戯言/雑記




2009年9月〜10月

10月30日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、上空からお送り中!>



って、何で初っ端から俺は吹っ飛ばされているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぷぺしっ!

美姫 「うん、綺麗な放物線だったわ」

うぅぅ、始まったばかりなのに、既に体中が悲鳴を上げている……。

美姫 「先週、アンタが変わった事をってやったでしょう。だから、今週は私の番って訳よ」

単に先週分のお仕置きにしか思えないんだが。

美姫 「失礼ね。少し変わった放送じゃない。初めてじゃないかしら、空中からの中継って」

中継でも何でもなかったけれどな。

美姫 「さて、気を取り直して、今週もやるわよ〜」

って、簡単に流すなよ!

美姫 「それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」

……無視は、無視はやめて。







何の因果か悪戯か。
それとも辿り着けない武が悪いのか……。
何の話かと言うと……。

「……またあの日か」

ベッドの上で身を起こすのは、まだ二十歳にもなっていない青年、白銀武である。
既に何度もループを繰り返し、既に数えるのにも飽きてきた。
慣れた様子で制服に着替え、やや疲れた溜め息を吐き出して武は部屋を出て行く。
夕呼が提唱したオルタネイティヴ4。
それを成功させようと前回の記憶を得た武は色々と奔走したのだが、結果として未だに成功には至らず。
計画が5へと移行した後に戦場で死ぬ度に、再び全ての始まりである日に戻ってくる。
死ぬ直後の記憶がないのがせめてもの救いかと自虐的な笑みを見せ、それでも横浜基地へと向かうのだった。



幾度となく繰り返されるループ。
その果てしない繰り返しは武に経験を積ませ、数十回目のループでようやくハイブの攻略に成功する。
ただし、それは夕呼が提唱した計画によるものではなかったが。
こうして更に十数回とループを繰り返し、遂に武はオリジナルハイブの破壊に成功する。
その後、順調に幾つものハイブの破壊も成功し、地球の半分以上を奪還することもできた。
この時、既に高齢となっていた武は軍を引退し、静かな晩年を過ごした。
こうして、初めて戦死ではなく自然死を迎える事ができ、武はこれで全てが終わったと思ったのだが。
この世界の神様はやはりそんなに優しくはないようで、気が付けば武は始まりの日に戻されていた。

「さてさて、どうしたもんだろうか。とりあえずは香月博士の所へ行くとするかの」

外見に似合わない仕草で腰をトントンと叩きつつベッドから起き上がると、武は制服に袖を通す。

「おお、腰が曲がっていないのぉ。どれどれ、おお、やはり若返っておるのか」

鏡を覗き、自身の姿を確認すると武は急に軽くなった身体に戸惑うようにゆっくりとした足取りで部屋を出て行く。

「しかし、ループしておったのだから精神的には年を取っておったはずなのに、当時は普通じゃったよな。
 やっぱり、一度ちゃんと年を取ったのが原因なのかのぉ」

手を顎へと伸ばし、そこに掴む髭がないと分かると少し手持ち無沙汰に指を弄びながら呟く。

「それにしても、若い体というのは良いのぉ。軽くなったようじゃ」

廃墟と化した外で屈伸を繰り返し、嬉しそうにそう言うと武は再び横浜基地を目指す。

「いい加減、ループも解決してもらわねばな。
 やはり、香月博士の計画を成功させて、香月博士に考える余裕を持ってもらわないといけないか」

自身に関するループ現象。
これを解決できるのは、やはり香月夕呼しか思い浮かばず、武は今度こそ計画を成功させようと意気込む。
が、具体的に何をすれば良いのか。それを考えていると、ようやく眼前に懐かしい光景が飛び込んでくる。

「おうおう、こんなんじゃった、こんなんじゃった」

顔を綻ばし、懐かしみながら近付いてくる武に門番二人が静止するように声を掛ける。
そんな二人の言葉に足を止め、武は夕呼の呼び出しを頼む。
が、当然ながら身元不明の相手の要求に応じる事など出来ず、門番は銃を武に向ける。
銃を向けられながらも平然とした態度のまま、武はゆっくりと口を開く。

「確か、香月博士に関する事は全て報告するように言われておったんじゃないのか?
 そうなっていると聞いておったんじゃがのぉ。全く近頃の若いもんは年寄りを敬う事もせんとは」

腕を後ろに捻り上げられ、顔を顰めつつ言う武の言葉に門番たちは揃って顔を見合わせる。
明らかに自分よりも年下にそんな事を言われてば、怪訝に思うものだ。
が、武が言った事は事実で、門番の一人が確認するように夕呼へと連絡を入れる。
その門番へと幾つか夕呼が興味を持つ単語を教え、それを伝えてもらう。
こうして、武は既に馴染みとなった検査を受け、これまた何度となく繰り返した夕呼との初対面を迎えるのだった。



「で、アンタ誰?」

「おうおう、これまた若いのぉ。しかし、幾らなんでも性急すぎやせんか夕呼ちゃん」

「アンタ、死ぬ?」

強張った表情で銃を向けてくる夕呼を前に、しかし武は平然とした様子で侘びを入れる。

「いやー、すまん、すまん。何せ、孫のように可愛がっておった者たちとさほど変わらぬ外見じゃったからな」

「孫?」

怪訝に眉を若干顰めつつも、夕呼は本題を思い出して問いかける。
それは武が門番へと伝えた言葉に関する事であり、返答次第では撃つとその目が雄弁に語っている。
武は小さな笑みを一つ浮かべると、自分の体験した事を語りだす。

「……それを信じろと?」

「じゃが、夕呼ちゃんにはわしの話が本当じゃと証明できるんじゃろう。
 確か、何だったかの。年を取った所為か、ちょっと忘れてしまったが、ほら、なんとかという理論じゃ」

「……その何とかっては何よ。と言いたい所だけれど、まあ良いわ。確かに可笑しな話でもないものね」

夕呼は少し考えた後、パソコンを操作する。
恐らくは隣の部屋にでも居る霞へと確認でもしているのだろう。
その事を言えば、夕呼は特に何も言わず肩を竦める。

「良いわ、とりあえずは信じてあげましょう。で、白銀はどうして欲しいのかしら」

「まずは何と言っても夕呼ちゃんの……」

「その呼び方、いい加減にしないと本当に撃つわよ」

ぎろりと言い表せるぐらいに迫力ある顔で言われても、武としては困ったように笑うしかできない。

「すまんのぉ。特に意識しておる訳でもないんじゃが……。まあ、気を付けるようにはするが大目に見てくれ」

「はぁ、本当にやりにくいわ。
 外見や声は兎も角、目を閉じていれば確かにお爺ちゃんと話していると言っても納得してしまいそうよ」

小さく嘆息すると夕呼はそんなくだらない事はどうでも良いとばかりに、今後の対策について口にする。
こうして、武も既に何度目か覚えていないループが今、また始まる。



マブラヴ 〜爺さん武の奮闘記〜







うぅぅ、無視は、無視だけは……。

美姫 「さて、CMも終わった事だし、珍しいパターンを試行錯誤している月の最後という事もあるし、
    ここで終わってみるのも一興ね」

お、おーい、流石にここまで無視するのは酷いと思うのですよ?

美姫 「それじゃあ、今週はこの辺で」

って、無視の上に俺の台詞まで!?
こうなったら、俺もお前の台詞を奪ってやる――ぶべらっ!

美姫 「それじゃあ――」

ま、まだ負けた訳じゃない!
また来週〜。どうだ!

美姫 「また来週〜」

って、とことん無視ですか!?







うぅぅ、シクシク。僕はいらないんだ。うぅぅ。

美姫 「いや〜ね〜、冗談よ。ほら、元気出して」

うぅぅ、本当に?

美姫 「うんうん。ほら、色々と試していたから、今週はこういうのもありかなって」

でも、本当に終わってるし。

美姫 「だから、そういうパターンもありかなって」

酷いよ……。

美姫 「また来週からは元に戻るし、ね」

なら良いか……って、良いのか?

美姫 「ほらほら、今日はメイド服に着替えちゃうわよ」

そうだな、偶にはありだよな!

美姫 「うんうん。……バカで本当に良かったわ」

何か言ったか?

美姫 「何も言ってないわよ。それよりも、久しぶりにメイドになってあげるんだから、ちゃんと奉仕しなさいよ」

勿論だ! ……って、普通は逆じゃない?

美姫 「ほら、さっさと戻るわよ」

……まあ、良いか。それじゃあ、帰ろう、帰ろう。


10月23日(金)

『お願い、誰か……誰か助けて』

その日、その声を聞いた者が数人居た。
詳しくは語られない、いや、語る程の時間がなかったのか、弱々しい性別の判断も付かない声。
ただ、求められているのは助けというたった一つの願い。
しかし、それは声の主を助けるというものではなく、迫る闇から世界を救えと言う、
それだけを聞けば怪しげな台詞である。
だが、声を聞いた者たちはそれが決して嘘でも虚言でもないと何故か感じ取れ、結果として動き出す事となる。

「ってな訳で、暫く旅に出ることとなった」

「……恭也の事だから冗談じゃないってのは分かるけれど、一応、病院に行った方が」

「何気に酷い事を言ってくれるな、高町母。残念ながら俺は至って正気だ。
 因みに美由希も聞いたらしいぞ」

「あははは、夢っていう感じじゃなかったし、それにこれ」

言って美由希は掌を開き、握っていた物を桃子へと見せる。
それは青い宝石のようなものであった。恭也も同様に似たような宝石を見せる。
こちらは色がエメラルドグリーンである。

「で、これが何?」

当然の如く疑問を口にする桃子へと美由希が説明する。

「私もよく分からないんだけれど、クリスタルって言ってたよ。
 何でも後二つ、火と土のクリスタルがあって選ばれた戦士がいるって」

「はぁ、まるでゲームの中の話みたいですな」

それまで黙ってやり取りを見ていたレンがそう口にすれば、その横で晶もうんうんと頷いている。
先程まで眠そうにしていたなのはは目を輝かせ、面白そうに話を聞いている。

「起きたらそれが手の中にあった。夢と判断するには符号が合っているからな」

「もしかしたら、護衛の依頼とその依頼料という可能性もあるかもしれないしね」

「いや、流石にそれはないだろう。
 俺やお前に気付かれずにここまでやり遂げるのなら、わざわざ俺たちに頼むとも思えん。
 人数が居るのだとしても、ここまで手の込んだ事をするなら普通に頼めば良い事だし」

「ですよね」

恭也の言葉に美由希も本気ではなかったのかあっさりと引き下がり、改めて桃子へと顔を戻す。

「事態が全く分からないので、とりあえずは那美さんの所へ行こうと思うんだが、
 状況次第ではそれこそすぐに出立になるかもしれないから、先に言っておこうと思ってな」

恭也の言葉に納得しつつ、桃子は暫く考え込む。
とは言え、既に二人は行く気なのは見ても分かるし、仕方ないと二人を送り出す事にする。
勿論、充分に身体に気を付けることを言い含め。
こうして恭也と美由希は荷物を手にまずはさざなみ寮へと向かう。



「……ってな夢を見たんですけれど」

「あー、ネタに使うにはちょっと足りねぇな。もうちょっと詳しい設定をくれ」

「いや、別にネタのつもりはないんですけれどね。
 兎に角、俺も変な夢だとは思ったんですけれど、起きたらコレを握ってまして」

言って耕介は真雪へと宝石を見せる。
それは奇しくも恭也たちが桃子に見せたクリスタルとそっくりで、色が違うだけであった。

「んー、トパーズって訳でもないか。どっちにせよ、今日は焼肉だな。もしくは、ふぐでも食べに行くか?」

「って、何で既に売る事を前提に話をしているんですか!?」

慌てて真雪の手からクリスタルを取り戻し、耕介は本来相談役として話を持ち掛けた相手である那美を見る。
那美は少し引き攣った笑みを見せつつ、心持ち真剣味を帯びた顔で耕介を見詰め返す。

「ただの夢にしてはそのクリスタルが耕介さんの手元にあるというのが問題ですね。
 そもそも、耕介さんには大きな霊力がありますから、知らず予知夢を見るという可能性もなくはないです。
 ただ今回のは話を聞く限りではそういった類のものでもないみたいですし」

「結局の所は分からないって事だろう」

言葉の切れ目に真雪が口を挟み、那美は苦笑を見せつつも頷く。

「ですが、話がちょっと物騒でもありますから、一応薫ちゃんの耳には入れておこうと思います。
 すみません、耕介さん。お力になれなくて」

「いや、別に那美ちゃんが気にする事じゃないよ。って、お客さんが来たみたいだね。
 良いよ、俺が出るから」

言って耕介は立ち上がると玄関へと向かう。
玄関を開けた先に居たのは、すっかり顔見知りとなった高町さん所の兄妹だった。
那美に話があるという二人を上げ、リビングへと取って返した耕介であったが、
二人から語られた話により、耕介もまた旅立つ事を余儀なくなれる事となる。

「……とは言っても、何の手がかりもない状態で何処に行けば良いんだろうね」

「こんな時、ゲームなら誰かがさりげなく情報をくれるんですけれどね」

耕介と美由希が揃って溜め息を吐き、恭也もまた困った様子で思案顔になっていた。
そんな現状を打破するべく鶴の一声が。

「とりあえず、神咲の元に行くのが一番なんじゃないのか?
 その夢が本当であれ、嘘であれ現実としてそのクリスタルがお前たちの手にはあるんだ。
 不思議現象はとりあえずは神咲の担当と昔からうちでは決まっているんだからな」

決まってないと手を振る耕介を家事担当は黙れと沈黙させ、那美へと薫の居場所を尋ねる。

「多分、仕事が終わったばかりで実家にいると思いますけれど」

確認する為に電話をしに行った那美を横目で見送り、真雪は不意に顔を真剣なものへと変える。

「一つだけ忠告しておいてやる。夢の内容を鵜呑みにするなよ。
 その夢のお告げが真実かどうか、それはお前たちが自分で判断し、その上で何をするのか考えろ。
 すべき事を見誤るな」

珍しく真面目モードの真雪に耕介たちは黙って頷く。
そこへタイミングよく那美がリビングへと戻ってきて、薫が実家の鹿児島に居る事を告げる。
大体の話もしてくれたようで、向こうで待っているとの事だ。
こうして、恭也と美由希は同じ境遇の耕介と道案内役の那美を加え、一路鹿児島を目指す事となった。
出掛けに、真雪が視線を逸らしつつ耕介へと話し掛ける。

「あー、……まあ、何か困った事があれば連絡しろ。暇で手が空いていたら助けてやるかもしれない」

その言葉を聞いて知らず笑みを浮かべた耕介の頭を、すかさず叩くと真雪はさっさと寮へと戻って行く。
それを可笑しそうに見送ると、恭也たちも出発するのだった。

まさか、神咲家へと辿り着くのにもとんでもない苦労をする事になるなど、この時の恭也たちが知るはずもなく。



FINAL TRIANGLE







美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「おっわるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いつもと違うパターンで、お届けしました!>



ってな感じで完全に違う形でやってみようかと思うんだけれど、どう思う?

