでも良いけど」

「あら、己の腕を試したいと思うのは仕方ないのではありませんか」

黒衣の言葉にドレスを着込んだ小夜音が薄っすらと微笑みながらそう告げると、美由希も思わず頷いてしまう。

「ふふふ。美由希さんとは気が合いそうですわね。
 音に聞こえ御神の剣。私の新陰流とどちらが速いのかしらね」

「不謹慎かもしれませんけど、他の流派の方とやれると思うとちょっと楽しみですね」

こちらも兄に負けず劣らず、小夜音と二人小さく微笑み合う。
世界を救うためとは分かっていても、強者との勝負にどうして身体が疼くのはどうしようもないのだろう。
こうして、世界を救うための実験が行われる事となる。
果たして、無事に世界を救う事が出来るのか…。

終末幻想アリスマチックハート プロローグ 近日、銀河の向こうで







ふ〜。
何とかかんとか。

美姫 「いや、意味分からないんだけど」

蓉子 「アリスマチックとのクロスですね」

だよ〜。因みに、恭也X冬芽・伊織、蔵人X小夜音のパターンで。

美姫 「まあ、ネタである以上はそんな思惑は関係ないわね」

だな。まあ、単にそのつもりで書いただけということで。

蓉子 「それじゃあ、少し速いですけれど、今週はこれぐらいにして、後はゆっくりとしましょうか」

美姫 「そうね。そうしましょうか」

という訳で今週はここまでです。

美姫 「それじゃあ…」

美姫&蓉子 「また来週〜」


3月23日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、目から涙を流しながらもお届け中!>



「アスラクライン、高町恭也。史上最悪にして最凶の男だ。
 夏目智春、忠告しておこう。彼には関わるな」

そんな一方的な忠告を第一生徒会生徒会長、佐伯玲士郎から受けたのは昼休みの事であった。
その一方的な言葉に智春が呆けているうちに、玲士郎はさっさと歩き去ってしまう。
あの玲士郎が最悪とまで言う人物である。出来るならば自分も関わりたくはないと思う智春へと、
水無神操緒がさっきの言葉を思い返して智春に進言する。

「ねぇ、今アスラクラインって言わなかった?」

その言葉に智春は小さく驚きの声を上げる。
アスラクライン――魔神相剋者、
機巧魔神と使い魔の両方を有する存で、演操者であると同時に契約者でもある人物を指す言葉である。
だが、同時に言葉は悪いがその性質上、副葬少女と悪魔の二股の関係になる事にもなる。
その愛情が一方に傾けば、他方へと悪影響を及ぼすのである。
そんな事を思い出しながらも、智春は今まで名前も聞いた事もない存在故に、
特に関わる事もないだろうと思っていた。
そう、この時はまだ。
だが、彼は忘れていたのだ。天才と称される、自分の兄の存在を……。



「君が智春くんだね。直貴から話は聞いているよ。俺の名前は高町恭也」

突如、智春の前に現れたのは昼に聞かされたばかりの存在であった。
彼の口から聞かされた内容は――。



「あ、あ、あのバカ兄貴ーー!」

毎度の如く、智春を事件へと巻き込んでいく。



「うーん、確かにアスラクラインで最悪な人だとは聞かされたんだけど、
 正直、性格だけ見れば俺の周りでは一番まともな人なんじゃないかな」

「ちょっと、それどういう事よ!」

「い、いてててっ。ちょっ、操緒やめろってば」

騒々しい日常は表面上は何事もなく過ぎていき――



「残念だったな。俺が契約した子が副葬処女(べリアル・ドール) となっているんだ。
 だから、どちら一方へと想いが傾く事もなく、その想いが強まれば使い魔も機巧魔神も共に力を増す」

「……その上、彼自身が古流剣術の使い手だ。それも、凄腕のな。
 だから、関わるなと言ったんだ」

「いや、言ったも何も話を聞く限りでは第一生徒会が悪いんじゃ……」

「いい事を言ったわね、智春。その通りよ。彼を敵視しているのは第一生徒会の連中だけ。
 私たちまで巻き込まないでよね」

次々と明かされていく真実に、智春はただただ流されていく。


アスラ・ハート プロローグ 「最凶のアスラクライン現る」 近日…………。







という訳で、先週の冗談を本当にしてみたんだけれど。

美姫 「本当にCMから入るなんて」

あははは。前代未聞の番組!
そして、これまたもっと凄い技を!

美姫 「何をする気なの!」

まきが出ているので、今週はこれまで!

美姫 「って、早すぎるわよ!」

ぶべらっ!

美姫 「って、本当に終わるの? ねぇ?」

いや、本当に終わるよ。
実は、今腕が筋肉痛で動かないんだ(涙)

美姫 「このどアホーー!」

うぅぅ。K、今度からは重い荷物は業者に頼もうよ……。

美姫 「って、二日前の話しだし!」

いや、正確には二日目だ!!

美姫 「威張るな! それにどっかのネタとかぶってる!」

事実なんだから仕方ないじゃないか!

美姫 「うぅぅ、貧弱バカのせいで、今週はここまでね」

それでは…。

美姫 「また来週〜」


3月16日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、ゲストをお招きしてお送り中!>



いきなりだがCM!

美姫 「そんな訳ないでしょうがっ!」

ぶべらっ!

フィーア 「う、うぅぅ。ぐすぐす。そ、そんなに私が邪魔なんですか」

美姫 「そんな訳ないじゃない。あのバカの戯言は今に始まった事じゃないでしょう」

フィーア 「それもそうですね♪」

いや、そんなにあっさりと納得されても。

美姫 「うるさいわよ。全く、何を考えているのよ」

いや、ほら。ただ何となく?
というのは冗談で、また例によってアハトさんからのお土産を持参してもらってるんだが…。

美姫 「良いことじゃない」

いや、それ自体はな。ただ、どうやって持ってきたかを聞くのが怖い…。

フィーア 「それはですね。まず、問答無用で書かせて完成と同時に後ろから…」

わーわーわー! 聞こえない〜、な・に・も・き・こ・え・な・い〜〜〜〜!!

美姫 「御主人様、そろそろCMの時間ですが」

それは大変だな。うんうん。準備をしなくては。

美姫 「それでは、アハトさんから頂いたCMをお流ししてもよろしいでしょうか」

ああ、もうバンバン流しちゃってください。

美姫 「かしこまりました」

フィーア 「あ、あーっと…、何も聞こえないんじゃ。それに、お姉さまもいつの間に着替えて…」

美姫 「ふっ、愚問ねフィーア。浩の相棒よ、私は。もう長い付き合いだもの。
    メイド服への着替えは一秒と掛からないわ」

うんうん。それでこそ美姫だ。

美姫 「あら、御主人様に褒めて頂けるなんて、今日は何て良い日なのでしょうか」

フィーア 「あ、あははは。流石にこればっかりはまだ付いていけません、お姉さま…」

珍しく、今日は良い日じゃないか。
こうな状態でCMに行けるなんて、実に久しぶりだぞー!

フィーア 「それはそれで少し虚しいですね」

ふっ、今ならそれぐらいの言葉も余裕で聞き流せるさ。
さあさあ、さっさと行くぞ。

美姫 「そうですね。それではCMです」







さぁ、行こう―――――
偉大なる父と、人災たる母の血を受け継いで……




「みなさん、今日はこのクラスに新しい転校生がやってきます」

男性の、と言ってもそれよりか幾分若い男の声が部屋に響く。
ここは麻帆良学園女子中等部3−A組。
そして、この男性は、
このクラスの担任を務めるネギ・スプリングフィールドである。

「それでは、入ってください」

ネギの声に反応して、教室のドアの前の扉が開く。
そして、そこから腰よりも長い紫の髪をした少女が入ってくる。
身長は160前後ぐらいで、その瞳は黒い。
少女は扉の前で一礼、教卓の横について再び一礼をする。
その少女を見た生徒の数名が、驚いたような顔をする。

