『とらハ学園』






第52話





「ボア ダルヂ!」

そう言ってゲートをくぐり抜けた恭也たちを、スッタフの人たちが出迎える。
それに挨拶を返す者、そのまま無言の者、それぞれに反応しつつ、とりあえず中へと進んで行く。

【恭也】
「ボアダルヂ、どういう意味だ?」

【沙夜】
「それは、こんにちはという意味ですよ、恭也様」

【恭也】
「ほう」

そんな会話をしながらある程度進んだ所、かなり大きな広場に出る。

【士郎】
「ここからは各自、自由行動だな。
六時にもう一度、ここに集合で良いな」

士郎の言葉に全員が頷いたのを受け、士郎は最後の言葉を口にする。

【士郎】
「それでは、解散!」

その言葉に全員が銘々に行きたい場所へと向って行く。

【沙夜】
「それでは、恭也様。沙夜たちも行きましょうか」

そう行って恭也の右腕を取ると、そのまま腕を組む。
ほぼ同時に、左腕をアルシェラが掴む。

【アルシェラ】
「で、恭也は何処か行きたい所はあるのか」

二人して恭也の顔を覗き込んでくるのに対し、恭也は億劫そうに口を開く。

【恭也】
「とりあえず、腕を離せ」

恭也の言葉に、美由希たちが後ろで何度も頷くが、二人は全く気にしない。
いや、そちらを見ようとすらしない。

【アルシェラ】
「今更、照れる事はなかろう」

【沙夜】
「そうですよ、恭也様」

【恭也】
「照れる、照れないの前に、動き難いんだ」

そう言って振りほどこうとするが、二人は外見とは裏腹の力を有しており、簡単に振りほどく事は出来ない。
恭也もまた、あまり力任せに振りほどく事も出来ず、仕方なさそうに大人しくなる。
ある意味、見慣れた光景ではあるのだが、かと言って、それが面白くないのも事実で、美由希たちはアルシェラと沙夜を睨む。
尤も、その程度で大人しくなる二人でもないのだが。
その視線に気付いたのか、恭也は振り返る。
そこには、数人がまだいた。

【恭也】
「美由希たちは行かないのか」

【美由希】
「え、うん、行くよ。行くけど……」

他の者はそれぞれの場所へと向ったらしく、既にここにはいない。
にも関わらず、未だにここにいる者たちに首を傾げる。

【知佳】
「えっと、恭也くんは何処に行くの?」

【恭也】
「まだ決めてないが…」

【美由希】
「だったら、私と一緒に刀剣の展示会に行かない」

【瑠璃華】
「私と一緒に周りませんか?」

【月夜】
「仕方がないから、私が付き合ってあげるよ」

【忍】
「月夜、仕方がないって言うなら、好きな所に行って良いわよ。
恭也には私が付き合ってあげるから。あ、勿論、仕方がなくとかじゃなくて、私がそうしたいからよ」

【月夜】
「うぅ」

言葉を無くす月夜だったが、それを少し可哀相と思ったのか、ノエルが口添えする。

【ノエル】
「忍お嬢さま、そこまで言わなくても…」

【忍】
「ぶ〜。はいはい、私が悪かったわよ。って、それよりも、恭也行こう」

そう言って恭也の手を取ろうとするが、その肝心の手は既にアルシェラと沙夜によって塞がれている。

【忍】
「アルシェラさんに、沙夜さん。流石に、お二人ばかりが独占するのは汚いんじゃない?」

これには、美由希たちも揃って頷く。

【アルシェラ】
「独占とは人聞きの悪い事を申す。余は恭也のもの、恭也は余のもの。
自分のものをどうしようと、余の勝手だろうに」

【美由希】
「恭ちゃんはものじゃありません!」

【沙夜】
「確かに、恭也様はものではありませんね。ですが、沙夜は恭也様のものですから、こうして常にお傍に」

【知佳】
「で、でも、それだったら別に腕を組まなくても…」

【沙夜】
「そうですね」

その言葉に、一同がほっとしたような顔を浮かべるが、沙夜は意地悪そうに続ける。

【沙夜】
「でも、逆にいえば、組んだ所で問題はないかと」

【月夜】
「きょ、恭也が嫌がっているだろう」

【アルシェラ】
「何を申す。恭也は何も言っておらんではないか」

【瑠璃華】
「先程、動き難いと仰っていましたけれど?」

【アルシェラ】
「さあ? 余は覚えがないの〜。沙夜、お主はどうじゃ?」

【沙夜】
「さあ、沙夜にも覚えがありませぬが」

【忍】
「そんな訳ないでしょう!」

【アルシェラ】
「どちらにしよ、余が組みたいから組んでおるのじゃ。
何故、お主らに怒られる?」

【瑠璃華】
「……分かりました。では、交代で恭也様の腕を自由にしても良いというのはどうでしょう。
このまま、ここで時間を潰してしまうよりは良いかと思いますけれど」

