2009年3月〜4月

4月24日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今週はちょっと肌寒い日もなかった? とお送り中!>



昨日は何か肌寒かったよな。

美姫 「確かにね」

ここ数日が暖かかっただけに、余計寒く感じた気もしないでもないが。

美姫 「あ、そう言えば話は変わるけれど、来週から世間はGWね」

まるで、うちは世間からかけ離れているかのような言い方ですね。

美姫 「だって昔から言うじゃない、アンタに休みはなしって」

言わねぇよ!
そもそも、誰がそんな事を言った。

美姫 「私」

でしょうね!
予想はついていたけれど、そうも胸を張って言われると反論もし難いわ!

美姫 「思いっきり反論してるじゃない」

偉い人は言いました。

美姫 「それはそれ、これはこれ」

ぶべらっ!
そ、その通りですけれど、どうして殴られたのでしょうか……。

美姫 「だから、それ(口)はそれ、これ(攻撃)はこれ」

つ、都合の良すぎる解釈……。

美姫 「アンタも言おうとしていたんだし、良いじゃない」

いや、俺はあくまでも言葉だけであって……。
ストップ! 剣を抜くな!

美姫 「どうしてよ」

お前の次の行動が予測できるからだよ!

美姫 「へぇ、じゃあ、やってもらおうじゃない」

ずばり、お前はあのまま止めなかったら、それ(拳)はそれ、これ(剣)はこれ。
とか言って、また俺をぶっ飛ばすつもりだっただろう。

美姫 「ピンポンピンポ〜ン!」

ぶべらっ!
どう見ても、ピンポンなんて生易しい音じゃないよね!

美姫 「音は関係ないわよ。正解したご褒美だもの」

こんな褒美はいらねぇ!
更に言うなら、間違えていたら、それはそれで罰ゲームとか言ってやっただろう。

美姫 「さあ、どうかしら。試してみる?」

誰が試すかよ!

美姫 「あ、そろそろCMの時間だわ」

いや、振るだけ振って無視かよ!

美姫 「なに、それは暗に吹っ飛ばしてくれと」

んな訳あるか!

美姫 「なら良いじゃない。それじゃあ、CMで〜す」

ぶべらっ! な、なんで……。







独立 天神学園。
その名を聞いて、知らない者ならば――そもそも知らない者がいるかも怪しいが――、
ただの学校機関かと思うかもしれない。だが、その認識は大きな間違いである。
そこは日本唯一の『日本国憲法適用外超法規的領域』の学園、すなわち独立国家なのである。
この学び舎は、全ての授業が武術や戦術戦略に関する内容であり、テストではなく闘いの勝者が単位を得、
またその単位がお金としても使え、全ての物事が強さに比例するという校則が特色である。
つまり、強い者はすぐに卒業も出来るという、まさに弱肉強食の学園。
それが独立天神学園なのだ。

「はぁ〜、そんな学園で見事卒業せずに留年した恭也は今年こそ卒業できるのでしょうか」

「……そう言う忍も留年組みだろうが」

三年のとあるクラス、その一番後ろの席で溜め息混じりに返すのは忍の言うように留年した恭也。
これまた留年した忍は意味ありげな笑みで返し、恭也に寄り添うようにして傍に立つ少女へと視線を転じる。

「うぅぅ、ごめんね恭ちゃん。私の所為で」

「気にするな」

「何だかんだと言いつつ、美由希ちゃんにも甘いわよね、恭也は」

「そんな事はない」

忍のからかいを含んだ言葉に憮然として返す恭也であるが、当の忍はただ笑みを浮かべたまま続ける。

「あるわよ。今年の年末に美沙斗さんが一時帰国するんでしょう。
 それに合わせて美由希ちゃんの皆伝を行うからって、わざわざこの学園に残るんだもの」

「弟子を鍛える為であって、当然の事だろう」

「はいはい。まあ、美由希ちゃんもそんな恭也のためにかなり無理して、二年を飛ばして一気に三年だものね」

呆れるように呟く忍へと、恭也は憮然としたままに言い返す。

「そういうお前はどうして留年したんだ」

「いやー、ここって単位がお金になるじゃない。だから、もう一年ぐらい居ても困らないしね。
 と言うのは半分は冗談で、勿論、恭也と一緒にいるためよ」

「忍さん、恭ちゃんに抱きつかないでください!」

ふざけて抱き付く忍を慌てて引き離す美由希。恭也は既に慣れているのか、何も言わない。
若干、頬を染めている所を見る限り、慣れている訳ではないようだが。

「良いじゃない。ちゃんと正妻として美由希ちゃんの顔は立てるから、愛人として抱きつくぐらい」

「せ、せせせ正妻って、そんな、でも……」

忍の言葉にトリップしたのか、だらしなく頬を緩め、忍を引き離す事を忘れる美由希。
そんな様子ににやりと笑みを浮かべ、もう一度抱きつこうとする忍であったが、それを今度は恭也が止める。

「勝手な事を言うんじゃない。そもそも、誰が正妻で、誰が愛人だ。
 人に聞かれたらどうする」

「いやー、今更だと思うけれど」

忍の言うように、既に今更な事ではある。
何せ、去年から忍が口にしていたのだから。
ただでさえ、美由希は去年は最強の一年とまで噂されていたぐらいなのだ。
いやがうえにも注目されるものである。
それはさておき、恭也は忍の言葉に誰の所為だと怒鳴るのを堪え、代わりに違う事を口にする。

「大体、お前の留年の半分ぐらいは、年度末に無駄遣いして単位を0にしたからだろう」

「違うもん。あれは恭也が留年するって言うから、私も留年するために単位を使っただけよ」

などと他愛もない会話をする二人、もとい、美由希も入れて三人を結構な数の生徒が遠巻きに見ている。
元々、目立たないように必要な単位だけを取ってきた恭也と、去年以前は派手に暴れていた忍ではあるが、
去年は恭也に付き合って殆ど単位を取得していない。
それ故に、二人は留年した最弱コンビとして注目を集め、
そして、二年生をスキップできるぐらいの単位を一年で集めた美由希は元最強の一年生として。

「さて、久しぶりに全力で行こうか」

――知る人ぞ知る、元最強の一角に上げられた男 高町恭也

「付き合ってくれた恭ちゃんのためにも、こんな所で止まる訳にはいかないからね」

――昨年の最強者にして、今年も注目される戦闘者 高町美由希

「我が最強の剣、ノエルよ。やっておしまいなさい!」

――本人が最強なのではなく、万能且つ有能な武器を持つ 月村忍。

そんな三人の前に立ち塞がるのは、

「ふんふんふ〜ん♪ この程度であたしを捕まえられるなんて思ったら……、あ〜ん、恭助!」

――今年入学して早々一年最強の名を手にした少女 九条蜂恵

「だぁぁ、ハチ。さっさと下着を隠せ!」

――蜂恵と同様、一年最強コンビの一人と呼ばれる服部恭助

新たな新入生たちだけではなく、昨年の雪辱を晴らすべく、美由希を狙う二人。

「昨年は見事にやられましたが、今年はそうはいきません」

「あやめちゃん、良いじゃないか。コンビとしては、僕たちが最強と言われたんだから」

――昨年の最強コンビにして、早くも二年最強と名高い双子コンビ 天王寺あやめ・菖蒲

他にも戦術を得意とする少女など、様々な難敵が立ち塞がる。
目指すは単位取得、そして卒業! 無事に恭也たちは卒業できるか!?
これから一年、どのような波乱が巻き起こるのか。
それはまだ誰にも分からない。

triangle-bee-be-heart-beatit!







そう言えば、CMの前に話を変えたけれど、結局は触れなかったな。

美姫 「アンタの所為でしょうがっ!」

ぶべらっ!
って、明らかにお前の所為だろうが!

美姫 「ひ、酷い」

いや、そのパターンはもう良いって。どうせ、また俺が吹っ飛ぶだけだろう。
って、何でやねん! 何で俺が吹っ飛ばなきゃいけないんだよ!
あまりにもパターン化してて、そこに疑問を抱く事すらなかったじゃないか!

美姫 「うぅぅ」

あ、あれ? あれれ?
えっと……。

美姫 「よよよ」

…………性格反転茸か!?
だとしたら、日頃の恨みを晴らすべく、メイド服を――ぶべらっ!

美姫 「少しは心配して近付いてきなさいよね! 折角の計画がパーじゃない!」

け、結局は吹っ飛ばされるのか……。と言うか、嘘泣きかよ!
そうかと思ったよ! ちっくしょう!

美姫 「言いつつ、逃げようとしたって無駄よ」

あ、あははは。や、やだな、別に逃げようだなんてしてないよ。
そもそも、逃げる必要なんてないじゃないか。

美姫 「思いっきり分かりやすい棒読みをありがとう」

どういたしまして。

美姫 「さて、アンタが逃げる理由だけれど、私にメイド服を着せようとした事で仕返しされると思ったんでしょう」

ギクギクギクッ! な、なんでそれを……じゃなくて、そんな事ないない、うん、ないよ。
ある訳ないじゃないですか。

美姫 「いや、幾らなんでも動揺しすぎだからね」

ゆ〜うや〜け、こやけ〜の〜。

美姫 「童謡なんて突っ込みはしないわよ」

う、うぅぅ。と言うか、それは既に突っ込んでいるんじゃ――ぶべらっ!

美姫 「さて、どう料理してくれようかしら」

ま、待て待て。

美姫 「待たない」

お願い待って。

美姫 「…………はい、待ったわよ」

うわ〜い、お約束をありがとう。

美姫 「どういたしまして♪」

や、やめ、やめて〜!!

美姫 「えいえいえい♪」

にゅぐ、ぎょわっ、ぐみょっ!

美姫 「グリグリグリ〜♪」

あばばばばばー!

美姫 「叩いて叩いて、じゃんけんポン!」

ぐはっ、げはっ、じゃんけんポン。よし、勝った!

美姫 「負けた方が殴るのよね、確か」

ちがっ、ぐげらぼげぇっ!

美姫 「最後に吹っ飛んじゃえ♪」

ガーリック! やっぱりにんにくは青かった!

美姫 「色々と違うわよ、それ」

…………も、もう喋る体力もない、ガクッ。

美姫 「だらしなわね」

……誰の所為だ、誰の!

美姫 「思ったよりも元気じゃない」

うぅぅ、酷い目にあったよ。

美姫 「うーん、今のを後三回繰り返そうか」

嫌だよ! ったく、もう。
それよりも、何の話をしていたんだったっけ?

美姫 「えっと、アンタに対するお仕置き百選だったっけ?」

絶対に違う!

美姫 「う〜ん、あ、そうそう来週から世間はGWね、って話よ」

その言い方だと、うちは世間からかけ離れているかのような言い方だな。

美姫 「だって昔から言うじゃない、アンタに休みはなしって」

言わね……って、また繰り返してしまうっての!

美姫 「アンタの所為でしょうが」

ぶべらっ!

美姫 「全く、話が進まないでしょうが」

す、すみません。

美姫 「で、GWの間の更新はどうなるのかなって話よ」

おおう、そういう事か。
うーん、どうなるかな。まあ、投稿に関してはいつも通りにしてもらって。

美姫 「ちゃんと更新できるの?」

……そんなこんなで、ちょっと更新が遅くなるかもしれませんけれどご了承ください。

美姫 「このおバカ!」

ぶべらっ!

美姫 「本当に申し訳ございませんが、よろしくお願いします」

……あれ、俺が殴られる意味はあったのか?

美姫 「あ、もう時間だわ。バカの所為でご連絡が長引いたから」

うぅぅ、今週はいつにも増して扱いが酷くないですか?

美姫 「良いから、さっさと締めの言葉を言いなさい」

シクシク。それでは、今週はこの辺で。

美姫 「それじゃあ、また来週〜?」


4月17日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いきなり暑くなり過ぎだろう、とお届け中!>



先週、段々と暖かくなってきたとか言ったけれど、寧ろ暑いぞ。
ちょっと歩くだけで汗を掻いてしまった。

美姫 「いや、それはアンタが厚着していたからでしょう」

まあ、それもあるけれど間違いなく暑かった。
昼間は本当に暑かったんだって。
なのに、夜は冷え込むような気がする。

美姫 「まあ、確かに体調を崩しやすいかもね」

皆さんも気をつけてくださいね〜。

美姫 「さて、珍しく綺麗に纏まった所で、少し早いけれど……」

いつも綺麗に纏まらないのは主に誰かさんが殴るからだと――ぶべらっ!

美姫 「折角、綺麗に収まりそうだったのに余計な事を言うな!」

し、しまった……。

美姫 「それじゃあ、気を取り直して……って、またいつもと似たような感じになったじゃないの!」

ぶべらっ!

美姫 「ったく、もう。ともあれ、それじゃあCMで〜す」







「さよなら、ガキくさい救世主さん」

その言葉を聞きながら、白銀武の意識は薄れていき……気が付けば、こうして自室のベッドで眠っていた訳なのだが。

「……可笑しい」

感じる違和感に武は首を巡らせて部屋の中を見渡す。
そこは間違いなく自分の部屋。
夕呼、香月博士に見せられた廃墟となった方の部屋ではなく、元の世界の自分の部屋である。
あれから何年、いや、新たに目を覚ましたのもこの部屋であった事を考えると約三ヶ月ぶりとなる部屋。
それは間違いないと言い切れる。だが、実際には武は違和感を覚えていた。
それが何かすぐに思い出せないのは、元の世界を離れてからは何年か経ってしまっているからだろうか。
ぼんやりと天井を見上げ、そんな事を考えながらも感じた違和感の正体を探るべく思考を働かせる。
可笑しいといえば直前の記憶が鮮明なのも可笑しいのかもしれない。
だが、そのような事ではなく忘れているような何かが、物凄い違和感が感じられるのだ。
特異点たる武の存在は原因たる純夏の死によって解放されたはずである。
それなのに漠然と感じる不安。繰り返すがずっと感じ続ける違和感。
それが掴めず武はベッドの上で寝返りを打ち横を向く。
途端、鮮明に突如として蘇る記憶の中、ようやくこの日起こった大きな出来事を思い出す。

「冥夜がいない?」

その事態に思わず口を付いて言葉が出てくる。
口にして、はっきりとそれを実感し、武はまさかという思いでベッドから飛び起きる。
着替えるのももどかしく、制服を手に掴むとそのまま部屋を飛び出し、そこで足を取られて転んでしまう。
だが、痛みなど気にしてられないとばかりに走り出し、また躓いて文字通り階段を転げ落ち、
痛む身体を無視して外へと飛び出せば、そこは久方ぶりとなる元の世界の平和な光景などではなく、
廃墟と化した街並みであった。
慌てた所為なのか、肩からずれ落ちそうな上着に脱げ掛けたズボン。
手に掴んだ制服という可笑しな格好のまま、武は呆然と隣家に突っ込み倒れている人型兵器、戦術機を見上げる。
それはまるで、再び地獄へと誘うようにも見え、思わず武は身震いをする。
同時に、今度こそという思いも湧き上がる。
だが、その前に確認しなければいけない事がある。
本当にまたあの日に戻ったのか。だとするのならば、何故なのか。
どちらにせよ、武が頼れる人物はやはり一人しか浮かばない。
香月夕呼。彼女に会うため、まずは横浜基地へと向かう事にする。
手に持ったままの制服に苦笑を零し、早速着替えようとしてパジャマが脱げそうであるとようやく気付く。
自分の慌てぶりに改めて苦笑を滲ませつつパジャマを脱ぎ、制服へと着替えるのだが、ここでまた問題が起こる。
それは……。