「このたび麻帆良学園女子中等部に編入してきました、
月村 魔璃(つきむら まり)です。
皆さん、今年一年間よろしくお願いします」

少女、魔璃が自己紹介をすると教室から盛大な拍手が起こる。

「それでは、HRとこの後のLHRは月村さんへの質問にしたいんですけど」

「はい、構いませんよスプリングフィールド先生」

ネギの言葉に、魔璃は頷く。

「あっ、僕の事はネギでいいですよ、月村さん」

「では、私の事も魔璃、とお呼びください」

名前で呼んでも良いと言うネギに、魔璃も自分も名前で良いと言い返す。
その後、魔璃に対する質問が沢山あがり、魔璃はそれにすべて答えた。

そして、一時間目のチャイムが終わり、教室が少しざわめき出す。
そんな中、魔璃は思い立ったように立ち上がり、教室の後ろの方へと進む。

「お久しぶりです、エヴァさん、茶々丸さん」

「あぁ、久しぶりだな魔璃」

「お久しぶりです、魔璃さん」

魔璃はエヴァと茶々丸に声をかけ、
エヴァと茶々丸も、魔璃に声をかけ返す。
そのやり取りに、周りにいた生徒は驚く。

「魔璃ちゃん、エヴァちゃんと茶々丸さんと知り合いだったの?」

クラスを代表して、朝倉が魔璃に尋ねる。

「はい、母がエヴァさんと知り合いでして。
その縁で私も仲良くさせてもらっています」

そんな朝倉に、魔璃は答える。

「そういえば、ヤツは元気か?」

「えぇ、最近エヴァさんに会えないので少し寂しそうでしたよ」

エヴァの問いに、魔璃は苦笑しながら答える。

「魔璃、随分久しぶりヨ」

「あっ、超さん、葉加瀬さん。 お久しぶりです」

挨拶をしてくる超とその後ろにいる葉加瀬に挨拶を返す魔璃。

「えぇぇ、魔璃ちゃんって超や葉加瀬とも知り合いなの!?」

驚きながら、朝倉が再度魔璃に尋ねる。

「はい、超さんも葉加瀬さんも母の知り合いでして」

苦笑しながら、魔璃は答える。

「魔璃ちゃんの母親って何者……?」

「そうですね、一言で言えば変人でしょうか」

魔璃の答えに、エヴァや超、葉加瀬は笑い出す。

「確かに、初めてヤツを見たなら変人といえるだろうな」

「そうネ、あの人私達より面白いヨ」

「でも、あの人の技術には感心しますけどね」

そして、三人とも色々な意見を言い出す。

「魔璃さん、ノエル姉さんはどうしていますか?」

「相変わらず母さんに色々な機能を付け加えられてますよ」

茶々丸の言葉に、魔璃は少し困ったように答える。
そこで、ちょうど二時間目の開始のチャイムが鳴る。
そして、放課後に魔璃の歓迎会が開かれたのは言うまでも無い。


夜、魔璃は己の部屋で荷物の整理をしていた。
急な転校だったので、二人部屋を一人で使っているのだ。

「さて、そろそろ今日の鍛錬に行きますか」

そう言って、大きなボストンバックの中から、
二つの布に包まれた棒状のものを取り出す。
その布を取り除くと、包まれていたのは……

「行きますよ、八景、焔」

魔璃の父より受け継いだ愛刀、八景と。
魔璃の為に母が開発した機刀、焔。
その二つを背中に挿し、魔璃は部屋から出て行った。





月村 恭也、旧姓高町 恭也と、月村 忍の間に出来た二人目の子供。
振るうは父より受け継がれし御神の剣。
内に流れるは母より遺伝せし吸血の力。
その二つを併せ持ち、少女は麻帆良の夜を翔ける。



月村 魔璃の麻帆良冒険譚



2007年、4月より放映開始――――――――




だったら良いなぁ、と思うのは私だけ?







美姫 「ふ〜、疲れたわ〜」

あれ? あれ? メイドヴァージョンは?
ねぇ、ねぇ。

美姫 「もうお終いに決まってるじゃない」

ぶ〜ぶ〜。と、文句をたれるのはこれぐらいにして…。
ネギま! とのクロスみたいだけど、主人公が娘に。

美姫 「これはこれで楽しそうよね」

うんうん。4月より本当に放映がされるのかどうか。

フィーア 「うーん、どうなんでしょうか」

美姫 「フィーアも知らないの」

フィーア 「はい。教えてくれないんですよ」

むむ。その辺りが気になるな。
でも、あと一月程もすれば事実は分かるか。

美姫 「そうよね。それまで楽しみ待ってみましょう」

フィーア 「そうしてください」

しかし、それにしても急に冷え込んだな。
あまりの気温の変化に身体がおかしいよ。

美姫 「それ以前に、アンタにとっては花粉症が問題だけれどね」

だな。毎年、毎年嫌になるよ〜。

フィーア 「でも、もうすぐで終わりじゃないですか」

甘い!

美姫 「甘すぎるわよ、フィーア」

そう、練乳入り蜂蜜ワッフルよりも甘い。

美姫 「その通りだわ!」

所で、練乳入り蜂蜜ワッフルは美味しそうだと思うんだけどな。

美姫 「まあ、アンタはかなりの甘党だからね。でも、私も美味しそうだと思うわ」

美姫も甘いものが好きだからな。
うーん、激辛があるんだから激甘があっても良いと思うんだが。

美姫 「聞かないわね、激甘って。ほら、辛いものだと、X2、X3、X10とかあるじゃない」

ああ、あるな。でも、甘さでは聞かないな。

美姫 「よね〜」

フィーア 「え、えっと、浩さん、お姉さま?」

ん? おお、そう言えば何の話だっけ?

美姫 「花粉の話よ」

フィーア 「流石はお姉さまです!」

美姫 「まあね。で、話を戻すけれど」

俺の花粉症はこれから益々酷くなるんだよ。
杉だけじゃないんだよ。
五、六月に向けて……。

美姫 「益々酷くなるのよね」

ああ。今でさえ目は痛い、痒い、鼻はずるずるだけどな。

フィーア 「更に酷くなるんですか」

ああ。うぅぅ、花粉が憎い。

美姫 「まあ、それが自然というものだもの。諦めなさい」

ぐすぐす。もうこの時期は本当に辛いっす。

フィーア 「本当に大変そうですね」

美姫 「まあね。私には分からないけれどね。まあ、それはそれとして」

フィーア 「何処まで進んだか、ですね」

美姫 「そうよ。で、どうなの?」

うぅぅ。スンスン。何かもう頭が回らないというか。
もうこの時期は思考能力が低下するというか。

フィーア 「えっと、つまりどういう事ですか?」

美姫 「つまり、出来てないのよね」

ぐしゅぐしゅぐしゅ。鼻が詰まる〜。

フィーア 「えっと…」

美姫 「うん、出来てないみたいね」

流石だな、美姫。言葉にしなくても分かるなんて。

美姫 「まあね。で、私が次に何をするのか分かる?」

ふっ、愚問だな。それこそ、よく分かっているさ。

フィーア 「む、胸の前で手を合わせて合掌の恰好って……。
      そんな覚悟をする前に書けば良いんじゃ…」

それが出来れば、今こうしていないさ。

フィーア 「そ、それもそうですね」

美姫 「どっちにせよ、威張れる事じゃないけれどね。という訳で…」

ナムサン!

美姫 「ぶっとべーー!」

うぎょばみょりょぉぉぉっっ!!

フィーア 「えっと、それじゃあひとまずは…」

美姫 「CMよ〜」







恭也は呆然とこの事態を傍観していた。
いや、自身も当事者である以上、傍観ではないのだが。
ただ、思ってもいなかった突然の事態に呆けてしまい、更にやや混乱しているらしく、
らしくもなく指一本動かす事なく現状をただ受け入れていた。
時間にして僅か数秒ほどの事ではあったが、恭也にはそれはともて長く感じられた。
呆然と見開かれた瞳に映るのは、染めたものとは違うごく自然の、
それでいて今までに見たことのないような薄い桃色の髪。
閉じられた瞼から伸びる長い睫毛が微かに震えており、目の前の少女が緊張していると理解する。
そこまで恭也が考えた時、不意に柔らかな感触で塞がれていた唇が解放される。
ようやく事態を飲み込んだ恭也は、いきなりキスをされた事に驚き目の前の少女を見上げる。
何か言おうと口を開こうとしたその時、不意に左手が光を放つ。
見れば、見たこともない模様が甲に刻まれていた。
別段痛みもなく、光もすぐに収まる。

