『Present for Kyouya』






   〜U〜


「すいません。これをお願いします」

「はい、こちらですね。ちょっとお待ちください」

しばらく待って、包装された品物を受けとり代金を払うと美由希は足早に立ち去る。
そんな美由希の背中に露店のお姉さんが声をかける。

「頑張ってねー」

そんな声を背中に受け、何を頑張るのかと不思議に思いながらも、美由希は笑顔で頷くとここから離れていった。



   ◇◇◇



今日この日、翠屋は恭也の誕生日を祝う為、午後から閉店となっていた。
皆に祝福の言葉を貰い、それに照れながらも礼を言う恭也。そこから先は、ほとんど宴会と言っても良いノリで進んで行く。
途中、晶やレンがプレゼントの事でいつもの様なやり取りが行われたり、
それを見たなのはが二人に説教をしたりなどの場面もあったが概ね極普通に進んで行く。
そして、パーティも終盤に差し掛かった頃、

「さあて、そろそろ皆からのプレゼントを渡さないとね」

という桃子の台詞に皆が恭也にプレゼントを渡していく。

「折角だから、ここで開けてみたら?」

「そうだな。皆、いいか?」

全員が頷いたのを確認すると順にプレゼントを開けていく。
お守りや竿、靴など様々なプレゼントが、目の前に置かれていく。
そして最後に美由希から貰ったプレゼントの梱包を解く。
他の者たちも何がでてくるのか興味津々で恭也の手元に注目する。
そして、中から出てきた物は・・・・・・

「む、これは・・・指輪か?」

「あ、あはははは。恭ちゃんに何をあげたら良いのかが全然、思いつかなくて」

「それで指輪か」

「だ、駄目だったかな?」

「いや、ありがとうな美由希」

「うん」

そんな二人のやり取りを見ていた忍が何かに気付き、声を上げる。

「あれ?これって確かフォーチュンリングよね?」

「あ、本当ですね」

恭也と美由希は、忍が何を言っているのか判らない様子で首をかしげている。
そんな二人に構わずに忍たちは盛り上がっていく。

「へぇ〜、美由希ちゃんも大胆な事をするわね」

「ほんまですなー」

「で、師匠はどうするんだろうな?」

「楽しみねー。あの恭也がどうするのかしら」

「あ、あの、あんまり囃し立てるのも、お二人に悪いかと思うんですけど・・・」

「言うだけ無駄だよ、神咲さん。桃子さんがやる気になった時点で止めるのはもう無理だって」

本人たちは声を潜めて、ひそひそと話をしているつもりなのだろうが、恭也たちには丸聞こえだったりする。
恭也と美由希は二人して疑問を顔に表しながら、お互いに顔を見合わせる。

「どういうことだ?」

「さあ?」

そんな二人の元へとなのはと久遠がやって来る。

「ねえ、どういうことなの?お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「くぅん」

なのはも久遠も当事者らしい恭也と美由希に訊ねるが、当の本人たちも訳が判らずに首をかしげ、

「さあ、俺たちにも、・・・『つまりね、なのはちゃん』・・・」

さっぱり判らないと続ける途中で、忍によって遮られる。忍は、自分が恭也の言葉を遮った事にも気付かずに話し続ける。

「美由希ちゃんが高町君に送った指輪はフォーチュンリングって言ってね、好きな人に告白するときに使う指輪なのよ。
 フォーチュンリングを使った告白には決め事があって、
 女の子が男の子に告白するときは、空白のリングを渡すの。
 そして、男の子はOKなら名前を入れて返し、NGならそのまま返すの。わかった?」

「えーと・・・・・・・・・あ、はいわかりました。
 今の場合だと、お姉ちゃんがお兄ちゃんに告白したって事ですね」

「そういう事。で、皆で高町君がどうするかって話してたのよ」

「なっ!」

「ええええええっ!」

忍の説明となのはの台詞に驚きの声を上げる恭也と美由希。
恭也は自分に指輪を渡した美由希が驚きの声を上げるのを聞き、美由希の方を見て、訊ねる。

「美由希、ひょっとしてお前も知らなかったのか?」

「う、うん。そういう物だったなんて知らなかったよ!」

「えっ!美由希ちゃん、知ってて渡したんじゃないの!」

「すいません。全然、知りませんでした」

『・・・・・・・・・・・・』

美由希の言葉に全員が沈黙する。そんな中、恭也がいち早く立ち直り、美由希に話しをする。

「あー、その美由希」

「な、なに?恭ちゃん」

「この指輪は返しておこう」

「え」

「美由希もこういう物と知らずに俺に渡したんだろ?だったら、そのまま返す方が良いと思うんだが」

「え、で、でも」

「まあ、その、あんまり気にするな」

「・・・・・・」

恭也は美由希に指輪を返そうと手を差し出すが、美由希はそれを取ろうとせず、俯き何事かを考え出す。
そして、考えが纏まったのか、少し赤くなった顔を上げ、恭也に話し掛ける。

