『リリカル恭也&なのは』






第6話 「その頃のわたしは、なの」






「なのは! ジュエルシードの反応だ!」

部屋の机の上で丸まっていたユーノが顔を上げて叫ぶと、
ノートを開いて勉強をしていたなのはは手を止める。

「本当!? どこから」

「っ! 二つ同時に出てる」

「とりあえず近い方から行こう」

ユーノに答えながら外に出ようとして、なのははぴたりと動きを止める。

「どうしよう、お兄ちゃんに出たら駄目って言われたし」

「こっそりと窓から出るしかないか。ごめんね、なのは」

「ううん。手伝うって決めたのは、わたしだから」

なのはは首に掛けているレイジングハートを掌に持つと、そっと目を閉じる。
一瞬だけ光がなのはを包み込み、それが消えると白い防護服を身に纏い、
その手に変形したレイジングハートを携えたなのはの姿が現れる。
なのはは階下を注意にしながら、そっと窓を開けると足を掛ける。

【Flier fin】

なのはの靴から羽が生え、その身体を宙へと浮かび上がらせる。
ユーノが窓枠を蹴って肩へと着地すると、なのははその身を一旦、空高く浮遊させる。

「ユーノくん、どっち?」

「あっちだよ」

なのはの肩から、器用に前足で向かう先を指す。
その方向へと、なのはは飛んでいく。

「自分の住んでいる街を見下ろすのって、何か不思議」

眼下に広がる街を見下ろしながら、なのはは目的地である街の北側にあるオフィス街へと来ていた。
幾つものビルが立ち並ぶ中、一つのビルの屋上からなのは目掛けて光が伸びる。
それを咄嗟に避けるものの、バランスを崩して空中でぐるぐると回る。
休日という事もあり、あまり人が多くないとはいえ、それでも今の攻撃は流石にまずい。

「ユーノくん、この間の結界をお願い」

「うん、分かった」

ジュエルシードがあると思われるビルの向かいへと降り立つなのはの肩から飛び降りると、
ユーノは特定範囲を通常空間から切り取る封時結界を張る。

「これで、この辺り一体は大丈夫だよなのは」

「ありがとう」

そう答えたなのはへと、再び光が伸びてくる。
この距離での攻撃があるとは思っておらず、ユーノへと一瞬だけ注意を向けた瞬間だったため、
その攻撃に対する反応が遅れる。

【Protection】

膜がなのはの前に出現して光線を受け止めるが、衝撃までは消しきれずになのはは吹き飛ばされる。

「なのは! 大丈夫」

「あいたたた。うん、何とか」

レイジングハートへと礼を言うと、なのははジュエルシードのあるビルを見据える。

「姿が見えないけれど、あそこに居るのは間違いないよね」

「うん。さっきも、その前の攻撃もあそこからだったし」

なのははユーノを肩に乗せると、再び空へと舞い上がる。
そこを狙いすましたかのように光が飛んでくる。
それを旋回しながら躱し、なのははジュエルシードのあるだろうビルへと向かう。
辿り着くまでに、何発か同じ攻撃を繰り返されるが、それら全てを躱す。
ようやく件のビルの上へと辿り着いたなのはは、そこにジュエルシードの変化した姿を見つける。
半径20センチ足らずの丸い物体を。

「なに、あれ?」

「分からないけど、ジュエルシードなのは間違いないよ。なのは!」

「うん」

再び放たれた光を躱しながら、なのはは上昇する。
その間にレイジングハートが長距離用のシューティングモードへと変形している。
充分な距離を開けた所で静止すると、地上に居るジュエルシードを見詰める。
どうやら、動かないのか動けないのか、ジュエルシードはその場に留まったまま、またしても光を放つ。
それを回避しながら、ジュエルシードへとレイジングハートを向ける。

「いっくよー。ディバインバスター!」

なのはの薄桃色のなのはの魔力が先端に収束し、一気に放出される。
ジュエルシードも光線を放つが、なのはのディバインバスターに飲み込まれて掻き消える。
膨大な光が生まれ、辺りを閃光が満たす。
それもすぐに収まり、静寂が戻る中、なのははゆっくりと降り立つ。
宙に浮いて淡い光を放つジュエルシードを回収する。

【Receipt No]U】

ほっと胸を撫で下ろすなのはの足元から、小さな泣き声が聞こえてくる。
見ると、小鳥の雛がそこにいて、必死に泣き声を上げていた。

「もしかして、この子が」

「なのは、あそこ」

そっと雛を抱き上げるなのはへ、ユーノが屋上の出入り口の上部を指差す。
そこには、鳥の巣があり、恐らく雛はそこから落ちたのだろう。
なのはは魔法でそこまで浮かび上がると、雛をそっと巣へと戻してあげる。

「もう大丈夫だよ」

優しい笑みで雛へと語り掛けるなのは。
その姿を眩しそうにユーノが見詰めるが、不意に顔を上げる。

「もう一つあったジュエルシードの反応が消えた?」

「え、どういうこと?」

「分からない。移動して、探知範囲から外れたのか……。
 それとも、僕たち以外にもジュエルシードを集めている人がいるのかも……」

深刻に考え込むユーノの頭を、恭也がやってくれるみたいに安心させるように撫でる。
滅多にやってくれないが、本当になのはが落ち込んでいた時なんかに、ただ黙ってやってくれる恭也を真似て。

