『リリカル恭也&なのは』






第42話 「いざ帰還」





恭也が那美に祟りの事を話している頃、アースラではクロノがリンディへと昨夜の件を報告していた。
クロノの報告を聞き終えると、リンディは予め用意していた急須に熱々の湯を入れ、
そこから緑茶を湯飲みへと注ぐと、更にそこへと砂糖を入れてかき混ぜる。
それを美味しそうに口に運び、一息吐いてからクロノへと視線を移す。
畳敷きのこの部屋は公務などで用いられる部屋ではなく、リンディ個人の私室であり、
リンディもどこか寛いだ雰囲気を醸し出していた。

「つまり、なのはさんのお兄さんも今回の件に関わっているのね」

「ええ。その関わり方もフェイト・テスタロッサの協力者としてです。
 ただ、詳しい事は知らないようでしたが。いや、それはフェイト・テスタロッサとその使い魔も同様か」

「全てはプレシア・テスタロッサに聞かないと駄目という事ね」

そっちの方はどうなっているのかとリンディは視線をクロノからその横、エイミィへと移す。

「昨日、クロノくんから報告を受けたので今日は朝からプレシアに関して色々と調べているんですが。
 正直、前に報告した以上の事はまだ分かってません。
 あの事件以降、プレシアは完全に姿を消してしまったようで、その足取りすら掴み兼ねてます」

「そう、ご苦労様。その件はジュエルシードと平行して優先的にお願い」

エイミィを労いつつもお願いするリンディに、エイミィはただ元気に返事する。
この場にはこの三人しかおらず、口調もやや砕けた感じになっているためか、
エイミィは手を伸ばしてテーブルの真ん中にあるお菓子を摘みつつ、
もう一方の手で内側から取り出した端末を操作する。
行儀が悪いと窘めるかと思われたクロノも、軽く眉を顰めるも特には何も言わずに、
エイミィの操作によって浮かび上がってきたモニタへと視線を転じる。
そこには昨日の九尾狐との戦闘シーンが移されており、
エイミィたちが分析したのか、幾つかの数値が付随して映っていた。

「本当に魔力だけならCランクみたいだな」

「それもどうやらデバイス込みでなのよね」

エイミィの言葉にどういう事かと尋ねるクロノに、エイミィは幾つかの画像を開き端末を操作する。

「どうもこのデバイスはかなり変わっていて、その所為かどうかは分からないんだけれど、魔法の構築が遅いのよ。
 例えば、この針のような魔法。
 同じものを構成するにあたって、同レベルの魔導師でも、もう少し早く構築できるはずなの。
 まあ、その辺りは個人差もあるから完全に断定はできないんだけれどね。
 ただ、魔法を使う際の魔力が全てデバイスの方から供給されてるのよね」

「バカな。なら、恭也さんは魔力を全く消費せずに魔法を使っているというのか」

「うーん、全くって事じゃないと思うけれど。
 クロノくんが十必要とする所、恭也さんは一でデバイスが九って割合で魔法を発動させてるというか」

「なんだ、それは。確かにインテリジェンスデバイスは意志を持っている。
 だからこそ、魔法を自動起動させたりして、その意思疎通によっては同時魔法行使なんてのも出来るけれど。
 でも、デバイスが魔力を肩代わり、それも殆どの部分を受け持つなんて聞いた事もない。
 第一、そんな魔力をどうやってデバイスに持たせておくんだ」

「それは私に聞かれても分からないよ。大体、これはあくまでも推測なんだから」

「……いや、そういえば」

エイミィの言葉に何かを考え込んでいたクロノは、ふと思い出したかのように呟く。

「あの時、デバイスが魔法を構築していた。
 いや、しかしインテリジェンスデバイスならそれも不可能ではないのか」

何処となく普通のデバイスとは違う気がするも、やはりこちらも推測の域を出る事はない。
いや、普通に考えてみても可笑しなところはないはずなのである。
すっかり自身の思考に入ってしまったクロノに対して、
取り残されたような形となったリンディとエイミィは、顔を見合わせると肩を竦めて苦笑いを共に浮かべるのだった。

