『DUEL TRIANGLE』






第四十四章 Rest of saviours'moments





恭也が美沙斗へと連絡を入れた後、暫くはこっちの世界に居る事になるリリィたちへと、
昼食後、この世界の事を簡単に説明しながら町を案内する事にした恭也たちは外へと出ていた。

「師匠、あれは何でござるか!?」

「ああ、あれはゲームセンターだな」

「随分と賑やかな所ね」

店の外まで漏れ聞こえてくる電子音にリリィが眉を顰めながら呟く。
それに苦笑を見せる恭也の後ろでは、ベリオが店頭に置かれたビデオカメラを珍しそうに見詰める。

「凄いですね。幻影石とはまた違って、リアルタイムでこちらの画像を映し出すなんて」

カメラの前で掌をヒラヒラと振りながら、傍らで再生されているモニターをじっと見詰める。

「美由希さん、これはどういう仕掛けなんですか?
 魔法とかではないんですよね」

「え、えっと、仕掛けはちょっと分からないかな…」

ベリオの問いかけに困ったように答える美由希。
そんな二人の向い側に建つ店の前では、ルビナスとクレアが釘付けになっていた。

「綺麗ね」

「本当だな。成長した今の私なら、これぐらい大きくても着れるな」

ショーウインドウに飾られた服に眼を奪われていた。
その二人のやや後ろで未亜も同じように見詰める。
商店街に入ってから、目に付く店という店の前で足を止め、さっきからあまり進んでいなかったりするのだが、
リリィたちにすれば、かなり物珍しいのだろう。
仕方ないといった様子でそれに付き合う恭也だった。
その横を一緒に歩きながら、リコはさしたる興奮も見せずに居た。

「リコは珍しくないのか」

「知識として知ってはいましたから。
 ですが、知っているのと実際に目の当たりにするのでは、かなり違いますね」

静かながらも、その声にはやはり多少の興奮が窺える。

「師匠、ここから良い匂いが…」

「そこは牛丼屋だ」

「恭也、あの店はなに?」

「それはファーストフード店だ」

「マスター、あれは」

「あれは…」

ただでさえ人目を引く容姿に加え、そんな感じで賑やかに移動する一行はかなり目立っていたが、
そんな事を気にも止めず、恭也たちは歩き続ける。
家の近所を大体案内し終えた恭也は、商店街まで来たついでに翠屋へと向かう。
そろそろ休憩しようと思っての事だ。
恭也の行き先に気付いた美由希が、前を行く恭也へと声を掛ける。

