『ママは小学二年生』






〜39〜



「あついよ〜」

ぐったりと現すのが相応しいぐらいに身体を投げ出し、すずはテーブルに突っ伏している。
額に浮かんだ汗が頬を伝い落ちるのも構わず、すずは目を細めてそれ以上動こうとしない。
じっと見詰められているのを感じつつ、なのはは襟元をパタパタとさせて風を送り込みつつ、

「だ〜め。アイスは一日一個です。この間みたいにお腹を壊したらどうするの」

既に先程アイスを食べ終えたすずは頬を膨らませつつ、腹を壊すと言われ黙り込む。
流石にあの時の痛みを思い出すとこれ以上駄々を言う気もなくしたらしい。
両手に握った団扇で自分とすずを扇ぎながら、なのはは冷房を入れようかと考える。
昼の尤も暑い時を過ぎたので既に冷房を切ったのだが、思った以上に気温が下がらず、今も何もしていなくとも汗が滲み出てくる。
これぐらい暑いのなら冷房を入れても怒られないだろうと判断し、それを実行しようと立ち上がる。
が、なのはよりも早く、それまでぐったりとしていたすずが飛び跳ねるように身体を起こし、部屋を出て行こうとする。
どうしたの、と尋ねようと思ったが、すぐにその理由を悟る。
こちらへと近付いてくる小さな足音。そう時間も掛けずにすぐにその姿が見える。

「ただいま」

出掛けていた恭也が戻ってきたらしく、それに気付いたすずの行動であった。
恭也がそう口にしながら入ってくるのも待てず、すずは恭也へと抱き付く。
それを苦もなく受け止め、もう一度ただいまと言う。

「おかえり、パパ」

ぎゅっと恭也の首筋に抱き付くすずを見て、なのはは呆れたように言う。

「さっきまで暑い暑いって連呼しておいて、そんなにお兄ちゃんに引っ付いたらもっと暑いでしょう」

なのはの言葉に悩むのも僅か、すずはすぐに言い返す。

「これは別腹〜。止められないんだな〜」

ああ、また姉の変な所ばっかり真似をして、と思わず抱えたなのはの頭を同じ事を思いつつ慰めるように撫でてやる。

「とりあえず、手を洗ってくるからすずも下りて」

言ってすずを下ろし、一旦手を洗いに行く。
その前に手に持っていた物をテーブルに置く。
すずの興味はそちらへと移ったのか、興味深そうに紙袋を見詰め、

「ママ、これなにかな?」

「うーん、何だろうね。もしかしてお土産かな?」

「アイスクリームかな? かな? だったら、食べても良い?」

恭也が戻ってくるまで袋を開けず待ちながら、すずは期待するような目でなのはを見る。
なのはは少し悩むも、本当にアイスならここに置いておかないかと良いよと言ってやる。
ばんざーいと両手を上げて喜ぶすずには悪いかなと思いつつ、なのはもこれが何なのか少し興味を抱く。
そこへ恭也が戻ってきて、ばんざいをしているすずに首を傾げつつ、袋を見ているなのはの目の前で袋を開けてやる。
すずも覗き込むように恭也の前に割り込み、袋の中身が出てくるのをじっと待つ。
そして出てきたものを見て、すずは首を傾げる。

「パパ、なにこれ?」

「これは風鈴だよ。偶々、見かけてな。試しに一つ買ってみた」

すずに教えてやりながら恭也は縁側へと向かう。その後をなのはとすずも続く。
風鈴を知っているなのはは兎も角、知らなかったすずは興味深そうに恭也が手に持つ風鈴を見上げ、恭也がそれを吊るすのを見る。
恭也が風鈴を吊るし終え、そのまま縁側に座ると、そのまま当然のように恭也の足の上に座り風鈴を見上げる。

「パパ、それでどうするの?」

「後は風が吹くのを待つだけだな」

そう口にした時、丁度そよ風が吹き、風鈴が澄んだ音色を響かせる。

「はぁ〜、きれい」

「そうか。これはこうやって音を聞いて涼を取るんだが」

「ふー、ふー」

その説明も聞こえていないのか、単純に音が気に入ったらしいすずは、風が止まって鳴らなくなった風鈴目掛けて懸命に息を送る。
だが、恭也の足の上に座っていて距離がある上に弱い息では風鈴は揺れる事もしない。

「むー、鳴らない」

「無理に鳴らすんじゃなくて、風が吹くのを待つものなんだがな」

恭也の言葉も聞こえていないのか、剥れたように頬を膨らませてむきになって息を送る。
が、やはり風鈴は鳴る事はなく、逆にすずの方が疲れたように恭也にもたれかかる。
その額には汗が浮き出ており、

「少しでも涼を感じられればと思ったんだが、逆に暑くさせてしまったか」

苦笑しつつなのはが差し出してきたタオルですずの汗を拭いてやる。
気持ち良さそうに目を細めながら、すずは鳴らない風鈴をじっと見詰める。
と、再び風が吹き始め、風鈴が鳴り出す。

「あ、鳴った、鳴ったよ」

「そうだな」

「不思議だよね。ちょっと涼しく感じられるよ」

親子三人、縁側で和む。
いつの間にか恭也の手には団扇が握られており、それですずを仰いでやりながら、ぼんやりと庭を眺める。

「後で打ち水でもするか」

「うん、それは良いかも」

なのはとそんな事を話しつつ、未だに風鈴をじっと見上げるすずに知らず頬を緩める。
そんな暑い夏の日のひとこまであった。





おわり




<あとがき>

いや、本当に暑いぞ。
美姫 「確かにね。今年はちょっと暑いわね」
ちょっとじゃないっての。まあ、そんな訳で久しぶりのママ小二もすずに暑さを味わってもらったが。
美姫 「例によってひたすらだらだら〜とした日常をお届けです」
暑さに負けず、次も頑張るぞ。
美姫 「それじゃあ、また次でね〜」







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