「それじゃあ、今日はもう帰ろう。
 もし、部屋に居ないって気付かれると大変だしね」

「うん、そうだね。ありがとう、なのは」

「どういたしまして」

こうして、再び空を飛んで帰ったなのはが、部屋へと辿り着いてからほんの数秒後、扉がノックされる。
思わず飛び上がりそうになりながら、なのはは扉を開ける。

「は〜い。お姉ちゃん、どうしたの?」

「うん、それがね。今、リスティさんから電話があったんだけれど、恭ちゃんが虎狩りをしたって」

「へっ!?」

美由希の言葉の意味が分からず、思わずぽかんとなるなのはに、美由希が苦笑しながら言う。

「あ、やっぱりそんな反応になるよね。
 さっき恭ちゃん、アルフの散歩に行ったんだけれどね。
 ほら、朝に言ってた逃げた虎。あれに出会ったみたいなんだ」

「そ、それは大変なんじゃ!」

「落ち着きなって、なのは」

慌てるなのはに再び苦笑をその顔に浮かべながら、美由希は安心させるように言う。

「どうも逆にその虎を伸しちゃったらしいのよ。
 で、その後始末をリスティさんに頼んだんだって。
 でも、出かける前に虎殺しがどうこう言ってたから、案外、あれって本気だったのかも……」

「え、それって……」

美由希の言葉に驚きつつも、その言葉を聞きとがめるなのはへ、美由希は一つ頷く。

「うん。恭ちゃんが虎狩りに行った可能性もあるって事」

その話をいつの間にか来ていたレンが聞いており、心配そうに美由希に尋ねる。

「なあ、美由希ちゃん。
 お師匠たちがやってる御神流に、そういう試験があるっていう可能性もあったりするん?
 じゃないと、わざわざお師匠がそんな事のために出掛けるとは思えんのですが」

「あはは〜。ないないって。幾ら何でも、そんなの。
 第一、日本にそうそう虎なんている訳ないんだし。
 そんな試験があったら、過去の御神の剣士はどうしてたのよ」

「ですな」

言って笑いあう二人の間で、なのはが何となく思った事を口にする。

「たまたまお兄ちゃんは虎だっただけで、熊とかそういった事であったりはしないのかな?」

「……熊。そう言えば、虎殺しの前に熊殺しについて聞かれたけど……」

美由希は笑顔のまま固まり、ふと今朝の会話を思い出す。
そのまま、まるで錆びたブリキの玩具の如く、今にもギギギと音が出そうな位ぎこちなく首を回す。

「えっと、そ、そんな事あるはずないよね。熊だって、そうそう居るはずも」

言いながらも、自分たちがよく春に修行する場所を少し奥へと行けば、熊が出る事を思い出す。
同じ事を思ったのか、レンとなのはは微妙に視線を逸らすのだった。

「あ、あはははは。な、なな、ない、ない。幾ら何でも、それはないよ、うん。
 って言うか、ないって言ってよ〜」

騒いでいる三人が気になったのか、やって来た晶へと簡単に恭也が虎殺しをした事を伝えると、
晶は純粋に感心する。
そんな四人の様子をじっと見詰めていた、恭也たちの鍛錬を見たことのないユーノは、
恭也さんっていったい、と頭を抱えて悩んでいた。
そこへ恭也が帰宅し、なのはたちは駆け下りるように階段を降りていくのだった。



 ∬ ∬ ∬



フローリング敷きの薄暗い部屋の中。
広いリビングにはしかし、殆ど家具がなく、中央に置かれた数少ない家具の一つ、
卓袱台の上に金色に輝く物体が乗っていた。
その前に座っていた、流れるような金髪を黒いリボンで頭の両側で二つに結び、
残りは流れるままにしている少女が不意に立ち上がる。
きつく結ばれた唇をそっと開き、卓袱台の上に乗っていた物体を手に取る。

「いくよ、バルディッシュ」

【YES SIR】

少女の声に応えるように、手にした物体――バルディッシュが鈍く輝き機械質な声を返してくる。
少女――フェイトがそれを胸の前に翳すようにすると、フェイトの身体を光が包み込む。
まるで、なのはがレイジングハートを使用する時みたいに。
光が消えると、そこには長い杖を手にし、黒いマントに身を包むフェイトの姿があった。
フェイトは無言でベランダへと繋がる大きな窓を開き、ベランダへと踏み出す。
空に浮かぶ星を見上げると、フェイトは夜空へと向かって跳躍する。
重力に引かれて落ちていくが、すぐにそれに逆らうように浮上を始める。
街の住人の殆どが寝静まった深夜の闇夜。
闇を斬り裂く雷のように、金色の髪をなびかせて夜を翔ける少女の胸中に飛来するものとは何なのか。
それは、誰にも分からない。





つづく、なの




<あとがき>

やっと登場のフェイト〜。
美姫 「って、本当にちょっとの出番ね」
まあまあ。今回はなのはメインだし。
美姫 「にしても、結構、ジュエルシードも集まったんじゃない?」
えっと、六個かな?
美姫 「そろそろ、フェイトと出会うのよね?」
ゴホゴホ。ズズ〜。
美姫 「って、何よ、その誤魔化し方は!」
あははは〜。
美姫 「はぁ。とりあえず、次回ね」
そういう事〜。
美姫 「それじゃあ、次回もリリカルマジカル頑張らせます!」
って、なんじゃそりゃ!







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