2008年1月〜2月

2月29日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、四年に一度の日だよ、とお送り中!>



今日は閏日〜。

美姫 「二月最後の日ね」

よくよく考えれば、今年は一日多いと言う事だよな。

美姫 「まあ閏年だしね」

休みなら兎も角、平日が増えるのはどうだろう。

美姫 「もう行き成りヘタレ発言と言うか、怠け者ね」

うだ〜〜。ごろごろ〜。

美姫 「はいはい。だれてないで、ちゃきちゃきといくわよ」

おうともさ。

増えた一日を有効に……。とは言え、実感としては増えてもあまり変わらないような気もするけれどな。

美姫 「それでも一日多いのは確かよ」

だよな。まあ、どちらにせよやる事は変わらないんだけれどな。

美姫 「そうね。それじゃあ、とりあえずはCMにいってみましょう〜」







恭也がルイズの元で生活するようになり数日、相変わらず恭也はルイズを相手にもしない。
その態度に腹を立て、事あるごとに突っ掛かるのだが腕力では敵わず、魔法を使えば自爆するありさまで、
未だに一矢報いると口にはするものの、実際には何も出来ていない。
それでも始めの頃はルイズが魔法を唱えようとすれば、即座に動いて杖を取り上げていたのである。
だが授業で魔法を使って失敗して爆発を起こすと、恭也もルイズが何故ゼロと呼ばれているのかを理解し、
ルイズが魔法を唱えると今までとは逆にルイズから離れるようになったのである。
勝手に自爆していろとばかりに。
その事が益々ルイズの苛立ちを募らせるのだが、恭也は至って何処吹く風である。
主人であるはずの自分が使い魔に気を使っている――本人は充分にそのつもりである――のが余程気に入らないらしい。
まあ周囲の噂話が更にそれを煽っているのだが。
つまり使い魔、いや、使い魔候補にさえも愛想をつかされているだの、平民にバカになれる貴族など。
しかし、ルイズはそれでも諦めずに恭也と使い魔の契約を結ぼうと日々、努力をしている。
その点だけは恭也も評価はしており、それは僅かながらもルイズに対する態度に現れている。
本当に少しだがルイズと会話をしているのである。
それでも未だに無愛想な上に二言か三言程度である上に、態度は全く変わっていないが。
だが、今まで頑ななまでに人との付き合いを必要としなかった事を考えれば、かなり大きな変化と言える。
尤も誰もその変化には気付いていないが。
当のルイズでさえも。
そんな感じで過ぎていった日々の中、恭也は午後の時間食堂に居た。
特に目的があった訳ではなく、使い魔になれと煩いルイズから逃れてきたのだ。
事が事だけにルイズも人前では大声で詰め寄ってくる事はない。いや、少ないと言った方が良いか。
ともあれ、そんな理由から午後に寛いでいる生徒の多い中庭か食堂へと足を運び、偶々食堂になっただけである。
すれ違う際にこの学院で働いているメイドに軽く頭を下げる。
向こうもややぎこちないながらも小さく返してくる。
朝の洗濯をする時に場所を洗濯する場所を聞いたり、その洗濯時に時折顔を合わせる程度である。
向こうから挨拶をしてきたので、同じように返しただけである。
それ以外には特にする会話もなく――どうやら恭也の事は学院でもそれなりに有名らしくそのような話もしていたが、
特に興味もなかったので聞き流していた――、少し怖がらせてしまったかもしれないが、
顔を見れば最低限に今程度の事はする。貴族と威張る連中よりも幾分も付き合い易い。
とは言え、特に仲良くする必要性も感じず、恭也はそのまま時間を潰すべく適当に周囲を見渡す。
それなりに人は居るが休めるような場所もないと判断し、場所を移す事にする。
何やら貴族同士が集まり、女性について離しているようだが興味もなくその傍を通り過ぎる。
その際、そのテーブルに集まっていた貴族の一人が何やら瓶を落とす。
だが恭也は興味もなくそのまま通り過ぎようとする。
そこへ一人の女子生徒とが現れ、その瓶を見てその貴族に何やら言い出す。
とうとう持っていたバスケットをその貴族に投げ、仲間内から笑われる。
そこへ更に金髪をロールにした女子生徒が姿を見せ、同じくその貴族に何やら言い出す。
二股がばれた間男のように慌てる貴族にも興味を抱かず、恭也はそのまま通り過ぎる。
が運悪く、気を使ったのか、それとも面白がってか、落ちた瓶を拾おうと一人の貴族が身を乗り出す。
不意に横から出てきた貴族を躱すも、恭也のポケットからリボンが落ちる。

「何だい、これは?」

恭也よりも地面に近かったため、先にそれを拾った貴族がリボンを眺めてそう言えば、
それを見た女子生徒に詰め寄られていた貴族――ギーシュが話を逸らすようにそのリボンを手にする。

「かなり汚い上にボロボロじゃないか。しかも女物じゃないかい、これ。
 君は確かルイズの使い魔だったか。主人が主人なら使い魔も代わった趣味をしている」

平民をからかって憂さを晴らすついでに、これを話題にして話を逸らそうとでもしたのだろう、
ギーシュはそのリボンをそのまま投げ捨てると、ご丁寧に手をハンカチで拭く仕草を見せ、
そのリボンを踏もうと足を上げる。

「こんなものをいつまでも持っていなくても、ルイズに言って新しいものでも買ってもらったらどうだい。
 まあ、あのルイズが買ってくれるかどうかは知らないけれどね」

足を振り下ろそうとした瞬間、ギーシュの身体が吹き飛ぶ。
何が分かったのか誰も理解できない内に恭也はリボンを拾い上げ、埃を払うとポケットに大事そうに仕舞い込む。
そのまま背を向けてその場を去ろうとするも、ギーシュは立ち上がり今何かしたのは恭也だと決め付ける。
実際に恭也が突き飛ばしたのだから間違いではないが。
杖を恭也に突き付けると、

「君、貴族相手に何をしたのか分かっているのかい?
 今ならまだ床に頭を着いて謝れば許してあげるよ」

「……阿呆か。元々、お前が人の物を踏もうとしたんだろう。
 寧ろ、それぐらいで許してやったんだ。折角拾った命を無駄にせず、黙った口を噤んでいろ」

静かに淡々と感情の篭らない声で語る恭也にギーシュは決闘だと喚きだす。

「そこまで言うのなら決闘だ。謝れば助かった命だというのに」

大げさな身振りで悲しいという表現を見せるギーシュを冷めた目で見詰め返す。
決闘というのなら、それこそすぐに掛かって来るべきだと恭也は先制攻撃するべく動こうとする。
だが、そこへ小さな影が割り込んでくる。

「ギーシュ、平民相手に何を言っているのよ!」

「その平民が何をしたと思っているんだい、ルイズ」

恭也とギーシュの間に立ち、ルイズは恭也を庇うように立つ。
だが、すぐに恭也へと向かい合うと恭也に謝るように言う。

「謝罪する必要性を感じない。寧ろ、向こうの方が非礼だろう」

「そういう問題じゃないわよ! 魔法使い相手に勝てる訳ないでしょう!」

ルイズの言葉にじっとルイズを見返せば、ルイズは真っ赤になって顔を俯けつつも小さく呟く。

「ギーシュは私と違って魔法を使えるのよ」

一応は恭也の身を案じているらしい言葉に恭也は思わず口を滑らしてしまう。

「だとしても、妹の形見を踏み躙られた以上は謝る気はない」

その言葉にルイズは思わず恭也を見上げるが、恭也は思わず滑らした言葉に口を堅く閉ざす。
ルイズが何か言おうとするよりも先に、ギーシュが場所の提示をしてくる。
このままここでやっても良いのだが、大人しくギーシュの後について中庭へと場所を移す。
まだ止めようとするルイズを無視し、また何か口上を並べ立てているギーシュのその口上さえも聞き流すと、
恭也は腰に差した小太刀、菜乃葉を抜き放つ。
ようやくギーシュがお喋りを止め、薔薇を振れば銅製の人形が六体出来上がる。
それらが一体をその場に残して恭也へと襲い掛かってくる。
同じように恭也もギーシュへと向かって走りだし、その通路を阻む五体を切り刻む。
驚くギーシュに構わず距離を更に詰め寄り、残る一体も切り伏せると、
脅えるように震えだすその身体に小太刀を叩きつける。
骨の折れる嫌な音と感触を手に感じながら、恭也の攻撃は止まらない。
そのまま顎を、肩を続けて打ち据えていく。
何やら泣きながらギーシュが何か言っているようだが、恭也は気にも止めず蹴り飛ばす。
地面を転がり、上半身だけを起こして後退る。涙に鼻水まで流して声にならない声を上げる。
それに何の感慨も受けず、ただ無表情のままギーシュへと近づいていく。
振り下ろされる小太刀が額を割り、流れる血に悲鳴を上げる。
更に攻撃を加える恭也をルイズが止める。

「恭也! それ以上は駄目よ! ギーシュが死んじゃう!」

「何を言っている。決闘と口にしたのこいつだ。
 それに命がないとも言われた。それはつまり、命を奪う覚悟があったという事だろう。
 なら同時に奪われる覚悟もしているはずだ。今更、泣き言など聞かん」

感情の篭らない声に始めは囃し立てるように見学していた者たちも言葉を無くす。
ルイズの言葉に僅かなりとも動きを止めた恭也から、ギーシュは必死で距離を開ける。
だが視線を向けられるだけで身体が震えて動きを止める。
そして、ゆっくりと近づいてくる恭也に、ギーシュはとうとう意識を手放すのであった。







またしてもやってしまった。

美姫 「続きね」

あははは。ここぐらいまではやってみたかったんで。

美姫 「はぁぁ、恭也が完全に悪ね」

いやいや、悪じゃないぞ。
ただ、他に興味がないだけで。

美姫 「ダーク恭也ね」

まあな。って、もう時間がないぞ!

美姫 「仕方ないわね、今週はこの辺にしておきましょう」

だな。それでは、この辺で。

美姫 「また来週〜」


2月22日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、昼間は結構温いよね、とお届け中!>



あはははははー、の、ははっはははははは!

美姫 「うーん、行き成り壊れているわね」

いやいや、これは喜びの雄たけびを上げているんだよ。
今日のCMは凄いぞー。

美姫 「アンタの手柄でも何でもないでしょう」

うっ、その通りです。アインさん、ありがとうございます。

美姫 「そんな訳でいきなりだけれどいってみましょうか」

いや、もう本当にあっはっはっはははははー!

美姫 「もう良いっての!」

ぶべらっ!

美姫 「それじゃあ、アインさんから頂いたCMです」







「……ん……」

意識がまず浮上し、自分が何処かに横たわっている事を確認する。
薄く目を開くと、何かに遮られて一拍置かれたような、柔らかい光が差し込んできた。
ゆっくりと目を慣らすように開いてみると、

「……ベッド……か?」

俺は自分がベッドのようなものに寝かされている事を確認した。
光を遮っていたのは、その床を囲うように上から下がっているカーテンのような幕。
身分の高い人間のものについている天蓋のようなものらしい。

「そういえば……中国にもあったか」

西洋風のものが何故、と思った俺だったが、すぐに以前美由希が晶やレン、
かあさんになのはまで巻き込んで大騒ぎしながら見ていたキョンシーの映画を思い出した。
たしか、あの映画で中国のベッドにも天蓋がついていたはず……しかし……

「……何故、身分も知れない俺のような人間が……」

天蓋付きの床というのは、得てして身分の高い人間や権力、財力のある人間が持つものと相場が決まっている。
そんな疑問が頭を過ぎったとき、

「……ん?」

俺の寝かされている部屋の外に感じたその人の気配で、俺はようやくすべて思い出した。
ここが高町家でも、海鳴でも、ましてや日本でもなく……

「あ、あの……恭也……目は、覚めた?」

それどころか俺が今まで生きていた時間軸ですらないという事を。

「……そうだった」

俺は、孫権や甘寧が女性になっている三国志の世界にきてしまったんだった。



恋姫†無双 降臨し不破の刃

第二話



現状を完全に思い出した俺は、とりあえず遠慮がちな先ほどの声に返答する事にする。

「ああ。起きている」

なるべく威圧しないように、出来るだけ柔らかく響くように心がけて声を出してみると、
その声の主は恐る恐るといった感じで床の周りの幕をめくってこちらを覗きこんできた。

「どうやら、わざわざここまで運んでもらったようだな。ありがとう、蓮華」

少々警戒されているようなので、翠屋で接客する時のように、また柔らかい印象を与えるよう心がけてみる。
まぁ、床のある場所に男と二人きりという状況では無理もないのだろうが、
とりあえず話くらいはさせてもらいたいしな。
というわけで頭上の貴方もそう殺気を飛ばさないでほしいんだが……まぁいいか。

「体はどう? ゆっくり休めたかしら?」

俺が少し頭上の気配に意識を向けている間に、蓮華は幕を完全に引いて柱に括りつけ、床の端のほうに腰掛けていた。
どうやら警戒心はある程度払えたようだが……だからなんで皆俺が表情を和らげるとそんなに顔を赤くするんだ?

