『HAYATE CROSS HEARTBLADE』






第四刃 「初星獲参戦」





鐘が鳴る中、恭也とはやては同じ剣徒生と出会う。
それは即ち勝負の開始ということでもあり、恭也は刀を抜くとはやての横に並ぶ。

「さっきも言ったが、お前は天の星を獲る事を考えろ。
 ランクが上がればそうも言ってられんが、とりあえず今はそれだけで良い」

「分かったよ、恭也」

恭也の言葉に威勢良く頷くはやてに一抹の不安を抱きつつ、恭也は相手の二人と向かい合う。

「まさか、Dランクで高町先輩とやりあうことになるとは思いませんでした。
 刃友を得られたというのは本当だったみたいですね」

「ええ。そのお陰でランクは下がりましたけれどね。
 こいつの性質を見極めるには丁度良かったと思いますよ。
 流石に上のランクで行き成り戦わせる訳にはいきませんから」

恭也としては単にはやての実力を正確に読み取るのにランク落ちは良かったという事で言ったのだが、
相手は侮られているとでも受け取ったのか、その顔に怒りを浮かばせる。
だが、刃友である地の星がそれを制するように押さえ込むと、大人しく頷く。

「あまり挑発をしないでください。ただでさえ短気なんですから」

「いや、別に挑発をした覚えはないんですが……」

「さて、あまり長く話をしてもいられませんね。鐘が鳴り終わっては意味がありません。
 一年以上も剣を振るっていなかったのなら、勘を取り戻すのも大変でしょうし、
 ここは短期決戦といかせてもらいます!」

言うなり地の星の少女は恭也へと迎ってくる。
それを構えずに迎える恭也。

「はやて!」

自分の身ではなくはやてに指示を出し、はやても名前を呼ばれただけでそれに答えるように相手の天へと走り出す。
腰の横に剣を構えたまま走り込んできた地の少女は、恭也の手前で剣を下から上へと変化させて恭也の腰を狙う。
正確にはその腰に付けられた星を狙って。

「狙いは良いが、速さも鋭さも足りないな」

半歩後ろへと下がってやり過ごすと、少女が態勢を整えるように足を前に出して踏ん張り、
距離を取るべく下がろうとしたのに合わせて、少女の動きよりも早く前へと踏み込む。
擦れ違うように横を通り抜け、少女の後ろへと回り込む。
慌てて少女が身体を反転させようとするも、少女の腰から星を討たれた事を示すブザーが鳴り響く。

「うそ……」

擦れ違いざまに星を撃たれたのだと気付いて呆然とする少女。
恭也が攻撃を繰り出したという事を視認できなかったのだ。
ブランクなんて感じさせない、いや、恐らくは常日頃から鍛錬だけは欠かしていなかったのだろう。
その事にようやく気付き、改めて一人で星獲りをしていたという恭也の実力を見誤っていたと思うも既に遅かった。
恭也は少女の様子に特に関心も寄せず、ただはやての方へと視線を向ける。
今回は助けるつもりがないのか、その動きの全てを見極めんと。
恭也が見つめる中、はやては真っ直ぐに突っ込んだまま持っていた剣を真っ直ぐに相手の星へと振り下ろす。
だが、バカ正直なほどに真っ直ぐに振るわれた剣を相手も大人しく受けるつもりなどなく、
当然のようにはやての剣を受ける。
そして、即座に反撃に移ろうとして、はやての剣がまた迫ってきていると気付き、再び防ぐ。
防がれた瞬間、はやては自分の剣を戻し、また真っ直ぐに相手の星へと突き出す。
ただ星を取ろうとして振るわれる真っ直ぐな剣筋。
だが、その速さが異常であった。
相手に受けられるなり、素振りの練習をしているかのように即座に手元へと剣を戻し、また繰り出す。
それだけなのだが、相手は反撃に移れずに防戦一方となる。
やがて、はやての剣速についていけなくなり、とうとう星を取られる。
その事に全身で喜びを現すはやてを見つめながら、恭也は少しだけ楽しそうに口元を緩ませる。

(速さだけで星を獲るか。しかし、これから先はそれだけでは絶対に無理だ。
 だが、その速さは充分な武器になるな)

これが終わったら、はやてに幾つかの事を進言する事を考える。
その顔はやはり何処か楽しそうであった。



  〆 〆 〆



二人の試合の様子を一部始終、離れた所で見ている二人が居た。
この天地学園剣徒生のトップに立つ天地ひつぎと源静久の二人である。
二人の前には大きなテレビが置かれ、恭也たちの星獲りをあらゆる角度から撮ったのか、
様々な角度の映像を前に、何度かリプレイして見ている。
ひつぎのその顔はとても楽しそうに笑っており、静久もまた何処か楽しそうである。

「恭也はやはり地を選んだみたいね。少しだけ残念だわ」

「私は逆に楽しみですけれど」

「面白くないわね」

つまらなさそうに呟きつつも、ひつぎは目を細めてはやての動きをじっと眺める。

「この子の剣、きっと恭也の下でもっともっと速くなるでしょうね。
 ここに辿り着いたその時、彼女と静久、どちらが上かしら」

「私だって成長します! 絶対に私のほうが速いに決まっています!」

むきになってそう言い放つ静久を面白そうに笑い飛ばした後、ひつぎは珍しく真面目な顔になる。

「どちらにせよ、まだまだ頑張らないと私たちに挑む事はできないわ。
 早く上がってきなさい、恭也、はやて」

待ち遠しそうに画面に映る二人へとひつぎは語り掛ける。
その隣でからかわれて憮然としていた静久もまた真剣な眼差しで、
再び繰り返される二人の戦いを記録した映像をじっと見つめ続けるのだった。




つづく







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