「それで、エイミィとしてはそのなのはさんのお兄さん、恭也さんに対する魔導師としての最終的な評価は?」

「魔力量はデバイスが戦闘態勢を解除した時のデータから、勿論これは気を失っている上に戦闘の後ですが……」

前置きを一つ入れるとエイミィは続ける。

「魔力保有量はさっきも言ったようにデバイス込みでCで良いと思います。
 ただ、ランクは魔力量だけじゃないですから。魔法の制御とかははっきり言ってFランク、
 初心者よりも本当に少し出来るという感じだと思います。
 殆どの魔法をデバイスが行使している事から、多分そう大きくは外れていないと思うんです。
 ただ……」

言って少し言葉を濁すとエイミィはまた画像を切り替える。
クロノたちが攻勢に出て、最後の攻撃を繰り出す場面に。

「この最後に見せた魔法。これだけが分からないんです。
 この魔法はデバイスだけでなく、恭也さん自身も制御しているみたいなんですよね。
 あまりにも早すぎて、殆ど解析も出来ませんけれど、逆に言えばそれぐらい早いという事なんですけれど。
 ただの高速移動の魔法とも思えないんですよ。今まで見た事もないですし」

「どちらにせよ、かなり高度な魔法という事かしら?」

「はい。それを制御しているのに、基本のような魔法は全てデバイス任せ。
 それだけデバイスが優れているから、完全に任せているのかもしれませんけれど……。
 正直、この映像だけで判断すると、恭也さん自身のランクはFかせいぜいEランクかと思うんですよね。
 ただ、デバイスがその辺りをフォローしているのでCランクになる。
 でも、最後の部分だけで判断するとAAAでも可笑しくはない」

「なるほどね。確かに判断しにくいわね」

「そうなんですよね〜。本人が協力してくれればはっきりと分かると思うんですけれど。
 それに、今のはあくまでも魔法を行使する際のランク付けですから」

エイミィの言葉にリンディは一つ頷くとお茶を一口啜り、
ゆっくりと湯飲みを置くと分かっているとばかりに後の言葉を繋げる。

「実際には戦闘時に置ける判断力や戦術、そういったものもランクには関係してくるものね」

「その通りなんです。それを考えると、戦い慣れていると言いますか……」

「まあ、ランクなんてあくまでも一つの基準なんだし、そんなに気にしなくても良いでしょう。
 状況次第ではランクが下の者が上の者を倒すという事だってあるのだから。
 私たちとしては今までと変わらずに力を判断する為の材料と考えて、
 決して油断せず、かと言って無闇に恐れすぎないで各自最も適した対処を、って事よ」

「まあ、結局はそうなんですけれどね。それよりも、恭也さんは私たちと敵対するんでしょうかね」

エイミィの言葉にリンディは少し悩む素振りを見せる。

「フェイトさんの味方をするのなら、自然とそうなるでしょうね。
 ただ、その場合なのはさんが、ねぇ」

エイミィもリンディの言わんとする所を察して困ったような顔を見せる。
だが、当の恭也が無条件に信用する事はしないが、同様に無闇に敵対するつもりもない、
と管理局に対する態度を既に決めているなど二人が知るはずもなかった。



 ∬ ∬ ∬



昼過ぎに旅館を出た恭也たちを乗せ、帰路に着くバス。
その中は、殆どの者が静かに寝息を立てており、起きている者はごく僅かであった。
その少数に部類される方に恭也もおり、両サイドを行きと同じようになのはとフェイトに挟まれていた。
そのなのはとフェイトも共に起きており、ここに運転しているノエルと本を読むことに集中している美由希、
以上が起きている少数であった。アルフはフェイトの隣で頭をフェイトに乗せて寝息を立てていた。