「どうして、こんなにダボダボなんだ?」

ズボンの裾は少し折ったぐらいでは足りないぐらい余っており、袖もまた同様。
何故か分からないが、今回用意されてあった制服は武の身体よりも大きなものだったのか。

「ははは、まさかな。いやいや、そんなバカな話なんてある訳ないよな、うん」

武は無理矢理自分を納得させるように敢えて口に出しつつ、恐る恐る自室へと戻る。
幸い、まだ廃墟に戻っていないらしく元の世界の様相のままの自室から鏡を見つけ出して覗き込めば、
そこには自分の姿がちゃんと写っている。ただし、年の頃は十ぐらいの少年時代の自分の顔が。

「あ、あはははは。待て待て。可笑しな毒薬を飲まされた記憶も、変なキノコを食った記憶もないな、うん。
 よし、きっと見間違いだ。見慣れた部屋を多少低い位置から見ているようなのもきっと気のせいだ。よし!」

目を閉じ、言い聞かせるように呟くとゆっくりと目を開けて鏡を再び目にする。
が、やはり何度見てもそこに写っているのは幼い自分の姿である。

「な、な…………なんじゃこりゃ!」

思わず天井を仰ぎ叫んでしまう武。

「まさか、これが代償とか言うのか! もしや、純香の呪い!? はっ、まさか純夏の奴が何かに目覚めたとか。
 うおぉぉ、ドリルミルキィパンチ以外にもこんな特技を身に付けたのか。
 というか、落ち着け俺! 程よい感じで只今絶賛混乱中!」

ひとしきり騒ぎ、ようやく落ち着いたのか武は肩でぜーぜーと息をしながら額の汗を拭う。

「オッケー、ボス。俺はもう落ち着いた。って、ボスって誰だよ!」

まだ多少混乱気味だが、どうにか心を落ち着かせて考える。
そして、出した答えは……。

「うん、これも夕呼先生に聞こう」

実に武らしいと言えばらしい結論を出すと、制服の裾と袖を何度も折り、
どうにか手足の自由を確保すると、今度こそ横浜基地へと向かうのであった。



「ふーん、どう見ても十歳ぐらいにしか見えないけれどね。
 もしそれを解明できれば、女性にとっては嬉しい若返りの発見ね」

「いや、そんな暢気な事を言ってないで原因とか分かりませんか?」

「まあ、予想で良ければつくけど?」

「本当に!?」

「アンタがまたループしたのは、心のどこかでそれを強く願っていたからでしょうね。
 そして、それに気付いた鑑の最後の力によって。強引だけれど、そう考えざるを得ないわね。
 勿論、実証はできないけれど。
 で、その大きさになったのは単純に鑑が力尽きる前で、アンタを構成する力が足りなかったからじゃない?
 記憶のない状態にでもすれば別だったのかもしれないけれど、それだと意味がないでしょう。
 つまり、記憶の流出を避ける方に力を割いたって所じゃないかしら」

「そんな事あり得るんですか?」

「さあ? 私自身、かなり強引な理屈だと思ってるしね。実際のところなんて本人にしか分からないわよ。
 勿論、その一連の出来事が鑑の仕業だとしての話だけれどね。
 私にとってはそう問題ないわ。アンタの話が本当なら、新しい理論の回収に関しても問題はないでしょう」

これからしっかりと働いてもらうわよ、とその目が語っている。
それは武としても望む所なので問題はないのだが、やはり自分の身体に違和感を感じるのだけはどうしようもない。

「あ、年齢は流石に元のままで良いわよね。と言うか、そうでないと可笑しいもの」

「まあ、戸籍がある以上はそうですね。第一、見た目の年齢なんか名乗ったら流石に衛士は無理でしょう」

「あら、分かってるじゃない。幾ら年齢が引き下げられていると言ってもね」

可笑しそうに言いながら、夕呼の目は面白いものを手に入れたとばかりに輝いていた。
敢えてそれに気付かない振りをして、武は今後の予定を夕呼と打ち合わせるのだった。



「新しい教官、ですか。教官、お言葉ですが、その……」

「ああ、お前たちの言いたい事は分かる。が、安心しろ。
 白銀大尉はお前たちと同じ年だ」

訓練兵である207B分隊へと教官として姿を見せた武を待っていたのは、当然と言えば当然な反応だった。



「わぁ、可愛い」

「むぐっ」

武が自己紹介するなりそう言って抱き付くのは涼宮遙である。
普段のほわほわした感じすらただよう様子からは想像も出来ないほど素早い動きに武も反応する間もなかった。
二つの膨らみに潰され息苦しくなりつつも、武はそれが何か分かって顔を赤く染める。
とは言え、強く引き離して怪我でもしたらと思うとそれも出来ず、困ったように助けを求める。

「お、お姉ちゃん」

「涼宮!」

武の視線に気付いた訳ではないが、姉の恥ずかしい行為を妹として止めようとした茜と、
武の階級を知っているみちるが慌てて声を上げる。
こうして初っ端に思わぬアクシデントがあったものの、武は嘗ての仲間にして尊敬する先達との顔見せを果たす。
当然ながら、武の年齢を知らされた時の反応は既に予想できていたのか、どこか達観したような顔をしていたが。



「白銀武」

「なぁに?」

この時、武の記憶にはちゃんとこれから近衛に詰問される事を覚えてはいた。
ただし、連日の訓練兵やA-01の訓練に加え、昨夜は夕呼からの呼び出しもあり、少し眠たかったのだ。
更に言えば、武にとってもあまり面白い出来事でもないのだ、これは。
故に返答が少々気の抜けた、舌足らずな感じになったとしても責められる事ではないだろう。
だが、その効果は思いも寄らない影響を与えたのだが、それは与えられた当人以外は預かり知らないことである。

「うっ……か、かわい……こほん」

少々頬を染め、慌てた様子で姿勢を正すと誤魔化すように咳払いを一つする。
そうして再び眦を上げると、月詠真那は武へと話しかける。
やや強い口調で問い詰める真那に続けとばかり、戎たち三人も口早に責め立てる。
が、一方の武は既に聞いたことのある同じ話を、それも眠気の襲って来ている瞬間にされ、
こっそりとばれないように欠伸を噛み殺す。
ようやく口撃が終わった頃、何を言うべきか思案しながら取り合えず身長差の出来てしまった真那を見上げる。
何を言うか言いよどむ武であったが、真那にはそれが違うものに見えてしまった。
欠伸をしたために出来た涙、見上げてくる瞳、怯えるように言いよどむ少年。
結果、真那はそれ以上は何も言えず逆にたじろぐ。

「くっ、こ、この話はまた今度ゆっくりとするとしよう。
 今日の所はこれで引き上げる。行くぞ!」

口早にそう伝えると、こちらも困惑する戎たちへと声を掛けてさっさと歩み去る。
その背中を見送り、残された武は一人首を傾げるのだった。



一方、帝都から少し離れた何もない、まさに文字通り荒野のような場所に佇む黒尽くめの男が一人。
その手に握られていたのは一冊の大学ノート。
男――恭也は周囲を見渡し、次いで空を仰ぐと盛大な溜め息を一つ零す。

「……授業のノートを借りる代わりに実験に付き合う約束を確かにした。
 だがな、忍。幾らなんでもこんな何もない所に転移させるような物をいきなり人で試すな!」

恭也の叫び声は当然ながら誰にも届かない。
彼はまだ知らない。ここが別の場所どころか、別の世界であるという事を。
この世界には海鳴という地名すら存在しないという事を。
彼はこれからどうなってしまうのか。



マブラヴ 〜小さな武の奮闘記 並びに異邦人恭也の壮絶なる迷子録〜







うーん、そういえばもうすぐ大型連休だね。

美姫 「言われてみればそうね。今年はやっぱり道路が混むのかしら」

まあ、毎年混んでいるけれどな。
と、そんな先の話をしていても仕方ないな。

美姫 「いや、アンタから言い出したんだからね」

まあまあ。今回は重要なお知らせが。

美姫 「果たしてここでしてもいいものか」

うーん、よし、後でこっそりとしよう、うん。

美姫 「って、何よそれは! 気になるでしょうが!」

ぶべらっ!
ぐ、い、いや、ほら、知っている人は知っていると思うけれど……。

美姫 「当たり前でしょう!」

ぶべらっ!
お、お願いだから最後まで聞いて……。

美姫 「なら、さっさと言いなさいよ」

は、はい。昔、昔、うちのサイトにはあるページがありました。
仮に闇ページとします。

美姫 「もったいぶった言い方ね」

まあまあ。
だけど、これはサーバー移行の際に消滅せざるを得なかった。

美姫 「ふ〜ん」

いや、もうちょっと反応があると嬉しいんだけれど。

美姫 「良いから続けなさい」

はい……。しかし、しかしですよ! 遂に復活です。

美姫 「とは言え、知っている人がいるかどうか」

うっ、確かに。ま、まあ、それでも告知だけでも……。

美姫 「だとしても、あれを自力で見つけるのは無理のような気もするわね」

という訳で、ヒントを設置しようかなと。

美姫 「ああ、そういう事ね」

ああ。因みにそのヒントは……。

美姫 「番組の後でね〜」

という事です。同時にこの場を借りてお礼を。
安藤龍一さん、タハ乱暴さん、ありがとうございます。
いや、もうやるかどうかで言うと、既にやらないの方に八割方寄っていたんですよね。

美姫 「所が二人のお蔭もあり、こうして復活したのね」

おう。そんな訳で感謝です。こうして、約束通りに告知もしちゃいますね〜。

美姫 「さて、それじゃあ、ちょっと早いけれど今週はこの辺にする?」

だな。

美姫 「もしくは、残った時間を使って私がアンタを公開お仕置きとか♪」

いやいや、何をそんな楽しそうなイベントが始まるよ〜、みたいなノリで言いますか!
嫌に決まってるだろうが!

美姫 「あ、アンタを吹っ飛ばして地面に落とさずにどれぐらいの時間、殴る蹴るできるのかってのは?」

さっきのとどう違うの!?

美姫 「こっちはアンタを地面に落としたら終わり。最初のは時間が来るまでは絶対に終わらないの♪
    で、どっちが良い?」

う〜ん、それじゃあ後の方で、何て言う奴が居ると思うか!?

美姫 「私は期待しているわよ」

するなよ! と言うか、そんな期待いらない!

美姫 「ひ、酷い! 私の期待を裏切るのね!」

いやいやいや、お前の方が酷いからね。

美姫 「あ、アンタをからかっている内に良い感じの時間になったわ」

はっきりとからかっていると言いましたね!

美姫 「や〜ね〜、勿論、どちらか選んでいたら本気でやったわよ」

だから、選ばないっての!

美姫 「さて、それじゃあ締めましょうか」

はぁぁぁ。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」



  闇ページ:終了しました。知りたい方は、掲示板かメールでお願いします。


4月10日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いや本当に暖かくなったね、とお送り中!>



いやー、段々と暖かく、寧ろ状況によっては暑くさえ感じるようになってきたな。

美姫 「本当なら嬉しいはずの出来事なのに、どうしてそんな嫌そうな顔なのよ、アンタは」

いやいや、春も嫌いじゃないよ。でもな、やっぱり寒い方が好きなんだよ。

美姫 「あ、そう」

って、自分から聞いておいてそんなにあっさり!?

美姫 「いや、もっと面白い答えを期待してたんだもの」

期待するなよ。と言うか、ふざけたら鉄拳制裁とか言うだろうに。

美姫 「当たり前じゃない」

り、理不尽だ。今更ながら、理不尽だ。

美姫 「本当に今更よね」

張本人が言うな!

美姫 「あ、今日はいつもよりも時間がないからさっさといかないと」

やっぱり無視なんですね!

美姫 「それじゃあ、CMよ〜」








「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

春の日差しも麗らかな午後。
ここトリステイン王国にある魔法学院では恒例の使い魔を呼ぶ儀式が行われていた。
最後となった生徒、ルイズは緊張しきった表情と固くなった体をぎこちなく動かしつつも無事に呪文を唱え終える。
固唾を飲んで、どこか楽しげな様子も潜ませた少年少女たちがルイズを遠目に窺う中、
ルイズの呪文に応えるように小さな爆発が起こり、ざわめく周囲を無視するように、
ルイズの目の前に一つの影が現れる。

「わ、私の使い魔は!?」

「……ケホケホ。一体、何なのよ。って、チビルイズ?」

「エ、エレオノール姉さま!?」

「全く、何があったのか分からないけれどまた貴女の仕業なの。
 一体、今度は何をやらかしてくれたのかしら」

魔法を唱えれば失敗続きで、付いた二つ名がゼロ。
それでも少女の強気な性格は誰もが知る所である。
そのルイズが呼び出した女性を前に怯えているのである。
普通ならここでルイズをからかうような言葉を投げる者もいただろうが、ルイズのその様子と、
何よりも呼ばれて出てきた女性を目にして誰もが口を閉ざす。いや、閉ざさるを得なかった。
そんな中、このままではどうにもならないと判断したのか、この場の責任者である教師、
コルベールが二人の間に入っていく。

「ミス・ヴァリエール。彼女は貴女の知り合いの方ですか」

コルベールを見ると、女性はスカートの裾を両手で摘み軽く持ち上げると優雅な仕草で軽く頭を下げる。

「名乗るのが遅くなってしまい申し訳ございません。私はそこにいるルイズの姉で、
 エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールと申します。
 お見受けしたところ、学院の教師の方のようですわね。いつも愚昧がお世話になっております」

「あ、いや、これはご丁寧にどうも。私は――」

などとやけに格式ばった自己紹介が行われる間も、ルイズはエレオノールから離れようとする。
だが、この場から逃げ去る事は授業中であるという意識からできず、仕方なくコルベールの背に隠れようとする。
そんなルイズを目敏く見つけ、エレオノールはルイズの耳を掴む。

「痛い、痛いですってばお姉さま?」

「で、また貴女は何をしでかしたのかしら」

「べ、別に何もして……うっ、ほ、本当だもん。
 私はただ使い魔を呼ぶ儀式をしてただけだもん」

ルイズの反論はしかし、エレオノールの一睨みで消え去り、それでも何もしていないと証明するように叫ぶ。
それを肯定するようにコルベールもルイズの言葉に頷き、言い難そうに続ける。

