『恭也の小さいって事は……満更でもないね』






「はい、恭也。あ〜ん(ハート)」

フィアッセは手でパンを一口サイズに千切ると、恭也の口へとその指を持っていく。

「いい。自分で食べられる」

「いいじゃない。この部屋には私と恭也しかいないんだから。それとも、ダメ?」

フィアッセはこうすると恭也が無碍に出来ないと知りつつ、瞳を潤ませ恭也の顔を覗き込むように見上げる。
案の定、恭也は言葉に詰まり、観念したのか口を開く。

「美味しい?」

「ああ」

嬉しそうに尋ねてくるフィアッセに恭也はぶっきらぼうに答えるが、その顔は耳まで真っ赤になっていた。

「じゃあ、私にも食べさせて」

「………あ、あーん」

今度は恭也がフィアッセの口へとパンを運ぶ。

「うん♪美味しい(ハート)やっぱり、恭也に食べさせてもらうと、一層美味しく感じるよ♪」

「そうか」

恭也は照れたように鼻の頭を掻きながら、そう呟く。
傍から見ると、新婚ホヤホヤの夫婦の様な甘ったるい雰囲気が二人を包んでいるように見える。
そんな雰囲気を壊すかのように、声が部屋に響く。

「フィアッセ!何をしてるのよ!」

突然、頭上から聞こえてきた大声に、二人は耳を塞ぎ、顔を顰める。

「美由希、五月蝿いよ。もっと静かにしてよ。折角、気持ちのいい朝だったのに〜」

「何、言ってるのよ。きょ、恭ちゃんに、ご飯を食べさすなんて。それもゆ、指で……。
 おまけに、恭ちゃんからも食べさせてもらうなんて、そんな羨まし……じゃなかった、迷惑でしょ」

「やだ〜、見てたの美由希。この部屋には私と恭也しかいないと思ってたのに〜」

両手を頬に当て、身体をクネクネと左右に振り、照れた様子で言うが、その顔には笑みが浮かんでいる。
それを見て、美由希のこめかみに青筋が浮かぶ。

「見てた、じゃなくて、見せたの間違いでしょう!」

美由希がテーブルを拳で叩く。
その表紙に、恭也たちの座った椅子が激しく揺れる。

「きゃっ」

「おっと」

その拍子に転びそうになったフィアッセを恭也が支え、それがまた、美由希の怒りに拍車をかける。
再び、振り上げ打ち降ろそうとする美由希の手を左右から晶、レンが止める。

「美由希ちゃん、やばいって。そんなに本気で降ろしたら」

「そやで、美由希ちゃん。流石に、それはお師匠たちが潰れてしまう」

「だって、だって」

美由希は駄々っ子のように首を嫌々と振る。

「「美由希ちゃん、落ち着いて!」」

「いやだ〜、晶たちもみてたのね〜」

「見てたも、何も……なあ」

「ああ。これは見えるよな……」

晶とレンの視線の先では、恥ずかしそうにしているフィアッセがはっきりと見えていた。
恭也とフィアッセのいる部屋には、壁が無かった。いや、あるにはあるのだが、それは四方を塞いでいるのではなく、
三方のみを塞いでおり、美由希たちのいる方は壁がないのである。
その為、先程の行為は全て美由希から見えていたのである。
では、何故壁が三方しか塞がっていないかと言うと、恭也たちのいる部屋が玩具の家の一室だからである。
二人がそんな部屋にいる事が出来るのは、恭也とフィアッセが15センチ程の大きさに縮んでいるからである。
先日の一件から元に戻った恭也だったが、その後、フィアッセが同じ状態になった。
いや、させられたのである。では、何故恭也も縮んでいるのかと言えば……。
真相は至って簡単だった。
縮んだフィアッセの世話をフィアッセたってのお願いにより、恭也がしていた。
そして、風呂にも恭也が入れていたのである。
これは、断わるとフィアッセが泣く事(どうやら、縮んだ時に性格が甘えたの泣きむしになったらしい)と、
フィアッセが縮んだ事もあり、恭也がそれ程意識せずに済んだからである。
だが、これが三人の魔女に嫉妬と言う名の炎を燃え上がらせる事になるとは、この時の恭也には知る術もなく。
そして、例の物を食べさされ、恭也もまた、縮んでしまったのである。
もっとも、こんな状態にされた今でも、それが嫉妬からだとは気付いていないが。
まあ、そんなこんなで現在に至るという訳である。
ちなみに、忍、那美の2名はフィアッセがこの姿になった時、フィアッセの解毒剤を作って貰うため、
連絡したさくらと薫の手によって、前以上にこってりと絞られた。
そして、その数日後、また恭也が小さくなったとフィリスから連絡を受けた二人によって、
いずこかへと連れ去られて以来、姿を見ていない。
あの後、平謝りに謝るさくらと薫にそれとなく聞いてみたが、その時に見せた二人の笑みを見て、恭也はそれ以上聞くのをやめた。

