戯言/雑記




2010年1月〜2月

2月26日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、早いもので二月も終わり、とお届け中!>



昔の人は上手い事言ったもんだな。

美姫 「突然、何よ」

ほら、行く逃げる去る、だったか。

美姫 「あー、新年明けて一月から三月の事ね」

そうそう。あっという間に過ぎて行くという。
思わず実感しているよ。

美姫 「まあ、時間なんてそんなもんよ。振り返ればあっという間ってね」

この調子だと――ぶべらっ! な、何故に?

美姫 「いや、また例によってあっという間に一年が過ぎると言い出しそうだったから」

…………さて、今週も頑張っていこう、うん。

美姫 「言う気だったのね、やっぱり」

あははは……。

美姫 「はぁ。同じ事ばかり言っていると、しまいにはバカになったと思われ……うん、今更だったわね」

って、そこで納得しないでくれよ!

美姫 「はいはい。それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」

って、やっぱり無視ですかい!







「パパ〜」

ぎゅっと不安そうに抱き付いてくるすずの頭を撫で、恭也は鋭い眼差しで周囲を見渡す。
その眼光に怯む様子を見せる者が数人いるものの、数人は怯まずにこちらを見てくる。
自分の周囲を囲む見知らぬ男女に油断なく視線を向けながら、恭也は自らの愛娘すずを背後へとそっと庇う。
数秒の沈黙の後、恭也の視線に怯まなかった女性が一歩前へと進み出てくる。
その行動に背後でビクリと怯えるすずを背中に隠し、恭也は油断なく見詰め続ける。

「警戒するなという方が無理でしょうが、出来れば話だけでも聞いてはもらえませんか」

警戒心を隠そうともしない恭也に女性はそう話し掛けてくる。
が、事態がよく分かっていない上に周りを囲む者たちはその実力の程は兎も角、何かをやっている事は間違いない。
故に恭也は無言を貫き通し、いつでもすずを連れて逃げれる体勢を保ったまま、視線だけで続けるように促す。
その態度に気分を害する事無く、寧ろ少し感心したように女性は話を始める。
話が進むにつれ、恭也の顔からは険悪よりも困惑という色が出てくる。
尤も、彼に親しい者でもなければ、その変化に気付けたかどうかは分からないが。
全てを話し終えた女性を前に、恭也は自分の中で今聞いた話を消化し、理解できた範囲を口にする。

「つまり、この世界は無数にある世界の根元にあたり、ここが滅びれば他の世界へも影響がでると。
 そして、それを防ぐには救世主と呼ばれる存在が必要で、その召喚に俺とすずが呼ばれた。
 そういう事で良いんですね」

恭也の言葉にミュリエルと名乗った、この学園で学園長という職に就いている女性は頷く。

「理解はしましたが、すずを戦わせる気はありません」

怯えているすずを見て、流石のミュリエルも強制はできないでいる。
他の者たちもそれは同様で、流石にこんな小さな子に帯剣の儀をしろなどとは言い出せない。

「なら、貴方の方はどうですか」

「どうとは? 救世主は女性限定なのでは?」

「いえ、そこに居る大河くんという例外がありますから。
 そもそもこの召喚の塔は一度破壊され、今現在リコ・リスさんによって修復している途中だったのです。
 なのにあなた方は召喚されてきました」

試しにと尋ねてくるミュリエルに恭也は悩む。
話を聞く限り、この世界の破滅は自分たちの世界にも影響を及ぼす。
かと言って、これから戦争が起こるであろう場所にすずを連れていくなんて出来ないし、
人にするなんてもっての他である。答えに窮する恭也に、ミュリエルは更に駄目押しとなる一言を告げる。

「非常に言いにくいのですが、貴方たちを戻す方法も今の所はありませんし……」

その言葉に恭也はミュリエルを凝視してしまう。
流石にバツが悪そうに顔を背けるもすぐに恭也の目を見詰め返し、
従来とは全く異なる召喚に加え、召喚陣が機能していない時に来たために、
恭也たちの居た世界が全く分からないと理由を言う。更にはここは救世主とそれを支える者を育てる教育機関だと。
こうして、恭也は仕方なしに召還器を呼び出す儀式に参加せざるを得なくなってしまうのであった。



「って、まだ二十前かよ! それですずみたいな子供が居るって、お前どんだけ早熟なんだよ!
 と、それは良いとして、お前の奥さんは美人なのか――ふぎゅっ!」

「あ、あはははは、兄はちょっとアレな病気でして。気にしないでください」

――恭也と非常に似通った世界からやって来た当真兄妹



「すずちゃん、お母さんに会えなくて寂しい?」

「うん、ちょっと。でも、パパが居るから大丈夫!」

――神に仕える少女、ベリオ



「高町恭也! 私と勝負しなさい!」

「う〜、パパを虐めちゃ駄目!」

「うっ、べ、別に虐めている訳じゃ……」

「うぅぅ〜」

「しょ、勝負はお預けよ!」

――人一倍救世主に拘る勝気な少女リリィ



「はい、出来たよ。食べて、お姉ちゃん」

「…………い、頂きます」

「じ〜、美味しい? 美味しい?」

「な、何とも言えない、今まで食べた事のない味で、お、美味しいです…………」

――その力を隠す言葉少なき少女リコ



「お姉ちゃん、これあげる」

「おお、かたじけないでござるすず殿……って、血ぃ! せ、拙者、血は、血だけはー」

「変なお姉ちゃん。トマトジュース、美味しいのに。好き嫌いはいけないんだよ」

――血が苦手な忍者カエデ



「お姉ちゃん、またおててが落ちたよ」

「ありがとうですの、すずちゃん。えっと、こうして……あれれ?」

「お姉ちゃん、逆じゃないかな。えっと、こうしてこうで……」

「すずちゃん、そっちは右手ですの〜。それは左手ですの」

「えっと……お姉ちゃん、それは足だよ」

「わ〜ん、ダーリン助けて欲しいですの〜」

――陽気なゾンビ娘ナナシ



個性的な七人の救世主に史上二人目となる男性の子持ち救世主が新たに加わり、破滅との戦いが幕を開ける。



「我が名はマナ。すず様にお仕えする召還器なり!」

「って、メイドさん!? おおう、何と可憐な! 戦場に咲く一輪の花――ふげっ!
 み、未亜! 今は戦場だぞ! 味方を攻撃してどうする!」

「だったら、お兄ちゃんもナンパなんてしないでよ! って、そうじゃなくて今召還器って!」

喧嘩を始める当真兄妹だが、完全に状況を忘れている。
敵に囲まれ、今正にピンチという状況だったという事を。
他の仲間は突っ込みたい気持ちを飲み込み、目の前に迫るモンスター相手に攻撃を加えている。
それに気付き、大河たちも状況を理解したのか、すぐに謝りつつ攻撃に加わる。
一方、ピンチ直前に救われたすずは訳が分からないという顔で目の前に立つ女性、マナを見上げる。
すずの視線に気付き、マナは小さく笑みを見せるとまた迫ってくる敵へと腕を振り被り一刀両断にする。
そう、素手であったはずのマナがモンスターを斬ったのである。
見れば、その手首からはいつの間にか一メートルにも及ぶ刃が生えていた。

「まさか自動人形か」

「いいえ、違います恭也様。私は召還器です。人型兵器という形の召還器。そして、元救世――」

何を言い掛けるも更に迫ってくるモンスターへと今度は左手を向ける。
すると、手首から機械音がして掌が上へとスライドし、手首から銃口が覗く。
銃弾をばら撒き、迫るモンスターの群れを一瞬でミンチに変えると再びすずと恭也に向き直り、優雅にスカートの裾を摘み上げる。

「改めて名乗らせて頂きますれば、私はマナと申します。
 心苦しいですが、状況が状況故に、これ以上の詳しい話はまた後ほどという事で」

「それは構わないが……」

先ほどの光景に若干引きながら返す恭也にマナも満足そうに頷き、続けてすずへと視線を移す。

「ではすず様、ご命令を」

「命令?」

「はい。アレを倒せと一言ご命令ください」

「えっと……」

困ったように恭也を見てくるすずに、恭也は優しく撫でてやり頷く。
それを見てすずもまた一つ頷くと、真っ直ぐとマナを見詰め、

「じゃあ、お願い。パパを虐める悪い子にお仕置きして」

「命令ではなくお願い、ですか」

「駄目?」

「いいえ。既に人の身にならざれど、そのお言葉はとても心地よい響きです。
 改めて、貴女が使い手で良かったと思います。しからば、これより先は私が貴女を護り、貴女の敵を討ちましょう!」

言うなりマナはスカートに素早く手を入れて引き出す。
すると、どこに隠していたのか、その手には銃身だけで一メートルはありそうな機関銃が握られていた。

「……一体どこにそんな物が」

「メイドのスカートには秘密がいっぱいなんです。
 という訳で、数頼みの貴様たちは邪魔です。大人しく倒れなさい」

言うや引き金を引き、銃弾を辺りにばら撒く。
そんなマナを見ながら、恭也はすずの安全が確保できるのなら良いかと考えるのであった。



親子二人ぶらり異世界旅 〜ここは根の国アヴァター〜







美姫 「って、またすずが出てきているわね」

だろう。しかも、またクロス。これはあれだね、アルシェラたち同様、異世界を旅してもらって。

美姫 「似たような事をするの!?」

いや、冗談だって。……多分。

美姫 「今、最後にぼそりと何か言ったわよね?」

ううん、言ってない、言ってないよ。
そ、それよりも今週もまた時間がないよ。

美姫 「まだあるじゃない」

あ、あれ〜。

美姫 「そう、分かったわ。余った時間でお仕置きしろというサインね。しっかりと受け取ったわ」

違うわっ! 何処の世界に自分からお仕置きをお願いする奴がいるんだ!

美姫 「目の前に」

んな訳あるか! 特にお前にお仕置きを頼む奴なんて絶対にいねぇ!」

美姫 「メイドさんがそう言って、ってお願いしたら?」

…………そ、それでも言わな……………………いと思う?

美姫 「断定して言えない所がアンタのバカさ加減をだしているわよね」

そ、そんな過程の話は良いんだよ!

美姫 「はいはい。バカな事を言っている間にも時間は過ぎていくわよ」

ふむ、まさに冒頭に言ったように時間は早い、だな。

美姫 「綺麗にまとめたつもりでしょうけれど、全然まとまってないからね」

うっ。こ、このプレッシャーは流石だな。

美姫 「アンタに褒められても嬉しくないけれどね。って、本当に時間みたいね」

た、助かった〜。

美姫 「まあ、残り時間は関係なくお仕置き決定だけれどね」

って、何故に!?