【沙夜】
「……まあ、それぐらいの妥協はしないといけませんかね。
仕方がないですね。瑠璃華さんの仰る通り、このままここで議論して時間を潰すよりは」

【アルシェラ】
「むぅー。仕方あるまい。で、恭也の腕を自由にしたいものは誰と誰じゃ」

この台詞に、月夜を除く全員が手を上げる。

【沙夜】
「では、月夜さん以外という事で…」

【月夜】
「ちょ、ちょっと待って!」

【アルシェラ】
「何じゃ、お主も恭也と腕を組みたいのか?」

【月夜】
「ち、違うよ!」

【アルシェラ】
「そうか、じゃあ、30分交代という事で」

頷く美由希たちの中、月夜は何かを言いたいのだが言い出せずにいる。

【月夜】
「あ、う、うぅ。そ、その私も……」

【アルシェラ】
「何じゃ、やはりお主も…」

【月夜】
「ち、違う。た、ただ、皆がしてるのに私だけ除け者みたいで」

【沙夜】
「そんな事はないですよ。それに、無理に希望なさらなくても。
人数が少ない方が、その分周ってくるのも早くなりますし」

【月夜】
「う、うぅぅ」

涙目になりつつある月夜を流石に可哀相に思ったのか、美由希たちも月夜の味方を始める。

【美由希】
「アルシェラさんも沙夜さんも、そのぐらいに…」

【ノエル】
「流石に、これ以上は酷かと思われます」

【沙夜】
「仕方がないですわね。それじゃあ、最初は沙夜とアルシェラさんで。
今から30分後に交代という事で。それまでに、次の番を決めておいて下さいね」

【忍】
「今から? 二人が腕を組んでから、もう五分ぐらいは経ってるよ」

【アルシェラ】
「文句があるのなら、交代せずとも良いのじゃぞ」

【忍】
「くっ。わ、分かったわよ。それじゃあ、次の番を決めましょう」

忍の言葉に美由希たちは頷き、じゃんけんを始める。
今まで黙って話を聞いていた恭也は、それを呆れたように眺めつつ、

【恭也】
「俺の腕なのに、俺の意見は完全に無視か……」

いつもの言い合いと思い、口を出さなかったのがまずかったと思ったが、既に後の祭りだった。
仕方がなく、恭也は上へと視線を向け、綺麗に晴れ渡った、まさに五月晴れとも言うべき空を仰ぎ見ると、
その空にはあまり似つかわしくない、重いため息を吐き出すのだった。





  ◇ ◇ ◇





解散を告げた後、士郎は桃子たちと一緒にアンティークステーションへと向って歩いている。
アンティークステーションとは、その名の通り、アンティークを扱った店や、教会や神社といった建物を始め、
全体的に落ち着いた感じの佇まいを見せる七つのエリアのうちの一つである。

【美影】
「何か良い掛け軸か壷が見つかるかしら」

【士郎】
「また増やすつもりか」

【美影】
「別に良いじゃない」

【士郎】
「別に悪いとは言ってないだろう」

【美影】
「一体、誰に似たのかしらね、この子は…」

美影のこの言葉に、殆どの者が今、その発言をしたばかりの人物を見るが、口には決して出さなかった。

【琴絵】
「こうやって、あなたと二人で遊びに出かけるのは久し振りね」

【孝之】
「そうですね。瑠璃華と三人で遊びに行くことも減ってしまいましたからね」

【静馬】
「姉さんたちは、よく二人で出掛けているじゃないですか」

【琴絵】
「あれは、お買い物だもの。こうやって遊びに行くのは久し振りよ」

【士郎】
「相変わらず、仲の良いことで」

【琴絵】
「ふふふ。士郎ちゃんも一臣ちゃんも奥さんを大事にしてあげないと駄目よ。
勿論、静馬もよ」

【一臣】
「分かってますよ」

【士郎】
「言われるまでもない」

二人の返答を聞きつつ、琴絵は孝之の腕に自らのそれを絡めて歩く。
そんな琴絵を少しだけ羨ましそうに眺める一つの影。
それに気付いたのか、静馬はそっと美沙斗の手を取って握る。

