『凹ちゃん、北へ』





〜第1話「突然の再会」〜



昨日の面接から明けて今日は日曜日。
実は……私、今日からさくら道で給仕をする事になったの。
細かい説明なんかは昨日と午前中に全部済ましたから、今日はいきなり接客です。
上手くいきますよーに。



……………
………




う〜ん、疲れたー。もうすぐ夕方か〜。
その所為かどうかは分からないけど、少し客足も落ち着いてきたみたい。
少し余裕が出来たので、自分の格好を改めてじっくりと見てみる。
はぁ〜、やぱり可愛いな〜この制服♪
前の街でバイトしていた店の制服も可愛かったけど、私はこっちの方が気に入ったわ。
えっ?前のバイトの制服はどんなのだったかって?
うんとね、前のバイトの制服は全部で3種類あったんだよ。
メイドタイプにアイドルタイプ、そしてスクール・タイプがあったの。
えっ、何でそんなにって?
さあ、それは私にも分からないわ。でも、どれも可愛かったから良いんだけどね。
まあ、それはそうとして、そのおかげで給仕の仕事もそんなに失敗せずに済んだしね。
あ、新しいお客さんが来たみたい。
私がお客さんの所に行くよりも先に先輩の人がその人を案内していく。
私は水とメニューを持ってそのお客さんの所へと向う。

「いらっしゃいませ。こちらがメニューとなっております。ご注文が決まりましたらお声をかけて下さい」

そう言って笑顔をそのお客さんに向ける。
そのお客さんは少し怪訝そうに私の顔を見つめてくる。
……?何かついているのかな?
別におかしい所はないと思うんだけど。
はっ、まさか、私のあまりの可愛さに見惚れて……。
だ、駄目ですわ、お客様。私はまだ仕事中なんです。そ、そんな幾ら私が可愛いからって。
あ、でもこの人結構格好いいからこのまま誘われるがままに……。
そのお客さんは少しビックリした様子で私を見てくる。
きっと声をかけるタイミングを計っているに違いないわ。
やがて、その人はおずおずと私に話し掛けてくる。
だけどゴメンね。私はそんなに安い女じゃないのよ。……な〜んて、あははは。

「もしかして……凹か?」

「へっ?」

思わず変な声をあげてしまう。
だって、だって初対面なのにいきなり名前を呼ばれたんだから仕方がないよね。
それよりも、何で私の名前を知ってるの。
あ、まさかストーカーって言う奴ね。
そ、それでずっと私の後をつけていて……。
ど、どうしよ〜。パパもママも家にいないのに〜(泣)
き、きっと私はこのままこの男(もはやお客さんじゃない)に家まで押しかけられて、い、嫌だよ〜、そんなの絶対に嫌!
私、初めての人はお兄ちゃんにって決めてるのに〜。
あ、お兄ちゃんって言っても、本当のお兄ちゃんのことじゃないからね。
私がただ、そう呼んでるだけで。前の街にいた幼馴染の男の子の事なの。
でも、その人は少し前に……。
って、今はそんな事を考えてる場合じゃないよ〜。
この目の前にいるストーカー(既に決定)を何とかしないと。
私は勇気を出して、そのストーカーを睨みつける。
……………って、え、え。
え〜〜〜〜〜〜。
そ、そんな、まさか、でも、やっぱり……………。

「ゆ、祐兄?」

「やっぱり凹か。全然、返事しないから違うかと思ったぞ。
 でも、まあ突然、体をクネクネさせるような行動をする奴はそうそういないだろうからな」

「祐兄!会いたかったよ〜」

私は嬉しさのあまり祐兄に抱きつく。
この人が私の言ってたお兄ちゃん!
ちょっと前に転校しちゃったの。
しかも、祐兄ったら、住所も電話番号も私に教えるのを忘れていて私からは連絡できなかったんだから。
本当に酷いよね。
でも、また会えて良かったよ〜。きっと会えるって信じていたよ。
何ていったって私と祐兄の絆は強いもんね。

「凹、できれば早急かつ、速やかに離れて欲しいんだが……」

「え〜」

「ほら、バイト中なんだろ」

その言葉に私は膨れながらも渋々と離れる。

「で、どうしたんだ?こんな所でバイトなんかして」

「あ、うん聞いてよ。私、この街に引っ越してきたの」

「な、本当なのか?」

「うん!これで、これからも一緒にいられるね祐兄!」

「あー、そうだな」

「祐兄は私と一緒は嫌なの……」

「そ、そんな事はないぞ。う、嬉しいな〜」

「うんうん。そうでしょそうでしょ。じゃあ、私はまだバイトだからまたね♪」

私は祐兄に挨拶をしてから仕事に戻る。
いつの間にか増え始めてきたお客さんの対応をしているうちに、祐兄もいなくなっていた。
あーあ、もっとお話したかったな〜。
って、あ〜〜!
私、祐兄の連絡先聞いてない!
ど、どうしよ〜。折角会えたのに〜(泣)
うぅ〜〜〜〜〜。
で、でもきっと大丈夫。また会えるはず……。
ううん、絶対に会えるわ。だって、こうして会えたんだもん。
私は決意も新たにとりあえずはバイトに勤しむのでした。
次に会った時は連絡先を聞く事を忘れないように誓いながら……。





おわり