美姫 「自分の言動を思い返すのね」

…………何も思い当たる節はないんですけれど!?

美姫 「良いから締めなさいよ」

嫌だ! 締めたら、後に待つのは地獄のみ。

美姫 「因みに素直に締めなかった場合、当社比で三倍のお仕置きが待っているわよ」

よし、締めよう、今すぐ締めよう、もたもたしないで締めよう!

美姫 「はやっ! けれど、懸命な判断ね。じゃあ、締めなさい」

イエス、マム!
それじゃあ、今週はこの辺で!

美姫 「また来週〜」


2月19日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、また少し寒くなったよね、とお送り中!>



俺の願いが届いたのか、今週はそこそこに寒かったな。

美姫 「まあ、これから暖かくなるみたいな事は言ってたけれどね」

はぁぁ。

美姫 「そこで溜め息を吐かないの!」

あ、今更抱けれどHPの一部が見れないという状態になっているかと思います。

美姫 「サーバーのメンテナンスが長引いてしまっているという連絡があったわね」

うん。そんな訳ですので、ご了承ください。
とりあえず、一括表示の頂き物2のページだけだと思いますので。

美姫 「見れない場合は、名前別の方からご覧ください」

何て事を告知したは良いけれど、既に解決済みだったりしてな。

美姫 「事前に告知しないアンタが悪いんでしょうが!」

ぶべらっ!
ず、ずみまぜん。

美姫 「ったく、本当に疲れるわ」

あはははは。まあまあ。それじゃあ、今週も元気にいってみよー!

美姫 「それじゃあ、CMで〜す」







「……」

無言に静寂。
今、ここ高町家でのリビングに相応しい言葉を述べろと言われれば、殆どの者がそう答えるであろう。
更に付け加えるのなら、既視感を感じたかもしれない。
ともあれ、何とも言えない空気が漂う中、一人我関せずを決め込んだかのように恭也はソファーで寛いでいる。
誰もが何か言いたそうに、また聞きたそうにしつつも触れられないといった空気を醸し出す中、
新聞片手にお茶を啜り、湯飲みを置くとその手を足の付け根、正確にはその上に鎮座するモノへと伸ばして一撫で。
ようやく、ここでようやく、この現状を変えるべく美由希が恭也へと近付く。
寧ろ、他の者たちの無言による視線に耐えれなくなったというべきか。
ともあれ、美由希は自分も含めた皆の気持ちを代弁するべく恭也へと当然の疑問を口にした。

「恭ちゃん、それなに?」

やや震える指で恭也の足の上に鎮座し、恭也の指に喉を鳴らすソレ。

「何とは失礼な奴だな。お前も知っているだろうが。俺の娘ですずという」

「高町すずです!」

恭也の言葉に反応して、恭也の足元に纏わり付いてじゃれていたすずが上半身を起こし、
ピッと手を伸ばして美由希に言う。
よく言えたなと頭を撫でてくれる恭也に頬を緩ませ、その体に抱き付く。
高町家では最近よく見られる微笑ましい親子のスキンシップ。
だが、美由希は首を激しく横へと振り、

「そうじゃなくて! すずちゃんの事は知っているよ!
 そっちじゃなくて、そっちだよ!」

「どっちだ、このバカ弟子。はっきりと言え」

「だから、すずちゃんじゃない方!」

言って、美由希はすずと同じように恭也に撫でられて目を細めているモノを指差す。

「ああ、拾った」

「拾ったって……」

さして問題とも思っていない口調であっさりと告げる恭也に、美由希は絶句するしかなく、
まじまじと見詰める先で、話題となっているソレはふあぁぁ〜、と口を開けて欠伸を漏らし、眠そうに目を擦る。
艶やかな金色の毛並みを恭也が撫でると目を細め、甘えるように擦り寄るとその指にカプと甘噛みする。

「もふもふ」

ソレの耳をそっと触り、ご満悦の声を出すのはすずである。
すずも特に問題と思っていないのか、耳をくすぐったそうにピコピコと揺らし、
けれども構ってもらえて嬉しいのか、尻尾をユラユラと揺らして甘えてくるソレとじゃれ合う。
そんな微笑ましい光景を見下ろしながら、恭也は何を言っているとばかりに美由希を見遣る。

「すずが雨に打たれていて可哀相だと言うのでな、こうして拾って家に連れて来たんだ」

拾った理由が知りたかったのかと恭也が言えば、美由希はまたしても首を激しく振り、

「だから、ソレは何なの!?」

そう絶叫した。

「フェイにゃんと言う」

「名前を聞いているんじゃないってば!」

「ったく、煩い奴だな。何処からどう見ても猫に決まっているだろう。
 とうとう、我が妹はそこまで……」

『何処が!?』

期せずして、住人たちの声が見事に重なる。
それをキョトンとした顔で見詰める恭也とすずの親子。
二人はソレ――フェイにゃんを見詰める。
長く伸びた金髪は後ろだけでなく両サイドでもまとめられてツインテールを作り、
先程まで甘噛みしていた恭也の指をぺしぺしと叩いて遊んでいるのは前足というよりも人の手と同じく五本の指。
黒いワンピースを身に纏った姿は確かに人である。
が、その頭には猫の耳が、そしてお尻からは尻尾が生えていた。
身長は30センチ少しといった所だろうか。それをじっと見詰めた後、

「人にも見えなくもないが、明らかに小さいだろう」

「ほら、ママ、にゃんにゃんの耳〜。ふわふわ〜」

「えっと……すずは兎も角、お兄ちゃん?
 もし、このままだとすずの常識が可笑しな事になっちゃうけれど……」

「すず、猫だと言ったのは冗談だぞ」

「ふぇ、ネコさんじゃないの?」

「ああ、耳や尻尾はネコだけれど、少し小飛とは違うだろう」

あっさりと前言を撤回してすずに言い聞かせる恭也を見て、美由希はからかわれたと気付いて肩を落とし、
なのはは仕方ないなと苦笑を見せる。
そんな一同へと、恭也は改めて説明をする。

「拾ったというのは本当だ。雨の中、ダンボールの中で身を縮めて震えていたんでな」

「可哀相だったの」

思い出したのか、すずは本当に悲しそうな表情でなのはの機嫌を伺うように見上げてくる。
その瞳はこの子を飼っても良いかと聞いてきており、

「えっと……」

困ったなのはは恭也を見る。

「まあ、とりあえずは家に置いておこうと思っている。かーさんには俺から言うから心配するな。
 色々と不思議に思う部分もあるが、どうも俺たちの言葉を理解しているみたいでな。
 その上でこうして連れてきているんだ。特に問題もないだろう」

言って恭也は太ももの上で精一杯背伸びをして手を伸ばしてくるフェイにゃんの前に指をすっと出す。
と、それを待っていたように、ペシペシと両手を使って恭也の指を叩く。いや、じゃれ付く。
同じようにすずも恭也の反対の手をペシペシと真似して叩くも、それよりもと手首を掴んで軽く持ち上げると、
そのまま頬擦りする。ごつごつした固い掌だが、すずはお気に入りなのか嬉しそうに笑う。
それを見ていたフェイにゃんも真似するように、恭也の指に頬をスリスリと擦り寄せ、二人は目が合うと笑い合う。
そんな光景を目の当たりにし、また疑問を大体理解したからか、なのはが真っ先にフェイにゃんに手を伸ばす。
突然伸びてきた手に警戒心も顕にするフェイにゃんに、なのはの手が止まる。
が、そんな事に気付いていないすずはその手に抱き付き、

「ママ、すずも、すずにも〜」

甘えるようにおねだりをしてくる。
そんなすずの様子になのはは勿論とばかりに微笑むと、すずの頭を撫でてやる。
嬉しそうに、そして気持ち良さそうな顔を見せるすずを見て、
フェイにゃんも警戒心よりも好奇心の方が勝ってきたのか、じっとなのはの手を見詰める。
その視線に気付き、なのはは今度はゆっくりと手を伸ばしてやる。
初めはビクリと身を震わせるも、先ほどとは違い逃げる素振りは見せず、ただ近付いてくる手をじっと見詰めている。
やがて、なのはの手がフェイにゃんの頭へと置かれ、ゆっくりと撫でる。

「ふにゃぁぁ〜」

小さな声を漏らし、尻尾を揺するフェイにゃんを見て、なのはは胸を撫で下ろす。
と、服の裾をクイクイと引っ張られ、そちらを見ればいつの間にか止まっていた事に不満顔のすずが。

「ごめんね、すず。すずも良い子、良い子」

「えへへへ〜」

再び動き出したなのはの手に満足そうな笑みを零し、すずはフェイにゃんの目の前に指を差し出す。
が、なのはに撫でられて気持ちよいのか、フェイにゃんはその指で遊ぶのではなく、
甘えるように喉元を近付け、書いてくれとばかりに小さく鳴く。
その意味が伝わったのか、すずはフェイにゃんの喉を指を動かして撫でる。
自分の指で気持ち良さそうにするフェイにゃんを見て、すずは楽しげに言う。

「ごろごろ〜、フェイにゃん気持ちよい?」

答える様に小さく鳴くフェイにゃんにすずは更にご機嫌になり、
そうだと良い事を思いついたとばかりにもう一方の手を恭也へと伸ばし、そのまま恭也の喉を撫でる。

「むっ、くすぐったいぞ、すず」

「パパは気持ちよくないの?」

「うーん、どちらかと言うとくすぐったいかな。どれ、俺もすずにしてやろう」

言って恭也がすずの喉を撫でれば、すずは笑いながら身を捩る。

「きゅふ、くすくす、パパくすぐったい」

「すずもくすぐったいだろう」

「うん。すずは頭ナデナデの方が良い」

すずの言葉に恭也はすずの頭を撫でてやれば、フェイにゃんも自分もとばかりにじゃれ付いてくる。
そんな様子を微笑ましく見ながら、恭也はフェイにゃんにもしてやる。
と、それをじっと見詰めていたなのはに気付き、視線が合うとなのははにっこりと微笑む。
恭也は仕方ないなと小さく嘆息しつつも、甘えられるのが少し嬉しそうになのはにも手を伸ばす。

「へへへ〜」

「ママも気持ち良いの?」

「うん、お兄ちゃんにこうされるのは好きかな?」

「ママも一緒〜」

「な〜」

なのはの言葉に嬉しそうにすずとフェイにゃんが声を上げる。
そんな微笑ましい光景を目の前にして、美由希たちは自分たちもと踏み出す切欠を完全に失っていた。



ママは小学二年生 外伝 「お家にフェイにゃんがやって来た」







うん、満足だ!

