『とらコロ』






第二話 「雨の放課後」





放課後の教室で、恭也たちは話をしていた。

那美「恭也ちゃん、帰りにどこかに寄って行く?」

恭也「あの、那美さん、そのちゃん付けは…」

那美「え〜、可愛いのに……。ねえ、美由希」

美由希「うん。でも、私は今まで通りに恭也くんって呼ぶよ。
    だから、お姉さまって呼んでね」

恭也「呼びません!って言うか、まだ言いますか!」

頬を染める美由希に対し、恭也の叫び声が響く。



   §§



美由希「それはそうと、何処かに寄って行く?」

恭也「すいません、今日は少し用事が…」

那美「そっか。じゃあ、仕方がないね。美由希、二人で行こう」

美由希「そうだね」

美由希は那美に笑顔で答えると、その笑顔のまま恭也の肩に手を置く。

美由希「で、どんなお姉さまと会うの?」

恭也「そんな用事じゃありません!」



   §§



恭也がいなくなった後、二人は暫らく教室で話をし、それから教室を出ようとする。
と、突然、バケツをひっくり返したような激しい雨が降り出してくる。

那美「うわっ!急に降ってきた!」

美由希「本当だね〜」

二人して窓の外を眺める。
そこで、美由希がある事に気付く。

美由希「那美、あそこ!」

美由希の指差す先は、丁度、雨が降っている個所と晴れ間の境い目だった。

那美「わー、アレが天気の境い目か。初めて見た」

美由希「私も初めてー」

那美「しかし、それにしても……」

二人は同時に窓越しに空を見上げ、

美由希・那美「「か……」」

那美「傘、持ってくるんだった…」

美由希「カメラ持ってくるんだった…」



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二人は下駄箱で靴に履き替えると、昇降口で雨を眺める。

美由希「傘を持って来てもらう?」

美由希が携帯電話を出して見せながら聞く。

那美「そうね。でも、そんな事で電話しても良いのかな」

二人は無言で見詰め合う。

美由希「ここは部長が…」

那美「いえいえ、社長が……」

二人は一つの携帯電話をお互いに押し付けるながら、そんな事を言う。
暫らくそんな事を繰り返した後、このままでは拉致が明かないと気付いた二人は、

美由希「し、仕方がない。じゃんけんをして、負けた方がかけるということで」

那美「し、仕方ないね」

美由希「更に、負けた方は脱ぐ!」

那美「え、えぇぇぇ!」

美由希の言葉に、那美が驚いた声を上げる。
そんな那美に指を突きつけ、

美由希「全部、脱ぐ!」

那美「ぜ、全部! って、言うか、私が!?」

那美は身体を隠すように自らの腕で抱くのだった。



   §§



美由希・那美「「じゃんけん……」」

美由希・那美「「ぽん!」」

美由希がパーで、那美がチョキ。
美由希は己が出した右手をパーの形にしたまま、その手首を左手で掴むと、ブルブルと振るえる。

美由希「のぉぉぉぉぉ!ぜ、全裸!?」

那美「いや、その前に電話を……」

那美の言葉も耳に入ってないのか、美由希はただ己の掌を凝視するのだった。



   §§



二人がそんな事をしていると、そこへ恭也がやって来て声を掛ける。

恭也「二人とも、こんな所で何をしているんですか?」

恭也の言葉に、二人はこれまでの経緯を説明し始める。

那美「実は、じゃんけんをして…」

美由希「どっちが脱ぐか、裸を賭けていたんよ」

那美「ち、違う!」

美由希の言葉を力一杯否定する那美だった。



   §§



改めて事情を聞いた恭也は、呆れたように言う。

恭也「そんな、どちらが電話するかという事ぐらいで、自分の裸を賭けてたんですか」

那美「いや、賭けてたのは美由希だけやって」

美由希「面目ない…」

恭也「そんな事ぐらいで遠慮しないで下さいよ」

美由希「でも、なー」

那美「うん。って、恭也くんは今まで学校に?」

恭也「あ、はい」

美由希「お姉さまは、先輩やったんか?それとも、先生?」

恭也「まだそのネタを引っ張るんですか!?」

真剣な表情で肩を掴みながら言ってくる美由希に、恭也も同じように声を上げるのだった。



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那美「そう言えば、恭也くんは傘持ってきてる?」

恭也「はい、持って来てますよ」

そう言うと、恭也は鞄の中をごそごそとしながら、折りたたみの傘を取りだす。
それを見て、美由希たちは希望を見出すように恭也を見る。

恭也「あ、ありました!」

そう言って取り出した傘を広げてみせる恭也。
それを見て、二人の顔に何とも言えない複雑な表情が浮ぶ。
その傘は、小柄な恭也に合わせたように小さな傘で、とてもではないが三人一緒に入れそうもなかったのである。

恭也「あ、あれ?どうしたんですか、二人とも」



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那美「うーん、この傘に三人は無理だよねー」

美由希「どうしたもんかね〜」

暫らく頭を捻って考える三人。
と、恭也が何かを思いついたのか、顔を上げる。

恭也「そうだ!」

那美「何、いい案でも浮んだ?」

恭也「はい!家まで30分ですから、10分ずつ交代で傘をさすというのは…」

那美「えっと、それは本気? 冗談? それとも、天然?」

恭也の台詞に、那美は判断がつかないような顔をして尋ね返すのだった。



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結局、このままでは埒があかないと思った那美は、

那美「こうなったら、恭也くん一人だけ先に帰ってもらって…」

美由希「うん、それしかないね」

恭也「そ、そんな事できません!お二人を置いて帰るなんて!」

恭也はそう叫ぶと、二人の腕を掴む。
そして、そのまま外へと飛び出す。

恭也「濡れる時は皆一緒です!」

そう言って二人を引っ張って雨の中を走り出す。
恭也に引っ張られながら、

那美「ち、違うって!だから、先に帰って、傘を持って来て……」

美由希「うわぁぁぁ〜。冷たいよ〜〜」



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高町家の玄関へと通じる廊下。
そこで、桃子は那美と美由希それぞれの親御さんとの電話を終えた所だった。
と、扉の向こうに三つの影が浮ぶ。

恭也「ただいまー」

美由希・那美「「ただいま……」」

元気に言う恭也と違い、美由希と那美は少し元気なさそうに言う。

桃子「あら、帰ってきたのね。突然、雨が振り出したから……」

桃子は言葉を途中で止め、ずぶ濡れになった三人を見ると、笑いながらため息を吐く。

桃子「とりあえず、シャワーを浴びてきなさい。そのままだと風邪を引くわよ」

恭也・美由希・那美「「「はーい」」」

美由希「じゃあ、恭也くん一緒に入ろうか?」

美由希の言葉に恭也は顔を赤くさせると、

恭也「美由希さんと那美さんでお先にどうぞー」

そう言って走り去って行く。
その背中を見詰めながら、美由希は楽しそうに笑う。

那美「美由希、あまりからかったら可哀相よ」

美由希「ごめん、ごめん」

そんな仲の良い三人の様子を眺めながら、桃子は本当に嬉しそうに微笑んでいた。





おわり










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