「これまた珍しいルーンですね」

その左手の紋様を年配のローブを着た男性が覗き込みながらそう呟く。
手にした紙に恭也の手に現れた文様――ルーンを書き留めている。
未だに事態を飲み込めずにいる恭也の前で、少女は一人小刻みに震え、怒りの篭もった視線を恭也へと向ける。
その内、男性の言葉に他の少女と同じ年ぐらいの少年、少女が空へと飛び上がる。
HGSかとも思ったが、リア―フィンも展開していなければ、あまりにも一箇所に大勢居過ぎる。
そこまで考えて、恭也はまた面倒な事に巻き込まれたと諦観した相で目の前の少女を見つめる。
自分の事を使い魔と呼び、自らを主人だと主張するルイズと名乗った少女を。

「とりあえず、幾つか聞きたいのですが」

恨めしげに空を見上げていたルイズは、恭也へと視線を戻す。

「何で、何で、何で平民なんか、平民なんかが…」

とりあえず色々と聞きたい恭也であったが、学院という所に戻らないといけないというのは分かった。
そして、それを告げたあの年配の男性が教師であろうと。
現状が分からないながらも、自分とルイズも学院へと行かないといけないと察し、諸々の聞きたい疑問を抑え、

「早く学院に戻った方が良いんじゃないんですか」

「っ! 分かってるわよ! 行くから付いて来なさい!」

言って歩き出すルイズに、恭也は当然のように疑問を口にする。

「他の人たちみたいに飛んでいかないんですか?
 もしかして、俺に気を使って歩かれているんですか?」

その言葉にルイズは全身を震わせ、すぐに口を噤むと肩を怒らせて歩き出す。
何か怒らせるような事を言っただろうかと悩みつつ、恭也はルイズの後を付いていくのだった。
隣に並んで歩きながら、今まで見たこともないような植物などを目にして恭也はある確信に辿り着く。
それは…。

「異世界か。はぁー、足元にあったあの変な図形が原因だろうな」

休日の病院帰り、突如足元に現れた奇妙な図形。
本能的に何かを感じて飛び退こうとしたが、その飛び退くための足場が図形の中心であり、
恭也の身体は簡単にその中に入ってしまった。
すぐに気を失い、気が付けばルイズが目の前にいて顔を近づけてきていたのだった。
思わず唇の感触を思い出して赤くなりつつ、恭也はルイズへと色々と話し掛け、ここが異世界だと確信する。

「ハルケギニア、か」

「しかし、異世界だなんて信じられないわね」

全く信用していないという目で見てくるルイズに、恭也は気を悪くした風もなく、
これが当然の反応だろうなと諦め半分で肩を竦めるのだった。
元の世界へと戻る方法も分からず、また手掛かりもない状況では、
自らを恭也の主人だと言うルイズ以外に頼る者もおらず、恭也は大人しく従うのであった。



こうして、恭也の使い魔ライフが幕を開ける。



当初、同じ部屋だという事に難色を示した恭也であったが、
使い魔として洗濯と掃除をやれと言われて渋々と納得する。
部屋の隅に毛布で包まって眠る恭也。その目の前で行き成り服を脱ぎ出すルイズ。
あまつさえ、恭也に着替えの世話までさせるのである。

「あのね、貴族が仕える者が傍にいるのに自分でそんな事をする訳ないでしょう」

どうやら、恭也を男として認識していないらしく、あくまでも使い魔として扱うルイズ。
戸惑いつつも大人しく服を着せてやる。不意に小さい頃のなのはを思い出すが、すぐに首を振る。
小柄だがルイズは美由希と同じ年齢である。
しかも、肌は真珠のように白く滑らかで、黙っていれば間違いなく美少女である。
顔を赤らめつつ着替えを終えると、恭也は次にどうするのか尋ねる。

「朝食を取るわ。ついてらっしゃい」

昨日から何も食べていない事を思い出し、恭也も流石に空腹を覚える。
ルイズの後ろから付いて行った食堂には、朝から豪華な食事が並ぶ。
そのあまりの贅沢さに思わず周囲を見渡す恭也であったが、ルイズが席に着こうとしたのを見て椅子を引く。

「あら、平民のくせに良く分かったじゃない。
 まあ、私の使い魔なんだから、それぐらい気を使ってもらわないと…って、何処に座るつもり?」

隣に座ろうとした恭也を咎めるルイズに、隣は駄目なのかと一つ離れて座ろうとするも、
ルイズは床を指差す。

「あのね、平民が貴族と同じ席に着ける訳ないでしょう。
 食堂に入れただけでも特別なんだからね。アンタの席はここよ」

流石にあんまりな扱いではあるが、恭也は大人しく床へと胡座をかく。
その目の前に、具の殆ど入っていないスープと固そうなパンが一つ差し出される。

「……これは?」

「アンタの朝食よ。ありがたく頂戴するのよ」

「これは流石にあんまりでは…。贅沢は言わないが、もう少し量を」

「嫌なら食べなくても良いのよ」

ルイズの物言いに溜め息を吐くと、恭也はそれを大人しく口にするのだった。



青銅のギーシュと名乗った少年が薔薇を振ると、その目の前に鎧甲冑を身に纏った女性を象った銅像が現れる。
それは生きているのと変わらないぐらい滑らかに動き恭也へと向かってくる。
腹に突き出された拳を身を半分捻って躱し、逆にその腕を掴んで相手の力を利用して投げ飛ばす。

「なっ、僕のワルキューレが。どうやら平民と思って侮っていたようだね」

ギーシュは狼狽したのを隠すように薔薇を優雅に振り、辺りに花びらを撒き散らす。
すると、ギーシュの周りに先程と同じような甲冑姿の女性が六体現れる。
二体はギーシュを守るようにその前に立ち、残る四体と先程倒れた一体の計五体が襲いくる。
包囲されて上で飛んでくる拳を全て躱す恭也。
しかし、こちらからの有効な攻撃手段が思いつかない。
見たところ、人ではないようである。
そうなると素手での撃破は難しいだろう。
せめて刀があればと思う恭也であったが、完全な丸腰ではないにしても、
今ある武装は鋼糸と飛針が数本のみである。
これでは決定打に欠ける。
困ったように周囲を見渡しながら、恭也は全ての攻撃を躱し続ける。
周囲の貴族たちから驚きの声が上がるが、そんなものは恭也の耳には届かない。
辺りを見て武器になりそうなものがないかだけを探す。
が、先に相手のほうが焦れてきたのか、何やら命令を下す。
それに答えて恭也の周りを囲んでいたワルキューレたちが一斉に剣を引き抜く。
流石に剣呑な表情を浮かべる恭也の耳に、ルイズの焦った声が届く。

「恭也、さっさと謝りなさい!」

「何故? 俺は何もしてませんよ」

「平民が貴族に敵う訳ないでしょう」

今ここに来たばかりのルイズは恭也の動きを見ていなかった。
だからこそ心配そうにそう声を上げるのだが、恭也は逆にルイズに尋ねる。

「それよりも、何か武器になるものはありませんか?」

「何を言ってるのよ」

ルイズとの会話に僅かとは言え気を取られ、恭也の腕に一本の剣が掠る。
大した傷ではないが、このままルイズと話していても仕方がないと判断し、
恭也はまずはこの包囲網を出る事にする。
自分から初めて前へと出て、左右正面から襲いくる剣を紙一重で躱し、そのまま駆け抜ける。
一体の横をすり抜けざま、拳を腹部へと当てて徹を込めて殴る。
しかし、相手の動きが一瞬止まっただけですぐに動き出す。

「やはり無駄か。別に内部に人や動力があるという訳ではないということか」

武器がないか探す恭也へ、再び包囲せんと動き出すワルキューレたち。
喚くルイズの声を聞きながら、恭也はやや怒鳴りつけるように言う。

「良いから、何か武器を! 何でも良い! 少しは自分の使い魔を信じろ!」

恭也に初めて怒鳴られ、思わず口篭もったルイズだったがすぐに怒ったように反論する。
そんな二人のやり取りに呆れたように肩を竦め、
ギーシュは余裕を見せるためか恭也の足元に練金で作り出した剣を投げる。

