『とらハ学園』






第57話






寿と分かれた恭也たちは、胸を撫で下ろしつつ、喫茶店を後にする。
自然と、アルシェラと沙夜の腕が恭也と絡む。

【アルシェラ】
「さて、不知火の件も無事に済んだことじゃし、次はどこに行くかの」

【沙夜】
「そうですね。もうすぐお昼になるんですけれど、流石に軽くとは言え口に入れましたから」

【恭也】
「俺はあまり食べてないから、そんなに問題はないがな。
まあ、そんなに空いてもいないから、腹が空くまで、適当に周るのも良いだろう」

【アルシェラ】
「では、どこに行くかの」

そう言って、片手で器用にパンフレットを広げつつ、この周辺の地図を眺める。
そのアルシェラの目がある場所を捉え、小さく声を漏らす。
それに気付いた恭也が、どうしたのかアルシェラに訊ねた所、アルシェラはバツが悪そうな顔を見せる。

【アルシェラ】
「うむ、大した事ではないのじゃが、美由希たちを置いてきたままじゃったな」

【恭也】
「大した事じゃない事ないだろう、それは。急いで戻るぞ」

二人に腕を取られたまま、恭也は早足で戻る。
刀剣の展示場まで来ると、その出入り口に美由希たちが居た。
アルシェラと沙夜の二人は美由希たちに見つかる前に恭也の腕を離し、恭也と並んでその元へと向かう。
向こうもようやくこちらに気付いたらしく、こちらへと寄って来る。

【美由希】
「恭ちゃん、あそこに展示されていた刀に不知火って説明書きが…」

開口一番そういった美由希に、恭也は頷き返しながら、

【恭也】
「ああ、不知火だ。だけど、どうやらレプリカらしい」

【月夜】
「レプリカ?」

【恭也】
「ああ。今、ここのグランドオーナーという方と話してきて、確認した。
本物の不知火ではない」

この言葉に、一同はほっと胸を撫で下ろすと、その中から忍とノエルが出て来て恭也の腕を取る。

【忍】
「それじゃあ、心配事も無くなったことだし、次はどこに行く?
それとも、その前に何か食べる?」

既に腕の件に関しては諦めた恭也は、その言葉に言い辛そうに口を開く。

【恭也】
「あー、食事はもう少し後にしてくれるとありがたいんだが」

【ノエル】
「私はそれでも一向に構いませんが、如何なされましたか?
どこかお体の調子でも悪いのでしょうか」

【恭也】
「いや、そうじゃなくてな。実は、さっき不知火の件で話している時に、軽く摘んでしまってな。
正直、そんなに腹が空いていない」

【忍】
「へ〜、私たちだけを置いて、自分たちだけ先に食べてきたんだ〜」

【恭也】
「いや、それは。断わるに断われない状況だったというか、勝手に注文されたというか…」

その注文をしたのが、アルシェラと沙夜だと分かると色々と五月蝿いであろうと察し、その辺は伏せて説明する。

【恭也】
「別に、昼にするならそれでも構わないが」

【知佳】
「別に、もう少し後でも良いんじゃないかな」

そう言って知佳が助けを出すと、他の者もそれに同意する。
流石に分の悪くなった忍は、仕方がないと呟くと、何処に行くのか相談し始める。

【忍】
「んー、この辺なら…」

パンフレットを覗き込みながら、瑠璃華と知佳が顔を見合わせると、一つの場所を指差す。

【知佳&瑠璃華】
「ここはどう?」

二人が指した場所は、このエリアの目玉の一つでもある水族館だった。
ただの水族館ではなく、海中に通路が作られており、海の中を直に見ることが出来ると言う。
それだけでなく、水族館としての大きさも他に類を見ないものらしい。