「あぁ。分不相応な感じはするが、おかげでゆっくり休ませて貰ったよ」

とりあえずは普通に話してくれるようなので、まずは介抱してくれた事に礼を。

「そう。良かったわ。今は怪我人が多くて、仕方なく私の床を使ってもらったんだけど」

……ちょっと待て。という事はあれか? 俺は今、呉の王、いや女王か?
いや、それはともかく、俺は今あの孫権の床に寝ているのか? しかも……

「……どうしたの?」

俺の目の前にいる孫権は、どう見ても褐色の肌の、世辞抜きで美少女といって差し支えない女性だ。
俺相手ではそんな対象になりえもしないだろうが、さすがに年頃の女性の床に寝ているというのはまずくないか?
道理で彼女が殺気立っているわけだ。

「それはすまなかった。俺のような男を自分の床に寝かせるなど、良い気分ではないだろうに……」

「そっ、そんな事ないわっ!」

「そ、そうか?」

「えっ? あ、その……命を助けられたのに床くらいでどうこういうのは……
 とっ、とにかく私がしたことなのだから、恭也は気にしないでいいのよ」

むぅ。どうやらかえって気を使わせてしまったようだ。

「そうか……ありがとう、蓮華。もう大丈夫だから、何処かに座って話を……」

「えっ!? ま、まだ駄目よ恭也! 貴方、血の流しすぎで倒れたんだから。
 傷の手当はきちんとしてもらったから、まだ動いちゃ駄目」

何処かで聞いたような台詞だな。
というか、俺が怪我をする度に家族やフィリス先生に言われている言葉か。
こんな見知らぬ土地でまで、俺の体を気遣ってくれる人間がいるというのは……なんというか、その……

「……嬉しい、な……」

「……え?」

!? しまった。声に出していたか。気が緩みすぎているな。
しかしまぁ、言ってしまった以上は最後まで言うしかあるまい。

「いや、見ず知らずの俺の体を本気で心配してもらえて、嬉しい」

「っ!?」

ん? 急に真っ赤になってしまった。
前々から思ってはいたが、もしかして俺は人の血液を顔に集める能力でも……あるわけないな。
そんな馬鹿げた能力。

「とにかく、気を失ってしまって話が出来なかったが、色々と話しておかなければいけない事がある。
 突拍子もない話ばかりで信じてもらえないかも知れんが、聞いてもらえるか?」

まぁ、実際問題として、
目の前の人間が何処か違う世界からきましたなどと言ったところで信じろというほうが無理な話だ。
俺の周りの海鳴の人間でもないかぎり、十中八九警察に連絡されて終わりだろうな。
しかし……

「恭也。私は恭也に命を救われたのよ。他の誰がなんと言おうと、私は貴方を信じるわ」

蓮華はそう言って、柔らかく微笑みながら俺の手を包み込んだ。
その……なんというか……信じてもらえるのは嬉しいんだが……

「だから、安心して。私は私のすべてをかけて、貴方に救われた恩に報いるから」

いや、蓮華さん? そう言いながら距離まで詰められてしまうと……

「そ、それは嬉しいんだが……これは少し恥ずかしくないか?……」

「…………………………え?…………………………っ!?」

よかった。ようやく気がついてくれたらしい。
気がついてくれたのは嬉しいので、とりあえず早めに次の行動を取ってくれ。
せめてこの両手を離してくれないと……

「お・ね・え・ちゃん?」

…………遅かったか。

「しゃ、小蓮!?」

「小蓮!? じゃないでしょ!?
 心配だから様子をみてくるなんて言って出て行ったと思ったら、何どさくさに紛れて良い感じになってるのっ!?」

い、良い感じ?

「そ、それは……」

「両手握って傍に擦り寄っちゃって!
 後はちょっとよろけたフリして体投げ出して凭れかかっちゃえば完璧ねって作戦でしょっ!?
 ちょっとシャオよりおっぱい大きいからってそんな色仕掛け使って!」

……なにやら壮大な誤解をしていないか? このませた幼女は。

「後は勢いに任せて責任とって貰えば恭也は私のものって具合でしょ!? そうはいかないんだからっ!」

「小蓮!? いい加減にしなさい! そんな事するわけないでしょ!?」

「どうだかっ。だったらなんで椅子があるのにわざわざ床に座ってるの!?」

椅子……あるな、確かに。
って、それどころじゃないな。これでは一向に話が進められない。

「シャオ」

「うにゃ!?」

俺は手を伸ばしてシャオの頭を無造作に掴み、ぐりぐりと少し乱暴に撫でてみた。
これで俺のほうに注意が引ければ……って蓮華? 何故俺を睨む?

「ちょ、ちょっと恭也? 気持ちいいけどちょっと乱暴だよっ。女の子はもっと優しく扱ってくれないとっ」

「それはすまなかったな。こうでもしないとシャオが俺の話を聞いてくれそうになかったから」

よし。ひとまず予定通りだ。
後はなのはにするのと同じように……

「シャオ。蓮華の件は誤解だ。
 俺が見知らぬ所にいきなりやってきてしまって少々不安を感じていて、蓮華は励ましてくれていただけだ」

「……それじゃあ誤解じゃないじゃない」

む? 失敗したか?
それなら……

「いや、俺がここにいる事情を説明しようとしたんだが……信じてもらえるかどうか不安で、
 躊躇ってしまっていたんだ。
 だから蓮華は励ますようにして、俺に話すきっかけを与えてくれようとしたんだと思うぞ?
 そうだ。シャオにも聞いてもらいたいんだが、いいか?」

もう少し理屈を増やして説明してみたが、これならどうだ?
ここまで細かく言えば、頭のいい子ならばきちんと分かってくれるんだが。

「むぅ……まぁ今回は大目に見てあげる。恭也は全然気付いてないみたいだし」

「? そうか」

良かった。やはり頭の回転の速い子は助かるな。
こういう時、我侭や屁理屈を言わずにきちんとこちらの話を理解してくれる。

「じゃあシャオ、思春呼んでくるね? ちょっと待ってて」

「あ、シャオ。それには及ばない」

駆け出していこうとしたシャオを俺は呼び止めた。

「? どうして、恭也? 思春にも聞く権利はあると思うんだけど……」

「いや、そうじゃない蓮華。思春なら……」

俺の言葉を「思春には話す必要がない」と取った蓮華は少し不審げに首を傾げていたので、
俺はそう言って自分の頭上を指差した。

「初めからそこで全部見ている」

「「……え?」」

「そろそろ話を先に進めたいんだが、降りてきてくれるか?」

俺が頭上にそう声をかけてすぐ、蓮華とシャオの後ろに人影が降り立った。

「「思春!?」」

「……不破恭也、貴様初めから気付いていたな?」

「まぁ、あれだけ殺気をぶつけられればな」

降りてきて早々、不満そうに俺を睨む思春に、俺はそう言って苦笑して見せた。
まぁ、さすがに気付いていて黙っているのはやりすぎだったか。

「そう睨まないでくれ。そちらも、蓮華と殆ど同時に部屋に入ってきたのにずっと監視してたんだろ?」

「え? ほ、本当なの? 思春」

「あ、その……申し訳ございません蓮華様」

まぁ、最初からすべて盗み見されていたと知ればいい気はしないだろうな。
蓮華は……かなり困ったような顔をしているな。
思春も思春で後ろめたさが体から滲み出ているし……

「ねぇ思春!? 最初から見てたんでしょ!? お姉ちゃん恭也になんかしたっ!?」

「え? あ、小蓮さま…そ、その……」

シャオはまた誤解して思春に詰め寄っている。
というか思春も、そこで言いよどむと逆に何かあったように思えるからやめてくれ。
なによりこれでは話が進められん。

「蓮華」

「っ!? な、なに? 恭也」

「話、しないほうがいいか?」

「え? あ、いえ……ちょっと小蓮、思春!
 恭也から大事な話を聞かないといけないんだから、ちょっと静かにしなさいっ!」

やはりな。一番押しが弱いように見えるが、さすが孫権。こういう時はやはり最高権力者だな。
シャオも思春も、蓮華の言葉に思わず息を呑んでしまう。

「恭也、ごめんなさい。話してもらえるかしら?」

さて、この三人は俺の話を、本当に何処まで信じてくれるのだろうな?



「ふむ……つまり不破恭也。お前はここではない世界の住人だと」

「そこでの事故で、気がついたら私達の世界に来ていたっていうのね?」

「で、やられそうになってるお姉ちゃんを見て、訳も分からないのに助けに入ってくれたんだ?」

……ん?なんだ? なにやら全肯定されているような……

「ま、まて。三人共、俺が言うのもなんだが、疑わないのか?」

「……え? なんで?」

「言ったでしょう。私は貴方を信じるって」

……シャオ……蓮華……

「私はお二人のように純粋に信用は出来ん」

思春……俺がいうのもなんなんだが、まともな反応をしてくれる人間がいて助かる。

「しかし、お前の素性に関しては、ことさら嘘を言っているようには聞こえない。
 さらに言えば、先日穏…仲間が町でおかしな予言を聞いていてな。
 聞いたその時はおかしな話だと思ったが、今にして思えばお前の事を示していたのだとすると納得がいく」

ん? 予言だと?

「予言って言うと……あぁ。穏が本を買いに行った時に聞いたという、あれね」

「はい、蓮華さま。
 茶請け話かと思っていましたが、考えてみればこれほどまでに符合するというのもおかしな話です」

「ねぇねぇ思春。って事は、恭也があの予言の人って事なの?」

「はい。まだ推測の域を出ませんが、おそらくは…「ちょ、ちょっと待ってくれ」…なんだ、不破恭也」

いや、なんだは俺の台詞だろう?

「三人とも。予言、とはどういう事だ? 誰かが、俺がこの地にやってくる事を予め知っていたと?」

なんの冗談だ?
偶発的にここに来てしまった筈の俺の出現が、予言されていたなんて。

「ごめんなさい。詳しい話は知らないのだけれど、そんな話を聞いた人が、たしかに私達の仲間にいるのよ」

「うん。シャオも聞いたよ?
 はっきり恭也が来るって予言じゃなかったみたいだけど……えっと……なんて言ってたっけ?」

「それが……私もそれらしき話を聞いた覚えはあるのですが……
 何しろ、その時は茶請けの与太話程度の認識しかなかったもので……」

つまり早い話が、皆正確には覚えていないわけだ。
それは話を聞いてきた人物が、よほど普段からそういう“胡散臭い”類の噂話を仕入れてくる人なのだろう。
俺の周りにも、まずは話を疑ってかからなければいけない奴がいたしな。
そう、俺がここにくる原因になった奴とか。

「まぁ、覚えていないのならそれは仕方ない。俺を、その話を聞いてきた人物に合わせてもらえるか?」

まぁ、その“予言”とやらが本当に俺をさしているものかどうか確認してみないといけないしな。
帰る手がかりになるかもしれんし。

「そ、そうね。じゃあ小蓮、思春。悪いけど穏を呼んできてもらえる?」

「……はい。畏まりま…「ちょっとまったぁ!」…小蓮さま?」

「なんで穏呼びに行くのに二人で行くの!? 誰かに頼めばいいじゃない!」

……たしかに。

「どうせシャオ達呼びにいかせてる間に恭也と二人っきりで……なぁんて考えてたんでしょ!?」

「なっ!? しゃ、小蓮! 貴方私をなんだと思って……」

「いろぐるいのしきまっ!」

…………………………はい?

「っ!? 小蓮!?」

「意味わかんないけど女の子には悪口だって穏が言ってたもんっ!」

…………いや、男にも悪口だが…………って、そうじゃないだろ。

「……思春」

「言いたい事は分からなくもないが、原因はお前だ。お前が何とかしろ。私は穏をここに呼んでくる」

…………………………逃げたな。

「戻るまでにお二人をどうにかしておけよ、不破恭也」

…………無茶を言ってくれる。
まぁ…………よく分からないが、話の中心が俺である事は確からしいな。
しかたがない。どうにか出来るか分からんが、努力はしてみるか。

「……場合によっては、少々長い付き合いになる可能性もある訳だしな……」







それにしても、今週は比較的昼間は温いような気がするな。

美姫 「どうせ、また寒くなるんでしょうけれどね」

いやいや、寒い方が良いぞ。

美姫 「暑いの苦手だもんね、アンタ」

ああ。冬が来て、ずっと冬だったら――

美姫 「そう言えばさ」

うわぁ〜い、同じ無視するのなら、せめて最後まで言わせてくれよ。
武士の情けでござる。

美姫 「はいはい、バカばっかり言ってないで本題に戻るわよ」

本題も何も、まだ何の話題も出してないんですけれど。

美姫 「私の中には既に出ているのよ」

結構どころか、かなり無茶苦茶言いますね。

美姫 「はいはい、それよりも最近たるんでないアンタ」

えー、誠心誠意頑張っていく所存であります。

美姫 「未来は兎も角、過去の話なんだけれど」

その件に関しましては。

美姫 「殴られる、どつかれる、蹴られる、斬られる、刺される、素直にその手の冗談を今すぐ止める。
    どれがお好みかしら」

……ごめんなさい。

美姫 「うん、まあ大方の予想通りだわ」

褒めるなよ〜。

美姫 「はいはい、いちいち突っ込まないわよ」

いじめっ子……。

美姫 「それはそうと、現状進み具合はどうなのよ」

うーん、どれもこれも半分ぐらいまで書けている状況かな。

美姫 「だったら残りもさっさと書いて欲しいものだわ」

いや、全くその通りだ。
その通りだが、これがまたいう事を聞かない手で。
書こうとするんだけれど、違う事をやりだすんだよ。いや〜、本当に困ったもの――ぶべらぼべぇっ!

美姫 「今、何か仰りやがりましたか?」

う、うぅぅぅ、か、顔を踏み躙らないで……。

美姫 「で、何か言いやがりました?」

な、何も言ってないです(涙)
ふみぃぃぃっ! い、いたい、いたいよ。

美姫 「何を言ったのかと聞いているんだけれど?」

が、頑張って書き上げますと言いました。

美姫 「そう、なら頑張ってね」

うぅぅ、大きな暴力の下では民衆は耐えるしかできないんだね。

美姫 「民衆ってアンタ一人でしょうが」

あー、まだ頬が痛む。

美姫 「なら逆の頬を叩いてあげましょうか。そしたらバランス取れるんじゃない?」

そんなバランスはいらんわっ!