「それよりも、お前たち時間は良いのか?」

「「「あっ」」」

三人は時計を見ると、片付けもそこそこに飛び出して行く。
美由希は途中、一度振り返り、フィアッセに向って指を突きつけながら、

「フィアッセ、恭ちゃんに変な事したら、許さないからね」

とだけ言い放ち、二人の後を追うように出て行った。
ちなみに、なのはと桃子は既にいないのはお約束である。
全員が出かけたのを確認すると、フィアッセは恭也に抱きつく。

「う〜ん、恭也〜♪」

「フィ、フィアッセ。離してくれると、嬉しいんだが……」

「いや♪だって、前に恭也が小さくなって元に戻った時に言ったじゃない。また今度って」

「あれは俺がフィアッセを抱き締めるという話だったと思うんだが」

言ってから、恭也はしまったという顔をする。
それを聞いたフィアッセの顔が、してやったりと言う顔だったからだ。

「そうだったよね。じゃあ、お願い、恭也♪」

フィアッセは恭也から離れると、目の前に立つ。

「いや、今のは……」

「私、信じてるよ。恭也は約束を守ってくれるって」

「………」

そう言われ、恭也はそれ以上何も言えなくなってしまう。
やがて、おずおずと壊れ物を扱うかのように慎重にフィアッセの背中に腕を回し、そっと抱き寄せる。

「これで、良いか?」

「ダメだよ。もっと、もっと一杯抱きしめてくれなきゃ」

「……………………。
 ………………………。
 …………………………。
 まだか?」

「もう。こういう時は、黙っているもんだよ」

「すまない」

「仕方がないな〜」

フィアッセは笑いながらそう言うと、自らの腕を恭也の背に回し、抱きしめる。

「本当に、恭也ってば、ニブチンなんだから。鈍感で朴念仁で無愛想のくせに、誰彼構わず優しくして……」

「フィアッセ、こういう時は黙っているもんなのでは?」

「私は良いのよ」

「それは理不尽だぞ」

「良いったら、良いの!それとも、私の口を塞ぐ?でも、それは無理よね〜。
 だって、恭也の腕は今、私を抱きしめていないといけないから………んんっ、んっ……はぁん…ふぅ…」

恭也は唇でフィアッセの口を塞ぐ。
やがて、恭也はゆっくりと唇を離すと、フィアッセから熱い吐息が零れ出る。

「ハァァァ………恭也〜」

フィアッセが甘く、それでいて熱い声で恭也の名前を呼ぶ。
恭也は力の抜けてしまったフィアッセの膝裏と脇下に手を掛け、俗に言うお姫様だっこで抱きかかえる。

「フィアッセ……」

「恭也……」

見詰め合うと、どちらともなく顔を近づけていき………キスをする。
そして、恭也はフィアッセを抱きかかえたまま階段を上り、ここ最近、寝室として使っている部屋へと入って行った。
ベッドの上にフィアッセをそっと横たえると、恭也はフィアッセを跨ぐようにベッドに上がる。
そして、フィアッセの頬を一度優しく撫でると、

「フィアッセ……」

どこか熱い眼差しでフィアッセの名を呼ぶ。
呼ばれたフィアッセは、未だ夢心地のまま、潤んだ瞳で恭也を見詰め、コクンと一つ頷く。
恭也は頬に触れていた手を、ゆっくりと数回動かす。
それに反応するかのように、フィアッセはびくりと身体を振るわせるが、
それは恐怖からではなく、これから起こる事への期待であった。
その証拠に、抵抗はせず、恭也に身を任せている。
それに対し、恭也は触れた頬を優しく撫ぜ、そっと指を滑り落としていく。
やがて、指が頤に触れると、そっと上を向かせ口付けを交わす。
何度か啄ばむように、フィアッセの唇を貪ると、ゆっくりと頬から首へと撫でるように移動し始める。
それに伴うように、フィアッセの口から熱い吐息が漏れる。
恭也は手をそっとフィアッセの頂きへと…………



