『とらいあんぐるハート 〜Another story〜』
3
「う、うーん………。こ、ここは……。国守山か?何故、こんな所に?」
恭也は今までの出来事をゆっくりと思い出していく。
「そうか、リスティさんたちの力のお陰か。ん?桜の花びら……?
風流だな」
恭也は暫しの間、時を忘れ舞い散る桜を眺めていたが、突然あることに気付き、
「何で、秋なのに桜が」
恭也は不審に思い、急いで山を降りると自宅へと向う。
住宅街に差し掛かった所で、自分がかなり慌てていた事を悟る。
(しまった。あそこからなら、さざなみ寮の方が圧倒的に近いじゃないか。しかも、さっきまであそこにいたのに)
そう思いつきはしたものの、いまから戻るよりは自宅へと行く方が速い上に、確認しておきたい事があったため、自宅へと向う。
(ここに来る途中に見た街の様子では、今は春のようだな。その事を確認する意味でも、一旦家に戻ろう)
恭也の脳裏に、昔、美由希に借りて呼んだ小説が思い浮かぶが、頭を振って否定する。
(幾ら何でも、タイムスリップはな。しかし、街ぐるみで俺を騙そうとするとも思えないし、する意味もない………はずだ。
幾ら、アノ人たちでも、流石にな)
脳裏に浮かんだ、桃子、真雪、リスティの顔を追い払いながら、足を速める。
やがて、恭也の目の前によく見慣れた門構えの家屋が見える。
幾分、緊張しながら恭也は家の扉を開けた。
「失礼します」
自分でも少し間抜けだと思う声を出して、中へと入る。
すると、中から一人の女性の声が聞こえる。
「はーい。誰ですか」
どこか聞き覚えがあるような、それでいて聞いた事のない声に恭也は幾分緊張しながらも、その声の主が現われるのを待つ。
やがて、その人物が現われ、恭也を見て驚いたような顔をする。
長い髪を後ろで束ねたその女性は、暫く口をパクパクと開くと、掠れた声を出す。
「お……お兄ちゃん?!」
「はぁ?」
恭也は素っ頓狂な声を上げると、目の前に立つ女性をじっと見詰める。
「ま、まさか、なのはなのか?」
「う、うん!やっぱりお兄ちゃんなのね」
なのはは目の端に涙を浮かべると、そのまま恭也に抱きつく。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!今まで、何処にいたの!」
そう言うと、涙を隠そうともせず嗚咽を上げる。
そんななのはの様子に、恭也は躊躇いながらもそっと背中を擦ってあげる。
と、玄関の騒ぎを聞きつけてか、中から一人の男性が姿を現す。
「なのは、誰が来たんだ」
そう言って現われたのは、黒髪で年の頃はなのはと同じぐらいの男性だった。
男性は泣きながら恭也に抱きついているなのはを見て、何かを勘違いしたのか、恭也に敵意を向ける。
「今すぐ、なのはを離せ」
それに慌てたなのはが、男性の行動を止めようと呼びかけるが、
それよりも早く、恭也は何かに気が付いたのか、その男性に声を掛ける。
「もしかして、クロノか」
「そうですが………。まさか、恭也さん!」
「そうだよ、あなた!お兄ちゃんが帰ってきたのよ」
なのはが嬉しそうな声を出す中、クロノは恭也をじっと見詰める。
恭也もまた、クロノの視線を真正面から受け止めると、やがて、クロノはゆっくりと肩の力を抜く。
「すいません。本当に恭也さんみたいですね」
「ああ。そうだが。それよりも、どうして、なのはとクロノはそんなに成長しているんだ?」
「私から言わせて貰うなら、恭也さんこそどうして成長してないんですか?」
「………とりあえず、現状の把握が先だな」
「そのようですね」
「なのは、とりあえずリビングに」
「はい」
なのはは本当に嬉しそうに笑うとリビングへと行く。
その後に続きながら、クロノは恭也に話し掛ける。
「とりあえず無事みたいで、良かったです。
なのはも口には出してこそ言いませんが、恭也さんがいなくなってから時折、寂しそうにしてたから」
「俺がいなくなった?」
「その事も今から説明しますよ。勿論、恭也さんの方の説明もお願いしますね」
「ああ」
こうしてリビングに着くと、恭也は改めて周りを見渡す。
「随分と変わったな」
「それはそうですよ。恭也さんがいなくなって、もう20年以上になるんですから」
「20年以上!ちょっと待ってくれ。俺にとってはついさっきの出来事なんだが」
「ですが、現に私たちもこうして大人になってますし」
「うーん」
恭也は、言われて改めて二人を見る。
(20年以上経ったという事は、なのはは……)
「まだ20代半ばぐらいにしか見えんが……」
「はははは。まあ、正確には22年ほど経ってるんですけどね。なのはや私で驚いていたら、美由希さんを見たらもっと驚きますよ」
「後、お母さんも見たら、ビックリするかも」
「それは、ちょっと見てみたいような、見たくないような」
「しかし、私はその時の状況を美由希さんからしか聞いてないので、よく分からないんですが、聞いた話と矢沢先生の話では…」
クロノの言葉を聞き終え、恭也は一つ頷く。
「対消滅か。考えただけで恐ろしいな」
「ええ。でも、皆さんはそれで恭也さんが消えたとばかり思ってました。で、恭也さんの方は」
クロノの言葉に、その時、恭也にとってはさっきの事を説明する。
「…で、気がついたら国守山にいたという訳だ。てっきり、リスティさん達の力で飛ばされたと思ったんだがな」
「そうですか。恐らく、推論になりますが、アポートの力が同時に4つ加わったのと、
霊力や久遠の雷によって、時代を飛ばされたのかも」
「そうか」
「…やけに落ち着いてますね」
「そんな事はないがな。しかし、こうなった以上、慌ててもどうにもならんだろ。
戻ろうにも、下手をすれば対消滅では試す気にもならんしな。それに、俺が戻ることで、今のこの時代が変わるかもしれん」
「そうですね。でも、無事で何よりでした」
「ああ。所で、クロノとなのはは、結婚してるのか?」
「はい。後、10歳になる娘が一人います。今は、久遠と遊びに行ってますが、もうじき戻るかと」
「そうか」
恭也は少し寂しげに、そして感慨深い表情をする。
それを気遣ってか、クロノは恭也に話し掛ける。
「それよりも、明日は日曜日ですから、皆さんに恭也さんが戻ってきたことを連絡しましょう。
きっと宴会になりますよ」
「そうね。じゃあ、すぐに連絡しなきゃ。と、かーさんにも連絡しないと。って、もうこんな時間!
あなた、休憩時間終ってるわよ」
「ああ、本当だ」
「休憩時間?」
「うん。私たち、翠屋で働いてるから」
「そうか」
「そうだ、お兄ちゃんも一緒に行こう」
「しかし、邪魔にならないか」
「大丈夫よ。それどころか、皆喜ぶわ」
そう言うと、なのはは恭也の手を引き、玄関へと引っ張っていった。
〜 つづく 〜