『HAYATE CROSS HEARTBLADE』






第一刃 「その名ははやて」





超巨大校、天地学園。
この学園には、剣技特待生、俗に『剣待生』と呼ばれる生徒たちが存在し、
『刃友(しんゆう)』と呼ばれるパートーナーと二人組で戦う『星獲り』と呼ばれるシステムが存在する。
星獲りは、勝ちつづけることでランキングが上がり、報奨金が出るなど富と栄誉が得られるものである。



「遅刻する〜、じゃなくて、既に遅刻〜」

そんな巨大な学園を駆ける一人の少女がいた。
少女はよっぽど急いでいるのか前から来た少年とぶつかってしまう。

「うわっ。ご、ごめんなさい、急いでいたので」

「いや、こちらこそ。怪我は?」

「いえ、大丈夫です。それじゃあ」

言って駆け出そうとした少女だったが、振り返って少年を見る。

「私は黒鉄はやてです!」

「どうもご丁寧に。自分は高町恭也です」

「恭也、学園長室ってどこ?」

「…場所も知らずに急いでいたのか」

「あははは〜。今日、転入初日だから、来るように言われてたんだけど、場所が分からなくて」

恭也は呆れたように溜め息を吐くと、学園長室の場所を教える。

「ありがとう!」

言って走り去っていくはやての背中を見詰めつつ、今日転入してくるのは黒鉄ナギという少女だと、
学園長にして生徒会長であるひつぎより聞いていた恭也は首を傾げるが、
すぐにどうでも良いとばかりに歩きだすのだった。

後に、学園に波乱を起こす事となる二人の出会いは、騒々しくも静かに終わりを告げる。
この出会いが切っ掛けで、まさか再び星獲りに参戦する事になるなど、この時の恭也は思いもしなかった…。



  〆 〆 〆



学園長であるひつぎの前でも、自身の名を正直に名乗ってしまったはやてだったが、
ひつぎの計らいにより、在学を認められることとなった。
そして、はやては今、刃友を探すために学園内を歩き回っていた。
しかし、途中からの転入という事もあり、殆どの者が誰かとパートーナーを組んでおり、
はやての刃友となってくれそうな人物は中々見付からなかった。

「うぅ〜。勝ってたんぽぽ園を救わないといけないから、強い人と組みたいのに〜」

「しゃーないって。そんなに強い人なら、もう既に誰かと組んでるって」

カフェテラスのテーブルに突っ伏すはやてへと話し掛けたのは、はやてのルームメイト、吉備桃香だった。

「本当に誰もいないの〜?」

「ああ」

はやては顎をテーブルに着きながら、まだ刃友を持っていない人物のリストを眺めていた。
と、その視線が一箇所で止まる。

「あー、この人!」

「誰か知っている人でも居たんか?」

「うん。多分、この人は強いよ。ぶつかった時に分かった」

「……だれだれ? って、高町先輩!?」

「もかちゃん知ってるの?」

「知ってるも何も…。あー、高町先輩は止めておいた方が良いと思うけど。
 多分、なってくれんから」

「何で? そんなの頼んでみないと分からないじゃない」

「分かるんやって。今まで、何人もの人が頼んでるんやけど、皆、断られてるし」

「じゃあ、ずっと一人で?」

「そうや。さっきも言うたけれど、一人の場合はポイントは貰われへんねん。
 だけど、星は取られる。つまり、一人だと格好の対象なんや。なのに、今までずっと星を保持してはる。
 その所為かどうかは知らへんけれど、最近では誰も高町先輩とはやり合わんらしいで。
 つまり、実力は確かなんや。それで、皆、組みたがるんやけどな」

「じゃあ、何で剣徒生なんてしてるんだろう」

「別に最初から一人だった訳じゃないみたいやで。
 詳しくは知らんれど、入学当初は誰かと組んでたみたいや」

「じゃあ、恭也の刃友はどうしてるの?」

「さあ? 誰が高町先輩の刃友だったのか、知っている人は少ないんじゃないかな?
 うちも知らんし…」

「うーん。兎に角、今は一人なんだよね。だったら、頼んでみる!」

言って走り出すはやてに止めようと声を掛けるが、すでにはやては遠くにおり、
桃香は肩を竦めると飲みかけのコーヒーにそっと口を付けるのだった。



  〆 〆 〆



校舎内を駆け回り、三階の廊下で恭也の姿を見つけたはやてはその背中へと声を掛ける。

「恭也!」

「ん? 君は確か、はやてだったか?」

「そうです!」

「で、俺に何か用か?」

「うん。私の刃友になってください!」

「断る。それじゃあな」

言ってスタスタと歩き出す恭也の足に、はやては両腕でしがみ付く。

「おい、何を」

「お願い、なってなってなって〜!」

「良いから、放してくれ」

「じゃあ、なってくれる」

「断る」

「お願い〜」

「くっ」

徐々に人が集まるのを感じながら、恭也ははやてを引き離そうとする。
はやてもはやてで引き離されまいと腕により一層の力を込めて、またしてもお願いする。

「刃友になってとは言わないから。
 その代わり、番戒(つがい)とかゆーの恭也の穴に通させてよ!」

「それは、刃友になる儀式だろうが」

番戒と呼ばれるものを、刀に開けられた穴に通すことで、ここでは刃友となる。
刃友になれとは確かに言ってはいないが、それをしろと言っている時点で同じ事であった。
しかし、そんな事を気にすることもなく、気にするような人物なら、
一般生徒もいるこんな廊下で、こんな事をする訳もないだろうが、はやては大声を上げる。

「お願いだから、あたしの穴も恭也のでつらぬいてよ!」

「紛らわしい言い方をするな! しかも、そんな大声で!」

はやての口を塞いで黙らせると、次いではやての右手首を掴む。
同時にしがみ付かれている足を振り上げ、はやてごと持ち上げると、手首を掴んだ手を外側へと捻る。
その際、持ち上げた足を横へと振る。
投げ飛ばされるような形で恭也の足から引き離されたはやては、痛みに顔を顰めることなく、
今の一連の動作に感動さえしていた。

「凄いよ! やっぱり、刃友になって! ……って、あれ? 恭也〜?」

勢い込んで起き上がったものの、そこには既に恭也の姿はなく、
はやては口元に手を当てて大声で恭也の名前を連呼する。
それを物陰から聞いていた恭也は顔を押さえつつ、面倒なのに目を付けられたと胸中でぼやく。
だが、これだけ素っ気無くしていれば、そのうち諦めるだろうとも考えていた。
それが間違いだと気付くのに、そう時間は掛からなかったのだが……。



あれ以来はやては、

「刃友になってよ」

「ここは男子トイレだぞ」

時間が空く度に、

「刃友になってよ〜」

「…授業中なんだが」

恭也の姿を探し、

「ねえねえ、刃友になってよ」

「人のおかずを取るな」

時間や場所などお構いなく、執拗に同じ事を繰り返す。

「お願いだから〜」

「お前、何処まで来る気だ! ここは、俺の部屋だぞ!」

執拗に同じ事を繰り返す。

「ねえねえってば〜」

「人の布団にもぐりこむな!」

果たして、はやては恭也を刃友とする事ができるのだろうか…。




つづく







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