美姫 「そんなに怒鳴らなくても良いじゃない」

誰が怒鳴らせているんだよ。

美姫 「私の所為とでも言いたいのかしら」

め、滅相もない! そげなおっそろしいこと、オラ口さ裂けても言えないだべよ。
そ、それよりも時間じゃないかな?

美姫 「ああ、本当ね。って、まだアンタのCMしてないじゃない」

……おお! よし、今週はお休みという事に――ぶべらっ!

美姫 「それじゃあ、CMで〜す」

って、やめっ、やめて、それ以上は折れるぅぅぅっ!







darkness servant 第二話

ふと目を開け、恭也は見知らぬ天井を暫く見詰めると上半身を起こして部屋の中を見渡す。
見覚えのない、いや、正確には昨日一度見ている部屋を改めて眺めながら、ようやく恭也は状況を思い出す。
何故、コルベールの提案を受け入れたのかと言えば簡単で、
あまりにもしつこいので相手をするのが面倒臭くなったからであった。
その気になれば気付かれずにここから逃げ出す事も出来ると判断し、
とりあえずは屋根のある寝床が確保できた程度に考えたというのもある。
そんな態度を感じ取ったのか、部屋にあるベッドで未だに眠りこけている少女、ルイズは更に苛立ちを見せていたが。
もう少し寝ようかとも思ったがどうやら完全に目が覚めてしまい眠気は既になくなってしまっている。
ならばと恭也は立ち上がると足音も立てずに部屋を後にする。
とりあえずこの塔の間取りだけでも把握しようと下へと歩いて行く。
早朝だからか、他に誰にも出会う事なく恭也は寮となっている塔から外へと出る。
昨日見た光景と似たような光景が広がり、その向こうにはやはり壁が見える。
どうやら昨日も見た壁がぐるりとこの学院の周囲を城壁のように囲んでいるらしい。
壁を横にして学院を一周してみる事にする。
中世ヨーロッパの白に近い感じを受けながら一周する間、似たような塔が他にも数本あるのだと理解する。
いちいち数えていた訳ではないが、その数は五、六本といった所かと検討をつけ、
最後にこの学院からいざと言うときの逃走ルートを考える。思ったよりも簡単に抜け出せそうだと思いつつも、
魔法という未知の物に対する警戒もしっかりと頭の中に入れておく。
それらを終えると恭也はポケットからリボンを取り出して大切そうに握り締める。
その表情はルイズたちの前で見せていたものとは異なり、優しくもあり寂しそうでもあった。
まるで何かを儚むかのように細められた目をゆっくりと閉じ、リボンを大切そうに再び仕舞う。
そうして閉じていた目を開けると、いつもの感情の全く分からない顔となっていた。
そろそろ頃合かと部屋へと戻った恭也が扉を開けるなり枕が飛んでくる。
それを躱して中に入れば、部屋の主であるルイズが怒りながら着替えていた。

「何で起こしてくれなかったのよ!」

服から顔を出し、袖に腕を通しながら怒鳴り散らすルイズを一顧だにせず、壁に背中を凭れさせる恭也。
それがまたルイズの怒りに火をつけるのだが気付いているのかいないのか、その表情からは読み取れない。

「ちょっと着替えているんだから扉ぐらい閉めなさいよね!」

既に着替え終えたように見えるが恭也は特に何も言わずに扉を閉める。
初めて自分の言う事を聞いた恭也に気を良くするルイズであるが、実際には単に自分が開けたから閉めただけである。
そんな事にルイズが気付くはずもなく、マントを羽織ながらしたり顔で説教めいた事を口にし出す。

「初めからそう素直に言う事を聞いていれば良いのよ。
 いい、明日からはちゃんと起こすのよ。あ、それとさっき投げた枕を取ってきなさい」

言って扉――閉めさせたとルイズは思っている――を指差すルイズに、
恭也は入ってきたときのように扉の傍の壁に凭れて無言のまま。
徐々にルイズの顔が怒りに染まっていき、すぐさま爆発する。

「ちょっと聞いているの! ご主人様が命令しているのよ!
 それなのに無視をするなんてどういうつもり!」

「くどいようだが俺はお前の使い魔などになった覚えもない。
 故にお前の命令を聞く必然性も感じない。それよりも腹が減った」

「ふんっ! ご主人様の言う事を聞かない奴に食べさせるご飯なんてないわよ!」

怒りで赤く染め上げた顔に吊り上がった眼差しで強気な態度に出る。
ここで使い魔に舐めれるわけにはいかないと思っているのか、ご飯が欲しければ言う事を聞けとばかりに腕を組む。
それを一瞥すると恭也は壁から背中を起こして扉を開ける。
後ろで勝ち誇るように笑うルイズを無視して扉を閉める。
閉められた扉を数秒見詰め、再び開く事がないと分かるとルイズは飛び出すように部屋を出る。
扉を開ければすぐ目の前に壁にぶつかって落ちた枕がそのままの状態で床に転がっており、
恭也がそれを取った様子は当然ながらない。
枕を乱暴に部屋の中に放り投げるとルイズは走り出す。
程なくして歩いている恭也に追い付くとその腕を掴む。

「ちょっと何処に行くつもりよ!」

「別に行く当てなどない。だが昨日も行ったがそれでも構わない」

「駄目よ! あなたは私の使い魔なのよ」

「いい加減に覚えろ。違うと言っている」

「くっ! で、でも、そうなるための仮契約期間でしょう。
 だったら勝手に居なくなられたら困るじゃない」

「……何度も言わせるな。全てそっちの事情でこっちには関係ない。
 あまりにも面倒くさいからそれで手を打っただけだ。それも寝床や飯付きという条件でな。
 それをお前は破った。口にしただけという言い訳は聞かない。
 どうしてもと言ってその仮契約の提案を持ちかけてきたのはそっちだ」

言うだけ言うとルイズの手を振り解いて歩き出す。
その背中を必死に掴み、ルイズは恭也を引き止める。
留年が掛かっている上に、こんな事が知られたらそれこそ何を言われるか分からない。

「待って! ちゃんと朝食を用意するから!」

それでもお構いなく歩く恭也にルイズは怒り出しそうになるのを堪え、怒りに振るえながらも謝罪を口にする。
とても小さくて聞き逃しそうになっても可笑しくはないが、恭也はしっかりと聞き取り足を止める。

「次はない」

短くそう口にする恭也にルイズは何か言いたそうにするも飲み込み、恭也を連れて食堂へと向かう。
ルイズに付いて食堂に入ると、恭也はルイズの隣に座ろうとする。

「待ちなさい。平民のあなたはこっちよ」

言って床を指差すルイズに大人しく従う恭也。
別にこれぐらいはどうでも良いと思っているのがありありと分かる態度ながらも、ルイズは少し胸を張る。

「で、まさかこれだけか」

床に置かれた具のないスープに堅そうなパン一つを指差して尋ねる恭也に、
ルイズは慌てたように隣の席にあった食事を渡す。

「これで文句ないでしょう」

それらを無言で受け取ると恭也は食べ始める。

「ちょっとまだお祈りもしてない――」

「祈るものなどないし、食べるときに食べる主義だ」

一旦食事の手を止めるもすぐに食べ始める恭也にルイズはこめかみを引き攣らせるも耐える。
耐え切れず、ぶつぶつと我慢よルイズと自分に言い聞かせている声が聞こえるも、
恭也は気にした素振りもなくただ黙々と食事を平らげるのであった。







ピクピク……。

美姫 「おっと、もうこんな時間だわ。それじゃあ、今週はこの辺で♪」
    それじゃあ、また来週〜」

……う、うぅぅ、酷い。


2月15日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、久しぶりに雪を見たよ〜、とお送り中!>



はい、今週もこの時間がやってまいりました。

美姫 「アンタをお仕置きしちゃう時間ね」

違うよ! 何で開始早々お仕置きされないといけないんだよ!

美姫 「いや、だって今週の更新履歴を見れば一目瞭然じゃない」

いや、確かに言い訳できませんよ、ええ、できませんけれどね。

美姫 「と言うわけでお仕置き決定♪」

や、やだよ、開始早々なんて嫌だよー!!

美姫 「悶え苦しむみっともない所は放送コードに引っかかるので、早速だけれどCMで〜す」

って、お前どんな事をする気……みぎょぉぉぉっ!
く、首がぁぁっ!







「――という訳よ、分かった」

「は、はい! で、でも本当にそんな事を……」

「勿論よ。それにこんなのは序の口よ」

「じょ、序の口なんですか」

「そうよ。私ならもっとすごい事を」

「お姉ちゃん! フェイトちゃんにあまり変な事を教えたら駄目だよ」

月村邸のリビングで妹が姉を嗜める声がする。
フェイトと忍の間に割って入る従姉妹のすずかに、忍は平然としたまま返す。

「変も何も私はただ明日の事を教えてあげただけなのに」

「明日ってバレンタイン?」

「そうよ。知らないって言うから、明日は好きな人にチョコを渡して告白する日だってね。
 勿論、私はもっとすごい事をするけれどね。ふふふ」

「お姉ちゃん、そんな事ばっかり言ってるから、ううん、やったりするから恭也さんに怒られるんだよ」

「うっ、それを言われると辛いわね。やっぱり普通にチョコを渡す事にしようかな」

ふと漏れ出た言葉にすずかはやっぱりというような顔で呆れたような視線を投げ、
同時にフェイトに変な事を教えていなかったという事に胸を撫で下ろす。
そんな姉妹を見比べながらフェイトは忍ではなくすずかへと尋ねる。

「すずか、明日は好きな人にチョコレートを渡すって本当」

「うん、そうだよ。まあ告白云々までは別に気にしなくても良いけれど」

むしろされては困るとばかりにすずかは後半部分を特に強調して告げ、
その迫力にフェイトは僅かに身を引きながらも頷いて見せる。
それを見て取るとすずかはようやくフェイトから身を引き、いつもの笑顔を見せる。

「もう作ったの?」

「あ、チョコレートは作った事がなくて。
 忍さんが代わりに用意してくれたの」

フェイトの言葉にすずかが素直に忍を尊敬するような眼差しで見つめれば、
忍は忍で謙遜など見せずに胸を張って大威張りしてみせる。

「もうお姉ちゃんってば。そんな事しなければ、本当に尊敬できるのに」

「それって尊敬してないって言ってるようなものよすずか」

「っ! そ、そんな事ないよ」

「す〜ず〜か〜?」

「あ、あああ、わ、わたし、明日のためにチョコを準備をしないと」

言って逃げ出そうとするすずかの腕を掴んで引き寄せると、忍はにやりと形容するのがピッタリくる笑みを浮かべる。

「どれどれ、可愛い妹分がどれだけ成長したのか確かめてあげよう」

「い、いやっ! お、お姉ちゃんやめてぇっ!」

脇腹をくすぐりながらも徐々に手を上へと滑らせて行き、身を捩って逃れようとするすずかを両足で挟んで固定する。

「さ〜って、たっぷりねっぷりじっくりと確かめますか」

ワキワキと両手をすずかの目の前でわざと蠢かし、すずかの胸へと近づけていく。

「や、ややや、やぁぁぁっ!」

目の前で繰り広げられる激しいスキンシップに微笑を浮かべ、フェイトはそろそろお暇するべく立ち上がる。

「それじゃあ、私はそろそろ帰るね」

「ま、ままま待ってフェイトちゃん、た、たす、たすけ……」

「ばいば〜い、フェイトちゃん。明日は頑張ってね♪」

楽しそうにライバルである少女に片手を振って見送ると、すぐさま妹弄りに戻る忍。
忍の言葉に頬を染めつつ小さく頷くと、フェイトは月村邸を後にするのであった。



翌日、学校が終わるなりフェイトは真っ直ぐに家に――帰らずに高町家へと向かう。
立派な門の横にあるインターフォンを鳴らすも中から誰かが出てくる様子はない。
まだ帰宅していないのだと分かると、自分がどれだけ急いできたのか分かって少し赤面する。
とりあえずは家に一旦戻って着替えてから出直そう、そう考えて踵を返したその目の前に、

「フェイトか。なのはは一緒じゃないのか?」

家の前で立ち往生していたフェイトにそうやって声を掛けてきたのは、
この家の住人でフェイトが会いに来た人物、高町恭也その人であった。

「えっと、なのはは掃除当番で」

「そうか。家に何か用事でもあったのか。とりあえず入るといい」

言って門を開けてフェイトを中へと招き入れる。
恭也の後に続きながら、フェイトは家へと入る。

「お邪魔します」

「ああ、どうぞ。とりあえずリビングの方に行って待っててくれ。
 すぐに行くから」

「あ、はい」

恭也の言葉に従い、既に知ったるとばかりに迷わずにリビングへと向かう。
それを見送り自室へと戻った恭也は宣言通りに手早く着替えを済ませるとリビングに向かう。
お茶を入れてフェイトの体面に腰を下ろすなりフェイトが小さな包みを取り出して差し出してくる。

「あ、あの、恭也さん、これ」

「チョコレートか。ありがとうな、フェイト」

「い、いえ」

少し素っ気無くなったけれども大丈夫かと不安そうに見つめるフェイトに笑顔で受け取ると、
恭也は断ってから包みを丁寧に剥がして行く。
中の箱を開け、そこからチョコレートを取り出して首を傾げる。

「これもチョコレートなのか」

「はい」

変わった形のチョコを手に首を傾げる恭也の隣へと移動し、恭也の手からそのチョコレートを取り上げる。

「これはこうして」

言って手のひらサイズの細長いソレの両端を握り、回すようにして上下に分ける。
まるでキャップを取るみたい、いや、実際にキャップを取る。
すると中から見慣れたチョコレート色のものが見える。更にフェイトは底部分を回転させる。
それに合わせるようにチョコレートが迫り出す。

