『とらハ学園』






第17話





恭也たち剣道部の演舞も終わり、入部希望者の手続きも終わると恭也たちは制服に着替える。
何故か付いて来た美由希たちと合流して、恭也たちは校門へと歩く。

【恭也】
「しかし、美由希たちも部活をするとはな。鍛練の方は大丈夫なのか?」

【美由希】
「大丈夫だよ」

【月夜】
「恭也に出来て、私に出来ない訳がないだろ」

【恭也】
「でも、何も剣道部でなくても良かったんじゃないのか」

【瑠璃華】
「恭也さんは迷惑でしたか?」

【恭也】
「いや、別にそんな事はないが」

【瑠璃華】
「では、良いじゃありませんか」

【アリサ】
「でも、恭也さんの演舞良かったですよ」

アリサの言葉に月夜は口元を皮肉気に歪めながら、

【月夜】
「良いも何も、恭也はただ避けてただけじゃないか。全くやる気ないし」

【アリサ】
「そ、それでも良かったの」

【月夜】
「はいはい」

そんな二人のやり取りに苦笑しつつ、楓が恭也に話し掛ける。

【楓】
「所で恭也はこの後、どうするん?」

【恭也】
「とりあえず、家に帰るつもりだが」

【楓】
「その後は?」

【恭也】
「ふむ……。特に予定はないな」

【知佳】
「だったら、さざなみに来ない」

楓との会話を遮るように、知佳が恭也に話し掛ける。

【恭也】
「さざなみにか?」

【知佳】
「うん!今日、うちでパーティーするんだって」

【恭也】
「何か祝い事でもあったのか?」

【知佳】
「私たちの入学祝いだよ」

【リスティ】
「本当は進級祝いも兼ねてやるつもりだったんだけどね」

リスティの言葉に応えるように美緒が言う。

【美緒】
「そうなのだ。しかし、一人だけ無事に進級できなかった者がいたのだ。
だから、入学祝いだけになってしまったのだ」

【耕介】
「まあ、どっちにしろ騒げる口実さえあれば良いんだろうけどね、あの人は」

【美緒】
「そうなのだ。毎年、自分の進級祝いで騒いでいたのだ」

【リスティ】
「所が今年はそれが出来なくなったって訳。で、急遽入学祝いに変わったんだよ」

リスティの言葉に恭也は苦笑を浮かべる。

【恭也】
「特に午後からは予定がないから構わないが……」

【知佳】
「本当!じゃあ、決まりね」

知佳は嬉しそうに笑うが、その後ろで複数の女性から殺気が滲み出る。
それに対し、引き攣った笑みを浮かべながら、耕介は恭也の後ろにいる女性達に声を掛ける。

【耕介】
「良かったら皆もおいでよ。大勢の方が楽しいからね」

その耕介の言葉に今度は知佳が睨むように耕介を見る。
それに気付かない振りをしつつ、耕介は恭也に話し掛ける。
恭也も何となく雰囲気を察し、耕介の話に付き合う。
もっとも、二人の頬には一筋の汗が流れており、どこかちぐはぐな会話だったりするが。
そんな恭也に、リスティは近づくと面白そうに話し掛ける。

【リスティ】
「全く、見てて飽きない奴だな。こうも色んな騒ぎが起こるとは本当に面白いよ」

【恭也】
「俺は面白くない」

【リスティ】
「まあまあ。それだけ人気があるって事なんだからさ」

【恭也】
「俺にそんなものがある訳ないでしょ」

恭也の言葉に苦笑を浮かべ肩を竦めると、リスティは知佳に話し掛ける。

【リスティ】
「知佳も苦労するね」

【知佳】
「まあね」

【耕介】
「まあ、恭也はこういう奴だからな」

【リスティ】
「………耕介も人の事言えないと思うけど?」

【耕介】
「何のことだ?」

【リスティ】
「これだもんな」

耕介の台詞にリスティはまたも肩を竦め、知佳を見る。
知佳はそれを見て、苦笑いを浮かべると、

【知佳】
「リスティも苦労するね」

【リスティ】
「まあね」

知佳とリスティの言っている意味の分からない恭也と耕介は二人して顔を見合わせて首を傾げるばかりであった。
そんな様子を少し離れた所から見ていた者たちが、皆一様に呆れた顔をしていた事に背を向けている二人は当然気付かなかった。

【真一郎】
「全く、あいつら揃いも揃って鈍感だな」

【小鳥】
「そ、そうだね」

【さくら】
「真一郎さんは人の事が言えるんですか?」

【真一郎】
「俺か?俺はあいつら程じゃないぞ」

【七瀬】
「へぇ〜、どう違うの?」

【真一郎】
「可愛い子がいたら、声を掛ける」

【真一郎】
「って、ててて痛い、痛い。冗談だってば。だから、抓るな!」

真一郎の言葉に、さくら、雪、七瀬は真一郎の腕や頬から手を離す。

【真一郎】
「ったく。でも、あいつらも勿体無いな。周りの子たちの好意に気付かないなんて」

【小鳥】
「真くんなら、気付くの?」

【真一郎】
「当たり前だろ。もっとも、あいつらみたいな状況になった事ないからな。
実際にはどうなるか分からないけど。でも、あそこまであからさまなら気付くと思うぞ」