「恭ちゃん、翠屋に行くの」

「ああ。流石にずっと歩き通しだからな。
 そろそろ休憩を挟もうと」

「翠屋というのは確か、恭也くんたちのお母さんが経営されている喫茶店ですよね」

ベリオの言葉に頷きで返しながら、恭也は前方を指差す。

「あそこだ」

それから程なくして翠屋へと着いた恭也は扉を開け、すぐに閉めると店から踵を返す。

「また後日にしよう」

「恭ちゃん、どうしたの」

突然の恭也の行動に首を傾げる美由希の見ている前で、恭也の背後の扉が開く。
そこからにゅっと腕が伸び、恭也の首に絡みつく。

「青年、中々面白い事をするじゃないか」

「…真雪さん、来てらしたんですか」

「ほう。さっき、目が合ったと思ったのは私の思い違いか」

「多分、思い違いでは」

「ほうほう。つまり、青年は私から逃げた訳ではなく、たまたま店に入るのを止めたと」

「そうなりますね。少し休憩しようと思ったんですが、やはり臨海公園の屋台が良いと急に思いまして」

平然と語る恭也の首に回した腕へと、真雪はゆっくりと力を加える。

「そうか、そうか。休憩したかったんなら、そう言え。
 よし、あたしが奢ってやろう。という訳で、入るぞ」

「いえ、お気持ちは嬉しいのですが、連れが居ますので遠慮しておきます」

恭也の言葉にリリィたちを見た真雪は、それぞれに浮かんでいる表情を見てその顔を更ににやりと深める。

「なるほど、なるほど。青年は相変わらずのようだな。
 うんうん。これはまた那美にとっては嬉しくないだろうが、あたしにとっては面白そうな事に…」

「言っている意味がよく分かりませんが、楽しむのなら他の人でお願いします」

「つべこべ言ってるんじゃない。どうせ、後から桃子さんか、那美辺りから話が行くんだから来いって」

言って強引に店内へと引き摺っていく真雪を呆然と見遣りながら、リリィたちも後に続いて入っていく。

「桃子さん、ちょっと息子さん借りますよ。
 さっきの話、ついでだから伝えときますんで」

「はいはい、どうぞ〜」

カウンターに居た桃子へとそう声を掛けると、真雪は店の一番奥へと向かうと椅子に腰を降ろす。

「とりあえず、何か頼め。まあ、そんなに長い話じゃないが奢ってやるよ」

恭也が遠慮する前に、真雪は自分の分をさっさと注文する。
遠慮がちに美由希たちも続けて注文をしていく。

「……メニューのここからここまでを全部一つずつ」

最後にそう告げたリコへと、真雪は驚いた顔を見せる。

「いや、まあ、奢るとは言ったが。
 嬢ちゃん、そんなちっこい身体で食えるのか」

当然のように出てきた真雪の言葉へと、恭也が静かに告げる。

「岡本さんや鷹城先生以上に…」

「…………」

絶句する真雪へと、恭也が少しだけ意地悪く話し掛ける。

「奢ると言った事を後悔してませんか」

「っく。一度言ったんだ、そんな訳あるか…」

言いつつも、若干顔が引き攣ったのは、まあ仕方ないのかもしれない。
恭也に反撃されて面白くないのか、
初めて見るリリィたちを使ってやり返そうと彼女たちを見ていた真雪の顔が真剣なものに変わる。
次いで、恭也をじっと見詰める。

「……また強くなりやがったな。
 しかも、今までとは比べもんにならないぐらい。
 特に、美由希なんか今までとは打って変わった感じだ。
 何処かで実戦でも経験したか」

鋭い眼差しで恭也と美由希も見詰め、未亜へと視線を向ける。

「未亜も何か変わった感じを受けるんだがな。
 何かあったのか?」

さしもの真雪も未亜までもが戦う力を身につけたとまでは思わなかったらしく、
その瞳に心配そうなものを覗かせる。
このさり気なく全員に気を使い、何かあれば守ろうとする真雪の姿勢を恭也はかなり尊敬し憧れている。
これで、普段の無茶な行いをもう少し押さえてくれたらと思うのだが、
それがないと真雪という気がしないのも事実で、恭也は困りつつ小さく笑う。
その笑みを見咎めたのか、真雪が先程とは別の意味で鋭い視線を飛ばす。

「今、何か不遜な事を考えなかったか」

「いえ、別に」

淡々と返す恭也をじっと見詰めていたが、埒があかないと悟ったのか、
リリィたちの紹介をしてくれるように頼む。
そこへ注文していた物が届く。
リコは一人でテーブルを占領しつつ、届いたものに早速取り掛かる。
やや出鼻を挫かれたような感を受けつつも、リリィたちから紹介を受ける。

「まあ、カエデの嬢ちゃんは無事に知り合いに会えたって事か」

「その節はお世話になったでござる」

「ああ、良いって、良いって。耕介にしろ、愛にしろ、お節介好きな奴らだからな」

言ってヒラヒラと手を振る真雪に、それは真雪さんもでしょうと言いそうになったのを堪える。
それに勘付いたのか、真雪は一度恭也を見るが何も言わずに用件を切り出す。

「で、うちの誰かから聞いているかもしれないが、明日うちで宴会するから。
 勿論、お前たちも参加な」

恭也は真雪の言葉に頷いて同意を示す。

「まあ、詳しい事は準備する耕介次第だから、後でまた連絡が行くとは思うが。
 そんな訳で明日は空けておいてくれよ」

「耕介さんだけでは辛いのでは?」

「ん? ああ、そっちの晶やレンも手伝いを買って出てくれたみたいだから、問題ないだろう。
 まあ、そんな訳であたしはこの辺でな。流石にまだ眠い」

あくびを噛み殺しつつ伝票を持って立ち上がる。

「ったく、編集も人使いが荒いよな。
 徹夜明けでゆっくり眠っていた作家を叩き起こすなんて…」

ブツブツと文句を言いながらカウンターへと向かう真雪を見送る中、リコは黙々と食べ続けていた。





 § §





明けて翌日。
夕方からはさざなみ寮でのパーティへと参加する事になっていたので、
午前中に恭也と美由希は道場で軽く身体を動かしていた。
尤も、二人にしては軽くであって、他の面々からすれば呆れるような内容だったが。
昼過ぎ、リビングで談笑するカエデたちの話題は、もっぱらこっちの世界の娯楽や食に関してだった。
午前中に牛丼屋やファーストフードの店へと出歩いたカエデやリコの話を、未亜が楽しそうにする。

