『リリカル恭也&なのはTA』
第5話 「吸血姉妹の夏休み」
「そうだ、その受け答えで問題ない。同じ事を言うのでも、言い回しで心証が変わったりするからな。
特にアルフ、今回は中々良かった。結構、意地悪な事を言うようにしてあったんだが、よく耐えたな」
「当たり前だよ。フェイトが頑張っているのに使い魔のあたしの所為で悪くなったら意味がないんだから。
でも正直、結構腹が立ったよ。あれってクロノが考えたんだよね」
グルルと今にも唸り声を上げそうな程に威嚇するアルフからさりげなく距離を開けつつ、クロノは弁解するように言う。
「確かに考えたのは僕だが実際の裁判でも聞かれるのは間違いない事だ。
まあ少々意地悪な問い掛け方をさせたのも間違いないが、中にはああいった奴も居るんだ」
嫌だけれど、と付け加えつつアルフが引き下がったと判断して胸を撫で下ろす。
渋々といった感じで引き下がるアルフの頭を撫でながら、フェイトが大丈夫だからとアルフを慰める。
普通は使い魔が主人を気遣うのでは、と思わなくもなかったが自然な様子に知らず頬を緩めそうになるのを堪える。
やや意識して仏頂面を作り、クロノは歩き出す。
その背中を追ってくるフェイトに向かって、
「それで午後から少しなら時間が空くけれど今日はどうする?」
「あ、今日もお願いします。あ、でも折角空いた時間なのに私に付き合ってばかりで大丈夫?」
「ああ、別に問題ない。君との訓練は僕自身にも良い訓練になっているしね。
それにしても前にも増してやる気だな」
「うん」
クロノの言葉にフェイトは頷き、少し何かを思い出すような目でちょっとだけ上を向く。
すぐに何を思い出しているのか理解し、
「高町なのは、か」
よく分かったね、といった様子で少し驚いた表情を見せるフェイトにばれないように浮かんだ小さな笑みをすぐに消し去り、
クロノは分からない方が可笑しいと肩を竦めて見せる。
「ビデオレターでやり取りしているんだろう。
届く日には朝からソワソワして、その後にはいつにも増して鍛錬に力が入っていれば誰だって分かるさ」
クロノの指摘に顔を赤く染めつつ、フェイトはポツリポツリと語る。
「なのはも魔法の特訓頑張っているって言ってたの。それに恭也さんに体術とかの基礎を教わっているって」
「高町恭也さんにか」
フェイトの言葉を聞き、クロノは何とも言えない表情になる。
その大半は魔法を知りそれを当たり前とする者から見た場合、非常識な人物になる恭也に対する評価から来るものであった。
「良い所Eランク、下手をすればFかもしれないのに単騎近接戦ではランク差を引っ繰り返す剣士」
通常ならバリアなどの前にそう簡単に引っくり返る事はないのだが、原理不明な攻撃はそのバリアを貫通する。
正確にはバリアを通り抜けるだが。それでも通常はバリアジャケットの存在があるからこそ、そう負ける事はないのだが。
魔法なしでの高速機動。それを持つが故にバリアを張る前に接近し、バリアジャケットを通り抜けてダメージを与える事が可能。
初見ではほぼ見破られないが故に恭也の勝率は高くなる。
「僕も魔法が万能だとは思っていないつもりだったんだけれど、流石にあれには常識を覆させられたと言うか、常識を疑った」
しみじみと語るクロノにフェイトたちはただ苦笑をもって返す。
つまり、二人も似たような事を思ったという事ではある。
「元々もあの世界は魔法がないから、武術が発展したんだろう。
少なくとも恭也と同じ事が出来る人は後二人はいるし」
アルフは恭也と共にジュエルシードを探した過去があり、その時に高町家に滞在している。
故に恭也の周りの人間に付いてもクロノよりも詳しく知っており、そう口にする。
対するクロノは本当に信じ難いと眉間に寄った皺を揉み解す。
「どっちにしろ、なのはは砲撃魔導師タイプだし、そう簡単に恭也の技術を身に付ける事もできないだろう。
なら、まだクロノが負ける事はないんじゃない」