「恐らくですが、彼女の召喚によって呼び出されたのが……」

それ以上は続けられず、コルベールは無言で機嫌を伺うようにエレオノールを見遣る。

「……本当に貴女は昔っから駄目ね、チビルイズ。
 よりにもよって、この私を使い魔として召喚するなんてねぇ」

「あ、ああああああ、ミスター・コルベール。お願いですからやり直しさせてください!」

目の端に涙さえ浮かべて懇願するルイズであったが、コルベールは申し訳なさそうにしながらも首を横に振る。
それは出来ないと。その事はエレオノールも分かっているのか、苦々しい顔をしつつも口を挟まない。
が、殺気さえ篭ったような視線をルイズへと放つ。
当然ながらその視線をルイズは誰よりも感じ取っており、いやいやをする赤子のようにただ首を何度も振る。

「そうだわ、私が逆にチビルイズを使い魔にすれば良いのよ。
 そうすれば、貴女はもう一度呼び直せるでしょう」

「わ、私がエレオノール姉さまの使い魔に!?」

「ええ、それは良い考えだわ。そうなれば、たっぷりと教育し直してあげれるものね」

「い、いいいい、いやー! そ、それだけは嫌です」

「へぇ、それはつまりこの私を貴女の使い魔にするという事かしら」

「そ、そそそそそんなつもりでは……」

「なら、貴女が私の使い魔になりなさい」

「う、うぅぅ……。だ、誰か助けてー!」

ルイズの必死の叫び声だけが、よく晴れ渡った空へと響く。



ルイズが色々呼んじゃいました 〜私の使い魔は誰でしょう?〜



「――我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

ルイズの声に応えて本来なら起こらないはずの爆発が起こる。
爆発により巻き上がった煙の中、ルイズの呪文に応えた一つの影。
煙が腫れてその姿がはっきりと見えた時、周囲で見物をしていた少年たちから感嘆の声が上がる。
いや、よく見れば少女たちからも少なからず似たような吐息が零れていた。
それは教師であるコルベールも同様で、思わず目の前の人物に見惚れてしまっていた。
が、その中にあって呼び出した張本人であるルイズはそれらとは違い、戸惑いや驚きで目の前の人物を見ていた。

「ちぃ姉さま?」

「あら、ルイズ。どうしたの、こんな所で?
 あら? ここは私がさっき居た場所じゃないみたいね。
 つまり、私の方がルイズの所に来たという事なのかしら」

やけにおっとりとした口調で喋る女性は、そんな事は良いかと腕を広げてルイズを抱き締める。

「本当に久しぶりね、ルイズ。元気にしていた? 風邪はひいてない? 怪我とかは?」

「ちぃ姉さま、私は元気です。風邪も怪我の心配もありません」

甘えるように女性へと抱き付くルイズに誰もが言葉を無くす中、教師としての役割を思い出したのか、
コルベールはルイズの知り合いらしい女性へと名乗りを上げる。
それに応え、女性はおっとりとした笑みを浮かべて優雅に頭を下げる。

「ご丁寧にありがとうございます。いつもルイズがお世話になっております。私、ルイズの姉で、
 カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌと申します」

こうして実の姉を使い魔として呼んでしまったルイズであったが、当然ながらやり直しを要求する。
コルベールとしてもそれを聞き届けてやりたい所ではあるが、神聖な儀式だけに首を横に振らざるを得ない。

「そんな。ちぃ姉さまは身体が弱いのに」

「良いのよ、ルイズ」

「ちぃ姉さま」

麗しい姉妹愛を確かめ合っている二人に無粋だと知りつつもコルベールは早く契約をするように促す。
結果、カトレアがルイズの使い魔となるのだが、当然ながらルイズがカトレアに対して命令などするはずもなく、
逆にかいがいしく使い魔の世話をする主人という図式が出来上がるのだが、誰もそれに野次を飛ばす事はなく、
寧ろ男子生徒などは率先して手伝うようになったとか、ならないとか。



「――我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

ルイズの声に応えて本来なら起こらないはずの爆発が起こる。
そこから現れた人物を見て、失敗したらどうからかおうかと考えていた生徒たちも、
そうでない者たちも恐怖という感情を表情に貼り付けて一斉に後退る。煙が腫れた中から出てきたのは一人の少女。
寧ろその容姿は整っており、恐怖を抱かせる所かどこかおっとりした印象さえ受ける程である。
だが、ただ一点、少女の耳は普通の人とは違っており尖っていた。
エルフ、そう呼ばれて恐れられる種族の証。
それを見たからこそ、遠巻きにしていた誰もが声も上げれず、ただ事態の成り行きを見守る。
それは呼び出したルイズとて同じで、
寧ろ一番近い位置にいる彼女は気丈に背中を見せる事無く杖を構えているものの、その身体は震えていた。
コルベールさえも息を呑んでしまう状況下で、呼び出された少女は戸惑ったように辺りを見渡し、

「あ、あの……」

「う、動かないで! それ以上動いたら魔法を使うわよ」

先住の魔法を使うエルフ相手に脅し文句となるのかさえ分からない事を、それでもルイズは気丈に吐き出す。
睨むように見詰める先で、呼び出された少女が逆に涙目になり屈み込んでしまう。

「う、うぅぅ」

嗚咽を堪えきれずに泣き出した少女を前に、ルイズは戸惑いを隠せないでいた。
そんなルイズの耳に少女の小さな声が聞こえてくる。
何もしていないのにハーフエルフというだけで敵意を向けられる事に対する怒りではなく悲しみであった。
子供のように泣く少女を前に、ルイズはいつしか自分の方が悪い事をしてしまったような気になり、
謝りながら少女に近付き、自分が呼び出した事を説明する。

「えっと、貴女の名前は」

「わ、私はティファニア。テファと呼んでください」

「そう。分かったわ、テファ。とりあえず、そんな訳だから貴女には私の使い魔になってもらいたいんだけれど」

「それはお友達という事ですか?」

「いや、友達じゃなくて」

「違うんですか」

しゅんとなるティファニアを前に、ルイズは慌てたように自分の言葉を撤回する。
途端、喜びを現すのだが、村の子供の世話をしないといけないと言い出す。
そんなやり取りをしていると、いつの間にかコルベールが近くまでやって来る。
穏やかに話しているのを見てとりあえずの危険はないと察知したのだろう。
近付いたコルベールは儀式は神聖なもので覆せない事を説明し、子供たちは後で学院長に相談すると約束する。
その上でルイズと契約するように頼むのだった。
こうして、ティファニアは友達を手にいれ、ルイズはハーフエルフの使い魔を手にする。
これが後に更なる混乱を招く事になるなど、この時点では分かるはずもなかった。



「――我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

ルイズの声に応えて本来なら起こらないはずの爆発が起こる。
舞い上がる砂塵。騒然となる周囲。
それらには目もくれず、ルイズはただ自らが呼んだ使い魔を早く見ようと目を凝らす。
やがて視界が晴れると、その向こうに一匹の獣の姿が。

「……子狐?」

「くぅ〜ん」

可愛らしく鳴く子狐に思わず頬を緩めてしまうが、ルイズは頭を思いっきり振る。
自分が望んだのはもっと強い魔獣の類であって、決して癒しをくれる愛玩動物ではない。
が、認めたくなくても目の前に居る子狐こそが自分が呼び出した使い魔に違いはない。
コルベールに促され、ルイズは子狐と契約をする。
皆が空を飛んで帰るのを地から見送り、ルイズは知らず溜め息を零す。
だが、ちゃんと魔法が使えたんだという事実を思い出し、子狐の可愛らしさに心を和ませて、
これはこれで良いかと思い直すと子狐を抱き上げる。

「そうね、まずはあなたの名前ね」

子狐はルイズの言葉に首を傾げ、続けてその腕から飛び降りる。
地面に足を着くと同時、小さな音が鳴ると、そこには子狐の姿ではなく、巫女服に身を包んだ一人の少女がいた。

「……えっと」

「くおんのなまえはくおん。あなたは?」

「わ、私はルイズよ。まさかと思うけれど、貴女さっきの狐」

「うん。くおんはきつね。るいず、くおんはやくかえらないとなみがしんぱいする」

「帰るって……。だ、駄目よ、貴女は私の使い魔になったんだから」

ルイズの言葉に久遠はしゅんと頭部から生えている獣耳までうなだらせ、目に見えて元気をなくす。

「あ、ごめん。でも、こればっかりはどうしようもないの」

「なみ、しんぱいする。れんらくしたい」

「そうね、それぐらいなら構わないわ」

この後、部屋に戻ったルイズは片言ながらもしっかりとした久遠の言葉から、
久遠が那美という女性を主に持つ使い魔だと勘違いして大慌てしたり、
久遠が異世界の住人だと分かって混乱したりととても忙しい一日を過ごすのであった。



「――我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

ルイズの声に応えて本来なら起こらないはずの爆発が起こる。
目を凝らして煙の向こうを見据えるルイズの前にトレーが差し出され、頭上から落ち着いた声が落ちてくる。

「お待たせしました、ケーキセットとシュークリーム、それとコーラーです」

「……そんなもの頼んでないわよ」

「だろうな。俺も貴女に出したつもりはなかった。
 で、これはどういう状況なのか教えてもらえると非常に助かるのだが」

やや憮然とした表情でトレーを手にし、黒地に緑色で店のロゴが入ったエプロンを付けた恭也は言い放つ。
対するルイズは目の前の給仕が自分の呼び出した使い魔だと認めたくなくて、
恭也の質問を無視してコルベールへとやり直しを要求していた。
その様子を見て埒が明かないと感じ取ったのか、とりあえず近くにいる少女へと状況の提示を申し出る。

「非常に申し訳ないが、現状の説明をお願いしたい」

「……使い魔」

「使い魔? それは何ですか」

「あら、あなた使い魔を知らないの。私の連れているこういった子よ」

青髪の少女の隣から赤髪の女性が恭也の質問にそう答え、
女性の足元では子供ぐらいの大きさのトカゲが尻尾を振っている。

「……それが今の状況に何の関係があるので……良かったら食べますか?」

じっとトレーの上を見ている青髪の少女タバサの視線に気付き、本来注文したお客さんも居ないからと尋ねてみる。
その言葉にタバサはじっと恭也を見詰めた後、小さく頷く。
すると、タバサの隣に居た赤髪の女性キュルケも自分もと手を伸ばしてくる。

「あら、凄く美味しい」

一口齧った途端、そう感想を口にするキュルケとは逆にタバサは無言のまま、
けれどもどこか嬉しそうにケーキを食べていく。
それを見てケーキにも興味を持ったのか、キュルケが半分ずつ分けようと提案し、
タバサと二人で半分ずつ口にする。
次にコーラーへと手を伸ばしたタバサはそれを口に含み、驚いたように恭也を見る。

「どうかしましたか?」

「これはなに?」

「コーラーですけれど」

タバサの反応から興味を抱いたキュルケも口にし、同じように始めて飲んだという反応を見せる。
だが、逆に今度は恭也の方が不思議そうな顔で二人を見るが、先に中断されていた説明を求める。
そんな恭也の後ろからキュルケと仲良くしていると思ったのか、ルイズが走り寄り、
数メートル先でジャンプすると、恭也の背中目掛けて蹴りを放つ。
それを受け止め、抗議する恭也へと逆に何故かルイズが怒った声を上げる。

「あなたは私の使い魔なんだからね! ツェルプストーの人間なんかと仲良くしたら駄目でしょうが」

「あら、なんかとは言ってくれるじゃないゼロのルイズが。
 そもそも、彼はまだ貴方と契約していないんだから、貴方の使い魔じゃないでしょう」

「こ、これからするのよ! 私だってこんな平民としたくなんてないけれど、やり直しは駄目だって……」

当事者の恭也を無視して言い争う二人。
完全に恭也の事を忘れてしまったかのような二人に気付かれないようにタバサが恭也の袖を引っ張る。

「どうかしましたか?」

「聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「そう。貴方がさっきくれた飲み物は私も知らないものだった。
 けれど、貴方の反応を見ると貴方の周りではあれは当たり前のものなのだろうと推測する。だから、聞きたい。
 貴方の居た国、ここからずっと東、ロバ・アル・カリイエには人の心に作用するような薬はある?」

「ロバ・アル・カリイエというのは分かりませんが、心に作用とは穏やかじゃないですね」

恭也の物言いから何か探ろうと見詰めるも、恭也は目を逸らす事無く見詰め返す。
互いに無表情、無口のまま見詰め合う。何を感じ取ったのか、それとも取れなかったからなのか、
タバサはルイズへと提案する。

「彼を私の使用人にするから、もう一度召喚の儀式をすれば良い」

タバサの言葉にルイズは複雑そうな顔をするも、結局はその提案に惹かれたのかあっさりと了承する。
が、タバサの言葉にキュルケが意外というような感じで驚きの表情を見せ、
コルベールはそれはなりませんぞ、と反対を口にする。
またしても恭也本人の意思を無視して進めていく三人を眺め、恭也は空を仰ぎ盛大な溜め息を一つ零すのだった。







今回のCMは小ネタ連続。

美姫 「色々呼んじゃってるわね」

はっはっは。と、まあ笑っている場合じゃないんだけれどな。

美姫 「アンタ、今週は全然書いてないもんね」

いや、それには色々と事情がですね。
書いていないけれど、忙しかったんだよ!

美姫 「いや、意味が分からないから」

まあ、いずれ分かるさ……多分。

美姫 「多分って何よ」

って、絞まる、首が絞まってる!

美姫 「絞めてるのよ!」

うぅぅ、その返し方は正しく使った場合は嬉しいが、このように応用して使われると悲しい……。
って、駄目、マジで苦しい……。

美姫 「ったく、今日は時間がないっていうのに余計な時間を」

俺の所為か!?

美姫 「他に誰がいるのよ!」

いえ、まあ、居ないですけれど、はい。

美姫 「分かっているのなら大声を出さないで欲しいわ」

うぅぅぅ。目からしょっぱい水が溢れてくるよ。

美姫 「あ、本当にもう時間がないわ」

いや、本当に早いな。

美姫 「それじゃあ、締めましょか」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


4月3日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、流石に今回は導入部変更しないとね、とお届け中!>



あ〜――ぶべらっ!

美姫 「これ以上、同じ入り方は私が許しません!」

いや、明らかに違う入り方をしようとしてたよね!?

美姫 「いや、それを『あー』だけで判断するなんて無理じゃない」

それなのに殴ったの!?

美姫 「それはそれよ」

いやいや、どれだよ。

美姫 「もう細かい事ばかりぐだぐだと」

細かいか?

美姫 「うるさい、うるさい、うるさい!」

ぶべらっ! な、何で?

美姫 「いや、だからうるさかったから」

物凄く理不尽な思いをしているんですが。

美姫 「今更じゃない♪」

いや、お前が笑顔で言う台詞じゃないから。
いじめですよ、これは。

美姫 「愛情じゃない」

そんな愛情はいらないよ!

美姫 「酷いわっ!」

いや、それは俺の台詞だよね。

美姫 「さて、そんなこんなで今週も始まりました」

なかった事にした!? と言うより、既に始まってそれなりに経ってるし!?
と言うか、ここまでが導入かよ! って、もう色々突っ込み所ありすぎ!

