『とらコロ』






第六話 「戸締り用心」





ファンファンファンファン。
遠くからパトカーのサイレンが響いてくる。
それを聞き、真っ先に顔を上げたのは美由希だった。

美由希「あ、パトが鳴いてる」

恭也「その言い方はどうかとは思いますが、本当ですね」

美由希「ちょっと、外見てくる」

言うが早いか、美由希はすぐさま外へと出て行く。
その後ろ姿を呆れたように眺めつつ、

恭也「全く、美由希さんもしょうがないですね」

那美「本当よね。野次馬根性、丸出しと言うか…」

桃子「迷惑を掛けるような事をしてなければ良いけれど」

澄ましてそう言う二人の背中を眺めつつ、恭也はため息混じりに尋ねる。

恭也「本当に、そう思ってる」

那美・桃子「「も、勿論よ」」

恭也「まあ、別に良いんだけどね…」

恭也の視線の先では、落ち着きなく体を小刻みに動かす二人の体があった。



   §§



結局、我慢できなくなった那美は、恭也を引き連れて現場らしき場所へと来ていた。
しかし、来るのが遅すぎたのか、辺りはたくさんの野次馬で溢れ返っていた。
野次馬たちの一番後ろで、恭也はぴょんぴょんと飛び跳ねつつ、
何とか中を見ようと試みるが、遂に諦めたのか、少し現場から離れる。

恭也「は〜、駄目です。全く見えません」

那美「あははは。仕方ないね、じゃあ、肩車でもしてあげようか」

恭也「ああ、お願いします。それだったら、見えま…………」

頷いた後、那美の提案と、それを了承した自分に落ち込み、近くの電柱に手を着く恭也。

那美「あ、あはははは」

それを眺めつつ、ただ笑って誤魔化すしか出来ない那美だった。



   §§



結局、何があったのか分からないまま、二人は帰宅する。
と、玄関に美由希の靴があることに気付く。

恭也「あ、美由希さん、帰ってきてるみたいですね」

恭也は靴を脱ぎながら、居間にいるだろう美由希へと声を掛ける。

恭也「美由希さん、あの騒ぎは何だったんですか?」

那美と二人、靴を脱ぎつつ美由希の声を聞く。

美由希「うん〜。何かね〜、殺しがあったらしいの」

恭也「こ、殺し!? さ、殺人ですか」

美由希「それで〜、そこに火を放った…」

那美「ほ、放火殺人!?」

二人は慌てて居間へと駆け込んでいく。
そんな二人に気付いているのか、いないのか、美由希は煎餅を齧りつつ、続ける。

美由希「所を、家政婦さんが見てたんだって」

ずっこける二人を尻目に、美由希と桃子は真剣な顔でテレビに釘付けになっていた。

恭也「テレビの話ですか!!」



   §§



美由希「あははは。さっきのは、何でも泥棒が入ったらしいのよ」

恭也「はぁー、泥棒ですか」

桃子「もうこれで3件目よね。怖いわね」

那美「私たちも用心しないといけませんね」

恭也「ちょっと心配だから、戸締りをしたか見てくる」

美由希「あ、じゃあ、私たちも手分けして…」

そう言って立ち上がる三人に、桃子が告げる。

桃子「だったら、ついでに点検に行った所の掃除を軽くお願い」

恭也・美由希・那美「僕(私)は玄関を…」



   §§



じゃんけんの結果、美由希が玄関を、恭也は二階、那美は台所などとなる。
玄関先に階段があるため、恭也と美由希は玄関まで一緒に歩いていき、恭也は階段へと足を掛ける。
そこへ、玄関が開いて誰かが入ってくる。

???「ごめんください」

その声に振り返った恭也の視線の先には、警察官が立っており、今鍵を掛けようとしていた美由希は、
そのまま動きを止めたかと思うと、ゆっくりと両手を合わせて警官に差し出す。

恭也「み、美由希さん、何をやったんですか!」

美由希「あ、あはは〜、つい」

恭也「つい、って……」

呆れ顔を見せる恭也だった。



   §§



とりあえず美由希に代わり桃子が出てくる。

桃子「それで、どういったご用件でしょう」

警察官「ええ、実はこの近所で泥棒が入りまして」

桃子「ええ、存じています」

警察官「それで、戸締りなどを注意してもらうためにこうして周っているんですよ。
    くれぐれも気をつけて下さい。何かあれば、すぐにご連絡を」

警察官の言葉を真剣に聞き、頷くと、桃子は両手を頬に当てて照れたように身を捩る。

桃子「そうですよね。
   気をつけないと、か弱い可憐な少女が三人もいる家なんて、泥棒たちにとっては、まさに最高のターゲッツ!」

いけしゃあしゃあと言う桃子に、恭也は呆れたような視線を向ける。

恭也(何が可憐でか弱いだ。しかも、少女と自分で言うか)

その時、何処からともなく風が吹き付け、台詞を言い終え、身を捻った桃子の髪をそっと掻き上げるように持ち上げる。

恭也(か、風まで味方に付けてる! しかも、何故、あんなに髪が光を反射してるんだ!?)