【みなみ】
「多分、気付かないと思います……」

みなみの言葉に一斉に頷く。

【真一郎】
「何でだよ、みなみちゃん。それに皆まで」

【七瀬】
「そんな事を言ってる時点でダメなんだけどね」

【真一郎】
「???」

首を傾げる真一郎に盛大な溜め息が周りから上がった。

【和真】
「う〜ん、恭也さんが鈍感だという事は分かっていたけど、耕介さんや真一郎さんまで似たり寄ったりだったなんて」

【北斗】
「多分、和兄も大して変わらないと思うけど」

【和真】
「どういうことだ?」

【北斗】
「何でもない」

【和真】
「何だ、それは。気になるじゃないか。薫姉、分かる?」

和真の問いかけに薫はただ苦笑するだけで何も言わない。
少し考えたが分からなかったのか、やがて和真は隣を歩く彩に尋ねる。

【和真】
「藤代さんは今の北斗の言った事、分かりますか?」

【彩】
「え、えーと……」

彩はどこか答え難そうな様子で、困ったような視線を薫たちに向ける。

【葉弓】
「そういう所がよ、和真くん」

【和真】
「はい?どういう事ですか?」

【葉弓】
「それは自分で考えなさい」

葉弓はやんわりと諭すような口調で和真にそう言うと、薄っすらと笑みを浮かべる。
そんなやり取りを聞いていた赤星と晶は、

【勇吾】
「皆、似たり寄ったりって事だな」

【晶】
「自分の事ほど、よく見えないって奴だね」

【勇吾】
「へぇ、まさか晶からそんな言葉が出るとはな」

【晶】
「あのね、勇兄」

【勇吾】
「冗談だよ。晶も日々成長してるもんな」

【晶】
「そうだよ。って言いたい所だけど、正直に言うと館長が前に言ってた言葉なんだ」

【勇吾】
「まあ、そんな事だとは思ったけどな」

そんな話をしながら、校門の所まで着く。
そこで、恭也は門の所に立つ二つの人影を見つける。

【恭也】
「あいつらは……。一体何をしてるんだ、こんな所で」

恭也が頭を抱えるような仕草をするのと、その人影がこちらに気付くのが、ほぼ同時だった。
仕方がなく、恭也は少し皆よりも早くその人影へと向うと、疲れた口調で尋ねる。

【恭也】
「一体、こんな所で何をしているんだ二人とも」

【アルシェラ】
「そんな言い草はないであろう。余がわざわざ来てやったと言うのに」

恭也に真っ先に応えたのは、腰の辺りよりも更に下、膝の裏辺りまで髪を伸ばした妙齢の美女だった。

【沙夜】
「そうですよ。桃子さんからの伝言をわざわざ伝えに来たというのに、そんな態度はあんまりです」

アルシェラの言葉に追随するように言う女性は、日本人形の様に整った顔立ちをしたこちらもまた美女だった。
沙夜は目元を押さえ、泣き崩れるように恭也の肩へと顔を寄せる。

【沙夜】
「うぅぅぅ。そんな事を仰られるなんて、沙夜は、沙夜は………。うぅぅぅ、悲しゅうございます」

恭也がそんな沙夜の態度にどうしたらいいか迷っていると、横から手が伸びてきて二人を引き離す。

【アルシェラ】
「えーい、さっさと離れぬか!この空け者!」

【沙夜】
「アルシェラさん、何をなさるんですか」

【アルシェラ】
「それはこっちの台詞じゃ。何故、恭也に引っ付く」

【沙夜】
「あら、そんな事決まってるじゃありませんか。恭也様が私のご主人様だからですよ」

【アルシェラ】
「ならん、ならん。余の許可なく、恭也に引っ付くな!」

【沙夜】
「あら、何故アルシェラさんの許可が一々いるんですか?」

【アルシェラ】
「それは恭也が余のものだからだ!」

【沙夜】
「恭也様は物ではありませんよ」

【アルシェラ】
「五月蝿い。ならんと言ったら、ならん」

二人のやり取りを茫然と見ていた恭也に薫が声を掛ける。

【薫】
「恭也、とりあえず止めた方が良いんじゃ。それにここだと、他の生徒の邪魔になる」

薫の言葉を肯定するように、門の前で数人の生徒が出るに出れないでいた。
恭也は溜め息を吐きながら、

【恭也】
「はぁー。(一体今日、何度目の溜め息だ)
二人とも、そこら辺にしておけ。他の人の迷惑になる。で。俺に伝言があったんだろ。
歩きながら聞くから、行くぞ」

恭也の言葉に二人は喧嘩を止めると、それぞれ恭也の左右の腕を取って歩き出す。
それに対し、恭也は最早何かを言う気力もなく、ただ早くこの場を去ることのみを考えて歩き出す。
しかし、その事で背後からの殺気が更に膨れ上がる。

【恭也】
(一体、どうしろというんだ)

何をやっても殺気をぶつけられるような気持ちになりながらも、恭也は歩く足を止めなかった。

【恭也】
「で、伝言とは」

【沙夜】
「あ、そうでした。お昼は皆さんを誘って、翠屋に来るようにとの事です」

【恭也】
「皆?」

【アルシェラ】
「ああ。既に真雪たちは向っているはずじゃ」

【沙夜】
「午後からは貸切にして、入学祝いをするそうですよ」

【アルシェラ】
「で、夜はさざなみで入学祝いをするとも言ってたな」

【恭也】
「…………そうか。皆、聞いての通りだが、問題ないか?」

恭也の言葉に反対する者はおらず、全員が翠屋へと向って歩き始めた。







つづく




<あとがき>

よっしゃー、やっと登場したぞ!
美姫 「アルシェラと沙夜の事ね」
おう。
美姫 「で、この二人って誰?」
それは後にすぐ分かる。あ、後、過去編にも当然出てくるから。
とりあえずは設定に追加しておくか?
美姫 「でも、追加するのはもう少し後にしないとね」
ああ、あれを出してからかな。
美姫 「早く出せるように頑張りなさい」
へいへい。








ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