美姫 「ごくろうさま」

いや、そんな一言ですまさないで……。

美姫 「あらあら、花粉症で疲れたのかしら」

いや、主に貴女が原因ですが。

美姫 「ああ、私の美しさに隣にいるだけで緊張するという事ね」

ぼへ〜。あ〜、四月に入ったし、日に日に暖かくなっていくな〜。ぬぼ〜。
ぶべらっ!

美姫 「緊張するのよね?」

は、はい、滅茶苦茶緊張してます。ち、違う意味でだけれど。

美姫 「一言多いのよ!」

ぶべらっ! しょ、正直者が損をするのか……。

美姫 「どちらかと言うと口は災いって感じ?」

災いというか、人災。しかも、お前が原因なんだが。

美姫 「酷いわっ!」

いや、だから、それは俺の台詞――ぶべらっ!

美姫 「さて、今週も始まりましたが、とうとう四月ですね〜」

いや、だからね。と言うか、繰り返すなよ!

美姫 「ご苦労様」

だから、それで済ます……って、また同じパターンでぶっ飛ばされるのはごめんだっての!
そうそう、何度も殴られてたま――ぶべらっ! な、何故?

美姫 「あ、ごめん。ついノリで」

いやいや、毎度の事ながらノリで人様をぶっ飛ばすなよ!

美姫 「酷いわっ!」

だーかーらー! それは俺の……はっ!
そ、そう何度も繰り返すかっての。ぶべらっ!

美姫 「さて、今週も元気に……」

い、いい加減に勘弁してください。

美姫 「そうね。同じボケも三度までだものね」

まさかとは思うけれど、それだけの理由で三度繰り返したとか言わないですよね?

美姫 「あ〜、少しずつ暖かくなってきたわね〜」

いやいや、図星なのかよ!?

美姫 「耳元で騒がないでよ!」

ぶべらっ!

美姫 「さて、それじゃあ今週も……」

よ、四度はないんじゃないのか。ぶべらっ!

美姫 「今度は違うわよ! 今週もCMいってみよ〜」

あ、そっちでしたか……がく。







――それは一本の電話から始まった。

「そういう訳で、あの子達にこれ以上辛い思いはして欲しくなくてね」

「まあ、大体の話は分かったよ。しかし、まさかあの事件の真相がそんなとんでもない話だったなんてね」

「まあ、そう簡単に信じられるような話じゃないのは分かっているさ。
 だからこそ、リスティちゃんに頼むんだから」

「OK。じゃあ、手筈はさっき話した通りで良いね」

「こちらとしては構わないよ。リスティちゃんがそれだけ信頼しているんだ。こっちも信じるさ」

――ギガロマニアックス

この言葉を知る者は極僅かであり、また一年程前に世間を騒がせた『ニュージェネレーションの狂気』と呼ばれる、
渋谷での事件と関係があった事を知る者も同様である。
だが、偶然にもそれを知ってしまった者がいたとしたら?

――力を狙う謎の影

「渋谷で行われた実験。そのレポートの一部です。
 流石にあれだけの被害があってはデータも完全には残っていませんでした」

「……自分たちで実証しない事にはどうしようもない、か。
 幸いな事にギガロマニアックスの情報は手元にある。何としても手に入れろ」

――最も強い力を持つ少年は記憶と力をなくして平穏な日常の中にいた。

「タク、おはよっ。一緒に学校行こっ」

「お……おはよ」

「おにぃ、って、また居るし! 何してるの」

「何ってタクと一緒に学校に行く所だよ」

「むー、おにぃはナナと行くから」

「拓巳しゃん、二人は忙しそうなのら。こずぴぃと一緒に……」

「折原さん、抜け駆けは駄目ですよ」

「言いつつ、楠は西條を何処に連れて行くつもりだ? そもそもお前は学校が違うだろう」

「それを言うのなら蒼井さんも違いますよね」

「……と、と当事者の僕を無視して勝手に何をしてるんだよ。
 って、この隙に逃げれば良いんじゃないか」

「そうね。拓巳、行きましょう」

「…………あ、あああの、手、手を」

「岸本さん! 本当に油断ならないわね」

――そのままであれば交わる事のなかったものが、今交わろうとしている

「ねぇ、恭ちゃん、その話本当なの」

「信じ難いかもしれないが、事実らしい。
 正直、俺もリスティさんから聞いた時は驚いたがな。
 その事件の真偽は兎も角、その七人を誰かが狙っているのは事実だ」

「うん。でも、どうやって護衛をするの。第一、そんな力があるのなら……」

「そう言えば、そこの説明がまだだったか。
 詳しい事は分からないが、その七人の中で最も力の強い西條拓巳という青年は記憶と力を封じられているらしい。
 彼の妹共々にな。その二人を日常に留める為に残る五人が彼を守っているらしい」

「なら、余計に私たちは必要ないような……」

「それを向こうも承知しているはずだ。それでも尚、攫おうとしている。
 それに守護している五人だってターゲットとなっている事を忘れるな」

――力を取り戻させるため、失った記憶を戻そうとする影と、それを阻もうとする守護者たちがぶつかる

「何で! どうしてそんな事をするの!? もうそっとしておいてよ!
 これ以上、タクを傷付けないで!」

「あははは、無駄だ。ここで我らを追い払ったとしても、一度出来た綻びはそう簡単には直らない。
 我らは何度でも現れるぞ!」

渋谷で再び繰り広げられる戦い。
果たして、その先に待つものは――。

とらいあんぐる;HEAD ひ〜とあっぷ






今更だけれど、よく考えたら日が落ちるのも遅くなっているんだよな。

美姫 「本当に今更よね」

いや、実感としてここ最近ようやく。

美姫 「おそっ! 幾らなんでも遅くない!?」

そんな事はないと思う……思いたい。

美姫 「最早、呆れるわね」

いやいや、これぐらいでそんなバカにした目を向けないで!

美姫 「バカにしているんじゃなくて、見下しているの」

う、うーん。どう違うと突っ込むべきか、余計に酷いと嘆くべきか。
いや、どっちの方が酷いって事もないのか? って、突っ込み難いわ!

美姫 「哀れみの目で見てあげるわ」

うぅぅ、やめて、これ以上虐めないで。もう俺の体力は0だよ。

美姫 「はいはい。それはそうと」

何でしょうか。

美姫 「そこまで警戒しなくても良いじゃない」

いや、警戒というかいじけていると言うか。

美姫 「どっちでも良いわ」

ばっさりと両断!?

美姫 「いや、本当に良いから。それよりも、ほら時間」

おおう! 今日はまた早いですな!

美姫 「本当よね〜。じゃあ、このまま延長しちゃう?」

それじゃあ、今週は――ぶべらっ!

美姫 「無視とは良い度胸ね」

む、無視したつもりはないんですが。
仮に突っ込んだり反論したりしていたら?

美姫 「勿論、さっさと締めろとぶっ飛ばしていたわね」

ほら! だから、さっさと締めの言葉を口にしたのに。

美姫 「どっちにしても同じ結果だったわね♪」

いやいやいや、お前が言うな、お前が言うな!

美姫 「どうして二回も言うかな」

言わせてるんだろう!

美姫 「もう煩いわね。良いからさっさと締めなさいよね!」

ぶべらっ! んな理不尽な!

美姫 「ほら、早く、早く」

うぅぅ……。
それでは、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月27日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いつもと同じ曜日に、お送り中!>



ズビズビ。ごんじゅう――ぶべらっ!

美姫 「それはもういいっての!」

うぅぅ、初っ端から吹っ飛ばされるなんて。
もう嫌っ! こんな生活耐えられない!

美姫 「はいはい、突っ込む気はないわよ」

がーん。
やめて、無視はやめて……。

美姫 「ったく、本当に馬鹿な事ばかりやってるんじゃないわよ」

すみません。

美姫 「さて、それじゃあ本題に入りましょう」

本題?

美姫 「今日は連絡事項があるんでしょう」

おお、そうでした。
既にお気付きかと思いますが、トップページの更新履歴と各場所へとリンクしているボタンの間に……。

美姫 「何やら新しいものができています」

これは通常の掲示板と同様に使い方をして頂いて構いません。
通常の掲示板はレンタルのものなので、そちらが使えないときなどをご利用ください。

美姫 「利用者さんには両方覗いてもらうと言う手間を増やす形になっちゃうけれどね」

確かにそれは申し訳ないです。
さて、簡単にこれが出来た経緯についてですが。

美姫 「何人かの人が掲示板を覗くと『HTTP500』のエラーが出るみたいなのよね」

ああ。ただ調べていくと、このエラーはプログラムに問題があるらしくてこちらからではどうしもないとの事。

美姫 「そんな訳で新たに作っちゃいました」

少々使い辛いかもしれませんけれど。

美姫 「一層の事、こっちに移行するという手もあるのよね」

まあな。それもちょっと検討してみるか。
この件で何かありましたら、ご意見等も受け付けてます。

美姫 「一番良いのは解決する事なんだけれどね」

なんだけれどな。全く解決策が浮かばない。と、愚痴っても仕方ないやね。
そんな訳で、暫くはこういう形で行きますので宜しくお願いします。

美姫 「以上、業務連絡でした」

それじゃあ……。

美姫 「そろそろCM、いってみよ〜」







ホテルの一角、そこで繰り広げられた死闘。
それは人知れず幕を閉じようとしていた。
親子の再会という副産物を付けて。
だが、そんな甘い事は許さないとばかりに隠れていた者により爆弾が投げ込まれ、
それを見た瞬間に動き出せたのは恭也だけであった。
全力を出し切った美由希は疲れきり、すぐには動けない状態。
美沙斗はその美由希にやられ、こちらもすぐに動けない状態であった。
恭也は神速を用いて爆弾の入った小包を手に抱え、廊下は愚か付近の部屋にも誰もいない事を確認すると、
爆弾の入った包みを滑らせ部屋に戻ろうとする。
だが、ここで彼の膝が悲鳴を上げる。
恭也もまた先ほどまで激しい戦闘をしていたのだ。
その反動か、元々壊れかけの膝が限界を超えて崩れ落ちる。
近付く床を目の前にして、恭也は残る力で美由希たちの居る部屋の扉を閉める。
せめて美由希たちだけでもと。
視界いっぱいに映るのは廊下の床。その耳に微かに届いたのは扉の閉まる音。
だが、それらもすぐに爆発により掻き消されるのだった。



美由希から連絡をもらったリスティが駆けつけた現場は床と言わず壁、天井と吹き飛ばされ酷い有様であった。
だが、それほど大きな爆発ではなかったのか、フロア全てが駄目になったという程ではない。
爆発の中心から十数メートル。そこだけが特に酷い有様である。
最悪な事に、その範囲に美由希たちの居た部屋が含まれていた。
幸い、部屋の中にまで被害は及ばず美由希たちは無事であったが、その部屋の前の廊下は本当に酷い有様である。
現場を検証しながら、リスティは遺体すら出てこないだろうなとやり切れない顔で見渡す。
大よその状況は既に聞いている。それが事実だとするならば、廊下に居たはずの恭也は……。
苦々しい顔をしつつも仕事をこなしていくリスティの元へ一人の刑事が近付き、何かを見せる。

「これが丁度、今立たれているその場所にあったんですが」

「へぇ、よく無事だったね」

「ええ、本当に不思議です。鑑識もしきりに首を傾げていましたよ」

言って男の手から一振りの刀を受け取り、未だに呆然としている美由希の元へと向かう。
その隣に立ち美由希を慰めるように肩を抱く美沙斗に軽く頭を下げ、手にした刀を見せる。

「これは恭也ので間違いないかい?」

「っ……」

恭也の愛刀、八景を目にして美由希は声も出せずにただ数回頷く。
泣き喚くのを堪えようとしているのは一目瞭然で、その目からは堪えきれずに涙が零れ落ちている。
それを見ない振りをして、リスティは近くに居た者を呼ぶと何か話し出す。
問答を数回繰り返し、やっと話が着いたのかリスティは男に礼を言うともう一度美由希の前に立つ。
そんな一連の動きを眺める一つの視線。

「……うーん、やはり俺は死んでしまったのだろうか」

現場を天井付近で見下ろしてそう呟いたのは恭也であった。
だが、可笑しな事に爆発に巻き込まれたはずの彼にはそんな様子はなく、
それどころか服さえ綺麗なものである。
更に上げるならば、今彼が着ている服は先程まで来ていた礼服ではなく、普段良く来ていた私服であり、
爆発以前にあったはずの傷も全く見受けられなかった。
そんな彼は天井付近をフワフワと浮きながら、眼下の光景を眺める。

「美由希、本当にしょうがない奴だな。泣き虫な所は直ってなかったのか」

苦笑めいた表情で美由希の前に立つも、当然のように向こうはこちらに気付かない。
困った顔で隣の美沙斗を見ても、やはりその瞳に恭也の姿は映っていないようであった。

「未練はないつもりだったんだが、やはりそうでもなかったという事か」

あの瞬間、美由希が無事ならと思った恭也であったが、
こうして成仏できずに居るところを見るとやはり未練があったのだろう。
そう自己分析して、恭也は見えないし触れないと分かっていても美由希の頭に手を置く。

「やはり無理か」

寂しげに呟くも、無事な美由希の姿に満足そうな顔になる。

「美由希が無事だと確認できたし、これでいよいよ成仏か」

そう思うも一向にそれらしい事は起こらない。

「……成仏するには何か必要なのだろうか。
 那美さんに聞いた方が良いだろうか」

そう思いつつも、自分から成仏するにはどうすればと聞きに行くのもまぬけな光景だと思う。
だが、現世に留まって悪霊と化すのはそれこそ本意ではない。
当然ながら、美由希ともう会えないのは残念だが仕方ないと恭也は決意する。

「聞こえていないだろうが、それじゃあな、美由希。元気にやれよ」

当然ながら聞こえるはずのない恭也の声。
けれど、美由希は顔を上げて左右を見渡す。

「聞こえたのか?」

その反応に思わず声を掛けるも、美由希はまた俯いてしまう。
やはり聞こえていなかったのか、もしくは一瞬だけ声が届いたのか。
それは分からないが恭也は美由希から離れる。
と、そこへまるで入れ替わるようにリスティがやって来て八景を美由希に差し出す。
本来なら持ち帰って検証が行われ、その上で返されるソレを。
受け取るかどうか迷った美由希であったが、美沙斗にそっと促されて八景を手にする。
その瞬間、美由希の目の前に恭也の姿が現れる。

「恭ちゃん!?」

「……見えるのか?」

立ち去ろうとした所でいきなり名前を呼ばれ、驚く恭也。
美由希の方も驚いたようで、恭也の言葉に頷く。
どうやら声も聞こえているらしく、恭也は美由希の名を呼ぶ。
それだけで美由希の目からは涙が溢れ出し、嬉しさのあまり恭也へと抱き付く。
はずだったのだが、美由希の身体は恭也をすり抜けてその後ろにいたリスティにぶつかってしまう。

