『一発ネタでいこう! 2』






「この世界の何処かに居る偉大なる――」

朗々と周囲には何もない平原に少女の言葉が広がっていく。
少女一人ではなく、似たような年頃の少年、少女が詠唱を言葉を紡ぐ少女を遠巻きに囲んでいる。
厳かな儀式の最中という事もあり、邪魔する者はいないが、彼らの表情はからかいや侮蔑といった物が浮かんでいる。
中には疲れている表情や無関心といった物も少数ながらは居るが、やはり声を出す者は一人とていない。
そんな複数に囲まれた少女は、目を閉じて只管に言葉を繋げていく。
偉大、高貴、高潔、様々な褒め称える言葉と共に手にした三、四十センチほどの杖が振るわれ、爆発が起こる。

「うわ、また爆発したぞ」

「ルイズ、いい加減にしてくれ」

「待て、煙の中に何か居るぞ」

途端にあちこちから上がる批難の声に混じり、誰かが土煙の中を指差す。
その声に真っ先に反応したのは、先程まで詠唱をしていたルイズと呼ばれた少女であった。
彼女はようやくにして成功した使い魔の召喚に胸を高鳴らせ、煙が収まるのを今か今かと待ちわびる。
煙が晴れたら、次は自身の使い魔となる儀式へと移らなければならない。
それに失敗する訳にもいかず、使い魔契約、コントラクト・サーヴァントする前に逃げられたり舐められる訳にもいかない。
主人としての威厳を見せようと、多少コンプレックスを感じている小さな胸を張り、堂々と足を肩幅に広げて腕を組む。
やがて、煙の中から出てきたのは……。

「あんた誰?」

思わずそう問い質してしまうぐらいに普通の男だった。
竜とまでは言わないでも、幻獣や、せめて猫でもと願っていたルイズとしては当然の疑問であり、知らず言葉にも刺が出る。
周囲からあがる平民を召喚したや、出来ないから金で連れて来たという声もルイズの神経を逆撫でする要因の一つである。

「僕の名前かい? ケイバーと名乗るのはおこがましく、探検者では味気ない。
 スペランカーと呼んでくれ」

本人としてはちゃんと自己紹介をしたつもりなのかもしれないが、周囲は完全にどうでも良さそうな反応を返す。
尋ねた当の本人は本人でスペランカーには目もくれずに、この場で最年長と思われる男――コルベールにやり直しを請求していた。
が、それは認められず渋々とスペランカーの前に戻ってくると、何かを呟き口付けをする。
驚く間もなく、男の左手に激痛が走るも暫くするとそれは収まる。
ようやく事情の説明かと思ったのも束の間、コルベールは左手に浮き出た謎の文字を書き写し、少年たちは空を飛んで去って行く。
やがて、コルベールも遙か向こうに見える塔の方へと飛んで行き、残ったのはルイズと名乗った少女だけとなる。

「一体何がどうなっているんだ?」

「はぁ、何で平民なんか……。どうして来たのよ」

「そんな事を言われても、こっちも事態を把握できていないんだが。
 僕はただ洞窟の探検をしていて、気付いたらここに居たんだけれどね」

「探検? ならただの平民よりは役に立つのかしら。
 兎に角、詳しい話は後でしてあげるから来なさい」

言ってさっさと歩き出す少女に話し掛けて情報を集める。
その際、口の聞き方に注意を受けたものの、すぐに諦めたのか何も言わなくなったが。
分かった点だけを纏めると、ルイズはメイジと呼ばれる魔法を使う貴族たちの学院があり、その生徒だという事。
そのメイジのパートーナーとなる使い魔を呼ぶ儀式で自分が呼ばれ、使い魔契約をされたこと。
この関係はどちらかが死なないと解けない。

「いやはや、全く勝手に決められても」

「文句を言いたいのはこっちよ。この馬鹿!」

言って腹の虫が治まらないのか、道端の小石を拾って投げる。
それは見事にスペランカーの額にあたり、そのままばったりと後ろから倒れる。

「って、冒険家ならこれぐらい避けなさいよ。……ねぇ、ちょっと?」

一向に起き上がってこないスペランカーに近付くと、呼吸していない事に気付く。

「嘘、ちょっと冗談は止めてよ」

若干、顔を青くして揺するも反応はない。幾ら気に入らないからといって、自分の使い魔を殺すようなメイジは居ない。
わざとではないと主張しても、現実として自分の投げた石でこうなったのだ。
おろおろするルイズの前で、使い魔の証である左手のルーンが綺麗に消え去る。
完全に力が抜けてぺたりと座り込み、どうしたら良いのか分からず混乱するルイズの前で、

「う、うーん」

スペランカーが小さく呻いたかと思うと、何事もなかったかのようにむっくりと起き上がる。

「へっ?」

思わず間抜けな声を出すルイズを見下ろし、スペランカーは何があったのか尋ねるのだが、

「あんた、何で生き返ってるのよ! もしかして幽霊!?
 ち、違うのよ、さっきのはわざとじゃ」

「えっと、とりあえず落ち着こうか。ほら、深呼吸して」

「って、何で冷静なのよ!」

スペランカーの態度に思わず拳骨を落とせば、また地面に倒れる。

「…………」

先程と変わらない場面にルイズが恐る恐る男の腕を取れば、脈はなく呼吸もしていない。
心臓も止まっている。さっきのは辛うじて命があったが、完全に止めを刺してしまったのだろうか。
そう悩むルイズの前で、またしてもスペランカーは立ち上がる。