「えっと……」

さっきから何か話そうとするなのはに対し、フェイトはただ沈黙したままである。
だが、その目が時折なのはの方を向く事から、最初の頃よりも距離は縮まったのかもしれない。
まだコミュニケーションを取るという事に慣れないフェイトを優しく見守りながらも、
恭也はなのはの背中をそっと叩いて、もっとフェイトに話し掛けるように促す。

「えっと……、そ、そうだ! 勝負の事なんだけれど……」

よりによって最初の話題がそれかと、恭也は自身の事を棚に上げて頭を抱えそうになる。
なのはも言ってから失敗したというよな顔をして、こちらは本当に両手で頭を抱えて俯く。
そんな仕草に僅かだが笑みを見せたフェイトであるが、なのはは俯いていて見る事ができなかった。
だが、何となく空気が柔らかくなったのを感じたのか、なのははおずおずと顔を上げ、
一度口にしてしまったのならと、再びその事を口にする。

「それで、いつが良いかな」

「私はいつでも構わないけれど」

「その前に確認させてくれ。まず、勝った方が今回俺が手に入れたジュエルシードを手に入れる。
 次に、あくまでも魔力ダメージ……で良いのか?」

グラキアフィンに確認を取り、間違いがないことを確認すると恭也は再び続ける。

「非殺傷モードでやりあうこと。良いな?」

恭也の出した条件は二人にも異論はなく頷いてみせる。

「後、なのはの方に聞いておきたいんだが、管理局の方は大丈夫なのか?
 聞けば治安維持も仕事としてあるのだろう。なら、魔法のないこの世界で魔法による対決なんてしても……」

「えっと……。ど、どうなんだろう。
 後でクロノくんに聞いてみるよ。それで許可を貰って……」

「フェイトが闘って共に疲れた所を捕まえるなんて事のないようにな」

「そ、そんな事しないよ!」

なのはは意地悪な事を言う恭也をポカポカと叩いて見せるが、
恭也としてはやはり警戒をしておくに越した事はないと考えている。
なのはには勿論、そんなつもりはなくても管理局がどうかまでは分からないのだから。
いざという時は、自分やアルフが助け易いように立会人という形を取れるようにしようと考えるのであった。

「とにかく、クロノくんたちに話して許可を貰うから。
 詳しい日時はまた後日で良い?」

「私はそれで構わない。ただ、その間にジュエルシードが見つかった場合はそっちを優先するから」

「うん、それで良いよ。じゃあ、日時が決まったら……」

「恭也さんに伝えて」

「うん、分かった」

やはりまだ連絡先は教えてもらえないか、と落ち込むなのはを慰めるように恭也は二、三度頭を少し乱暴に撫でる。

「むー、髪の毛が乱れるよ〜。と言うか、お兄ちゃんわざとやってない?」

「……そんな事はないぞ」

「だったら、今の間はなんなんですか?」

「あー、悪かった。すぐに戻してやろう。
 何なら奇抜な髪型にしてやろうか」

「……お兄ちゃん?」

「いや、冗談だ」

怒ったように頬を膨らますなのはにそう言うと、恭也は自分がぐちゃぐちゃにしたなのはの髪を解き、
いつもしているみたいに両側をちゃんと結んであげる。
そんな二人のやり取りを眺めながら、またしてもフェイトの顔には微笑が浮かんでいた。





つづく、なの




<あとがき>

中休みって訳じゃないけれど、今回は管理局側が恭也に対して考察を。
美姫 「って、殆ど不明よね」
まあ、本人から話を聞いたり、ちゃんと検査した訳じゃないから仕方ないかもな。
後は、ちょっと変わったデバイス、グラキアフィン。
美姫 「でも、能力は普通にインテリジェントデバイスの範囲よね」
うん。ただ、恭也が全く魔法を制御できない分、デバイスが頑張っているという。
美姫 「確かに変わっているような」
そうか? まあ、何はともあれ、次回はいよいよなのは対フェイトの対決だ。
美姫 「キリキリと書け〜」
おう! 苦手な戦闘だが頑張るぞ〜。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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