『とらコロ』






第七話 「カキミーラ」





美由希「ねえ、かきみーらって食べた事ある?」

昼休み、昼食も食べ終えた頃、不意にそんな事を言い出す。

恭也「かきみーら? ケーキか何かですか?」

那美「うーん、お酒の名前っぽくもあるよね」

恭也と那美は顔を見合わせ、お互いに首を捻る。

那美「そもそも、そのかきみーらって何?」

美由希「あれだよ、あれ。ほら、あの──」

美由希は思い出すように目を閉じ、ゆっくりと説明をする。

美由希「ほら、あの柿を干してミイラ状にしたやつ。名前、何だったかなー」

那美「干し柿やっ!!」

恭也「なるほど、かきみーらですか……」

妙に納得する恭也だった。



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美由希「ほら、昨日テレビでやってたじゃない」

恭也「そういえば、そんなのやってましたね」

美由希「あれって、どんな味なの?」

恭也「僕も食べた事ありませんから…。那美さんはどうですか」

那美「過去に一度だけ」

那美の返答に、美由希がどんな味だったのか尋ねる。
それに対し、那美は少し言いよどんだ後、

那美「チョコレートでも出なかった鼻血が出ました」

恭也・美由希「「そんなに危険な!」」

那美「いや、ただの偶然だとは思うんだけど」

美由希「でも、チョコ並って」

那美「あ〜、あれは果物の甘さじゃないわね」

恭也「じゃあ、どんなものに近いんですか」

恭也も興味が出てきたのか、那美に尋ねる。
それに少し考え込むと、答えを出す。

那美「う〜〜ん。しいて言えば、初孫に初めて会ったおじいちゃん?」

恭也「うわ〜、激甘ですね」



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恭也「あ、忍ちゃんはどうでしょう」

那美「いやー、月は絶対にないんとちゃうかな」

忍「誰が何を食べた事がないって。また何か勝手な事を…」

教室に戻ってきた忍が、那美たちの話を聞いて早速口を開く。

恭也「あ、忍ちゃん、実は…」

恭也の台詞を遮るように、美由希が話し掛ける。

美由希「かきみーらって、食べた事ある?」

那美「またそれか!」

突っ込む那美の横で、恭也はずっこけそうになるのを辛うじて堪える。

忍「と、当然、あるわよ」

那美「月も変な見栄を張るな!!」

またも突っ込む那美に、今度こそ完全にずっこける恭也だった。



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忍にちゃんと話をし直す恭也。
その第一声は、

忍「はぁ、干し柿? ないわよ、そんなもの食べた事なんて」

きっぱりと言い切る忍。

美由希「いや、そんなものって…」

那美「というか、月、干し柿がどういうものか知ってるの?」

忍「失礼ね、それぐらい知ってるわよ」

那美の問い掛けに忍は胸を張って答える。

忍「あの、レーズンの化け物みたいなヤツでしょう?」

恭也「忍ちゃん、干し柿に何か恨みでも……」



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恭也「でも、ちょっと食べてみたい気もしますね」

那美「この辺では売ってなかったっけ?」

忍「売ってなければ、作れば? 干すだけなんでしょう」

簡単に言う忍に、恭也は少し困ったような顔で答える。

恭也「でも、田舎みたいに空気が綺麗じゃないから…」

美由希「確かに、ススが付くかもね」

忍「それもそうか〜」

諦めたように呟く三人を眺めつつ、那美が何か思いついたように小さな声を上げる。

那美「あっ。月の家、確か空気清浄機があったよね」

美由希「ああ」

那美の言葉に美由希は手を打って頷く。
そんな二人の言葉を聞きながら、忍は声を荒げる。

忍「アンタたち、一体、何する気よ!!」

恭也「作る気ですね…」

怒鳴る忍の横で、恭也が呆れたように呟くのだった。



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恭也「帰りにスーパーにでも行けば、置いてあると思いますよ」

