『風と刃の聖痕』
第7話
翌日、恭也は和麻たちと共に、東京へと向う列車の中にいた。
「で、最初はどうするつもりだ」
「そうだな。とりあえずは、失踪者が目撃された場所を中心に、夜中に街をうろつくしかないだろうが…」
めんどくさいと、もごもご呟く和麻の脇腹に、隣に座った綾乃から肘鉄が入る。
しかし、それを片手で受け止め、和麻は何事もなかったかのように続ける。
「まあ、それしかないだろうな。
何らかの術が行使されれば、それを察知できるし、よしんば、行使された後でも、微かな残り香から追跡できるだろうからな」
事、探索に関しての術は風が最も秀でており、この意見には綾乃も異を唱える事はなかった。
まあ、それだけ和麻の力を信じているという事なのだが、それを口にすると強く否定するだろうから、恭也はただ黙って頷いておく。
「つまり、夜中に宛てもなく歩き回るしかないって訳だ。
全く、効率の悪いことないな」
やる気のない口調で言う和麻を睨みつけつつ、綾乃が恭也へと話し掛ける。
「所で恭也さん。お願いがあるんですけれど…」
言うかどうか悩んだ末といった感じで告げる綾乃に、恭也はただ優しく続きを促がす。
それに後押しされるように、綾乃は話す。
「時間がある時で良いので、少し剣を教えてもらえませんか」
綾乃の言葉に意外そうな顔をした恭也だったが、和麻から綾乃の力について聞いていたのを思い出し、納得する。
「別に教えるのは構いませんが、俺や美由希がやっているような剣術はお教えできませんよ。
それで良ければ…」
「えっと、恭也さんたちがやっているのは、御神流なんですよね」
綾乃の言葉に頷きつつも、恭也は和麻を見る。
和麻はその視線を受け、軽く肩を竦める。
「一体、いつ話したんだ」
「今朝だよ。どうしてもって言われてな。
まあ、こいつに言っても困るもんでもないだろう。
どうせ、これから一緒に戦うことになるんだし」
「ごめんなさい。聞いてはいけない事だったんですか」
恭也と和麻の会話から、綾乃が謝罪の言葉を口にするが、それに頭を振る。
「いえ、そういう訳ではないですが。
ただ、俺らの流派は昔から色々とありましたから…」
「あ、はい。私も御神流の事は多少、知ってます。
でも、そのまだ残っているとは思いませんでしたけど…」
多少言い辛そうに告げる綾乃に、恭也は優しく微笑む。
「そうですね。運が良かったんですよ、俺は。
最も、今は御神流の使い手は俺も含めて三人ですけどね。
と、それよりも、剣の鍛練の話でしたね。
御神流を教える事は出来ませんけれど、少し剣を教える事なら構いませんよ。
ただ、綾乃さんの役に立つかどうかは分かりませんけれど」
「いえ、それでも充分ですから、お願いします」
「ええ、それでも宜しければ。
基本は良いと思うので、実戦に近い状態での鍛練にしましょうか。
そうですね。最初に、どの程度の腕前なのか知りたいので、一度手合わせしてみましょう」
「はい、お願いします」
恭也の言葉に、綾乃は大きく頭を下げる。
その横で、綾乃に見えないように和麻が感謝を示すように軽く手を上げると、恭也の横へと目を移す。
「しっかし、煉の奴もよく寝るな」
そこでは、朝が早かったためか、夢の世界へと旅立った煉の姿があった。
「まあ、着くまではまだ時間があるんだ。そっとしておいてあげよう」
恭也の言葉に、和麻は黙って頷く。
眠っている煉を起こさないように気を付けつつ、三人は暫しの日常を楽しむ。
そんな一行を乗せた列車は、こうしている間にも東京へと進んで行く。
果たして、その先に待つものは……。
つづく