「…中々美味しかったです」

「はんばーがーなるものは中々美味でござった。
 拙者の居た世界と比べると、師匠が和食と呼ぶ物は似ているでござるか、それ以外は初めての物ばかりで」

「私は二人と一緒に行っただけで殆ど食べてないけれど、二人は食べ過ぎじゃないかな。
 でも、何だかんだ言って甘いものは二人ともかなり食べてたよね」

「その辺は世界が変わっても、変わらないって事ですね」

未亜の言葉にベリオも笑みを浮かべながら言う。

「だからって、太らない訳じゃないんだから、二人とも気を付けた方が良いんじゃない。
 あ、未亜ちゃんも結構、食べてたみたいだから気を付けないといけないかも」

ルビナスの言葉に未亜とカエデは思わず自分のおなかを見下ろす中、リコは平然と告げる。

「私はどれだけ食べても太りませんから。
 そう言うルビナスも、かなり食していたようですが」

「大丈夫よ。私も太らないから」

この二人の発言に、出歩いていなかったベリオたちまでもが二人を睨み付ける。

「羨ましいよ〜。何で、どうして?」

そんな中、未亜は本気で二人を羨ましそうに見るのだった。
その喧騒を聞きながら、恭也はそっと家を出てある所へと向かう。
それに気付いたのはリリィだけで、恭也の普段とはどこか違うその様子が気になり、
同じように皆に気付かれないようにその後を追う。
途中で二件程店に寄った後、恭也はひたすら何処かへと向かって歩いて行く。
その後を付けながら、リリィは恭也が何処へ行くのか分からずにその背中をじっと見詰める。
人気がなくなり高台といった感じを前方に見据えながら、そこへと続く階段へと足を掛けて止まる。

「で、いつまで付けて来るつもりなんだ」

「…やっぱり気付いてたのね」

薄々気付かれていると思っていたリリィは物陰から姿を見せると恭也の横に並ぶ。

「で、何か用か?」

「別にそんなんじゃないわよ。
 ただ、一人で何処かに行こうとしてたから、ちょっとね」

「そうか。まあ、別に誰かに言ってから行く場所ではないからな。
 こっちの世界では数日しか経ってないが、俺の中ではそれなりの間来てなかったから、
 行っておこうと思いたっただけで」

言いながら階段を上り始めた恭也を見ながら、付いて行って良いのか戸惑うように見上げる。
恭也は特に何も言わないのを受け、リリィは付いて行く。
階段を上り終えると、恭也は何かの入り口らしきものの傍に置いてあったバケツへと水を入れる。
そこから先は、似たような石が建ち並んでいた。

「墓地?」

「ああ」

思わず出たという感じのリリィへと首肯しながら、恭也はその中の一つへと向かって歩く。
今更ながら、恭也の行き先を感じて一人にした方が良いかもとは思ったが、
ここまで来たのなら、せめて手を合わせようと思い後に続く。
墓を掃除して線香を立てると、恭也は途中で買ってきたお酒と豆大福を供える。

「とうさんは甘いものもお酒も好きでな」

「なのに、アンタは苦手なのね」

「まあな」

恭也の横に並んで手を合わせながら、恭也の言葉に軽く答える。

「どんな人だったの。アンタのように育った子の親なんでしょう。
 何か躾とかは厳しそうだわ」

「それがそうでもない。寧ろ、かなり滅茶苦茶な人だったんじゃないか」

リリィの言葉に小さく笑みを零しつつ、恭也は士郎の話を始める。
この国の最南端から、最北端の名物が食べたくなったと言って移動した話や、
途中で路銀が尽きて色んな事をして稼いだ事。
無茶苦茶な修行方法などなど。
恭也自身も不思議に思うぐらい昔の事を鮮明に思い出しながら。
それをリリィはただじっと静かに聞いている。

「…本当に無茶苦茶な人だった」

「でも、尊敬していたのね。アンタの顔を見ていればよく分かるわ」

既に線香も完全な灰となってかなり経ち、日が傾き始め辺りを赤く染め上げる。
顔を夕日で赤く染めた恭也の顔を見詰めながら、リリィははっきりと断言する。

「…そうだな。俺には、あんな風に笑うことも周りを笑わせることもできないからな。
 父さんは本当に凄いと思うよ」

「何言ってるのよ。私から見れば、アンタだって充分に凄いわよ。
 まあ確かにあまり笑わないけれど、それでも充分に皆の助けになってるわよ。
 わ、私だって感謝してるし。そ、それに、アンタも皆に助けられてるでしょう」