美姫 「遂にやっちゃったわね」

あははは。まあ、言うまでもないけれど、ママ小二の本編とは関係ありませんので。

美姫 「これもまた、暫くしたら外伝としてSSの部屋行きね」

だな。CMネタとして二つをコラボしたが、舞台がママ小二だしな。

美姫 「さて、満足している所を悪いけれど、さっさとSSを更新しましょうね」

わ、悪いと思ってないだろう!

美姫 「失礼ね、ちゃんと思ってるから言ったんじゃない」

なら、喉もとの剣を引っ込めろよ……。

美姫 「偉い人は言いました」

人間、サボる時は全力でさぼ……ジョウダンダヨ。だから、それ以上剣を近づけないで。
と言うか、ちょっと刺さってる、刺さってるから!

美姫 「状況をよく考えずに口にした事だけは褒めてあげるわよ」

あ、あははは、どうも。で、偉い人は何て言ったんでしょうか?

美姫 「ソレはソレ、コレはコレ」

……誰が言ったんだ!?

美姫 「良いから、刺されたくなければ手を動かしなさい!」

ひぃぃっ! って、だから、さっきから少し刺さっているんだってば!

美姫 「また口を動かす!」

いやいや!

美姫 「って、アンタを弄ってたら時間が来たわね」

うぅぅ、もう少し優しい弄り方をお願いします。

美姫 「や〜ね〜、ちょっとした冗談じゃないの」

いや、あの目は本気だった。

美姫 「何ですって?」

うん、冗談でほっとしたよ!

美姫 「でも、言った事は本気よ。ちゃんと書きなさい」

……はい。

美姫 「さて、それじゃあ締めましょうか」

ですね。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


2月12日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、少し暖かい日も出てきてしまったんでは、とお届け中!>



いや、少し前結構暖かくなかったか?

美姫 「まあ、もう冬もそろそろ終わりって事ね」

嫌だー! もっと寒さを味わいたいのに!
冬が良いよ。

美姫 「はいはい」

って、軽く流すなよ。

美姫 「いや、だって毎年言ってるじゃない」

そうだったか?

美姫 「それすら記憶にないのね」

えへへへ。

美姫 「いやいや、照れる所じゃないから。いや、でも記憶力の無さを恥じる意味では間違ってないのかも」

さり気なくバカにしてる?

美姫 「ううん、思いっきりしてる」

う、うわぁ〜ん。

美姫 「そうそう、そういえばさ」

いや、少しは構ってくれよ。

美姫 「はいはい。可哀相にね!」

ぶべらっ! いや、それ……。

美姫 「よしよし」

げぼはっ! って、聞けっ!

美姫 「良い子、良い子」

びぶっ! って、台詞と行動が……。

美姫 「吹っ飛べ!」

ぶべらぼげぇっ! だからって台詞の方を合わせるな!
ぜーはーぜーはー。お、お前は本当に恐ろしい奴だな。

美姫 「何がよ。ちゃんと注文通りに行動と台詞を一致させてあげたのに何が不満なのよ」

どこに満足する要素があった!?

美姫 「そもそも、アンタが構えっていうから構ってあげたんじゃない。それなのに文句ばっかりで」

いやいや、あの構い方は色々と可笑しいだろう!

美姫 「さて、それじゃあ今週も……」

いや、だからってそうはっきりと無視しなくてもよくない!?

美姫 「どうしろってのよ。本当に我侭ね」

ぼ、暴力を振るわないようにお願いするのが我侭でしょうか?

美姫 「暴力なくて愛の鞭でしょうが」

ぶべらっ!

美姫 「本当に失礼しちゃうわね」

す、すみません……って、何故に俺が謝ってる!?

美姫 「そこまで知らないわよ。アンタが勝手に謝ったんでしょうが」

も、最早条件反射になっているのか。

美姫 「ほう、という事は、心から思ってないと?」

ち、違うぞ、それは! ちゃんと心から、って、あれ〜、可笑しいな。
どうして俺は両手を後ろに縛られているんでしょうか?
あれ〜、足まで縛りますか? 自由に動けなくなっちゃうんだけれど?
あ、あははは、その抜き身の刀はどういう意味かな〜、かな〜。
笑顔だけれど、目は全く笑ってないよね? あははは、そんな物騒なものを振り被ってどうするのかな?

美姫 「知りたい?」

知りたいけれど、知るのが怖いかも。
何か身をもって教えられそうで……。

美姫 「正解♪」

あはははは。やっぱりね、うん、こうなると思ってたよ。
お前とは長い付き合いだしね、うん。…………って簡単に諦められるか!
何処をどうしてどうなったら、こんな状態で殴られないといけない!

美姫 「残念、殴るんじゃなくて斬って吹っ飛ばすのよ」

そっか。あははは、ボク、ちょっと間違えちゃったよ。
って、変わらないよ!

美姫 「全然違うわよ。という訳で、星になれ!」

ぶべらっ!
謝るのは、反射よりも寧ろお前の怖さが骨身に染みているからだよーー!

美姫 「遥か上空の旅にいってらっしゃ〜い」

いってきま〜す!

美姫 「余裕あるわね……。まあ、何はともあれ、それじゃあ今週もCMいってみましょう♪」







神社のすぐ隣にある鬱蒼と木々が生い茂る林。
その奥まった一角に闇に煌めく銀閃が走る。甲高い音を立てて互いにぶつかり合うのは真剣。
共にそれを手にする二人はどちらもまだ若い男女。
女――高町美由希は開いた距離を詰めるように男――高町恭也へと向かって行く。
それを視界に収めつつ、恭也はその場に留まり美由希が繰り出す攻撃を弾き、逆に反撃を加える。
咄嗟に地を蹴り下がる美由希へと追撃するように飛針を投げつけ、自身もまた前へと出る。
ここ八束神社近くの林の中、日課である深夜に行われる戦闘訓練の途中であった。
その後も二人は攻防を繰り返し、恭也の終わりという声にようやく鍛錬は終わりを告げる。
疲れた体を冷やさないようにタオルで汗を拭く二人に元に、
パチパチというには少し弱い、ぺしぺしとでも言い表す方が良い様な音が響く。
この第三者の出現を告げる音に、しかし恭也も美由希も驚いたりもせず、ただ拍手の主へと顔を向ける。
そこには、恭也の持ってきたスポーツバックから上半身を出した一人の少女が一所懸命に手を叩いていた。
少女の名前はフェイにゃんと言い、少し前に恭也が行く宛てなく野宿しようとしている所を保護したのだ。
ただし、その背は三十センチちょっとなのに加え、猫耳に猫の尻尾まで生えていたりするのだが。
その程度の事で高町家の人間はそんな境遇の少女を放り出すはずもなく。今現在少女の寝床は高町家となっていた。
そんなフェイにゃんが、どうして二人の鍛錬に付いてきているのかと言えば、単純に興味があったかららしい。
昼間、道場で打ち合う二人を真剣な眼差しで見詰めていたかと思えば、
深夜の鍛錬に赴こうとする恭也の裾を掴み、同行を申し出たのだ。
そういう経緯もあり、フェイにゃんは二人の鍛錬をこうして、
ここまで運ばれるのに使われたスポーツバックから見ていたという訳である。
恭也が美由希に今日の攻防について注意するべき箇所や、逆に良かった所などを上げている中、
フェイにゃんは今しがた見た型をなぞるように、その小さな腕を振り回していた。

「ふにゅ、ふにゃ」

本人は真剣なんだろうが、その仕草は猫じゃらしとじゃれている子猫を彷彿とさせる。
現に美由希などは頬を緩め、そんな様子を微笑ましげに眺めている。
が、逆に恭也は真剣な顔付きでそれを見遣り、

「もしかして、やってみたいのか?」

恭也の言葉に美由希は信じられないという感じで恭也を見るも、フェイにゃんはうんうんと頷いている。
少し考えた後、恭也はフェイにゃんの前にしゃがみ込み、

「探し物とやらに必要なのか?」

コクコクと頷くフェイにゃんの真剣な目を見て、恭也は基本だけならと教えてやる約束をする。
心配そうに見てくる美由希にフェイにゃんは心配するなとばかりに自らの胸をペシペシと叩き、
叩き過ぎたのか、小さく咳き込んで恭也に背中を擦られる。
またそれが気持ち良かったのか、フェイにゃんは恭也の指をしかっと両手で抱き締めるとじっと見上げてくる。
その求めている事を理解し、恭也は指でフェイにゃんの喉を撫でてやる。
目を細めて喉を鳴らすフェイにゃんの様子に、美由希が近くまで寄ってきて自分もしたいとばかりにじっと見詰める。
それに気付いたのか、フェイにゃんは恭也に喉を撫でられながらも、うん、と頭を前に出す。

「ふぁぁぁ、ありがとう、フェイにゃん」

嬉しそうに礼を言いながら、美由希はフェイにゃんの頭を撫でてやる。
大好きな高町家の人に撫でられ、フェイにゃんは満足そうな吐息を漏らす。
が、いつまでもこうしている訳にもいかず、恭也はとりあえずはここまでだと片付ける準備を始める。
名残惜しそうにしつつも、美由希とフェイにゃんは一つ頷くとこちらも片づけを始める。
とは言っても、フェイにゃん自身は特に何かするという事もなく、
恭也と美由希が飲んでいたドリンクの入った容器を両手で抱え、うんしょうんしょと声に出しながら鞄まで運ぶ。
流石に鞄の中に仕舞うまでは出来ず、傍に置くと今度はタオルを手にするも、その大きさに体が包まれ、
じたばたと手足を暴れさせ抜け出そうとする。が、逆に余計にタオルが絡み付いてくる。
四苦八苦する内に、タオルがひょいと取り去られ、目の前に恭也の顔が現れる。
びっくりしたフェイにゃんだったが、すぐに自分がタオルを強く握ったままだと気付き、
タオルごと恭也に持ち上げられたのだと気付くと、そのまま体をぶらぶらさせて勢いを付けると、
えいっとタオルから恭也の腕に飛び移る。

「大丈夫だったか、フェイにゃん」

恭也の声に大丈夫だったと頷き、フェイにゃんはそのまま恭也の腕をよじよじと登り、肩まで来ると腰を落ち着ける。
落ちないようにしっかりと恭也の襟首をしっかりと掴み、空いた腕で額の汗をふぅと拭うと満足そうな顔を見せる。

「もうすぐ終わるから、少しだけ待っていてくれ」

フェイにゃんを肩に乗せたまま、恭也はフェイにゃんが運んでくれた水筒とタオルを鞄に仕舞い、
こちらを羨ましそうに見ている美由希に声を掛ける。

「こっちも片付け終わったよ」

「そうか、なら帰るか」

こうして、恭也たちは鍛錬を終えて家路に着く。
今までの日課とは少し違った今日の鍛錬はこれで終わりとなる。
が、それが新しい日課となるのも遠い日ではないだろう。

「なんちゃってみかみりゅう〜、えいっ!」

と、小さな手足を動かし、懸命に恭也たちの真似をする小さな少女という参加者が翌日から加わったのだから。



フェイにゃん







今回はまたしてもフェイにゃんの登場だ。

美姫 「うん、まあ、もう私は慣れたけれどね」

何の話だ?