「リップチョコです」

「ほう、珍しいな」

思わず感嘆の声を漏らす恭也が見ている前で少し恥らいながらも、そのチョコレートを舌を出して少し舐めて溶かし、
それを自らの唇へとさっと塗る。
突然の行為に意味が分からずに呆然と見ている恭也を見上げ、そっと目を閉じる。

「た、食べてください」

耳まで真っ赤にしながら言い放たれた台詞に恭也はたっぷりと数十秒固まり、ようやく再起動を果たすと、
ややギクシャクした声で未だに目を閉じているフェイトに尋ねる。

「フェ、フェイト?」

「は、早くお願いします」

だが、声が上擦り名前を呼んだだけでそれ以上の言葉が出てこない。
小さく震えるフェイトを見て、恭也は自分が苛めているような気分になってくる。
そんな気持ちに押されるように覚悟が決まり、肩にそっと手を置いて顔を近づける。
気配でそれを察し、ひときわ大きく身体を震わせるもじっと耐えるように待つ。
周囲の気配を探り、自身のデバイス――グラキアフィンで周辺の魔力反応をスキャンし、
更に周囲を自身の目で見渡して誰もいない事を確認すると素早く舐め取る。
互いに真っ赤になって言葉もなくただ顔を俯かせる。

「ま、まだ食べますか」

その沈黙に耐え切れなくなったのか、先にフェイトの方からそう声を掛ける。
それで恭也もまた弾かれたように我に返るとフェイトの行動をとりあえず制する。

「フェイト、い、今のは誰に聞いた」

「し、忍さんが今日はバレンタインと呼ばれる日で、こうやってチョコレートを贈る習わしがあるって。
 本当に嫌ならしなくても良いと言われましたけれど、恭也さんにはお世話になっているから。
 わ、私も恥ずかしかったですけれど、恭也さんなら別に嫌じゃないから……」

「そうか、それはありがとう」

兄が妹にするようにお礼と一緒に誉めるように頭を撫でてやる。
それに嬉しそうな表情を見せるフェイトを優しげな眼差しで見守りながら、
その胸中では忍に対するお仕置きメニューを幾つも浮かべていく。
忍としてはまさか本当にやるとは思っていなかったのかもしれないが、フェイトは真面目過ぎるのだ。
冗談を冗談だと思わずに実行してしまうなどと思いもしなかっただろう。
だが、そんな言い訳に耳を貸すつもりは恭也にはなく、忍の明日の命運は本人の知らない所で既に決定してしまう。
忍の事よりも今はフェイトの事だと考えを切り替え、恭也は本当の事をフェイトに教えてやる。
それを聞いた途端、フェイトは顔を紅くして俯いてしまう。
自分の無知を恥じる気持ちとは別に、改めて自身の行動を思い返して恥ずかしそうに顔を隠す。

「す、すみません、わ、わた私……」

「いや、フェイトが気にすることじゃない。全ては忍の所為だからな」

「で、でも……」

「そこまで畏まらなくても良い。寧ろ、俺は良い目を見た立場なんだから」

慰めるためにそう口にし、した途端に顔を紅くする恭也。
慌てて弁解しようとするも上手く言葉が出てこない。
対するフェイトの方も恭也の言葉に再び顔を朱に染めて俯く。

「えっと、その……。あ、改めて新しいチョコレートをお渡ししますから」

「いや、そこまでしなくても良い。チョコレートならここにあるからな。
 これで充分だよ」

言ってリップチョコを手に取る。
その言葉をどう理解したのか、フェイトは真っ赤になりながらも礼を言い目を閉じる。

「きょ、恭也さんが気に入ったのならどうぞ」

「……ち、違う、そうじゃなくて」

フェイトがどんな勘違いをしているのか気付いて恭也は慌てて否定すると、リップチョコをそのまま口に入れる。

「ほら、これだってチョコレートなんだから普通にこうやって食べれば良いだろう。
 だから新しく用意しなくても良いって事だよ」

「……あっ。あうぅぅ」

自分の勘違いを指摘され、フェイトは更に顔を真っ赤っかにすると身を縮めて俯く。
そんなフェイトを慰めるように無言のまま頭に手を置き、恭也は優しく撫でてやるのだった。







美姫 「という訳で、今回のCMは完全に一本書かせました〜」

う、うぅぅ、許して、止めて、もう、もう……。

美姫 「書かずに対戦ばかりしてたアンタが悪いのよ。
    そんなに対戦がしたいのなら、いつでもリアルファイトしてあげるのに」

駄目ぇ! 逃がしてぇ! 誰か助けてください! うわぁぁん、俺が悪かったよぉぉぉぉっ!
やめてよ美姫。人の身体はそんな風にならないって、いや、やめっ、曲がらない、それ以上は曲がらないからっ!

美姫 「ほら、いつまで夢見てるのよ!」

ぶべらっ!
……ここは誰? 私はどこ?

美姫 「うん、元に戻ったわね」

いやいやいや、そこは突っ込めよ!

美姫 「はいはい。で、今回は一日遅れだけれどバレンタインネタね」

おう。設定は『リリ恭なの』を使ったけれどな。
ちなみに、おまけもあるぞ。

美姫 「なら、それも公開よ!」



おまけ

フェイトを撫でていた恭也は不意にその手を止める。
名残惜しそうに離れていく手を見ながらもフェイトも気付いていた。
玄関の方が賑やかになっている事に。
どうやら美由希たちが帰ってきたらしく、

「ただいま恭ちゃん。忍さんも来ているけれど、あ、フェイトちゃん、いらっしゃい」

リビングへと顔を出しながら言った美由希であったが、そこでフェイトが居る事に気付いて挨拶を交わす。
その後ろから忍となのはがやって来る。

「やっほー、恭也。って、あれあれ? 何か怒ってる?」

恭也から放たれる何かに気付き、忍の笑顔が途中で凍る。
恭也の視線から逃れるため、自然と忙しなくあちらこちらへと飛ぶ視線がテーブルの上にある一つのものを見つける。

「……え〜〜っと」

様子の可笑しい忍に気付いた美由希がその視線を辿り、同じ物を目にする。

「あれ、恭ちゃんそれは何? リップみたいだけれど」

「これか。これが何か知りたければ、そこに無意味に突っ立ている奴に聞いてみろ」

「あ、あははは……。それはチョコレートだよ」

「チョコですか?」

「そう。こう自分の唇に塗って食べて♪ ってするためにフェイトちゃんにあげたやつなんだけれど」

忍が冷や汗を掻きながらも恭也のプレッシャーに素直に白状する。
それを聞いてなのはは恭也の態度の理由を知り、騙されたのであろうフェイトへと同情する。
その視線に気付いたフェイトが目を伏せる。
本来なら助けてあげたいところではあるが、大事な親友を騙したので少しは懲りてもらおうと考えて、
なのはは無言で忍の横を通り過ぎてリビングへと入っていく。
そんな中、美由希は忍とリップチョコを何度も見比べ、やがてその視線がフェイトへと向かう。
ようやく美由希も一連の出来事を理解したらしく、それを見てなのはは忍の味方がこの場に誰もいなくなったと思う。
美由希も無言で忍から離れ、恭也へと向かって凄い勢いで詰め寄る。

「恭ちゃんの鬼畜、人でなし、むっつりスケベ!
 フェイトちゃんが何も知らないのを良いことに、忍さんと共謀してそんな事をするなんて見損なったよ!
 鈍感で朴念仁で無表情で、年中不機嫌そうな顔ばかりして真っ黒クロスケの若年寄りでも、そんな事だけは、
 そんな事だけはしないと信じていたのに。なのに、なのに……」

「……美由希、言いたい事はそれだけだな」

静かに放たれた恭也の冷たい言葉に美由希は固まり、逆に忍は怒りの矛先が変わったと安堵しようとする。
だが現実はそんなに甘くはなかった。

「二人とも今日はとことん話し合おうか」

話し合おうと言いながら指をバキバキと鳴らす恭也に二人は揃って後退る。
それら一連の出来事を横で見ていたなのはは、既にこれからどうなるのか充分に理解し、
理解したからこそフェイトを連れて自室へと急ぎ戻る。
まだよく分かっていないフェイトの手を引っ張り、自室の扉を閉める。
その扉越しに何やら到底人が出したとも思えないような悲鳴が聞こえてきたが、きっと多分それは気のせいだろう。



という感じで。

美姫 「またしても美由希が」

あ、あははは。何度も言うように嫌いじゃないよ、本当だよ。

美姫 「その割には扱いが酷いわね」

ほら、好きな子ほど苛めたくなるというじゃないか。

美姫 「屈折した愛情ね」

いや、そこは冗談なんだから何か突っ込んでくれよ!

美姫 「はいはい。なんでやねん。アンタとはもうやっとれんわ。ほな、さいなら」

シクシク(号泣)
そんな棒読みで、某天才少女みたいな突込みされても、笑えない。俺、もう笑えないよ。

美姫 「はいはい」

って、またその反応なのかよ!

美姫 「あ、もう時間だわ」

って、もっと酷くなってる!?

美姫 「ほら、いつまで冗談やってるのよ」

しかも俺の所為になっているし。

美姫 「所為って、何かやったのアンタ。駄目よ、ちゃんと謝らないと」

う、うぅぅ、もう良いです。

美姫 「ほら、泣いていないでさっさとしなさいよね」

へいへい。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「それじゃあ、また来週〜」


2月8日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いやー本当に冷え込むな〜、とお届け中!>



そんなこんなで今週も始まりましたー!

美姫 「妙にテンション高いわね」

あははははー。
そんな事はないぞ。

美姫 「そのテンションで一気に書いて欲しいわね」

無理無理〜。あはははは〜。

美姫 「……ていっ!」

ぶべらっ!
な、何をする。

美姫 「いや、何となくそのテンションがむかついたから」

むかついたという理由だけで、お前は人を殴る……いや、まあ、お前ならな〜。

美姫 「納得されると腹が立つわね」

待て待て、暴力は何も生まないぞ!

美姫 「私の心の平穏を生むわ」

それは一時の気の迷いだ。
すぐにその虚しさに気付くはず。……多分。

美姫 「ないない、それはないわ」

やっぱり……。と、そんな戯言はこの際置いておいて!

美姫 「気持ち悪いわね」

だな、俺もそろそろ疲れてきた。

美姫 「はやっ! それはそれでどうなのよ」

いや、そんな事を言われましても。
と言うか、告知が一つ!

美姫 「そう言えばあったわね」

うん。とは言っても殆どの人にはあまり関係ないかもしれないけれど。

美姫 「投稿に関してよね」

うんうん。
ワードでの投稿も受け付けているんだけれど、最新のワードだとファイル形式がどうも違うみたいなんだ。
で、読めない。なので、送ってもらう際には旧式のワードでも読める形で保存してください。

美姫 「という事をご案内に修正して載せたんだけれど……」

いやー、旧式で読めるようになるパッチがあったらしくてそれをインストールしたら読める、読める。

美姫 「と言うわけで、その辺りも大丈夫になりました」

とは言え、流石に最新ヴァージョンで追加された機能を使っている場合は無理なんだろうとは思うが。
どうなんだろう。

美姫 「どうなのかしらね」

まあ、普通に文章を打っている場合は大丈夫だと思うけれど。
ともあれ、最新版のワードでも投稿できるようになりましたので。

美姫 「必要な事も伝えた事だし、それじゃあ、CMいってみよ〜」







歴史――過去に起こった出来事や移り変わってきた過程などを差し、記録や文章として後世に伝えられるもの。
常に事実のみが伝えられる訳でもなく、その時の王や勝者などによって改竄や捏造される事もある。
しかし、それは大よその事実が伝えられ、それを元に真実を明かす研究者たちもいる。
だが、光があれば影が、大概の物に表と裏があるように、歴史にもまた表と裏が存在する。
一般的に広く知られている表の歴史とは別に、殆どの人の目には触れる事なく、
ほんの一部の者たちのみに伝えられる裏とも言える歴史が。
何故、それが隠されたのか。隠されなければならなかったのか。
それは知られれば大きな混乱を世にもたらすから。
繁栄しているように見える人類を絶望が襲うから。
それは中世より飽くことなく繰り返されてきた一つの戦いの歴史。
そして今も尚、続いている人類の敵との戦い。
人に酷似した容姿を持ちながら、その身体機能は軽く人を上回り、狡猾で残忍な謎の生命体――NON-HUMAN
そう名付けられた者たちと人類が極秘に設立した戦闘組織『GOI』の戦いの歴史、
これこそが決して明るみに出ないもう一つの歴史である。



日本本土から遠く離れた海上にぽつりと浮かぶ孤島、瑠門島(りゅうもんとう)。
親島と子島の二つからなるこの島は、戦後は炭鉱として多くの人々が生活をしていた。
しかし、それは既に昔の事で今では完全な無人島となっている。
だが、その島にここ数日上陸する者たちが居た。
それも一人や二人ではない。何十、もしかすると何百という人間が一様にこの島目指して海上を進む。
その中に一般人の姿はなく、彼、彼女は皆スレイヤーと呼ばれるNON−HUMANと戦う戦士たちであった。
今、ここでかつてないほどの大規模な作戦が始まろうとしていた。



「ここが瑠門島。ここにたくさんのNON−HUMANが居るのね」

「姉さん、気をつけて」

「分かってるわよ。雹は心配しすぎよ」

新たに島へと上陸した少女が前をしっかりと閉じたコートにマフラーという出で立ちの少年へとそう返す。
少年の格好も人目を引くものではあるが、少女の格好もまた人目を引くようなものである。
肩を完全に肌蹴させた胸元の大きく開いた服にミニスカート。
それだけならば異様さはないのだが、その腰に下がっている日本刀と首に付けられた無骨な、
まるで手錠のような首輪の所為でそう感じられる。
尤も、この島に居る者たちは少なからず武装しているので、少女が武器を所持していても違和感はないだろうが。