美姫 「って、既にやった後じゃないのよ!」

ぶべらっ! こ、今週はこの辺で〜。

美姫 「ああ、もう! それじゃあ、また来週〜。…………あとで絶対にお仕置きだわ」

ひぃぃっ!


10月16日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、おいおい、とお送り中!>



先週、寒くなってきたのに、と言う話をしたばかりだと言うのに。

美姫 「うわ〜、これまた見事に蚊に咬まれているわね」

だろう。黒い奴がブーン、ブーンと耳元で飛ぶんだよ。
思わず二週続けて話題にしてしまった。

美姫 「それにしても、未だに蚊がいるなんてね」

去年はどうだったかな。と思い出そうとしても思い出せない……。

美姫 「流石に居なかったんじゃない?」

そうだとは思うんだけれど、居たと言われれば居たような気もするし。

美姫 「まあ、去年がどうでも今現在が問題なんだけれどね」

その通りだよ。お蔭で痒い、痒い。
昔聞いた話だと、最後まで血を吸わせると痒くはないという事らしいんだけれど。

美姫 「それは無理っぽいわね」

だろう。気が付けば刺されているという状態だしな。
挙句、その話が嘘ならただ痒くなるだけだし。

美姫 「って、秋もかなり深まっている時期に蚊の話って……」

確かに時期外れな感は否めないが、現実に指されている以上仕方ないだろう。

美姫 「はいはい。あ、そういえばさ……」

何だ? って、いきなりビンタ!?

美姫 「いや、ほっぺに蚊が居たからね」

おお、本当だ。って、かなり痛いんですが。もう少し優しい目に叩いてくれても。

美姫 「何よ、親切でやってあげたのに」

う、あ、ありがとうございます。

美姫 「分かれば良いのよ」

ほっぺたがじんじんする……。

美姫 「って、また蚊が!」

って、あり得ないだろう! 何処の世界に止まっている蚊を剣で刺そうとする奴がいるんだよ!

美姫 「なにを避けているのよ!」

今のは絶対に誰でも避けるわっ!

美姫 「蚊に刺されたら可哀相だと思って親切でしてあげたのに怒鳴るなんて」

いやいや。さっきはビンタで今度は剣って、違うにも程があるでしょう!

美姫 「些細な事じゃない」

んな訳ないっての!
蚊よりもお前の方が怖いよ。

美姫 「ひ、酷いわ!」

ぶべらっ! 結局はこうなるのかよー!

美姫 「薄情者の浩なんて放っておいて、今週もCMいってみましょう♪」







「さあ、どうする? 私は強要も要請も嘆願もしない。決めるのはあくまでもお前だ。
 私はただ、お前が決めた事に従うのみ。私が持ちかけるのはあくまで契約なのだから」

全身血塗れで倒れ伏す恭也の耳元に、遠くから囁かれている様にも感じられる声が届く。

「選ぶのはお前だ。私と契約を交わし、人外と成り果ててもその意思を貫くか。
 それとも、ここで無様に屍を晒し、その信念を果たせずに朽ち果てていくか。
 全てはお前次第。私はただそれに従おう」

男とも女とも判断の付かない声に、恭也は無事な方の片目を向けるも、その瞼も半分閉じかけている。
骨でも折れているのか、自由にならない右腕を前に伸ばし、潰れた喉で何かを口にしようとする。

「ああ、無理に喋らなくても良い。お前はただ思うだけで良い。
 好きな選択肢をな」

喉の奥で笑いながら、声の主は言葉に鳴らない恭也の声に大した感慨もなく、ただそう告げる。
何処か楽しむような、答えが既に分かっているような声に、しかし恭也はそれでも選ばざるを得ない。
僅かに振り絞るように紡がれた声に、恭也は全ての思いを込めて吐き捨てる。

「この悪魔め……」

「悪魔か。中々良い表現をする。だが、私は代償として何も求めていないだろう」

声の主は恭也の言葉に気分を害する事もなく、ただ恭也を見下ろすだけ。
そういう奴だと分かっていながらも、恭也は顔を顰め、そして決断をする。

「くっくくく。選んだな、恭也。たった今、この瞬間より契約は成された。
 ようこそ、恭也。人外の跋扈する闇の世界へ。死と殺戮の舞台へ。
 これよりお前は新たな住人としてその力を好きに振舞うが良い。
 奪うのも自由、殺すのも自由。その力はお前の物だ。その力で何を奪うのも、何を成すのも全て自由だ」

声の主が楽しそうに笑う中、恭也の致命傷とさえ思われる程の傷がたちまち修復していく。
折れていた骨は元通りに戻り、潰れていた左目も問題なく開く。
そんな自身に起こる現象を呆然と受け入れながら、頭の片隅で恭也は冷静に自分の力量を測る。
そこへまたしても声が落ちてくる。

「今回は契約のサービスとして怪我の治療をしておいた。
 本来なら、そこまでの怪我は一瞬では治らないから今後は気を付けるんだな」

「……礼でも言えば良いのか」

起き上がりつつ憮然と呟く恭也に対し、声の主はやはり変わらぬ楽しげな声を上げる。

「別に礼などいらないさ。初めに言った通り、私はただの傍観者。
 契約を持ちかけはすれど、それ以上の干渉はしない。今回のそれも単なる気紛れ。
 それより、こんな所で私と話などしていて良いのか? 今頃、お前の大事な家族たちは……」

声の主が言い終わる前に恭也は走り出す。
その姿は契約前と何一つ変わってはいないが、その速度は以前よりも明らかに速い、いや、速過ぎる。

「元より鍛えていたというのもあるが、根底が半分こちら側であった所為か、契約直後とは思えぬな」

やはり楽しげにそう漏らし、声の主は恭也の去った方を見詰める。
最早何もない、ただの暗闇にしか見えないが、まるで全てを見通すかのように微動だにせず、

「本当に礼などいらないさ、恭也。契約を交わしたばかりのお前が、すぐに壊れては面白くないからな。
 私はただお前がこれから紡ぐ物語を楽しませてもらいたいだけなのだから……」

そんな呟きを残し、声の主は闇に溶け込むかのように消えていった。



事の起こりは今から一ヶ月程も前の事である。
大学へと進学した恭也は勉学の傍ら、リスティから時折来る護衛をしていた。
その日も護衛の依頼を引き受けて雇い主の元へと訪れるはずであった。
過去形なのは、別に行かなかったからという訳ではない。
リスティと共に雇い主の屋敷へと行く事は行ったのだ。
ただし、恭也たちが屋敷を訪れた時には既に物言わぬ屍と化していたのである。

「……常識を疑うね」

「ええ、本当に」

両開きの扉を開けるとそこは広いエントランスとなっており、突き抜けの天井からは豪華なシャンデリアが吊らされ、
二階へと続く階段は両側から中央へと緩やかな曲線を描き、大ホールとも言える佇まいを見せている。
が、そんな光景に似つかわしくないものがその中央にあった。
依頼主であるこの屋敷の主人の首。
首から下は見当たらず、頭部だけがそこに客を迎え入れるかのように玄関を向いて鎮座していた。
三十人は裕に入るであろうエントランスの中央の床にポツンと置かれた生首。
恐怖に引き攣った表情のソレはまだ生々しく、そう時間は経っていないであろう。
だが、異様なのはその生首だけではなかった。
まるでその生首を飾り立てるかのように、床には血で描かれたと思われる魔法陣。
ご丁寧に六芒の頂点にはそれぞれ燭台が置かれ、その上では蝋燭が今も炎を燃やしている。
閉め切っていた所為か、煙だけじゃなく、血と蝋の溶ける匂いが辺りには立ち込めており、二人も流石に顔を顰める。

「かなり本格的な魔法陣だね。周りに書かれている文字も英語ではないようだし……」

「適当に書いたという事も考えられますが……」

注意深く手がかりがないか辺りを見るが、手がかりになりそうなものは何一つ落ちていない。
肝心の首から下の身体は恐らくは別の場所、恐らくは殺害現場にあるだろうとは思うのだが、
ここから先は警察の仕事だろうとリスティは恭也を促して一旦、外へと出る。
流石に外の空気は中とは違い、二人は知らずほっと息を吐く。
が、その顔は晴れやかとは言えない。

「警察の方には既に連絡を入れたから、僕は彼らが来るまで待っていないといけない。
 恭也はどうする?」

まだ護衛を引き受ける前であったため、恭也は部外者とも言える。
尤も第一発見者という事でこの場に残って証言してもらう必要はあるかもしれないが。
正直、ここに来た理由などを聞かれて面倒な事にはなるだろうが仕方ないと恭也はその場に留まる事を選ぶ。
が、不意に背筋に寒気を感じ、恭也は周囲を見渡す。
郊外から離れた木々が生い茂る自然が豊かな中に立つ洋館。
周囲は特に不審と思うようなものもなく、とても静かである。
いや、静か過ぎる。これだけ自然があれば、少なくとも何らかの生物が居て可笑しくはない。
だが、鳥の鳴き声は愚か、そういった気配が全く感じられないのだ。
今になってそれに気付き、恭也は警戒心を高める。

「どうかしたのかい、恭也?」

表情を強張らせた恭也にリスティは小声で囁くが、
恭也は何でもないと告げると気分転換を理由に散歩してくると告げる。
リスティは少し考える素振りを見せるも、すぐにそれを了承する。

「ただし、犯人がまだ近くに居る可能性もあるから充分に気を付けてね。
 それと何かあればすぐに知らせる事」

「分かりました」

リスティの言葉に答え、恭也は慎重に木々の中へと踏み入る。
特にこれといったものはなく、ただ周囲の気配がより薄いと思われる方へと向かう。
静寂に支配された木々の間を進む内、恭也は開けた場所に出る。
そして、そこで出会う事となる。
頭からすっぽりと全身を覆うようなローブを被り、特に何をするでもなく腰を下ろして座っている人物。
ただそこに居るだけなのに周囲を威圧するような気配を放つ。
さっきまで何も感じなかったというのに、その存在を見た瞬間に呼吸さえも困難に陥るぐらいの濃密な気配。
知らず震えだす膝を堪え、恭也は細心の注意を払いつつ声を掛ける。
自分に声を掛けていると理解するの数秒要し、その人物は喉の奥で小さく笑う。

「まさか、私を見付ける者が居ようとは。一体、どれぐらい振りの事だろうか。
 して、用は何だ人間」

楽しげに話し出すと、フードの奥からじっと恭也を見詰める。
更なる重圧を感じつつも、恭也が踏み止まるとその人物は更に楽しそうに笑う。
これが高町恭也にとっての最悪との出会いである。



とらいあんぐるハート 外伝







ててて。何故、蚊の被害がこんな大事に。

美姫 「自業自得よね」

一度、自業自得を辞書でひいてから発言してください。

美姫 「自業自得……、あ、あったわ」

本当にひいてますね。

美姫 「何々……。浩の発言により美姫に殴られる事を指すだって」

いやいやいや、そんな訳ないし! 何故、そんなピンポイントというか、個人名!?
それだと、俺は日常茶飯事敵に自業自得になるし! と言うか、その辞書は何だよ! 
 
美姫 「そんな訳も何も、辞書に書いてあるし。 個人名で載っているんだから仕方ないじゃない。
    日常茶飯事って、自分で私に殴られるのが当たり前って宣言してるわよ。
    で、この辞書はPAINWEST辞典よ」

いや、そんな辞書で調べるな!
もっと一般的な辞書で調べろよ!

美姫 「はいはい、落ち着きなさいよね」

ぜーはーぜーはー。

美姫 「ほら、深呼吸して」

す〜は〜す〜は〜。

美姫 「落ち着いた?」

ああ、何とか。ありがとう……って、何で礼を言ってるんだ、俺!?

美姫 「本当に煩いわわよ!」

ぶべらっ! 結局、これかよ!

美姫 「って、時間だわ。戻ってきなさい!」

ぶべっぐへっ!
こ、これは初めてかも……。まさか、吹っ飛ぶ途中で鎖に捕まって叩きつけられるなんて……。

美姫 「説明台詞をありがとう。で、早速だけれど締めて」

誰か僕に優しくしてよ。

美姫 「はいはい。早くしなさいよ」

うぅぅ……。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


10月9日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、急に冷え込んだよね、とお届け中!>



いや、台風が凄かったな。

美姫 「本当よね。夜中に風の音で目が覚めたものね」

相当、風が強かったみたいだし。

美姫 「その分、被害も大きかったわね」

本当に。……さて、気分を変えて。

美姫 「いきなりね」

まあまあ。

美姫 「良いけれどね。それよりも、最近、書いてないわね」

おおう! やっぱり話題を戻し――ぶべらっ!