【なのは】
「ピンポンパンポ〜ン。突然ですが、臨時ニュースの時間です」

【美姫】
「はい、という訳で、今入って来たニュースをお知らせします」

【なのは】
「馬鹿な事ばかりしていた氷瀬浩さんが、何者かに襲われるという事件が起こりました」

【美姫】
「本当に怖い世の中よね〜」

【なのは】
「浩さんは病院に運ばれ、何とか一命を取り戻したそうです」

【美姫】
「ちっ」

【なのは】
「しかし、まだ、意識ははっきりしておらず、うわ言のように、オレンジは嫌と繰り返しています。
県警では、このオレンジを元に、加害者を探しているみたいですが、まだ何の手掛かりも見つかっていません」

【美姫】
「後で、捜査を止めさせないとね」

【なのは】
「尚、浩さんを担当した医師によりますと、信じられない回復力で、意識さえ戻れば、今日には退院できるそうです」

【美姫】
「やっぱり、止めが必要だったわね」

【なのは】
「以上、臨時ニュースでした」

【なのは&美姫】
「では、引き続き本編をお楽しみ下さい」



「はぁ〜」

フィアッセはまだ、どこか気だるそうに息を吐く。
それを見て恭也は、

「大丈夫か?フィアッセ」

「うん、大丈夫だよ。でも、恭也のエッチ」

「うっ。あ、あれは……」

「私が何度もやめてって言ったのに……」

「でも、フィアッセも後の方では、喜んでいたじゃないか」

「///(真っ赤)ば、バカバカバカ」

フィアッセは恭也の背中をぽかぽかと殴る。
が、それは本気で殴っているというよりも、じゃれていると言った感じである。
恭也もそれが分かっているので、特に何も言わず、ただ笑みを浮かべているだけである。
それを見たフィアッセは、