【美沙斗】
「あっ」

小さく声をあげたものの、美沙斗はそのまま俯いて、握る手に力を込める。
それを背中越しにちらりと見つつ、琴絵は笑みを浮かべていた。

【士郎】
「よし、桃子、俺たちも」

そう言って差し出してきた士郎の腕を取ると、桃子は笑みを浮かべる。

【桃子】
「こうやってると、士郎さんと出会った頃を思い出すわね」

【士郎】
「そうだな。いやー、懐かしいな」

【一臣】
「いや、兄さんたちはたまにやってるじゃないか」

【士郎】
「それは、それ。これは、これだ」

呆れたような顔を浮かべつつ、一臣も静恵と手を繋ぐのだった。



とりあえず、パンフレットに記載されていた店の一つへと向う一行の耳に、甲高い声が聞こえてくる。
そちらの方へと目を向ければ、どこにでもああいった連中はいるのか、いかにも軽そうな格好をした男四人が、
一組のカップルに因縁をつけていた。
聞こえてくる話の内容から察するに、肩がぶつかったとか何とかで、連れの女性を置いて行けみたいな事を言っている。
あまり目立つ場所ではないが、それでも数人の通行人はいるようで、遠目にそれを見ている者たちもいる。
しかし、男たちの雰囲気に、止めることも出来ないようだった。
そちらを呆れたように見遣りつつ、一臣が吐き出すように呟く。

【一臣】
「何で、こう騒動に巻き込まれるんだろうね」

【士郎】
「持って生まれた運星だろうな。探偵が行く先々で、事件に遭うのと同じだろう」

【美影】
「単に、私たちの中の誰かに、日頃の行いが悪い者がいるだけでしょう」

その言葉に、全員が一斉に士郎を見る。

【士郎】
「俺かよ!?」

【琴絵】
「そんな事を言っている場合じゃないみたいよ」

琴絵の指差す先で、男たちが女性の腕を掴んでいた。
それを見た士郎たちが、そちらへと駆け出した瞬間、それよりも早く、一つの影が男たちに飛びかかっていた。
女性の腕を掴んでいた男の腕を掴み、女性を解放すると、そのまま飛び蹴りを喰らわし、
再びスタッと地面に着地したその影は、驚いているカップルに手を大きく振り、この場から逃げるように示す。
その意を理解し、カップルは影に頭を下げて礼を言うと、驚きつつもその場から去って行く。
一方、絡んでいた男たちも、助けに行こうとした士郎たちもその影の姿に一瞬、唖然となる。
それもそのはずで、その影は、深緑色の体躯に獅子の如き鬣と頭の両側に備わっているのは申し訳程度の角。
まるで空想上の生物、竜を思わせる部品で成り立っているのにも関わらず、
全体を上から押し潰したようなずんぐりとした体に短い手足。
思わずこじ開けたくなるように細い目を持ち、擬人化された手には身長の半分ほどの大きさのピコピコハンマーを持っていた。

【?】
「んごーー!」

その訳の分からない物体は、雄叫びを上げると、近くにいて、未だに茫然としていた男を掴んで投げ飛ばす。
ここに来て、ようやく男たちも正気に戻ると、その謎の物体に殴りかかる。

【士郎】
「一臣、あれは何だ?」

その問い掛けに答えたのは、一臣ではなく、どこかうっとりとした表情の琴絵だった。

【琴絵】
「あれは、このテーマパークのキャラクター、スーピィーくんよ。
ああ、何て可愛いのかしら」

【士郎】
「……可愛いのか、あれは」

【静馬】
「姉さんは、昔からずれている所があるから…」

苦笑しつつ静馬が代わりに答えると、それに反応するかのように琴絵が言う。

【琴絵】
「失礼ね。可愛いじゃない。あのすらりとした体」

【一臣】
「えっと、どっちかというとずんぐりだよね」

【琴絵】
「円らな瞳」

【静馬】
「いや、細めで瞳は見えてないし」

【琴絵】
「そして何より、守ってあげたくなるような小動物のような…」

【士郎】
「さっきから、向かって来る男たちを投げ飛ばしているが…」

男三人の言葉も耳に入らないのか、琴絵はどこか恍惚とした感じさえ見られる顔でスーピィーくんを見詰める。
その横で、孝之は何も言わずに腕を組んだまま立っている。
その姿に、ある意味敬意を覚えた士郎たちだったが、とりあえず目の前の乱闘へと目を向ける。

