『リリカルIF StrikerS 〜逆転兄妹〜 ダイジェスト版』






暫しの沈黙を破り、あの二人が帰ってくる――

「た、高町空曹長が!」

それは現場からのそんな一報から始まった事件。

「恭也くん、もう飛べないかもしれないって……」

「傍にいたのに、あたしは守ってやれなかった」

医務室で眠る恭也の横で、同じ年ぐらいの少女――ヴィータが悔し涙さえ見せて拳を握り締める。
それは半日以上も前のこと。
突如現れた謎の機械が遺跡で発見され、偶々近くにいた恭也たちが現場へと向かったのだ。
何故か魔法を打ち消す能力を持った機械を前に、恭也もヴィータも奮戦した。
だが、疲労していた恭也はいつもならば避ける事ができる攻撃を避けきれず……。
真っ白な、少し濁った雪に広がる赤い染み。
恭也の身体から止まる事なく流れ出る血に、急速に冷えていく身体。
その身体を抱きながらただ叫ぶしか出来なかった無力な自分。
ひたすら自らを責めるヴィータ。
そんな医務室の扉が開き、来訪者が現れる。
その姿を見た瞬間、誰もが呼吸すら止める。
そんな周囲の様子など目に入っていないのか、入った来た女性、なのはは真っ直ぐに恭也へと向かう。

「恭也!」

だが、なのはの呼び掛けにいつものような声は、笑顔は返ってこない。
握った手を握り返してくる事もなく、暫く呆然としていたがゆっくりと立ち上がる。
ヴィータは既に自らの死さえも受け入れたのか、大人しくなのはの前に立ち、
これから起こる惨劇に覚悟を決めた目で見詰め返す。
それでも、それでもこれだけはと口から謝罪が零れる。

「すまねぇ、あたしが傍にいたのに……」

「……ここに来る前に現場の映像を見せてもらったわ。
 あなたは出来る限りの事はしていた。
 私が今一番許せないのは、数年前のちょっとした事件の事で犯罪者呼ばわりしてこき使う阿呆たち。
 激務の連続で疲れているはやてちゃんたちを、それでも使おうとするバカ共。
 そいつらの所為で、恭也は無理しちゃったんだものね」

なのはが掌を上に向けて胸の前に持ってくると、瞬時にその上に赤い宝石が現れる。

「レイジングハートも許せないでしょう」

【Yes,Boss】

「そうだよね。なら、やらないといけないよね。
 あははは、今日が管理局滅亡の日だね。邪魔する者は力尽くで排除するよ」

とても良い笑顔を見せるなのはに、誰も口を挟む事ができない。
ましてや、その進行を止めようとする者など、彼女を知る者の中にはいなかった。

――今、白い悪魔がその牙を剥く!

「こちら地上警護部隊! 本部、至急応援をお願いします!
 このままでは戦線が維持できな……うわっ、あ、ああああ、や、やめ、やめてく……うわぁぁぁぁぁっ!」

「どうしました! ブラボー1応答願います! ブラボー1!」

――その日、かつてない災厄が振り降りる。

地上本部を僅か数時間で半壊させた白い悪魔は次の標的を本局へと移す。
行く手を阻む魔導師たちを叩きのめし、ひたすらその足は迷う事なく一つ場所へと向かう。
とうとう人気のない場所まで辿り着くと、目の前に聳える扉を邪魔だとばかりに吹き飛ばす。

「何故ここが!」

薄暗い部屋に入るなり、そんな声が聞こえる。
だが、人の姿は何処にもなく、あるのは幾つものコードとそれに繋がる何に使われているのか分からない各種機械。
そして、くすんだ液体で満たされた大きなシリンダーと、その中に浮かぶ脳みそのみ。
その脳を前にしてなのはは冷めた眼差しで、

「ふーん、こんな脳だけの阿呆共の所為で私の恭也が怪我をしたんだ。
 くすくす。このシリンダー、皹が入ったらどうなるのかしら?
 試しにどれか一つだけ皹を入れてみようか♪」