「ああ、そうだな」

「それで良いじゃない。別に、全部アンタが背負い込む必要はないの。
 私たちは仲間なんだから、助け合えば良いのよ!」

最後は怒ったように告げながら、リリィ横を向く。
その顔が赤くなっているのは、果たして夕日だけのせいなのか。
恭也はじっとリリィを見詰めた後、小さく笑う。

「ありがとう、リリィ」

「な、何よ、突然」

「いや、何となくかな」

「あ、あのね何となくってなによ、何となくって。
 …おまけに、そんなに綺麗な笑みまで浮かべて」

ブツブツと文句を言いながら、背を向けるリリィの言葉を最後まで聞けず、恭也は尋ね返す。
が、リリィはもの凄い剣幕で何でもないと捲くし立てて誤魔化すと、足早にこの場を立ち去ろうとする。

「おい、そこ危ない…」

恭也が注意をするよりも先に、リリィは小さな窪みに足を取られる。
倒れそうになる所を恭也が支える。

「大丈夫か。足を捻ったりとかは」

「あ、ありがとう。大丈夫よ」

言って顔を上げたリリィと、心配そうに見下ろす恭也の視線が重なる。
どちらともなく小さな呟きを洩らし目を逸らすが、何故かお互いに離れようとはいない。
このままではいけないと思い声を掛けようとすると、相手も同じ事を考えていたのか、
その第一声が重なる。
お互いに相手に先に言うように遠慮しているうちに、またしても沈黙が降りる。
視線は合わせずに、それでも思いっきり相手を意識しながら立ち尽くす。
そんな状態がいつまでも続くかと思われた頃、不意にそのしじまを破る音が響く。
まるで急に電気が走ったかのようにびくりと身体を震わせると、二人は慌てて離れて背中を合わせあう。
早まる鼓動を押さえるかのように胸に手を当てるリリィの背後で、恭也がその音の元凶を取り出す。

「もしもし、どうした美由希」

「どうしたじゃないよ〜。
 もうそろそろ、皆でさざなみへ行こうと思ったら、恭ちゃんとリリィが居ないんだもん」

電話から漏れ聞こえてくる美由希の声に、リリィは思わず恭也を見、恭也は肩を竦める。

「そうか、それは悪かったな。
 リリィも一緒だから安心しろ。俺たちもさざなみへと向かうから、お前たちも出ていいぞ」

「ちょっ、リリィさんと一緒ってどういう事!?
 ねえ、ねえってば」

「流石に手ぶらというのも悪いと思って、何か土産を持参しようと先に出てきただけだ。
 散歩をしていたリリィとたまたま外で会ったから、一緒に行動しただけだ」

持ち前の勘で何となく嫌な予感を感じた恭也は、咄嗟に誤魔化す。
それを素直に信じたのか、未だにブツブツ言っている美由希へともう一度家を出るように伝えると、
恭也は電話を切る。

「さて、美由希に言った手前、何か買っていかないといけなくなったな」

「自業自得でしょう」

「酷いな」

いつものようなやり取りをしながら、恭也とリリィは墓地を後にするのだった。





 § §





『かんぱ〜い!』

さざなみ寮のリビングから、庭からと一斉に声が上がる。
思い思いに食べながら、あちこちで会話が飛び交う。
そんな中、リビングの一角では黙々と料理に手を付けるリコの姿が。

「リコ、楽しんでいるか」

「…はい。今まではエネルギーを補うためだけに食事をしてましたが、
 マスターたちのお陰で食事が楽しいものだと知りました。
 それに、これは大変美味しいです」

「そうか」

食べ続けるリコの頭を数回撫でる。
嬉しそうに俯くリコの元に、耕介が次の料理を運んでくる。

「真雪さんから聞いていたけれど、本当によく食べるね。
 作りがいがあるよ」

笑いながら次の料理を作るために戻って行く。

「耕介さんも参加しないと…」

「ああ、勿論。あと少しで終わりだからね。
 そうしたら、参加させてもらうよ」

恭也に答えつつ、耕介はキッチンへと戻って行く。
その両横では、高町家の料理番が腕を振るっている。
まだ始まったばかりだというのに、既にかなりテンションが高まっている。
そんな風景を何となしに眺める恭也の首に腕が回される。