【士郎】
「ほう。あの着ぐるみの中の奴、戦い慣れしてやがるな」

【静馬】
「ああ。しかも、ちゃんと怪我をしないように投げた後に一度引きを行ってるな」

【一臣】
「あの人たちも、受身は何とか取れているみたいだね」

加勢しなくても大丈夫と判断した士郎たちは、スーピィーくんと男たちの戦いを眺める。
周りでも、これを何かのアトラクションと思った者たちが足を止めて見ていた。
そんな中、士郎たちは男たちがスーピィーくんを取り囲んで、懐に手を伸ばしたのを見て目を細める。

【士郎】
「流石に刃物が出てきたら、周りで見ている奴ら、パニックになるかもな」

言いつつ、士郎は既に駆け出していた。
その後に、静馬、一臣も続く。
一方、囲まれたスーピィーくんも、男たちが懐へと手を伸ばしたのを見て、止めようと話し掛ける。

【スーピィーくん】
「んごー、んごー」

ただし、それしか言えないのか、男たちは馬鹿にされたと思ったのだろう、懐に掴んだそれを抜こうとする。
微かに銀色に鈍く光ソレを見て、スーピィーくんは仕方がないと言わんばかりに首を振る。
そして、一番近くにいた者に飛びつくと、それを出させる前に地面へと組み伏せ、首筋に手を当てる。
スーピィーくんの手から、微かな光が見えたような気がしたのは気のせいだったのか、兎も角、男はそれだけで意識を失う。
すぐさま立ち上がり、他のものがその手に握ったナイフを出すよりも早く片付けようとするが、スーピィーくんは失念していた。
自分の体型が、一度座り込んだら、すぐに立てないという事を。

【スーピィーくん】
(しまった。このままだったら、ビジターの方々が…。何とかアトラクションの一つとして誤魔化さないと)

必死に立ち上がろうとするスーピィーくんだったが、その動きはさっきまでとは打って変わり、酷く緩慢なものだった。
それを好機と見て取った男たちが、懐のナイフを抜こうとするよりも早く、目の前に誰かが立ち塞がる。
その人物は、懐から抜こうとしていた男の手を押さえると、

【士郎】
「あんまり物騒なもんを出すなよ。ここは、家族連れや恋人たちが楽しむ場所だぞ」

【静馬】
「一応、そっちの着ぐるみの子なら大丈夫と思って、黙ってみているつもりだったけれどね。
流石にコレは行き過ぎだよ」

【一臣】
「俺たちの前で、無闇に刃物は出さない事だ。特に、覚悟もなしにな」

それぞれに残る三人の男たちの手を押さえつけながら、静かにそう語る。
その静かだが、異様な迫力に男たちも思わず言葉を無くす。
士郎たちは言うだけ言うと、男たちの首筋に手刀を落とし、そのまま意識を奪う。
その手際の良さに、スーピィーくんも驚いたように士郎たちを見上げるが、すぐさま頭を下げる。
ただ、頭の大きさを考慮していなかったのか、お辞儀をした後に、よろよろとよろけたが。

【スーピィーくん】
「んご、んご、んごー(どうもありがとうございました)」

中の人間がうっかり喋ってしまっても、着ぐるみから出てくる声は、ちゃんと鳴き声に変換されるようだ。
尤も、そのお陰で三人はスーピィーくんが何を言っているのかは分からなかったが。

【静馬】
「えっと、ひょっとしてお礼を言ったのかな?」

その言葉に、スーピィーくんは頷く。

【士郎】
「ああ、別に気にする必要はないさ。俺たちも家族や友人を連れて楽しんでいるんだからな。
それを邪魔しようとしたこいつらに、ちょっときついお仕置きをしただけだよ」

