『一発ネタでいこう!』






生まれて最初の鳴き声は、『どこだ、ここ!』でした。
隣で同じく生まれた赤子が寝かされるのをちらりと見ながら、こちらを眺めている医者らしき人物へと視線を戻す。
暫く医者との睨めっこが続く中、医者の方が軽く頭を振り、

「ここの所、続けての出産だったから疲れているのかもな」

そう一人納得してくれた事に感謝を捧げつつ、恭也は自身の記憶を辿る。
高町恭也、御神流師範代。最後の記憶は就寝した所で途切れている事から、無事に畳の上で逝ったのか。
自分の事ながら他人事のように分析を終えると、改めて恭也は隣を見る。
元気な産声を上げる、双子の弟だと思われる赤子。
さて、どうしたものかと一人ごちる。前世の記憶があるようだが、果たしてこれは良いことなのかどうか。
そう悩んでいる間に、恭也たちは母親の手に渡される。
一方は未だに火の着いたように泣き、一方は全く泣かないという正反対の双子を受け取る女性は嬉しそうな顔である。
それをぼんやりと眺めつつ、恭也は襲ってきた睡魔に身を委ねた。
次に目が覚めたのは病室であろう。
特にする事があるでもなく、数日が経過したある日、父親らしき男に抱かれて恭也は外へと連れ出される。
ようやく退院かと思われたのだが、連れて行かれたのは都会から離れた自然の多い小さな村であった。
どうやら恭也たちを預けて、父親は出て行くらしい。
さて、どうしたものかと思いつつも赤子の身ではどうする事も出来ない。
こうして、再び恭也と名付けられた子供は弟と二人で生きていく事になるのであった。



さて、さしあたっての問題も特になく、赤子の身なればこそ不自由な面もあるものの順調に成長を続けていく。
とは言え、少しでも身体を動かしたいという性分からか、弟が這う頃には既に二本の足で立ち、歩けるようにまでなった。
こうなると恭也としてはやる事は一つである。
言うまでもなく鍛錬である。が、それでも一歳にも満たない自分がそんな事をすれば周囲からは不審に思われるかもしれない。
が、立って歩いた時の周囲の反応から、あの馬鹿の子供だという言葉を聞いた事を考えれば……。
そんな風に悩みつつも、やはり人目を避けて鍛錬を開始ししてしまう恭也であったとさ。
そんなこんなで数年が過ぎた頃、恭也は今更ながらここが自分の居た世界とは少し違うと知る事になる。
皮肉にもそれを教えてくれたのは、もうそろそろ四歳になる自分の弟であった。
恭也とは違い、父親譲りの赤毛を見事に引き継いだ弟は、目の前で玩具のような棒を振って火を出してみせたのだ。

「あー、ネギ。それは?」

「これは魔法だよ、兄さん」

この言葉を聞いた時、恭也はとても遠くを見る目をして思ってしまった。
つくづく、俺の周囲には不思議な事が起こるな、と。
この日から、恭也もまた半分無理矢理に魔法の練習に付き合わされる事となるのだが、結果は言うまでもないだろう。



そんなこんなで月日は流れ、恭也とネギが十歳を迎える年に二人は卒業する事となる。
そして、何の因果か修行の課題として出されたのは日本の学校で教鞭をとれというものであったのだが。
この事が恭也とネギを様々な事件に巻き込む事になるなどこの時点で知るはずもなかった。
日本に行くにあたって幾つか下調べをしておいた恭也は、副担任として受け持つ生徒の一人に早速目を付けられてしまう。
こと、魔法に関してはネギに及ばない恭也は情けないながらも弟に助けてもらおうとしたのだが、
あっちはあっちで何やら大変そうであった。知人である高畑と生徒の一人の間を何度か行き来している。

「仕方ないな、一人で行くしかないか」

諦め半分で自分たちの為に開かれた歓迎会を抜け出し、恭也は指定された場所へとやって来た。
向こうは既に待っていたらしく、少し苛立った口調で告げてくる。

「遅かったな」

「すみません、抜け出す機会が中々なかったので」

「ふん、まあ良い。事前にこそこそと調べまわっていた貴様に聞きたい事があるんだが、その前に本当にあのナギの息子なのか?」

「生憎と弟と違って両親のどちらにも似ずに無愛想な顔に生まれ付いてしまいましたが、正真正銘ネギの兄ですよ。
 あー、この度は父がお手数をお掛けしたようで」

やけに謝り慣れている恭也の態度に思わず呼び出した少女――エヴァも言葉を無くす。
が、それを気にするでもなく恭也は続ける。

「聞きたい事というのは、貴女に掛けられた呪いの事でしょうか」

「そこまで知っているのなら話は早い。貴様の血を貰い、この忌々しい呪いを解かせてもらうぞ」

言って近付いてくるエヴァに対し、恭也は大人しく左腕の袖を捲って差し出す。
これに逆に呆気に取られたのはエヴァの方であった。

「やけにあっさりとしているな」

「元を辿ればうちの父が仕出かしてしまった事ですから。
 出来れば、死なない程度の採血でお願いします」

本当に父親の後始末になれているといった様子で腕を差し出す恭也に、若干躊躇いつつもエヴァは牙を突き立てるのであった。







おわり




<あとがき>

思わず思いついたというか、息抜きというか、ともあれ恭也転生物。
美姫 「恭也に転生じゃなくて、恭也が転生ね」
うん。思いついて、思わず書いてしまった。
美姫 「続きは?」
当然、ない。と言うか、ネタとしてなら幾つかあるけれどな。
美姫 「本当に一発ネタなのね」
ああ。こんな感じでまた違うネタでやるかもしれないがな。
美姫 「……これって、普通にCMネタとして使えたんじゃないの?」
…………ああっ、その手が!
美姫 「気付いてなかったのね」
あははは〜。そ、それじゃあ、この辺で。
美姫 「はぁ。それじゃ〜ね〜」







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