「ひ、酷いよ恭ちゃん。死んだと思ったら生きていて、喜びのあまりに飛びついた恋人の抱擁を躱すなんて」

「いや、俺も流石にそこまで極悪じゃないぞ。美沙斗さん、今の見てましたよね」

娘の恋人発言に驚きつつも、それ以上に先程の光景に驚いて声を出せない美沙斗。
それでも何とか娘に事実を伝える。

「今、美由希が恭也の身体をすり抜けて……」

恭也の後ろにいた形となるリスティからもその光景はよく見えており、リスティも肯定するように頷いている。

「まさか、幽霊?」

苦手な幽霊に怯えるような、でもそれが恭也故に嬉しさの方が勝っているような。
そんな複雑な顔を見せる美由希。
一方、こういう事に多少なりとも慣れているリスティはすぐに立ち直ると携帯電話を手にする。
こういった事は専門家に尋ねるのが一番早いと。
そうして呼び出した那美を連れて場所を移した一行。
その席で那美から飛び出た言葉は、恭也たちを驚かせる事となる。

「恭也さんはどういう原理が働いたのかは分かりませんけれど、その八景という刀と一体化してます。
 つまり霊剣になってしまってます。勿論、まだ確証できた訳ではないですけれど、多分、間違いないかと。
 今、薫ちゃん、あ、私の姉で同じく退魔士をしているんですけれど、そちらに連絡しますから」

言って部屋の隅で電話を掛ける那美。
その背中を呆然と見ていた恭也であったが、やけに落ち着いているリスティに気付く。

「ああ、ボクもこういった類の事には慣れているからね。
 そもそも霊剣にしても既に二人知っているから今更それぐらいでは驚かないよ。
 さっき那美が話した薫というのは当主で、代々伝わる霊刀を持っていてそれを見ているしね」

それにしても、とリスティは改めて恭也を見て、複雑な表情を見せる。

「無事……じゃなかったから良かったとは言えないか」

「ええ。ですが、こうして意思を持ってまた美由希と話せるのは純粋に良かったと思います」

「そうかい」

恭也の隣でこちらも複雑そうな顔をしている美由希を見ながら、リスティはただ短くそう言う事しかできない。
その内、那美が電話を終えて戻ってくる。

「薫ちゃんが明日にもこっちに来てくれるとの事です。
 詳しい事はその時調べてもらえると思います」

「ありがとうございます」

「いえ、私も美由希さんや恭也さんの力に慣れれば」

「さしあたり、さっきの光景を目撃した者は少なかったし、口止めもしたから大丈夫だよ。
 その小太刀も恭也が生存しているという事にして持って帰ってもらって構わない」

そこまで言うとリスティは美沙斗へと視線を向ける。
その意味を分かっているのか、美沙斗は小さく笑う。

「私はすぐにでも消えるよ。娘と甥に目を覚まされたからね。
 そちらの職務も分かっているけれど捕まる訳にはいかないんだ。
 今度は真っ当な方法であいつらを潰すためにもね」

「まあ、ボクの立場からすればこのまま見逃す訳にはいかないんだろうけれどね。
 今回の事で恭也たちには大きな借りを作ったからね。今から一分間だけボクは疲れたから眠る事にするよ。
 その間に何があってもボクには分からない事だからね」

「感謝する」

言って美沙斗は立ち上がると恭也と美由希へと向き直る。
今回の件での謝罪と再会の約束。恭也に対して申し訳なさそうな顔をしながらも、
約束の時間はもうすぐなので、また連絡するとだけ告げて扉へと向かう。
その背中へと眠っているリスティから声が掛けられる。

「これは寝言だけれど、香港の陣内啓吾という男を頼ってみると良い」

美沙斗はそれに返答を返さず、部屋を出て行くのだった。
そして翌日、薫により恭也が霊刀だという判断がくだされる。
こうして、恭也の第二の人生、いや霊生が幕を開け、霊刀を持つお化け嫌いの御神の剣士が誕生する。

霊刀恭也と剣士美由希







さて、既にご報告も終わったし、後は特に連絡事項もないな。

美姫 「おまけに時間もないって訳?」

よくお分かりで。
いやー、見事なオチが着いたところで――っぶえらっ!

美姫 「とりあえず、オチとしてこれは入れておかないとね♪」

い、いらない、こんなのは毎回言っているような気もするけれどいらない……。

美姫 「はいはい。それじゃあ、今週は本当に早いけれど時間もないので」

今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月19日(木)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、一日早く、とお届け中!>



ズビズビ。ごんじゅうもばじまりまじだ。ズズズッ。

美姫 「って、また同じ!?」

ぶべらっ!
しょ、初っ端からですか。

美姫 「それはこっちの台詞よ」

いや、俺は花粉症なんだからある意味仕方ないじゃないか。

美姫 「いやいや、絶対にわざとでしょう」

うん。
ぶべらっ!

美姫 「さて、バカは黙らせて」

まだだよ、まだ終わらんよ。
花粉の季節が続く限り、この入り方で――ぶべらぼげぇっ!

美姫 「で、何だって?」

ごめんなさい。

美姫 「そう言えば、今日は放送日が違うわよ」

うん、明日は休日だからな。という訳で、前日に前倒しに。

美姫 「まあ私は良いんだけれどね。だとすると、今日の締めの言葉はまた明日〜になるわね。気をつけないと」

おいおいおい!
そんな事にはならないから――ぶべらっ!

美姫 「それじゃあ、CMよ〜」







虚無の日――早い話が一日お休みの日――である今日、朝食を終えた恭也たちの姿は学院の門にあった。
学院長の用意してくれた馬車に乗り込み、ルビナスが手綱を手に馬で前を行くルイズの後に付いて行く。
御者を務めるルビナスの後ろ、幌のない荷台ではここ数日で文字を読めるようになった美由希が借りてきた本に集中している。
相変わらず何処に居ても本の虫となる美由希に知らず苦笑を漏らしつつ、
多少気になった恭也が美由希ではなく、その隣の未亜へと声を掛ける。

「それで美由希は何を読んでいるんだ?」

「わたしもちょっと分からないかな。
 美由希ちゃん、既に何冊も読んでいるみたいだし、今も前に聞いたのと違うの読んでいるし。
 多分、英雄譚の物語だと思うけれど」

未亜も多少は本を読んでいるみたいだが、美由希ほどではないらしくこちらも少し苦笑気味に返す。

「本当に本の事となると別人みたいよね。
 それに集中力も半端じゃないし」

そう言いつつもリリィの手にも一冊の本があり、そちらへと視線を落としながらそう言ってくる。
誰も何も言わなかったが、何となく言いたい事を察したのか、リリィは誰も聞いていないのに言い訳のように続ける。

「私が読んでいるのはこの世界の魔法に関する本よ。学院長から借りたのよ。
 万が一の事も考えて、こっちの魔法についても知っておいた方が良いでしょう」

言って再び本へと視線を戻す。恭也の隣ではクレアもこれまたこの世界の歴史に関して書かれた書物に集中している。
そんな三人を改めて見詰め、

「しかし、揺れる馬車の中でよく字を読めるでござるな」

と、妙な所に感心を見せるカエデ。
ベリオも同じ意見なのか頷き、更に感心したように美由希へと視線を転じる。

「クレア様も物凄い集中力ですが、美由希さんは本当に読書となると凄いですよね。
 前々から不思議に思っていたんですが、日常では偶にそのドジと言いますか、えっと……、
 時折、何もない所で転ばれたりする所が見受けられるのですが、どうして本を読みながら歩いている場合は転んだりしないのでしょう」

「美由希マスター程の達人ならば、それぐらい動作もないわ」

「代わりに電柱や看板といった障害物には前を見ていないのだから、当然の如くぶつかってはいるがな。
 寧ろ、達人なら日常で転ぶ方が不思議だ」

イムニティが我が事のように胸を張って自慢するのだが、続く恭也の言葉に口を閉ざし不機嫌な顔で恭也を睨む。
余計な事を言うな、と敵意すら込めて向けられる視線に、その間にリコが割って入って睨み返す。
荷台の中央で無言のまま睨み合う二人。
妙な緊迫感が二人の間に漂い始めようとしたその時、たった今までリコが居た恭也の隣へとちゃっかり移動したロベリアが、
疲れたように身体を横にして恭也の足を枕にする。

「疲れたから少し眠る。着いたら起こしてくれ」

用件だけ告げるとさっさと目を閉じ、騒ぎ立てる周囲の声を無視するように身体を横に向ける。
困ったようにロベリアに退くように言おうとするも、既に寝入ったように目を開けようともしないロベリアを見て諦める。

「主様、拙者も、拙者も」

「いいえ、その権利は私にこそ」

「えっと、えっと、恭也さん、良かったらわたしの膝を使いますか」

「人が勉強している時にアンタは何しているのよ。
 で、でも、まあ、そのままだと恭也も疲れるだろうし、少しぐらいなら足を枕として貸してあげても良いわよ」

カエデやリコが残る足に狙いを定めれば、未亜やリリィは逆に恭也に膝枕をしようと提案してくる。
何も口にはしないが、ベリオは困ったように恭也の膝を見詰め、その狙いはリコたちと変わらない。
喧嘩相手のいなくなったイムニティは肩を竦めたかと思うと、誰もこちらに注目していないのを何度も確認し、
静かに身体を横たわらせると、本に集中してこれらの騒ぎにまったく気付いていない美由希の足に頭を乗せる。
乗せる瞬間には流石に気付かれるかと思ったイムニティであったが、美由希は多少とは言え重みの加わった足に気付く事無く、
一度も本から目を離さない。それを見てほっと息を吐くと、喧騒をイムニティは満足げな表情を浮かべる。
そんなイムニティへと神が気紛れでも起こしたのか、足の重みに気付いたのか無意識に手を伸ばして美由希がイムニティの頭を撫でる。
偶に縁側で恭也の隣に座って本を読んでいる際、その膝に猫が乗ってくる事があるのだが、それ故の無意識の行いだろう。
何であれ、イムニティはその行為に珍しく頬を緩め、気持ち良さそうに目を閉じるのだった。
そんな和やかな主従を他所に、こちらでは未だに騒がしく言い争う声が飛び交う。
恭也の隣に座っているクレアにしてみれば、すぐ近くの騒動である。
流石にその騒々しさに次第に顔が歪んでいき、

「ええい、おぬし等何を騒いでおる。少しは静かに……って、何でそのような事になっておるのじゃ!?」

本から顔を上げて注意しようとしたのだが、すぐ隣の現状に疑問の方が先に来る。
恭也に膝枕されて眠っているロベリア。
恭也の前に座り、残る足に手を置き取り合うカエデとリコ、そしてベリオ。
逆に恭也の後ろに膝立ちとなってその頭に手を掛けて互いに自分の膝へと持って行こうと競うリリィと未亜。
クレアの感覚では少し本を読んでいる間に、結構余裕があったはずの荷台の中は、一箇所に集中して過密状態である。
しかもそこでそれぞれに騒いでいれば、確かに本を読む邪魔になるはずだ。
ならば、空いているスペースに行けば良いのだが、その過密状態となっている場所、つまりは恭也が絡んでいる以上はそうもいかない。
当然の如く本を閉じると、クレアは未だに争う者たちを尻目に隣に座っていたというアドヴァンテージを大いに活かす。
早い話、そのまま横になり恭也の空いていた足に頭を乗せたのだ。
一斉に悲鳴じみた声が上がるのもお構いなく、クレアは閉じていた本を再び開いて読書の戻る。
先程よりも素晴らしい環境での読書の嬉々とした様子さえ見せて。
勿論、こうなると残りの者たちも黙っていないのだが、講義しても絶対に聞く気などないのは分かりきっている。
となると、その足を狙っていた三人の標的は自然と二人で争っていたはずの頭部へと向かい……。

「お前ら、いい加減にしてくれ。この状態ではどうやっても横にはなれないからな」

それまでされるがままになっていた恭也がここに来て口を出してくる。
流石に五人がかりで頭を奪い合いなんてされては堪らない。
尤も今の状況も堪ったものではないのだが、そこは既に慣れというか。
自分で思って少し悲しくなる恭也であった。
ともあれ、恭也の言葉に表面上は大人しくなる未亜たちであったが、明らかに批難の視線が飛んでくる。
無言の圧力に何も言えず、恭也は誤魔化すように景色を見る振りをして前方へと視線を向け、更に顔を引き攣らせる。
それを見ていた未亜たちがその視線を追うと、そこには手綱を握ったまま顔だけを後ろに向け、満面の笑みを見せるルビナスがいた。
恭也たちがそちらを見ても、ルビナスは何も言わずに笑顔のままで全く動かない。

「ル、ルビナス、前を見ないと危なくないか」

「そう? 大丈夫でしょう。この子たち賢いみたいだし」

「そ、そうか。えっと、御者お疲れ様」

「ええ、本当に。誰もやってくれないから、私一人寂しく御者。
 なのに、皆は本当に楽しそうね。しかも、ロベリアや殿下に関してはもう本当に、ねぇ。
 このまま崖があったら、思わず手元が狂いそうなぐらい楽しくやってるわね」

笑顔なのに全く笑っていないルビナスに全員が引き攣る。
いや、本に集中しているクレアや寝ているロベリアは流石に気付いていないが。
リリィたちから何とかしてという助けを求める視線を感じるのだが、恭也としてもどうすれば良いのかなんて分からない。
結果として、こちらもやや引き摺りつつも笑顔を返すしかなく、無言のまま笑い合うという図式が生まれる。
このまま嫌な空気が続くのかと懸念し出す頃、不意にルビナスが表情を和らげて今までとは違う、本当の笑みを浮かべる。

「冗談よ。まあ、流石にちょっとイラっと来たのは本当だけれどね。
 それよりも、街に着いたらちゃんと付き合ってよ」

元より買い物は皆で一緒に繰り出しているのだし、その程度なら問題ないと恭也は頷く。そう、頷いてしまった。
再三の確認にしっかりと約束したのを見て、ルビナスはご機嫌な様子で前を向く。
その事にようやくほっと胸を撫で下ろした恭也へと、前を向いたルビナスの声が聞こえてくる。

「まずは下着から見ないといけないわね。恭也くんが付き合ってくれるって事だから、ちゃんと選んでもらわないとね♪」

本当に楽しそうに言われた言葉に恭也が慌てて喰い付くも、再三に渡る確認の上にしっかりと約束したと言われて言い返せない。
ならばとリリィたちの方へと矛先を変え、

「未亜たちは俺が一緒に下着売り場に行くと困るだろう」

その言葉に若干顔を赤らめつつ、その通りだと頷く。
それらの声を味方に再度ルビナスへと上申しようとするよりも早く、ルビナスがやけに大きな独り言を漏らす。

「恭也に選んでもらうって事は、恭也がその下着が私に似合うって判断したって事だものね。
 つまり、恭也の好みとも言えるわね。だとすれば、今後もそれを元に選べば、いざという時も外れはないものね。
 一時の恥を忍んで恭也の好みを知るか、一時の恥のためにいざという時に恭也の好みじゃない下着で挑むか」