美姫 「ったく、この馬鹿は」

うぅぅ、何故か時間がない。ああ、時間が欲しい。

美姫 「と言って、時間があればゲームしたり、本を読みそうよねアンタ」

否定はしない!

美姫 「威張るな!」

ぶべらっ! じょ、冗談だよ。……多分。ぶべらっ!

美姫 「本当にどうしてくれようかしら」

い、痛いのは嫌……。

美姫 「気持ち悪いからやめなさい!」

ぶべらっ! ば、バカな。小動物のように震えて懇願したというのに。

美姫 「全然、可愛くないから。小動物に謝りなさい!」

ぶべらっ! って、そうポンポンやられたら、流石にダメージが蓄積していく……。

美姫 「はいはい、冗談は良いから」

いや、冗談って……。

美姫 「あ、そろそろCMにいかないと」

いや、聞けよ。

美姫 「それじゃあ、CMいってみよ〜」

お願いだから、俺の話も聞いて……。







海鳴市の西側に位置する風芽丘学園。
女子の制服のバリエーションの多さを除けば、ごく普通の学園である。
そんな学園の一年の教室で事件は起こった。

「ぎゃっ!」

短い悲鳴を上げ、男子生徒の体が宙を舞う。
背中から落ちた生徒は、しかし慣れた様子で制服に付いた埃を払い、ゆっくりと起き上がる。
その少年の下へと一人の女子生徒が駆け寄る。

「ご、ごめんなさい〜、伊織君!」

長い髪のどこかほんわかとした少女がそう口にして謝る。
そう、この少女こそが先程伊織と呼ばれた少年を吹き飛ばした張本人であった。
その細い腕の何処にあれ程のパワーがあるのだろうか。
先程の体育の授業により、他に着替えから戻ってきた生徒はおらず、
唯一の目撃者となった美由希は思わずそんな事を思う。
当然ながら、それに気付いた二人は気まずそうな顔を見合わせ、やがて少女の方が美由希へと近付く。

「高町さん、この事は内緒にしてください」

そう頼み込んでくる。事情がよく分からず、困惑した表情を見せる美由希へとクラスメイトの新谷奈々が話し掛ける。

「陽向(ひなた)は男の子に触られると殴っちゃう癖があるのよ。
 それは許婚である伊織が相手でもそうみたいでね。こうして見ると面白いでしょう」

目を輝かせて本当に楽しそうに言う奈々に、美由希は目の前の少女、陽向という少し前に転校してきた少女を見る。
どうやら嘘ではないらしく、陽向は奈々の言葉を肯定するように頷き、もう一度内緒にしてくれるように頼んでくる。
美由希はそれを聞いて、陽向に内緒にすると約束を交わし、そこで今更のように驚いた声を上げる。

「許婚!? え、え、倉賀くんと酒井さんってそういう関係なの!?」

美由希の驚きに陽向は照れつつも嬉しそうな顔で肯定し、伊織は恨めしそうな目で奈々を睨みつける。
一方、内緒であるはずの事を話した奈々は悪びれもせずにただ笑いながら、美由希へと顔を近づける。

「そういう関係も何も、既に陽向は伊織の家で同棲中よ」

「ど、同棲!?」

「違う、同居だ! うちには姉さん達もいるだろう!」

再び上がった美由希の驚愕の声に、伊織はそう反論するも隣で陽向は照れつつもやはり嬉しそうに身を捩っている。
同棲という言葉に何やら想像しているらしいが、伊織はそちらには気付かずに奈々へと詰め寄る。
好き勝手に喋る奈々へとこれ以上何も喋るなと睨みつけ、しかし、そんなものを綺麗に受け流し、
更に笑みを深めると、

「因みに伊織には二人のお姉さんが居て、一人はブラコンで陽向と三角関係。
 もう一人は生徒会長なんだけれど、こっちはブラコンじゃなくて、普通で面白くないのよね〜」

「生徒会長って、あの冷たい目で蔑まれたいと噂される?」

「って、前よりも噂が悪化している!? って、誰がそんな噂を!?」

伊織が堪らずに突っ込むも、やはりそれはスルーして奈々は面白くないとばかりに唇を尖らせる。

「会長さんも伊織ラブならもっと面白かったのに」

勝手な事を言う奈々の頭を軽くチョップして黙らせると、伊織はじろりと睨みつける。

「姉さんがいなかったら、俺の家での平穏はなくなるんだぞ」

何故か納得してしまいそうになるぐらいに非常に力強い声でそう言う伊織に、
美由希はただ苦笑を見せるしかできなかった。



「倉賀さんって弟さんいます?」

昼休み、一緒に昼食を食べていた那美が不意にそう口にする。
その言葉に驚いたように喉を詰まらせ、咽ながら胸を叩く和奏(わかな)の背中を擦ってやりながら、
那美は何か悪い事を口にしただろうかと首を傾げる。
そんな那美に気付いたのか、まだ少し咳き込みながらもどうにか落ち着きを取り戻し、
平静な顔を保ちながら、何故そんな事を聞いたのか尋ねる。

「いえ、私のお友達がここの一年生さんなんですけれど、その前の休み時間、
 教室移動の時に見かけて声を掛けたら、紹介されたんです」

実際にはその少年を含め、他に二人の女子生徒から絡まれているように見えて助けに入ろうとし、
そこで足を滑らせて転んだ、というのが正解なのだがそこは伏せておく。
転んだのは、伊織という少年が奈々という少女へと文句を言いながら迫っている場面を、
その隣にいた美由希に迫っていると見間違えて慌ててしまったためだが。
ともあれ、転んだ事は勿論の事、まさかただ話しているのを勘違いしたとは言い難い。
その時に紹介された名前と、奈々という少女が口にした姉という言葉にもしかしてと軽い気持ちで尋ねたのだ。
姉が居ると口にした所で奈々は伊織に口を塞がれていたが、仲の良い者同士でじゃれているだけだろうと
気にも止めずにいたが。今の反応を見ると、ひょっとして乱暴な子なのだろうか。
美由希の事を心配して和奏へと質問しようとした那美であったが、先にその肩に手を置かれ、
やや座った目で見詰められる。

「その友達というのは当然、女の子よね。もしかしてだけれど、その子はうちの弟に興味があるのかしら?」

肩に置かれた手にぎりぎりと力が入り、那美はやや顔を引き攣らせつつもそれはないと断言する。
同時に手から力が抜け、和奏は何事もなかったかのように座りなおす。
その反応を見て、那美は何か悟ったのかポンと小さく手を叩くと、邪気のない顔で言う。

「倉賀さん、弟さんの事が好きなんですね」

別に乱暴者とかいう訳ではなく、単にそういう事かと納得しての言葉であったが、
和奏は口にしていた物を丁度飲み込もうとしていた所であったらしく、またしても激しく咽る。
慌てて背中を擦る那美の手を掴み、涙目になりながらも和奏は睨むように那美を見上げ、

「そんなんじゃないわよ!」

やたらと低い声でそう口にするのだが、那美は全て分かってると言わんばかりの笑顔で、

「そうですか、分かりました」

「あんた全然、分かってないでしょう! 別にわ、わた、私は伊織の事なんて……」

言葉の途中で照れて俯く和奏。同年代の少女たちと比べても成長がやや遅い感のある彼女の仕草に、
那美は笑みを深めて分かっていると頷くのであった。



生徒会室。言わずもがな、ここは生徒会たちが会議をしたり、放課後仕事をしたりする場所である。
とは言え、昼休みの今は誰も居ない部屋の一つである。
が、例外は何事にもあり、本日はここに一人の生徒が居た。
というと大げさに聞こえるかもしれないが、単に弁当を食べているだけである。
勿論、ここに出入りできるという事は生徒会のメンバーである。
生徒会長の倉賀葉澄(はすみ)である。
そこへ来客を告げるノックがされ、葉澄の返答を聞いて扉が開けられる。

「失礼します」

「いらっしゃい、高町さん」

そう言いながら入ってきたのは恭也であった。
恭也は購買で買ったと思われるパンを手にし、葉澄の向かいに腰を下ろす。

「今日は遅かったわね」

「ええ、ちょっと購買が混んでまして」

「そう、なら仕方ないわね。それじゃあ、早速だけれど……」

言って葉澄はゆっくりと口を開き……、

「昨日、伊織と一緒に買い物に行ったんだけれど、その時にね」

恭也が座るなり、弟の事を嬉々として話し始める葉澄。
そこに噂されている凛とした会長の姿はなく、ただ単に弟を可愛がる姉としての姿があった。
そんな弟にまつわる話を嫌な顔一つせずに恭也は黙って聞き、
ようやく葉澄の話が終わると感想のようなものを口にする。
続いて、今度は恭也がなのはの話を始める。その顔はいつもよりも柔らかく、目元などは若干垂れている。
ようするに、こちらも妹の話を嬉々として始めた訳である。
そして、これまた葉澄は嫌な顔をせずに恭也の話を聞くのである。
早い話、二人ともシスコンにブラコンなのである。
ただし、表立ってはそれを隠しており、偶々互いにそうであると知る事となり、
こうして他の人に話す事もできなかった二人は意気投合して、昼休みの度にこうして話をしているのであった。
当然、話題は妹と弟の話ばかりで、なのはがどうしただ、伊織がこうだと延々と語る。
流石に毎日という訳にはいかないが、結構な頻度でこうして密会が繰り広げられているのである。
やがて、互いに話が落ち着いた頃、恭也が持ってきていた鞄を机の上に置いて開ける。

「倉賀さん、もしよければどうぞ」

言って鞄から猫のぬいぐるみを取り出す。
出てきたそれに顔を輝かせながら、ゆっくりと手を伸ばして受け取り、やや上擦った声で尋ねる。

「こ、これは……。どうしたの、これ?」

「なのはが昨日、クレーンゲームで取ったんですが、少し取り過ぎまして。
 流石に数が多かったので、もしよければと思ってなのはから貰ってきました。
 前に確か、こういうのが好きだと言ってましたよね」

恭也の言葉に心ここにあらずといた感じで頷き、ほわわんと口に出てきそうなぐらいに相好を崩し、
受け取ったぬいぐるみを抱き締める葉澄。
が、ふと思い出したかのように、葉澄もまた鞄を開けて中から小さなラッピングされた袋を取り出す。

「私の方も忘れる所だったわ。それ、前に貴方の妹さんが欲しいと言っていた髪飾りよ。
 偶々、昨日見掛けたから買っておいたんだけれど、もしかしてもう買っちゃったかしら?」

「いえ、ありがとうございます。正直、俺一人でこういうのが売っているような店には入りにくいですからね」

「そう、なら良かったわ」

葉澄から包みを受け取り、恭也は渡した時のなのはの反応でも考えたのか、少し相好を崩す。
葉澄も再びぬいぐるみを抱き締め、相好を崩しており、沈黙が生徒会室に落ちる。
が、二人はそれを気にする事無く、暫し気と顔を緩めたままでいるのだった。



Sweet Heart







そう言えば、最近は結構肌寒くなったというのに、蚊を見るんだが。
というか、咬まれた。痒い〜。

美姫 「結構、元気よね。蝉はいつの間にか鳴かなくなっていたのに」

だよな。夜中に耳元でプ〜ンというあの音を、まさか十月になってまで聞くとは。

美姫 「言われれば、十月なのよね」

何だ今更。

美姫 「いや、人から言われると改めて感じると言うかね」

そんなもんか?

美姫 「まあ、徐々に寒さが増していくことで実感はしているけれどね」

確かにな。風薬のCMとかもやり出したし。

美姫 「本格的に寒くなって行くのかしらね」

まあ、俺としては寒くなっていくのは歓迎だがな。

美姫 「毎年言っているわね」

そうか? うーん、そんな事はないような、そうであるような。
まあ、暑いのは苦手だから自然と言っているかもな。

美姫 「まあ、まだ冬じゃなくて秋だけれどね」

それでも暑さは感じなくなってきたから良い事だ。
この調子で寒くなれ!

美姫 「あまり寒いのも困るんだけれどね」

まあ、流石に氷点下数十度とかは勘弁だが。

美姫 「いや、そこまでは行くと寒いとかじゃなくて痛いになると思うわ」

そうなのかな。体験してないから分からんな。
とは言え、体験はしたくないからな!

美姫 「ちっ」

舌打ちって、お前は何をするつもりだったんだよ。

美姫 「知りたい?」

いえ、世の中には知らない方が良い事があるんで。

美姫 「そう、残念だわ」

いや、本当に危ない予感がしたんだ、うん。
全く、お前は。

美姫 「あ、そろそろ時間よ」

何てタイミングの良い。

美姫 「良いから締めなさい」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


10月2日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、とうとう十月突入、とお送り中!>



とうとう十月だな。

美姫 「本当に早いものだわ」

うんうん。という訳で、今回の雑記はそこからヒントを得てちょっと変わった感じにしようかと。

美姫 「今、何か利用できるような話をしたかしら?」

ずばり、過去最速でお送りしょうと……ぶべらっ!

美姫 「単に楽したいだけじゃないの!」

いや、そんなつもりは本当にないんだよ。も、物は試しで一回やってみよう。

美姫 「仕方ないわね。それじゃあ、早速CMよ。で、CMも最速にする為、五百文字前後でやってもらうからね」

そ、それはそれで無茶な条件ですよ!