一思いに壊すのではなく、徐々に壊れていくように細工して恐怖を味わわせようとするなのは。
勿論、それを黙って見ている事など出来ず、誰が発したのかは分からないが静止の声が上がる。

「ま、待て!」

「あれ? 今何か聞こえなかったような気がしたけれど……。
 きっと気のせいだよね。だって人にものを頼むようような言葉じゃなかったしね」

「……ま、待ってください」

「うん? 一体なにかな? 今から忙しいから少し黙ってて欲しいんだけれど」

「よ、要求は何だ。いや、何ですか」

「そうだね……」

こうして秘密の会議が繰り広げられ、
恭也が戦線へと復活した時には、その隣に特別恭也顧問という役職についたなのはの姿があったという。
こうして、本部、本局を壊滅寸前にまで追い込んだ事件は、公式文章としては何一つ残らず、
あの無限書庫にすら残らず、ただ一部の関係者の間でのみ伝わる幻の事件としてその幕を閉じたのである。



教導官として二人の少女の前に立つ恭也。
それをスバルは感激したように見詰め、二人は再会の言葉を交し合う。
その横で防御プログラム対策として生まれたリインフォースUがティアナの傷を治しながら話し掛ける。

「高町一等空尉の事を知っているですか」

「はい」

ティアナが恭也に関する事を言い並べていると、その前にリインフォースがやって来る。

「その通りだ。だが、恭也を語る上で外せないのはそのレアスキルだ。
 お前もそれだけはよく知っておくんだ。じゃないと、絶対に後悔する事になるだろう」

「レアスキル、ですか?」

「そうです。高町一等空尉のレアスキル、お姉ちゃん召還は最強にして最凶というのは有名なんですよ。
 まあ、ごく一部では、ですけれどね。はい、治療完了です」

「は、はぁ」

レアスキルという割にはあまりにもな名前に加え、
今までそんな名称のスキルさえ聞いた事のないティアナは疑問顔のままで曖昧に頷く。
この時、もっと詳しく聞いておくんだったと後に後悔する事になるのだが、今はまだその時ではない。



「そっかそっか。あなたがティアナなのね。うん、よろしくね。
 あははは、恭也の指導に従わなかったんだってね。一度、本当の恐怖っていうのを味わってみる?」

「……」

なのはの視線に、その纏う気迫に飲み込まれ、まるで蛇に睨まれた蛙のように身体を硬直させる。
そして、気が付いたときには何故か医務室の天井を見ていた。

「……つっ!」

両手腹部に痛みを感じつつも辛うじて上半身だけを起こしてみれば、やはりここは医務室で間違いなかった。
意識を取り戻したたティアナに気付き、シャマルが駆け寄って身体をチェックする。

「うん、もう大丈夫みたいね。とは言え、なのはさんの非殺傷能力はとっても優秀だものね。
 後には全く残らず、けれどもその時点ではとてつもない痛みを受ける。
 初めてなら気を失っても仕方ないわ」

シャマルの言葉を聞きながら、ティアナは気を失う前の事を思い出していた。
無謀な訓練と戦法を窘められ、それに対して喰って掛かったこと。
その後、恭也たちが任務で出掛け、シャーリが自分たちを呼びに来たが、それを遮って恭也の姉がやって来て、
鍛錬してあげると言うなり襲い掛かってきたのだ。
思い出して恐怖に震える身体を両腕で抱きしめる。
そこへシャマルの手伝いをしていたリインフォースがやって来る。

「だから言っただろう。よく知っておこないと後悔すると」

「……ブラコン、なんですね」

「本人曰くキョウコンだそうだがな。どちらにせよ、全てを押し通すだけの力を持っているからこそ厄介なんだ。
 現に恭也に出きるだけ怪我をさせないようにと努力し続け、
 結果として、提督まで上り詰めてしまった男がいるぐらいだ」

