『ママは小学二年生』






〜12〜



日本家屋に加えて庭には道場や池、花壇、それらを囲む塀に立派な門構え。
そんな高町家の前を行ったり来たりする全身を黒系統で包んだ不審人物が居た。
不審人物は門の前で足を止めると、ゆっくりと腕を上げるもすぐに下に下ろし、再び門から離れる。
かと思えば、数メートルも行かないうちにまた門の前に戻ってきて、同じように腕を上げ……。

「美沙斗さん?」

不意に背後から掛けられた声に異常なほど驚きを見せて振り返る不審人物、もとい御神美沙斗。
この春、再会して色々とあった彼女との久しぶりの再会に恭也は表情こそ変わらないものの嬉しそうな顔を見せる。
今回で二度目となる高町家への訪問に、やはり未だ緊張するのか前回と同じような行動を取っていた美沙斗。
その事に気付いて苦笑するも、あえて触れずに恭也は改めて美沙斗と挨拶を交わす。
恭也の気遣いに感謝しつつ、こちらも何事もなかったかのように挨拶を返し、
下から見上げてくる視線に気付くとしゃがみ込んで視線を合わせ、微笑を浮かべる。

「こんにちは、お嬢ちゃん」

「こんにちは、美沙斗おばさん!」

行き成り自分の名前を言われ、軽く驚くもすずの頭を撫でて恭也へと視線を向ける。

「この子はすずと言って……」

「パパ、早く家に入らないとアイスが溶けちゃうよ」

「ああ、そうだな。すぐに済むから少し待ってくれ」

頭を撫でられてすずは大人しく従う。
だが、美沙斗の方は少女が発した言葉に驚きを隠せずにいた。

「恭也が父親? は、母親は誰なんだい?
 まさか、美由希? もしそうなら何でもっと早くに教えてくれなかったんだ。
 ああ、待て落ち着こう。よく見れば、生後何ヶ月といった感じじゃないね。
 ……恭也、まさかとは思うけれど兄さんみたいにある日、いきなりこの子だけ家に置いてあったとかじゃないよね」

「はぁ、俺の時はそうだったんですか」

「あ、いや、それは……」

逆に質問され、しかもその内容が内容だけに言葉に詰まる美沙斗。
だが、当人である恭也は一向に気にした様子もなく、美沙斗に気遣うような言葉を掛け、

「ある意味、ある日突然というのは正しいかもしれまえんけれど……」

「なっ! それじゃあ、母親はいないのか!?」

「あ、いえ、母親はちゃんと居ますよ。後で詳しく説明はしますけれど、とりあえず落ち着いて聞いてください」

恭也の言葉や口調から何かややこしい事情があると悟ったのか、美沙斗は小さく頷くと続く言葉を待つ。
だが、その僅かの沈黙を見計らったかのように、すずがまるで邪魔するかのように家の中に向かって声を上げる。
正確には、家の外が騒がしいと思ったのか、門から出てきた人物に。

「ママ!」

美沙斗と話をしていて構ってくれない恭也の傍から、すぐに構ってもらえそうななのはの元へとトテテと走り、
そのまま飛び付く。予め来る事が分かっていたため、なのははしっかりとすずを抱き止める。

「えへへ〜」

「よしよし。アイスは買ってきた?」

「うん! お風呂から上がったら食べようね、ママ」

「そうだね。お兄ちゃん、お帰りなさい。美沙斗さんもお帰りなさい。
 来られるのなら電話してくれれば、お姉ちゃんも出掛けなかったのに。
 今、お姉ちゃんは出掛けていないんですよ」

「ああ、それは別に構わないよ。急に来た私の方が悪いんだから」

なのはの言葉にそう返しつつも、美沙斗の顔は明らかに混乱してますといった感じがありありと窺えた。
無理もないと横で見ていた恭也は思うも、なのはは美沙斗の様子に気付かずに恭也へと話しかけてくる。

「お兄ちゃんもお話するのなら、お家の中ですれば良いでしょう。
 アイスも早く冷蔵庫に入れないと溶けちゃうんだから」

「ああ、そうだな。すまないな。
 美沙斗さん、とりあえずは中でお話しますから」

「あ、ああ。な、なのはちゃんがお母さん……」

未だ混乱しつつ呆然と呟きながらも、美沙斗は恭也の後に続いて家の中へと入っていく。
戸惑いつつも勧められるままにソファーに腰を下ろす美沙斗の対面に座り、
恭也はまだ手に持ったままだったアイスをなのはに渡す。

