『静馬さんは親ばかなんです』
とある休日の昼下がり。
高町家の縁側で猫を足に乗せ、日向ぼっこをしながら湯のみを傾ける女性がいた。
その女性──美沙斗の後ろから、美由希が声を掛ける。
「母さん、ちょっといい?」
「ああ、何だい?」
「うん。父さんの事、聞いてもいいかな?」
「……ああ、別に構わないよ」
「うん」
美由希は嬉しそうに笑みを浮かべると、美沙斗の横に座る。
そして、
「父さんって、どんな人だったの?」
「美由希の父さん、静馬さんはね、御神宗家の正統伝承者で、その実力は兄さんをも上回っていたよ。
そして、美由希と同じぐらい理不尽な暴力を嫌う本当に優しい人だった」
「へー」
「それに、美由希は覚えていないだろうけど、とても美由希を可愛がっていたんだよ。
兄さんたちに言わせると、やり過ぎだったらしいけどね」
そう言って笑った後、美沙斗は静馬がどれぐらい美由希を可愛がっていたかを話し始める。
「こんな事があったんだけど…」
「きゃっきゃっ」
まだ幼い美由希が庭を楽しそうに走り周る。
と、その体が庭に落ちていた石に躓き転ぶ。
一瞬、何が起こったのか分からなかったのか、美由希はきょとんとした顔をするが、すぐに痛みが伝わってきたのか、
火がついたように泣き始める。
それを見て、美沙斗は美由希を抱き上げると、そっとあやす。
そして、一緒に見ていた静馬は、腰に差した龍燐を抜き放つ。
「貴様!美由希に何て事を!」
叫ぶや否や、美由希が躓いた石に斬りかかる。
何度も振るわれた斬撃によって、石が粉々になると、静馬はどこからか取り出した袋の中にそれらを入れ口を結ぶ。
「これで良し!」
その顔はやけに清々しいものだった。
「本当に美由希を可愛がっていたな」
しみじみと語る美沙斗に対し、美由希は冷たいものが頬に流れるのを感じながらも、引き攣った笑みを浮かべる。
「は、はははは」
「他にも、私が美由希を連れて買い物に行く途中の道が狭くてね。なのに、車が結構通る場所があったんだけど。
それを静馬さんに話したら、次の日には、何故か道が広くなっていてね。
静馬さんに聞いたら、誠心誠意話し合って、道を広げてもらったそうだよ。
まあ、急いでやった工事の所為なんだろうけど、両脇に建っていた家屋が少し壊れてしまったようだったけどね。
後、御神の人たちの顔が、揃って疲れたような顔をしていたけどね」
「それって、無断で両脇の塀を壊したんじゃ……」
しかし、美由希の呟きは、過去の記憶に浸っている美沙斗には届いていなかった。
その後も、色々な話を聞くたびに、美由希は両耳を塞ぎたくなったとか(笑)
終わり