そう言って立ち去ろうとした三人だったが、いつの間にか周りの観客たちが拍手を送っていた。
どうやら、士郎たちもアトラクションの一部と思われたようで、写真を取り出す者たちまで現われる。
その大半が女性たちなのは、彼らの容姿による所が大きいのだろう。
それを遠巻きに眺めつつ、

【琴絵】
「士郎ちゃんたち、人気者ね」

【美影】
「まあ、三人とも容姿は良いからね」

この二人に対し、桃子、美沙斗、静恵は何処か剥れたように三人を見ていた。

【一臣】
「えっと……」

困ったような顔をする一臣の横で、スーピィーくんが声援に応えるように手を振ったり、ちょっとした動きを見せる。
そうしながら、観客の注目を自分だけに集めるように三人から少しずつ離れて行く。
観客の注目が殆どスーピィーくんに移った頃、三人の背後に一人の男がそっと現われる。
三人はその事に気付きつつも、敵意がないので放って置く。
男は、そんな三人にそっと声を掛けてくる。

【男】
「今のうちに皆さんは、ここをお離れ下さい」

【静馬】
「それは助かります。けれど、この人たちは」

静馬が意識を失って倒れている男たちを視線で指す。

【男】
「それは、我々がちゃんと対処致しますので。
あなた方のお陰で、騒ぎにならずに済みました。本当にありがとうございます」

ここのスタッフと思しき者はそう言って頭を下げると、一角を指差す。
その方向へと静馬たちは気付かれないようにこっそりと歩き、この場から立ち去る。

【士郎】
「静馬、一臣、気付いたか」

【静馬】
「ああ」

【一臣】
「さっきのあの人も普通の人じゃないね」

【士郎】
「あれは何かしらの訓練を受けた奴だな。それも、忍びもしくは、それに近い、な」

【静馬】
「何で、そんな人がこんな所で働いているのかは分からないけれど、別段、悪巧みを考えている訳でもないみたいだし」

【一臣】
「単に昔に訓練を受けたとか、家がそういった所とかじゃないのかな」

【士郎】
「まあ、その可能性が高いか。考えた所で分からないし、この話はここまでだ」

そう告げた士郎に頷いて見せると、静馬たちは美影たちの所へと戻って来る。
美影の元へと戻ってきた途端、士郎はその耳を桃子に引っ張られる。

【士郎】
「いたたたっ。も、桃子、な、何を…」

【桃子】
「別に〜。良かったわね〜、綺麗な女の子たちにきゃーきゃー言われて」

【士郎】
「別にきゃーきゃー言われてないだろう。
そ、それに、あれは俺たちの所為じゃ」

【桃子】
「その割には鼻の下が伸びていたようだけど」

【士郎】
「そ、そんなはずは…」

その隣では美沙斗が拗ねたようにそっぽを向いており、静馬が必死で取り成している。

【静馬】
「美沙斗、何を拗ねてるんだい」

【美沙斗】
「別に拗ねてなんかいません」

【静馬】
「だったら、こっちを向いてくれても」

【美沙斗】
「私はただこっちを見たいから見ているだけです」

また一方では、静恵が無言のまま一臣を凝視していたりする。

【一臣】
「えっと、静恵……?」

【静恵】
「…………(じー)」

【一臣】
「えっと……」

三者三様に対応に困りつつ、何とか機嫌を取ろうと必死になる。

【士郎】
「えっと、桃子〜」

【桃子】
「何、士郎さん」

【士郎】
「いい加減、耳を離してもらえませんでしょうか」

【桃子】
「そんなに私に触られたくないって事?」

【士郎】
「いや、何でそうなるんだ…」

冷や汗を垂らしつつ、士郎は困ったように眉間に皺を寄せる。
やがて、何か思いついたのか、そのまま耳を掴む桃子の手を掴み、無理矢理引き離す。
それに文句を言おうとする桃子の口を、そのまま塞ぐ。