美姫 「別に大した事じゃないわよ。アンタが非常識だって事」

中々に失礼な奴だな。

美姫 「そう? まっとうな評価だと思うけれどね」

む。と、まあ別に良いか。

美姫 「で、またしてもフェイにゃんね」

御神流をやらせてみようという事で。

美姫 「寧ろ、始める切欠みたいね」

確かにな。やっぱり和みが第一だろう。

美姫 「はいはい。さて、今週は残念だけれど時間がないわね」

今週も、だけれどな。と言うか、前半のお前に責任が……ナンデモナイヨ、ナンデモナイ。

美姫 「それじゃあ、早速だけれど締めましょうか」

だな。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


2月5日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、二月最初の放送だよ、とお送り中!>



今年もいよいよあと約十一ヶ月……ぶべらっ!

美姫 「前回と全く同じ出だしをありがとう」

ど、どういたしまして……。

美姫 「そう言えば、今年に入ってから長編の更新がされていないわね」

ぎくっ! あ、それは、その〜。ぶべらっ!

美姫 「とりあえずは一発ね」

と、とりあえずって……。

美姫 「うふふ」

いやそんな怪しげに微笑まれましても……ぶべらっ! な、何故に?

美姫 「怪しげなって失礼な事を言うからよ」

うぅぅ、世知辛い世の中だよ。

美姫 「アンタがバカなだけの気もするけれどね」

と、まあ何はともあれ、今週も頑張っていきましょう。

美姫 「そうね。それじゃあ、早速だけれどCMよ」







場所は東京。とある屋敷に掛かっていた一本の電話から全てが始まった。

「いや、本当に申し訳ないと思ってはいるんだよ、恭也」

「はぁ」

少々気のない、と言うよりも気落ちした声で返すのは高町恭也、その人である。
電話の相手、リスティの口ぶりは確かに申し訳なさそうな声であったが、その内何割かは楽しげでもあり、
それを感じ取った恭也が少々憮然とした声で話の先を促したのは仕方のない事であろう。
リスティもそれを感じ取ったのか、幾分か申し訳なさを割り増しし、
今回急に入った仕事に関して恭也へと説明を始める。
とは言え、恭也に回ってきている時点で護衛の話ではあるのだが。

「学院内でとあるお嬢様が攫われそうになったらしい」

「学院の中で、ですか?」

「ああ。校舎から離れ門へと続く長い道の途中とは言え、ちゃんと敷地内だったにも関わらず、だ」

リスティの言葉に恭也は眉を顰めつつ、黙って続きを聞く。

「その襲撃者は近くに居た生徒が追い払ったんだけれど捕まった訳じゃない。
 まあ、失敗した事で警戒も強くなるから諦めるとは思うんだけれど、そうじゃなかった場合が問題となってくる」

「つまり、もう襲撃がないとはっきりとするまで護衛が必要だと」

「そういう事だよ。まあ、かなりややこしい事態になっているみたいでね。
 僕も詳しい事は聞かされていないんだけれど……」

リスティの言葉に恭也はそれは信頼置ける所からの依頼なのかと訪ねれば、
それは問題ないというお墨付きが返って来る。

「ややこしいのは、その襲撃を受けた者からの依頼じゃなく、襲撃者を退けた者の家からの依頼なんだよ。
 この辺りの事を聞いてもはぐらされてしまってね。
 どうも撃退した子が日本でも有数の家の令嬢らしんだけれどね」

「つまり。逆恨みの可能性を考えて護衛を付けるという事ですか」

「そうなんだ。で、恭也が護衛をしてくれている間に、
 僕たちのほうで襲撃者の正体を掴むというのが今回の仕事の全容だよ」

「護衛の方は引き受けても構いませんけれど、その依頼主というのは?」

「多分、恭也の知り合いだと思うんだけれどね。どうも、高町家に一旦、連絡があったらしいよ。
 で、恭也が留守という事で、何処から調べたのか僕の方に連絡が来たという訳さ。
 君を指名してね」

「俺の知り合い、ですか。いえ、それ自体は問題ないのですが、その依頼は高町恭也に来たものなんですよね」

「ああ、そうだよ、美影」

電話の向こうでにやりと笑っている姿を容易に想像しながら、恭也、もとい美影は深い溜め息を零す。
とある事件で恭也が女子高に生徒として護衛に赴く事となった際、ばれては大問題だと夜の一族の秘薬という、
何やら怪しげな薬を飲んで完全に女性化してから約一年。
未だに元に戻る方法は見つからず、恭也――美影はそのまま護衛先であるリリアン女学園で三年に進級していた。
そんな折、リスティからの電話だっただ。
期待するなという方が無理な話である。
が、やはり結果は未だ戻る方法は不明のまま、新たな仕事の依頼、それも高町恭也宛てである。

「その知り合いが誰なのかは知りませんが、この姿で会いに行っても信じてもらえないと思うけれど?」

「まあ、その辺りは美影の話次第だろうね。寧ろ、向こうとしては余計な手間が省けると喜ぶかもしれないよ」

「何やら嫌な予感がしますが、それはどういう?」

「詳しくは依頼人に聞いてくれ。連絡先は……」

「ああ、待ってください」

リスティに待つように頼み、電話を肩と耳で抑えながらペンとメモと手に持つとどうぞと声を掛ける。
告げられる番号をメモし、続けて言われた依頼主の所で思わず手を止める。

「本当にそう名乗られたんですか?」

「そうだけれど、どうかしたのかい?」

「……いえ、別に」

そう答えながらも、美影は絶対にからかわれると頭を抱える事となる。
が、それをリスティに気付かれないように会話を続け、電話を切ると再び頭を抱える。
そんな様子をじっと見詰めていた祥子が首を傾げながら、手にしていたカップを置き、

「美影、どうかしたの? 何かお仕事の依頼だったようだけれど」

「いや、まあ古い知り合いからの依頼だから引き受けたいんだけれど、ほら、今の私は美影でしょう。
 あの人の事だから、絶対にこの事でからかってくるわ。それを考えると少し憂鬱でね」

言って溜め息を零す美影に祥子は小さく笑みを零し、美影の傍に近寄るとその肩にそっと手を置く。

「よくは分からないけれど、それでも行くんでしょう」

「ええ。流石にからかわれるのが嫌だからって依頼を断ったりはしないわよ」

「でしょうね。でも、無理だけはしないでよ、ちゃんと無事に帰ってきなさい」

「分かっているわよ。ちゃんと帰ってくるわ」

不安そうな顔を見せる祥子に優しく微笑んでから、美影は可笑しそうに声を上げて笑い出す。
そんな美影に自分の事を笑っているのかと不満そうな顔を見せる祥子に美影は違うと否定し、

「本来の私の家は海鳴なのよ。なのに、自然とここに帰って来るって言っている自分がちょっと可笑しくてね」

そう言ってもう一度笑う美影に祥子も笑みを零すも、すぐに剥れたような顔を見せる。

「別に良いじゃないの。ここは美影の帰るべき家の一つでもあるんだから。
 それとも……」

それ以上は何も言わず、ただ不安げに見詰めてくる祥子の頭を優しく撫で、美影は何も言わずに微笑む。
それだけで祥子も美影の言わんとした事を理解したのか、安堵した表情の中にも笑みを漏らす。

「本当に気をつけてよ」

「分かっているわ。それじゃあ、明日は早くに立つから、今日のおしゃべりはここまでかしらね」

「あら、明日から暫く留守にするんでしょう。だったら、その分も少しぐらいおしゃべりしても良いじゃない」

「はいはい、仕方ないわね祥子は。それなら、もう少しだけよ」

そう言うと美影は祥子の背中を軽く押し、先ほどまで自分たちが座っていた席へとエスコートするのであった。



「お久しぶりです」

「はい? 失礼ですが、どちらさまでしょうか?」

それが美影と依頼人が最初に交わしたやり取りであった。
その後、すったもんだあったが恭也しか知り得ない情報を口にし、
どうにか美影と恭也が同一人物だと認めてもらう事に成功した。
が、それでも当初は恭也から聞いたのではと疑われたが、
恭也がそれこそ親しい人にも漏らさないであろう事――早い話が恭也自身の恥となるような事――を口にし、
どうにかという感じであったが。
ともあれ、必要以上に時間を取られたのは仕方ないと割り切り、二人は今屋敷の今で向かい合って座っていた。

「それで織倉さん、わざわざ私に連絡を入れてきたのはどうしてなのかしら?」

美影の言葉にじっとこちらを見ていた織倉楓は驚愕した顔から一転して可笑しそうな顔になり、くすくすと笑い出す。
それを憮然としながら軽く睨みつけると、

「ごめんなさい、恭也さん。いえ、美影さんの方が宜しいかしら?
 その、美影さんの仕草や言葉使いがあまりにも女性らしかったからつい」

「そうね、かれこれ一年近くも女子高に通い、ましてやすぐ傍にはお嬢様が居るからね。
 自然とそんな仕草も身に付いてしまったのよ。
 とは言っても、本来のお嬢様から見れば、まだまだでしょうけれどね」