「まあ頑張ってスコアを稼ぐ事だな姫菜」

ここまで二人を連れてきたと思しき男は簡単な挨拶を済ませると、
こんな物騒な所はごめんだとばかりにさっさと引き上げていく。
それを見送り、姫菜と雹は拠点を探すべく残橋から内地に向かって歩き出す。



「時原に雹くんか。二人もこの島に来ていたんだな」

「あ、高町さん。お久しぶりです」

島の中を見て歩いている内に、二人は知り合いに出会う。
まず最初に雹が挨拶をすると、続けて姫菜も先程までの険しい表情から一転して柔らかい表情になり、

「そっちも元気そうね。恭也も来てたんだ」

「ああ。かなり大きな作戦だと聞いてな。
 時原たちはスコア稼ぎか」

「まあね。私は恭也たち傭兵スレイヤーと違って、自由になるためにはあいつらを殺さないといけないもの」

「そうだったな」

恭也は姫菜の首に付いている首輪、そこに鈍く光るごつい数値の刻まれたカウンターを見る。

「あ、別に恭也の事をどうこう言っているんじゃないわよ。
 恭也はお金の為に戦っているんじゃないって知っているし、
 FRスレイヤーである私たちにも普通に接してくれるしね」

慌てて取り繕うように言う姫菜に雹も同意するように頷いて見せる。

「そうか。見たところ寝床もまだ決めていないみたいだな。
 向こうに水道もガスも生きている建物があったぞ」

「本当に!?」

「ああ」

「雹、行くわよ」

恭也の言葉を聞くなり走り出す姫菜の後を追おうとして、雹は一旦立ち止まると恭也に頭を下げる。
慌しい二人の背中を見送りながら、相変わらずだなと苦笑混じりに呟く恭也であった。



「ジュスティーヌ!」

多くのスレイヤーたちが集まる島の広場で見かけた女性を見て、
姫菜は今にも掴みかからんばかりの形相で迫る。それを雹が何とか止めるも、姫菜は噛み付かんばかりに睨む。

「……ああ、お前か。お前もこの島に来ているとはな。
 今度は邪魔をするなよ、犬」

「くっ! アンタの所為で私が……」

「姉さん、落ち着いて。相手はSaintsのリーダーなんだよ。しかも七賢人の一人でもあるんだから。
 下手に逆らったらまた前みたいに」

姫菜の耳元で落ち着かせるために告げた言葉に姫菜も掴み掛かるのは止める。
だが睨み付ける事だけは止めず、鋭い眼光を飛ばす。
それを意にも返さずに髪を掻き揚げ、ジュスティーヌは鼻で笑う。

「フン、よく出来たハーフの弟だな」

「っ! 雹、離しなさい!」

ジュスティーヌの言葉に飛び掛りそうになった姫菜を後ろから押さえ、雹は落ち着かせようとする。
だが、今度はすぐに大人しくならずジュスティーヌへと腕を伸ばす。
その手がジュスティーヌに届けば、また難癖をつけられて罰として何かをされるかもしれない。
雹はその事に危惧を抱くが頭に血の上った姫菜はそんな考えなど吹き飛んでおり、
殴らないと気が済まないとジュスティーヌの胸倉を掴もうと手を伸ばす。
それを可笑しそうに黙ってみているジュスティーヌの態度が更に姫菜を熱くさせる。
後少しで姫菜の手が届くといった所で、その手は横から伸びてきた手によって掴まれる。

「落ち着け時原」

「高町さん」

「離して恭也!」

姫菜の腕を掴んだ主、恭也の登場に二人は違う反応を見せる。
明らかにほっとした様子を見せる雹と邪魔をするなという目で睨みつけてくる姫菜。
未だに頭に血が上っているらしい姫菜を雹と二人で押さえながら、恭也はジュスティーヌと姫菜の間に立つ。
顔だけを後ろへと向け、

「ジュスティーヌさんもあまり時原をからかわないでください」

「別に私はからかったつもりはない。ただ思った事を口にしただけだ」

顔見知りらしい二人の会話にも構わず、姫菜は前へと進もうとする。
だが、流石に二人がかりで押さえられて一歩も進む事ができない。
恭也は嘆息しつつジュスティーヌへと声を掛ける。

「事情はよく分かりませんが、とりあえず姫菜は連れて行きますよ」

「好きにしろ。それにしてもお前がその犬と知り合いだったとはな」

「時原は俺の知り合いです。だから、犬と言うのは止めてもらえませんか」

別段声を荒げる事もなく、ただ静かにそう告げる恭也にジュスティーヌは何も言わずに手を振る。
恭也の言葉には答えず、さっさと行けとだけ告げる。
それに対して何か言おうとするも口を閉ざし、恭也は雹と二人で姫菜を連れて広場を後にする。
残されたジュスティーヌは面白くなさそうに恭也たちの去った方を暫く見ていたが、やがて踵を返すと立ち去る。



瑠門島で繰り広げられるNON−HUMANとの戦いは日増しに激しさを増していく。
その中で見え隠れする隠された真実。
果たしてその先に待つものとは――



GUN−HEART







…………ぼけ〜。

美姫 「最初とは打って変わって気が抜けているわね」

ぼけら〜。

美姫 「ちょっと聞いてるの?」

ふぁ〜〜い。

美姫 「はぁぁっ!」

ぶべらっ!
な、何をする。

美姫 「全く、何気の抜けた顔してるのよ」

いや、最初に飛ばしすぎたらしく気力が……。

美姫 「何て燃費の悪い奴。いや、この場合は燃費じゃなくて気力のない奴かしら」

ほげ〜。

美姫 「って、それを止めなさい!」

ぶべらっ!
うぅぅ、酷いよ。

美姫 「酷くないわよ。全く、偶にはシャンとしなさいよね」

へいへい。とは言え、もう連絡事項もないしな。

美姫 「そうね。それじゃあ、ちょっと早いけれどこの辺にしておこうかしら」

だな。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


2月1日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、もう今年も一月経ったんだ、とお送り中!>



今日から二月!

美姫 「如月ね」

へ〜。と、それはさておき、二月と言えば節分。
鬼は外ー!

美姫 「私に向かって豆をぶつける以上、報復される覚悟は出来ているのよね♪」

あ、あははは。ちょっとしたお茶目じゃないか。

美姫 「お茶目というだけで鬼呼ばわりされて豆をぶつけられるなんて!
    よよよ、か弱い乙女になんて仕打ち。あんまりだわ」

うぎゃぁぁっ!
か、か弱い乙女は……、か、関節技を極めながら……っそ、そんな事言わないと思う……ノォォォッ!

美姫 「あっ……」

な、何だ、そのしまったという声は。
って、何でまあこいつだし良いか、みたいな顔して勝手に納得しているんだ!?
というより、今何が起こった!?
首を、首を離せ〜。何があったのか見えないじゃないか!

美姫 「大丈夫、大丈夫。足がちょっとあり得ない方に曲がったりなんかしてないって」

……おい。さっきから微妙に感じつつも、気のせい、
もしくは単にお前に関節を極められているからだと思っていたこの痛みは、もしかしなくてもなのか。

美姫 「ううん、気のせいよ」

本当かよ! 何故、目をそらす。

美姫 「それじゃあ、CMいってみよ〜」

って、目をそらしたままかよ!







「と言うわけで峻護、アンタは今日これから真由ちゃんとデートしなさい」

それは唐突に、本当に何の前触れもなく、まるでテレビのチャンネルを変えてくれと言うぐらいに軽く発せられた。
こちらの都合も何もかも一切お構いなく、お願いでも提案でもなくただの命令。
けれども、言われた峻護からは反対の言葉はなく、既に言っても無駄だと悟りきった顔で、
しかし自分の相手を務める事となる少女の都合を窺うように、真由へと視線を向ける。
峻護の目があった真由は頬を朱に染めるも、困った様子や嫌そうな素振りもなく、ただ照れ臭そうに俯くばかり。
発言した峻護の姉であるところ涼子は、既に自分の放った発言がどんな影響を及ぼしているのかも気にも止めず、
ただ朝食の続きに取り掛かっていた。

「そんな事認められませんわ!」

だが、その発言に反対を唱えるものもいて、北条コンツェルン次期総帥にして、二ノ宮家のお手伝いさんこと、
北条麗華が席を立ち上がりながら涼子へと牙を剥く。
だが、そんなものは何処吹く風とばかりに受け流し、むしろどこか楽しそうな笑みをその顔に張り付かせると、

「どうして麗華ちゃんがそこまでむきになって反対するのかしら? 」

「そ、それは……。そ、そう! 二ノ宮峻護が何処の誰とデートしようと私には関係はありません。
 ええ、ありませんとも。ですが、それによってただでさえ休日で仕事も多いと言うのに、
 それが滞るばかりか、場合によっては私の負担が増えるではありませんか!」

充分な理由だろうと胸を張る麗華へと、涼子は笑みを貼り付けたままあっさりと言い放つ。

「それは大丈夫よ。今日は仕事しなくても良いから。勿論、麗華ちゃんも仕事から解放してあげるわよ。
 ああ、別に何も企んでいないわよ。
 このデートというのも、真由ちゃんの男性恐怖症克服カリキュラムの一環だって事よ。
 という訳で、邪魔しちゃ駄目よ」

「ど、どうして私が邪魔などしなくてはならないのですか。
 そもそも……」

「まあ、したくても出来ないでしょうけれど」

意味ありげに麗華の傍らに黙して控えていた保坂光流を見れば、少年は笑顔ながらも困ったような顔をしてみせる。

「お嬢様、実はお嬢様が手掛けてられるプロジェクトで問題がありまして……」

「それがどうしたと言うのです。その程度の事でまさか私の手を煩わせると言うのではないでしょうね。
 別に二ノ宮峻護の後を付けようとかではなくて、単に折角出来た自由時間を潰すのが嫌という事であって……」

「ええ、はいはい分かっていますよお嬢様。
 それで問題の方なんですが、お嬢様の決裁が必要なものでして、他の人には出来ないんですよ。
 あ、初めに言っておくと僕も無理ですからね」

そうきっぱりと言い切られ、麗華は言葉もなくただ口を開閉させるのだがやがて諦めたように座り込む。
とりあえずの決着がついたのを見て、それまで黙って朝食を口に運んでいた男がようやく口を開く。

「とりあえずは待ち合わせからだね。
 一緒に家を出るんではなく、先に行って待っている峻護くんの元へと真由が行くという形で。
 良いかい、真由」

「はい。あ、でも、待ち合わせ場所までは私一人で行くんですよね」

「うーん、本当はそうしたい所なんだけれどね。
 流石に行き成りそれでは真由も辛いだろうから、途中までは峻護くんと一緒でも良いよ。
 で、後は夕方頃まで適当にデートして帰ってくると。そんなところかな、涼子くん」

「ええ、そうね。峻護、今回は台本とか一切ないんだから、ちゃんと真由ちゃんをリードしてあげるのよ。
 それとデートらしい事をしなさいよ。後、二人っきりだからと言って変な事はしないようにね。
 まあ、命がいらないってのなら止めはしないけれど」

今日は休みという事を利用し、午前中に屋敷中を掃除して、午後には糠床を見ようと思っていたのだが、
それらは全て中止にせざるを得ない。
それでも涼子の言い分に何も反論せず、ただ黙してささやかな抵抗を見せる。
が、それが伝わるはずもなく、涼子は満足そうに頷いている。
どうせこっそりと後から付いてくるつもりなのだろうが、同じ出掛けるのなら月村さんにも楽しんでもらおう。
そう気持ちを切り替える峻護の思考を呼んだのか、涼子は続けて言う。

「ああ、私や美樹彦が急な仕事で居ないからって、適当な事はするんじゃないわよ。
 まあ、アンタはそういうのは出来ないだろうけれど、一応釘を刺しておくわ」

「それじゃあ峻護くん、妹の事を頼んだよ。涼子くん、そろそろ出ないと」

「そうね。まあ、そんな訳だからしっかりやりなさい」

そう言い残すと麗華の襟首を掴み、玄関へと向かっていく。
まるでそれを見計らうかのように二ノ宮家の上空に影が差し、強風が吹き荒れてローター音が響いてくる。

「ちょっ、離しなさい二ノ宮涼子!」

「はいはい、暴れない暴れない。折角、人が親切で途中まで乗せていってあげようとしているんだから」

「誰もそんな事は頼んでいません! 保坂、主人のピンチなのだから、見ていないで助けなさい!」

「あ、所で麗華ちゃん、スカイダイビングできるわよね。まあ、出来なくても大丈夫よ。
 パラシュートはちゃんと付けてあげるから、後は紐を引くだけだしね」

「スカイダイビング? パラシュート?
 あ、あなた、私に何をさせるつもりですか!?」

「ヘリで送ってあげるんだから、当然ながら止める所なんてないでしょう。
 そんな時間もないし。麗華ちゃんなら空中ダイブぐらい簡単でしょう」

「それは確かに出来ない事はないですけれど、ってそこまでして送って頂かなくても。
 って、人の話を聞きなさい!」

そんなやり取りが遠ざかって行くのを見送り、
峻護は思わず三人が出て行ったリビングの扉へと向かって合掌するのであった。



約束だよ二ノ宮くん 続きは掲示板で







という事で、本当にCMを。
万魔殿企画というのを万魔殿メンバーのFLANKERさん主催でやってます。

美姫 「本当に掲示板を盛り上げるために、色々とやってくださっているわね」

うんうん。投稿してくださっている方々も含めて、改めて感謝を。
という訳で、今回はその企画の中で駄作となる私の作品の没部分を。

美姫 「文字数制限をオーバーして削った部分ね」

おう。三千字の制限でありながら、既にこの部分で二千字以上……。
書いてから数えてショックだったのは内緒だ!