「そ、そうね。元々、今日は店の場所なんかも分からないから、皆の買いたい物を順番に回る予定だったものね」

「リリィの言うとおりですね。ある意味、予定通りの行動でルビナスさんも機嫌を直してくるのですから」

「主様、頑張ってくだされ」

「勿論、私たちのも選んでくださいねマスター」

「う、うぅ、恥ずかしいけれど、お願いします」

ルビナスが独り言を漏らした後、恭也の味方は誰もいなくなってしまった。
最早、恭也は呆然とするしかなく、そのまま力尽きたとばかりに後ろへと倒れる。
が、そこにはリリィと未亜の二人が居て、二人の胸に抱かれるような形となってしまう。
慌てて起き上がろうとするも遅く、二人にがっちりと両側から押さえ込まれる。

「そういえば、完全に横にはなれなくても、こうしてもたれる事はできるんですよね」

「全く仕方ないわね。まあ、街に着いたら付き合ってもらうんだから、これぐらいはしてあげるわよ。
 感謝しなさいよね」

二人してそう口にするのだが、当然ながら残された三人は面白くない顔で見る。

「マスター、後ろに倒れる心配がないのですから、足を伸ばしてくつろいでください」

言いながら有無を言わさぬ力で恭也のあぐらを崩して足を伸ばさせる。
既に頭を乗せている二人の事などお構いなしなのだが、二人はそれぐらいではびくともしない。
いや、実際はクレアは本から視線を上げ、ロベリアも流石に目を覚ましたのだが退こうとしないのだ。
一方、リコの意図する事に気付いたカエデとベリオはリコを手伝い始める。
そうして伸ばされた両足に二人はそれぞれに位置取ると頭を乗せる。
カエデとベリオが左右の足に頭を置くのを見て、腿ならまだしもそこは固いだろうと言うのだが、二人は気にせず頭を乗せてくる。
リコは広げられた両足の間に入り込み、恭也の身体へとしな垂れ掛かる。
そこに気付かず羨ましそうな視線を向けてくるカエデとベリオに小さな笑みを向ける。
ともあれ、こうして恭也の包囲が完成したのである。
そして、当然ながらそこへ恨めしげな視線を向けてくる御者のルビナス。

「帰りは絶対に他の人に代わってもらうからね!」

だが、その宣言を聞いても誰が御者をするかで揉めるであろうとルビナス自身がよく分かっていた。
と、全員の視線がその場でこちらに一切関心を払っていなかった美由希へと向かい、思いが一致する。
こうして帰りの御者は美由希とイムニティになる。
このやり取りを知らない美由希は出来るか不安そうだったが、イムニティと一緒という事で引き受け、そして途中で後悔する事となる。
だが、それは帰り道でのお話。



ゼロの神殺しと救世主 第4話







ならないからね!

美姫 「まだ言ってるの?」

当然でしょうが。

美姫 「あー、はいはい」

何て投げやり!?

美姫 「それはそうとこのCMって」

うん、何気に続いたな。
考えてみれば、こんな感じで続いているCMが他にもあるな〜。

美姫 「しみじみと言われてもね」

しかし、今回は街でお買い物して武器屋に行く予定だったんだが。

美姫 「街にすら辿り着いていない」

まあ、CMだから丁度良いじゃないか。本編前という事で。

美姫 「どうなのかしら」

まあ、あくまでもネタだしな。
と、それはそうとさ。

美姫 「何?」

今日、花粉酷くないか。
いつにも増してくしゃみとかが酷いんだが。

美姫 「うーん、私は分からないわね」

ちっ、これだから健康な奴は――ぶべらっ!

美姫 「健康で文句を言われる覚えはないわ!」

た、確かに今のは俺が悪かった。
とは言え、ここまでやりますか!?

美姫 「私なら――」

やるな。

美姫 「そういう事よ」

う、うぅぅ、花粉症とは別の涙が……。

美姫 「いやいや、花粉症でしょう」

違うわい!
あまりの環境に涙したんだよ!

美姫 「だから、花粉が多い環境にでしょう」

うぅぅ。言葉って難しい。と言うか、都合の良い様に曲解してますよね!

美姫 「あ、時間だ」

って、えぇ! そこでそんな逸らし方!?

美姫 「でも、ほら」

いや、確かにそうですけれど。

美姫 「まあ、延長するのなら構わないわよ。なら、もう一本CM……」

ああ、もう時間がないや!

美姫 「はぁ、本当に操り易いわね」

はっはっは、照れるな〜。

美姫 「褒めてないからね」

がぁーん!

美姫 「いや、もう良いから。ほら、さっさと締めなさい」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月13日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、ハァ〜ズビズビドンドン、とお送り中!>



ズビズビ。ごんじゅうもばじまりまじだ。ズズズッ。

美姫 「って、先週と全く同じ入り方!?」

いや、ずびー、俺も、ずびー、好きで、ずびー、している、ずびー、訳じゃなく、ずぶべらっ!

美姫 「あまりの鬱陶しさに思わず手が出てしまったわ」

ずびずび、酷い奴だ。
と言いつつも、実にお前らしいと思ってしまう俺であったとさ。

美姫 「それは兎も角、先週よりも悪化してない?」

そりゃ、花粉のシーズンになりつつあるからな。
しかし、本当に憂鬱だよ。酷いときには頭痛までして何もできなくなるしな。

美姫 「それはいつもと大して変わらないんじゃ」

何気に酷いですね。

美姫 「本当の事じゃない」

否定はしない!

美姫 「って少しはしなさいよ。それと威張って言う事じゃないからね」

ぶべらっ!
ゆ、油断した……。まさか、ここで手が来るとは……。

美姫 「何よ、私らしいでしょう」

や、やっぱりさっきの言葉を根に持っていやがったな――ぶべらっ!
も、持ってましたね。って、律儀に言い直している場合か!
やめろよ〜。ただでさえ、花粉で涙が止まらないのに、お前に殴られて余計に涙がちょちょぎれる。

美姫 「意味がよく分からないわよ。それと、全然堪えているように見えないんだけれど」

人間とは実に恐ろしいぐらいに慣れる生き物だな。
って、やめい! だからと言って殴られて平気じゃないんだから――ぶべらっ!

美姫 「昔の人は言いました」

な、何て?

美姫 「口は災いの元」

む、昔の人は偉かったね……ガクッ。

美姫 「はいはい、死んだ振りなんて今更止めなさいよ〜」

うぅぅ、離せ、離してくれ〜。

美姫 「離しても良いけれど、その場合は部屋に杉の木を植えるわ」

何処に植える気だよ! というか、そこまで悪質な悪戯を!?

美姫 「冗談はさておき」

本当に冗談だろうな。というか、そうだと言ってください。

美姫 「今日は雨だからましじゃないの?」

って、ちゃんと堪えてから話題を変えて!

美姫 「はいはい、植えないわよ。で、どうなのよ」

いまいち軽すぎる返答の気もするが……。
まあ、とりあえず答えるなら、雨でも辛いっての!
他の人はどうかは知らないけれど、俺は雨の日でも少しましかも、程度だよ。

美姫 「きっと日ごろの行いが悪すぎるからね」

おいおい。冗談ばっかり言ってるんじゃないよ。
俺ほど徳の高い――。

美姫 「あ、そろそろ良い時間ね」

せ、せめて一言で良いから突っ込みを入れて! 放置は嫌ー!

美姫 「それじゃあ、CMにいってみよ〜」

いやー、本当に完全放置!?







この春、あいつらが帰ってくる?

「朝だってば、浩平。いい加減起きてよ」

「うぅぅ、起きる、起きるからあと五時間だけ頼むよ、長森」

「駄目に決まってるでしょう。って、何で裸で寝てるの」

布団を剥いだ瑞佳はパンツ一枚という格好の浩平に驚くよりも先に呆れる。
毎度毎度、こちらを驚かせようと無駄な努力をする浩平との付き合いも長く、瑞佳は慣れた様子で着替えを用意する。
乏しい反応に不平を零しつつ、浩平は差し出された服へと着替え、そこでぱたりと手を止める。

「なぁ、長森。今日って日曜日だったよな」

「そうだよ」

「……よし、寝る」

「わぁ、駄目だってば。今日は七瀬さんたちと約束があったでしょう」

「約束……? お、おおう、そういえばあったな」

「まさかとは思うけれど、忘れてた?」

「そんな訳ないじゃないか」

はっはっはとわざとらしく笑い声を上げる浩平に呆れた顔を見せる瑞佳へと、浩平は何故か偉そうに胸を張る。

「次にお前はこう言う。浩平にはしっかりしたお嫁さん見つけてもらわないと心配だよ。
 気の強い子がいいんじゃないかな、と」

浩平がそう言った途端、瑞佳は悲しげな顔を見せる。

「そんな事言わないよ。それとも、浩平はやっぱりそういう子がいいの」

「って、いつもの冗談だろう。そんな顔をするなっての」

「だって……」

「うっ、お、俺が悪かったから、ほら早くしないと時間がないんだろう。
 それに俺が戻ってくれたのはなが……瑞佳のお蔭なんだ。分かっているだろう」

珍しく必死になって瑞佳へと言葉を掛け続ける浩平に、瑞佳は耐え切れなくなったように笑い出す。
ここに至り、ようやくからかわれていたと分かった浩平が憮然とするも瑞佳は、

「いつもの仕返しだよ」

そう笑顔でのたまうのであった。



「名雪、いい加減に目を覚ませ!」

「うにゅ〜、もうお腹がいっぱいで食べれないよ〜。
 でもイチゴサンデーは別腹だから大丈夫なんだよ」

「いいから起きろ!」

「うにゅ〜。……あ、ゆ〜いち〜。おはよ〜」

「ああ、おはよう。目は覚めたな? 覚めたらとっとと着替えろ。
 香里たちと約束の時間までそんなにないんだから早くしろよ」

「着替える……」

「って、まだ俺が居るんだから脱ぐな! って、まだ寝ぼけているだろう、お前」

目の前でパジャマを脱ぎ出す名雪の腕を掴み、祐一はそれ以上脱ぎ出すのを止める。

「うぅ、祐一、意地悪だよ。これじゃあ、着替えられない」

「だから、着替えるのは俺が出てからにしろって。分かったか?」

「分かった〜」

言いながらも祐一が手を離すなり脱ぎ出す名雪の腕を慌ててまた掴む。
と、流石にここで目が覚めたのかパチクリと瞬きを数回繰り返し、自身の乱れた衣服へと視線を落とし、
再び視線が目の前で腕を押さえ込んでいる祐一へと向かうなり顔を赤くさせる。

「ゆ、ゆゆゆゆ祐一。ななな、何してるの」

「また分かりやすい反応をするな。誤解だというか、お前が自分で脱いだ……」

「うぅぅ、こんな朝からだなんて祐一、エッチだよ。で、でも、どうしてもって言うんなら」

「うっ、って違う! 確かにその提案は魅力的なんだが」

思わず名雪の言葉に心惹かれつつも首を激しく振って煩悩を追い払い、さっさと着替えさせようとしたその時、
少しだけ開いていた部屋の扉から家主にして名雪の母親である秋子が顔を出す。

「どうしたんですか、二人とも。騒がしいみたいですけれど」

そう口にして顔を出した秋子は部屋の二人を見ると、柔らかな笑みを一つ浮かべる。

「了承」

そのまま何も聞かずに扉を閉めて出て行く。
その秋子に向かって、祐一は誤解だと叫びながら今しがた閉められた扉を勢い良く開けるのだった。



「よし、今日の鍛錬はここまで!」

「あ、ありがとうございました!」

乱れた呼吸を整えつつ、美由希は恭也へと一礼するとその場に腰を落とす。
肩を上下させる美由希へとタオルとペットボトルを投げて渡してやると、自身もタオルで汗を拭う。

「大分、動きがよくなってきたな」

「本当!?」

「ああ。やっぱり去年の実戦経験がとても大きいな」

珍しく褒められて美由希は嬉しそうにしつつ、恭也の言葉からとある人物を連想して少しだけ考え込む。

「美沙斗さんなら大丈夫だ。この間、連絡があったんだろう」

「うん。今は香港警防隊に居るって」

安堵と嬉しさを僅かに含ませた顔で美由希は一度掛かってきた美沙斗の電話を思い出す。
そんな美由希を黙って見詰めながら、恭也は美沙斗を止めた時の美由希を思い出す。
本人は分かっていなかったようだが、あの時放たれた斬撃。あれは間違いなく奥義の極。
一瞬とはいえ、美由希はあの領域へと踏み込んだのだ。
尤もあれっきりでそれ以降は一度も放ててはいないが。
しみじみとその時の事を思い出し、恭也は弟子を誇らしげに見遣る。
まあ、それを口に出したりしないのは恭也らしいが。



それはいつも通りに始まった一日だった。
今日もまたいつものように過ぎていく日々になるはずの。
だが、異変は音もなく忍び寄り、気付いた時には既に世界中がその異変に巻き込まれていた。
ある場所では、突如として見覚えのない生物があちこちで姿を見せ人を襲い始める。
またある場所では、突然見たこともない街が出現する。
しかし、不思議な事に突如現れた街はそれまであった建物を押しのけて現れたのではなく、
まるで初めからそこに空きがあったかのように、元あった建物と建物の間に姿を見せていた。
当然の如く、街には人が住んでおり、その人たちも突然の出来事に驚いているようであった。
それだけに収まらず、異変はまだ続く。突如として世界へと向けて宣戦布告してきた魔王を名乗るもの。
そして、魔王から告げられたのは、二つの世界が融合したという事実であった。
だが、絶望ばかりでもなかった。
二つの世界が融合した際、どのような力が作用したのかは分からないが、可笑しな力に目覚める人々も出たのだ。
国連は直ちに魔王討伐軍を編成し、その可笑しな力に関しても研究を進めた。
兵器対魔法。圧倒的な火力を持つ人類に並みのモンスターでは歯が立たず、
このまま押し切れるかと思ったのも束の間、魔王に対してはその兵器さえも通じないという事実が浮かび上がる。
国連はこの事実を公表する事無く隠し、狂った世界により生まれた可笑しな力の研究に更なる力を注ぐ。
それこそが、二つの融合した世界の抑止力として生まれたものではないかと考えたのだ。
だが、その力は同時に国家間の軍事バランスをも崩しかねないものでもあり、
人類は魔王という共通の敵を前にしつつも、自国の益を捨て去る事は出来なかった。
こうして、国連による研究機関とは別に、各国独自の研究機関が生まれる事となるのであった。
僅か数年で、世界は混沌とした様相を見せる。