「笑ったりしてごめんなさい。それじゃあ、早速本題なんだけれど、寧ろ都合が良かったわ」

申し訳なさそうな顔で謝罪した後、楓は一転して嬉しそうな笑みを浮かべる。

「ある程度は聞いていると思うけれど、襲撃されたのは厳島のお嬢様。
 そして、それを撃退したのがうちの瑞穂さんなんです」

「瑞穂がですか? だとしても、それを隠す必要はないのでは?」

「それが問題ありなんです。聖應女学院、この名前に聞き覚えは?」

「詳しくは知りませんが、私の通うリリアンと似たようなお嬢様学校でしたよね」

「ええ。そこに瑞穂さんは今通っております」

「…………はい? え、だって瑞穂は男、まさか私みたいに?」

「いえ、美影さんのように完全な女性になったのではなく、そのいわゆる女装をしてです」

「はぁ、まあ瑞穂なら私と違って女装してもそうそう外見に違和感はないでしょうけれど。
 何でまたそんなスキャンダルにも繋がるような事を?」

「それが……」

少し言い辛そうに美影から目を逸らし、楓は消えるような声で呟く。

「遺言です」

しっかりとそれを聞き取った美影は、聞き間違いではないかと自らもそれを口にするも、楓は至極真面目な顔で頷く。

「はい。先代様、つまり瑞穂さんのお爺様の遺言です」

それを聞き、美影は思わず金持ちの家というのはそういうものなのか、とか思いそうになりそれを否定する。

「まあ、あの方も何か考えがあったのでしょうね」

「ええ、そうだと思います。が、それは兎も角、今回の事で何か起こり、
 それが元で瑞穂さんの事がばれるという事態だけは何としても避けたいのです」

「そういう事でしたか。だから私に連絡されたんですね」

納得がいったとばかりに頷く美影に楓も頷き一つで返す。
そこで美影は楓が初め言った都合という言葉を思い出す。

「まさかとは思いますが……」

「ええ。短期の男教師が学院に入るよりも、女子生徒が転校してくる方が手続きや裏工作が簡単にいきますから」

楓の仕事が楽になったという表情に、美影は何も言わずにただ肩を竦めるのであった。



数日後、美影の姿は聖應女学院敷地内に建つ寮、櫻館の前にあった。
楓から話を聞いていた瑞穂がわざわざ玄関まで迎いに出てきてくれており、二人は久しぶりに顔を見合わす。
隣に居たまりやもまた事情を知る人物で、しきりに美影の周辺を見渡しては感心したような声を漏らしている。

「はぁ、それにしても世の中には色々あるもんね。
 まあ、瑞穂ちゃんも一子ちゃんのお蔭で女の子になった事もあるし、そういう事もあるのかと思っていたけれど、
 こうして目で見るまでは正直、半信半疑だったしね。恭也さ……じゃなくて、美影さんようこそ」

歓迎するわと手を差し出すまりやの手を握り返しながら、
美影は寮の入り口からこちらを窺っている二人の少女に微笑み掛ける。
慌てて身を隠す二人にまりやがあきれたような溜め息を吐き、

「全く仕方ないわね。とりあえず、荷物を置いたら一階の居間に来て。
 部屋と居間の案内は瑞穂ちゃんお願いね。あの二人の紹介はその時にするから。
 ほら、二人とも気になるのは分かるけれど、覗き見なんてはしたない真似はしないの」

言いながら寮へと入っていくまりやを見送り、美影は久しぶりとなる再会の挨拶を瑞穂と交わす。
が、二人は互いの現状を見遣り疲れた吐息を零す。

「瑞穂も色々と大変だな」

「ええ、本当に大変よ。皆さんが慕ってくれるのは嬉しいのだけれどね。
 やっぱり色々とね」

「心中察するわ、本当に。それにしても、本当に仕草もらしいわね」

「ありがとう……で良いのか悩むわね。
 まあ、仕草に関しては一年近くこの格好で学校に通っているんですよ、きょ……美影さん。
 それなりに慣れてきますわ。そういう美影さんこそ」

「私なんて、既に完全に女だもの」

再び互いの現状を見遣り、引き攣った笑みを交換する。
互いにどちらの方が良かったと考え、結論を出さずに首を振るのであった。

とらいあんぐるがみてるAfter X 処女はお姉さまに恋してる







ってな感じで、今回のネタは前回のをやって美影バージョンもという声に応え!

美姫 「クロス先がちょっと違うけれどね」

まあな。そこはちょっと変えようかと思ってな。
それよりも……。

美姫 「ええ、思ったよりもCMに時間を取られたわね」

珍しい事もあるもんだ。

美姫 「本当に。寧ろ、この調子で他の作品を更新してくれることを望むわ」

ど、努力しますですよ?

美姫 「はいはい。じゃあ、締めようか」

おうともさ!
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月29日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、一月最後の放送だよ、とお届け中!>



今年もあと約十一ヶ月……ぶべらっ!

美姫 「幾らなんでも気が早すぎるっての」

いてて。気が早いも何も、俺は事実を口にしただけで……ゴメンナサイ。

美姫 「ったく、ただでさえ今日は時間がないってのに、アンタのバカな話で潰さないでよ」

へいへい。

美姫 「さて、それじゃあ早速だけれどCMいってみよ〜」







それは一本の電話から始まった。
シルバーブロンドの女性、リスティ・槙原へと繋がったその電話の内容は、
彼女を経由して第三者に伝えられる運びとなった。
海鳴にある商店街、その一角にある喫茶翠屋。
その店内の奥まった一角にその第三者たちは居た。

「何がどうなって僕の所に連絡が来たのかは不明なんだけれどね」

「その言い方だと、リスティさんは相手の人を知らないみたいに聞こえますね」

タバコを手にしつつも遠慮してか火を点けず、ただ指先で弄っていたリスティは美由希の言葉に首肯する。
逆に半分からかうような口調で言った美由希の方は驚愕した顔で見詰め返し、

「そんな知りもしない人からの依頼を受けたんですか?」

「正確には仕事の仲介だけれどね。
 まあ、相手はちゃんと信頼できる所だし、その名を騙っていない事はちゃんと確認してあるよ」

リスティの言葉に恭也は小さく頷くと、依頼内容とやらの説明を求める。

「護衛を頼むって事は分かっているとは思うけれど、今回はちょっと場所が特殊でね」

「と言いますと?」

「私立セント・テレジア学院。全寮制の女子校さ」

リスティの言葉を聞き、恭也は納得する。

「つまり、今回の依頼は俺じゃなくて……」

言ってちらりと隣を見る。
が、リスティはそれに対して首を横へと振る。

「恭也にも付いてもらう事になる。そもそも、この依頼の主はアイギスだ」

アイギス。表では警備会社として知られているが、もう一つ裏の顔を持つ組織。
その裏の顔とは、あらゆる手段を用いてでも護るという護り屋。
その名を聞き、恭也は訝しげにリスティを見返す。

「護衛ならそれこそ本業とも言えるじゃないですか」

「ああ、そうだね。
 実際、既にシールドナンバーを持つエージェントが学生として入り込み、刺客の一人を捕まえたらしいよ。
 ただ、問題はその所為なのか、護衛しないといけない対象が増えてしまったという事さ。
 現在、そのエージェント、シールド9が守護すべき要人は三人。
 しかも、見事に学年もばらけている状況な上、場所が場所だけに増援も難しい」

「そこで俺たちに、という訳ですか?」

「そういう事。どんな手を使ったのかは知らないけれどね。
 どうも、恭也のお父さんとアイギスの課長か何かが知り合いだったらしいよ。
 で、その息子か娘なら潜入もし易いだろうと思って僕に連絡したらしい。
 この辺りの情報のソースに関しては秘密だと言われたけれどね。
 で、無理強いはしないと言っているけれど、どうする?」

リスティの言葉を聞き、恭也は暫く考えて自分だけでは決められないと判断したのか、美由希に視線を向ける。

「えっと、私は引き受けても良いけれど……」

言ってその視線を恭也を挟んで反対側に座る少女へと向ける。

「私も構いませんよ」

少女も賛成したのを受け、恭也は残る一人、リスティの隣に座る女性へと無言のまま視線だけで問い掛ける。
その視線を受けた女性も特に迷う事無く、

「ああ、私も別に構わないよ。で、この場合はどういう名目で潜入する事になるんだ?」

了承を口にし、リスティへと疑問を問いかける。

「その場合、シールド9が二年として潜入しているから、美由希か悠花に三年と一年に生徒として潜入してもらう。
 そして、恭也とリノアには事務員と教師という形でだな」

「二人同時に転入は勘繰られませんか?」

「まあ、勘繰られるかもしれないけれど気にするなとの事だよ。
 元々、この学園は令嬢が多く通っている事もあって、
 生徒や教師の中にそういったエージェントが潜入しているんだ。
 あんな事件の後だから、どっかの家がエージェントを忍ばせたと思われるんじゃないか。
 まあ、表向きの書類はちゃんとした転校になっているから、そう簡単にばれる事はないと思うけれどな。
 教師の方にしても、捕まえた工作員が臨時教師だったみたいでね。
 表向きは何らかの理由を付けて辞めたという事になっているから、その後釜としては問題ないだろう。
 事務員に関しては少々あれだが、理事長が必要だと思って急遽募集したという形になるらしい」

で、誰がどれを担当する?
そう告げられた言葉に恭也たちは顔を見合わせ、

「美由希と悠花に関してはどちらが上になるかだけの問題だから良いだろうが、俺たちの場合は……」

言ってリノアと視線を合わせれば、リノアもまた渋い顔をしている。

「自慢ではないが学校なんてまともに通った記憶はないよ」

「俺は通ってましたが、授業をまともに受けた記憶が……」

暗に教師は嫌だとその顔が語っていた。

「因みに、教科は?」

「生物だそうだ」

恭也の問い掛けに返って来た答えを聞き、二人は揃って渋面顔になる。

「せめて英語なら何とかなったんだが。そんな訳で恭也、頼むよ」

「待ってください。そもそも俺は文系で生物なんて専門外ですよ」

そう言ってまた困った顔をする二人とは違い、美由希たちの方はあっさりと話が着いていた。

「それじゃあ、私が一年で悠花さんが三年ということで」

「はい、それで良いですよ」

だが、恭也たちの方は決着がつきそうもないと判断すると、リスティはとりあえずと二人の間に割って入る。

「先方には依頼を引き受ける旨伝えておくよ。
 それと同時に教師以外の方法がないかも打診しておく。
 ただし、どうにもならない時は諦めてくれ」

そう告げるとリスティは返事も待たずに席を立つ。
仕方なく、恭也とリノアは互いに頷くのであった。

その数日後、私立セント・テレジア学院は二人の転入生と、事務員と保険医見習いを一人ずつ迎え入れる事となる。



マリアさまはとらいあんぐる2nd X 恋する乙女と守護の楯

護りの剣と守護の楯







美姫 「何か懐かしいネタね」

うん、何故かふと思いついてしまった。
最初は美影ヴァージョンとどっちにしようかと悩んだんだけれどな。

美姫 「そっちなら、すんなりと潜入できるわね」

確かに。因みに、その場合は助っ人としてアニィがシスターマリィとして再登場し、シスター姉妹と……。
みたいなネタも考えたんだけれどな。因みに、アニィへの報酬は一日美影自由権。

美姫 「それはまた後で大変そうね」

はっはっは。まあ、何だかんだでこっちじゃなく悠花たちのヴァージョンだったけれどな。
って、もしかして……こ、今回は俺、殴られてない!? おお、奇跡だよ!