覚悟を決めた表情で電話を手にするのは、有馬グループの後継者である有馬哲平である。
彼は先程、自らの決意を侍女である優に告げ、その為の手段を選ばないと断言した。
それを今から実行するべく、多少の申し訳ないという気持ちを抱きながらも記憶にある番号をプッシュする。



「……という訳なんです。図々しいお願いだと承知しています。
 でも、力を貸してください、恭也先輩!」

電話から聞こえる元美由希の同級生にして、
恭也とも顔見知りである哲平の言葉に恭也はそう時間を掛けずに了承の意を口にする。
哲平の覚悟を悟ったからか、自分たちの振るう剣術を知る数少ない友人からの助けを求める声だからか。
どちらにせよ、その答えは恭也自身にしか分からない事だが、恭也は哲平の頼み事を引き受けた。
引き受けたからの恭也の動きは速かった。
美由希へとすぐさま声を掛け、数分で装備を整えると十分と掛からずに家を出たのであった。
そうして、恭也と美由希は空港へとやって来て、哲平が同じ学校の少女と話しているのを遠目に見詰める。
やがて話を終えてこちらへとやって来る哲平に、二人は軽く手を上げる。
そんな二人に感謝の念を込め、哲平は小さく頭を下げる。

こうして、国賓列車グランド・ヘイゼルリンクに軟禁されている王女、シャルロットの奪還作戦が幕を開ける。



とらいあんぐるラバー






今回は以前にもやったプリラバネタ。

美姫 「でも、今回はアニメ版ね」

おう。さて、最速を目指して、今週はこの辺で。

美姫 「って、もう!? それじゃあ、また来週」







美姫 「で、本当にやってみたけれどどうだった?」

うむ。結論! これはこれで難しい上に忙しないな。
特にCMが難しかったです。反省……。思ったよりも五百文字って少ないんだな……。

美姫 「でしょうね。さて、それじゃあ、もう一つの最速を目指しましょか」

えっと、何故剣を構えているんでしょうか?

美姫 「どれだけ速く次の攻撃を繰り出せるかに挑戦するからよ♪」

ああ、なるほ……って、問うまでもなく、俺が目標だよな!

美姫 「正解♪ それじゃあ、チャレンジスタート!」

ノォォォ! ぶべらっ、ぶべらっ、ぶべら、ぶべ、ぶべ、ぶ、ぶ、あ……あががが……や、やめ……。


9月25日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、昼間はまだ暑いよ、とお届け中!>



昼は以外にまだ暑い上に蚊まで飛んでいるんですよ。

美姫 「確かにね。でも、前よりは結構涼しくなっているわよ」

かもしれないが、俺には暑いとしか感じられん。
うぅぅ、なのに花粉だけはちゃっかりと。

美姫 「春だけでなく秋でも出るものね、アンタ」

いや、夏でも出ているんだけれどな。
特に酷いのが春と秋で。うぅぅ、既にくしゃみに加えて鼻が……。
そんな訳で今週はこの辺で。

美姫 「勝手に終わらすな!」

ぶべらっ!

美姫 「ったく、こうなったら久々にきつめのお仕置きが必要ね」

か、勘弁してくだせぇ〜!

美姫 「問答無用よ。喰らいなさい、新技」

って、美姫が四人に!?
これが噂の影分身か!?

美姫 「と言うわけで、行くわよ〜。御神流……」

いやいや、色々と待て! それ、お前の流派違う!
と言うか、その抜刀の構えはもしかしてなくても薙……ぶべらぼげろっ!
って、飛んでる、飛んでるぜー!
と言うか、これ程の密度の分身を四つも作るとは、恐るべし美姫!

美姫 「本当に私も流石に五体作ると疲れるわ」

って、後ろにもう一人!?
と言うか、このどこかで見た事あるようなパターンは!

美姫 「正解♪」

ぶべらぼげっ!
う、うぅぅ、痛すぎます……。
と言うか、今の薙旋可笑しい! 幾ら四人同時攻撃だからって威力ありすぎ!

美姫 「アレンジしているもの。四つ身分身後に、二人一組となり薙旋と雷徹を重ねてみました♪」

と言うか、そんな物騒な事を笑って楽しく言うなよ!
って言うか、雷徹の四連撃……それもダブルで。おお、よく生きてた俺!
幾ら手加減してくれてたとは言え、よく生きてた俺!

美姫 「手加減? う、うん、勿論したわよ」

……うわぁっ! こいつ手加減してねぇ!
単に慣れない技で助かっただけかよ!

美姫 「そんな事ないわよ。この御神流・偽 重ね奥義雷旋はちゃんと使い慣れてるわよ。……イメージでわ」

最後、最後にぼそっと何か言った!
と言うか、流派の後ろに偽と付いている時点で何か可笑しいといか、勝手に作るな!

美姫 「いや、元々この技はアンタが考えていたんでしょうが」

いや、確かにそうなんだが。恭也に分身が出来ない以上無理だと没になったネタですよ?
次に美由希と二人で薙旋を合わせてとかも考えたけれど、幾ら同じ技でも威力や速度、
その他にも色々と違って来るから二人で合わせるのは無理かなと没に。
と言うか、何故お前がそれを持ち出しますか!

美姫 「はいはい、今日は初っ端から突っ込みっ放しね」

誰の所為だよ!

美姫 「それだけ元気があるのなら、今週もまだまだやれるわね」

……はい。と言うか、喉元に剣先を突きつけられて、誰がノーと言えるのでしょうか?

美姫 「寝ぼけて変な事を言っちゃって♪」

いや、現に……。

美姫 「それじゃあ、眠気覚ましも兼ねてCMいってみよ〜」







「恭ちゃん、大変、大変!」

慌てた声を上げ、玄関も開け放したまま靴もぞろろに脱ぎ捨てて、家の中を走って来るのは美由希である。
あまりの慌てぶりに溜め息を吐きつつ、恭也は美由希に落ち着くように言うのだが、

「それ所じゃないの! 恭ちゃんにお客さんが来ているの。
 今、翠屋で待っていてもらっているんだけれど……」

「客? 一体誰だ?」

「パイって名乗る女の子なんだけれど、恭ちゃんは知らないの」

「記憶にはないな。で、それだけで何故そこまで慌てる?」

「そうだった! その子、私が見つけるまで、と言うか、引ったくりにあった所を助けたんだけれど、
 兎に角、その子、道行く人に不破恭也か不破士郎を知らないかって聞いてたんだよ!」

美由希の言葉に恭也は僅かに目を細める。

「ただ悪意とかはないみたいだったから、単純に名前が変わったのを知らないだけみたいだったけれど。
 でも、あんまり連呼されるのもどうかと思って、慌てて店に連れて行ったの」

「中々良い機転だ。……と言いたいところだが、そこまで気を回すのならここに連れて来い」

「だって、もし悪意を隠して探していたら危ないじゃない」

「その可能性を考え付いた所までは褒めてやるが、だとしたら母さんの傍に置いてくるな、馬鹿弟子」

「あうっ。だって、高町になっているって知らないって事は大丈夫だって思ったんだもん」

「はぁ、母さんがその子の相手をして話してしまうかもしれないだろう。
 そもそも、悪意を隠しているかもと思ったのなら、わざと旧姓で探していたかもとか考えないのか」

落ち込む美由希を無視して立ち上がると、恭也は玄関へと向かう。
その後に続く美由希へと悪意を本当に感じなかったのか尋ね、それに頷いたのを見て、
それでも念の為と足早に翠屋へと向かう。
二人が翠屋へと着くと、その件の少女は店の一番奥の席に落ち着きなく座っていた。
傍まで二人が近寄ると顔を上げ、美由希をまず見る。
次いで恭也を見て、

「フワキョウヤ?」

「ええ、そうですけれど、貴女は?」

「キョウヤッ!
 アヒタカタヤットアエタ。
 チベットカラ何年モカカタヨ」

恭也の肯定の言葉を聞くなり、少女――パイは恭也に抱き付く。
混乱する恭也が助けを求めるように美由希を見るが、美由希は拗ねた顔をしてそっぽを向き、
視線を感じてそちらを向けば、桃子が楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
助けは期待できないと悟り、恭也はパイが落ち着くのをただ大人しく待つしかないのであった。

ようやく落ち着いたパイから話を聞ける状態になり、語られた話を聞いて恭也と美由希は思わず顔を見合わせた。
パイの話を要約すると、十年か、それ以上前にチベットの山奥で士郎と会った事があるというものであった。
吹雪の中、食料をなくした上に足を滑らして怪我をした士郎を介護した所、お礼をすると言われ、
そこでパイは自分が人間ではない事を話し、人間になりたいと語ったという。
士郎が何処までその話を本気と受け取ったのかは分からないが、パイと約束をして日本に来るように進めたらしい。
実際はパイの話を信じておらず、ただ身寄りのない女の子を引き取るつもりだったのかもしれないし、
様々な人脈を持つ士郎の事だから、本気で捉えたいたのかもしれない。
それは既に当人亡き今となっては分からないが、兎も角パイはその言葉を信じてここ日本までやって来たのだと言う。
パイの姿を見れば、ボロボロと化した布といった感じの服に大きなリュック一つである。
話を聞けば、ずっと歩いてチベットの山を降り、大陸を横断して海を渡り、
日本に付いた後もひたすら歩き回ったらしい。
それは何年も掛かると納得すると同時に、連絡先を教えておけと思わず父に恨み言を零す恭也であった。
ともあれ、話を聞き終えた恭也は桃子にも簡単に事情を説明しパイを家へと連れて帰る。
同時に美由希に那美へと連絡を取ってもらい、パイが言っていた三只眼吽迦羅に付いて尋ねるも、
そちらはあまり収穫はなかった。

「とりあえず、実家とかにも聞いて調べてくれるって」

「そうか、それは助かるな。正直、そっち方面はどう調べたら良いのかさえ分からないからな」

「那美さんに感謝しないとね」

この時は二人ともまだ楽観的に考えていた。

「お師匠に美由希ちゃん、お帰りなさい。あ、お客さんですか。今、お茶の用意をしますから」

「ああ、ただいま。何かあったのか、臨時ニュースなんて」

「ああ、それですか。何でもこの近くに大きな人面鳥が出たいうて……」

「ああ、タクヒ!」

家に着き、レンが見ていたテレビを見てパイが騒ぎ出したことから事態は変わり始めた。
どうやら、その暴れている人面鳥はパイが持っていた杖の中に居たパイの友達らしく、
混乱して暴れているから落ち着かせると言って出て行く。
慌ててその後を追う恭也と美由希。臨海公園までタクヒを追いかけたパイたちであったが、
混乱しているのか暴れ続けるタクヒはその凶悪な爪をパイに向ける。
それを庇い、恭也は致命傷となる一撃をその身体に受け、美由希が叫ぶ中、パイの額に瞳が現れる。
直後、強烈な光が溢れ、恭也は元より美由希も意識を失う。
二人が次に気が付いた時には、同じく意識を失って倒れているパイと、その傍らに落ちている杖だけで、
さっきまでの騒動がまるで嘘のように静まり返り、恭也は服は破れているものの、何故か傷一つ負っていなかった。
疑問に思いつつも、恭也は気絶しているパイを抱き上げると、美由希と二人高町家と帰るのであった。

――そして、運命は回り始める。



御神の无(ウー)







そういえば、9月ももう終わりなんだよ。

美姫 「いきなり何よ」

いや、本当に早いなと思ってな。

美姫 「言われてみればそうね。今年も後三ヶ月ちょっとなのね」

だろう。しみじみと今年を振り返るにはまだ早いか。

美姫 「まあね。でも、今年もいい年だったと良いたいわね」

終わり良ければ、ってか?
と言うか、今振り返っても良い事ないんですけれど……。

美姫 「まあ、今年は色々あったものね」

うぅぅ、何て年だったんだろう。

美姫 「って、振り返るのはまだ早いって言ったばかりでしょう!」

ぶべらっ! と言うか、毎年、毎年、お前に殴られてばっかりの年だよ!

美姫 「これも全て愛よ」

愛だったのか!? 愛が痛いよ。って、そんなので誤魔化されるか!

美姫 「でも、本当にまだ振り返るのは早いわよ」

そうなんだが。何か釈然としない……。

美姫 「はいはい、振り返るのは後にして、すっかり秋よね」

うお、話題を変えましたな。

美姫 「良いじゃない」

へいへい。まあ、確かに秋だが、やっぱり暑さを感じるよな。

美姫 「まあ、そうなんだけれど、やっぱり色々と味覚があるじゃない」

やっぱり秋刀魚だな。

美姫 「良いわね、大根おろしに醤油で」

梨や柿とか。

美姫 「果物も良いわね」

そう言えば、何で秋だけ読書の秋、芸術の秋、といった感じであるんだろう。

美姫 「やっぱり季節的に過ごし易いからとかじゃないの?」

過ごし易いか? 俺は辛いんだが。

美姫 「アンタの事なんて知らないわよ。後は秋の夜長というぐらいだから、他に出来る事がないとか」

未も蓋も情緒もない言い方だな。もう少し言い方を変えれば良いのに。

美姫 「別に良いじゃない。そんなに気になるなら調べてみたら」

めんどいから良いや。

美姫 「私も気になるから調べててね」

うわ〜い、いつもの如く何と言う傍若無人っぷり。

美姫 「あ、もう時間だわ」

……いや、良いんですけれどね。

美姫 「何を言っているのよ。ほら、締めなさい」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


9月18日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今週もやってきました、とお送り中!>



いやはや、思った以上に手間取った。

美姫 「なぜなにの方の掲示板改造ね」

ああ。過去にSS掲示板でやったのと同じ処置だからすぐだと思ったのが悪かった。

美姫 「単に物忘れの激しいアンタが悪いだけじゃない」

言うな。俺だって作業してて悲しくなって……うぅぅ、思い出しただけで泣けてくる。

美姫 「まあ、とりあえずは改造とテストも終わったしね」

まあな。そんな訳で、何かあればまた掲示板やメールでお知らせください。

美姫 「しかし、その所為で今日は殆ど時間が潰れてしまったわね」

まあな。一日が過ぎるのを早く感じるよ。
まあ、ともあれ今日も頑張っていこう。

美姫 「そうね。それじゃあ、早速だけれどCMで〜す」







海鳴商店街の中に軒を連ねる一つの店、翠屋。
ケーキやシュークリムが評判の喫茶店である。
その店内は休日という事もあってか、昼過ぎだというのに学生らしき者の姿が多く見られた。
割合としては男性客よりも女性客の方が多いのは、
やはりケーキやシュークリームといったスイーツが売りだからだろうか。
そんな多くの女性客の中にあって、更に目を引く美少女と呼んでも差し支えのない二人が奥の席にいる。
一人は軽くウェーブの掛かった長い髪をしており、もう一人は短めの髪をした少女である。
長髪の少女の方は少し剥れたような表情でカップを手にしたまま、何か言いたそうにもう一人を見詰める。
その視線を綺麗に受け流し、短髪の少女は煽るかのように目を閉じて、殊更優雅にカップを口元に運ぶ。
ダン、と音を立てて長髪の少女がテーブルを叩いて抗議するも、短髪の少女は煩わしそうに目を軽く見開くだけ。