「よければ使いたまえ」

恭也がそれに手を伸ばそうとした瞬間、ルイズがまた叫ぶ。

「駄目よ! それを手にしたらギーシュの奴は本気で来るわよ」

ルイズの言葉を耳にしながらも、恭也はその剣を手にする。
自分の意地のためではない。ギーシュの吐いた決闘するに至った場所に共にいた給仕の少女に対する暴言、
そして何よりも主人であるルイズに対する侮辱。それらを撤回させるために、恭也は剣を手に取る。
途端、左手のルーンが輝き、いつも以上に身体が軽くなる。
軽くなるだけでなく、こちらへと攻撃してくるワルキューレの動きがさっきよりも更に遅く見える。
疑問が浮かぶがそれらを全て頭の片隅に押し退け、恭也はこちらへと向かってくる六体の動きを一瞥する。
防御に置いていた二体のうち一体まで更に攻撃に加わってきたが、それは大した問題ではなかった。
恭也は一瞬で六体の中心へと飛び込み、剣を振るう。
まるで紙を斬り裂くかのように六体を一瞬で切り裂くと、それらは全て花びらとなって消え去る。
周囲が、ギーシュが驚きの声を上げる中、恭也はギーシュへと詰めより、
護るように立っていた残る一体も軽く斬り捨て、ギーシュの足を払って地面へと転がす。
その顔のすぐ横へと剣を突きつける。

「まだやるか」

「こ、降参する、降参するからゆ、許してくれ」

「だったら、さっき食堂で口にした言葉を取り消せ」

恭也の言葉にコクコクと頷くギーシュに興味を無くしたのか、恭也は剣から手を離す。
未だにざわめく周囲を余所にルイズの元へと近付く恭也に、こちらも興奮した様子で近付く。

「凄いじゃない、恭也。アンタ、あんなに強かったの」

「元々剣術をやっていたんだが、剣を手にした途端、いつもよりも力が湧き出てきました」

「そう。どっちにしても凄いわ。あのギーシュの顔ったら。うん、よくやったわ」

ご機嫌なルイズを見下ろしながら、恭也は自分の左手のルーンを見る。
あの時、間違いなくこのルーンが光った。
それからだ。恭也の身体能力が上がったのは。
不思議そうにルーンを眺めていた恭也であるが、分かるはずもなく、
使い魔の契約として出たルーンだから、何か力があるのだろうと適当に結論を出すのだった。

この時はまだ、恭也もルイズもこのルーンが何を意味するのか分かっていなかった。
まさか、伝説をその身で体現する事になるなどとは。
また、後に様々な事件に巻き込まれ、また首を突っ込んだりとかなり忙しい日々を送る事になるなど、
それこそ、現時点での二人に知る由もないのであった。

ゼロの使い魔剣士 プロローグ XXXX年公開?







う、うぅぅ。
目に鼻に続き、今度は身体が痛い。

美姫 「や〜ね〜、花粉症って怖いわ」

フィーア 「本当ですね」

こらこらこら。これは明らかにお前のせいだからな。

美姫 「そ、そんな何を証拠に」

フィーア 「冤罪だわ。浩さんはお姉さまに冤罪を着せようとしてるわ」

おいおい。ちょっと前に戻って見てみろ!

美姫 「うーん、やっぱり私の所為じゃないわよね」

フィーア 「はい」

うお〜い!

美姫 「だって、日常茶飯事のことしかないじゃない」

……むむ。それはそうだが。

フィーア 「自分たちで言っててなんですけど、それで納得しちゃうんですね」

美姫 「まあ浩だしね」

それ、読み方はバカになってるだろう、絶対。

美姫 「さすがね、よく分かったじゃない」

まあな!

フィーア 「いや、褒めてないんですけど」

ん? 何か言ったか。

フィーア 「いいえ、何にも」

そうか、そうか。
おお、そうそう。ほら、前にクロスだけで試した細かく階層分けたパターンの奴。

フィーア 「ああ、新しい目録ですね」

目録と言うかどうかは知らないけど。
あれの反響が半々でな。
と言うか、駄目という意見はなかった。

美姫 「じゃあ、ツリー構造を止めてあっちにするの」

いや、まだ決めてないんだよな。と言うか、結構作業しんどいし。

美姫 「単に怠けたいだけじゃないの?」

……さーて、そっちは置いておいて。

フィーア 「自分から言ってて置くんですか」

美姫 「気にしたらお終いよ、フィーア。このバカが自分の言った事を覚えている訳ないじゃない」

フィーア 「でも、幾らなんでも早すぎませんか? さっき言った事ですよ」

美姫 「あなたはまだ浩を甘く見てるわ」

フィーア 「って事は」

美姫 「ええ。今ごろ既に忘れてしまって、忘却の彼方よ」

んな訳あるか! 幾ら俺でもそこまで酷くはないっての!

フィーア 「物忘れが激しいのは否定しないんだ」

そ、そんな事はないよ。

美姫 「はいはい。さーて、それじゃあ、そろそろ本当に」

フィーア 「あ、そうですね。そろそろ時間みたいですね」

って、俺の話を聞いてくれよ、なあなあ。
本当だよ、本当に酷くないんだよ。
ただ、ちょ〜っと、ほんのちょ〜っと人様よりも記憶容量が少ないだけなんだよ。

フィーア 「それって、新しい事を覚えたら、前の事は忘れるって事じゃ…」

…………あれ?
いやいや、違うんだよ。今のは例えが悪かった。
そう、俺の記憶力は2ビットなんだ。

美姫 「すくなっ!」

少ないのか!

フィーア 「分からないのなら、そんなの使わないでください」

う、うぅぅ、反省します。もう、大人しくしてます。

美姫 「全く、本当にバカなんだから」

フィーア 「まあまあ、お姉さま」

そうそう、美姫。

フィーア 「た、立ち直りも早いですよね」

とりあえず、今週はここまで。

美姫&フィーア 「また来週〜」


3月9日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、公共のWebに乗せてお届け中!>



三月〜、鼻がぐしゅ、ぐしゅ〜

美姫 「もう、鼻を鳴らさないでよ」

仕方ないだろう。

美姫 「あ、そう言えば、鳴かぬなら、っていう句があるじゃない」

ああ、あるな。というか、突然だな。
まあ、お前なら間違いなくころ…。

美姫 「ひ〜ろ〜。発言はよく考えてからしましょうね♪」

あは、あはははは。えっとそれがどうしたのかな?

美姫 「アンタならどれかなって思ってね」

そうだな。俺なら…。
鳴かぬなら 俺が鳴こう ホトトギス
ってのはどうだ。

美姫 「新たに作るのね」

ふっ。

美姫 「いや、威張る事じゃないわよ」

へいへい。で、これがどうしたんだ。

美姫 「いや、それで鳴かぬのなら、じゃなくて書かぬのなら、にしたらどうなるかな〜って。
    そうなのね。アンタは書くのね」

いやいや、鳴かぬ場合の話であって書く場合はやっぱりのんびりと書くまで待とうを…。

美姫 「だったら私は書かせてみせよう、ね。それでも書かないようなら、ころ…」

うわぁぁっ! やっぱり最初に言ったので合ってたじゃないか!

美姫 「鳴かぬならの場合は違うわよ」

う、うぅぅ。それはさっき俺が言った。
でも、鳴かぬならどうするんだ?

美姫 「鳴かぬなら 浩を鳴かそう ホトトギス」

……何が変わってるんだよ!

美姫 「ほら、鳴くのはアンタな訳よ」

ああ、って、そこだけかい!

美姫 「ほらほら、鳴きなさい」

クックドゥードゥードゥー。

美姫 「何で、そんな鳴き声なのよ」

どうしろと。

美姫 「何でも良いわ、泣け、泣くのよ!」

って、字が違っている気がするんですが!

美姫 「冗談はこれぐらいにして…」

冗談でボコボコにされた俺の立場は?

美姫 「今更、そんな事を言いっこなしよ」

……いや、確かに今更なんだがな。
おまえが言うなよ、お前が。

美姫 「えっ? なになに。CM?」

うおぉぉい、都合の悪いところは聞こえないのかよ!

