『刻まれる時の彼方 〜Duel Heart of Eternity Sword〜』






25話 禁書庫[ 〜赤の主〜





考え込み始めたユーフォリアの隣で恭也は静かに成り行きを見守る。
と言うよりも、現状ではそれしか出来ないとも言うが。
十数メートル先ではイムニティも同じように静かに立ち尽くし、この場から一時的に消えた大河とリコが戻ってくる瞬間を待っている。
やがて、恭也の見詰める先の空間に揺らぎが生じ、そこに二つの影がぼんやりと映り出す。

「どうやら戻ってきたみたいね」

いつの間にか考え事を止めていたユーフォリアもまた、恭也と同じ場所を見詰めてそう呟く。
その呟きを肯定するように徐々に影のような存在ははっきりとした像を結び、遠目でも二人の輪郭を見分けられるようになる。
瞬間、今までじっとしていたイムニティが問答無用とばかりに戻ってきた二人目掛けて魔法を放つ。
事前に用意していた自身の身長の半分以上もある巨大な火の玉。
完全な奇襲に勝負が付いたと思われたが、リコもイムニティの取る行動を予想していたのか、両手を頭上に掲げ、呪文を唱えていた。
元の場所へと戻ると同時に迫る火の玉に、これまた同じタイミングで魔法を発動させる。
頭上数メートルに召喚した隕石をぶつけ、イムニティの魔法を防ぐ。
双方の魔法がぶつかり合い、風を巻き起こし、火の粉が粉塵が辺りを舞う。

「うおおおおぉぉぉ!」

そんな中、自身を鼓舞するように雄叫びを上げてその中を突っ切るのは剣状にしたトレイターを両手で持った大河である。
大河はリコが魔法を迎撃すると同時に駆け出しており、自身の魔法が防がれて驚愕しているイムニティへと攻撃を繰り出す。
が、大河の叫びに我に返ったイムニティは大河の攻撃範囲からテレポートして宙に浮かび上がる。

「リコ・リス、その力……。そう貴女も契約をしたのね」

言ってこの場で契約した可能性のある大河を見遣る。
見られた大河は誇らしげに胸を張り、リコはただ沈黙でもって返す。
それを肯定と受け取ったのか、元よりリコの力を見て理解したのか、イムニティは忌々しそうな表情を浮かべるも、すぐに元に戻る。

「まあ良いわ。やる事に変りはないもの。それにしても、また千年前の事を繰り返す事になるとはね。
 私もまだ本調子とは言えないし、今日の所はこれで帰らせてもらうわ」

言って高度を上げるイムニティに大河が地面を蹴って追い縋る。

「そう簡単に逃がすかよ!」

手を伸ばし掴もうとするも、僅かに高さが足りずに大河は落ちて行く。
そちらには目もくれず、イムニティはリコを見据えて皮肉げな笑みを残して消え去る。
悔しがる大河は消えた場所へと文句を言うも、リコは完全にイムニティが居なくなった事を確認すると大河に近付く。

「マスター、いずれイムニティとは会う事になりますから」

「そうだったな。とは言え、倒すのはまずいんだったな」

「はい。出来ればそのまま封印できれば一番良いんですけれど」

「まあ、それはその時の状況を見て考えよう。とりあえず、今日はもう疲れた!
 もう動きたくもないよ」

言ってそのまま地面の寝転がる大河の目に微笑ましく見詰めてくるリコが映り、照れた様子を見せるもすぐにニカっと笑みを浮かべる。

「リコもお疲れさん」

「いえ、寧ろ私はマスターから力をもらいましから」

「あー、あははは、そうか」

少し照れたように言うリコに大河も何故か照れてそう返す。
そんな二人のやり取りを離れて盗み見していた恭也たちは、

「リコさんが大河の事をマスターと呼んでいるな。これは言っていた契約がなされたという事で良いのか?」

「恐らくね。それにしても見ていても初々しい反応ね。
 まあ異性の主なんて初だろうし、あの様子からすれば……と、これ以上は野暮ね」

何がだと首を傾げる恭也を誤魔化し、ユーフォリアはやや真剣な面持ちを見せる。

「これで救世主システムに必要な赤と白の主は揃ってしまったわね。
 後は舞台となる台座だけれど、これは特に問題でもないし。
 恭くん、これから徐々に破滅の動きが活発になるかもしれないから気を付けてね」

「ああ、肝に銘じておこう」

ユーフォリアの警告に神妙に頷き返し、恭也は改めて救世主に関して知りえた事を整理する。
と、そんな恭也たちの耳に大河の困ったような声が聞こえてくる。

「にしても、リリィたちには何て言うか。
 導きの書も真っ白になってしまったしな」

「特に問題はないかと。私たちは言われた通りに最下層にある導きの書を持って出るんですから。
 地上に戻り、学園長に渡してお終いですよ」

「そうだな。よし、それじゃあ休憩も済んだし戻るか!」

「はい。帰りは逆召喚を利用するので行きよりも早く戻れると思います」

言って二人は寄り添うように立つと、リコの呪文に合わせて足元に魔法陣が描かれ次の瞬間に姿が消える。
それを見ていた恭也だったが、不意に隣に居るユーフォリアへと視線を戻し、

「で、俺たちは地道に上がっていくんだな」

「あ、あははは、すっかり忘れていたね。これがあれだね、恭くんの世界で言われる行きは良い良い、帰りは、って奴だね」

「言われるというか、それは歌の歌詞でって説明している場合じゃないな。
 モンスターに出くわさない事を祈りながら帰るか」

「いざとなれば私に任せてよ!」

胸を叩いてそう宣言するユーフォリアに思わず笑みを零し、恭也はやって来た階段へと向かう。
ユーフォリアは歩き出す恭也に合わせて隣に並ぶと、その腕にそっと自身の腕を絡ませる。
恭也も特に何を言うでもなく二人は地上へと向けて長い道を戻って行く。
幸いにして、モンスターとは数度出会う程度で済み、またそれらも今回はユーフォリアのお蔭で難なく済んだ。
そして当然ながら、恭也たちが地上に戻ってきたのは大河たちの数時間後であり、戻った時には誰も居なかった。

「ちょっとは待っててくれても良いと思うんだけれどな」

「まあ仕方あるまい。かなり時間が掛かった上に、途中で別行動と言ったのはこっちだしな」

「まあ、実際に言ったのは私だけれどね。まあ、居ないのなら居ないで構わないしね。
 もう部屋に戻っても良いって事でしょう、きっと。なら、さっさと戻って休もうよ、恭くん」

ユーフォリアの言葉に恭也も頷き賛成の意を示す。
恭也も流石に疲労を感じているのだ。そもそも使える武器のない状況で戻って来るというのは思った以上に精神的に疲れる。
既にいつもの朝の鍛錬の時間まで数時間程度しかないにしても休みたい。
故にユーフォリアに手を引かれつつ自室へと向かうのであった。
因みに、皆は恭也たちの事を完全に忘れていたのではなく、大河の持ち帰った導きの書が白紙だったという事に気を取られ、
それを詳しく調べると立ち去る学園長に言われた休めという言葉に、自分たちの疲労を思い返し、惰性のように自室へと戻った。
そして戻るなりそのままベッドに突っ伏してしまった為、誰も思い返さなかったのである。
翌日、恭也に会った大河たちが思い出したという顔の後、妙に気まずい顔をして、やけに気を使ってくる一日となるのであった。





つづく






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