美姫 「安い奇跡ね。そんなのアンタが気を付ければ良いだけの事でしょうに」

いやいや、お前が気を付ける――ぶべらっ! ああ、折角の奇跡が!?

美姫 「自業自得。それと、冒頭でアンタふっ飛ばした記憶があるんだけれど?」

……ああっ! 奇跡でも何でもなかった!

美姫 「アンタのその頭がある意味奇跡だわ」

エッヘン。

美姫 「褒めてないからね。寧ろ、残念な方の意味だから」

シクシク……。

美姫 「さて、最初にも言ったけれど今日は時間がないのよね」

やっぱりスルーですか!?
さて、それじゃあ、締めるか。

美姫 「アンタも慣れたものよね」

ああ。という訳で、本当に早いが今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月22日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、一月も既に後半突入、とお送り中!>



早いもので今月も後少し。

美姫 「先週と似たコメントありがとう!」

ぶべらっ! お、お礼を言いながら、それとは程遠い行動なのは何故?

美姫 「しかし、昨日はちょっと暖かかったと思ったのに、今日はまた冷えたわね」

まあ、昨日が珍しく気温が高かったんだけれどな。
今日みたいに寒い方が冬、って感じがして良いじゃないか。

美姫 「本当に冬が好きよね」

まあな。暑いよりも寒い方が良いからな。
しかし、そんな冬もいつかは終わるんだよな。

美姫 「まあ、まだ寒い日は続くけれどね」

さて、気を取り直して。

美姫 「いや、冬の終わりでしみじみとしてたのはアンタだけだから」

ですよね。

美姫 「さて、それじゃあ今週もCMいってみよ〜」







「御神一族の抹殺」

簡潔にただそれのみが書かれた便箋。
他に一緒に同封されていたのは三枚の写真と零が幾つも並んだ小切手。
差出人の名前もなければ、他にこれといった指示もない。
どうやって依頼主が依頼の成否確認をするのかも分からず、
金だけを持って逃げると言う事も考えていないのかとも思う。
が、同時に既に滅んだとされる一族の生き残りを見つけ出し、その人物の写真まで手に入れている事を考えると、
その程度の確認ぐらいはそれこそ簡単に行えるのだろうと推測する。
他にチケットも何もない事から、この依頼料には経費も含まれているのだろう。
写真の裏を返せば、そこには名前と居場所のみが書かれている。
もう一度封筒の中を覗き、本当にそれだけだと確認すると便箋を燃やして消し去る。
依頼主も不明である事から、断る事も出来ない。
いや、寧ろ断る気はないと言う方が正しいのだろう。
その口元には楽しげな笑みが張り付いている事からもそれが窺える。
間違いなく依頼主は自分の事も調べ上げ、その上で依頼をしてきたのだと思われる。
相手の思惑が何なのか分からないが、大人しく踊らされてやろうと決め、小切手と写真をポケットに仕舞い込むと、
依頼を果たすため、とりあえずはこの場所を離れるのだった。



永全不動八門一派、御神真刀流、小太刀二刀術。
少々長いが、これが恭也たちが修める剣術の正式な名称にして、既に使い手が三人しかいない流派である。
その本質は守る事にあるが、殺人術である事も否めないのもまた事実である。
故に方々から恨みを買う事もあり、それは現存者が僅か三名という現状からしてもうかがえる。
故に恭也たちは滅多な事では自らの流派を口にする事もないのだが、
やはり裏の世界の情報に精通している者はいる訳で、御神の生き残りが居ると言うのが最近では噂されていた。
それを美沙斗から聞かされた恭也は僅かに眉を寄せつつ、美沙斗の続きを待つ。
殆ど表情を変えない恭也に苦笑しつつ、美沙斗は最近耳に届いた噂について話し出す。

「元々、ティオレ・クリステラのコンサートの件で色々と噂が飛び交っていたんだ。
 この時点ではまだ時代遅れの武器を扱う存在程度だったけれどね。
 度々、恭也が護衛の仕事をしていたのもそんなに問題ではない。
 寧ろ、私の存在からそんな噂が出てきたと見るべきだろうね」

苦笑を浮かべながらそう告げる美沙斗は、今は法の番人と呼ばれる香港国際警防隊に所属しており、
そこでその力を奮っている。故にその噂は瞬く間に広がり、やがて使う得物から件の噂が出てきたのだと説明する。
恭也の隣でポーカーフェイス所か、自身の驚きを隠そうともしない素直な娘、美由希へと優しげな視線を向け、
再び恭也へと向き直る頃にはまた先ほど同様に鋭い目付きへと変わっている。

「まあ、噂程度と思ってくれても良い。そんなに心配はいらないと思うよ。
 ただ、一応耳に入れておこうと思っていた矢先、こちらに来る事になったんでね」

「そうでしたか。それで、日本にはやはり仕事で?」

「仕事半分、休暇半分かな。副隊長の娘さんが海鳴に住んでいてね。
 久しぶりに顔を見せに帰らせろって上にごねたらしい」

冗談混じりにそう口にし、それに便乗させられたと続ける。
美沙斗の言葉に美由希は嬉しそうに笑い、恭也は少しだけ口元を緩める。
そんな二人の反応に心を温かくしつつ、美沙斗もまたその口元に微笑を浮かべるのだった。



それから僅か五日後、恭也たちの元に警防隊から連絡が入った。
その内容は美沙斗が行方不明になったという連絡であった。



「君たちも充分に注意してくれ」

美沙斗の行方不明を聞かされた後、そう警告してくれた言葉を聞きながら、恭也と美由希は香港行きを決める。

「今は廃れた殺人剣も、意外と裏社会では生き延びているんだよ。
 君たち御神が生き残っているようにね」

二人の前に現れる謎の刺客たち。

「最強の証たる永全の名を頂きに」

その思惑は様々であり、

「周りの無関係な人間を巻き込みたくないのなら、大人しくここでやられろやっ!」

襲撃は昼夜、場所を問わずに繰り返される。

「君たち兄妹には懸賞金が掛けられているんだよ。生死問わず、いや、寧ろ死を願う形のね」

事態は収まる所か、

「警防隊としても、これ以上の事態の悪化は望んでいないという事さ。
 そんな訳でそれ程人員は割けないけれど、協力させてもらうという事になった」

警防隊を巻き込み、

「恭也、美由希、美沙斗の事はアタシに任せてクダサイ」

美沙斗の捜索も同時に行われる中、

「クリステラ議員を含め、人質は全部で二十人! 御神二人の身柄を要求しています!」

更なる広がりを見せる。
果たして、真の黒幕は!?

とらいあんぐるハ〜ト3 外伝 The MOVIE 今春、ロードショー!







そう言えば、今年はまだやっていない事が。

美姫 「何か恒例行事でもあったかしら?」

うむ。とっても大事な事を忘れているよ。

美姫 「何かしら? うーん、特に引っ掛からないわね」

はぁぁ、やれやれ。

美姫 「むっ、一体何を忘れているのかしら?」

お願いしますわ?

美姫 「何か言ったかしら?」

イ、イエナニモイッテナイデスヨ。
こほん。ずばり! 今年はまだメイド姿を見てないぞ!
ぶべらっ! ぼげらっ! もげらっ! ぎょらっばっ!

美姫 「何か言い残す事は?」

って、物騒な!?

美姫 「それが遺言で良いのね?」

ご、ごめんなさい、許してください! 悪気はないんです! でも、メイド分が、メイド分が!
ぶべらぼげぇっ!

美姫 「はぁ、年が明けても変わらずね。感心するやら、呆れるやら」

まあ、同じされるなら感心の方が良いかな。

美姫 「はぁぁ。まあ、今年も頑張っていきましょうか」

いや、今頃言う事か!? しかも、そんな疲れた顔で……。

美姫 「誰の所為だと思っているのよ。まあ、浩も今年も頑張って生きなさいよ」

何か微妙に字が違うような気がしたんだが?

美姫 「きっと気のせいよ」

だよな。深く考えるのも怖いし、そういう事にしよう、うん。

美姫 「と、そろそろ時間ね」

だな。それじゃあ、締めるとしますか。

美姫 「そうね。さっさとしなさいよ」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月15日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、昔なら今日が成人式だったのに、とお届け中!>



早いもので今年も既に半月ばかりが経過しているんだな。

美姫 「しみじみと語っている所を悪いんだけれど、まるで年末みたいな語り方はやめて」

はっはっは。しかし、それにしてもまだ正月気分〜。

美姫 「いやいや、それは流石に可笑しいでしょう! いい加減に日常に戻りなさいよ!」

はっはっは。ぶべらっ!

美姫 「目、覚めた? 頭は冷えた? それじゃあ、次は肝を冷やそうか?」

ひぃぃぃっ! じゅ、充分に覚めたし冷めました!
そして、既に肝は縮こまる程に冷めております!

美姫 「あははは、もうそんなに遠慮しなくても良いよ♪」

決して遠慮とかでは……ちょっ、や、やめっ、暴力格好悪い!

美姫 「これは愛の鞭よ」

ぶべらっ、ごげっ、がはっ、あばばっ!
にょ、ぎょ、みょ、ひょうっ! や、やめっ、あががっ! ぶぎゃぁっ、みゃぎょっ!
ぎゃぁぁぁぁっ! ……………………。

美姫 「こうして、この日から浩の姿を見た者おらず、そして伝説が始まる」

って、何の伝説だよ! というか、不吉なナレーションを入れるなよ!

美姫 「うんうん、今年も元気いっぱいね」

いや、さっき誰かさんの所為で死ぬかと思ったんですが?