「もう一体、何なのよ!」

理不尽に怒鳴られて首を傾げるスペランカーだったが、左手のルーンが消えている事に気付く。

「これがないって事は使い魔じゃなくなったって事で良いのかな?」

スペランカーの言葉にルイズは希望を得たように立ち上がり、もう一度召喚の魔法を唱えてみると、
スペランカーの目の前に召喚の扉が姿を見せる。

「そう、やっぱり私の使い魔はこいつという事ね」

そう半眼になって睨みながら呟くも、逆に違うものを呼んでいたらそれはそれで問題になっていただろう。
何せ、クラスメイト全員と先生が見る中使い魔契約をしているのだから。
こはもう仕方ないと割り切り、ルイズはスペランカーを使い魔として連れて帰るしかなかった。
が、その左手のルーンがない事を思い出して再びコントラクト・サーヴァントする。

「屈辱だわ、二度目もまさかコントラクト・サーヴァントでなんて……」

乙女らしい悩みに打ちのめされつつも、ノーカウントだと言い聞かせてどうにか立ち直る。
歩いて帰るルイズを不思議に思い尋ねたスペランカーに腹を立てて再び手を出し、再度コントラクト・サーヴァントをする。

「落ち着きなさい、ルイズ。彼はとても弱くてすぐに死んでしまうのよ。
 我慢、そう我慢よ。って、簡単に死ぬくせに何で生き返るのよ!」

あまりの理不尽さに思わず今度は足が出て、やはりスペランカーは倒れる。
四度目のコントラクト・サーヴァントを済ませ、ルイズは今度に一抹の不安を抱く。

「こんな調子なら、これから先、私は何度コントラクト・サーヴァントする事になるのよ」

呟き頭を抱えるルイズの横で、小石に躓いたスペランカーが転び、またしても死んでしまう。
そして、五度目の契約。
本格的に頭の痛くなってきたルイズだったが、それでも手を出せない苛立ちを誤魔化すように地面を蹴り、慎重に学院へと戻る。
最終的に、小さなくぼみで転び、学院の女子寮の怪談で転び、部屋の扉に頭をぶつけ、部屋に入るまでに更に三度契約をし直す。
ぐったりとした様子でベッドに飛び込むと、ルイズはもう泣きたくなった。
よりによって平民の使い魔というだけでもからかわれるというのに、ここまで頻繁に死なれるとは。
もう弱いなんてものじゃない。下手をすれば赤ん坊でさえ勝ててしまうのではないかと思ってしまう。
その癖、暫くすると復活するのだから本当に人間なのかと問いたい。

「って、何でアンタまでベッドに上がってきてるのよ。降りなさい」

思わず蹴りそうなったのを堪え、何とかそう言葉にする。
それを聞いたスペランカーは謝ってからベッドから飛び降り、

「待ちなさい! ……って、遅かったか。
 こ、こんな段差で死ぬなんて、本当になんて弱いのよ。
 というか、ままままままたコントラクト・サーヴァントしないといけないじゃないの」

最早、復活する事は気にしない事にし、当面の問題にげんなりと顔を歪める。
どうにか九度目の契約も済ませ、ようやくルイズは使い魔の説明をする事が出来たが、既に日は暮れておりルイズの腹が鳴る。
今日の夕食はないなと諦めつつ、食欲もあまりないから丁度良いかと無理矢理に納得させる。
その際、空に登った二つの月を見て、スペランカーが異世界から来たと喚くが、当然信じられるはずもなく……。

「いや、既に何度も生き返るのを見ているのよね。それからすれば異世界ぐらい。
 いいえ、異世界ではそれが当たり前なのかも。ねぇ、あなたの世界じゃ人は死んでも生き返ったりするの?」

「そんな訳ないだろう。まあ、僕は冒険家のはしくれだから、ちょっとタフなんだよ」

何処がだと叫びたいのを飲み込み、ルイズはもしかしてルーンによる特殊な効果なのだろうかと考える。
しかし、契約が切れた時に死んでも生き返っていた事を思い出し、この件で考えるのは止める事にした。

「とりあえず、着替えるから脱がせて」

そう告げて立ち上がるルイズを前にスペランカーは慌てふためき、転んでまた死ぬ。

「……もう嫌」

本当に泣きたくなるのを堪え、今日だけで丁度十度目となる契約をするのだった。



この後もスペランカーは順調に死んでは生き返るを繰り返していく。
洗濯途中で桶に顔を突っ込み溺死し、やはり洗濯での生き返りで階段や小石に転んでは死ぬ。
それでもすぐに生き返り、その度にルイズは契約をし直さなければならなかった。
極めつけは、自身に与えられた伝説の使い魔、ガンダールヴとしての力を解放しただけで、その反動で死んでしまうのである。

「アンタはとりあえず、ジャンプするのは絶対に禁止よ!」

ルイズとの間にそんな可笑しな取り決めまで作られ出す始末である。
それでも、スペランカーは未知なる世界という事もあり、悲壮感に暮れる事無く日々を過ごしていくのである。







おわり




<あとがき>

またも思いつきネタを。
美姫 「さしずめ、ゼロのスペランカーって所ね」
ああ。この貧弱な主人公がどう活躍できるか……って、無理っぽいな。
美姫 「唯一の救いは生き返る事よね」
一日の残数制限とか設けたら流石にもっと慎重に行動するかもな。
美姫 「本人がそれを知らないんじゃ、どうしようもない気もするけれどね」
確かに。と、それじゃあ、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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