「聞いているの、ななちゃん!」

「はいはい、聞いているから落ち着きなさい。他のお客さんの迷惑になるでしょう、日菜」

ななちゃんと呼ばれた少女、司七海は日菜を嗜めつつもそちらを見ようとはせず、
その事で更にヒートアップしたのか、日菜はもう一度テーブルを叩く。

「今日は薄い御本を買いに行く予定だったのに!
 どうしてななちゃんの買い物に付き合った挙句、こんな所で暢気にお茶をしてるの!」

「それに関しては最初に言ったように、私に借りを返すためでしょう。
 そもそも、こうして休憩しているのだって日菜が疲れたと言うからじゃない」

「疲れたんだから仕方ないでしょう。大体、服一枚買うのにあんなに歩き回ったり、あんな人ごみを……。
 思い出しただけでも疲れる……」

言ってテーブルに突っ伏す日菜に七海はよく分からないという顔を見せる。

「前にバーゲンだって騙されて言った国際展示場よりも人ごみは少ないわよ」

「あれはお値打ち物を手に入れるお祭りだもの。寧ろ、あれはまだ人が少ない方よ」

「はいはい」

「って、軽く流さないで!」

身体を起こしたばかりか、席から立ち上がり抗議する日菜をそれでも七海は軽くいなす。
流石にこの辺りは親友として培ってきた経験があるだけの事はある。
が、やはりと言うべきか、日菜の方はそんな七海の態度に更に機嫌を損ね、
腕を振り回し更に文句を言おうと口を開く。

「相羽さん、その辺で」

が、そこから文句が紡ぎ出される前に店員に止められる。

「あ、高町先輩。聞いてください、ななちゃんが酷いんです」

「って、高町さんに何を吹き込む気よ!」

それまで軽く受け流していた七海がここに来て手を出す。
と言っても叩いたりするのではなく、腕を引っ張って日菜を強引に座らせただけだが。

「すみません、ご迷惑を」

「いえ、別にそれほど騒がしかった訳ではないですから。
 司さん、そんなに気にしないでください」

やって来た店員、恭也の言葉に七海は頷きつつ日菜を軽く睨む。
が、当の本人はさっきまでの七海よろしくその抗議の視線を受け流し、鞄から携帯ゲーム機を取り出す。

「高町先輩、今日はなのはちゃんはお店にいないんですか?
 居たら今から狩りに誘おうと思うんですけれど」

「今日、なのはは家に居ると思いますよ」

「そっか、それは残念。なのはちゃんの援護はとっても的確で狩りし易いんだけれどな」

「って、アンタはこんな所でまた」

「相羽さんらしいですね」

ゲームのスイッチを入れた日菜に突っ込む七海と、微笑を見せる恭也。
そんな二人を特に気にするでもなく、日菜は立ち上がる画面を見詰める。

「近くに誰かいないかな」

「ちょっと日菜、本格的に始めないでよ。この後も買い物があるんだから」

「え〜、もう疲れた、歩けない。……って、誰もいないか。
 うーん、そうだ。高町先輩、お家にお邪魔しても良いですか?」

「って、何を言ってるのよ。そんなの良い訳ないでしょう」

七海が日菜を止めるが、恭也は別段問題ないと日菜の言葉に頷く。
逆に七海の方が驚いて恭也を見るのだが、恭也は日菜へと更に話し掛ける。

「なのはも家に居ると思いますし、その狩りとやらをするんでしょう。
 ああ、念の為になのはに電話してからになりますけれど」

「ええ、それじゃあお言葉に甘えて」

「だから、買い物があるって言ってるでしょう」

なのはへと電話しに行った恭也に手を振る日菜に抗議するも、日菜は恭也の労力を無駄にするのかと言い返す。
思わず言葉を詰まらせる七海を見ながら、日菜は何か思いついたのか小さく笑う。

(この間の意趣返しさせてもらうよ、ななちゃん)

その笑顔を見た七海は日菜が何か企んでいると気付き、警戒する。
そこへなのはとの電話を終えた恭也が戻ってくる。

「なのはがお待ちしていますと伝えてくれとの事です」

恭也の言葉に日菜は嬉しそうに手を合わせ、続いてわざとらしく若干棒読みな感じで喋り出す。

「ああ、でも私が行っちゃうとななちゃんの荷物持ちがいなくなっちゃうね。
 そうだ、高町先輩これから空いてます?」

「一応、店も落ち着いてきたので後少しであがる予定ですけれど」

それを聞いた瞬間、七海はすぐさま日菜の考えている事に思い至る。
前に徹夜でゲームを買うために並ぶのに付き合えと言われ、
それを引き受けて実際には高山庵太を行かせた事がある。
つまりは、前に自分がやった事と同じ事をしようとしているのだ、この目の前の親友は。
止めるべく手を伸ばした七海であったが、それよりも若干早く身を引き、

「だったら、ななちゃんの荷物持ちしてもらっても構いませんか?
 お礼に今度学食でお昼奢りますから。勿論、ななちゃんが」

「俺は別に問題ありませんが、司さんが嫌がりませんか?」

「それはないですよ。ねぇ、ななちゃん」

完全にやられたと思いつつ、ここで断ると恭也を嫌がっているとも取られかねないため、
七海は笑顔で今日の言葉を否定する。その上で既に割り切り、どうせなら楽しもうと考える。
こうして急遽予定の決まった恭也と、恭也が終わるまでこのまま待つ事となった七海を残し、
日菜は高町家へと向かうのだった。

「まあ、日菜には恨み言半分、感謝半分って事にしておくか……って、また自分の分、払わずに!」

手元に残った伝票だけを見て、七海は残る感謝さえもどこかに吹き飛ばす勢いで思わず叫ぶのだった。



あきばハ〜ト







いやー、ほのぼのかどうかは兎も角、今回は日常的なお話の感じで。

美姫 「果たして、元ネタを分かってもらえるかしら」

いや、結構分かる人いると思うな。

美姫 「そう言えば、来週と言うか明日からシルバーウィークって言うんだっけ?」

ああ、何やらお休みに挟まれて国民の休日が出来たみたいだな。

美姫 「大型連休並みよね」

まあ、そんな訳で更新がひょっとしたら休み明けにあるかも。

美姫 「言うと思ったわよ。でも、例によって投稿してもらう分には問題ありませんので」

すみません。

美姫 「さて、本来ならここでアンタをぶっ飛ばし、殴り蹴飛ばし、切り刻むコーナーな訳だけれど」

ないよ、そんなコーナー!

美姫 「今回は時間がないものね」

いや、だから元々ないから。

美姫 「という訳で、締めるわよ」

って、このまま有耶無耶にされて来週から本当にコーナー化されると困るんですが!?

美姫 「いいから締めろ!」

ぶべらっ!
……よ、よくない! ってか、やっぱり殴ってるっての!

美姫 「もう一発いっとく?」

遠慮します! 今すぐに全力で締めるであります!

美姫 「分かれば良いのよ。ほら、さっさとする」

イエッサー!
それじゃあ、今週はこの辺で!

美姫 「また来週〜」


9月11日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、急に涼しくなりましたね、と届け中!>



しかし、急に冷え込んだと言うか涼しくなったな。
朝夕は流石に肌寒さを感じるよ。

美姫 「確かにね。ゆっくりとだけれど、秋も深まっていくのね」

しみじみ。って、感じで行きたい所だけれど。

美姫 「いや、いきなり泣かれても訳が分からないんだけれど」

だってよ〜。昨日、PCが、PCが。

美姫 「まあ、故障じゃないだけ良いじゃない」

そうだけれどな。全く、この間の休みにはマザーボードの電池を交換したばかりだというのに。

美姫 「そう言えば、起動の度にBIOS画面が出てたものね」

まあな。それはすぐに解決したんだけれど、昨日は……。

美姫 「まさか、ウイルスソフトがああなるとはね」

いやいや、可笑しいだろう。自動アップデートして、出来ませんでした、までは良しとしよう。
何故、その後、セキュリティが全て無効になって、しかも有効に出来ないんだよ!
権限がないとか言われて認証までできないし。結局は再インストールで何とか戻ったけれど。

美姫 「いやー、思った以上に時間が掛かったわよね」

うぅぅ、災難だった。

美姫 「はいはい、そんな暗い声で愚痴っても仕方ないでしょう。ほら、今週も元気に行くわよ!」

うぅぅ、ふぁ〜い。

美姫 「もっと元気出せ!」

ぶべらっ! イエッサー!

美姫 「それじゃあ、元気を出した所でCMいってみよ〜」







今にして思えば、あの一言が悪かったんだろうか。
いや、しかし、あれは不可抗力だったと言いたいね、俺は。
だって考えてもみて欲しい。
ふと思いついた事を口にする事なんて誰にだってあるだろう。
それをつい俺がしてしまったからといって、そうそう責められるべき事ではないはずだ。
それに俺だってうっかり口を滑らした訳ではなく、一応は周りを確認した上で口から出たんだから。
まさか、それを扉を開けようと部室の前に来ていたあいつ――涼宮ハルヒが聞いているなんて思うはずないよな。
断じてわざとではない。もう一度考えてもみてくれ、
もしもの時は間違いなく俺が走り回ったり、巻き込まれたりで、何の力も持たない平凡を自称する俺が、
そんな事態を好んで起こすと思うか。改めて言おう。決してわざとではない、これは不可抗力だと。

「ええ、あなたの仰る事は一々尤もです。確かにわざとではないでしょうね。
 そもそも僕との会話でふと漏らしたという感じでしたし。それは認めましょう。
 ですが、今回の事態の引き金を引いたのが誰かと問われれば、僕は悲しいかな、あなただと言わざるを得ません」

にこやかな笑みを浮かべ、あくまでも追求するのは言うまでもない古泉だ。
本人には追求の意志はないのかもしれないが、やはり言われている方としては追求されている気になっちまう。
が、今回ばかりは俺も強くは言い返せない。
平凡を自負しておきながら、こんな事態を引き起こす切欠を作ってしまうなんてな。
もしもやり直しが出来ると言うのなら、迷いなく俺はあの瞬間へと戻り、自分で自分の口を塞ぐね。
時間移動に関しては問題はないのだが、過去を変える事は無理なんだがな。
全く、どうしてこんな事になっちまったんだ。
いや、原因は分かっている。原因はな。
直接の原因は今更言うまでもなくハルヒで、遠因は俺だ。
全くもって、どうしてあんな事を聞いてしまったんだろうね。



「異世界、ですか」

「ああ、異世界だ」

例によっていつもの如く部室へと集まった俺たちSOS団のメンバーは、
これまたいつもの如く各々に好き勝手な事をしていた。
別に部活をサボっているという訳ではない。
涼宮ハルヒが作ったこのSOS団は、基本、団長であるハルヒが何かを思いついて実行する時以外は、
比較的自由行動なのだ。
故に今日も今日とて俺は古泉の敗戦記録を更新するべく、同色に挟まれただけであっさりと相手側に裏返ると言う、
まさに長いものに巻かれる世のあり方を縮小したかの如きゲームで、文字通りに白黒つけるべく、
互いに自分の色を増やしている真っ最中の出来事である。
俺は長考に入った古泉へと、何の気はなしに尋ねてみた。
勿論、ハルヒが居ないのは確認済みというよりも、今日はまた何か企んでいるのか、
一度部室に顔を見せたと思ったら、またすぐに出て行った為、不在であると分かった上で尋ねた。
それは、異世界が存在するのか、というものであった。
本当に深い意味があった訳ではない。
敢えて言うのなら、昨晩やっていた深夜番組の一つで地底国を探すと言うのをやっていて、それを見たからだろうか。
それを見るともなしに見ていた際、ハルヒが言った未来人云々を思い出したのだ。
その台詞通り、ハルヒの周りには本人は知らないが、未来人に宇宙人、超能力者が集まったのだが、
確かあの時、異世界人とも口にしていたなと思い、素朴に疑問を口にしただけなのだ。
が、古泉は元より細められている目を細めたまま、口元に指を当てて考え込む。
勿論、その思考は俺とのゲームを黙考している訳ではないだろう。
と言うか、ゲームの合間の軽い会話なんだら、軽く流せ。
今、お前が考えるべきは異世界の事ではなく、盤上の何処にソレを置くかだ。
まあ、どこに置こうが角は俺が取れる事に変わりはないんだがな。

「前にも何度か言いましたけれど、涼宮さんは本心ではそういう物が存在しないと思っています。
 どういう訳か、未来人や宇宙人、超能力は揃ってしまいましたけれどね。
 ですが、我々はあくまでも同一世界の住人だと言えます。可笑しな力を与えられたとしてもね。
 しかし、異世界人となるとまず前提として異世界が必要となりますよね。
 それはつまり世界をもう一つ作るという事に他なりません。
 そうなると、その世界にとっての神は涼宮さんという事になります。
 ですが、涼宮さんが存在するのは我々の居る世界。果たして、神の居ない世界は存在する事が出来るのでしょうか」