驚く恭也と唖然とする警察官を観客に、桃子は今暫し一人の世界に入るのだった。



   §§



美由希「ふー、二階の戸締りも問題なし、っと」

恭也に変わって二階を見てきた美由希がそう言う。
居間へと向う途中、電話を掛けている恭也を見掛け、那美に何処に掛けているのか尋ねる。

那美「ああ。何でも、月の所に掛けてるみたい」

美由希「ああ、月ちゃん家も一人暮らしで危ないもんね」

那美「うん。そこに気付くのが、恭也くんのいい所だね」

美由希「あ、終ったみたいよ」

電話を終えてこちらへとやってくる恭也に、美由希たちは声を掛ける。

那美「どうだった?」

恭也「いえ、それが、今から家に来るそうです」

美由希「今から!?」

驚く美由希たちに頷く恭也。
そして、それから10分程して、忍がやってくる。

那美「本当に来たんだ」

忍「そうよ。だって、恭也が心配だったんだもの」

そう言って恭也に抱き付く。
そんな忍を見ながら、那美がからかうように話し掛ける。

那美「とか何とか言いながら、本当は心細くなって来たんじゃないの」

忍「そんな訳ないでしょう」

那美「どうだか〜」

忍「しつこいわよ」

そんな二人のやり取りを眺めつつ、美由希は不思議そうに首を傾げる。

美由希「なら、この大きな荷物は何?」



   §§



結局、忍も泊まっていく事になり、夕飯となった。
二階から居間へと戻ってきた恭也が不思議そうに首を傾ける。

忍「どうしたの、恭也?」

恭也「はい。実は締めたはずの玄関の鍵が開いてたんです。
   物騒なので、もう一度締めたんですけど…」

少し不安そうに呟く恭也に、桃子が驚いたような声を上げる。

桃子「え、締めたの。さっき、美由希ちゃんが出て行ったけど」

那美「あ、そう言えば!」

恭也「大変です。すぐに開けないと」

踵を返し、玄関へと向おうとした恭也の顔が何か柔らかいものにぶつかる。

恭也「???」

美由希「恭也くんってば、大胆。そんな皆が見てる前でなんて。
    でも、どうしてもて言うなら、良いよ。出来れば、お姉様って呼んで……」

恭也「言いません! って言うか、すいません」

慌てて美由希から離れ、ふと気付いて尋ねる。

恭也「あれ? 美由希さん、外にいたんじゃ…」

美由希「うん。一応のため、外に不審者がいないか確かめてたの」

恭也「あれ、鍵掛かってませんでした」

美由希「ああ、掛かってたね〜。大丈夫、ちゃんと締めたから」

恭也「いえ、そうじゃなくて、どうやって中に……」

恭也は言葉を途中で止めると、美由希の右手が持つモノに目を止める。

恭也「美由希さん、そのヘアピンは……」

美由希「あははは〜」

笑って誤魔化す美由希だった。



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那美「それはそうと、怪しい人でもいた?」

美由希「うーん、怪しいかは兎も角、門の近くの茂みに何か怪しい気配を感じたような気はしたんだけどね…」

忍「怪しい気配って、アンタ…」

美由希「とりあえず、ヘアピンを投げたけど、多分、猫か何かじゃないかな」

忍「って言うか、アンタこそ何者よ」

そんな会話をしつつ、夕飯を食べ終え、就寝に着く。
そして、翌日……。

恭也・美由希・忍「「「ふぁぁ〜〜おはようございます〜」」」

眠そうな顔で起きて来た三人に、那美が話し掛ける。

那美「あ、例の泥棒、昨夜捕まったんだって」

頷いてその記事を見る恭也と忍。
美由希は興味がないのか、トーストを手に取ってバターを塗る。

『深夜の一時過ぎ、泥棒が逮捕される。
 どうやら、仲間数人で逃亡途中、一人が足に怪我を負っていたらしく、逃げきる事が出来なかったらしい。
 犯人の逃亡を阻止したのは、足に突き刺さったヘアピンで……』

恭也・那美・忍「「「ヘアピン!?」」」

一斉に、美由希を見るのだった。





おわり










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