『とらいあんぐるハート 〜Another story〜』
4
恭也は翠屋を前に佇む。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「いや、少し雰囲気が変わったなと」
「まあ、何回か改装しましたから。でも、古くなった所を直したりとかですから、そんなに変わってないと思いますよ」
「ああ」
恭也は幾分、緊張した面持ちで扉を開ける。
「お兄ちゃんはここで待っててね」
そう言うと、なのはは恭也を席に座らせ奥へと入って行く。
その対面にクロノは座ると、
「この時間なら、お義母さんと、美沙斗さん、美由希さんがいますね」
「美沙斗さんが?」
「ええ。大分前に前の仕事辞められて、翠屋を手伝ってもらっています。美由希さんも同じですね」
「美由希は料理が出来るようになったのか」
恭也は本当に驚いたような顔で答える。
「ええ。まあ、好きな人に自分の手料理を食べさせたいって頑張ってましたから」
「そうか。で、美由希たちは何処に住んでいるんだ?」
「美由希さんは、丁度、高町家の向かい側の家で、美沙斗さんと一緒に住んでいますよ。
ちゃんと道場もあって、美由希さんの子供たちも剣をやっています」
「そうか。美由希の子供か。手合わせをしてみたいな」
恭也は嬉しそうに笑う。
自分が教えた剣を、美由希がその子供に伝えている事が嬉しいのだろう。
そんな恭也を見ながら、クロノは言葉を続ける。
「晶さんは、明心館で師範をやっていて、たまに高町家に来ます。
レンさんは、同じ商店街で中華飯店を開いてます。レンさんも、たまに高町家を訪れてますよ。
忍さんも遊びに来ますし、那美さんは滅多に来れませんけど、近くに来たら必ず寄ってくれます」
「そうか。皆、元気そうで何よりだ」
穏やかに話をしていると、急に奥から騒がしい声が聞こえてくる。
「あいた!ちょ、美由希、足踏んでる」
「ごめん、かーさん」
「すいません、先に行きます」
「あ、美沙斗さん、ま、待って」
「母さん、待ってよ」
「あ、お姉ちゃん、そこ!」
「え、あ、きゃぁ!」
何かが倒れる音を聞きながら、恭也とクロノは顔を合わせて苦笑する。
やがて、奥から美沙斗が現われる。
「恭也……。本当に恭也かい」
「ええ。この場合、お久しぶりになるんですかね、美沙斗さん」
「そうだね。少なくとも、私たちにとっては20年振りだからね」
「お元気そうで何よりです」
「そうでもないさ。流石に、剣士としてはもうね」
「ご謙遜を…」
恭也は美沙斗を見て、確かに現役時代よりは劣るであろうがそれでも尚、その実力の高さを感じる。
そんな美沙斗の後ろから、美由希が顔を出し、
「恭ちゃん〜。良かった〜、無事だったんだ。うぅぅぅ」
恭也を見て、突然泣き出す美由希の頭を恭也はそっと撫でる。
「まあ、よくは分からんが心配をかけたな」
「う、ううん」
「恭也!」
そこへ桃子が駆けつける。
「本当に恭也なのね。なのはから話を聞いて、まさかとは思ったけど…。
本当にあの時のままの姿だわ。アンタが生きてるって、母さんはずっと信じてたわ。
だから、お葬式もあげなかったし。本当に良かった」
恭也は桃子の喜び様に、驚いてただ立ち尽くす。
そんな恭也に向って、
「何よ、何か言いなさいよ〜」
桃子は涙目になりながら、恭也の胸に抱きつく。
恭也は少し照れくさそうにしながら、
「そうだな。では、一言だけ」
そう言って、桃子の肩を掴み、そっと離す。
「かなり年取ったな」
「…………へっ?」
「俺の認識では、ついさっきの出来事なんでな。
その差がよく分かる。やはりクロノの言う通り、年月が流れたという事なんだろうな」
しみじみと呟く恭也に、桃子は肩を振るわせる。
「あ、アンタって子は、何年経っても変わらないんだから!」
そう怒鳴って頭を叩くが、その顔はやはり笑顔だった。
そんな二人を見ながら、しょうがないという顔をする美由希たちの顔もまた、笑顔だった。
〜 つづく 〜