「なのは、これを頼む。ちょっと美沙斗さんに事情を説明しないといけないから」

「あ、まだしてなかったんだ。だから、こんなに驚いているんだ。
 分かったよ、アイスはなのはがしまっておくね」

恭也の手から買い物袋を受け取り、すずと手を繋いでキッチンへと向かう。
その二人の背中を呆然と見送る美沙斗へと声を掛け、ようやく意識がはっきりしてきた美沙斗に事情を説明する。

「……という訳なんです」

「な、中々信じ難い話だけれど、目の当たりにしては信じない訳にはいかない、か」

美沙斗は小さく息を吐き出すと、腕を額の上に置き、ソファーに深々と座りそのまま背もたれに凭れ掛かる。
何かを考えているような美沙斗に、しかしすずは違う風に感じたのか美沙斗の傍にやって来ると心配そうな顔を見せる。

「美沙斗おばさん、どうしたの?
 どこか痛いの?」

傍に近寄ってきたすずの顔を見下ろし、美沙斗は微笑を見せるとすずの頭に手を置く。

「いや、どこも痛くないよ。すずちゃんは優しいね」

「そうなの?」

きょとんと尋ね返してくるすずに益々笑みを深め、美沙斗は壊れ物を扱うようにそっと頭を撫でる。
美由希がこれぐらいの時にはもう傍に居なかったためか、その手はどこか恐々としたものであったが、
すぐに恭也相手に同じような事をしていたのを思い出し、少しだけしっかりとした手つきに変わる。
改めて美由希には酷い事をしたなと思いつつも、それをすずに感じ取られないように隠し、
美沙斗はすずの頭からそっと手を離す。

「それにしても一体何がどうなって、二人の間に子供が出来るんだろうね。
 少し楽しみだよ」

言って珍しく意地の悪そうな笑みを見せる美沙斗に、恭也は何とも言えない表情をする。
これが忍や美由希とかならばデコピンや拳骨といった事で黙らせるのだが、
相手が美沙斗では恭也も流石にそんな真似は出来ない。
そんな兄の様子になのはは珍しいものを見たという気持ちと、
かつて憧れていた人である美沙斗に対するちょっとした焼きもちを抱きながら、用意したお茶をテーブルに置く。
特にそれに気付いたという訳ではないが、何となく何かを感じたのか、
恭也は隣に座ったなのはの頭をやや乱暴にくしゃくしゃと撫でてやる。

「もう、何するのお兄ちゃん。やめてよ〜」

そう言って頭に置かれた恭也の手に手を伸ばすも、強く払いのける様子もなく、
その顔は言葉に反してどこか嬉しそうであった。
二人がじゃれていると感じたのか、すずも美沙斗の隣からテーブルを回り込んで二人の足へとぴょこんとダイブする。
そのまますずは恭也となのは二人に甘えるように、顔を摺り寄せて纏わり付く。

「パパー、ママー、すずも〜、すずも仲間に入れて〜」

そんな仲睦まじい様子を柔らかな表情で眺めていた美沙斗であったが、

「美沙斗おばさんもこっちおいでよ」

すずの言葉に一転して酷く慌てる。

「い、いや、私は遠慮してくよ」

「え〜、楽しいのに〜」

「見ているだけで、私は楽しいから」

「一緒にやった方が楽しいのに」

「ほら、すず。美沙斗さんが困っているだろう」

「駄目よ、すず。それに、美沙斗さんはお姉ちゃんと遊ぶのよ」

「そっか、それじゃあ仕方ないね」

美沙斗の言葉にすずは少し不満を見せるも、すぐに恭也となのはに諭されて大人しく引き下がる。
二人に感謝しつつ、美沙斗はじゃれ合う親子を飽きる事無く眺めるのだった。





おわり




<あとがき>

今回は美沙斗とすずの対面〜。
そして、その為に美沙斗には一度、高町家に来ているという、リリ箱の設定を一年早くしてもらったんだが。
美姫 「殆ど傍観しているだけね」
まあな。ともあれ、これで殆どの者とすずも対面したかな。
美姫 「そうね」
さーて、次はどんな事をさせようかな〜。
美姫 「それじゃあ、また次の機会があればお会いしましょう」
ではでは。







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