『刻まれる時の彼方 〜Duel Heart of Eternity Sword〜』






17話 導きの書





学園長室の扉をノックし、ミュリエルからの返答を待って扉を開ければ、中には既に全員が揃っていた。

「あらら、私たちが一番最後だったみたいだね、恭くん」

「いや、まだリコさんが来ていないんじゃないか?」

「ああ、言われてみれば。普段から静かだから気付かなかったわ」

それはそれでどうなんだと思わなくもなかったが、ミュリエルがいい加減に話をさせろという空気を出していたので口を閉ざす。
リコに関しては部屋にもおらず、現在ダリアが探していると前置きするとミュリエルはここに恭也たちを呼んだ理由を話し出す。
爆破された召喚の塔にあった魔法陣。
これ自体は召喚士であるリコやミュリエルにも描く事はできる。
ただ、あくまでもそれは描く事が出来るだけで、元の世界には通じてはいないと。

「それは先程お聞きしたと思いますが」

「ええ、そうですね。詳しい事はこの際省きますが、ただ魔法陣を描くだけでは意味をなしません。
 ですが、切れたはずのラインを繋げ直す方法が載っているかもしれない本があるのです」

恭也の問い掛けにそう返すと、ミュリエルは一拍間を空け、全員が納得したのを見てから説明を続ける。

「その本、魔導書ですが、それを導きの書と言います。
 これは学園の地下に封印されています。
 そして、そこへ行くまでには侵入者対策の罠やモンスターを何とかしないといけません」

そこまで言われ、恭也はどうして救世主候補たちが呼ばれたのか納得する。
その上で確認するかのようにミュリエルへと話しかける。

「つまり、その導きの書を取って来いと」

「ええ、そうです。はっきり言って危険な場所ですし、まだ時期尚早とは思います。
 それでも、物が導きの書である以上、救世主候補たちが向かわなければなりません」

「それはどうしてですか」

「どうしてって、何を言っているのよアンタは!
 導きの書よ、導きの書! だとしたら、他の人に行かせる訳にはいかないでしょう!」

「だから、その理由を聞いているんだ」

怒鳴るようにして二人の会話に割り込んできたリリィに対し、恭也の方はあくまでも平静に尋ね返す。
この言葉に頭を抱えるリリィに苦笑する未亜。
大河やカエデなども途中までは恭也同様によく分かってなかったようであったが、
恭也がミュリエルと話をしている間にベリオから何か聞いたのか、知った顔をしてリリィに同意するように頷いている。
そんな中、この場に居たダウニーは一人納得したように顎に手を当てて小さく頷く。

「そう言えばそうでしたね。この話は恭也くんが来る前にした話でしたね。
 それならば、知らないのも仕方ないでしょう」

ダウニーの言葉にリリィたちもあっという顔をし、ミュリエルは恭也が知らないと分かると説明を始める。
いや、始めようとしたのだが、ユーフォリアがリリィへと突っ掛かっていった為に説明できないでいた。

「全く、何でも知っていますって顔してそんな事も忘れているなんてね。
 そもそも教えてももらっていない事を知っていると思い込んで怒鳴るなんて。
 本当にどんな神経をしているんだか。おまけに謝りもしないなんて」

「うっ、た、確かに悪かったわよ。
 でも、ちょっと勘違いしていただけでしょう。そこまで言われる覚えはないわ!
 第一、謝る暇もなかったと思うんですけれど?」

「本当にああ言えばこう言うわね。
 魔術師って言うのは、頭が良いと自慢するだけあって揚げ足取りも上手いですね」

「いつ、誰がそんな自慢したのよ! そもそもいつ揚げ足なんて取ったのよ!
 寧ろ、それはアンタの方じゃないの? 全くよくそうポンポンと嫌味が出てくるわね。感心するわ」

「あらあら、どんな事でも貴女に感心されるのは気持ちが良いわね〜。
 遠慮しないでもっと感心して良いのよ。ほらほら、早く這い蹲って感心しましたって頭を下げなさい」

「何でそこまでしないといけないのよ! 大体、今のは皮肉に決まっているでしょう!
 それさえも気付かないなんてね」

「ああ、流石は偉大な魔術師は違いますね〜。謝罪の代わりに皮肉ですか〜。
 本当に凄いですね〜」

見えない火花を散らす二人へと呆れを多分に含んでミュリエルが声を挟む。

「とりあえず、喧嘩なら後にしなさい」

流石のリリィもミュリエルの仲裁に文句を言う事はできず、大人しく口を閉ざす。
対するユーフォリアは小さく鼻を鳴らし、ちゃっかりとリリィへと舌を出す。
何か言いかけるリリィであったが、ミュリエルの視線に気付いてすぐに大人しくなる。
そんな二人の一部始終を見ていた一人である恭也は、最早呆れたというよりも巻き込まれないように黙して語らない。
ただ、小さくユーフォリアに少しは自重するように小さく嗜める事をしておくのは忘れなかったが。
これからもこのような事が続けば、間違いなく自分が巻き込まれるであろうと言う事を経験と本能から悟ったからに他ならないが。
ともあれ、場が落ち着いたのを見て、ミュリエルは恭也へと簡単に導きの書に関する説明をしようとする。
しかし、そこへとまたしても邪魔が入る。
ノックもなしに扉が開き、そこからダリアが入室してきたのだ。
思わずダリアへと無言の抗議を向けるミュリエルの視線を受け、ダリアは何かしてしまったのかと室内を見渡す。