「恭ちゃん、魔王を倒しに行くの?」

「いや、それは誰かがやってくれるだろう。俺は俺の周りの人たちを守れればそれで良い」

「恭ちゃんらしいけれど、本当にそれで良いのかな」

「さあな。だが、元々あった国だけでなく新たに出現した国もあり、
 尤も向こうからすればこちらが出現したという事らしいが、兎も角、国が増えて余計に足並みを揃え難い状況だ。
 そんな中で俺たちが勝手に動く事もできまい」

「だよね。それに軍が動いても駄目なのに、私たちだけでどうにかできる訳ないか」

突然の事態に力を得つつも現状を維持するもの。



「おお、耕介見てみろよ。このアヴァターって能力は便利だな。
 自分と全く同じ能力を持つ分身を複数作り出せるとは。くっくっく、これで締め切りも怖くない」

「真雪さんが三人……」

「うーん、同じ能力って事は全員がさぼったりしてね」

「リスティ、それはどういう意味だ?」

「あ、あははは。耕介、後は頼む」

「って、頼むって何だリスティ!?」

手に入れた力を完全に趣味というか、自身のために使うもの。



「よし、七瀬。魔王を倒したら乙女だぞ」

「おっけー! 今すぐ倒してくるわ!
 って、行く訳ないでしょうが! 大体、どんな理屈よそれ!
 第一、魔王を倒した乙女って何なのよ!」

「何だよ、お前なら鼻歌混じりで魔王なんてダウンだろう」

「アンタね、私を何だと思ってるのよ!」

「うぎゃぁっ! お、お前、力を使って突っ込むなよ、危ない奴だな。長森もそう思うだろう」

「えっと……浩平が悪いよ」

「お、俺の味方がいないだと!?」

「そう言いながら、力を使って人のお下げを引っ張るな!」

「ぐえっ」

「ああ、浩平大丈夫!? えっと回復、回復」

得た力をただ日々の悪戯に使うもの。



「って、起きろよ名雪。眠りながら結界を張るってどんだけ器用なんだ。
 というか能力の無駄遣いだ!」

「すぅ〜、すぅ〜、んにゅ〜、祐一、スリッパは食べれないよ」

「って、どんな夢を見ているんだ! どんな状況で俺はそんなものを口にしている!?
 と言うか、さっさと起きろ!」

「んにゅ〜、駄目だよ祐一〜。靴下は別腹って、そもそも食べ物じゃないよ〜」

「だから、何をしているんだ夢の中の俺!?」

全く変わらない日々を過ごすもの。



様々な者たちが様々な思惑を持ち、世界は今日も存在し続ける。
だが、そんな事などお構いなく、魔王の侵攻は着々と進むのであった。

魔王と能力者







うーん、大分鼻も落ち着いたよ。

美姫 「それは良かったわね」

ああ。
しかし、リリカルなのはの四期か〜。

美姫 「驚きの情報よね」

うんうん。こうウズウズしてくるよな。

美姫 「何が?」

いや、まあ良いんですけれどね……。
まあ、それはさておき、春という事で番組改変の時期かな。

美姫 「何故、そんな話題に?」

うん、この番組も改……ぶべらっ!

美姫 「まだまだ終わらないわよ!」

だ、誰も終わるとは言ってないんだが。

美姫 「何だ、それならそうと早く言いなさいよ」

いや、言う暇あったか今!?

美姫 「それは良いから、改変って何をするのよ」

いや、何をしよう。

美姫 「何も考えてなかったのなら口にしないでよ!」

ぶべらっ!
うぅぅ、ただ口にしただけでこの仕打ちですか。

美姫 「いつもの事じゃない」

…………それもそうだな。
って、おいっ!

美姫 「そうだわ、CMを二本にしましょう」

って、無視の上に俺の苦労倍増!?

美姫 「うん、そうしましょう」

勘弁してください。

美姫 「これまた綺麗な土下座ね」

ふふん。土下座道百年。この道を極めし……って、誰がやねん!
だいたい土下座道ってなんやねん!

美姫 「おお、のり突っ込み」

はぁ、はぁ。思わず興奮してしまった。

美姫 「はいはい、いい子だから落ち着こうね〜」

小さい子に言い聞かせるみたいなのはやめて。

美姫 「はいはい」

ちっくしょう、覚えてろよー!
って、逃げる訳にもいかないのに捨て台詞を吐いてしまったんですがどうしましょう。

美姫 「選択肢をあげるわ。
    1.無視される
    2.突っ込みと言う名の殴打を喰らう
    3.さっきの言葉を真に受けた私にボロボロにされる
    因みにお奨めは3番よ」

いや、もう全力で遠慮するに決まっている選択だよな、3番は。
ここまで来たら、1番で無視される方が良い。

美姫 「うん、分かったわ。2番ね」

選んでねぇ!

美姫 「ぶっ飛べー!」

ぶべらぼげぇっ! オゥノゥ〜〜!!

美姫 「さて、これでさっきの事はなかった事になったわね」

う、うぅぅ。俺の身体に痛みを残してますが……。

美姫 「とっても些細な事よ」

シクシク。

美姫 「あ、そろそろ時間よ」

そうだな。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月6日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、さ〜くら〜♪にはまだちょっと早い、とお届け中!>



ズビズビ。ごんじゅうもばじまりまじだ。ズズズッ。

美姫 「いや、もう何を言っているのか分からないから」

チーン。ふぅ、日々、寒い日が続きつつも徐々に暖かくなってきました。
それに比例するかのように、俺の鼻と目、喉も酷く。ぶえっくしょん!
ズビズビ、喉カイカイ、目もカイカイ。うぅ、目が腫れたような感じで気持ち悪い。
喉もカラカラ、鼻は詰まる。いや、本当に春なんて! と叫びたいぐらいだ。

美姫 「春と聞いて、そこまで鬱になるのも珍しいんじゃないかしら」

そうでもないと思うけれど……。
うぅぅ、鼻の奥がむずむず。うがぁぁぁぁぁっ!

美姫 「急に叫ぶな!」

ぶべらっ!
な、何をする。今の数千万人の花粉症に苦しむ人を代表した叫び――ぶべらっ!

美姫 「うるさい。数千万いるかどうかは兎も角、アンタに代表して欲しいと思う人なんていないわよ」

うぅぅ、花粉症の苦しみプラス美姫の暴力。
目、鼻、喉に身体とぼろぼろだよ。おまけに言葉の刃で心もボロボロ。

美姫 「そんなに繊細じゃないでしょうに。うりうり〜」

や〜め〜て〜。拳骨で頭を両側から圧迫するのはや〜め〜て〜。
と言うか、お前のは明らかに力加減が可笑しいから!
割れる、割れる!

美姫 「これぐらいで大げさな。本当に貧弱……あ」

ちょっ! なに、今のあ、は!?
明らかに力加減間違えた、って感じなんですけれど!?

美姫 「てへへ、力加減間違えちゃった」

いやいや、そんな可愛らしく言われても!
って言うか、何が起こっているの!?

美姫 「大した事じゃないわよ。ちょ〜っとアンタの頭が割れただけ」

な〜んだ、って充分大した事だよ!
うぅぅ、どうするんだよ〜。

美姫 「冗談に決まっているでしょうが。第一、自分で分からないってのはどうなのよ」

いや、どうとぁ言われてもだな。
絶えずお前が力を込めている所為で痛みを感じたままの状態なんだぞ。
そんなの分かるか!

美姫 「もう耳元で騒がないでよ!」

ぶべらっ!
い、今のは絶対に俺の方が正しいよね……。

美姫 「もう何度も言っているけれど、ここでは私が正義なのよ!」

お、俺も何度も言っていると思うけれど……。

美姫 「アンタの発言を許可した覚えはないわ!」

ぶべらっ! なんでやねーーんっ!
飛んでる、飛んでるぜ〜!

美姫 「浩がネタ的な台詞を吐きながら吹っ飛んでいる間に、CMいってみよ〜」







「……んん。もう、朝か」

目覚めの良い恭也にしては珍しく、すぐに起きだせずにいた。
それもそのはずで、昨夜は鍛錬から帰り、美由希の後にシャワーを浴びたのが一時過ぎ。
その後、今日提出しなければならない課題を思い出し、寝たのはほんの二、三時間前なのだ。
これが鍛錬などであった場合はまた違うのだろうが、学業を遅くまでしていたというのが悪かったのかもしれない。
などと、大よそ学生の言葉とは思えないような事を思いつつ目を開ける。
まだまだ日中は暖かな日もあるが、やはり秋も深まり朝夕はそれなりに冷える。
その空気の冷たさで目をはっきりさせようと布団を跳ね除け、胸一杯に息を吸い込む。
と、その鼻腔に普段の恭也の部屋からは決して匂わない、甘さの混じった香が漂う。
訝しげにもう一度鼻をひくつかせてみるが、どうやら間違いではないようだった。
同時に、布団を跳ね除けたにしては温かい。
今更ながら、恭也は右腕に柔らかな感触があるのに気付き、顔を横へと向ける。

「#$%A$Y!」

恭也は声に鳴らない声を上げそうになり、それを押さえ込む。
いや、実際には驚きのあまり声などは出ていなかったのだから、取り越し苦労というものだったのだが。
ともあれ、恭也は隣を見て目をぱちくりさせる。
そんな恭也の動きに気付いたのか、恭也の隣りがもぞもぞと動く。

「ん、もう朝か。しかし、そなたは早いのだな」

「…………」

恭也は無言で横を、正確には隣り、それも同じ布団で眠る女性をじっと見詰め続ける。
恭也の右腕に抱きついて眠っていた女性は、じっと見詰められて頬を紅くする。

「そんなに見詰めるでない。流石に、照れる」

見詰められて恥らいながら女性は寝巻きとして着ていた和服の襟元を正すため手を差し入れて整える。
そんな仕草の一つ一つに気品が漂い、思わずその美しさに見惚れつつも、恭也は現状が全く理解できていない。
女性が襟元を正す際、右腕に触れていた柔らかな感触もムニュムニュト動き、
それが余計に拍車を掛け、恭也の頭の中は真っ白になる。
そんな思考の片隅で、恭也は前にも似たような事があったような気がした。
あの時もこんな感じで目が覚め、隣に見たこともないはずの目の前の女性が眠っており……。
そう思って改めて目の前の女性を見れば、以前に会った事があるような気もしてくる。
だが、実際にそんな過去などあったはずはなく、目の前の女性とも初対面のはずである。
これが既視感かと一人納得する間も女性を見詰めていたらしく、女性の顔は先程よりも赤く熟していた。
それに気付き、改めて今の状況を思い出して恭也は身体を起こす。
こちらも若干顔を赤くして、とりあえずは説明を求めようと口を開くのだが、
それを邪魔するかのように第三者の声が割って入ってくる。
だが、それは恭也が危惧する美由希のものではなく、恭也のすぐ隣、共に眠っていたらしい女性との間からであった。

「ん〜、まだ眠い……」

言葉の通り、半分閉ざされた眼を手で擦り、見た目4、5歳の少女がもぞもぞと身体を蠢かす。
どうやら布団に潜っていたらしく、恭也が起き上がって掛け布団が捲くれ上がったために、
ようやく発見できたといった感じである。
その少女を見下ろし、恭也はこの少女も女性の連れかとそちらを見れば、女性の方も驚いたような顔をしていた。

「……あー、とりあえず現状の説明を願いたいのだが」

「ああ、私としてもこの子が何なのか聞きたいから丁度良い」

何故か挑むような目付きで睨んでくる女性に若干たじろぎつつ、恭也は今更ながらと自己紹介しようとする。
しかしそれは必要なく、恭也が口を開くよりも先に女性の方が話し始めていた。

「恭也、共に過ごせる事を嬉しく思うぞ。
 昨夜は隣にそなたを感じられてこれ以上の幸福はない。
 恭也の母君に少し無理を言った甲斐があったというものだ」

「…………」

女性の言葉に恭也の脳裏には嬉々としてあっさりと家へと上げた母親の姿が思い浮かぶ。
思わず頭を押さえそうになるのを堪え、恭也は女性へと初歩的な質問をぶつける。
それはすなわち、

「所で貴女は誰ですか?」

「うん? 私の名は御剣冥夜。そなたとは絶対運命という固い絆で結ばれている」

質問に答えているとも言い難い答えに恭也は何とも言えない顔をするも、何か引っ掛かるのか考える素振りを見せる。
と、その視線が壁に立てかけられた刀へと向かう。
瞬間、恭也は目の前の冥夜と名乗った女性の顔を凝視するように見詰め、
照れる冥夜に構わずそれこそ穴が開かんばかりに見詰め続け、やがてその口からゆっくりと言葉が零れ落ちる。

「まさか、冥夜……?」

「覚えているのか!?」

恭也の言葉に冥夜は先程までの落ち着いた雰囲気とは打って変わり、切羽詰ったような様子で問い詰めてくる。
対する恭也は近付いてきた顔から視線を逸らさず、逆に急に思い出すかのように脳裏に浮かぶ映像を口にする。

「昔、父さんと寄った街の一つで公園に居た女の子。
 砂場で一緒に遊んだりしたあの冥夜だよな」

「そうだ、その通りだ。他には……いや、気にしないでくれ」

何か言いかけた冥夜であったが、急に口を閉ざす。
だが、その不審さに気付かず、正確にはそれどころではなく、恭也は次々と思い出してくる記憶を知らず口にする。

「そうだ。それでまた再会する約束をしたんだったな。
 思えば懐かしいな。そういえばあの時、再会したら……ま、まあ、久しぶりだな」

急に顔を赤らめて言葉を濁す恭也を見て、冥夜は恭也へと更に詰め寄り先程よりも切羽詰まったように続きを促す。
だが、恭也は恥ずかしくてそれを口にするのが躊躇われ、冥夜の手から逃れようとする。
それを逃がさないとばかりに恭也の襟元を掴み、触れんばかりの距離まで顔を近づけて真剣な面持ちで言葉を待つ。
仕方なく、恭也は諦めたように恥ずかしそうに続きを口にする。結婚の約束をしたことを。
それを聞いた瞬間、冥夜の目から涙がハラハラと零れ落ち、恭也は慌てて手で涙を拭う。

「すまなかった。小さな頃の約束とは言え、冥……御剣さんに嫌な思いをさせたみたいで」

冥夜が無理矢理聞き出した事であったはずなのだが、恭也は謝罪を口にする。
だが、恭也の考えとは逆に冥夜は恭也へと抱きつき、その胸の中で更に泣き始める。
泣き続ける冥夜をどうしたものかと困った感じで手を宙にさ迷わせていた恭也であったが、
おずおずと背中へと手を回し、慰めるようにそっと優しく撫でてやる。
その恭也の耳に泣きながら話す冥夜の声が聞こえてくる。

「め、冥夜で良い。わ、私はそなたが約束を覚えていてくれた事が嬉しいんだ。
 あ、謝るでない。そなたとの約束がどれほど私の支えになった事か……」

泣きながらそう語るとまた声を押し殺すように泣き出す。
冥夜の言葉に多少の安堵を覚えるものの、状況的に改善されたとは言い難いこの事態に恭也はどうする事も出来ず、
ただ冥夜が泣き止むのを待つ事にするのだった。