「別に勝ち負けに関する事を言った訳じゃないんだけれどな」
アルフの言葉に思わず君は単純だなと言いそうになったのを引っ込め、苦笑を零す。
「まあ、恭也さんに関しては既に前提が覆っているしな」
「デバイス所持しているもんね」
フェイトの言葉に頷きつつ、クロノは改めて思い返す。
「あのデバイスは単純なインテリジェントデバイスと言えるのかさえ怪しい。
そもそもデバイスが自ら思考して魔法を使うなんて聞いた事もない」
「え、でもインテリジェントデバイスなら……」
「そう予め組まれた魔法を状況に応じて展開させる事もある。
ただし、あくまでも簡単な魔法であって、デバイス自らが魔力を持ち、色んな魔法を構築するなんて聞いた事もない。
実際、恭也さんが自分の意思で展開していた魔法は一つとしてなかったみたいだし」
「刹神に関しては恭也自身も展開を意識しないと出来ないみたいだったけれどね。
尤もあれを使うと恭也の肉体にも負荷が掛かるし物凄く疲れるって言ってたけれど。
確かグラキアフィンも休眠に近い状態になって、次の使用には数日置かないといけないって言ってたかな。
他にも色々と難しい事を言ってたけれど、結局は使用禁止にしたみたいだし」
アルフの言葉にクロノはやっぱり反動が大きいのかと納得したように頷きつつ、話を戻す。
「兎に角、あのデバイスは本当に反則だ。デバイス自身が言ってたように、最早魔導師として扱っても良いぐらいだよ」
「だからこそ、使用者がかなり限定されるみたいだしね。まあ、もう恭也以外に使われる気はないって言ってたけれど」
グラキアフィンとの話を思い出して言うアルフにクロノも同意し、元々はフェイト自身の話だったと再度話を戻す。
「まあなのはに触発されて頑張るのは良いけれど無理はしないように。
それじゃあ、僕はまだ用事があるからここで。トレーニングについては後で連絡するから」
「うん、ありがとう」
部屋の前までフェイトを送り、クロノはそのまま歩いて行く。
その背中に小さく手を振り、フェイトは自室へと戻るのだった。
∬ ∬ ∬
「たっかまちく〜ん、あそびましょ〜」
「もう、お姉ちゃん。こんにちは、恭也さん」
「ああ、すずかちゃん、いらっしゃい。外は暑いだろう、中にどうぞ」
「お邪魔します」
玄関に出てきた恭也に促され、すずかは家の中へとお邪魔する。
その後ろから続こうとする忍の目の前でぴしゃりと扉が閉められ、
「ちょっと恭也、この扱いは流石にないんじゃない? 愛しの忍ちゃんが来たって言うのに」
「自らの行動を鑑みる事無く、まだそのような事を言うかお前は」
「あれぐらい軽い挨拶じゃない」
「はぁ、妹の方がしっかりして見えるのはどうなんだろうな」
「むぅ、なら大人な女性って所見せてあげるわよ」
そんなやり取りを閉まった扉を挟んでする二人はまさに悪友と言った感じで、すずかは思わず笑みが零れてしまう。
特に昔のかなり大人しい忍を知っているだけに、その笑みは馬鹿にしたり呆れたようなものではなく単純に微笑ましさに溢れていた。
「恭也〜、私と遊ばない〜。恭也の好きなようにして良いわよ〜」
妙に色っぽい声を出し、扉にしな垂れ掛かってそんな事を言う忍に恭也は頭を抱え、
すずかは先ほどとは打って変わって引き攣った笑みを見せるのであった。
玄関でのやり取りから数分後、恭也たちはリビングに場所を移していた。
恭也の向いで忍は痛む頭を擦りつつ、恨めしげに恭也を睨む。
が、その視線を敢えて無視して恭也は淹れた麦茶を手に取る。
隣では同じように麦茶を飲みながら、なのはが苦笑を見せている。
先ほどのやり取りをしっかりと聞いていたらしく、暴力という手段を取った恭也にも文句は言わなかった。
忍も恭也が反応しないと見るや軽く肩を竦め、
「これドイツ土産」
言って横に置いてあった紙袋を手渡す。
「ああ、ありがとう。で、ドイツはどうだった?」