「えっと……あの、学園長? リコちゃんに関してなんですけれど……」

「……ええ、それで見つかりましたか?」

「それが、どうも地下禁書庫に一人で行ったらしく」

ダリアの言葉に眉根を寄せ、ミュリエルはそう判断した理由を問う。

「あちこち探したけれど見つからなくて、それで図書館にも行ったんです。
 そこにも姿は見えませんでしたけれど、禁書庫の扉に召喚陣が描かれていたので」

「逆召喚ですか。あそこにあった結界を越えたとなると相当な手練れ……。
 今は考えている場合ではないようですね。
 本当にリコさんが地下へと向かったのなら急いで追わないと危険かもしれません。
 恭也くん、導きの書に関しては向かいながらでも簡単に聞いてください。それよりも今は――」

「分かりました。どうも急いだ方が良いみたいですし」

ミュリエルは説明を諦めると改めて救世主候補たちへと禁書庫にある導きの書を持ってくるように命じる。
それにそれぞれ返事をすると、ダリアに先導される形で図書館へと急ぐのだった。





 § §





導きの書――その存在は宇宙が創生された時に記された書物とも言われる魔導書。
世界の真実を記したとも言われるその書物には、救世主や破滅が生まれた理由も、世界を救う方法さえも記されていると言われる。
歴代の救世主を目指す者たちは書の信託を受けるべく、導きの書を手にするとも言われる伝説と言っても差し支えのない書物。
故に救世主を選定する物とも言われる書物である。

「……今の話を聞いて幾つか疑問が浮かんだんだが」

「あ、私も。多分、同じだと思うけれど」

恭也の言葉にユーフォリアも同意するように頷き、恭也と視線を合わせる。
どうやらユーフォリアも同じ事を思ったらしいと恭也も理解し、それを尋ねるように口にする。

「書を手にした者が救世主として選ばれ、そしてその導きの書には破滅を滅ぼす方法さえ書かれている、でしたよね。
 だとすれば、何故、未だに破滅が誕生しようとしているのですか。千年の周期で現れる破滅。
 それを完全に滅ぼす方法は載っていなかったのでしょうか」

「それは私に聞かれても困るわよ〜」

「って、貴女教師でしょうが」

あっさりと投げ出したダリアへとユーフォリアが突っ込めば、ダリアは怒られた小さな子供のように肩を竦める。

「だって、私は戦闘技術を専門とする教師だもの。歴史とかの研究ならダウニー先生に聞いてよ〜」

泣きそうな声でそう返すダリアに呆れたような溜め息を吐き出し、後ろからベリオが説明してくれる。

「そういった意味では真の救世主が誕生していないのかもしれませんね。
 あれから私なりに考えて見たのですが、救世主や破滅が存在する理由。
 正直、それは幾ら考えても分かりませんでした。
 でも、もしかしたら破滅を完全に消滅させる事の出来る救世主が誕生しなかったのだとしたら。
 やはり導きの書を手にするだけでは駄目なんじゃないかと」

「読める内容もその人によって変わるかもしれないって訳ね。
 確かにそう考えると、未だに破滅が存在するのも納得だわ」

「あ、あくまでも推測なんで……」

戸惑いがちに言うベリオにリリィが頷く中、ユーフォリアは何か考え込むように口を閉ざす。
それに気付いてはいたが、恭也は何も言わずにおく。

「う〜ん、流石は優等生のベリオちゃんね〜。
 そこまで考えるなんて凄いわ〜」

「って、アンタも教師だったら感心してないで少しは見習えよ、乳ばっかりでかくしやがって」

「好きで大きくなった訳じゃないもの〜。それに〜、大きいのは嫌いかしら大河く〜ん」

「いえ、大好きです! という訳で揉ませろ!」

「いや〜ん、えっち〜」

ダリアへと手を伸ばす大河の頭へと未亜の呼び出したジャスティが突き刺さり、それに文句を言う大河。
逆に対抗するかのように大河へと胸を差し出すカエデを慌ててベリオが止め、
さっきまで結構シリアスだったのにと嘆き、大河を罵るリリィ。
そんな一同の声を背に、やはりユーフォリアはその輪に加わらずにまだ何かを考え続けるのだった。



「さて、それじゃあ、開けるわよ」

禁書庫へと続く扉の前でダリアはミュリエルより預かった鍵を胸の谷間から取り出して一同を見渡す。
それに頷きが返るのを見届け、ダリアは鍵を回す。
鍵の開いた扉に手を掛け、最後の確認とばかりにもう一度一同を見遣る。

「学園長も仰っていたけれど、ここから先はあなたたちだけになるわ。
 本当に良いのね」

誰も止めようと言い出す雰囲気もなく、ダリアは掛けていた手に力を込めて扉を開け放つ。
扉を潜って行く大河たちに向かい、ダリアは最後にアドバイスといつもの笑顔で言う。

「危険だと思ったら引き返すのもまた大事よ。それじゃあ、いってらっしゃ〜い」

いつもの口調で恭也たちを見送るダリアに背を向け、一向は導きの書が眠る地下を目指すのだった。





つづく







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。







▲Home          ▲戻る