美姫 「単なるバカよね」

うごぉ! と、ともあれ、こうして宣伝として利用できると思えば。

美姫 「無理やりね」

あははは〜。詳しいルールはその都度、そのスレッドに書いてくださっていますので、そちらをご覧ください。
ここでは、参加に関する事だけ軽く。

美姫 「参加は誰でも自由にできます。参加費もなし」

その時のテーマに合わせた作品を書いて投稿してください。
尚、編集できるようにパスワードを設定しておく事を推奨します。

美姫 「と、こんなところかしらね」

かな。うちの掲示板を盛り上げる為にやってくれているから、こうして宣伝もしとかないとな。
うんうん。

美姫 「さて、それじゃあ、次のCMを……」

いやいや、待て待て。お前は幾つ書かせる気だ。

美姫 「果てる事なく!」

やめれ!

美姫 「もうケチね〜」

ケチって何だよ、ケチって。
……と、そう言えばCMにいく前の件についてなんだが。

美姫 「何のこと?」

だから、お前が俺の足を折ったのかどうかという話だよ!

美姫 「折れてないじゃない」

……だよな。う、う〜ん、やっぱりあれは気のせいだったのか。

美姫 「当たり前じゃない。折れてたら、今ごろこんなに呑気にしてられないじゃない」

だよな。

美姫 「……ほっ、治りが早い上にバカで良かった」

何か言ったか?

美姫 「ううん、何でもないわよ。
    でも、さすがは私よね。足は折っても腕は折らないんだもの」

はい? 今、折ったとか聞こえたんたが?

美姫 「聞き間違いよ、聞き間違い。ああ、それよりももう時間が」

思いっきり不審だが、確かにそろそろ時間だな。
それでは、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月25日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、寒い日がつづきますが元気良く、とお届け中!>



今週は特に寒かったな。

美姫 「確かにね」

でも、これぞ冬! って感じで良いな〜。

美姫 「皆さん、風邪を引かないように気を付けてくださいね」

うんうん。身体は大事だからな。
今日もまた冷えるし、暖かい部屋でぬくぬくゴロゴロしよう――ぶべらっ!

美姫 「軟弱な事言ってるんじゃないわよ! きりきりと書きなさい!」

にょぉぉぉぉっ! せ、背中に氷はやめてぇぇぇーー!

美姫 「悶え苦しむ馬鹿を横目に、今週もまたCMで〜す」







それは夏休みも終わりに近づいたある日のこと。
病院へと向かう道すがら、恭也は心底嫌そうなオーラを身から放出する。

≪マスター、そこまで嫌がらなくても良いではないですか。フィリス先生もマスターの事を思えばこそ≫

≪それはよく理解している。しているのだが、あのマッサージだけはどうにかならないものか≫

ため息混じりに紡がれた念話に対し、恭也のデバイスであるグラキアフィンは、
マスターの上げる声を聞いているだけに肯定したいのだが、
その後に身体の調子が良くなっているのが分かるだけに否定もしたいという複雑な胸中を、
言葉にする事が出来ず、曖昧な笑みを浮かべる恭也と同年代ぐらいの少女のイメージという形で送る。
脳裏に浮かんだ映像に苦笑を見せ、

≪しかし、ラキアは器用な事をするな≫

≪私は進化するデバイスですから≫

どこか誇らしげに胸を張る女性。
勿論、恭也の脳内でのみ展開される映像なのだが。

≪しかし、脳内の映像と実際目で見ている映像をはっきりと区別できるマスターこそ器用では≫

≪よく言う。そうし易いように何かしているのだろう≫

≪やっぱり分かりましたか。とは言え、そんなに大した事はしてませんよ。
 それに、それでもちゃんと二つの映像を分けて捉えて認識できるのは、やはりマスターの才能ですよ≫

互いに相手を誉めながら、ようやく目的の病院へと辿り着くのだった。
これが、新たな出会いを招くこととなるのだが、この時はまだそれを知らない。



「レン、見舞いに来たぞ。どうだ、調子は」

「お師匠、いらっしゃい。今日は通院の日でしたな。
 うちの方は順調です。この調子なら、来月中には退院できるとの事ですし。
 それで、お師匠の方はどうでした?」

「ああ、少しフィリス先生に怒られたが……。と、来客か」

レンと話をしていた恭也は、ノックされた扉へと近づいて開ける。
と、車椅子の少女が礼を言いながら入ってくる。

「レンさん、また寄らせてもらいました〜。
 って、すみません、来客中でしたか」

「ああ、気にせんで良いで、はやてちゃん。
 そちらが、前にうちが話をしていたお師匠や」

車椅子の少女、はやてに話し掛けるレンの声を背中に聞きながら、恭也は車椅子を押して入ってきた女性を見る。
同様に、女性の方も恭也を窺うように見つめ、互いに微笑すると肩の力を抜く。

「なあ、前に言うたとおりになったやろう」

「ほんまですな。シグナムと似ているかも」

二人してクスクスと笑っているのだが、その意味が分からずに首を傾げる恭也に対し、
シグナムと呼ばれたはどこかばつが悪そうな顔を見せる。

「気にしないでくれ。前に私とお主が会ったら、共にある反応をするとレン殿と主はやてが話されていてな。
 私としては否定したのだが……」

そう言って苦笑するシグナムに、恭也も何となく分かったような気がして一つだけ頷くのであった。



「……恭也さん、どうして貴方は僕の前に最初は敵側として立つんですか」

「いや、そんな事を言われても、俺自身よく分かっていないんだが。
 単に知り合いが襲われているようだったから、割って入ったらクロノたちだっただけで」

夜空の下で計らずも対峙する事となったのは、恭也とクロノ。
思わず頭を抱えるクロノに対し、恭也は本当に分からないと言った様子であったが。



「今回の件に関して、俺は完全に管理局側に着く訳にもいかなくなった。
 とは言え、敵対するつもりもない。さて、どうしたものか。なぁ、ラキア」

【私はいつでもマスターの味方です。マスターの思うままに行動なさってください。
 きっと、それが良い結果を招くと思います】

白い宝玉からホログラムのように20センチ程度の女性の映像を映し出し、
慰めるように恭也の手の甲にそっと手を置く。
実際に触れる事は出来ないが、恭也はそこに確かな温かさを感じ、一つの決意をする。



「謎の剣士、参上……。激しくデジャヴを感じるのだが、きっと気のせいだな、うん」

何て展開はなく、至って真面目に事態は進んで行き――



「ようするに、その防御プログラムを壊せば良いのだろう。
 守るために壊すのなら、俺の専門だ。遠慮はいらないな」

グラキアフィンを構え、恭也は眼下を見下ろし魔力を高める。
それに呼応するように、周囲でも魔方陣が展開されていく。



リリカル恭也&なのはA's 公か……いや、本当に出来心だったんです、許してください。無理です。







しかし、今週も更新が少なかったな、反省。

美姫 「な、何突然」

いや、殴られる前に先に言っておこうかと。

美姫 「それでも、やられる事は変わらないのよ」

そ、そこは、ほら、自首すれば罪が多少軽くなるというのもある事だし。

美姫 「場合によると思うけれど? それに、私にはそれは関係ないもの♪」

……のぉぉぉ〜! しょ、正直者が馬鹿を見る時代なのか!
そんな時代を許して良いのか!

美姫 「はいはい、アンタは正直者じゃなくて愚か者よ。いや、怠け者かもね。
    という訳で、遠慮なくぶっ飛ばす!」

遠慮した事なんてないくせに!

美姫 「当たり前よ!」

ぶべらぼげぇっ!

美姫 「ふ〜。それじゃあ、この辺にしておこうかしらね」

こ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月18日(金)改め、19日(土)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、急に寒くなったよ♪、とお送りけ中!>



いや〜、寒い、寒い。

美姫 「本当に急に冷え込んだわね」

ああ。でも、冬はこれぐらいじゃないか。
今までが暖かすぎたんだって。

美姫 「それはあるかもね。……ところで」

はははははいぃぃ!

美姫 「今週の更新の少なさはどうかしら?」

いや、ほら、えっと。

美姫 「くすくす。こんな事じゃあ、先が思いやられるわ」

……うぅぅ、反論できませんです、はい。

美姫 「反省じゃなく、結果を出してほしいものだわ」

あ、あはあはあはははは。

美姫 「はぁ。とりあえず、今週もCMいってみよう♪」







広大な敷地を誇る聖フランチェスカ。
その中を歩く大所帯の一向がいた。
それだけ人数がいれば、自然と賑やかになるのは仕方なく。

「ほんまにあきちゃんもかずピーも白状やで」

「そうなの?」

「そうなんや。聞いたってや結衣佳ちゃん。
 俺がわざわざ理事長から出た宿題を忘れている二人に教えてやったと言うのに……」

「だから、俺は忘れてなかったって言ってるだろう及川」

「へん、そないな事言うて、覚えとったのはあきちゃんやのうて結衣佳ちゃんやろう」

及川の言葉に章仁は言葉に詰まり、結果として及川を無視する事にして結衣佳と話をしだす。
幼馴染でのほほんとした結衣佳はくすくすと笑い声を上げつつも、すぐに章仁と楽しそうに話を始める。

「お兄ちゃん、ちゃんと勉強もしてよ」

「羽深、それは無理だ。俺は勉強をすると頭が痛くなるという持病が……」

「それ、持病でも何でもないからね」

「って、何でおまえが横から突っ込んでくるんだ」

「それはキミが羽深ちゃんを困らせるからでしょう」

章仁の言葉に頭の左右をロールにした少女、莉流がすかさず返す。
そんなやり取りを面白そうに見つめていた金髪の少女が小さな笑い声を上げる。

「みろ、おまえの所為でソーニャに笑われたじゃないか」

「すぐにそうやって人の所為にする!」

「事実だろうが」

火花を散らすように睨み合う二人の間で、ソーニャが困ったように右往左往する。
自分が笑った事で険悪になったと涙目にさえなる。
だが、そこにおっとりとした声が割ってはいる。

「二人とも仲良しさんだね」

「結衣佳、おまえにはそう見えるのか」

「結衣佳さん、それは誤解です!」

「ほら、息もぴったり」

のほほんとした結衣佳の雰囲気に、章仁と莉流も毒気を抜かれて大人しくなる。
そんな風に賑やかな一行は揃って、学園の敷地内にあるとある施設へと向かう。
これこそが全ての発端であった。
後にそう思ったりもしたのだが、今ではまだそれが分かるはずもなく。




「恭也さんは兎も角、如耶さままで忘れていたなんて珍しいですね」

「彩夏さん、それではまるで俺だと当然だと聞こえるのですが」

「すみません、そんなつもりはなかったのですが」

おっとりとした笑みを浮かべて恭也にそう答え、彩夏は謝罪を口にする。
だが、本当に反省しているのかは怪しい所であるが。
対し、彩夏とは恭也を挟んでの逆隣に並んで歩いていた如耶はしたり顔で頷く。

「そう思われても仕方ないという事でござろう。
 嫌なのであれば、常日頃からもっと勉学に励めば良いのだ」

「……ちなみに、今回は如耶さんも忘れていたという事を忘れないでくださいね」

「そ、それを言われると確かに強くは言えぬが。
 だが、それがしは一応、ちゃんとした事情があるのだから致し方あるまい」

「急に実家に呼び戻されたんでしたよね。何かあったんですか」

「いや、大した事ではござらんよ。それにもう終わり申したゆえに。
 彩夏殿、心遣いいたみいる」

左右に美女を連れて、正に両手に花という状態で歩く恭也。
だが、幸いにも今現在は人通りはなく目立つ事はない。
学園のアイドルとなっている如耶は本当に人目を引く存在なのだ。
出来るだけ目立ちたくない恭也にとって、今の状況は喜ばしいものであった。
この時はまだ、あんな事に巻き込まれるなど思いもしないのであった。



闇夜に何かが壊れる音が響き渡る。
それを見て白い少年が舌打ちをし、目の前で邪魔をした一刀を忌々しく睨み付ける。
光が辺りを包み込み、一刀の体も光に包まれていく中、少年の怨嗟の声が響く。
それとは別に、一刀に投げられる心配するような声が複数。
一刀が背後を見れば、そこには友達や先輩の姿があった。

「何か分からないけれど、まずい気がする。それ以上は近づかない方が――」

一刀が全て語るよりも早く、光が急激に膨れ上がり、一刀だけでなく新たに現れた者たちをも飲み込む。
強烈な光が消えた後、そこには割れた鏡だけが残され、他には何も、本当に何も残されていなかった。



「天の御遣い? 俺が?」

一刀が目を覚まし、色々あった末に目の前に現れた少女に言われた言葉。
それを鸚鵡返しのように呟きながら、その脳裏では全く別の事を考えていた。
関羽と名乗った少女。電波の届かない携帯電話。
何処までも広がる荒涼とした大地。三国志の時代に来たのかと思うも、目の前の人物は女の子。
激しく混乱する一刀に恭しく頭を下げ、関羽と名乗った少女は更に言葉を紡ぐ。



「はい、羽深ちゃん。炒飯あがりだよ」

「こっちもラーメンあがったぞ」

「はーい。ソーニャちゃん、あっちのお客様にお冷をお願い」

「分かりました」

小さな店ではあるが、席は全て埋まっており、その中を忙しなく走り回るのは二人の少女。
この辺りではまず見当たらない、ひらひらとした服装に身を包み、接客に精を出している。
店の奥、厨房では少年と少女が鮮やかな手付きで包丁を、中華鍋を振るう。
楽成城にある日出来た店は、その料理の美味さや珍しい料理などを出すとしてあっという間に口コミ広がり、
今では昼時にはこうして大勢の客で賑わっていた。
そんな中、新たな来客が現れる。