「楽しんでるか?」

「真雪さん。この度は…」

「ああ、堅苦しいのはナシナシ。
 要は騒げれば良いんだからな」

真雪らしいといえばらしい言葉に苦笑を見せる。

「まあ、今日は楽しんでけ。
 おら、耕介、早く来いよ〜! 恭也からちょっと良い酒を差し入れしてもらってんだから。
 早く来ないと、ぼうずと全部あけるぞー!」

真雪の言葉に悲鳴にも似た声を上げつつ、耕介は素早く調理を進める。
何だかんだと騒がしくも楽しい時間が過ぎて行く。
料理もあらかた片付き始める中、リコは未だに食べていた。

「…マスター。これのお代わりはありませんか」

「うん? それはもうないみたいだな」

「そうですか、残念です」

言って違うものを手に取る。
そんなリコを呆然と眺めていた耕介だったが、何かに火が着いたのかリコがお代わりと言った品をもう一度作る。
幸い、材料は多めに買い込んでいたためにまだまだある。
手早く作ってリコへと渡す頃には、他の物のお代わりを告げられる。

「おい、リコ。大丈夫なのか」

「…はい、全く問題ありません。美味しいですから、どんどん入ります」

その言葉に、いや、言葉だけでなく食べるという態度でもその事をよく現すリコに気をよくしたのか、
耕介は嬉しそうな顔を見せる。

「よし! それならそれで、俺も作りがいがあるってもんだ。
 まだまだ作るから、遠慮せずに食べてくれ!」

腕まくりするように曲げた右腕に左手を走らせる耕介の両脇に、
晶とレンが同じようにお玉や鍋を持った腕を曲げてみせる。

「耕介さん、うちらも手伝います」

「頑張りましょう!」

「ああ! 頼むよ、晶ちゃん、レンちゃん」

ここに、海鳴が誇る和洋中それぞれの鉄人が手を組む。
……そして二時間にも及ぶ激闘の末、遂にリコの口から満足げな言葉が飛び出す。

「…ご馳走様でした」

ナプキンで上品に口を拭きながら、いつもと変わらぬ表情で告げたリコにリリィたちも驚く。

「遂にあのリコが!」

「ああ…、これを知った料理長が何と言うかしら」

「この場合、リコさんを満足させた三人が凄いのか、三人にここまで作らせたリコさんが凄いのか。
 未亜ちゃん、どう思う?」

「あはははは。間違いなく、どっちも凄いよ」

そんな風に語り合う美由希たちの中、一際嬉しそうな声を上げる耕介たち料理人。

「耕介さん!」

「あ、ああ! やったな二人ともっ!」

「はい、やりました!」

互いの健闘を称え合う三人の横を、桃子が鼻歌交じりに通り過ぎる。
その手に持ったお盆からは、何やら甘くて良い香りが漂ってくる。
桃子はそれをテーブルに置くと、満面の笑みでそこに居る一同を見渡す。

「は〜い。桃子さん特性のデザートよ〜」

リコの食べっぷりを見ていた面々も、その匂いに釣られるように手を伸ばし、それを口にする。
途端、あちこちから美味しいという言葉が飛び交う。
そして、その中にはリコの姿もあり…。

「リコ、まだ食べるのか?」

「はい。甘いものは別腹と言いますから。
 それに、マスターのお母さまが作られたものですから…」

照れながら言って美味しそうに頬張るリコの姿に、
耕介たち三人はがっくりと膝を着くと、そのまま力尽きたかのように倒れるのだった。





つづく




<あとがき>

一時の平和をそれなりに凄く恭也たち〜。
美姫 「そろそろ事態が動くのよね」
……さて、次回は〜。
美姫 「そう、私の質問をスルーするの」
あ、あはははは。
お、落ち着け。じ、次回はやっと龍鱗が。
美姫 「恭也の元に届くのね」
ふふ〜ん♪
美姫 「……(にっこり)」
ご、ごめんなさい! えっとですね。まだ分かりませんです、はい。
美姫 「ほうほう。なのに、ああいった態度を取ってたのね」
いや、だからこそ取っていたんだが…。
美姫 「問答無用よ♪」
う、うぅぅ。因みに、最初から素直に言ってた場合は?
美姫 「勿論、まだ未定なの! お仕置きよ! ってなってたわね」
どっちにしても同じじゃないか!
美姫 「そんな今更言われても」
いや、こっちこそ、そこで真顔で言われても。
美姫 「うふふ♪ とりあえず、後でお仕置きね♪」
うぅぅぅ。酷い(涙)
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」




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