『HAYATE CROSS HEARTBLADE』
第二刃 「はやて、頑張ります」
しつこいはやてに、恭也は自分の腰ベルトから二本の刀を鞘ごと取って見せる。
「俺は別に星取に参戦していない訳ではないんだ」
「どういうこと? だって、一人だと参戦できないんじゃ」
「普通ならな。だが、俺は特例で、天地ニ刀を許可されている」
「天地ニ刀?」
「ああ。一人で、天の剣と地の剣を持ち、攻守の許可があるって事だ。
本当に特例中の特例だがな。だから、俺が勝った場合は、相手の星は俺のものとなるんだよ」
「それって、一人で戦っているってこと?」
「そうだ。分かっただろう。確かに俺は刃友はいないが、既に参戦しているんだ。
だから、諦めて…」
「嫌だ! わたしが恭也と組むって決めたんだから」
「お前、そんな我侭な……。
第一、俺は一人だが、既に刃友がいるという事に特例でなっていて…」
「会長に言って、そんな特例なくしてやる〜」
叫ぶとはやては後ろを振り返らずに走って行く。
その背中を眺めて、恭也はただ肩を竦めるのだった。
〆 〆 〆
「それは出来ません」
それが会長に直談判しに言ったはやてが最初に言われた言葉だった
「なんで?」
「恭也が刃友を持たないのは、彼の意志だからです。
そして、彼が天地ニ刀を許可されているのは、刃友の想いを受け継いだから。
だから、私からその件に関して、無理矢理どうこうするつもりはないの。
尤も、一人になって最初のうちは、恭也に戦いを挑むバカ共がたくさんいたんだけれど、
今では誰も居ないという状況。
これが、刃友を持つことで解消されるのではとは思いますから、
貴女が刃友になる事を禁止するつもりはないわ。
本来なら、既に刃友の居る恭也を刃友には出来ないのだけれど、状況が状況ですから、
貴女に限り、特例として許可します。だから、説得は自分でしなさい」
「…うん、分かった! それで充分だよ。ありがと〜」
元気良く飛び出していくはやてを見送ると、それまでじっと横で控えていた静久が口を開く。
「それで、会長。本音は?」
「勿論、恭也と戦いたいからに決まってます」
「やっぱり…」
「大体、最近のトップは、熱意がないわ。誰も挑んでこないんだもの。
でも、彼はその権利が出来たら、すぐにでも来るでしょうね」
「その為には、恭也にも星獲りをしてもらわないといけない。
けれど、誰も彼とは闘おうとはしない」
「元々、彼が二刀流という事もあるんでしょうけれど、一人で闘っている時の方が強く見えてしまうのよ。
でも、もし彼女が刃友になれば、きっとまた挑戦する者が増えるはず。
今はそれに期待しましょう」
楽しげに笑うひつぎを見詰めながら、静久もまた、
恭也と刃を交えたくてうずうずしている自分に苦笑を零すのだった。
〆 〆 〆
「恭也〜」
「またか」
うんざりした様子の恭也に、はやては胸を張る。
「ふふーん。わたしも特例貰った」
「何だ、天地ニ刀の許可を貰ったのか?」
「違うよ! 恭也の刃友になる許可をだよ。
恭也が納得したら、特例で認めてくれるって」
「ひつぎ、何を考えて…。
いや、単に楽しんでいるだけか」
訳が分からずに頭を抱える恭也に構わず、はやては恭也をビシっと指差す。
「と言うわけで、刃友になって!」
「断る!」
「な、何でー! だって、だって、許可貰ったのに〜」
「それとこれとは別だろう。
はやてが許可を貰おうと、俺が首を縦に振らなければいけない訳ではないのだろう」
「それはそうだけれど…」
「まあ、そういう訳で諦めてくれ」
「恭也は、闘いたくないの? 会長さんに聞いたよ。
誰も恭也と闘おうとしないって」
「…闘う事が目的ではないからな」
「じゃあ、何で剣徒生なんて。あっ! もうこんな時間」
時計の時刻が目に入ると、はやては言いかけていた言葉を飲み込む。
「今日、行く約束してたんだ。恭也、急いで」
言ってはやては恭也の手を取ると走り出す。
「ちょっと待て。俺は関係ないだろう」
その通りなのだが、一つのことしか目に入らない性格なのか、はやては恭也の言葉が聞こえておらず、
ただ足を動かす。
「おい、こら」
恭也の腕を引いたまま、はやては学外へと出て行くのだった。
〆 〆 〆
「はぁ、そうだったの。本当にごめんなさいね、高町さん。
ほら、はやてちゃんってば、すぐに熱くなるというか、周りが見えなくなるから」
「いえ、もう良いですけれど」
はやてに引き摺られるように連れてこられた孤児院、たんぽぽ園でお茶を啜りながら、
ここまで来た経緯を話して聞かせると、その女性は申し訳なさそうに謝る。
「まさか、はやてがここで育ったとは」
「そうなのよ。それに、良いって言うのに、剣徒生になればお金が手に入るって言って」
「ここの借金を、ですか」
「ええ。本当に良い子だわ」
言って外で他の子たちと一緒に遊ぶはやてを見詰める。
と、恭也へと向き直り、頭を下げる。
「本当にごめんなさいね。あなたがはやてちゃんのパートーナさんなんでしょう。
あの子の事だから、迷惑ばっかり掛けてるんでしょうね」
「いや、別に」
恭也は言葉を濁すと、子供たちと遊ぶはやてを見詰める。
自然と手が腰に差した刀に触れる。
(……お前なら、きっと言うんだろうな)
そんな恭也の横顔に思わず見惚れて、言葉を無くす女性に気付かず、恭也は暫くの間、自問自答していた。
〆 〆 〆
帰り道、横を歩くはやてへと恭也は不意に刀を横薙ぎに振る。
はやてはそれを屈んで躱すと、慌てたように手を前にする。
「きょ、恭也、何を怒ってるの。何かした、わたし。
あ、もしかして、こっそり恭也に出されたお菓子を取ったのを怒ったの。
ご、ごめん。食べてないから、いらないのかと思って…」
「お前、そんな事してたのか」
恭也は呆れたように肩を竦めるが、不意に真面目な顔付きになる。
「はやて、お前、今の一撃を躱したな。何故だ?」
「何故って、危ないから」
「そうじゃなくて、何故、俺がお前を狙ったと分かった」
「ン? んん? えっと、よく分からない。気がついたら、かな?」
「成る程な」
恭也は暫く考えていたかと思ったら、不意に腰の一刀を抜いてはやての眼前に持っていく。
「お前が一生懸命になる事情は分かった。
そして、お前の力もな。はっきり言って、お前は面白い。
何処までお前が登って行く事が出来るのか見てみたくなった。
しばらくは、この天地ニ刀の一刀はお前に預けよう」
「えっ!? そ、それって…」
「ああ。お前の刃友になろう」
「本当!? 本当の本当のほんと!?」
「ああ」
「きょ、恭也ので、わたしの穴を貫いてくれるんだね!」
「っ! だから、そういう言い方をするな!」
慌ててはやての口を塞ぐ恭也に構わず、はやては本当に嬉しそうにニコニコしていた。
「やっぱり、恭也はいい人だよ」
「……良いから、帰ったら儀式をやるぞ。
お前と俺の刃友となるためのな」
「うん!」
恭也の言葉に身体全体で喜びを表しながら、はやては今にも走り出さん勢いで歩く。
その後ろを少し早まったかもと思いつつ、その顔に笑みを見せて恭也も続くのだった。
こうして、今ここに、色んな意味で学園を騒がせることになるコンビが誕生した。
つづく
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