美姫 「それじゃあ、CMよ〜」

うぅぅ、これこそ今更だったな…。







運命とは面白いもので、あの時少しでも違う事をしていたら私たちは出会う事さえなかっただろう。
そう、兄とその少女の姉が出会わなければ、その妹である私たちも出会う事もなく、
出会わなければ、あの事件を知ることもなかったのであろう。
だが、現実にIFなどは存在せず、私たちは出会ったのだ。
だから今があるとも言える。
これは、私たち兄妹が出会ったとある姉妹との一つのお話。



「そうなんですか」

「ええ。本当に困ったものです」

海鳴市にある大きな病院。そこの病室の一室で何やら楽しげな話し声が聞こえてくる。
とは言え、もっぱら笑っているのは少女の声で、男性の声はそれに時折相槌を打つような形であるが。

「ふぅー」

散々笑い目の端に浮かんだ雫を拭い去ると、少女は小さく溜め息を吐き出す。

「ああ、すいません。少し話し込んでしまいました。
 俺もそろそろ失礼しますんで、ゆっくりと休んでください」

「そうですね。それじゃあ、そろそろ休ませてもらいます」

「ええ。それじゃあ」

「あ、高町さん」

「どうかしましたか、如月さん」

病室を後にしようとした男性――高町恭也を、ベッドに横になりながら少女――如月さゆりは呼び止める。
律儀にもこちらへとちゃんと振り返り、身体ごと向き合う恭也にさゆりはにっこりと笑顔を見せる。

「今日は本当にありがとうございました」

「いえ。俺の方こそ助かりました」

「そう言って頂けるとこちらも助かります。
 今度、病室を移る事になったので、次はいつ会えるか分かりませんが、またこの病室に戻ってきた時には」

「そうですね。またフィリス先生の夜勤と重なった時にでも」

恭也の言葉にクスクスと笑いながら小さく手を振る。
手を振るのは恥ずかしかったのか、恭也はさゆりに会釈で返すと病室を後にする。
恐らくは診察室で待っているであろうフィリスの下へと。



少し前のフィリスの夜勤に付き合っていた時であった。
恭也が彼女、さゆりの事を知ったのは。
フィリス曰く、難病を患い余命幾ばくもないという事を。
だからと言って、恭也に何が出来るでもなく、それを辛そうに話すフィリスをただ慰めるしか出来なかった。
だが、その三日後、膝の診察の帰りに恭也はまたしてもさゆりと出会ったのである。
互いに顔は何度か会って知っているも話したことなどなく、
この時も互いに会釈をして擦れ違うだけのはずであった。
恭也の脇を通り過ぎようとしたその時、さゆりが突然しゃがみ込まなければ。
苦しそうに胸を押さえ、額からは大量の汗を流すさゆりに恭也は急に動かして良いのかどうかも分からず、
ただ近くの看護士に急いで声を掛ける。
慌てて駆けつけたその人はさゆりを軽く診察するとすぐに診療室へと運ぶ必要があると告げる。
とは言え、ここから診療室まではそれなりの距離がある。女性を抱えて行くよりも、
近くからストレッチャーを取ってくる方が早いと判断して走り出そうとした看護士を呼び止める。

「少し我慢してください。すいません」

さゆりにそう声を掛けると恭也はさゆりを抱き抱える。
すぐに恭也の意図を察した看護士は先導するように恭也の前を走り出す。
その後に続きながら恭也はさゆりを診療室まで運び込んだのだった。
幸い発作はそう大したものではなく、すぐに医師による投薬でさゆりの容態は落ち着いていく。
その間、恭也は服をずっと掴まれていて離れる事も出来ずにその場に佇むしかなかった。
ようやく落ち着いたさゆりはようやく自分が恭也の服を強く掴んでいる事に気付いて手を離す。
謝罪とお礼を言ってくるさゆりに恭也は気にしないように伝えて立ち去るのだった。



次の出会いはフィリスの夜勤に付き合う日のことであった。
膝の診察も兼ねて早めに来たのだが、早すぎたのか時間を持て余してしまったのだ。
その際、さゆりに出会いその事を告げると彼女の病室へと案内されたのだ。
以来、フィリスの夜勤の時は面会時間ギリギリまで彼女の病室で過ごすのが日課のようになったのである。
とは言え、まだ数回程度ではあったが。
だが、それも病室の移動では当分は無理だな。
そう思っていた恭也であったが、それは当分どころではなかった。
何故なら、あの日を最後に恭也が彼女に会う事はもうなかったからである。
その理由を恭也は、さゆりの妹と名乗ったはるかから聞かされる事となる。

姉は自分を助けるための代償として僅かに残っていた時間を払ったのだと。
はるかは生まれつき心臓が弱く、移植しなければ長くは生きられなかった。
そんな彼女に、さゆりは言ったのだ。自分が死んだら、心臓をあげると。
姉妹は一卵性双生児。これ以上の適合者もいないだろう。
だが、あと数年後先のはずであったはずの予定は急遽早まった。
早まってしまったのだ。
はるかが心臓による大きな発作を起こして倒れたのだ。
医者の話では、次に同じような発作が起こったら命の保証がないと言われた。
それを聞いたさゆりは迷う事無く、自身の心臓を使うように頼み込んだ。
だが、そんな事を出来る訳もなく医者は当然のようにその意見を退けた。
出来る限りの事はするからと二人にそう告げて。
はるかとしても、さゆりに死んで欲しくはなくて大丈夫と笑ってみせたのだ。
それを見たさゆりの顔が何か決意したかのようなものであったのだが、
俯いておりベッドで横たわるはるかには見えなかった。
その翌日、はるかは担当の医師より信じられない言葉を聞かされる。
さゆりの突然の死という事実を。
昨日の今日である。医師たちも自殺かどうか徹底して調べた。
だが、結論として言えば自然死。薬物を体内に取り込んだ形跡も何もなかったのである。
それどころか、昨夜はさゆりの病室に誰かが入った形跡さえもなかったのである。
悲しみにくれるはるかを説き伏せ、さゆりの死を無駄にしないためにもすぐさま手術が行われたのである。
無事に成功して術後の経過も順調。明日には退院できるとの事である。
そこまで話をして、一旦言葉を区切るとはるかは恭也を見上げる。

「今日、声を掛けたのは単なる好奇心からでした。
 生前の姉は家族以外のことにはまるで無関心だったんです。
 でも、最近は楽しそうに家族以外の人の事を話してました。
 それが、高町恭也という男性だったんです。姉が強い関心を示していたその高町さんと言う方が、
 一体どんな人物なのか、退院する前に一度会って話してみたいと思ったんです。
 ごめんなさい。わたしのわがままであなたの貴重な時間を取らせてしまって」

「いえ……」

申し訳なさそうに頭を下げるはるかに、恭也は却って恐縮してしまった。
聞いた話の内容もそうだが、何も言えない。
そんなによく会っていた訳ではない。
だが、短い期間ながらも確かに親しくはなっていた。
現に亡くなったと聞いて恭也も悲しみを抱いている。
結局、それ以降は互いに言葉もなく別れたのだった。
しかし、二人の縁は、二人を取り巻く運命は既にはるかは言うに及ばず、恭也さえも巻き込んでいたのであろうか。
二人は再び再会する事となる。
思わぬ形で。



「奏次郎〜、奏次郎〜」

海鳴市内にある古びたアパート。
その一室からやや甲高い声が響く。
その声に部屋の中でだらしなく寝そべっていた男が顔だけを上げ、自分の頭元に行儀良く座っている猫を見て、
慌てたように身体を起こす。

「バカか、ユキ。お前は何度注意したら分かるんだ! その恰好の時には喋るな!」

「もう、煩いね〜奏次郎は」

ぶつくさと文句を言ったかと思うと次の瞬間にはさっきまでいた猫がいなくなり、
年の頃は14ぐらいの少女がちょこんと正座していた。

「おまえな、幾ら家の中とはいえ、姿を変える時はもっと周囲を注意して…」

「はいはい。それよりも、これ」

言って一通の封筒を取り出す。

「ひょっとしたら依頼かもしれないよ」

「依頼〜? あー、しんどいから良いや」

「良いや、じゃないよ! ここの所全く依頼がないんだからね。
 いい加減、何か仕事をしてもらわないと来月からどう暮らしていけば良いのか。よよよ」

「子供がバカなことするんじゃない」

奏次郎の言葉に鋭い目付きで睨み付けるかと思うと、
次の瞬間にはそこには妙齢の凹凸のはっきりとした女性が現れていた。

「だったら、これで問題はないでしょう。
 ふふ、あんまり仕事をしてくれないようなら、私のこの身体で稼ぐしかないかしらね。
 奏次郎以外の人には触られるのは嫌だけれど、仕方ないわね。
 明日からでも仕事を探してくるわ。だ・か・ら、今日はたっぷりと可愛がってね」