ティアナはその人に同情をし、今回の件を心に深く刻み込む。
決して忘れないようにと。
そして、それはスバルたちも同じだったらしく、揃って恐怖に身を竦め、
シャーリーによって今しがたまで恭也の過去が流されていたモニターのあった位置を虚ろに見詰めていたとか。



「機動六課設立にあたり後継人は三人。
 だが、噂では評議会と密談したという噂が」

「なに!? それは本当か!?」

地上本部の一室、そこで向かい合っている男女のうち男の方が声を荒げる。
対する女の方は至って冷静に返す。

「いえ、あくまでも噂です」

「評議会は私の味方をしてくれている。
 だとするのならば、その何者かは評議会の秘密を握り脅している可能性がある。
 それを掴み、その脅迫の材料をこちらが押さえたのなら六課をどうにかできるかもしれんな。
 何としてもその証拠と品を掴め!」

「ですが……」

「何をためらっておる! 査察などよりもそちらをメインにしろ。
 勿論、気取られないために査察で奴等の目をそちらへと引け。
 ああ、それとその噂で今分かっている事だけでも良いから報告しろ。
 せめてそれが誰かぐらいは分かっているのだろうオーリス」

「はい。あくまでも噂ですが、高町なのは……さん」

「高町なのは? 誰だそれは。どこに所属の魔導……いや、待て。
 もしかしなくても、あの高町なのは――さんか」

「はい。黒い天使を守護する白い悪魔と影で噂されている、あの高町なのはさんです」

呼び捨てからさん付けに変えた地上本部防衛長官レジアス中将に対し、オーリスも渋い顔で頷いてみせる。
暫く沈黙が横たわり、ようやくレジアス中将がその重くなった口を開く。

「あー、こほん。噂はあくまでも噂だ。そんな事に割く時間も人員もない。
 査察の方を進めろ」

「了解しました。とりあえず、分かっているだけですが六課の実働隊メンバーです」

「八神はやて部隊長に、高町恭也、フェイト・T・ハラウオンか」

「フォワードは全部新人で固められており――」

その後、二人は幾つかのやり取りをやり、最後にとレジアス中将が告げる。

「査察に関してだが、どんな小さな事も見逃すな。
 それと二人の隊長の周辺に関しては何があっても絶対に――」

「心得ています。絶対に手は出しません」

「分かっていれば良い」

なのはの弟である恭也は勿論のこと、恭也の周囲に近づく女性には容赦ないなのはが唯一の例外としてるフェイト。
彼女もまた妹のように可愛がられていると言うのは周知の事実である。
故にこその指示であり、受けるオーリスのほうもそれは心得ているとばかりに頷くのであった。



ナンバーズたちの罠に掛かり、一人で三人を相手にしなくなったティアナ。
奮闘するも足をやられ、とりあえずは隠れる事は成功する。

「やっぱりもう駄目なのかな。……でも恐怖は感じないわね。
 ううん、感じているけれどあの人とやり合うよりもましなんだわ。
 そうよ、さっさとここを脱出してちゃんと与えられた任務を成功させないと、きっとあの人がまた……」

ふーん、そんなに恭也の邪魔がしたいんだ〜。
今迫る命の危機に対する恐怖ではなく、聞こえてきた幻聴に対する恐怖に身体を震わせると、
気合を入れるように頬を叩く。

「大丈夫、あの人とやる事に比べたら。そうよね、クロスミラーージュ」

デバイスから返ってくる肯定の声にティアナは頷き返すとどう切り抜けるか考え始めるのであった。



白い悪魔が再び降り立つ……







おわり




<あとがき>

過去の雑記ネタ〜。
美姫 「特に加筆もなしね」
ああ。実際にSts編が始まるとかでもないし。
美姫 「こっちに移すのを忘れてたのね」
あ、あははは〜。
美姫 「笑って誤魔化すな!」
ぶべらっ!
美姫 「それじゃあ、この辺で〜」
ではでは。






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