『真雪サバイバル』






  〜 7 〜





晶は右手を前に出し、左手を腰付近へと降ろして半身で構える。
それに対し、レンは左半身を前にし、棍を両手で構える。
左手を前に、右手を後ろへとやり、棍を少し斜めに構える。
暫らくは無言のまま、両者共その態勢で睨み合いを続けていたが、先に晶が痺れを切らし、レンへと襲い掛かる。
小手調べとばかりに右の正拳突きを繰り出す。
レンはそれを棍を立て、力の方向を変えて受け流す。
同時に、体の浮いた晶へと棍の上下を反転させる様に振るって、下から晶を襲う。
晶は浮いた上体を無理に立て直さず、そのまま前へと転がる。
転がった勢いを殺さず、晶は地面を蹴って棍の間合いから逃げる。
レンは深追いはせず、先程と同じ構えを取る。

「ちっ。やりずれー」

「ふん。真正面から何度打ってきたところで、うちの前では無意味や言う事をいい加減に悟れ。
 鳳家拳法は風の拳。包み込むように受け流す言うなら柔の拳。アンタの攻撃なんか通じへん」

「ああ、そうかい。しかし、そんなのやってみないと分からないだろうが。
 それに、受け流せないぐらいの力があれば良いんだろう!」

叫ぶと同時に晶は再び殴り掛かる。
それを同じように受け流すレン。
しかし、晶は受け流された力をそのまま腰と足へと伝え、後ろ回し蹴りを放つ。
レンはすぐさま棍を引き戻し、その蹴りを受け止める。
間髪置かず、晶は下から抉り込むように拳を繰り出す。
レンは晶の蹴りを棍で弾き、片手を離すとその手で晶の手を受け流す。
晶はレンの横を通り過ぎ、足をしっかりと地へと降ろすと三度拳を繰り出す。
それを、棍で再び受け流すレンだったが、晶はそれと同時に地を蹴る
体を微かに棍で流されつつも、晶は空中から蹴りを放つ。

「でりゃぁぁぁ!」

「甘い!」

レンは棍を晶の腹へと突き立てる。
まともに棍を喰らい、晶は後方へと跳ぶ。
膝を地に着けつつ、棍の当たった個所を押さえ顔を歪める。

「くそっ。このドン亀がぁ。もう容赦しねー!」

「ほっほー。おサルに手加減してる暇なんてあるんかいな」

「うるせー!」

晶はレンへと走りよると、左右の拳を交互に繰り出す。
その連打を全てレンは手にした棍で、時には素手で受け流す。
晶はそれでも全く攻撃を止めず、次々と拳を繰り出す。
そのうち、拳だけでなく蹴りも混ぜる。
流石のレンもこの連打攻撃に微かに顔を顰めるが、それでも今の所は全てを捌く。

「えーい、しつこい!」

晶の何度目かになる拳を大きく弾き、がら空きになった腹へと棍を繰り出す。
しかし、晶はそれを待っていたと言わんばかりに、その攻撃を足で受け止める。
レンは棍に乗りかかった晶を、そのまま投げ飛ばそうと棍を振り上げる。
棍が上へと振り上げられる中、晶は同時地を蹴り上げ、さらに棍を蹴る。
そうしてレンの頭上を飛び越えて背後へと回り込む。

「しもうた!」

晶を投げ飛ばすつもりで力を込めて振り上げた棍だったが、肝心の晶がいなくなったため、レンの体は上へと伸びていた。
晶は地が音を立てるほど踏み込み、拳を繰り出す。
吼破と呼ばれる巻島流の奥義を晶は放つ。

「くっ!」

レンは晶の動作からそれが来る事に気付くが、間合いの外へ逃れるには態勢が少し悪い。
そこで、すぐに棍を自分の前へと持ってくる。
この技の欠点でもあるモーションの大きさに助けられ、レンは何とか棍でその攻撃を受け止める事ができた。
しかし、晶は止められたにも関わらず、更に踏み込む。
その爆発的な踏み込みで晶の拳はレンの棍をへし折り、レンへと向う。
吼破を改良した、吼破・改。これがレンへと襲い掛かる。
しかし、既に態勢の整っていたレンは地を蹴って横へと跳ぶ。
目の前を通り過ぎて行く晶の拳を見遣りつつ、レンは再度地を蹴り、身を沈めながら晶の懐へと潜り込む。

「くそっ!」

舌打ちしつつ膝を繰り出すが、それよりも先にレンの掌が晶の胸に当たる。

──寸掌

レンの寸掌が決まり、晶は数メートル吹っ飛ぶ。
仰向けに倒れた晶はそれでも立ち上がろうとするが、結局立ち上がれずに座り込む。
そこにスピーカーから声が聞こえてくる。

『そこまでだ。勝者はレン』

「よっしゃー!」

「ちっくしょーー!」

喜ぶレンと悔しがる晶。
そのあまりにも激しい晶の悔しがり方を見て、レンは不思議そうな顔をする。

「何をそこまで悔しがるんや?確かに負けたんは悔しいやろうが…。
 それとも、そんなに商品が欲しかったんか?」

不思議そうに言うレンだったが、それに晶が答えるよりも先に真雪がレンに話し掛ける。

『おーい、レン、晶。とりあえず、勝負は終ったんだ。晶は本部に戻って来い。
 で、レン。勝者は敗者のカードを一枚貰える事になってるんだから、さっさと一枚選びな』

真雪の言葉に頷き、レンは晶に持っているカードを見せるように言う。
晶はそれを聞き、更に悔しそうな顔をして、渋々ながらカードを見せる。
そのカードの内容を見せられ、レンは驚いたような顔になるが、すぐさまそのカードを選び取る。
それを見て、益々悔しそうな顔をする晶に対し、レンは勝ち誇ったような顔を見せる。

「成る程な〜。こう言う訳か。ほなら、うちはこれを遠慮なく頂くで」

「ちっきしょーー!」

喜び選んだレンのカードには、『恭也一日所有権』と書かれていた。

「ほっほー」

高らかに笑うレンのカードを見て、真雪が言う。

『そうか。そのカードを持っていたのは晶だったのか』

「真雪さん、このカードは」

『ああ、そこにかいてある通りだ。それを最後まで持っていたらな。
 もし、負けたとしても、そのカードを取り上げられなければ、本部に来た時点でそれを持って来た者のものだ。
 いやー、全部で105枚あるカードの中に、それは一枚しかないんだが、よく引き当てたな晶。
 因みに、それ以外にも耕介、真一郎とある。で、はずれというカードもあるんだけどな。
 兎も角、レンおめでとう』

「ありがとうございます」

真雪の言葉に嬉しそうにするレンと、未だに悔しがる晶。
因縁の対決はここに幕を閉じたのだった。





【残り 32名】







 〜 つづく 〜










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