「よく分からんが、この世界だって神なんていないだろう。
 そもそも、アイツが神だと言っているのはお前たちだろう。前提からして可笑しくないか」

俺の言葉に古泉は意外そうな顔を見せやがる。失礼な奴だ。俺だってそれぐらいは言えるぞ。

「失礼しました。ですが、あなたが僕に質問をされたのですから、僕は僕なりの解釈でお答えしたまでですよ。
 そもそも、物事を定義するにあたって……」

講釈は良い。言っただろう、ゲームの合間のちょっとした話題だってな。
それよりも、さっさとその手に持った駒を置け。

「まあまあ。僕自身も中々興味深いと思いましたので、もう少しだけ続けましょう。
 仮にの話になりますけれど、涼宮さんの力が及ぼす影響がこの世界限定なのだとしたら、
 異世界はそれこそ力が及ばず、異世界があったとしてもこの世界には来れないとも考えられますね」

どちらにせよ、ハルヒの力そのものがよく分からない以上、議論は無駄か。

「まあ極論すればそうなりますか」

俺の言葉に古泉はさっきまでとは違い、今度は苦笑と分かる笑みを見せてようやく駒を置く。
置かれた場所に応じて、俺の駒がひっくり返されるのを眺めながら、俺は自分の駒を手にし、

「しかし、異世界人が居たとした面白い事になりそうだな」

古泉の考えが正しいとして、ハルヒの力がこの世界限定のものなら、
異世界の人にはハルヒの力は通じないと言う事だろう。
あのハルヒに対抗する人物という訳だ。普段、あいつの我侭に付き合わされている身としては面白い話だ。
尤も、あいつは自分の力の事を知らない訳だから、くやしがる顔は見れないだろうが。

「それはどうでしょうかね。この世界限定ではないかもしれませんし、
 もしそうだとしてもこの世界に来た時点で力を及ぼす事が出来るかもしれませんよ」

古泉は角を取った俺が古泉の手勢の多くをひっくり返すのを眺めながら、そんな事を口にする。
まあ、確かに論じるだけ無駄だけれどな。何度も言うが、単なる――。

「言葉遊び、ですよね。分かっていますよ」

俺の台詞を先取るように言って、古泉は今度は素早く駒を置く。
が、甘いな。それは罠だよ。お前がそこに置いてくれるのを待っていた。これで俺はここに置ける。
あっさりと自分が裏返した以上の枚数を裏返され、古泉は再び考え込み始める。
その様子をぼんやりと眺めながら、偶にはこういう事を考えるのも面白いものだと思う。

「しかし、異世界人というのは面白いかもしれないな」

何せ、ハルヒが初っ端にのたまった中で、俺が唯一お目にしていないのがそれだからな。
まあ、単純な興味というもので、本当に軽い気持ちで口にしただけ。無論、本気な訳がない。
今まで様々な経験をしてきているんだ。
もし、実際に異世界人が目の前に表れでもしたら、それこそ何に巻き込まれるか分かったものじゃないからな。
が、既に事態は遅かったようで、俺が先の面白いと言ったのと同時、扉が勢い良く開かれる。
ノックもなく、またそんな乱暴に開けるのは一人しかいまい。
故に、部室に居た全員が一斉にそちらへと振り向く。
その顔は程度にばらつきはあれど、皆同じでさっきの俺の台詞を聞かれていなかったか。
また、聞かれたとしても興味を持たなかったか。そこに集約される。
が、こんな時は俺たちの願望を綺麗さっぱり裏切って、更には斜め上の提案をするような奴である。
今回も輝かんばかりの満面の笑みで部室を足早に横切ると団長と書かれた机の前で俺たちを振り返って腕を組む。

「キョン、あんたにしては良い事を言ったじゃない。そう、異世界人よ、異世界人!
 私も丁度、そろそろ異世界人の一人ぐらい見つかっても良いんじゃないかと思ってたのよね」

そうのたまってくれた言葉に、古泉たち三人の視線が俺に突き刺さる。
仕方ない、今回ばかりは俺がそれとなく止めるしかあるまい。
縋るような視線の朝比奈さん、いつもと変わらない視線の長門、こちらもいつもと変わらないように見えるが、
その実、かなり焦っているであろう古泉の視線を受けてハルヒへと問いかける。

「異世界人なんて居ないだろう」

「何を言っているのよ! 大体、キョンも面白そうだって言ったじゃない。
 大丈夫、キョンの期待に応えるべく計画した事があるから」

ちょっと待て! 確かに面白いと言った事は否定しない。
否定はしないが、居たら面白いかもであって、お前が何かしようとしている事に対してではない。
などという俺の抗議など聞くつもりもなく、ハルヒの奴は勝手に喋り始める。

「私、昨日の夜にテレビを見てたのよ。それは地底国を探すという奴だったんだけれどね。
 結局は見つけれなかったんだけれどね」

あれは俺も見ていたよ。だが、まさかとは思うが地底が無理なら異世界とか言うんじゃないだろうな。

「そんな単純な考えじゃないわよ。
 いい、地底国があったとしても、そう簡単に入り口なんて見つかるはずないでしょう。
 でも、異世界なら話は別よ」

いやいや、異世界の入り口なんてそれこそ簡単に見つからないだろう。

「分かってるわよ! キョン、ちょっと黙りなさいよね! 話が進まないじゃない」

俺の所為じゃないと思うが、まあ良い。とりあえず言ってみろ。
俺が促すとハルヒは大仰に頷き続ける。

「異世界って言うぐらいなんだから、そう簡単に行き来はできないじゃない。
 ううん、そもそも入り口なんてないと言えるわね。
 でも、これは考え方を変えると、決まった入り口はないだけとも言えるわ。
 異世界だもの、こちらの常識と違う可能性もあるわ。
 だとするのなら、こちらから何らかのアクションを行えば入り口を作る事も可能のはずよ!」

あー、よく分からないんだが。何故、そのような結論になる?
つまり、お前が言いたいのは入り口がないのなら作ってしまえという事だろう。
単なる力技の上に――。

「煩いわね。ちゃんと説明してあげるわ。まず異世界という存在、いえ、概念と言っても良いわね。
 平行世界と異世界は別物だという事をまず念頭に置きなさい。その上で前者をエヴェレットの多世――」

「説明の途中で悪いが、小学生にも分かる説明で頼む」

「…………」

解説の途中で遮ったのが悪かったのか、ハルヒは不機嫌さを隠そうともせず俺を無言で睨むと、

「あんたは私の言うとおりにしなさい。そうすれば異世界の扉が開くから!」

などとのたまってくれた。
俺は背中に批難の視線を感じながらも、訳の分からない講釈を前に沈黙するしか出来なかった。
まあ、古泉が言うにはハルヒの奴はこう見えても常識人らしいから、心の奥底では分かっているらしい。
故に、成功する事はないだろうとこの時までは思っていたのだが、これが楽観すぎる考えだと思い知る事になるとは。




「涼宮ハルヒは魔術という媒介を介す事によって、己の常識を少しだけ変えた」

「つまり絶対に起こりえないという無意識の認識に魔術という未知のファクターを加えた事で、
 僅かなりとも起こりえるという気にさせたと理解すれば宜しいんですね」

事が起こり、ハルヒを除くメンバーが集まって早々、長門と古泉が話し始める。
最初はよく分からない単語が羅列していたのだが、古泉や俺の説明を求める声に噛み砕き、噛み砕き、
ようやく分かる単語になってきた所だ。
が、ちょっと待て。ハルヒは無意識にそんな事はないと思っているからこそ、可笑しな事は起こらないんだよな。
無言で頷く長門に俺は更に問いかける。

「だったら可笑しいじゃないか。魔術なんてものも常識では可笑しな出来事だろう。
 だったら魔術を行ったとしても本当に異世界の扉が開くなんて事は起こらないんじゃ」

「確かに魔術だけを行った場合はそうだったのかもしれませんね。
 これはあくまでも仮説ですが、科学で証明できない出来事というのは実際に世界で例があります。
 その上で今回の大掛かりな仕掛けによる魔術です。もしかしたらという希望が混じった可能性がありますね。
 本来ならそこで何も起こらず、もしくは小さな不思議が起きて終わりとなりますが……」

「今回涼宮ハルヒが行ったのは異世界間のゲートを開く魔術様式。
 本来は外宇宙におけるワープと呼ばれる技術のプログラムを展開した図解だったが、
 幾つか知らない図式も存在した。恐らくは涼宮ハルヒが独自で作り上げたプログラムの可能性がある」

あー、何か。つまりは……どういう事だ?

「簡単にまとめますと、涼宮さんの力が働いたのは今回の魔術の儀式に関してだけという事です。
 いつもなら、この適当に描かれた魔法陣の影響で前みたいなバグが発生する程度だったんでしょうね。
 ですが、今回の儀式ではこれまた涼宮さんの不思議な力の所為か、
 離れた空間を繋げるゲートが予め用意されていた。
 そこに力が発揮され、望んでいた異世界へと繋がるプログラムへと書き換えられたといった所でしょうか」

つまり、最悪な形でハルヒの望みが実現してしまったという事か。
まさに悪魔の悪戯だな、おい。

「そ、それでこれからどうなってしまうんでしょうか」

「幸いなことにゲートは既に閉じていますからね。
 こちらにやって来た異世界人たちを涼宮さんに見つかる前に探し出し、元の世界に送り返せば問題はないでしょう。
 幸い、長門さんが先ほどの魔法陣を覚えていてくれてますし、もう一度だけ涼宮さんに儀式をしてもらえば」

「……駄目」

古泉の台詞に安堵し掛けた朝比奈さんだったが、静かな長門の声に弾かれたように顔を上げる。
いや、朝比奈さんだけじゃなく俺たちも同様に長門を見る。
なあ、長門、一体何が駄目なんだ?

「こちらの世界に周りの空間ごと呼び出され、世界が融合している箇所もある。
 また呼び込まれた世界は一つではなく複数の世界と繋がった」

おいおい、それはいきなり異世界の一部が出現したという事か?
俺の問いかけに長門は頷き、

「幸いすぐに二つの世界を隔てる障壁の展開に成功したと連絡が来ている。
 でも、これらを一度に送り返すには彼らの協力も必要」

彼らというのは異世界から来た人たちか?
協力って何をだ?

「ゲートを開くのは涼宮ハルヒの力で可能。
 けれど、世界が違えばそこにある概念も違って来る。
 ゲートを開いて送り出したとしてもその異なる概念が邪魔をする」

「ああ、そういう事ですか。ですが、それぐらいなら長門さんの方で何とかなりませんか?」

「すぐには無理。異世界には情報統合思念体が存在しない。故にその世界の概念の把握が出来ない」

「だからこそ、協力が必要となる訳ですか」

古泉の言葉にコクリと頷く長門。
まあ、よくは分からないが捕まえるというと語弊があるだろうが、とりあえずは異世界人を捕まえないといけないと。
それで良いんだよな。何だ、古泉、何か文句あるのか。

「いえいえ、ありませんよ。確かに僕たちに出来る事はそれだけですからね。
 とは言え、そう簡単にはいかないでしょうね。
 僕たちと全く違う姿形をしてくれているのなら楽なんでしょうけれど」

言われてみれば確かにそうなんだが。どうなんだ、長門。

「今回こちらに呼び込まれたのは全部で49の世界。
 その内、こちらの世界の有機生命体と異なる姿をしているのは2世界のみ」

おいおい。と言うか、約50もの世界が繋がったのかよ。考えただけでもうんざりするな。
しかも、会うたびに異世界から来ましたかと尋ねるなんて、違ったら間違いなくこちらが変な目で見られる。

「大丈夫。今夜の内にワクチンを作って注入する。それで異世界から来たかどうか分かるようになる」

それは正直助かるな。

「ええ、確かに。それと幾つかの世界は隔絶して封鎖してくださったのも助かりますね。
 まずはそちらから伺えば少しでも時間のロスもなくなるでしょうし」

だな。疲れるが仕方あるまい。よし、それじゃあ頑張るとしますか。
こうして俺たちの異世界人探しは始まった訳だが……。



「で、ここは何処だと思います鉄先輩」

「見た所、竜鳴館ではないようだが」

「ボク、祈ちゃんの魔術でフカヒレを生贄にした所までは覚えているんだけれど……」

「と言うか、そのフカヒレが死んだようにピクリとも動かないんだが」

「祈先生、大丈夫なんですか?」

「……対馬さん、問題ありませんわ。それよりも現状の把握が先です。土永さん、お願いしますね」

「おっしゃー! まかせておけー」

空に向かって羽ばたくオウムを見送り、レオたちはそれとは別に動き始めるのだった。



「さて、ここは何処だと思う美由希」

「えっと、ちょっと見たことないかな」

「家ごとテレポートなんて私やフィリスたちが集まっても無理だよ」

高町家の門前に出て恭也たちは目の前の光景に驚きの声を上げる。

「で、忍、言い訳はあるか?」

「ちょっと待ってよ恭也。私じゃないってば!
 確かにちょっと発明品は失敗したけれど、こんな事は流石に無理よ」

「恭也さん、もしかしたら霊が関係しているかもしれません。
 微かだったので気のせいかとも思ったんですけれど、忍さんの発明品が爆発する瞬間、確かに霊力を感じました」

