どこかの教室のような場所。
そこに並べられてあった机に突っ伏して眠っていた者たちが次々と目覚めては顔を上げていく。
どうやら複数の人間がここにはいるらしく、最後の一人が目を覚ますのとほぼ同時に声が響いた。

「え〜、突然ですが皆さんには殺し合いをしてもらいます♪」

『…………………はい!?』

それが、壇上で微笑みながら言った忍の言葉に対する全員の返答だった。







『忍ちゃんロワイアル』

     〜 1 〜







「あー、忍。ちょっと良いか」

混乱する皆の代わりに恭也が手を上げながら尋ねる。

「どうぞ、恭也」

「ああ。まあ、色々と聞きたい事はあるんだが……。とりあえず、どういう事だ?」

「どうって、言葉どおりの意味よ」

「だから、何でそんな事をしないといけないんだ?」

「そうよ忍。冗談にも程があるわよ」

恭也の言葉に忍の叔母であるさくらも同意の言葉を掛ける。

「何も本当に殺せなんて言ってないわよ。ゲームよ、ゲーム。ノエル、説明お願いね」

忍の言葉に、傍に控えていたノエルは一つ頷き、一歩前へと進み出ると説明を始める。

「皆さまは今さっき目を覚まされたと思います」

その言葉に全員が一様に頷く。

「その前まで何をしていたかは覚えておられますか?」

「何って、忍が何かのお祝いだって言って皆を集めてパーティーしてたでしょ」

「はい、さくら様の仰る通りです。その時、皆様の飲み物の中に睡眠薬を少し入れさせて頂きました」

『なっ!』

淡々と説明するノエルの言葉に全員が絶句する。
それを意に返さず、ノエルは言葉を続ける。

「そして、今日のお祝いの理由ですが、それは忍お嬢様の発明品が開発したので、それのお披露目を兼ねています」

「それとこれとどういった関係が?」

「恭也様、それを今からご説明いたします」

「はいはい、ここからは忍ちゃんが説明してあげるね。私が作っていたのは。一種のバーチャルゲームなのよ。
 もっともただのバーチャルゲームじゃないけどね。で、皆が今いるのがその世界って訳」

『はい!?』

「何に使うのかは知らないけど、昔の夜の一族の技術で作られたある装置を見つけたのよ。
 で、その装置って言うのが、擬似世界を作るってモノだったの。それをちょこっと改造して作ってったのが完成したの」

「それで、俺たちを実験台にしたのか?」

「実験台って人聞きの悪い。せめて、最初の体験者って言って欲しいわね。
 で、話を戻すけど、今ここはその世界の中なの。
 で、ここで起こった事は現実世界には影響しないから、一層の事ゲームにしちゃえって事」

「だからって、殺し合いはないだろう」

「そうですよ。それに、そんな勝負だったら、恭也さんや美由希さん、美沙斗さんの誰かが勝つに決まってるじゃないですか」

那美の言葉に忍は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

「まあまあ。そこはちゃんと考えているわよ。ちゃんとゲームバランスが取れるようにね」

「良いんじゃないか、面白そうだし」

「仁村さん!」

「俺は反対だぞ。ゲームとは言え、殺しを体験させるなんて」

恭也は特になのはを見て忍に告げる。

「大丈夫よ。言ったでしょ、ゲームだって。感触はリアルに伝わらないから。そうね、モグラ叩きのモグラを叩くような感覚よ」

その言葉に半分以上の人間がやる気になる。
が、数人が露骨に顔を顰める。

「しかし……」

「嫌だったら、すぐに負ければ良いのよ。ちなみに、負けた人は目が覚めるから。
 後、現実世界のモニターでこっちの様子を見学できるようになってるからね」

「おーい、優勝者には何か賞品が出るのか?」

真雪の問いに、忍は笑って答える。

「勿論、それもかなり豪華よ」

「一体、何が出るんだい?」

「複数用意してあるからその中から選んでもらうわ。例えば、幻と言われた日本酒とか…」

耕介、真雪の目が怪しく光る。

「秘蔵のワイン…」

さくらもさっきまでの顔が嘘のように急にやる気になる。

「後は恭也の秘蔵写真とか」

「ちょっと待て!何だそれは!」

「だから、恭也の写真」

「いつ撮ったやつだ」

「ふふふ。ノエルによる盗撮♪」

「それは既に犯罪だぞ!」

「気にしない、気にしない。それでやる気になる人たちもいるんだから」

忍の言葉通り、数人の女性陣はやる気になっている。

「後は。ここにいる人のうち一人を誰でもいいから選んで、一日所有権とか」

『おぉー!』

この言葉に殆どの人間が感嘆の声を上げる。

「人権は!」

「大丈夫よ。無理な要求は一応なしって事でね。勿論、恭也が勝って私を選んでも良いのよ♪」

忍の言葉に、あちこちから殺気が起こる。
それらを無視して、恭也は溜め息を吐く。

「そうそう、恭也。すぐに負けようなんて思わないほうが良いわよ」

「どういう事だ?」

「ふふふ。そ・れ・は〜、聞きたい?」

聞かなければ後悔するが、聞いたら聞いたで同じ様に後悔するだろうと思いつつ、恭也は聞く事にする。

「ああ」

「だって、恭也が負けて、もし優勝した人が恭也の写真を賞品に望んだらどうするの?」

「欲しがる奴なんかいないだろう」

「それはどうかな〜。だって、結構やばいのもあるし」

「お、お前は何を撮ったんだ!」

「知りたかったら優勝するしかないわよ〜」

会心の笑みを浮かべる忍を見ながら恭也は考える。

(もし本当にやばい写真があったとして、それが他の人の手に渡ったとしたら……。
 特に、さざなみに住むあの二人の手に渡ったら……。それをネタに………)

「やるしかないか」

どこか悲壮感を漂わせながら決意した恭也に忍は軽く笑いかけながら、

「ははは。そんなに深刻にならない、ならない。ゲームなんだし。ま、全員で一つの夢を見てると思って、楽しもうよ」

「悪夢の間違いだろう」

恭也の呟きを綺麗に無視して、忍はルールについて語り出すのだった。







 〜 つづく 〜








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