美由希「幾らぐらいするんだろう」

那美「ネットで調べてみる」

そう言って那美は携帯電話を取り出して、何やら操作を始める。

恭也「えっ! そんな事もできるんですか」

驚く恭也に、美由希が苦笑しつつ言う。

美由希「恭也くん、そっち関係は本当に弱いからね」

恭也「すいません、苦手なんですよ」

そんな二人のやり取りの中に、突然大きな声が乱入してくる。

那美「うおおおおお!!」

忍「な、何!?」

驚き、その声の方向へと三人は顔を向ける。
そこには、携帯電話の画面を見て驚いている那美がいた。
那美は、画面から顔を上げ、三人の方へと凄まじい速さで顔を向けると、興奮冷めやらぬといった感じで口を開く。

那美「16個、六千円!!」

恭也・美由希・忍「「「六千円!!」」」

恭也「ほ、本当ですか!?」

恭也は那美の手から携帯電話を取り、その画面を除く。

忍「ちょっと、アンタの携帯古いんじゃないの!」

那美「そんなの関係ある訳ないでしょうが!」

恭也「本当だ……。最上級、16個、六千円ってなってる」

恭也の後ろから画面を覗き込む美由希の頭には、ハイエナの耳が生えていた。

美由希「ふ、普通のと何が違うん?」

忍「あれじゃないの。ほら、有機農法ってやつで…」

美由希「うん。作るにしても、職人が一つ一つを作ってて、桐の箱に入って……」

恭也「店も本店がパリにあったりするんですよ、きっと」

美由希・忍「「それなら納得だわ!」」

那美「納得か?」

力説する三人を、那美は冷めた目で見るのだった。



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那美「全くお金回りの事となると……」

恭也・美由希「「面目ないです」」

デジカメの件を言われ、二人は大人しく頭を下げ、事情を知らない忍は一人不思議そうにしている。
那美は携帯電話をさらに操作する。

恭也「那美さん、何をしているんですか」

那美「うん、干し柿の注文を…」

恭也「!! ノンノンノンノンノン!」

激しく首を振りつつ、後退る恭也の大きなリアクションに苦笑しつつ、那美は冗談と告げる。
それを聞き、恭也はほっと胸を撫で下ろす。

那美「とりあえず、実家にあったら送ってもらおうと思って」

恭也「そんな、ご迷惑をおかけする訳には…」

那美「迷惑なんかじゃないよ。それに……」

遠慮する恭也の後ろから、美由希と忍が声を上げる。

忍「それじゃあ、私はお好み焼きを、2…、いや、3枚お願い」

美由希「私はたこ焼き!」

那美「迷惑って言うのは、ああいうのを言うから」



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後日、干し柿が高町家へと送られてくる。
早速をそれを取り出し、

美由希「へー。思ってたよりも、柔らかいものなんだね」

恭也「忍ちゃんは夕方頃に来るそうです」

美由希「…………なあ、これって洗ったりとか…」

那美「しなくても良い」

恭也「あの皮は…」

那美「皮もむかなくて良いの!」

那美に言われ、恭也と美由希はそのまま干し柿を持つ。

恭也「それでは……」

美由希「いただき……」

恭也・美由希「まーす」

そう言うと、二人はほぼ同時に干し柿に被りつく。
そして、そこで動きを一旦止める。

恭也「那美さん……」

那美「どうしたの?」

恭也・美由希「「おじいちゃんがいました」」

那美(健在やったか!)



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忍が来る頃には、干し柿は恭也の手によって月餅に姿を変えていた。

忍「そんなに甘かったんだ」

恭也「はい。だから、餡子と混ぜてみました」

忍に月餅を数個載せた皿を渡しながら、恭也はそう説明する。
その横でお茶を飲みながら美由希が言う。

美由希「いやー、想像以上の甘さだった」

恭也「別に一つぐらいなら良いんですけれどね」

那美「まあ、何個も食べるのは無理よね」

その那美の言葉を聞き、

忍「それはそれで、良かったんじゃないの。
  あんまり食べると、太るどころじゃすまないわよ。恭也、おかわり〜」

言いながら、空になった皿を差し出す忍。
そんな忍に、恭也は複雑そうな顔を見せる。

恭也「自覚はあるんですよね?」





おわり










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