フー、と奏次郎の耳に息を吹きかけてくる仕草にゾクゾクと背中を震わせながら奏次郎は女性を引き離す。

「あのな、ユキ。そうやって俺をからかおうとしても無駄だぞ」

言いながらもその顔は僅かに赤くなっており、全く効果がないという訳でもないようである。
ともあれ、このままでは話が進まないと悟ったのか、奏次郎はその女性――ユキの手から封筒をひったくる。
ユキは妖艶に笑ったかと思うと、その姿をまた少女に戻す。
どうやら、このユキという少女もただの人間という訳ではないようだが。
封筒を手に取った奏次郎は気にする事もなく封を開けようとして、その手を止める。

「ユキ、何故これが依頼だと分かったんだ」

「ん〜、裏に依頼って書いてあったから」

封筒を裏返してみれば、確かに依頼と書かれている。
だが、差出人もなし、消印もなし。おまけに宛先さえもないのだ。

「これがうちのポストに入ってたんだな」

幾分低い声で尋ねる奏次郎に、ユキは軽く返す。
まるでそれがどうしたのかという風に。

「事務所じゃなく自宅に、しかもわざわざ自分で依頼内容を書いた手紙を入れていっただと。
 ここまで来たのなら、会って話をする方が早いだろうし、何よりも仕事なら事務所の方に来るだろう」

事務所と違い、自宅は何処にも載せていないのだ。
つまり、相手は奏次郎の事を調べたということになる。
警戒心まるだしで封筒を畳の上に置いて睨む奏次郎。
だが、それで中身が分かるはずもない。

「ねえ、どうかしたの? 中、見ないの?」

奏次郎の考えている事を理解したユキではあったが、それでも見ない事には始まらないと一応進言してみる。

「そうだな。やばそうなのや、だるそうなのなら、いつものように断れば良いか。
 そもそも正式な依頼の形でもないしな」

言ってようやく封を切り中の便箋を取り出す。

「…………どういう事だ」

ぽつりと呟いた奏次郎の後ろから抱き付きながら、ユキはその手の中の手紙へと視線を落とす。

「えっと、この写真の女の子を調査するだけ?」

「……ああ。だが、依頼元が問題だ」

見ろともう二枚目の紙の下を指差してみせる。

「これって、協会の…」

「そうだ。魔術を秘匿し魔術師を管理する連中からの依頼だ。
 そんな所からの依頼だぞ。ただの浮気調査とは訳が違う。一体、この嬢ちゃんに何があるってんだ」

「うーん、見た目は普通の女の子にしか見えないけどね。
 どうするの? 受けるの?」

「……受ける。どうやら、裏で教会の連中も動いているみたいだと書いてやがるしな」

何か重たいものを吐き出すように呟く奏次郎に深くは追求せず、
その重いものが少しでも軽くなるようにと首に巻きつけた腕にちょっとだけ力を込め、
奏次郎に甘えるように頬を背中に摺り寄せる。

「私は奏次郎がしたいようにすれば良いと思うよ。
 何があっても私は奏次郎に協力するし、奏次郎の傍にいるからね」

「ああ、ありがとうなユキ」

自分の前に回されたユキの手にそっと自分の手を重ね、奏次郎は小さく礼を言う。



「シスター・エルシア。祭司さまがお呼びですよ」

「そうですか。ありがとうございます」

エルシアと呼ばれたシスターは恭しく頭を下げて礼を言うと、祭司の待つ部屋へと向かう。
扉をノックし、声が返ってきたのを確認して中へと入る。

「わざわざすいませんね、シスター・エルシア」

「いえ。それよりも御用とお聞きしたのですか」

「はい。ですが、正確には私ではないのです」

それだけで祭司の言いたい事を理解したのか、エルシアは頭を下げると部屋を退室する。
その背中へと祭司が声を掛ける。

「シスター・エルシア。人々に慕われる貴女もまた、神の愛しい子の一人なのですよ。
 くれぐれも、自身の身もご自重なさってください」

「ありがとうございます。そのお言葉、しっかりとこの身にお受け取りいたします」

言って部屋を出て行くエルシアを、祭司は憐憫の目で見送るのだった。

祭司の部屋を去ったエルシアは、一人人気のない廊下を歩いていく。
教会の奥、普段から人のあまり来ない奥へと進み、一番奥の部屋へと入る。
倉庫のように色々な物が雑多に置かれている中を迷う事無く歩いていき、最奥の壁の前で足を止める。
棚と棚の間に出来ている隙間、人が一人納まれるかどうかというぐらいの隙間へと手を伸ばし、
口の中で何か呟く。すると、それを合図としたかのように壁がゆっくりと奥へと動き出し、次いで横にスライドする。
棚と棚の間に出来たぽっかりと開いた穴。
そこへエルシアは迷う事なく足を踏み入れる。
すぐに階段になっており、エルシアの身体はゆっくりと下へと下っていく。
後ろで壁が閉まり、辺りが暗闇に支配されてもその足取りに迷いはなく、やがて全ての階段を降りきる。
その先にある扉を開き、

「来たか、”狂気の微笑”エルシア」

「呼ばれたからには来る。それよりも、用件は何だ」

先程まで地上で見せていた慈愛に満ちた表情も、柔らかな物腰も、その穏やかな口調さえも霧散し、
ただ無表情にして固い口調で返すエルシア。

「お前の元へと我らが来る理由は一つだと思うが」

「そんな事は分かっている。聞きたいのは、今回のターゲットだ」

すっとエルシアの足元に一枚の写真が落ちる。
それを拾おうともせず、ただ一瞥だけくれる。
その事に気を悪くする事もなく、闇の中の主は話し始める。

「今回の任務地は極東は日本の海鳴だ」

「…海鳴? ふん、日本退魔士協会との折り合いはどうするんだ」

「蝦夷、鎌倉、京都、鹿児島、四国、そして海鳴。そこは不可侵。これが暗黙の了解よ。
 暗黙のな」

つまり、正式な取り決めはないとほののめかす影に、エルシアは鼻で笑う。

「つまり、ドジして捕まろうが教会は無関係って事か」

「何の事だ? 私は今回はお前に依頼など何もしておらん。
 おお、そう言えば懸案事項に関する写真をどこかに落としてしまった。
 しまったの。まあ、ここには私一人しかおらぬから後で探すとするか」

影のわざとらしい言葉に何も答えず、エルシアは虚空に向かって独り言のように呟く。

「掃除していて写真を拾ったんだが、この女は一体何者なんだろうな。
 まあ、私には関係ないが…」

「…如月さゆり」

「っ!」

影から零れた言葉にエルシアは思わず聞き返そうとして声を抑える。
その名は協会、教会どちらにとってかなり大きな名前である。
人によってはその名を口に出す事さえ嫌がる程の。

「…如月の魔女。だが、あいつは協会の手により肉体精神の両方に魔術封印を施されたはずだ」

「その後継者が出たとしたら」

「どういうことだ。まさか、子供か!?」

既に独り言にしては完全な会話になっているが、それこそ構わない。
ここには初めから二人以外には誰もいないのだ。
さっきの行為は、これから先何があっても互いに無関係だという立場を崩さない、
そういう事の確認、単なる儀式めいたやり取りでしかない。
言うならば、茶番だ。
それが分かっているからこそ、エルシアは気になった事を尋ねる。
だが、普段ならそれでもその茶番を続けたはずである。
それだけ如月という名が、いや、如月の魔女という言葉が重大だという事なのだろう。

「その写真の娘、名を如月はるかと言う。如月の魔女の双子の妹だ」

「妹? だが、魔術の家系は一子相伝。妹の方は何も知らないんじゃ」

「そう。魔術の事は何も知らんよ、何もな。
 だが、魔術回路は別だ。しかも、何の知識も持たぬ者が、あの魔女の魔術回路と全く同じものを…、
 いや、丸々受け取ってしまったとしたらどうだ?」

「如月の魔女の魔術回路を何も知らない奴が持っているだと!
 暴走なんかしたら…。そうか、そういう事か。だから、私の所に来たんだな」

ようやく合点が言ったとばかりにエルシアは呟くと、くるりと背中を見せる。

「明日、ここを発つ」

エルシアはそれだけを告げると部屋の外へと出て行く。
足元に落ちていたはずの写真は、いつの間にか燃えており一瞬だけ闇の中に明りを灯すも、
すぐに消えて再び静かな闇が辺りを支配する。