美姫 「さて、それじゃあ今週も元気にCMいってみましょう!」

ですよねっ! やっぱり聞いてないのかよ、こんちくしょう!

美姫 「誰に向かって口を聞いているのよ!」

ぶべらっ! 今年もやっぱりこういう事にだけ耳が良いのかよ!

美姫 「それじゃあ、改めてCMいってみよ〜」







「……」

無言に静寂。
今、ここ高町家でのリビングに相応しい言葉を述べろと言われれば、殆どの者がそう答えるであろう。
何とも言えない空気が漂う中、一人我関せずを決め込んだかのように恭也はソファーで寛いでいる。
誰もが何か言いたそうに、また聞きたそうにしつつも触れられないといった空気を醸し出す中、
新聞片手にお茶を啜り、湯飲みを置くとその手を足の付け根、正確にはその上に鎮座するモノへと伸ばして一撫で。
ようやく、ここでようやく、この現状を変えるべく美由希が恭也へと近付く。
寧ろ、他の者たちの無言による視線に耐えれなくなったというべきか。
ともあれ、美由希は自分も含めた皆の気持ちを代弁するべく恭也へと当然の疑問を口にした。

「恭ちゃん、それなに?」

やや震える指で恭也の足の上に鎮座し、恭也の指に喉を鳴らすソレ。

「ああ、拾った」

「拾ったって……」

ふあぁぁ〜、と口を開けて欠伸を漏らし、眠そうに目を擦る。
艶やかな金色の毛並みを恭也が撫でると目を細め、甘えるように擦り寄るとその指にカプと甘噛みする。

「もふもふ」

耳をピコピコと、尻尾をユラユラと揺らして甘えてくるソレを一度見下ろし、
恭也は何を言っているとばかりに美由希を見遣る。

「猫に決まっているだろう。とうとう、我が妹はそこまで……」

「猫なのは見れば分かってるわよ!
 そうじゃなくて、どうしてここに居るのかを聞いて、拾ったってあっさりと答えたのに驚いたのよ!」

『えぇー!』

美由希の反論に後ろで様子を窺っていたなのはたちの声が上がる。
二人してそちらを向けば、

「美由希ちゃんに頼んだのが間違いだったか。
 師匠、どう見てもそれは猫には見えませんって」

「お猿の言う通りです。うちらにはどう見ても人にしか見えないんですが」

晶に続きレンが言えば、なのはもその通りだとばかりに力いっぱい頷いている。
対し、二人の兄妹は今一度それを見下ろす。
長く伸びた金髪は後ろだけでなく両サイドでもまとめられてツインテールを作り、
先程まで甘噛みしていた恭也の指をぺしぺしと叩いて遊んでいるのは前足というよりも人の手と同じく五本の指。
黒いワンピースに身に纏った姿は確かに人である。
が、その頭には猫の耳が、そしてお尻からは尻尾が生えていた。
身長は30センチ少しといった所だろうか。それをじっと見詰めた後、

「人にも見えなくもないが、明らかに小さいだろう」

「まあ、レンたちのような見方もあるかもしれないけれど、本物の尻尾と耳だよ」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、だったらまずは夜の一族かも、とか考えようよ」

流石の末っ子も呆れた眼差しで二人の兄姉を眺めれば、恭也は冗談だと真顔で返し、
それを聞いて美由希は引き攣った笑みを浮かべながら、こちらも、

「や、やあねぇ、わ、私も冗談に決まっているじゃない。
 恭ちゃんにあわせたんだよ、うん」

しどろもどろになのはに言い訳しつつ、こっそりと恭也を睨む美由希であった。
そんな二人になのははやっぱり呆れたような表情を見せつつも、やはりその視線は自然とその女の子へと向く。
本当にどうしたのかと尋ねてくるなのはに、恭也は今度は真面目に答える。

「拾ったというのは本当だ。何でも探し物をしていて、遠くからこの海鳴まで来たらしい。
 だが、行く宛てもなく野宿するというのでこうして連れてきたのだ。
 名前はフェイにゃんというらしい」

恭也に名前を呼ばれたからか、フェイにゃんはちょこんと首を傾げて恭也を見上げてくる。
そんな仕草になのはは身体を震わせ、瞳をキラキラとさせるとフェイにゃんに話しかける。

「えっと、高町なのはって言います。あ、あの、抱っこしても良い?」

言葉は通じるらしく、なのはの言葉に少し考えた後頷く。
了承を得たなのはは、そっとフェイにゃんを抱き上げると自分の膝へと乗せる。

「うわー、うわー、可愛い。探し物って何を探しているの?
 お兄ちゃんと一緒になのはも探してあげるね」

既に恭也が探すのを手伝うのが決定しているとばかりに告げるなのはであったが、
恭也の方も元からそのつもりだからか何も言わない。
フェイにゃんはまた少し考えた後、お礼をするように頭を小さく下げ、

「あおいいし」

暫く悩んだ後、ようやくそれだけを口にする。
どうも話す方はそんなに得意ではないらしく、
少したどたどしかったがなのははよく出来ましたとばかりに頭を撫でる。

「ふにゃ〜」

気持ちよさげに目を細める様子になのははわーわーと夢中になりながらも、力に気を付けて撫でる。
やがて、フェイにゃんはごろごろと喉を鳴らし、なのはの指へと頬を摺り寄せる。
なのはは指をそっと頬から喉へと持っていき、くすぐるように撫でてやる。
最初はくすぐったそうにしていたが、なのはの方がコツを掴んだのか、いつしか甘えるように喉を晒す。
本当に気持ち良さそうに目を細めるフェイにゃんを見て、晶やレン、美由希も羨ましそうにそれを眺める。
そんな姉たちの視線に気付いたのか、なのはは苦笑するとフェイにゃんから指を離す。
あっと寂しげな声を思わず漏らすフェイにゃんだったが、すぐに何でもないとばかりに毅然とした姿で座り直す。
そんなフェイにゃんへと残る三人が群がり、順番にフェイにゃんへと手を伸ばしていく。
初めはおどおどしていたフェイにゃんだったが、次第に慣れていったのか身体から余計な力を抜き、
美由希たちにも大人しく撫でられる。
が、やはり一番気持ちよかったのは恭也となのはなのか、目で二人は弄らないのと見上げてくる。
その視線に頬が緩むのも抑えず、なのははフェイにゃんへと手を伸ばし、
恭也はまた後でと軽く一撫でだけするのであった。
後に帰宅した桃子が笑顔満開でフェイにゃんを可愛がったのは言うまでもない事である。
ともあれ、こうして高町家に不思議な住人が一人増える事となる。



フェイにゃん







そうそう、忘れていたんだけれど、実は先週って放送250回記念だったんだ。

美姫 「今更!? 先週に言いなさいよ、先週に!」

いや、今日がそうだと思っていたんだけれど、実は先週だったんだよ。
ほら、2005年2月25日分が初回だろう。
でも、あれ以前にもハートフルデイズと冗談半分でお前が言っていただろう。

美姫 「まだ定期的にやっていない時ね」

そうそう。そういう事もあってつい初回を数えるのを忘れていた。

美姫 「どういう事よ」

さっきも言ったが、それ以前にも偶にやっていたんだが、
今と同じ形になり定期的にするようになったあれを初回と位置づけただろう。

美姫 「だから、そんな記念すべき初回を何故、数え忘れるの?」

ほら、あれってばまだ冗談だと思ってたから。
まさか、翌週以降からここまで続くとは思わなかっただろう。
俺の中でついつい番外編みたいな感じになっちゃったんだよ。

美姫 「とりあえず、向こうでゆっくりと話そうか?」

目、目がマジで怖いんですけれど、美姫さん……。

美姫 「うふふふ、そんな事はないわよ。一週遅れとは言え、おめでたい日なんだから♪」

口元だけ笑顔なのが余計に怖いんですが!?

美姫 「大丈夫、大丈夫。怖いのは一瞬よ。それさえ済めば、あとは延々と苦痛や屈辱を感じるだけだから」

それを聞いて、どう安心しろと!?
いや、本当に勘弁してください!

美姫 「あら、貴方がごねている内に丁度、時間じゃない」

こ、今週はもっと頑張ろう、うん!

美姫 「駄目よ、時間がないもの。でも、これで時間を気にしなくても良くなったじゃない♪」

あ、あうあうあうあうあう。

美姫 「ほら、さっさと締めなさい」

い、嫌だ……。そんな自分で自分に死刑宣告するような真似出来るわけ……。

美姫 「なら、私が締めるだけよ」

おおうっ! 何の解決にもなってねぇ!

美姫 「どうする、自分で締める?」

何たる究極の二択……と言うか、結果は何も変わらねぇ!

美姫 「時間の無駄ね」

うぅぅぅ、こ、今週は……。

美姫 「ご主人様、早く締めの言葉を申して頂きませんと終われません」

今週はこの辺で! …………しまったっ! 何という巧妙な罠なんだ!

美姫 「それじゃあ、また来週〜。……貴方がバカ過ぎるだけよ。まあ、良いわ、行くわよ」

あ、ああぁぁぁ、お、お慈悲を。どうか、どうか、ご慈悲をぉぉぉ!

美姫 「くすくす、それは貴方次第よ♪」

って、思いっきりやる気満々じゃないかっ!?
い、いや、いや、いやぁぁぁぁぁっ!


1月8日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、正月気分は抜けたかい、とお送り中!>



うぅぅ、何故だろう。年末年始と非常に疲れた気がする。

美姫 「きっと気のせいよ」

うん、そう言うと思ったよ。
一週間ぐらいのんびりする予定が。

美姫 「いや、充分にしてたじゃない」

うっ、確かにしてたが……。
って、やっぱり今年もこれかよ!

美姫 「何を言っているのよ」

何でもねぇですよ!

美姫 「さて、それじゃあ早速だけれど、今年もCMいってみましょう!」

先週も既に今年ですけれどね――ぶべらっ!







