『とらいあんぐるハ〜ト?』






1.リリカルなのは?

少し涼しい風と暖かな陽射しの中、なのはと久遠は父、士郎が眠る地へと来ていた。
そこで二人は軽く食事を取り終え、立ち上がる。
その時、草むらの方で何かがきらりと光るのを見る。

「今のなんだろう?」

「くぅん」

二人はお互いに顔を見合わせると、そちらへとそっと向う。
草を掻き分け、少し開けたところへと出た二人は、その先にあるものを見て固まる。

「……お、お兄ちゃん?」

「くぅぅん?」

「な、なのは!ち、違う!これは違うんだ!」

片手に小さな女の子が持つような魔法のステッキを手にした、なのはの兄、恭也がそこにいた。
恭也はそのステッキを背中へと隠し、必死に言い訳を始める。

「こ、これは…。さっき父さんの墓参りに来たら、何かが光ってだな。それで…。
 リ、リンディさんからも説明してください」

そう言って恭也は何もない空間に向かって叫ぶ。
それを見たなのはは、少し悲しそうな顔をした後、

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。この事は誰にも言わないから」

「くぅん」

久遠も同意するように鳴き声を上げる。

「いや、だから…。リンディさん」

再度、必死になって何もない空間に向って叫ぶ恭也をなのはは少し憐れみの目で見詰める。

「そんな何もない所に向って叫ばなくても大丈夫だよ。
 なのはは口は固いから」

「だから、違うって!なのはには見えないのか!」

恭也が指差す先を見て、そこに何もない事を確かめると、今度は恭也から少し身を離す。

「……お兄ちゃん。まさか、他の人には決して見ることが出来ない妖精さんまで見てるの!」

「だ、だから、違うーー!」

恭也の叫び声だけが、空へと溶けて行く。







2.美由希ルート?



「美由希……、大きくなったね」

そう言って、美沙斗はそっと美由希の頬を撫でようと手を伸ばす。
しかし、美由希は美沙斗の言葉に顔を赤くさせると、

「嘘!? 大きくなってるの!? で、でも、あの日は大丈夫な日だったはずなのに……」

呟きながら、自分のお腹を擦ると、丁度やって来た恭也へと視線を向ける。

「恭ちゃん、どうしよう……」

「は、はははははは……」

美沙斗から突き刺さる鋭い視線に、恭也はただ笑って誤魔化すのだった。







3.隠しキャラルート?



「……一体、誰が出てくるんだ?」

「それは俺だよ」

「こ、耕介さん。な、何で?」

「こうまでしないと出番が……くっ!」

「そうまでして、出番が欲しいんですか!?」

恭也は叫びつつ、少し後退る。
そんな恭也を見詰めつつ、耕介は涙を流す。

「そんな訳ないだろう! それは、建前だ!
 ほ、本当は、真雪さんに脅されて……。な、何でも、次の漫画でそういった感じの場面があるとかで……くぅぅ」

耕介の言葉に、恭也は辺りを窺えば、確かにビデオカメラを構えた真雪らしき人物を柱の陰に見つける事が出来る。

「苦労してるんですね…」

「ああ。もう慣れたよ。って、幾ら何でも、こんな事まで慣れるかぁぁーー!」

耕介の叫び声が虚しく消えて行く。







全てを終えて?



「はぁ〜、終った」

肩を解す恭也に、耕介が近寄る。

「お疲れ様、恭也くん」

「耕介さんもお疲れ様です」

二人してお互いに労いながら、キッチンへと足を踏み入れる。

「耕介さん、お疲れ様でした」

「愛さん、ありがとう」

「今日は疲れていると思って、私が夕飯を用意したんですよ」

瞬間、空気が凍りつく。

「えっと、他の寮生たちは……?」

「皆さん、耕介さんが疲れているだろうからって、外食してくるそうです」

「逃げたな」

「何か言いましたか?」

ぽつりと呟いた耕介の言葉に、愛が首を傾げつつ尋ねる。
それを何でもないと否定する耕介の視界の隅に、足音を殺して立ち去ろうとする背中が見えた。

「恭也くんも食べていくと良いよ」

「いえ、俺は家で用意していると思いますので」

「まあまあ、遠慮しないで」

「いえ、本当に結構ですから」

お互いに真剣な眼差しで言い合う。
そこへ、愛が口を挟む。

「大丈夫ですよ、恭也くん。お家の方には、先に連絡を入れておきましたから」

天使の笑顔で、悪魔のような事を言われた恭也は、耕介と顔を見合わせ、苦笑を浮かべると、そのまま崩れ落ちる。

「ああー、大丈夫ですか。お二人とも。そんなに疲れていたんですね。
 分かりました。今日はずっと二人の看病をします!」

決意も新たに宣言する愛に対し、二人は更なる深みへと落ちていく事となった己の行動を猛省しているのだった。
この日、夜遅くまで、何かが割れる音や、悲鳴が途切れる事はなかったとか…。





終わり











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