「きょ、恭ちゃん。その指輪を受け取って」

「しかし、これは」

「ううん。ちゃんと、その意味を知った上で、受け取って欲しいの。そして、返事を頂戴」

静まり返った店内に美由希の声だけが静かに響く。そして、全員が見守る中、恭也は目を瞑り考え込む。
数分後、恭也はゆっくりと目を開け、美由希を見る。

「だ、大丈夫だよ、きょ、恭ちゃん。わ、私の事なんか・・・・・・・・・き、気にしないで・・・・・・。
 わ、私は大丈夫だから、・・・へ、返事をお願い」

「これは、この指輪は、やっぱりこのまま美由希に返す」

「!や、やっぱり、私じゃだめ・・・・・・だよね・・・・・・・・・」

「美由希、そのプレゼンは返したから、俺はお前から何も貰ってない事になる」

「う、うん??」

「だから、俺の今一番欲しいものを貰うぞ」

そう言って恭也は美由希を引き寄せ、驚いている美由希に構わず、そのまま唇を奪う。

「きょ、恭ちゃん・・・どうして?」

「あの指輪はお前も意味を知らずに買った物だろう。だったら、そんな物には意味は無い。だから、返しただけだ。
 それと、今のが俺の返事だ・・・・・・判ったか」

照れてそっぽを向きながら言った恭也の台詞に、美由希は顔に満面の笑みを浮かべながら答える。

「!ううん、突然すぎて、判らなかった。だから、もう一度、今度はちゃんとお願い」

「・・・・・・ああ、判った」

恭也は再び美由希を引き寄せ、腕の中に抱きしめる。美由希も恭也の背中へと腕を回し、そのまま見詰め合う。
そして、どちらとも無く目を瞑ると、そのまま顔が近づいていき、

「美由希」

「恭ちゃん」

そのまま長いキスを交わす。やがて、どちらとも無く顔を離すと、お互いに見詰め合い軽く微笑み合う。
見詰め合う美由希の頬を一筋の涙が伝う。それを拭いながら、恭也は優しく微笑む。
そんな二人を見て、周りが騒ぎ始める。

「はぁー、師匠が笑ってる」

「ほえ〜、お師匠の笑顔」

「いいわね〜。昔を思い出すわ〜」

「うぅぅぅ、複雑な気持ちだけど、おめでとう高町君、美由希ちゃん」

「おめでとうございます、美由希さん」

口々に祝福の言葉を投げられ、二人は自分たちが何処で何をしていたのかを思い出し、顔を真っ赤にする。
恭也は更に好き勝手な事を言い、盛り上がる他の面々を見ながら、呆れた表情を浮かべ、
美由希は照れながらも嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな二人に桃子が声を掛ける。

「ほら、二人とも。ここはもういいから、さっさとどこかに行きなさい」

「え、でも」

「いいから、いいから。ほら、恭也も美由希を連れてさっさと行きなさい」

「ああ、わかった。美由希、行くぞ」

「あ、うん」

皆に見送られて、すでに日が落ちて暗くなっていた店の外へと出る二人。美由希は自分の腕を恭也の腕に絡めて歩き出す。
しばらくお互いに無言で歩いていたが、途中で美由希が恭也に話し掛ける。