「いらっしゃいませ〜、って、紫苑さん。どうかしましたか」

「ふふっ、そんなにかしこまらないで。今日は純粋に料理を食べに来たのよ」

「羽深お姉ちゃん、こんにちは」

「璃々ちゃん、こんにちは。えっと、カウンター――厨房の前でも良いですか」

「ええ。ソーニャちゃんもこんにちは」

「いらっしゃいませ。あ、すみません、あちらのお客さんの」

「ああ、気にしないで。私たちは羽深ちゃんに案内してもらうから」

「すみません」

一言謝罪し、ソーニャは注文を取りに新しいお客のところへと向かう。
その背中を眺めながら、カウンターに席を下ろした紫苑へと厨房の中から章仁が挨拶をする。

「いらっしゃい、紫苑さん」

「ふふ、結構評判良いみたいね」

「お陰さまで。本当に身一つで放り出された時はどうしようかと思いましたけれど、その場所がここで、
 それも紫苑さんと知り合えて良かったですよ」

「本当だよね、あきちゃん。お陰で、こうして暮らしていけるもの」

章仁の後ろで包丁を振るいながら、やはりのほほんと結衣佳が言う。
そんな二人を微笑ましく見遣り、

「それでも、こうしてちゃんとお店を軌道に載せたのは、皆の実力よ。
 私はただ場所を貸しただけだもの。それに珍しくも美味しい料理を口に出来るんだもの。
 私の方こそ、あの決断に感謝だわ」

そう言って微笑む紫苑の隣で、璃々はメニューと睨めっこをし、一つ一つ指差しては、
羽深にどんな料理なのか尋ねていた。



「華琳さま、次はあっちのお店に行きましょう」

「ええ、そうね。ほらほら莉流、そんなに急がないの」

似たような髪形の少女二人の後を追うように、幾分か重い足取りで後に続く一人の少年。

「ちょっ、自分らちょっとは待ってぇなぁ。
 こないに荷物持たせて、それは折衝やろ」

「はぁ、全くそれぐらいでだらしないわね」

「莉流の言うとおりだわ、及川。春蘭なら楽に持って付いて来るわよ」

「あの姉ちゃんと一緒にせんといてぇな。
 何たってわいは繊細なんやから」

「つまり、春蘭さんはがさつだって言いたいのね、キミは」

「へぇ、これまた勇気のある発言をするじゃない。
 城に帰ったら、春蘭に伝えておくわ」

「ちょっ! じょ、冗談やんか。そない殺生な事――」

慌てて二人を止める及川を一瞥し、二人はさっと目配せをすると小さく頷きあう。
それに気付き、嫌な予感を抱くも、実際に春蘭にある事ない事言われては堪らないと、
及川は二人の言い出す無茶に備えて、心だけは準備をするのであった。



「彩夏、良いか」

「蓮華さん、どうぞ」

簡素なベッドの上に横たわっていた彩夏は、部屋の外から聞こえてきた声に体を起こす。
部屋に入ってきたのは、彩夏と同じ年頃の少女で、少し難しい顔をして用件を切り出す。

「彩夏の言うような人物はやはり都にはいないみたいだな」

「そうですか」

わずかに落ち込みそうになるも、すぐに笑顔を見せる。
それを痛々しく思いながらも、今回はもう一つ朗報があると告げる。

「天の御遣いと名乗る者が現れたらしい。もしかしたら、彩夏の言っていた友達かもしれないな」

「その方と会えませんか」

「それは難しい」

申し訳なさそうにする蓮華に気付き、彩夏は逆に慰める。

「気にしないでください。きっと皆さん無事でしょから」

いつか会えると信じているとそう告げると、彩夏は少し遠くを見る目つきになるのだった。



何処まで続く荒野。そこを歩く二つの影。

「しかし、一向に街が見えてこないな」

「だから申したではないか。あそこは右だったのだ」

「いや、如耶さんもこの道で良いと賛成したではないか」

「それは恭也殿が譲らぬ故に」

そんな事を言い合いながらも、二人の足取りはしっかりとしており、かれこれ一時間も歩いたとは思えない。
だが、行けども行けども同じような風景に流石に飽きてき口数が増えている。

「しかし、本当に何処なんだろうな、ここは」

「過去、もしくは異世界だと申したのは恭也殿だったと思うが」

「如耶さんも同意したよな」

「まあ、あれだけの事を見せられ、人々の話を聞けば、そう納得出来る所もあるゆえ。
 それにしても、他の者たちはどうしているのだろうな」

「一番良いのは、ここに来たのは俺たちだけだったという事なんですがね」

「少なくとも北郷殿だけはこちらに来ているであろうな。
 あの光の中心にいたのだから」

光に飲み込まれ、気付くと二人はとある村の外れで倒れていたのである。
そこを村の人に助けられたのが十数日前。
他の者は居なかったと聞き、暫くは村で暮らしていたのだが、
とある街に天の御遣いが現れたという噂を耳にしたのである。
もしかしたらと思う所もあり、二人はとりあえず洛陽を目指してこうして旅に出たのであった。



春恋姫ハ〜ト プロローグ 「大勢でやってきちゃった異世界!?」







それにしても、本当に寒いな。

美姫 「まあ、何とかは風邪ひかないというから大丈夫でしょう」

そうかな? えへへへ、誉められたぞ。

美姫 「誉めてないから」

分かってるよ! 皮肉だよ!

美姫 「うん、それも分かってて言ったもの」

うぅぅ。ひどい、ひどいんです。うちの相方が、とっても酷いんです。

美姫 「えっ!? 私ってアンタの相方なの!?」

いや、そこで驚くなよ!

美姫 「冗談よ、冗談」

目が本気だったような気もするんですが。

美姫 「そんなことないって。本気に見えたかもしれないけれど、冗談よ。
    まあ、どちらだったかはアンタが好きな方に受け取って良いけれど」

う、うぅぅ、前向きに良い方に受け取っておく。
ところで、そろそろ時間だが。

美姫 「そうみたいね。それじゃあ」

ああ。今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」



美姫 「……で、何でアップされてないのかしら」

あ、あははは。すみません、忘れてました。

美姫 「この馬鹿!」

ぶべらっ!
うぅぅ、ゆ、許して。本当にごめんなさい。
ちゃ、ちゃんと更新したつもりだったんです。
すぐに、この後すぐにアップしますから。

美姫 「バカバカバカ!」

ぐげっ、ごげっ、ほげらっ!

美姫 「さ〜て〜、ちょっと私といい所に行こうね〜」

い、いやじゃ!

美姫 「却下よ」

いやぁぁぁぁっ! ゆ、許してくださいぃぃぃぃ!


1月11日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今年も頑張るぞ、とお届け中!>



ふぁぁぁ〜、眠いな。春眠暁を……ぶべらっ!

美姫 「春なのはアンタの頭の中だけよ」

ひ、酷い……。

美姫 「そんなに早く春になって欲しいの?」

冬が来て、ずっと冬だったら良いのに。

美姫 「はいはい。さて、年が明けて十日以上が経ったわね」

またしても、あっさりと流しますか……。

美姫 「そろそろお正月気分は抜けたかな? まだ何て言うとぶっ飛ばしますわよ」

丁寧に言っているつもりかもしれないが……ぶべらっ!

美姫 「質問に答えやがりなさいませ」

おおう。か、身体ブルブルと振るえるですよ。

美姫 「まあ、風邪かしら」

いやいや、お前の言葉に恐怖を……ぶべらっ!

美姫 「いい加減、学習すれば?」

う、うぅぅ。酷い、美姫ちゃん。

美姫 「はいはい。それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」







眠る少女の顔を見下ろし、男はゆっくりと顔を近づける。
が、途中で理性を働かせて頭を振り、離れようとする。
だが、意に反しては身体は動かず、眠る少女の顔をじっと見詰める。
長い睫毛に今は閉じられているけれども綺麗な瞳を思い描き、少女から発せられる色気に抗いがたいものを感じる。
自然と顔が再び近付き、少女の唇に吸い付くように自らのも合わせようとするも、
男は再び理性を総動員して堪える。だが、先ほどよりも僅かに縮まった、ほとんどまん前にある顔に再び見惚れる。
男は必死にお経を唱え、残っている理性を振り絞ってようやく少女から身を離そうとして、
眠っていたはずの少女が伸ばして腕にあっさりと捕まり、目を開けた少女に驚く。

「お、起きていたのか、月村さん」

男の問い掛けに応えず、少女は一瞬の隙をついて男の唇を塞ぐ。
瞬間――。

『あーー!』

大きな悲鳴にも似た幾つもの声が誰もいなかったはずの部屋に重なり響き渡る。

「ちょっ、ちょっと忍さん! 何をしているんですか!」

第一声を上げて二人を引き離した美由希は、怒っていますという顔で忍を睨み付ける。

「あははは〜、ごめんごめん。だって恭也の顔があんなに近くにあったからつい」

「ついで何て事をするんですか。ちゃんと台本どおりに眠っててくださいよ!」

美由希に続き那美も文句を言うが、忍はこれまた軽く謝って流す。
一方、急にキスされた恭也の方は顔を赤くして黙りこくり、顔を隠すように台本で隠す。

「そもそも、この配役からして納得いきません!」

「それはうちも同じやけれど、今更言ってもしゃあないやろう晶」

気持ちは同じなのだが、既に決まって練習までしている以上は仕方ないと割り切るレン。
だが、それとこれとは別で先ほどの件に関しては追求する気満々のようであるが。

「いや、だってさー、あんなシーンばっかりなんだもん。
 思わず我慢できなくなってもそこは笑って許してよ」

「だとすれば、この自主制作の映画の内容に問題があるのでは?」

カメラマンとしてそれまで黙っていたノエルが口を挟み、台本をペラペラと捲る。
『ご愁傷さま二ノ宮くん』と書かれたその台本を。



ことの起こりは数日前の事である。
約一ヶ月後に行われる学園祭に向けて、恭也たちの通う風芽丘学園にひっそりと存在する映画研究部が、
自主制作の映画を作ろうとしたのである。
元々部員数も多くない英研は映画に出てくれる生徒を探していたのである。
そこで目に付いたのが忍であった。見目麗しき彼女こそヒロインに相応しいと部長は熱心に交渉し、
とある条件の下、ようやく了承を得たのである。
その条件と言うのが、恭也の共演であったのは恭也にとっては不運としか言いようはないが。
ともあれ、調子よく撮影が開始されたまでは良かったのだが、カメラが故障してしまったのである。
修理にも時間が掛かるという事になり、忍が家で眠っていたカメラを提供したのだが、
今にして思えば、これが間違いの元であった。尤も、その時点で分かるはずもなく。
結論から言うと、カメラが爆発したのである。
昔、忍が弄って何かしたと思い出したのは爆発があった後の事である。
結果、恭也に庇われた忍と恭也自身は無傷だが、他の部員は軽い怪我を負ってしまったのである。
そうして急遽集められたのが、このメンバーであり、
ついでとばかりに忍によって作品まで入れ替わってしまったのであった。

「サキュバスで月村、結構楽に演じれると思ったんだけれどな」

言いながらもその顔は非常に楽しそうである。
言葉とは裏腹に、本人は一向に困った様子など見せていない。

「今からでも遅くないから、作品を変えないか」

「えー、それは難しいかな。
 今まで撮った分も無駄になるし、また初めから台本とか覚えないといけなくなるよ」

忍の言葉にそれは嫌だとばかりに顔を顰めるも、恭也は渋い顔のまま言う。

「よく考えたら、かなり際どいような気がするんだが。本当に学園祭でここまでやっても良いのか」

「そうかな? ノエル〜、カメラアングルはちゃんとしてくれているのよね」

「はい、その点は大丈夫です。ギリギリ見えそうで見えない感じにしてますから」

「ほら」

「いや、だからこそまずいんじゃ」

渋る恭也に対し、忍は顔を覆って泣き始める。

「酷い、昨日はお風呂のシーンまで撮影したのに。
 あまつさえ、私の裸を見ておいて、今更なしにするなんて。
 恭也は私の裸を見るのが目的だったのね!」

目的も何も、ちゃんと水着着用(恭也が強固にお願いした)の上、この台本を用意したのも忍であれば、
恭也を巻き込んだのも忍であるのだが、その言葉に恭也は大いに慌て、どうすれば良いのか戸惑いを見せる。
だが、ここには恭也以外の者たちもおり、美由希たちはそろって忍を白々しいと言わんばかりの視線で見る。
その視線に耐えかねたのか、忍はあっさりと手を外す。

「まあまあ、もう半分まで撮ったんだから今更考えるだけ無駄だって。
 こうなったら最後まで完成させましょう」

「……はぁぁ」

撮影を始めてからすっかり増えた溜め息を深々と吐き出し、恭也は疲れた顔を見せる。
そんな恭也の腕に抱き付きながら、忍はその耳元にそっと囁く。

「昨日の事を思い出して、興奮した?」

「……とりあえず、お前の頭の中を解剖してみたいという欲求に駈らるんだが?」

「そんな、そこまでして私の全てを知りたいのね」

「男性恐怖症のサキュバスなんだろう。なら、離れろ」

言っても無駄だと悟った恭也がそう言えば、忍は余裕の笑みで返しながら、

「だけど、ある男の子だけは平気なのよね♪」

「……本当に精気を吸い取られているような気がしてきた」

「それは後で二人きりの時にね♪」

悪戯っぽい笑みとその台詞に赤くなって固まる恭也の腕を離し、忍はリテイクのためにもう一度配置につく。
再び寝転がり目を閉じる忍を見て落ち着きを取り戻した恭也は、そんな忍に苦笑を漏らしつつ、
こちらも配置につくのであった。一方、完全に蚊帳の外に置かれた形となった美由希たちは、
何も口を挟む事が出来ず、再び始まろうとしていた撮影にそのまま口を閉じるしか他なかった。



とらいあんぐるハ〜ト3 学園祭だよ、恭也くん プロローグ 「撮影開始」







そんな訳で、今回はちょっと変わったクロスで。

美姫 「正確にはクロスじゃないけれどね」

まあな。この作品とのクロスは前にやったと思うけれど、今回は恭也たちが演じるという形で。
多分、この形ではやってないはず……、やってなかった、うん、やってないな。

美姫 「本当に鳥頭ね」

うぅぅ、言い返せない。

美姫 「うりうり〜、トリ〜、トリ〜」

あうあうあう、やめてよ〜。って、本当に勘弁してください。
言葉とは裏腹に、首がとっても痛いです。

美姫 「失礼な。アンタが脆弱すぎるのよ」

いやいや、イイエナンデモナイヨ。

美姫 「はいはい。それよりも、今週は一応、長編を一つ更新したのね」

おう! まだ一つだけだが、満遍なく更新していきたいな。

美姫 「一月で行き成り躓きそうね」

いや、それは俺もかなり心配と言うか、そうなるんじゃないかと既に確信をしていたりする。
って、ぶべらっ!

