『込められし思い』
「あの・・・ここに高町恭也さんと仰る方はいらっしゃいますか?」
久々の休みに娘のなのはと買い物に出かけ、帰宅するなり、自宅の前に佇んでいた女性に声を掛けられる。
桃子にそう訊ねてきたのは、少し落ち着いた感じのする女性で、道行く人に聞けば、全員が美人と答えるような容姿をしていた。
無造作に背中に流されている黒髪は艶やかで、光をきらきらと反射させ綺麗に輝き、
その目元は涼やかで落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そして、なによりもその全体に纏う雰囲気がどことなく桃子には見覚えがあるような感じがした。
「ええ、恭也の家はここですけど・・・。失礼ですけど、あなたは」
「あ、申し遅れました。私、水翠 冬桜(みすい ゆき)と申します。以後、お見知り置きを」
「あ、はい。ご丁寧にどうも。私は恭也の母で桃子と言います。こっちは・・・」
「あ、はい、妹のなのはです」
家の前で頭を下げながら、お互いに挨拶を交わす。
「とりあえず、こんな所で立ち話もなんですので、家の中にどうぞ」
「ありがとうございます」
冬桜と名乗った女性はもう一度頭を下げ、礼を言うと傍らに置いてあった大き目の鞄を手に持ち、桃子の後へと続く。
そのままリビングへと案内された冬桜は、そこで家にいた住人やその友達と挨拶を交わす。
ちなみに家にいたメンバーは、晶、レン、美由希、那美、フィアッセである。
この五人は先程、挨拶をした後、部屋の片隅に集まって何やらこそこそと小声で話し合っている。
「恭ちゃんの知り合いって言ってるけど、私は見たことない」
「俺も知らないです」
「あの、全国を武者修行している時に知り合ったっていうのはないんですか?」
「ほんなら、なんであの人はここまで来れたんでしょうか?」
「恭也が住所を教えたって事よね」
「でも、お師匠が自分からそんな事をするとは思えへんのですけど」
「でもでも、知り合った人の娘さんだったとかっていうのは?恭ちゃん、そう言う事には鈍いから、何も気にせず教えたのかも」
「それはあるかも知れませんね」
「どっちにしても・・・」
「ああ、フィアッセさんの言いたい事は判ります」
「ああ、おサルと意見が合うのは嫌やが、うちも判るわ」
「うん・・・私も」
「私も同じ意見だと・・・」
全員の視線がソファーに座っている冬桜へと向う。
『恭也(さん)(恭ちゃん)(師匠)(お師匠)と、どんな関係なの!』
そんな視線に気付いていないのか、冬桜はのほほんとした感じで、隣に座っているなのはと何やら楽しそうに話をしていたりする。
そこへ、お茶を淹れた桃子がやって来る。
(うわっ、な、なにこの殺伐とした空気は・・・・・・)
「ゆ、冬桜さん。もうすぐ恭也が戻ってくると思いますけど、それまでこれでもどうぞ」
「あ、ありがとうございます。では、遠慮なく頂かせてもらいます」
軽くお辞儀をして、桃子の持って来たクッキーを一口齧る。
「あら。とっても美味しいです」
「本当!そう言ってもらえるのが、料理人にとっては一番嬉しいわ」
「という事は、これは桃子様がお作りになられたんですか?」
「そうよ。遠慮しないで、どんどん食べてね」
「はい、頂きます」
「うん。やっぱりおかーさんの作るお菓子は美味しい」
「ありがとう、なのは。本当、恭也にもなのはの半分でいいから素直さがあったらね〜」
「あ、あのー。恭也さんは素直ではないのですか?」
「あはははは。素直じゃないというより、恥ずかしがり屋なのよね。あ、でもやっぱり素直でもないか。
おまけに、無表情で何を考えてるのか判りにくいし、朴念仁で、ものすごく鈍感だし・・・。他に・・・・・・」
「お、おかーさん・・・。それぐらいにしといた方が良いと思うけど・・・」
「何を言ってるのよ、なのは。まだ言い足りないわよ。大体、あの子は・・・」
不自然な態度を取るなのはを不審に思い、その視線を辿り、自分の背後──リビングの出入り口──を振り返る。
すると、そこまで饒舌に話していた桃子が突然、口を閉ざす。
「どうした、高町母。続きはいいのか?言い足りないのだろう。何も遠慮する事はないぞ」
リビングの入り口に立つ恭也とその後ろで苦笑いを浮かべる忍。
「あ、あんた、いつからいたの?」
「そうだな・・・・・・無表情で、という辺りからだが。それが?」
「は、ははははは・・・・・・。帰ってきたなら、ただいまぐらい言いなさいよ」
「言ったはずだが。話に夢中で気がつかなかったのでは?何やら楽しそうに話していたからな」
「っぐ。そ、そうだ!それよりも、恭也にお客さんよ」
「俺にか?」
「そうよ。こちらが・・・」
桃子が冬桜を紹介しようと振り返った時、その視界の隅を何かの影が通り過ぎる。
振り返った桃子の目に映ったのは、ソファーに座るなのは一人・・・。
その桃子の背後では、冬桜が恭也の目の前に立ち、話をしていた。
「あなたが高町恭也様ですか」
「ああ、そうだが・・・。君は?」
「あ、はい。私は冬桜・・・・・・、水翠 冬桜です」
「水翠さん?」
「はい。お会いしたかったです」
冬桜はそのまま恭也の胸に飛び込み、そのまま抱きつく。
突然のことに戸惑いながらも、払いのける訳にも行かず、恭也はそのまま抱き止める。
その時、その場でそれを見ていた女性達から大声が上がった。
『ああ〜〜〜』
つづく
<あとがき>
浩 「うーーーーん」
美姫 「どうしたのよ、いきなり」
浩 「いや、書かないといけないSSがい〜〜〜〜ぱいあるんだけど、全然進まない(泣)」
美姫 「それは、ただ単純に浩の力不足では?」
浩 「その言葉はグサッとくるぞ」
美姫 「じゃあ、違うの?」
浩 「いえ、違いません。俺が全て悪いです」
美姫 「判ったんなら、さっさと書きなさい」
浩 「はい・・・・・・・・・シクシクシク(大泣)」
美姫 「えぇぇーーい。うっとしい!泣く暇があったら、手を動かせ!」
浩 「鬼!悪魔!」
美姫 「ふーん。そういう事を言う訳・・・・・・」
浩 「えっ?い、いや、その・・・う、嘘です。冗談です。
だ、だから、その両手に握っている刀を離してほしいなぁ〜とか、思うんですけど・・・。ど、どうでしょう?」
美姫 「イ・ヤ(ハート)」
浩 「そ、そんなに可愛く言われても・・・・(既に逃げ腰状態)」
美姫 「離空紅流 奥義! 紅蓮神凪(ぐれんかんなぎ)!!」
浩 「こ、こんな事で奥義を出すのか〜〜。グゲギャァァァァ〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(シーン)
美姫 「はははははっ(ちょっとやり過ぎたかも・・・・・・)ど、どうやら浩は、次の作品に取り掛かったみたいなので、今回はこのへんで!
また、次回、会う事が出来れば、会いましょう」