「ねえ、恭ちゃん」

「なんだ」

「ううん、何でもない」

「美由希、何でもないのに呼ぶな」

恭也はさも、呆れたというように喋る。

「もう、何でもないけど、何でもあるの!」

「何だ、それは。全然、日本語になっていないぞ」

「う〜〜。これだから朴念仁とか鈍感とか言われるんだよ」

「む、悪かったな。昔、どこかの眼鏡を掛けたドジな奴にも同じ様な事を言われたな」

「ううぅぅ。それって私の事?」

「自覚があるのなら少しは直せ」

「ど、努力はしてるよー」

「成果は見られないがな」

「うぅぅぅ。やっぱり恭ちゃんはいじめっ子だ。どうせ私はドジだもん。おまけに不器用だし、機械音痴だし。料理もできないし・・・」

自分で言ってて、段々と落ち込んで行く美由希。そんな様子をあきれながら見ていた恭也は、美由希の台詞を途中で遮る。

「でも、そういう所も全部含めて俺は美由希の事が・・・・・・好きだ・・・」

言った方も、言われた方も顔を真っ赤にして押し黙る。どちらも何も言わないまま、時間だけが過ぎて行く。
やがて、美由希が口を開く。

「私ね・・・ずっと前から恭ちゃんの事、好きだったんだよ。ずっと・・・・・・・・・」

「・・・・・・そうか。それは、気付かなかった・・・・・・」

「ふふふ、だろうね。その方が恭ちゃんらしいと言えば、らしいし。・・・・・・恭ちゃんは、いつから・・・その、私のこと?」

「・・・お前が鍛練で俺のいう事を聞かず、無茶をした事があっただろう。・・・・・・あの時ぐらいからだ。
 俺の中に妹としてでもなく、弟子としてでもない、ただ一人の女性としての美由希がいた・・・・・・・・・」

「うそっ、あの時なの。だったら、何でもっと早く言ってくれなかったの!そしたら、私もこんなに悩まなかったのに・・・」

「う・・・すまない。ただ、今にして思えば、あの時だったという話で・・・。あの時はまだ、俺自身もよく判っていなかったんだ」

「はぁ〜。自分の気持ちにすら気付かないなんて、幾らなんでも鈍感すぎるよ〜〜」

「返す言葉も無い」

「でも、今こうしていられるんだから、もう良いよ。ちょっとだけ遠回りしたけど、今、一番望んだ場所にいるから・・・充分だよ」

「まだだ美由希」

「えっ」

「これから先も美由希と共に行く事を、俺は望むから・・・・・・だからまだ、充分なんかじゃない」

「恭ちゃん・・・・・・」

「・・・美由希・・・これからも・・・・・・ずっと一緒にいてくれ・・・・・・」

「・・・・・・うん、もちろんだよ・・・・・・」

最高の笑顔を浮べながら、そう答える美由希を月明かりがさらに幻想的に創りだす。
そんな美由希に見惚れながら、恭也は美由希を抱き寄せ、その耳元に囁く。

「とっても綺麗だ・・・・・・美由希・・・・・・・・・」

恐る恐るといった感じで、美由希も恭也の背中に手を回し、お互いに抱きしめ合ったまま見詰め合う。
二人は微笑むとその距離を徐々に縮めていき、キスを交わす。

それは今までの時間を取り戻すかのように長く、お互いの想いを相手に伝えるかのように深く・・・・・・・・・

   そして・・・・・・これからもずっと一緒にいるという誓い・・・・・・・・・





<Fin.>



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<あとがき>

浩  「Present for KyouyaU、どうだったでしょうか」

美姫 「Tとの違いは、美由希がフォーチュンリングを知っていたか、どうかね」

浩  「そう。そして、恭也と美由希の会話の進み方を柔らかい感じに」

美姫 「え、そうなの!」

浩  「いや、俺も何て言えばいいのかよく判らんのだが・・・(汗)兎に角、そんな感じという事で」

美姫 「いや、という事ってアンタ。ま、でもその辺は、読んでもらった人に比べてもらうと言う事で。
    所で、今回もフィアッセの出番はなしなのね」

浩  「ま、まあ一応、美由希の師弟END後の話だからな。フィアッセはツアー中だ」

美姫 「でも、フィアッセならプレゼントだけでも送ってきそうな気がするんだけど」

浩  「えーと、時差で翌日に届いたというのは?」

美姫 「なるほど。で、中身は?」

浩  「・・・・・・」

美姫 「考えていなかったと」

浩  「い、いやちょっと待て。考えていないなんて事ある訳ないじゃないか。そ、そう歌だ。フィアッセといったら、やっぱり歌だろ」

美姫 「歌を送るって事はCD?」

浩  「そうだ!フィアッセ、ティオレのクリステラ親子による誕生日の歌。
    しかも、クリステラソングスクールの生徒全員によるバックコーラス!」

美姫 「おお、かなり豪華なCDね」

浩  「なんせ世界に一枚しかないからな。しかも、全員のサイン付きの上に、2曲目には子守唄が」

美姫 「何故、子守唄?」

浩  「意味は無い!あえて言うなら、なんとなくだ」

美姫 「・・・・・・久々に逝っとく?」

浩  「は、ははは、遠慮しときます」

美姫 「遠慮しなくても良いわよ。離空紅流 鳳凰煉獄っっ!!」

浩  「うぎゃみぇみゃぎゃーーーーーーーーーーー(バタッ)」

美姫 「ふぅー。やっぱり、たまには身体を動かさないとね。さて、今回は、ここらへんで。
    後、感想や意見をBBSかメールで下されば、浩が喜びます。じゃあ、ばいばーい」



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