「もう、何笑ってるのよ!恭也のスケベ、ケダモノ!」

「なっ、ちょっと待て。ケダモノとは何だ」

「だって、あんな格好で……」

「うっ。で、でも、フィアッセも悪い」

「何で私が」

「あんな可愛い顔を見せられ、その上、あんな可愛い声を聞いたら……」

「うぅぅぅ。あ、あれは忘れてよ」

「どうしようかな」

「うぅぅ。恭也の意地悪」

フィアッセは頬をプクーと膨らませると、布団に潜り込み、恭也に背を向ける。

「フィアッセ?その……俺が悪かった。つい、からかい過ぎた」

恭也は布団から、少しはみ出しているフィアッセの髪を軽く撫でながら謝る。
その声に、フィアッセは目だけ布団から出し、恭也の顔を覗き込む。

「本当に反省してる?」

「ああ」

その仕草の可愛さにくらくらしながらも、恭也はしっかりと答える。

「じゃあ、キスしてくれたら許してあげる」

「お安い御用さ」

恭也はそう言って笑うと、フィアッセにキスをする。

「んっっ……はぁ〜、恭也〜♪」

フィアッセは恭也に首に手を回し、抱きつく。

「フィアッセ、そろそろ服を着ないと」

「何で?」

「いや、その………」

言い淀む恭也の身体の変化に気付き、フィアッセは顔を真っ赤に染める。

「も、もう。あんなにしたのに」

「い、いや、これは……」

「えっち」

「ぐっ」

「スケベ」

「………」

「恭也ってば、やらしい〜」

「フィアッセが魅力的なのが悪いんだ。スケベで結構。こうなったら、もう一回する」

「え、え、嘘っ!私、もうヘトヘトで……」

「聞こえない」

「ちょ、……んっ……んんっ。あ、はぁっ、ん……。きょ、恭也……」

フィアッセの潤み始めた瞳を見ながら、恭也は尋ねる。

「フィアッセが嫌なら、俺は何もしないよ」

そう言うと、フィアッセから離れる。

「あっ」

恭也が離れて行くのを寂しそう見詰め、思わず手を伸ばし、恭也の腕を掴む。

「どうかしたのか?フィアッセ」

恭也は分かっている癖にわざとそう尋ねる。
フィアッセは、半分泣き出しそうになりながら、

「分かってるくせに、意地悪だよ恭也」

「言っている意味が良く分からないな?」

「うぅぅ」

「フィアッセはどうして欲しいんだ?」

「そ、それは……。きょ、恭也がしたいんだったら、良いよ」

「なら、やめておくか。俺はフィアッセに無理をさせてまで、したいとは思わないからな」

「うぅ………意地悪。………………お願い…………シテ

フィアッセが消え入りそうなぐらい小さな声で呟くと、恭也は唇の端を持ち上げ、にやりと笑う。

「そこまで言うなら………」

恭也はフィアッセを押し倒しながら、覆い被さっていった。







「うぅぅぅ。腰が痛い……」

「はぁー、流石に疲れた」

恭也はそう言いながらも、どこか満ち足りた表情をしていた。

「恭也って、意外と鬼畜だね」

「…酷い言われようだな」

「否定する権利はないわよ」

「………でも、本当にフィアッセが嫌がる事なら、俺はしない」

「うぅー、そんな言い方はずるいよ」

可愛く拗ねて見せるフィアッセに笑いながら、

「すまん、悪かった」

頬に軽く口付けをする。

「そろそろ、昼だな」

「そうだね。もうすぐしたら、桃子が帰ってくるよ」

「じゃあ、服を着ないとな」

言われて、まだ自分達が裸だった事を思い出し、顔を赤くさせる。
恭也は既に、下を穿き終え服の袖に腕を通していた。
フィアッセも恭也に背を向け、下着を身に着けていく。

「うぅ〜、出来ればシャワーを浴びたい……」

「仕方がないだろ。今回は諦めろ。
 どっちにしろ、ここにはシャワーは付いてないし、家の風呂を使おうにも、この体じゃ無理だしな」

「分かってるよ〜」

フィアッセは服に手を通した状態で、背中に視線を感じ、振り向く。
そこにはベッドに腰掛けた恭也がフィアッセをじっと見ていた。
途端にフィアッセの顔が染まり、

「恭也、恥ずかしいから見ないでよ」

と、抗議の声を上げる。
恭也は、それを不思議そうな顔で見ながら、

「何を今更恥ずかしがってるんだ?」

「………分かってて言ってるでしょ」

「………」

じと目で睨んでくるフィアッセの問いに無言で答えるが、それは肯定を意味していた。

「……………」

「……………」

「……………」

「……すまない」

無言で睨んでくるフィアッセに恭也の方が折れる。

「もう、恭也、何か性格が少し変わってるよ。意地悪になってる……」

「そんな事はないと思うんだが……。それとも、こんな俺は嫌いか?」

「うぅぅ、すぐにそんな言い方するなんて、卑怯だよ」

「俺は意地悪らしいからな」

「うぅ〜。兎に角、良いって言うまで後ろを向いててよ」

「分かった」

恭也は素直に後ろを向き、それを確かめるとフィアッセは着替え始める。
全て着終えた後、フィアッセは恭也に声をかける。

「もう、良いよ」

「ああ。少し残念だったな」

「まだ、そんな事を言うのは、この口かしら?」

「冗談だ」

フィアッセが伸ばしてきた手を避けながら、恭也は言う。

「む〜」

フィアッセは両手を軽く握ると、恭也の胸をぽかぽかと叩く。

「こら、フィアッセやめろ」

痛くも何ともないのだが、恭也は一応止めようとする。
が、フィアッセは聞かずに、手を動かし続ける。

「む〜む〜む〜」

はっきり言ってじゃれている風にしか見えないが、それでも恭也はフィアッセの手を掴み、攻撃を止めさせる。

「ったく」

「む〜」

「フィアッセも性格が変わっているぞ」

「む〜、そんな事ないもん」

膨れてみせるフィアッセを見て、恭也は心の中で呟く。

(いや、充分あるって。でも、こんなフィアッセも可愛いな)

そんな事を考えているうちに、ついつい顔に出てしまったのか、恭也はそっと笑みを浮かべていた。
それを見たフィアッセが更に拗ねる。

「む〜、また何か変な事考えてたでしょ」

「そんな事考えてないって」

「嘘よ。だって、笑ってたもん」

「本当に考えてないって」

「本当に?」

「ああ」

「じゃあ、何を考えてたのよ。変な事じゃないんだったら、言えるよね」

フィアッセはニッコリと笑みを浮かべ、恭也に尋ねる。
恭也は一瞬言葉に詰まり、顔を背けながら、

「本当に何も考えてない」

「嘘はよくないよ」

フィアッセは恭也の顔を挟むと、自分の方に向き直らせ、真っ直ぐに目を見る。
恭也は逆にフィアッセから目を逸らそうとする。

「真っ直ぐ私の目を見て、本当に何も考えていなかった」

「…………降参」

恭也は大人しく両手を上げてみせる。

「で、何を考えてたの?」

「言わなきゃ駄目か?」

「私は聞きたいな。変な事じゃないんでしょ?」

「ああ。ただ、その…………フィアッセが可愛いなと

「えっ?よく聞こえなかった」

「二度は言わない」

「何でよ〜」

「聞こえてただろ」

「は、はははは。で、でも、もう一度、今度ははっきりと聞きたいんだよ。駄目?」

フィアッセは潤んだ瞳で恭也を見詰める。
フィアッセにそんな顔をされた恭也は、逆らう事が出来ず、ゆっくりとだが口を開く。

「フィアッセは、綺麗だし可愛いよ」

真っ赤になりながらも、はっきりと口に出す。
それを聞いたフィアッセは花が綻んだように満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう、恭也」