「さて、いい加減に言い疲れたと前にも言ったとは思うが……」

「さて、ここは何処なんじゃろうな」

「そろそろ沙夜たちも戻れるはずだったのでは……」

「放浪を希望する声が思ったよりあったようじゃのぉ」

「アルシェラ、どういう意味だ?」

「さあ、余にもよく分からぬ。ただ何となく口を付いて出ただけじゃ。気にするでない」

流石に放浪し過ぎで疲れでも出たのか、やや可笑しな事を口走ったアルシェラであったが、
本人の言うとおり恭也たちはそれに関しては触れず、改めて周囲を見渡す。
これは既に習慣とも言える作業のようになってきており、改めて自分たちが元の世界になど戻っていないと理解する。

「香月副指令の理論では、鑑さんにより呼ばれた俺たちは白銀を手助けした事によって戻れるはずだったよな」

「まあ、推論は推論でしかないという事じゃろう。もしくは、またしても可笑しな事でも起こったのか」

「だとしても、流石に戦場のど真ん中というのは勘弁して欲しいものですわね」

「さて、以前のように都合良く助けが入るとは限らないしな。下手に巻き込まれない内に離脱するぞ」

前回の似たような状況からそう判断を下し、恭也たちは混戦と化している戦場を見渡し人の少ない方へと走り出す。
ここが何処かも分からない以上、何処に行ったら良いのかという判断も下せない。
故に安全な方へと逃げるのは間違いではないだろう。
ただし、それがぶつかり合う両軍の片方が仕掛けた罠ではなければ。

「昔、トンネルを抜けたら……という文学があったが……」

「さしずめ、混戦を抜けたら、そこには展開された軍が居た、といった所かのぉ」

「お二方供、暢気にしている場合ではないようですよ。どうやら、向こうもこちらに気付かれた様子」

沙夜の言葉をまるで肯定するかのように、恭也たち三人へと動き出す軍。
いや、そこには多少の乱れが見えた。
まあ、普通に考えれば罠は成功して伏兵による攻撃を、
という所にたった三人しか姿がないのだから、多少の混乱はあるかもしれないだろう。
だが、司令官は恭也たちを敵の斥候とでも見なしたのか、逃がすなとばかりに軍を前進させてくる。

「とことん付いていない状況のような気がするな」

「何、あの程度の輩」

「アルシェラさん、状況も分からない今、下手な交戦は控えた方が宜しいかと」

逃げ道を探す恭也を筆頭に、既にやる気満々となっているアルシェラとそれを嗜める沙夜。
傍から見ていても、そこに恐怖や驚愕といったものは見えず、
軍を指揮する将軍はバカにされているとでも感じたのか、軍を停止させてこちらへと一騎で先行してくる。
それを見て、恭也たちは少し呆れたような顔をする。

「どう見てもあの隊を率いている人物だと思うんだが」

「わざわざ一騎だけ出てくる意味が分からんのぉ」

「一層の事、人質にでもしますか?」

首を傾げる二人に対し、沙夜は何気に物騒な事を口にする。
その間に近付いてくる者の姿は遠目でもはっきりと分かる位置へと達していた。
身の丈を越す槍を手に馬を駈け、風に黒髪を翻す姿はどう見ても少女のものである。
それは自己主張する胸からもはっきりと象徴されており、別にそこを注視した訳でもないのに、
恭也は両頬をそれぞれ違う人物によって引っ張られていた。

「全く、そんなに見たいのなら余に言えば良かろう」

「そうです、沙夜に言ってくだされば」

瞬間、恭也を挟んで火花が散るが、恭也は珍しく二人を制する。
黒髪の少女がすぐそこまで来ていたからである。
少女は恭也たちから五メートル程の距離を開けて止まると、恭也たちを一瞥し、

「もしかして、賊から逃げてきた民か?」

どうやら賊と戦っている最中だったのか、恭也たちが丸腰だと見てそう話し掛けてくる。
実際には恭也は丸腰ではないのだが、相手の言葉に頷いておく。
そして、目の前の少女が激昂して近付いたのではなく、民間人が紛れ込んだかもしれないとやって来たのだと知る。
だとしても、斥候を出すなり方法はあっただろうに。
思わずそう思わずにはいられなかったが、とりあえずは黙っておく。
その間に目の前の少女は珍しそうに恭也たちの服装を眺めていたが慌ててそれを止め、自ら名乗り出す。

「我が名は関羽。劉備様にお仕えする――」

少女がまだ何か言っているが、それよりも恭也は驚いた顔で少女を見詰め、次いで確認するように両隣を見る。
が、どうやら聞き間違いではなかったらしく、アルシェラたちも小さく頷き返してくる。

「まあ、上杉謙信を名乗る少女や伊達政宗を名乗る妖怪とも会っているしな」

「そうじゃな。世界が変われば、このような事もあろうて」

「どちらにせよ、やはり元の世界ではないとはっきりと分かっただけでも僥倖としましょう」

こっそりと交わされる会話の間に少女――関羽の方も名乗り終えたらしい。
その上で確認するように尋ねてくる。

「もしやと思いますが、貴方様方のその服装から察しますに天の御遣い様ではありませんか。
 やはり、桃香さまの聞いた予言は正しかったのですね。是非とも我が主のお話を聞いてください!」

一人納得して話を進めていく関羽を前に、恭也たちは顔を見合わせる。
その天の御遣いなる者ではないが情報は必要である。故に恭也たちは関羽の言葉に首肯し、

「その天の御遣いかどうかは分かりませんが、少し聞きたい事がありますので」

一応、そう忠告はしておく。
対し、関羽は頷き、恐らくは間違いないだろうと言い返す。
どうやら、呉にそのような人物が現れ、その者が発案した服装がどうやら沙夜の服装と似ているらしい。

「沙夜の服装と言うと、着物か」

「ふむ、確かにこの世界がどのような発展をしたのかは分からぬが、
 本当に今まで見た事もない服装なのだとしたら、その呉に現れた人物というのも気になるのぉ」

アルシェラの言葉に同意しながら、恭也たちはとりあえず関羽の連れられて彼女の主へと会う事にするのだった。
まさか、これが大陸を三つに分断した戦の始まりになるとはこの時は考えも及ばなかったのだが。

恭也と剣の放浪記 〜三国ともう一人の異邦人〜







美姫 「って、このネタは終わりじゃなかったの!?」

ぶべらっ! い、いや、思ったよりも反応があってつい。

美姫 「はぁぁ、呆れて良いやら、嘆いて良いやら」

笑えば良いと思うよ――ぶべらっ!

美姫 「ほら、笑顔よ、ご待望の笑顔よ! 嬉しいかしら?」

め、目が全く笑ってません……ぶべらっ!

美姫 「全く本当に今年も思いやられるわね」

うぅぅ、すみません。でも、まあ俺らしいだろう! ふげっ! ぶべらっ!

美姫 「自分で言うな! 威張るな!」

に、二連撃……。

美姫 「って、もう時間が少なくなっているわね」

みたいだな。

美姫 「さっさと締めるわよ」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


1月1日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、お正月だよ、とお届け中!>



って、何故に!?

美姫 「去年と同じ始まり!? 折角の新年だというのに!」

ぶべらっ! いやいや、当然の疑問ですよね!
昨日の今日で!?

美姫 「だって、いつもの金曜日よ」

いやいやいや。

美姫 「皆さん、明けまして……」

聞けよ! そこはスルー駄目だろう!
ぶべらっ! って、またかよ!

美姫 「むむ、今年もまた煩くなりそうね」

って、何故、またしても俺が悪いみたいな空気に!?

美姫 「事実、そうだからよ」

ひどっ!

美姫 「さて、今年もバカな奴は放っておいて」

バカ言うな、バカって!

美姫 「今年一発目のCMいってみましょう〜」

聞けよ!







「……いい加減に言い疲れたがここは何処だ?」

「さてのぉ。見た所、廃墟といった所か」

「困りましたね」

未だにさ迷い続ける迷子三人組、恭也にアルシェラ、沙夜は周囲を見渡してそう言い合う。
見渡す限りアルシェラの言った通りに廃墟といった言葉が似つかわしい、何もない荒野が続く。
とは言え、十数年前には建物が建っていたのだろうという事が分かるぐらいには壊れた建築物が目に付く。

「昔は街だったのは間違いないようだが」

周辺を歩きながら見た感じからそう口にする。
その両隣を歩きながら、アルシェラたちにも異論はないらしく、人気のない街を見渡す。
ふと、アルシェラが恭也の腕を引っ張り注意を促す。
何を、と問う前に恭也もまたそれに気付く。
今まで人一人見つけられなかった廃墟の中で、一人の青年を見つけたからだ。
向こうもこちらに気付いたようで、こちら以上に驚いた顔をしている。
警戒するように近付いてくる青年に、恭也はこの世界について聞こうと近寄って行く。
これが、世界を繰り返し再び戻ってきた白銀武と迷子の高町恭也の出会いであった。
信じられないかもしれないが、と前置きをして語りだした恭也の言葉に最初は警戒していた武も信じたのか、
自らの事も話してくれた。
それによると、目の前の武もこの世界の住人ではないらしい。
その上、どうも時間を逆行したようで、今から未来を掴むために横浜基地へと向かうのだと言う。
更に、そこに居る副指令は天才と呼ばれる女性で、彼女なら元の世界に戻す方法が分かるかもしれないとの事。
それを聞き、恭也たちは武と同行する事となる。その途中、この世界の大まかな歴史や現状や、
その副指令、香月夕呼がただで帰すなんてしないかもとしれないとも聞かされる。
その事に少し考え込んだ恭也たちであったが、他にあてがあるはずもなく、結局は武に付いて行くのだった。

恭也と剣の放浪記 〜異星人との接触〜







美姫 「って、まだこのネタを引き摺るの!?」

あははは……、多分、これで最後だと思う。ぶべらっ!

美姫 「思うって何よ! と言うか、短いわね!」

いや、まあ導入部分のそれも最初の方だけって感じだからな。このネタは全部、そんな感じだっただろう。

美姫 「いや、威張るな、威張るな」

いや〜。

美姫 「だからって照れるな! 気持ち悪いわ!」

ぶべらぼげっ!

美姫 「こんなんだと、これから先、一年間思いやられるわ」

何を今更。

美姫 「開き直るな、諸悪の根源がっ!」

ぶべらっ!
と、言うか、今年もこんな待遇……?

美姫 「それこそ、何を今更、よね」

ぐはっ! こ、言葉の刃が胸に突き刺さる。

美姫 「はいはい、良かったわね〜」

うぅぅ、今年こそは良い年になりますようにっ!

美姫 「ほら、泣きながら寝言を叫んでないで、時間よ」

寝言言うな! 切実なる願いだよ!
って、本当に時間だな。

美姫 「ちょっと早いけれどね。ほら、今年最初なんだから、ちゃんと締めるわよ」

おうともさ!
それじゃあ、今週もこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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