部屋へと戻ったエルシアは、箪笥の引出しを二つ引っ張り出し、二重底になっているそれを開ける。
中から無骨な、ただ機能性のみを追及した連装ガトリング砲をそれぞれの引出しから取り出す。
よく見れば無骨な中にも砲身には何やら紋様が幾重にも刻まれている。
その紋様を指でなぞり、立ち上がると机の引出しを開けて弾丸を取り出す。
とても片手では扱えそうにも見えないガトリング砲を片手で持ち上げ、調整するかのように弾を詰める。
が、流石に撃つ事はせずにすぐに弾を取り出す。

「…問題はないみたいだな」

それをばらして荷物として詰めていくエルシア。
その心は既にここではなく、海鳴へと向かっていた。



「あ、あなたは誰なんですか」

「誰だって構わないだろう。死に行く者に名乗る必要はない!」



――オリジナル作『愛憎のファミリア』や



「私はサユリよ。まあ、そんな事はどうでも良いじゃない。
 はるかに危害を加えようとするのなら、私が代わりに相手するわ」

「なっ!? 固有結界!? しかも、これは如月の魔……」



――とらハSS『トライアングルハート〜天使の羽根の物語〜』などの代表作を持つあの巨匠



「ま、まさかエルシアなのか……」

「……っ! 貴様っ! 世田谷奏次郎っ! どの面を下げて私の前にのこのこと出てきやがったぁぁぁっ!
 貴様はここで殺す!」

「何かよく分からないけれど、奏次郎の敵は私の敵よ!」

「待て、ユキ!」



――安藤龍一が生み出したキャラを、世界観を



「調査、調査ね〜」

「もっとしゃっきとしなさいよ。って、また無精ひげ伸ばして」

「こらこら、触るな」

「うーん、このチクチクがまた良いのよね」



――へたれ、へっぽこの代名詞で有名なあの



「あ、私は如月はるかと言います」

「私は高町美由希。この無愛想で底意地が悪くてぶっきらぼうな恭ちゃんの妹です」

「……今夜の鍛錬が楽しみだな」

「あ、あうっ。って、その手に持ってる本って」

「あ、はい、これは…」

「うわぁ、うわぁ、これ私も読みたかったんだ」

「あ、あの、良かったら貸しましょうか?」

「良いの!」

「ええ。私はもう読んじゃいましたから」

「やったよ〜。恭ちゃんの知り合いで本を読む人って殆どいないのに」

「くすくす。美由希さんも読書好きなんですか」

「勿論です。あ、良かったら私の部屋に来ます?
 何か気に入ったのがあればお貸ししますよ」

「良いんですか」

「うん。恭ちゃん、良いよね」

「ああ。俺はお茶でも用意して行こう」



――氷瀬浩が好き勝手に動かしまくる



「貴女が何者なのかは知りませんし、関係ありません。
 ただ、俺の知り合いを、友人を傷つけるというのなら……」

「くっ。一般人を巻き込むわけには…」

「どうしますか。ここは引きますか、それとも……」

「ちっ。今日は大人しく引き上げよう。だが、如月はるか!
 貴様は生きている限り、安住の地はないと思え!」



Labyrinth of the heart

「如月さん。俺に、俺たちに貴女の護衛をさせてもらえませんか?」

 プロローグ 近日…………?







という訳で、今回のCMは前に安藤さんが書いてたやつ〜。

美姫 「あの後、設定とかも書いてくれたのよね」

ああ。で、折角だからと雑記で使ってみました。
キャラの口調や正確がいまいちはっきりしてないかもしれませんが。

美姫 「どうでしたか、安藤さん」

俺が書くとこんなダメダメになるという見本だね。

美姫 「全くよね〜」

うっ。そこは少しでもフォローが欲しい所だよ、美姫。

美姫 「うーん……、ごめん無理」

ぐさっ!
傷付いたよ、もう俺の心はボロボロに。

美姫 「今更じゃない」

うぉおう!
そう返されるとは

美姫 「いや、そんな意外そうな顔される方が驚きよ」

マジでっ!?

美姫 「うん」

ガーン、ガーン、ガーン!

美姫 「はいはい。お馬鹿はこの辺にして」

そうだな。えっと、とりあえず今週はこの辺で良いかな。

美姫 「そうね。あ、そう言えば試作としてSS部屋を少し改良したのよね」

したというか、改良したのもアップしてる。
どっちの方が見やすいかなと。よければ、ご意見ください。

美姫 「と宣伝もしたところで」

本当に今週はこの辺で。

美姫 「また来週ね〜」


3月2日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、ものの見事にお送り中!>



パワーアップもダウンもせずに復活〜。

美姫 「さあ、いつものように行くわよ〜」

とは言え、いつもと言ってもただ無駄話をしているだけだしな…ぶべらっ!

美姫 「無駄とは何よ、無駄とは」

じょ、冗談でございますお嬢様。

美姫 「分かれば良いのよ。まあ、無駄っていうのも間違ってない部分もあるわよね」

それは?

美姫 「いや、アンタに毎回聞くこれだけは無駄のような気が…」

おいおい、酷いな。
まあ、その予想はあながち間違いじゃないけど。

美姫 「って事は、本当に聞くだけ無駄なのね」

あっはっはっはっは〜。

美姫 「笑うな!」

ぶべっ!

美姫 「それにしても早いものでもう新しい月に突入ね」

いやいや、本当に。
何だかんだでもう春だよ。そして、うぅぅぅ、目が〜、鼻が〜。

美姫 「アンタのやる気が下がる時期ね」

まあ、俺のやる気はいつだって低空飛行だけどな。

美姫 「威張るな!」

ぶべらっ!

美姫 「って言うか、アンタ暑くなっても駄目なのよね」

あははは。冬だけ元気!

美姫 「本当に威張るな!」

ごばっ!

美姫 「はぁぁ、何でこんなバカになっちゃったの」

バカバカと酷いな。これでも精一杯頑張っているんだぞ。

美姫 「私は目に見える形での成果が欲しいのよ!」

そげん事言われても、ないもんはない!

美姫 「だから、威張るな!」

がばごりょっ!

美姫 「はぁぁぁぁ」

そないに盛大な溜め息を吐かんでも。

美姫 「とりあえず…」

CMだ〜。

美姫 「それは私の台詞よ!」

ぶげらぼぇ〜〜っ! 今回のCMはちょっとやばいぞ〜!!

美姫 「ダークよね……」 (苦手な方はジャンプ!







空気を震わせるような、耳を劈くような、まるで鼓膜を打ち破るかのような、そんな大きな音が突然響く。
耳が痺れ、耳鳴りによって他の一切の音が遮断される。
同時に辺りを地震でも起きたのかと思わせるぐらいの震動が襲う。
それを感じる事が出来る分だけ、年の頃は十いかないぐらいの少年は幸せだったのか、それとも不幸だったのか。
少年の目に映るのは崩れていく壁に天井。そして、吹き上がる炎。
その向こうから影が三つ。いや、正確には四つ。
一つは女性に抱かれるようにして、少年の方へと向かってくる。
影の一つが少年に気付き声を荒げる。

「恭也! 無事か!」

常に悠然と構えているイメージのある父の慌てふためく様を、
記憶にある限りでは恭也は初めて見たような気がする。
共に近付いてくるのは、宗家の当主である静馬とその妻にして士郎の妹美沙斗。
そして、美沙斗に抱えられて泣きじゃくっているのは、その子供である美由希。
近付く間にも轟音が鳴り響き、周囲の空気を震わせる。
士郎は恭也の傍に来ると立ち止まる事もせず、そのまま抱きかかえて走り出す。
何が起こっているのかは分からないが、とんでもない事態だという事は理解できた。
だから、恭也は大人しく抱えられるに任せる。
そんな恭也へと説明するかのように、もしくは現状を自分たちで把握するためにか、士郎は声に出す。

「どっかのバカが爆弾を仕掛けやがった」

「御神に恨みを持つ者は多いとはいえ、まさかこんな日に…」

「こんな日だからだよ、静馬」

静馬の言葉に即座に反論しつつ、士郎は悔しげに唇を噛み締める。
偶々会場を出てトイレに行った恭也と、同じように席を立った静馬と士郎。
そして、美由希を連れて行こうとして同じく会場を離れた美沙斗は何とか最初の爆発に巻き込まれずに済んだ。
だが、他の者たちは皆、会場にいた。つまり、それは生存が絶望的という事である。
士郎だけでなく、静馬も美沙斗もきつく唇を噛み締める。
ただ状況は殆ど絶望的である。聞こえてくる爆音からすれば、どうやら外でも同時に爆破が起きているらしく、
それは内と外から挟み込むように彼らを襲わんと近づいてくる。
このまま爆発に巻き込まれなくとも、いずれは建物そのものが耐え切れなくなって崩れるだろう。