「別に礼を言われる事ではない。本当の事を言っただけだ」

恭也はぶっきらぼうに答えるが、フィアッセは笑みを浮かべたまま、恭也の背に手を回す。

「ふふふふ」

恭也もおずおずとフィアッセを抱きしめ、耳元で囁く。

「フィアッセ、愛してる」

「私も恭也を愛してるよ」

そして、二人の唇が重なる。

「さて、そろそろかーさんが帰ってくるだろう」

「そうだね。お腹減ったね」

二人は手を繋ぎ、部屋を出ようとした所で、視線に気付き、斜め上を見る。
そこには、こちらを面白そうに見ている桃子がいた。
桃子は二人と目が合うと、気まずそうな顔をする。

「かーさん、一体いつからそこに?」

「えーと、確か……『まだ、そんな事を言うのは、この口かしら?』ぐらいから、かな」

桃子がそう言った瞬間、二人の顔は茹蛸の様に真っ赤になる。

「な、何故、もっと早く声を掛けない」

「だって、何か邪魔したら悪いかな〜、って思って」

「も、桃子〜。そんな気使いするなら、何でそんな私たちから見つけ難い所から覗いているのよ〜」

フィアッセの言う通り、桃子は壁となっている方に体を置き、上から覗き込むような形で二人を見ている。

「あ、あはははは。だって、邪魔したら悪いとは思ったけど、やっぱり息子と娘の成長を見守りたいという親心が……」

「それは単に好奇心と言わないか?」

「そうとも言うわね〜。ま、まあ良いじゃない、ね、ね」

「う〜、恥ずかしいよ〜」

「あはははは。まあまあ。それよりもすぐに昼食の準備をするわね」

「あ、桃子。この事は美由希たちには……」

「何で?別に良いじゃない」

「で、でも、あの三人に知られたら、今度はどんな事になるか」

フィアッセの言葉を受け、桃子の頭の中にとんでもない想像が渦巻く。

「あ、あはははははは。そ、そうね、黙っておきましょう」

「そうだな。その方が助かる」

「あら、恭也もちょっとは自覚したの?」

「何の事だ?俺はただ、かーさんがこの事を話さない事を言ってるんだが。
 まあ、あの三人がまた何かしでかす可能性もない訳ではないし、用心は必要だがな」

「あ、あはははは。と、とりあえず、食事の用意をするわ」

「う、うん、お願いね桃子」

「任せておいて。でも、フィアッセも大変ね〜」

「まあね。本当に大変よ。恭也本人もだけど、周りの子たちもね」

「でも、その割には嬉しそうだけど?」

「それはそうよ♪だって、どんなに大変でも、好きな人と一緒にいられるんだもん♪」

フィアッセはそう言うと、笑いながら恭也の腕と組んで見せる。
その横で、恭也は話について行けず、一人首を傾げていたが。

「はいはい。ご馳走様」

桃子がキッチンの方へと消えていくと、恭也とフィアッセは微笑み合う。

「じゃあ、俺たちは出来るまで待っているか」

「そうだね」

手を繋ぎながら、二人は部屋を移る。

「美由希たちの所為で、こんな事になったけど、少しは感謝かな?」

「何故だ?」

「だって、こうして恭也を独り占めできるんだもん♪」

そう言うと、フィアッセは本当に幸せそうな笑みを浮かべた。





おわり




<あとがき>

ナハトさんの19万ヒットきりリク!
美姫 「前回のきりリクの続きよね」
そうです。まさか、続きを書くことになろうとは、思わなかったけど。
美姫 「前作で、どうして小さくなったかを忘れていたもんね」
幾ら何でも、んな訳ないだろうがっ。
美姫 「やーねー、冗談じゃない」
はいはい。
美姫 「で、今回はコメディーっぽくないような気が……」
うむ。俺もそう思う。もう少し、ドタバタさせた方が良かったかも。
美姫 「反省しなさい!」
はいぃぃぃ。
美姫 「そんなこんなで、こんな感じに仕上がりました〜」
では、この辺で。
美姫 「バイバーイ」





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