那美の言葉に恭也は忍から視線を逸らし、改めて目の前の景色を見遣る。
見渡す限りに木々が生い茂り、少し先は下り坂となっている正に山奥という光景に。

「どちらにせよ、少し周囲を見て回った方が良いかもな。かーさんたちは家に居てくれ」

「恭ちゃん、私も一緒に」

「いや、万が一の為にもお前は家に居てくれ」

「もしこれが霊障によるものだったら、私の方が気付くかと思いますから私も行きます」

「だったら、ノエル。恭也と那美と一緒に行動して」

「分かりました」

こうして高町家も事態の把握をするべく動き始める。



「さて、部室を出たらそこは見知らぬ土地という状況な訳だが」

「ふむ、こういう場合はやはり周囲の探索が基本か」

「来ヶ谷、その通りだ。という訳で……」

「って、どうして二人ともそんなに落ち着いているのさ!
 普通に考えて可笑しいよね、この状況! って、皆も何か言ってよ!」

「何かって何をだ?」

「俺に難しい事を聞かれても困るぜ、理樹」

「にゃははは、はるちんも同じく!」

「わふー! そ、その私が思うにです……え、えっと、わふー! ソーリー、アイドントノウ」

「まあ落ち着け。何が起こったのか知るためにも周囲を調べて回ろうと言っているんだ。
 とは言え、流石に単独行動はまずいからな。二手に分かれるぐらいが妥当だろう。
 と言うわけ、ミッションスタートだ!」



「どうして僕たちはこんな所にいるんでしょうか」

「兄貴、おれっちたちは確かに魔法の国へと続くゲートをくぐったはずだぜ」

「でも、どう見ても日本よね、ここ? それとも魔法の国ってこういう所なの、ネギ?」

不思議そうに周りを見渡す明日菜にネギは首を横に振って答える。
その間に刹那が自分たちの足元に一緒に運ばれた荷物がある事を見つける。

「とりあえず、何が起こっているのか確認する為にも武器は出しておきましょう」

封印されたケースを明日菜が殴り、そこから自分たちの武器を取り出す。
その上で周囲を見渡せば、電柱柱に自動販売機。既に夜暗いからか街灯には明かりさえ灯っている。
首を傾げつつ、ネギたちは慎重な足取りで歩き始めるのだった。



49の世界が一つの世界と繋がり、キョンたちの人探しの日々が始まる。
繋がった世界は全てが平和な世界とは限らない事をこの時はまだ考えてさえいなかった。
果たしてキョンたちは無事に元の世界の形を取り戻せるのか。



涼宮ハルヒの世界 〜49世界融合〜







うーん、疲れた〜。

美姫 「何もしてないのに?」

いや、何か肩がこっているみたいなんだよな。

美姫 「もんであげましょう」

珍しく優しいじゃないか。

美姫 「いつも優しいわよ。失礼な奴ね」

ははは、すまん、すまん。じゃあ、頼む。

美姫 「おっけー。それじゃあ、はぁぁっ!」

ぐぎゃぁっ! ちょっ、いた、それ痛い。って、つぶれる、つぶれる!
肩揉みでミシミシと骨が軋むのは可笑しいから! って、やめれ!
ぐぎょっ! みょっ!

美姫 「とどめ!」

ぶべらっ! とどめって何だよ!
と言うか、最後のは明らかに殴りましたよね!

美姫 「あ、時間だわ」

いやいや、聞けよ人の話!

美姫 「さっさと締めなさいよ!」

ぶべらっ! い、良い子の皆、これが理不尽っていう奴だよ――ぶべらっ!

美姫 「変な事を吹き込むな! 因みにこれが自業自得って言うのよ」

い、いや、何かが間違っているから……。

美姫 「良いから時間よ」

うぅぅぅ、分かったよ。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


9月4日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、とうとう9月になっちゃったな、とお送り中!>



いやー、暦上では秋。

美姫 「それは結構、前からそうだったわよ」

まあ、そうなんだが、やっぱり暦と言われてもピンと来ないじゃないか。
八月が過ぎて、ようやく秋かなと。

美姫 「まあ、確かにそういう部分はあるわよね」

だろう。まあ、それ以前に先週末ぐらいに夜にこおろぎが鳴いてて秋なんだ、とか思ったが。
でも、ちょっと早いような気もしたがな。

美姫 「実際、どうなのかしらね。虫たちにとっては早くないのかもね」

確かにどうなんだろうな。と、ちょっと長い前説になったが、何と!
何と、何と!

美姫 「今回は久しぶりにゲストさんをお呼びしてます」

という訳で、今回のゲストはアインさんの所から――ぶべらっ! もう一つぶべらっ!
コンボが繋がっ――ぶべらっ!

美姫 「ブリジットが来てくれました〜」

ブリジット「お久しぶりです」

美姫 「本当に久しぶりね。元気そうで何よりだわ」

ブリジット「ありがとうです」

ま、待て、お前ら。言う事はそれだけか?

美姫 「何よ。ゲストが登場しながらアンタを殴るのはいつもの事じゃない」

ブリジット「そうです。今回は偶々、ボクが殴って吹っ飛んだ先が美姫さんの所だっただけです」

美姫 「そして、最後のは突っ込みよ」

いや、色々と突っ込みたいのは俺の方なんだが?
まず、ゲスト登場と同時に殴られるなんて別に恒例じゃないからね!
それとブリジット、偶々どころか、狙ってたよね! 明らかに美姫の立ち位置確認してたよね!
で、最後のあれは突っ込みというレベルじゃないし、わざわざ吹っ飛んだ俺に追いついて追撃するな!
ぜ〜は〜、ぜ〜は〜。

美姫 「そうそう、最近メールの調子がおかしいのか、アインさんや異識つみきさん、
    他数名宛てのメールが戻ってきてしまうみたいなのよ」

ブリジット「そうなんですか」

美姫 「ええ。その後、もう一度送るとちゃんと送れているみたいなんだけれどね。
    という訳で、返信が来ない場合もあるかもしれませんが」

ブリジット「でも、それだとちゃんと届いたかどうかは分からないです」

美姫 「基本的に送ってから一週間以上放置する事はないわ」

ブリジット「事前に更新ができないという連絡がない限り、週一でこの番組があるからですね」

美姫 「そういう事よ。偉いわね、ブリジット」

ブリジット「えへへへ、褒められたです」

美姫 「そんな訳で、何かあれば掲示板かこの番組で取り上げますので」

ブリジット「メールを送って一週間以上、何も連絡がない場合は届いていない可能性があるです」

美姫 「お手数を掛ける形だけれどね」

ブリジット「確かにそうです。これも全て……」

美姫 「こいつが悪いのよ!」

ブリジット「諸悪の根源。悪滅です!」

ぶべらっ! 散々、無視された上でこの仕打ちかよ!
……理不尽だ。

ブリジット「あ、そう言えばお土産があったんです」

美姫 「あら、ありがとう。それじゃあ、早速だけれどお土産を開けちゃいましょう」

ブリジット「はいです」

美姫 「それじゃあ、アインさんから頂いた……」

ブリジット「CM、いくです!」








『ピクトグラムの課題 〜その後〜』



「……ときめき注意……迷走中……反抗期?」

海鳴高校芸術科GA1クラスの担任、外間先生が提出された課題をめくって行く。
目にした三枚はそれぞれ如月、トモカネ、ノダの作品だった。

「ほう……感性はあると思う」

そんな外間先生のクラスの生徒達の作品を後ろから眺めているのは、別のGAクラスの担任である笹本先生、
通称トノ。外間先生のクラスの問題児達の作品がお気に召したらしく、

「早く次をみせて、次を」

といつも男口調の彼女がらしくなくせがんでいた。
そんなトノの言葉に疲れたようなため息を吐き出した外間先生。

「いや、でも需要はないぞこれ」

と三枚を見て苦い表情をするが……

「……いや、そうでもない」

と言ってその中の一枚を外間の手から抜き取った。

「ちょっとこれ貸してくれ。コピーしたらすぐ返すから」

そのままコピー機の前で待つトノの表情は、外間先生がかつて見た事もないような笑顔だった。



そして、翌日……

「……すみません。普通科三年の高町と申しますが、如月さんという方はいらっしゃいますか?」

GA1組にそのトノの被害者が現れた。
その人はご存知、高町恭也。
その存在は海鳴高校内のみならず街でも有名で、GAクラスの一年とはいえ恭也の存在は当然知っている。
ので……

「たっ高町先輩っ!?」

当然、取次ぎを頼まれた哀れ(?)な女子生徒はこうなる。
どもりながらも何とかその場で待ってもらうように頼んだ一クラスメイトの彼女は大急ぎで如月の机まで走った。

「きっ、ききき如月さんっ!」

「はっはいっ!?」

良くも悪くも如月はこういう娘。
テンパった彼女のテンションにそのまま乗っかってしまい、収拾がつかない。

「はいはいどうした、如月?」

「なんだー? なんかあったのか?」

「男? 男がらみ?」

「如月殿のイメージではないな」

そんな所にやってきたのは、ナミコ、トモカネ、ノダミキ、キョージュのいつもの四人。
何とか落ち着きを取り戻したクラスメイトから事情を聞くと……

「エーッ!? 高町先輩が如月ちゃんをっ!?」

事情を知って驚くノダだが、他の四人はあまりその驚きが伝わっていない。
それもそのはず。

「ほう、高町殿がいらっしゃっているか」

「たっかまちセンパーイっ! こっちこっち〜」

「ども、高町先輩」

「へ? へ?」

キョージュ、トモカネ、ナミコの三人はすでに恭也と面識があったのだ。

「あぁ、雅さん、友兼に……ん? 野崎もか」

友兼に呼ばれて遠慮がちに教室に入った恭也は、顔見知りが三人もいた事で少し安堵して歩み寄る。

「み、皆さんお知り合いなんですか?」

「知りたい知りた〜い! 何で? 何で皆知り合いなの?」

如月の質問とノダの我侭に応える形で事情説明。
どうやらキョージュは親伝手、トモカネは登校時間の関係で恭也と知り合いらしい。
そしてナミコは……

「野崎は子供の頃から翠屋に通ってくれてる、ウチの常連だ」

「もうかれこれ……何年くらいでしたっけ?」

「そうだな。確か俺が……あぁ、もう六年くらいになるのか」

かなり気合の入った昔なじみだった。
しかしそこには当然、女の子としての気持ちがあったからこそ小学生に時分から喫茶店に通っていたわけで……

「……へぇ……ナミコさんがねぇ♪」

そんな所は妙に鋭いノダに完全に感づかれていた。
しかしそんなノダを強引に無視したナミコは、

「で、恭也さん。今日は如月に用事だって聞いたんだけど?」

と話をこれまた強引に元に戻した。

「あぁ、そうだ。如月さんというのは、貴女で間違いないですか?」

「ふぁ、ふぁい!?」

「実は笹本先生から頼まれまして、如月さんが、ピクトグラム、だったか?
 の課題で提出した作品を使いたいので許可を貰ってこい、と」

「へ? あ、そ、それは一体……」

戸惑う如月だったが、それは恭也も同じようだ。

「どうやら高町殿も事情を聞いていないようだな」

「あぁ。ただ、別に悪用する訳ではなく実際に使えるかどうか試してみたいとしか」

「へぇ。いいじゃんいいじゃん如月っ! お前の作品バッジとかになるんじゃねぇ?」

「まぁ、使うって事はそういう事なんだろうな」

結局如月は、どう使うにせよ使用後に自分の手元に戻ってくるならという条件で了承した。
それを聞いて別に自分の用事でもないのに律儀に頭を下げた恭也にドギマギしてしまった如月だったが、
その場は早速報告するといって恭也が教室を出た事で収まったのだった。
そしてそんな後ろ姿を見送った知り合い達の後ろでノダが一言……

「あれ? 如月ちゃんの作品ってたしか……」



「外間先生」

それから数日。
ピクトグラムの課題を返却する為に纏めていた外間先生にトノが声をかけた。
そして手に持ったバッジを、

「これ、その作品を作った娘に渡しといて」

と言って外間の手に落とした。

「……なんに使ったんだ、これ」

不思議そうにバッジを眺めながらそう呟いた外間にトノは、

「そのとおりの意味で使ったんだよ」

とニヤリと笑う。

「ちなみにそれ、効果なかった」

「…………は?」

「いや、ときめきってのは注意したところでそこに近寄らないなんて行動は取れないもんらしい。
 特に、女子はな。それどころかそれつけさせた所為で余計少しでもときめきたいって言い寄る女が増えてたぞ。
 当人はそんな事露知らずって感じだったがな」

「…………それをどうやって、誰につけさせた?」

もう分かっているといったそぶりで聞いた外間の耳に届いたその名前は、やはり予想通りだった。

「美術の授業の単位楯にして、つけさせた。



高町恭也に、な」



「恭ちゃん恭ちゃん、そのバッジ何?」

「? さぁ。これを数日、いいと言われるまで着けていたら単位を貰えるらしい。何かの実験だといっていた」

(だ、誰だか知らないけど…………恭ちゃんのは注意してたからってどうにかなるもんじゃないんだよぅ)

「ん? どうした美由希」

(むしろ身構えていればいるほど威力が…………誰だか知らないけどこれ、完全に逆効果だよっ!)



ちなみに返却日……

「如月、お前にこれを渡せって笹本先生が。三年の高町がつけてたらしいんだが……あと、逆効果だったそうだぞ」

そんな外間の言葉を聞いたいつもの五人組は、同じ事を思った。

『それはそうだろうよ』

と。







美姫 「という訳で、GAとのクロスをお土産にもらいました〜」

ありがとうございます。

ブリジット「美姫さん、大した事はないです。管理人さん、感謝しろです」

その違いは何!?

美姫 「はいはい、落ち着いて、深呼吸、深呼吸」

す〜は〜。す〜は〜。よし!