「うーん、観光もしたけれどメインは発掘みたいな感じだったからな〜。
じめじめとした暗い地下ってイメージが強いわ」
「それはドイツの感想じゃなくて、そのまま地下の感想だろう」
一週間程前にさくらとは別の叔母から夜の一族の遺産と思われる物が見つかったと連絡が来て、
忍とすずかは従者を引き連れドイツへと飛んだのである。
故にその殆どを発見された地下遺跡での発掘に費やしており、忍の感想としては間違ってはいないだろう。
「どうだった、すずかちゃん」
「私もお姉ちゃんに付き合って殆ど地下に居たけれど、お城とか森とかに行ったよ。
とっても綺麗だったよ。あ、これがその写真なんだけれど」
言って携帯電話を弄り、なのはに見せるすずか。
妹の方は姉よりもドイツを楽しんできたようである。
とは言え、忍が全く楽しんで来なかったという事はなく、
「それよりも聞いてよ、恭也。結構奥深くまで潜ったんだけれど、そこで凄いもの見つけちゃったのよ。
時代的には自動人形が全盛期の頃だと思うんだけれどね、自動人形の部品じゃないみたいなの。
一緒に文献も出てきたんだけれど、結構穴だらけでね。流石に発掘しながら解読は無理だったわ。
まあ、エリザが自分たちには分からない物ばかりで好きなだけ持って帰って良いって行ったから言葉に甘えたんだけれどね。
ああ、結構な量があったから配達で送ったんだけれど、届くのが明日か明後日になるのよね。早く来ないかな〜」
キラキラと目を輝かせ、新しい玩具を手に入れたみたいに楽しげに笑う。
そんな忍の楽しげな様子に頬を緩めつつ、友人として注意だけは口にしておく。
「楽しみなのは分かったが、あまり棍を詰めすぎるなよ。お前はすぐに時間を忘れて没頭するあまり徹夜とかするからな」
「分かってるわよ。ちゃんと注意するわ。恭也にも心配されているみたいだしね」
何処か嬉しそうに言う忍。そこにすずかが会話に入ってくる。
「恭也さんとなのはちゃん、来週は何か予定入ってます?」
「来週のいつかな?」
「来週の金曜日。ほら、お祭りがあるじゃない」
「うん」
「皆で一緒に行かない?」
すずかの言葉に元から行くつもりだったなのははすぐに頷き恭也を見る。
恭也もなのはと行くつもりだったので構わないと答えると、すずかも嬉しそうに笑う。
「じゃあ、アリサちゃんにも連絡するね」
言ってメールを打ち出すすずかに、なのはが思いついたとばかりに切り出す。
「ねぇ、すずかちゃん。今度一緒にビデオレター撮っても良い?」
「ビデオレター?」
「うん。この間、一緒に旅行に行ったフェイトちゃんとしているんだけれど、お友達を紹介したいの。駄目、かな?」
「ううん、良いよ。なのはちゃんのお友達として紹介してくれるなんて嬉しいよ。
あの時はあまり話せなかったし、私もお友達になりたいな」
「うん、きっとフェイトちゃんも喜んでくれるよ。今度、フェイトちゃんから来たら連絡するから」
「うん、楽しみにしてるね」
本当に楽しみだと分かる笑みをなのはに向け、それを見てなのはも嬉しそうに笑う。
そして、メールを再開させようとするすずかに、
「アリサちゃんにも頼みたいんだけれど、メールじゃなくて直接言った方が良いかな」
「どっちでも良いと思うけれど、なのはちゃんは直接言いたいんだよね」
「うん。だから、この事は内緒だよ」
「うん、分かった。メールは夏祭りの事だけにするね」
言っておっとりとした外見とは違い、かなり素早く携帯電話を操作するすずか。
それをぼんやりと眺めながら、なのははふと口にする。
「アリサちゃん、明後日には戻って来るんだよね」
「予定ではそう言ってたよね。久しぶりにお父さんに甘えているんじゃないかな」
「本人は絶対に認めないし口にしないだろうけれどね」
そう言って二人して笑い合うのだった。
つづく、なの
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