「……すまなかった」

「いや、気にするな」

ようやく泣き止んだ冥夜を前にして、恭也はまだ残る問題である少女を見る。
どうやら、冥夜が泣いている間に目を覚ましたらしく、こちらをじっと見詰めている。
それに気付き、冥夜はばつが悪そうな顔をしつつ、完全に忘れていた少女の存在を思い出して恭也へと問い掛けるのだが、

「とおさま〜!」

そう言って恭也へと飛びついた少女の言葉に二人とも声を無くす。

「……っ! きょ、恭也、そ、そなたこ、ここ子供が……」

「いや、ちょっと待て! し、知らない!」

慌て混乱する二人を他所に、少女は恭也の袖をぎゅっと握り締め、泣き笑いの表情を見せる。

「とおさま、やっと会えた。かあさまが言った通り、会いに来てくれたの?」

少女は明らかに勘違いではなく恭也を父親として見ている様で、それが二人にもよく分かった。
とは言え、恭也の方は身に覚えはなく、冥夜の方はそんな恭也へと鋭い視線を向ける。
その視線にたじろぎつつも、恭也は無実を証明するべく少女へと話しかける。

「えっと名前は何て言うのかな?」

「小夜、高町小夜」

はっきりとそう告げた少女の言葉に冥夜の視線が更にきつくなる。

「恭也、あまり言いたくはないが嘘は良くないぞ。
 例えそなたの過去がどのようなものでも私の想いは変わらぬ。
 勿論、既にそういう女人が居ると言うのなら、諦めも……」

まるでこの世の終わりとでも言わんばかりに落ち込んだ表情で語る冥夜へと小夜が近付き、心配そうに見上げる。

「かあさま、どうしたの?」

その言葉に今度は冥夜が動きを止め、恭也が何か問いたそうな顔になる。

「ち、違う。私はそなた以外などと。そもそも、私はまだそういった事は、って何を言わせる!」

真っ赤になってポカポカと叩いてくる冥夜の腕を掴み、とりあえずは落ち着かせる。
その過程で冥夜がここに来た理由や、恭也が幼い頃の約束を覚えていなかった場合の事を知る事となるが、
そこから分かったのは、それが事実なら冥夜の子供ではないだろうという事ぐらい。
かと言って、恭也にも覚えなどないのだ。
共に困惑するのを他所に、小夜と名乗った少女は嬉しそうに恭也と冥夜の手を握り締めてくる。

「小夜、もう少し詳しい事を話してくれるかな?
 どうして俺が父さんなのかな?」

「かあさまから写真を見せてもらったの。
 とおさまとおかあさま、それと美由希さんたちと一緒に写っている写真」

「……美由希まで知っているのか」

「うん。他にも白銀さんや鑑さん、榊さんっていう人たちも写ってた」

「そこまで。えっと、それじゃあ、どうして俺が会いに来たって?」

「かあさまが言っての。とおさまはわたしたち皆を守るために戦っているからすぐには会えないって。
 でも、いつか会いに来てくれるからって」

小夜の言葉に頷きつつ、恭也は冥夜を見る。
冥夜の方はやはり身に覚えなどなく、ただ首を横に振るのみである。

「だが、可笑しな話だ。俺と冥夜は初めて会った訳ではないとはいえ、再会したのは今日。
 当然、武たちとは会った事などないだろう」

「ああ。恭也の友人だろうと推測はできるが」

「それなのに、俺たちの今の年ぐらいの写真、しかも武たちまで一緒に写っているなど」

困り果てる二人へと遠慮がちの声が部屋の隅から掛かる。

「恐れながら冥夜様、恭也様」

「月詠か」

「はっ。恭也様にはお初にお目に掛かります。私、月詠真那と申します。
 冥夜様に仕える侍従でございます。以後、お見知りおきを」

そう断ると真那は小夜に一言断り、髪の毛を抜き取る。
同じように恭也と冥夜の髪を取ると、

「私はこれからDNA鑑定をしてまいります。
 手筈の方は既に連絡をしておりますので、すぐに結果が出ると思います。
 では、これにて失礼させて頂きます」

言うなり真那の姿が掻き消える。
それを呆然と見送った恭也であったが、結局は現状の打開策は何もなく、放置されたのと変わらないと気付く。
困ったように顔を見合わせる二人に気付かず、小夜は本人曰くやっと会えたとおさまの存在に嬉しそうである。
そんな様子を見て、冥夜の頬も綻ぶ。
知らず小夜をあやすように髪を撫でてやれば、目を細めて冥夜に抱き付く。

「何とも可愛いな」

「そうだな」

恭也もつられるように頬を緩めるのだが、ようやく時間を気にする余裕が生まれてくる。
時計を見れば、既に鍛錬の時間はとうに過ぎており、恭也ははてと首を傾げる。
ここまで遅くなれば、美由希辺りが部屋にまで来ても可笑しくはないのだがと。
だが、来ないものは仕方ない。
現状、流石に鍛錬に出て行けるような状況ではなく、恭也はこれ幸いと今日は鍛錬休みとしてしまう。
その分、放課後をと鍛錬メニューの変更を考えながら。
一方、件の美由希はと言うと……。

「んぐー! ふんふんぐぅー!」

猿轡に加え、手足を何重にもロープで縛られた状態で部屋のベッドの上に転がっていたりする。
一体誰の仕業なのか、それはやった本人だけだろう尤も話を聞けば、冥夜にも分かるかもしれないが。
ともあれ、そんな訳で美由希は流石に起きてくるのが遅いと思った晶が部屋を訪れるまで誰にも気付かれる事もなく、
ベッドの上で縛られたまま転がされているのだった。



朝食の準備を始めているレンへと二人分多めに頼み、恭也はもう一度部屋へと戻る。
その途中、晶と出会い美由希はと聞かれたのでまだ起きていないと答えると、
晶が様子を見てくると言って美由希の部屋へと向かう。
それを見送り、手間が省けたと自室へと引き上げる。
一応、ノックをすれば着替えを終えた冥夜からの返答が返って来る。

「小夜の着替えは……あるわけないか」

「ああ。とりあえずはこの格好のままでいてもらうしかないな。
 月詠がいればすぐにでも用意させれたのだが」

二人がそんな会話をしていると、小夜は珍しそうにきょろきょろと周囲を見渡している。

「どうした、小夜」

「ここは何処? 見たことないものがいっぱい」

恐らくは元々居た場所とは違うのだろうと分かり、恭也は小夜が尋ねてくるものを説明してやる。
いつの間にか手を繋いできているのだが、流石にそれを振りほどくような事はせずにリビングへと向かう。
そこで新聞を読んでいた桃子が顔を上げて挨拶をしてくる。
やっぱり冥夜とは昨日に顔を会わせていたのか、その顔は悪戯が成功したような顔をしており、
恭也の反応を楽しそうに窺っている。そんな桃子へと呆れたように肩を竦める恭也の隣で、小夜がまた興味を示す。

「とおさま、あれは何ですか?」

「ああ、あれは……」

「……とおさま?」

「かあさま、あれは?」

「あれか、あれは……恭也、あれは何だ?」

「……かあさま?」

三人のやり取りに桃子が呆然を通り越し、信じられないものを見る目で恭也と冥夜を見詰め、
次いで二人の間にいる小夜を見遣る。

「きょ、恭也、アンタ奥手かと思っていたのに、やる事はやってるのね。
 まあ、幾ら枯れていると言っても冥夜さんほどの美人さんが寝所に忍び込んでいれば仕方ないわね。
 でも、子供は幾らなんでも早すぎじゃない?
 勿論、桃子さんとしては嬉しいだけれど、向こうのご両親に何て言えば……。
 って、その前に一晩で出来るものなの!? と言うか、その子いくつよ!?
 え、え、そりゃあ、非常識な出来事があるのも知っているし、
 うちの子たちも少々変わっているのは分かっていたけれど、幾らなんでも一晩で子供って!?」

軽く混乱している桃子を落ち着かせるべく恭也が説明しようとする前に、晶がリビングへとやって来る。
桃子が騒いでいたのでこちらへと顔を出し、同じく困惑していたレンが条件反射のように文句を言う。

「おサル、朝から騒がしいな! そんなに元気が有り余ってるんなら、そこら辺の木にでも登っとれ!」

「うるせぇ、カメ! って、それ所じゃないんだよ」

いつものように言い返してこず、慌てる晶の様子からレンもただ事ではないと察したのか、改めて晶へと向き合う。

「師匠! 美由希ちゃんが部屋の中で縛られていたんです」

「恭ちゃん、侵入者がって知らない人が居る!」

「落ち着いて、美由希ちゃん。侵入者が居るんだから、知らない人が居るのは不思議じゃないって。
 きっと師匠が捕まえてくれたんですよ」

「その割には何か仲良さそうなんだけれど」

「それよりも恭也、どうやって一晩で子供なんてどうやって」

「子供? 子供ってなに!? って、今のかーさんの台詞だと、恭ちゃんの子供って事なの!?」

「落ち着いて美由希ちゃん。うちもよく分からんのですが、何やお師匠とそちらの人との間の子供みたいで」

「って、あの人は侵入者じゃないのか? だとしたら、侵入者がまだ居るって事か?
 師匠、なのちゃんがいませんよ」

「おサルの言う事が正しいのなら、なのはちゃんの安全を確認せな。
 この阿呆! まっさきになのはちゃんの部屋を見てこんかい!」

「うるせぇ、俺だって慌ててたんだよ!」

「侵入者って何、晶ちゃん。美由希が拘束されてたって、なのはは!?」

「かーさん、恭ちゃんの子供って、って、なのは! 私なのはの部屋を見てくるから、かーさんはここにいて」

「えっと、おはよう。朝から何騒いでいるの?」

出て行こうとした美由希の正面から、なのはが困惑したように挨拶をしてくる。
なのはの無事を確かめ、抱き付く美由希に更に困惑した顔を向けるが、当の美由希は良かったと繰り返すだけ。

「えっと、晶ちゃん何があったの?」

「いや、何者かが侵入して美由希ちゃんを拘束していたんだ」

「え、でもそれならお兄ちゃんが気付くんじゃ?
 それにお姉ちゃんに気付かれずに拘束できる人って……」

「恭ちゃんの仕業なの!? 緊縛プレイ!? そんなマニアックな!」

「あ、師匠の悪戯だったんですか」

「いや、それはないんじゃないかな。ほら、恭也は昨日は子供をほら……」

「子供? あ、誰か来てるの? お客さん?」

「いや、それがお師匠の子供らしくて」

「えっ! お兄ちゃんの子供? え、結婚、の前に相手がいないのに?」

「恭ちゃん、とうとう人間を止めて性別まで飛び越えたんだね」

「そんな訳ないでしょう。ほら、そこに居る冥夜さんが母親で……」

「わぁ、綺麗な人」

「せやけど、一晩で子供って。しかも見た所、結構大きいですよ?」

最早収集が着かない混沌としたリビングを暫く黙って見ていた恭也――無論、
それぞれに対する報復なども考え済み――であったが、大きく手を鳴らす。

「とりあえず、説明をさせろ」

少し怒気を含んだ恭也の言葉に一斉に静かになる一同を見渡し、恭也は起きてからの事を説明する。

「で、だ。美由希が拘束された事については俺も知らなかった。
 とは言え、現在家に誰かが居るという気配もないが……」

美由希に気付かれず、いや、恭也さえ侵入者に気付かなかった事を考え、深刻な表情を見せる。
だが、その疑問を解くように冥夜がそれは真那の仕業だろうと告げると、その場に何とも言えない空気が流れる。
気を取り直し、寧ろ、被害者が美由希のみ、それもどこも怪我をしていないという状況から、
恭也はそれをなかった事としてレンに朝食をせがむ。
その言葉に一同も席へと着く中、美由希は一人涙を流すのだが、それを気遣ってくれる者もいなかった。



「冥夜様、恭也様。DNA鑑定の結果が出ました。
 DNA鑑定の結果、間違いなくお二人の子供でございます」

中々に衝撃的な転入の挨拶を終え、無事に午前の授業も終えて早々、
教室内までやって来た真那が更なる衝撃的な発言をする。
傍で聞き耳を立てていた武や忍などは物凄く事情を聞きたそうな顔を見せているのだが、
当の二人は告げられた真実に困惑顔を隠せないでいた。

「それでは、あの小夜が未来から来たとでも言うのか月詠」

「それは……」

「いや、すまない。そなたに言っても仕様のない事であったな。許せ」

「いえ、気になさらず。ただ、そう考える他ないのも事実です。
 所で、恭也様の方はあまり驚かれていませんね」

「ええ、まあ。何と言いますか、こういった非現実的な事には色々と縁がありまして、
 そのお蔭か耐性のようなものが出来たみたいですね」

言って苦笑を見せる恭也であるが、偶々それを聞いていた夕呼が次の授業で量子理論を展開し、
訳が分からずに困惑する恭也へと、時間は愚か異世界さえも超えられると話し出す。
話半分に聞いていた恭也であったが、冥夜の方は全部とは言わないまでも少しは理解したらしく感心していた。
何よりも、小夜が未来から来たにせよ、恭也と自分の娘なのだ。
これが冥夜にとっては一番大事なことであり、それに満足そうに頷くのであった。

muv-heart ALTERED FABLE







うーん、ネタを出してから思ったんだが。

美姫 「CM前の状況関係なく始めるわね」

CM中に無事に不時着しましたからね!
と言うか、吹っ飛ばした本人が言うな!

美姫 「はいはい、それで何を思ったの? 二週続けてマブラヴネタしてしまったとか?」

いや、そうじゃなくて、また子供ネタしてしまったと。

美姫 「ああ。ママは小学二年生やってるもんね」

うむ。やり終わってから気付いてしまったよ。
まあ、あれとは違う展開だし、一発ネタとして笑って許してもらおう、うん。

美姫 「いや、本当にバカだわ、アンタ」

うぅぅ、すみません。
しかも、更に時間が……ぶべらっ!

美姫 「いや、本当に何処までバカなのよ!」

ごめんなさい、ごめんなさい。

美姫 「はぁぁっ! 消し炭となれ!」

あじゃばばばっ! あつっ! いや、燃え……。
パリは、じゃなくて、俺は燃えているか!? って、やめ……ぶべらっ!

美姫 「感謝しなさいよ、消火してあげたんだから」

う、うぅぅ。もうボロボロです。

美姫 「良いから、さっさと締めなさいよ」

へいへい。さて、それじゃあ――ぶべらっ! な、何故?

美姫 「いや、何かあっさりと立ち上がられたからつい」

や、やめてよね! 俺のHPはもう0よ!

美姫 「じゃあ、倒れてなさいよね!」

ぶべらっ! や、やめて、俺のHPはもう1よ!

美姫 「じゃあ、止めを」

じゃあ、どないせいと!?

美姫 「と、アンタのバカに付き合ってたら時間が幾らあっても足りないわ」

ひ、酷い……。

美姫 「良いから、さっさとしなさい!」

ハイ!
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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