しかし、それにしても、本当に偶然と言うか。

美姫 「本当よね」

ブリジット 「何がです?」

いや、今日のCMなんだけれど……。

美姫 「まあ、百聞は一見ってね」







海と山に囲まれ、未だに自然を残しながらも発展した都市、海鳴。
その海鳴にある私立の教育機関、風芽丘学園、通称、風校と呼ばれる学園は、数年前に海鳴中央と統合し、
更にその数年後に中、高、大を併設していた彩井学園とも統合して、とてつもない広さを誇る学園へとなっていた。



「…………第三美術室というのはここか」

高等部の芸術科校舎、その三階の奥に位置する教室の前で恭也は掲げられたプレートを確認しながら呟く。
その隣で美由希も同じようにプレートを眺めて、それが間違っていない事を確認する。

「それにしても高等部だけでもかなり広いよね、この学校」

「普通科だけでなく、芸術科に工業科、衛生看護まであるからな。
 しかし、普通科なのに選択授業で芸術の教科があるのはどう思う?」

「そんな事を私に言われても。第一、その選択で美術を選んだのは恭ちゃんでしょう」

「音楽は聞く分には嫌いではないが、自分が歌うとなるとな」

恭也の言葉に苦笑を浮かべつつ、美由希は偉そうに人差し指を一本立て、

「そもそも授業中に終わらす事が出来なかった恭ちゃんが悪いんだから。自業自得だよ」

「同じように授業中に完成させる事ができず、放課後に居残りをさせられている奴には言われたくはない」

「わ、私は恭ちゃんと違って起きてちゃんとやってたもん。
 ただ、遅くて授業中に終わらなかっただけで」

ぶつくさと述べられる美由希の文句を聞き流し、恭也は美術室の扉を開ける。
中には先客が居たようで、突然開いた扉に驚いたようにこちらを振り向く女子生徒たち。

「すみません。使用中だとは思わなかったので。
 えっと、ここで作品を完成させるように言われているんですけれど……」

「ああ、こちらこそすみません。誰も使ってなかったんで、勝手に使ってたんですよ。
 勝手にとは言っても、一応、外間先生の許可は取っていたんですけれどね」

恭也の言葉に応対してくれたのは、一年生らしく場所を譲ろうとしてくれる。
それを制し、端を使わせてもらうからと断る。

「恐らく、先生たちの間でも連絡がまだ行ってなかったんでしょう。
 教室は広いですし、俺たちはこちらを使わせてもらえれば」

こうして無難に話が決まって行く中、対応した少女の後ろでは一際元気そうな少女と、
頭の両脇でおだんごを作ったほわほわした感じの少女が騒いでいた。

「ほら、あれって普通科の高町先輩だよ」

「高町? 何だ、有名なのか? むむ、何処となくキョージュに似た雰囲気。
 できる」

「違うよ、だって先輩は普通科なんだから。勿論、普通科でも上手い人はいるけれど。
 そうじゃなくて、何かね、ファンクラブがどうとかお姉ちゃんが言ってたの」

「いや、俺が言ったのは別に絵が上手いとかじゃなくて、何かこう、雰囲気的に強者というか」

「それを絵で表現するとどんな感じ?」

「そうだな、おうズババッと!」

「って、少しは静かにしなさい!」

後ろで本人たちは聞こえていないつもりだったのだろうが、そこまで広くない故にはっきりと聞こえてくる。
二人へと注意をするのは対応してくれた女の子で、注意した後ひたすら頭を下げてくる。
苦笑しつつもそれを宥め、何となくこのまま名乗らないのもという雰囲気からか互いに名乗り始める。

「俺は高町恭也と言います。こっちは妹の美由希です」

「よ、よろしくお願いします」

「あ、どうも。あたしは野崎奈三子と言います。
 あの騒いでいた二人が……って、お前らは何をしているんだ?」

「ああ、ナミコさん気にしないで紹介して」

「そうそう、オレたちの事は気にせず」

その言葉に従った訳ではないだろうが、後ろで何やら大きめの板を引っ張り出している二人を無視し、
黒髪の少女とポニーテールに眼鏡の少女を紹介する。
一通り紹介が終わった所で、先ほど飛ばされた二人が名乗り始める。

「私は野田ミキ、よろしくね」

「オレは友兼だ!」

ミキの背後にはそれぞれお花畑にキラキラと光る描写が、友兼の背後には雷が何故か見えるような気が、
いや、実際にはっきりとそれが目に見える。背後に置かれた板に描かれているから。

「またそういう事だけは無駄に力が入ってと言うか、早いな」

疲れたように呟く奈三子だった。



何だかんだとあったものの、何故か同じ場所で作業する事になり、人見知りする美由希には珍しく、
既に打ち解けたのか、課題をしながらも山口如月と名乗った少女と色々と話していた。

「ふわー、やっぱり芸術科の生徒だけあって上手いですね」

「そ、そんな事は……」

「あ、この端に描いてある猫可愛い」

「本当ですか!? 他にもあるんですよ」

美由希の言葉に大人しかった少女は少し口調も強く、スケッチブックを捲る。
わぁ〜、とは、ほぇ〜とか擬音を口にしつつ、美由希は如月の描いた絵に見入っていやかと思うと、
不意に携帯電話を取り出して、それを開くと如月へと見せる。
が、その途中で携帯電話を落としてしまい、二人して慌てて拾おうと手を伸ばして頭をぶつけ合う。

「ああ、ごめんなさい、如月さん」

「いえ、こちらこそすみません、美由希さん」

言って互いに頭を下げ、またしてもぶつけ合う。
これを更にもう一回繰り返し、ようやく頭を下げずに謝罪だけを口にし合う。
携帯電話も無事に拾い、お互いに微笑み合って椅子に座ろうとして、
さっきの騒動で椅子が倒れていた事に気付かず、そのまま床へと転ぶ二人。
何の不運か、偶然にも二人の足が絡まり……。

「あう、立てない」

「ああ、ごめんなさい美由希さん」

「いえ、私の方こそ。えっと、これが私の足だから」

「ああ、それは私の足です、美由希さん」

「ごめんなさい。えっと、こっちに来ているのが私の足だから」

「ここをこうすれば良いんじゃないでしょうか。って、私の足がそっちには曲がりませんでした」

何故か中々立ち上がる事が出来ずにいる。
あまりな光景に思わず眺めていたが、このままでは日が暮れると思い助けようとした時、
ようやく二人は自力で起き上がると、何事もなかったかのように椅子を直していない事も忘れて再び座ろうとし、
またしても床に転ぶ。そんな様子を何とも言えない表情で皆が見る中、流石に恥ずかしそうに笑いながら、
二人はようやく椅子に座ると、直前にやろうとしていた携帯電話の画像を開く。

「えっと、そのスケッチブックの猫って、もしかして第一校舎と第二校舎の隙間に居るこの猫ですか」

「ああ、この子です。ああ、可愛く撮れてる」

「偶々、移動している時に寝ているのを見かけて撮ったんですよ。
 他にも……」

「はぁ〜、これもまた」

既に課題の事など忘れたかのように猫の写真に見入る二人。
それに若干呆れつつも、奈三子は自分もまた作業に戻ろうとして、その袖口を両側から引っ張られる。

「残念だけれど、おやつは持ってないよ」

「違うよ、そうじゃなくて、如月ちゃんたちも似た者だけれど、あっちもほら」

「あれも中々面白いと思わないか、ミナコさんや」

言われて友兼が指差す先では、黙ったまま手を動かす二人。
だが、特に面白い事もない上に真剣に課題に取り組んでいるからこそ、互いに無口というだけ。
別段似た者でもないだろう、というのが奈三子の率直な意見なのだが。
それでもミキたちに言われて見ていると、

「……む」

「……ふむ」

どちらも首を傾げ、短く言葉を発すると再び手を動かす。
が、暫くするとやはり手を止めて描いた絵を眺め、

「「…………黒を増やすか」」

互いに黒を更に使うようで、黒のチューブを手に持つ。
よく見れば、二人のパレットの半分近くは黒が出されている。

「ね、何か似てない」

「無口で表情があまり変化しない所もそうだけれどさ、色使いがどっちも黒とか暗色系が多いみたいでさ」

言われて、今度は奈三子も首を縦に振るのだった。



「…………ああー!」

美由希たちも課題に取り組み始め、暫く経った頃に突如として大声を出す友兼。
当然ながら驚いて奈三子たちが友兼を見れば、こちらは頭を抱えて悩んでいる様子を見せる。

「一体どうしたんですか、トモカネさん」

見かねたのか、如月がそう問いかければ、友兼は恐ろしい事に気付いたとゆっくりと喋り出す。

「今まで人物画なら特徴的な眼鏡と転んだ後ろ姿で如月だと認識して合格もらえてたのに!
 これからは高町と見分けが付かないとか言われそうだ!」

「そんな事をしてたんかい!」

大げさに騒いだ割には内容が内容で、思わず突っ込む奈三子の隣で、恭也は平然とそれはいい案だと頷き、

「友兼さん、大丈夫ですよ。美由希は普通科の生徒だから美術科の先生が知っているとは限りませんから」

「おおう、そうか。助かったぜ、高町先輩」

「いえ。それよりも、さっきのは素晴らしい発想ですね。
 今度、人物画のデッサンがあったら、俺は美由希を描こうと思いました」

「いやいや、高町さん! そこは真似してはいけない所ですから!
 そもそも妹さんとは学年が違うじゃないですか!」

「……ああ、言われてみれば」

このメンバーでも、やっぱり奈三子は突っ込みになるようであった。



あれ以来、学園で顔を合わせると会話したりするぐらいに親しくなった恭也たち。
今日は美由希が中庭の掃除という事で恭也が美由希に懇願されて中庭に来たのだが、そこには先客がいた。

「大道さん、どうかしたんですか?」

「高町殿か。別に何かという訳ではないのだが。そちらは?」

「ああ、美由希の奴がここの掃除らしくて泣きついてきまして」

言って見遣る先には、この学園の名物とも言える鶏、おにわとり様に突付かれている美由希が居た。

「なるほど。あれは襲われていたのか。新しい遊びか、戯れているのかと思って眺めていた。
 美由希殿には悪い事をした」

言って雅はおにわとり様に近付くと手を上げる。
途端、それまで暴れていたおにわとり様が一列に整列する。

「す、凄い。恭ちゃん以外にもおにわとり様が懐いているんだ」

美由希の言葉に後ろを見れば、何羽かが雅の号令とは別に恭也の足元に並んでいる。
こちらは構ってくれと甘えるように足に擦り寄っている。
二人は無言で視線を交わし合い、おにわとり様を掃除の邪魔にならないように連れて行く。
隊列を組むように、恭也と雅の後ろにそれぞれ一列に並び、二人が並んで歩く後ろを付いていく。
こうして、学園にまた一つ奇妙な噂話が生まれるのだが、それはまた後日の事であった。




風校GA







ブリジット「こっちもGAです」

そうなんだよ。
元々、このネタを書いてて、アインさんからのお土産も同じGA。
偶然にも元ネタが重なったなと。

美姫 「珍しいかもね」

だな。最初は違うネタにしようかとも思ったんだが。

ブリジット「そのまま行ったですね」

まあな。どうせ来週になるだけだし。

美姫 「最近は本当に色々とアニメになってるわね」

昔にくらべると確かに多くなった感じはあるかも。
アニメになったお蔭で今までは中々見つからなかった本が、発売に買えるようになったりという事もあるからな。

美姫 「確かにそれはあるわね」

ブリジット「アニメ化されると目立つ所に置かれるです」

まあ、昔それで勘違いして新刊が出たんだと思って買って帰り、中を見てあれ、読んだ事が……。
なんて事が起こったりもしたが。

ブリジット「バカです」

美姫 「馬鹿だわ」

おおう、昔の古傷に今更ながら塩を!
因みに一回や二回じゃなかったりな。

ブリジット「ちょっとは確認するです」

いや、何巻とか正確に覚えてないし。更に言えば、巻数がないのとかもあるし。
立ち読みできないようにしているから、あらすじとかが中に書かれている物だと確認もできませんし。

美姫 「だとしても、少しは過去から学びなさいよ」

…………返す言葉もない。

ブリジット「ああ、そうそうこれを渡すのを忘れていたです」

ケーキだな!

美姫 「はやっ! 普段からは考えられない俊敏さを見せたわね」

ふふふ、何とでも言うが良い。

美姫 「馬鹿、くず、まぬけ」

ブリジット「ドジ、のろま、ヘボ」

美姫 「ヘタレ、最弱、アホ、ボケ、カス」

ブリジット「サボリ魔、美姫さんに迷惑しか掛けない奴」

美姫 「本当よ。この変人、遅筆……」

や、やめて、もう、やめて!
本当にHPは0所か、マイナスよ!
うぅぅぅ……。

ブリジット「ちょっとやり過ぎたですか?」

美姫 「この程度なら問題ないわよ」

おおう、相方が、相方がツメタインデス。
チットモヤサシクナインデス。

ブリジット「急に言葉が片言になったです」

美姫 「まあ、これもいつもの事と言えばいつもの事よ」

って、普段の俺はお前の中ではどんな奴なんだよ!

美姫 「ほら、戻った」

うぅぅ、虐めがありました〜。

美姫 「虐めはありません」

ブリジット「寧ろ、美姫さんが虐められているです」

美姫 「そうよ、そうよ」

って、何でやねん!

ブリジット「だって、全然、美姫さんの言う事をきいてないです」

いやいやいや。それを虐めというのなら、美姫だってちっともきいてませんよ?

ブリジット「お前と美姫さんを一緒にするな、です」

ひどっ! 今度こそ大きな虐めが――。

美姫 「虐めはありません」

う、うぅぅ。二人掛かりなんて酷い。

ブリジット「なら、そっちも二人で構わないです」

よし、なら誰かに応援を……。って、勝てる気がしねぇ!

美姫 「はいはい、もうボケは良いから」

お、そろそろ時間か。

美姫 「そうよ。だから、さっさと締めるわよ」

おうともさ。

ブリジット「あー、久しぶりだったんで驚きましたが、確かにこんな感じでした。相変わらずです」

美姫 「まあね」

はっはっは、照れるな〜。

美姫 「褒めてないわよ!」

ぶべらっ!

ブリジット「やっぱり、これがないと落ち着かないです」

いや、冒頭の方であったよね?

美姫 「良いから締めなさい」

ふぁ〜い。……コホン。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫&ブリジット 「また来週〜」










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