「どうやら、ここら一帯ごと吹き飛ばすつもりらしいな」

こんな時でも、いや、こんな時だからこそか、弱気な仕草を見せる事無く不敵に笑う士郎。
だが、その耳ははっきりと前後が迫る爆音を捉えていた。

「こうなりゃ、一か八かだ」

士郎の考えている事を察したのか、静馬と美沙斗も足を止めて同じように小太刀を抜き放つ。
建物の隅、三方を壁に囲まれた袋小路。
その地面へと三人は同時に雷徹を何度も放ち、床に穴を穿つ。
開いた穴に恭也と美由希を入れ、その上に三人が覆い被さる。

「父さん、静馬さん、それに美沙斗さんまで何を!」

幼いながらも三人のやろうとしている事、自分と美由希を助けようとその身を盾にせんとする三人の名前を叫ぶ。
泣くなと言われ続けてきたが、流石に今この場でそれを堪える事は出来ない。
それでも習慣からか涙を零す事を堪えつつ、震える声でもう一度三人の名を呼ぶ。
だが、同時にそれ以上の爆音が響き、三人に覆い被さられて何も見えない中、それでも視界が白に染まる。
耳元で泣き叫ぶ美由希の声さえも消え去り、恭也の意識はそこで途切れた。



どのぐらいの時間が経ったのだろうか。
恭也の耳は何かの物音を捉える。
まだ耳の奥で耳鳴りがする中、遠くから微かに聞こえる声に耳を済ませる。

「酷いものだな」

「ああ。残念だけれど、生存者は…」

そんな声が恭也の耳に僅かに届く。
どうやら、瓦礫の下に埋もれているらしく、声もはっきりとは聞こえてこない。
だが、聞こえてくる部分から推理するに生存者は誰もおらず、
瓦礫などの撤去作業も今日は終了して帰るところらしい。
助けを呼ぼうと声を出そうとするも、痛みからか声が出ない。
幾ら穴の中にいたとは言え、恭也自身も全くの無傷という訳にはいかなかったらしい。
左腕は完全に折れ、右腕も骨に皹はいっているかもしれな。
右足は既に痛いみすら感じず、おかしな方向に曲がっているのだろうと感じる程度。
左足は比較的無事のようだが、果たして身体を支えることができるか。
ことここまでの確認を終え、ようやく恭也は自分が目を閉じたままである事に気付く。

「父さん、静馬さん、美沙斗さん、美由希?」

すぐ近くにいるはずの、さっきまで共に居た者の名を呼ぶ。
いや、呼んだつもりであった。
だが、その口からは何の言葉も吐き出されず、ただ唇が震えるだけ。
そこにいたのはかつて人であったもの。
士郎や静馬などは、既にその形すらない。
辛うじて美沙斗だと思われるものですら、自分の背中へと回った白い腕のみ。
ゆっくりと視線を下ろせば、こちらは綺麗な顔の美由希が。
美由希だけでも無事であった事に胸を撫で下ろすも、その顔は全く動く気配を見せない。
痛む右腕をゆっくりと動かして触れた美由希の頬はとても冷たく、呼吸もしていなかった。
首から下は真っ赤に染まり、大きな破片が美沙斗と美由希を繋ぐように突き刺さっている。
つまり、恭也はだからこそその破片から助かったのだ。
それでも、恭也の身体も破片で幾つもの傷が出来ており、額からも血が流れ出して視界を赤く染め上げる。
赤い、赤い世界の中、眠るような顔で横たわる美由希。
そこに覆い被さるようにして後ろを黒く炭化した美沙斗。
それらは赤い世界にあって、ただ一つ白と黒という色を恭也に見せつける。

(うるさい、うるさい、うるさい!)

先程から聞こえてくる声に苛立ちを覚えるも、その声は止む事無く恭也の耳に届き続ける。
他に誰も生存者がいないはずなのに、恭也の耳へと。

(ああ、そうか)

ようやく恭也は理解する。先程から聞こえてくる耳障りな声は、自分が発しているのだと。
だが、既に救助に来ていたものたちも立ち去った後らしく、恭也の声を聞いた者はいなかった。
叫び疲れて目を閉じ、このまま眠ってしまおうかと思った恭也だったが、
自分の命は四人に助けてもらったものだとすぐに思い至り、動かない手足を使って瓦礫から抜け出そうともがく。

(まだだ。まだ終われない)

その瞳に暗くも強い輝きを灯し、恭也は赤く染まる世界で生き残るために手を、足を動かす。
瓦礫と瓦礫が上手い事倒れこんだらしく、恭也の周囲は小さな空洞となっていた事を、
美沙斗の下から抜け出した恭也はようやく理解する。
だが、ここから地上に完全に出るまでには、まだ幾つかの瓦礫がある。
下手に動けば、あっという間に崩れ去ってしまいそうな危うさ。
それでも恭也は諦めずに脱出するための手段を考える。
が、その耳に何かが軋む音がし、動く間もなく瓦礫が倒壊していく。
咄嗟に腕で頭を庇いつつ、落ちて来る瓦礫から目を逸らす事無く見つめる。
天命だったのか、瓦礫は丁度恭也を避けるように崩れ落ち、恭也は久しぶりに外の空気を感じる。
と、その恭也のすぐ傍に、あれだけの出来事が起こったのに傷一つ無く転がっている三本の小太刀を見つける。
もしかしたら、恭也と一緒に穴の中に士郎たちが放り込んだのかもしれないし、違うのかもしれない。
真実は恭也には分からないが、それぞれ士郎、静馬、美沙斗が使っていた小太刀だということは分かる。
そして、それだけで充分であった。
恭也は三本の小太刀を手に、傷付いた身体を引き摺りながらこの場を立ち去る。
生存者が居るという事実を隠すために、一刻でも早くと言わんばかりに。



(懐かしい夢を見たものだ)

ホテルの一室で眠っていた恭也は静かに目を開けてベッドから下りる。
過去の出来事を夢に見るのは初めてではない。
それこそ、あの事件のあった直後などは毎日のように見ていた。
だが、それもいつしか見ないようになっていたのに。
何かの啓示かと考え、その考えを即座に笑い飛ばす。

(神などいやしないのに、啓示も何もないか)

自嘲と共に時刻を確認する。

(そろそろか)

あの日、御神宗家を襲った爆破事件。
それについて長い歳月をかけて恭也は幾つかの事実を掴んだ。
そして、その件に関わっていた、主に資金面でだが、その黒幕の居所を遂に掴んだのが三日前。
その人物は今日、これからこのホテルから数キロ先のホテルの最上階で何やら商売を行うらしい。
恭也は三本の小太刀と、自身の小太刀、四本の小太刀を腰と背中に吊るして各種武装の確認をする。
それらに問題がないと判断すると、静かに部屋を後にする。
向かう先はただ一つ。あの日、自らに誓った誓約を果たすための第一歩。
あの日、親しい者たちを失い、声を失い、それでもひたすらに剣を握り続けて得た力を振るう最初の獲物。

(邪魔するものは……全て斬る!)

暗い光を瞳に宿し、恭也は一人夜の街へと消えて行く。
その数時間後、とあるホテルの最上階にて大量の斬殺死体が発見されたという一方が警察に届けられる……。



とらいあんぐるハート アナザーダークサイド プロローグ 近日……。







……いやー、自分でやっといて何だけれど、やっぱりダークは駄目だ。

美姫 「はやっ! って言いたいけれど、同感ね」

読むのは兎も角、書くのはどうも。

美姫 「って、だったら書かなければ良いでしょうが!」

ぶべらっ! う、うぅぅ。慣れない事をした所為か、いつものように回復ができない……。

美姫 「アンタの回復って疲労と関係あったの?」

んや。

美姫 「このボケ!」

ぶべらっぼえぇ!

美姫 「駄目だわ。やってられない」

なら、今週はここまでだな。

美姫 「そうね。それじゃあ、また来週〜」

ではでは。










          



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