『ママは小学二年生』
〜3〜
「ほら、すず。口の周りが汚れているぞ」
言って甲斐甲斐しく口の周りを拭ってやる恭也。
その恭也とすずを挟んで反対側に座っているなのはへと拭いてもらった顔を向ける。
何を聞かれているのかすぐに察し、なのはは笑みを浮かべて応える。
「うん、綺麗になったね。ほら、ちゃんと前を向いて食べないとごぼしちゃうよ」
なのはの言葉に満足そうに頷いて食事を再開したすずをやんわりと注意する。
注意されたすずは素直に返事をするとちゃんと座り直す。
そんな三人を桃子は始終にこにこと笑顔で見遣り、美由希たちもすずの愛らしさに頬を緩ませる。
やがて食事も取り終わり、恭也がリビングのソファーへと場所を移して夕刊を読んでいると、
なのはと手を繋いですずもやって来る。
そのままトテトテと音を立てそうな足取りで恭也の傍までやって来ると、
そこが指定席だとばかりに、うんしょうんしょと口にしながら恭也の足の上によじ登る。
座り心地の良い場所を何度かお尻を動かして確かめ、ようやく納得のいく位置を見付けて満足げに恭也を見上げる。
「えへへへ♪」
自分を見上げてくるすずの頭を撫でてやり、恭也は再び新聞に目を戻す。
そこへキッチンへと戻っていたなのはが手に湯飲みを持って姿を見せ、恭也の隣に座る。
「はい、お兄ちゃんお茶」
「ああ、ありがとう」
「すずにはジュースだよ」
「ありがとうママ」
恭也へと湯飲みを渡し、すずにはジュースの入ったコップを渡してやるとその頭を数回撫でてその撫で心地を味わう。
ジュースを飲んでいたすずはコップをテーブルに置くとなのはの腕を引っ張り、
「ママこっち」
なのはも恭也の上に座らせようとする。
困ったように見上げてくるなのはと、お願いするように見上げてくるすずを見て恭也は新聞を畳むと左足にすずを、
右足になのはをそれぞれ座らせる。
「これで良いのか」
「わぁー。ママ小さくなったからこういう事も出来るんだね」
「あはは、そうだね」
本当はこれから大きくなるんだけれどね、と胸の内でだけ呟き、ふと気付いた事を口にする。
「すず、ママが大きいときもこういう風にしてたっけ?」
「もう忘れちゃったの? いつもはパパの上にママが座ってその上にすずが座ったり、
パパの上にすずがいて、ママは頭だけ乗せてたりしてたじゃない」
「そうだったね。別に忘れていた訳じゃないよ」
そう言ってすずを誤魔化しながら、なのはは仲の良い家族なんだなとしみじみと思う。
だが、すぐにそれが未来の自分だと思い直して少し赤面する。
そっと恭也を見れば、こちらも少し赤面しているようにも見え、知らずなのはは笑みを見せるのだった。
ゆっくりとくつろいだ後、なのははすずの手を取り立ち上がる。
「すず、お風呂に入ろうか」
「うん! パパも一緒に行こう♪」
「いや、俺は後で入るから」
「いや〜、一緒がいい!」
言って恭也となのはの腕をしっかりと掴んで離さない。
困ったように恭也が周囲を見れば、仕方ないと桃子が肩を竦めて宥めるようにすずの頭に手を置いて優しく諭す。
「ほら、パパが困ってるでしょう。いつもママと入っているんでしょう」
「パパと入る時もあるし、パパとママと三人で一緒に入ったりしてるもん」
「あ、そうなの」
「うん。今日はパパとママと入りたいの!」
「だそうよ、パパ?」
これは説得は無理だわと桃子は恭也に諦めるように言う。
「なのはも大丈夫よね」
「うん、別に良いよ」
少しだけ恥ずかしそうにしながらも、久しぶりに恭也と入れると嬉しそうにする。
なのはとすずに両側からおねだりするように迫られ、恭也は仕方なく納得する。
そこへ悪乗りした桃子が更に事態を悪化させるような事を口にする。
「お婆ちゃんも一緒に入ろうかしら」
「うん、入ろう♪」
「……かーさん」
静かな恭也の声に桃子は流石にからかい過ぎたかと反省し、
「冗談よ、恭也。そんなに怖い顔しないでよ。
すずちゃん、お婆ちゃんはまだちょっとやる事があるから、また今度一緒に入ろうね」
桃子の言葉にすずは残念そうに頷き、恭也はこれ以上何か起こる前にとすずを抱き上げると風呂場へと向かう。
その後をなのはも慌てて追いかけて行く。
それを桃子は楽しそうに眺めるのであった。
風呂から上がり、すずとなのはが眠るために部屋へと戻ろうという時、すずがまたしても恭也の袖を掴む。
「パパも一緒。昨日はパパ居なかったから」
「あー、パパはまだ起きているから」
「ご本……」
言ってじっと見詰めてくる娘に勝てるはずもなく、恭也は絵本を読んであげる事にする。
が、肝心の絵本がない事に気付く。
「よし、今日はパパがお話をしてあげよう」
明日帰りに本屋に寄ることを予定に入れ、恭也はすずを抱き上げるとなのはの部屋へと向かう。
だが、それをすずがまたしても引き止め、恭也の部屋へと行くと言い出す。
何とか断ろうとするも、またしても母子二人によるツープラトン攻撃の前にあっけなく撃沈される恭也であった。
すずを真ん中にして川の字に布団に入る。
二つ敷いた布団の一つにすずとなのはが入り、恭也は布団には入らずにただ寝転がるだけだが。
二人がどんな話をしてくれるのかと期待する目で見てくるのに苦笑しつつ、恭也はゆっくりと話を始めるのだった。
何とかなのはとすずを寝かしつけるとそっと部屋を出て、玄関で待っていた美由希との合流を果たす。
時刻は既にいつも鍛錬へと向かう時間になっていた。
「あはは、何ていうかお疲れ様、恭ちゃん」
「まあ確かに少し疲れたが、悪いもんじゃないな」
「すずちゃん可愛いもんね。しかも、自分の娘なら尚更だよね」
親馬鹿と言わんばかりに目を細める美由希を軽く小突き、さっさと靴を履く。
その後を慌てて美由希が追いかけて来るのを感じ取りながら、恭也は無視するように走り出す。
「ちょっ、待ってよ!
うぅぅ、私にもほんの少しで良いから愛を、優しさを〜」
冗談混じりに発せられた美由希の発言を聞こえない振りをして聞き流し、恭也は少しだけ走る速度を上げるのだった。
おわり
<あとがき>
すず第三弾。
美姫 「今回は高町家での夜ね」
おう。これですずが来て二日、実質一日半が終わったと。
次は何をしようかな〜。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で」
ではでは。
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