【士郎】
「桃子、機嫌を直してくれ。別に鼻の下なんか伸ばしてなかっただろう」

【桃子】
「んー、そうだったかも。もう一度してくれたら、はっきりと思い出すかも」

【士郎】
「そうか、なら…」

そう言って士郎はもう一度桃子に口付ける。
その横では、静馬が美沙斗の肩を掴み、強引に振り向かせる。

【静馬】
「美沙斗」

【美沙斗】
「な、何ですか」

【静馬】
「俺が好きなのは美沙斗だけだから」

静馬の言葉と、真っ直ぐな瞳に美沙斗は首まで真っ赤になりつつ、口篭もる。

【静馬】
「信じてくれ。それに、さっきのあれは放っておけない状況だっただろう」

【美沙斗】
「それは分かっていますけど」

【静馬】
「大丈夫だって。あの子たちは、ただのアトラクションだと思って、写真を撮ってただけなんだから」

【美沙斗】
「静馬さんは、自分の事を知らなさ過ぎです」

【静馬】
「そんな事はないと思うんだが…」

【美沙斗】
「いえ、あります。あの子たちの何人かは、明らかに違う目で見てました」

【静馬】
「だとしても、俺には美沙斗がもういるし。それに、さっきも言ったけれど、俺には美沙斗だけだから。
信じて欲しい」

【美沙斗】
「…わ、分かりました。その、私の方こそごめんなさい」

照れ臭くなって、静馬から顔を逸らしつつ美沙斗は早口に捲くし立てる。
それに笑みを浮かべつつ、

【静馬】
「いや、美沙斗でも焼きもちを焼くと知って、少しだけ嬉しかったかな」

【美沙斗】
「うっ。あ、あまり虐めないで下さい」

【静馬】
「ごめんごめん。でも、可愛かったから、つい」

【美沙斗】
「もう知りません」

そう言って、再び視線を逸らすが、今度のそれは先程とは違い、単に照れ隠しのようだった。

【一臣】
「静恵、どうして何も言わないんだ?」

【静恵】
「…………」

何を言っても無言のままの静恵に、一臣はどうしたものかと天を仰ぎ、何かを決心すると、
やおら、静恵の腰に手を回して抱き寄せる。
無言で暴れようとする静恵を強く抱き締め、手足を封じると、一臣も無言のまま大人しくなるのを待つ。
やがて、静恵が大人しくなったのを受け、一臣はその耳元に話し掛ける。

【一臣】
「その、機嫌を直してくれるととても嬉しい。
静恵がずっとそのままだと、その、悲しいというか、嫌だ」

一臣の言葉に、静恵はそっと手を一臣の背中へと回そうとする。
それを察したのか、拘束を緩める一臣。

【静恵】
「その、ごめんなさい」

【一臣】
「ああ、やっと話してくれたね。良かったー。
このまま静恵が話してくれなかったらどうしようかと思ったよ」

本当に安堵したように言葉を紡ぐ一臣に、静恵はもう一度、謝罪の言葉を口にするのだった。

【美影】
「皆、人目も憚らずによくやるわね〜」

【琴絵】
「まあまあ、美影さん。仲良き事は、ですよ」

【孝之】
「それに、この辺りはあまり人もいないですから、大丈夫ですよ」

言いつつ、三人はしっかりと士郎たちから離れた場所にいたりするのだが。

【美影】
「もう少ししても気付かないようなら、声を掛けるしかないわね」

【琴絵】
「くすくす。そうですね。でも、まあ、暫らくはそっとしておいてあげましょう」

言いながら琴絵はそっと孝之の肩に凭れるように頭をそっと傾ける。

【美影】
「こっちはこっちでよくやるわね。まあ、暫らくは琴絵さんの言う通り、そっとしておくとしましょうか」

美影はそっと呟くと、一人少し離れたベンチに腰掛けて、士郎たちを眺めるのだった。






つづく




<あとがき>

ボア ダルヂ!
久し振りのとらハ学園です。
美姫 「ボア ダルヂ! 今回は、前回の予告通りにテーマパーク編ね」
おう。しかも、随所にお遊びが。
と言っても、今回は2、3箇所ほどだけどね。
美姫 「ああ、このテーマパークとか、メインキャラクターとか?」
後は、中に入っている人物とスタッフの一人とか。
まあ、そんな事を知っていても知らなくても、ちゃんと話が通じるようにはなっていると思うけど…。
美姫 「さて、今回は士郎たち保護者組みのお話ね」
おう。次回は誰にしようかな。
美姫 「所で、何組に分かれてるの?」
それはお楽しみという事で。
美姫 「分かっているのは、唯子とみなみがバイキングに行ってるって事ぐらい?」
さあ、どうかな〜。
とりあえず、また次回で〜。
美姫 「まったね〜」








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