美姫 「幾ら何でも早すぎでしょう!」

あててて。ま、まあ、こういうのは調子に乗った時はスラスラと書けてしまうものだからな。
その分、乗らないと進まない、進まない。
故に、どれか一つだけがやけに進むかもしれないし……という感じで。
えっと、許して?

美姫 「はぁぁ。私は基本的にちゃんと更新してくれれば良いんだけれどね」

おおう!

美姫 「ともあれ、もっともっと更新するのよ」

いや、もっとも何もまだ実質、今年の活動し始めからは一週間……。
いえ、頑張りますよ、はい。

美姫 「分かれば良いのよ。さーて、それじゃあ今週もこの辺にしておこうかしら」

うんうん。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月4日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、来週の予定だったのに美姫の強い要望により、お送り中!>



みなさん、新年明けましておめでとうございます。

美姫 「おめでとうございます」

昨年は大変お世話になりました。

美姫 「今年も変わらず、宜しくお願い致します」

…………。

美姫 「…………」

……と、新年の挨拶も無事に済んだ事だし、この辺で。

美姫 「そうね、なんて言うとは思ってないわよね」

まあな。ともあれ、おめでとう美姫。

美姫 「おめでとう。今年は去年以上にガンガン書いてもらうわよ」

お手柔らかに。

美姫 「因みに、今年は何か目標あるの?」

そうだな。『とらみて』か『ハルヒ』を完結させたいかな。
まあ、今のところは不明だが。

美姫 「ハルヒに関しては既にラストは出来ているんじゃないの?」

ラストもラスト、最後の部分だけはな。後は大まかな流れも出来ているから……。

美姫 「なら、今年はハルヒの完結ができそうね」

いやいや、『込められ』とかもいい加減に進めたいし。
『天星』もそろそろ事態を動かさないと。
何より、『とらハ学園』が止まったまま。

美姫 「えーい、まとめて書きなさい!」

うわっ、怒られた!
ま、まあ、今年は満遍なく更新できるように頑張るという事で。

美姫 「何か一つぐらいは完結させなさいよ」

考えておく。

美姫 「はぁぁ」

初溜め息か。

美姫 「全然、めでたくないわねそれ」

あ、あはははは。

美姫 「また今年一年もこんな調子でいくのね」

諦めろ。

美姫 「私の悩みの種であるアンタが言うな!」

ぶべらっ!

美姫 「今年の初殴りも済ませたところで、CMよ〜」







「それが新しい護衛対象の資料だ。ちゃんと読むんだよ〜。
 あれ、返事はどうしたの〜、修……じゃなかった、妙子ちゃん」

「…………言われなくても読みますよ」

室内にも関わらず、サングラスをかけた男の前で一人の少女がぶすっとした表情で手元に資料を引き寄せる。
その様子に何が楽しいのか、男はにこにこと笑いながらも大仰に頷く。

「うーん、それにしても相も変わらず似合ってるね〜」

再び発せられた男の言葉に、少女のこめかみに青筋が。

「課長……」

「いや〜ん、いつもみたいにパパと呼んで、た・え・こ・さま〜♪」

「……呼んでないし、俺は男だー!」

その言葉通り、彼女は山田妙子ではなく、本名、如月修史という立派な成人した男である。
ここ、警備会社アイギスの裏の顔とも言うべき特殊要人護衛課のその一室で修史の叫び声だけが響く。

「くそー、何でまた女装しないといけないんだ……」

ぶつぶつと文句を述べる修史に、課長の珍しく真剣味を帯びた視線が飛ぶ。
とは言っても、サングラスでその目は見えず、ただ雰囲気で察したのだが。

「文句を言うのは構わないが、仕事としてきているんだ。それとも断るか?」

「別にそこまで言ってません。ただ、どうして女装しなければ……」

「それはさっきも言っただろう。
 前に修ちゃんが愛しい人と出会ったセント・テレジア学院同様、今度もお嬢様ばかりなんだから。
 教師として潜入なんて修ちゃんには無理だし、生徒として潜り込んだ方がガードもし易いだろう」

「だったら優が……あっ」

「桜庭優には今、別の任務についてもらっているんだけれど交代する?」

「いや、良い!」

同じく女装して潜り込んでいる優の事を思い出し、あっちはパーティーや何やらがあって大変だと聞いていたので、
すぐさま力いっぱい拒否する。
少しでも躊躇いを見せると、本当に交代されかねないから。

「だったら、こっちのお仕事をちゃんとやってね」

「分かりました!」

怒鳴りつけるように言うと、修史は渡された資料に目を落とす。
左上に貼り付けられた写真には、何処かおっとりとした感じの少女が写っており、
その横に少女の名前と所属する学園の名前が記載されている。
聖フランチェスカ学園U−V、芹沢結衣佳。
それが修史がガードする事になる少女の名前であった。



「休みのところ悪いね、恭也」

「いえ。それで緊急の要件というのは」

落ち着いた雰囲気の店内に流れる静かな音楽は、普通に話しても声を掻き消す事無く、
平日とあって店内の客数も少なく、一番奥の席に座る二人の会話に耳を立てている者もいない。
一度確認しているが、念のためにもう一度確認をすると、
恭也の対面に座った女性、リスティは大きめの封筒をテーブルの上に置く。

「まあ、今回の件に関しては僕も協力者という立場になるんだけれどね。
 正式な依頼は美緒の父親、啓吾からだよ」

「……陣内さんから?」

去年の夏休みに叔母である美沙斗に誘われて香港警防隊へと美由希と共に鍛錬に行った恭也は、
そこで知り合った警防隊を纏める隊長の顔を思い出す。

「警防隊からですか」

不思議そうに尋ねる恭也にリスティは否定するように首を横へと振る。

「違うよ。啓吾個人からの依頼なんだ。
 何でも昔の知り合いに泣きつかれたらしい。娘を護衛して欲しいって」

「それで俺にですか」

「ああ。向こうは向こうで万年人手不足に加え、壊すのは得意でも護衛は苦手な連中の方が圧倒的だからね。
 それで頭を抱えている時に美沙斗を思い出し、美沙斗がそれなら恭也の方がってわけ。
 向こうも近々大きな作戦もあるみたいだし、人手を割かなくても済むという事で僕にまず話が来たってわけ」

「そういう事ですか。しかし、期間はいつまでなんですか」

「問題はそこなんだよ。安全が確認できるまで護衛をお願いしてきている。
 つまり期間が全く分からないって事。一応、可能な限りバックアップはすると言ってたけれどね。
 最悪はこっちで相手を捕まえるまでしないといけないかもしれない。
 どうする? 引き受けるかどうかは恭也が決めて良いよ」

「……大学の方は多分、大丈夫だと思います。詳しく聞かせてもらえますか」

「サンクス。護衛対象に関する細かい事はその中に入れてあるから、また後で見てくれ。
 簡単に概要だけ説明するよ。まず、恭也には生徒としてその護衛対象の娘さんと同じクラスに入ってもらう。
 時期的に入学式などが終わって数日だから、普通は変に思われるかもしれないが今年だけは別なんだ。
 そこは今年から共学になった関係で、男子生徒の編入が丁度二日後に行われる。
 廃校になった所の生徒や、新たに試験をして数人が編入する事になっているから、それを細工させてもらった」

「なるほど。こういうのも不幸中の幸い、ですかね」

「さあ、どうだろう」

恭也の言葉に軽く肩を竦めると、リスティは懐から四つに折り畳まれた一枚の紙を取り出す。
それとは別に写真も取り出し、まとめて恭也に渡す。
受け取った恭也はざっとそれに目を通し、

「不動如耶(ふゆるぎきさや)さん、ですか」

「そう。なかなかの美女だよね。
 因みに聖フランチェスカ学園V−T、剣道部に所属するお嬢様だよ。
 細かい事はこちらで処理しておくから、後は頼むよ」

「分かりました」

リスティに短く返すと、恭也は席を立つ。
同様にリスティの方も席を立ちながら、その肩に軽く手を乗せる。

「それじゃあ、また後で連絡するから」

「はい」

店の前で二人は別れると、それぞれ別々に歩き出す。



――同じ地に異なる目的で剣と楯が集う。
  二つが交わるのかどうかは、まだ誰も知らない



「…………はい?」

「ですから、今年から我が学園は共学になったと申したのです」

「お、おほほほ、ソウナンデスカ」

担任教師の質問に、妙子は棒読みに近い状態になって返す。
怒りを抑え込むようにして、指定された席に着き、さっそく護衛対象へと視線を移す。
お嬢様学院らしく、いきなり質問攻めにされることもなく、皆大人しく担任の話に耳を傾けている。
妙子が護衛する少女、結衣佳も余所見をせずに前を見て話を聞いているようである。
前回の教訓から必要以上に周囲を警戒しないように心がけつつ、とりあえずクラスメイトたちを観察するのだった。

放課後、寮に与えられた部屋に戻るなり妙子は通信機を取り出し、繋がるなり怒鳴り声を上げる。

「課長! アンタ知ってただろう!」

「ナンノコトダイ」

「滅茶苦茶片言で何を言ってやがる!」

「妙子さま、まるで男みたいですよ」

「俺は男だ!」

「おいおい、誰が聞いているかも分からないのに大声で何を叫ぶんだシールド9」

「うっ、す、すみません」

課長の尤もな台詞に思わず謝るも、睨む目付きだけは鋭く通信機に写る映像を睨み付ける。

「で、ここが共学になるって知ってましたよね」

「当然!」

「だったら、何で!」

「数少ない男子生徒として編入すれば、嫌が上にも目立つだろう。
 その点、共学になったばかりで女子生徒の方が目立たなくて済むだろう」

「俺の精神的安らぎは?」

「そんなものはない。そもそも、女装しないと寮まではガードできないだろう。
 決して私の趣味じゃないぞ」

思いっきり怪しいという視線で見る妙子の視線を正面から受け止めず、課長は顔を横に向ける。
尚も注視していると、課長は手を頬に当ててクネクネと気持ち悪く身体を揺らす。

「そんなに見詰められたら恥ずかしい」

「馬鹿だろう、アンタ!」

「おいおい、パパに向かってアンタはないだろう」

「うるさい、黙れ! 今日は特に問題なし! これで報告を終わります!」

口早に捲くし立て、妙子は通信機を親の仇のように乱暴に切るとベッドの上に放り投げる。
とてつもない疲労を感じ、思わず大きな溜め息を零すのであった。



「……高町先輩ですよね」

「確か、山田さんでしたか」

深夜の公園――公園と言っても広大な敷地を誇る聖フランチェスカ学園の敷地内なのだが――で睨み合う二人。

「……こんな夜更けにこんな所で何を?」

妙子がそう探りを入れるように尋ねれば、恭也は妙子の胸部、左脇へと視線を向ける。

「それはそちらも同じだと思うが。ましてや、その懐に仕舞っている物は何かな?
 いつから日本は個人でそんな物を所有できるようになったんでしょうか」

一瞬だけ交差する視線。同時に二人は地を蹴り左右に飛び退く。
恭也が居た場所には銃弾が、妙子が居た場所には鋭い尖った針のようなものが突き刺さる。
互いに物陰に身を隠しつつ、相手を窺う。

――互いの勘違いによる深夜の決闘が剣と楯とを引き合わせる

二つの剣と楯が出会うとき、新たな展開が。

春恋乙女と守護の剣楯 プロローグ「ようこそ乙女の園へ」







うーん、本格的な活動はやっぱり来週からかな〜。

美姫 「遅い!」

ぶべらっ!
うぅぅ、酷いよ。

美姫 「ちんたらやってるんじゃないわよ。時間は有限なのよ!」

ふぁ、ふぁ〜い。

美姫 「全く、またこんな調子で一年が始まるのね」

あはははは! 褒めるなよ!

美姫 「褒めてないわよ!」

ぶべらっ!

美姫 「とりあえず、目標として百本は書かせるわよ!」

百本ですか……。

美姫 「やっぱり二百にしようかしら」

いやいや、勘弁してください!

美姫 「アンタ次第ね。今年一年、私を褒めたてるのなら199本にしてあげるわ」

いや、あまり変わってませんよね。
と言うか、今年もこのノリなのか! 俺はただ虐げられるだけ……ぶべらっ!

美姫 「何か言った?」

こ、今年もいっぱい可愛がられるんだな〜、と嬉し涙を流していました!

美姫 「うんうん。もっと喜びなさい」

わーいっ!

美姫 「何でそこまで力むのかしら? まあ、良いけれど」

シクシク。うぅぅ、気を取り直して、ってもう時間か。

美姫 「そうね。それじゃあ……」

今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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