【アルシェラ】
「うむ、水族館か。前に恭也と行ったが、またそことは違うみたいだし、良いんではないか」

この言葉に、その事を知らなかった忍や知佳が恭也を睨みつける。
理不尽な思いを受けつつも、

【恭也】
「ま、まあ、その事があったから、今こうしてここにいる訳だ」

その言葉に、忍たちが渋々と黙り込んだのを見て、瑠璃華が全員を見渡して確認するように言う。

【瑠璃華】
「では、ここで宜しいですね」

こうして、異論もなく、次の目的地が決まる。





  ◇ ◇ ◇





アンティークステーションの一角にある建物。
その建物内の、更に一角。

【真雪】
「はぁー、朝から酒が飲めるなんて、気分良いなー」

【耕介】
「本当ですね。もう、最高っす」

美味しそうに杯を傾けながら、二人は本当に気持ち良さそうな顔をして、更に杯を呷る。

【真雪】
「ずっとここに居たいぐらいだな」

【耕介】
「同感です」

【真雪】
「まあ、たった一つ不満を言うなら…」

【耕介】
「不満ですか」

【真雪】
「ああ、不満だ」

【耕介】
「それは一体、何ですか」

【真雪】
「決まってんだろー。お前が作ったツマミが無い事だろう。
まあ、これはこれで美味いから良いんだけどな」

そう言って、真雪はツマミの一つを口に放り込む。
それを見ながら、耕介は嬉しそうに口元を緩め、杯を傾ける。

【真雪】
「一層の事、厨房を借りて作ってくるか」

【耕介】
「いや、それは流石に」

そんな会話をしている横では、愛とゆうひが楽しそうに話をしている。

【愛】
「はぁー。このソフトドリンク・カクテルも結構、美味しいですよ」

【ゆうひ】
「愛さーん、愛さんは何を飲んでんの?」

【愛】
「私ですか。私のは、オレンジスカッシュというやつですよ」

【ゆうひ】
「ほうほう。それも美味しそうやね」

【愛】
「ゆうひちゃんも飲んでみます?」

【ゆうひ】
「ほんなら、一口。変わりに、うちのも愛さんに」

【愛】
「ありがとうございます。これは、何かしら?」

【ゆうひ】
「確か、キャンベルとかいうやつ」

お互いに交換すると、それぞれ一口飲む。

【愛】
「あら、これも美味しいですね」

【ゆうひ】
「うん、こっちも美味しいで」

楽しそうに飲んでる四人とは違い、残る三人は静かにジュースを口にしていた。

【瞳】
「はぁー。いつまでここに居るつもりなのかしら」

【薫】
「真雪さんの事じゃから、それこそ下手をしたら、今日一日という事もありえるかもね」

【那美】
「うぅ、私は何でここにいるんでしょうか…」

【真雪】
「ほら、そこの三人。お前ら、暗いぞ。
こっち来て、一緒に飲め」

【薫】
「真雪さん、未成年にお酒を勧めんでください」

【真雪】
「ったく、おめーはやかましいな」

【薫】
「やかましいとは何ですか。うちは、至って当たり前の事を口にしただけで…」

【真雪】
「だぁー、ごちゃごちゃとやかましい奴だな。
これでも喰らえ」

言うが早いか、真雪は近寄ってきていた薫の腕を取り、簡単に逃げられないようにがっちりと後ろから抱きつくと、
顎を上へと上げ、鼻を摘んで口を開かせ、そこへ手にしたコップの中身を注ぎ込む。
飲まなければ良いものの、それだと口から溢れさせてしまう事になり、ましてやここには周りに人の目もあり、
薫はそれを飲み干す。
それを見た真雪の手が、近くにあった瓶へと伸び、それを掴むと、同じように薫の口へと流し込む。

【耕介】
「真雪さん、それは拙いですよ!」

耕介の言葉も聞いていないのか、真雪はかなりの量を薫に無理矢理飲ませる。
飲まされた薫はと言えば、胸の内側から熱くなり、頭の奥の方がくらくらしだす。
目の焦点もどこか合わず、据わった状態で真雪を見ると、怒鳴るように口を開く。

【薫】
「な、なにふぉしゅりゅんでしゅか」

既に呂律も回っていなかった。
そんな薫を見て、爆笑する真雪に、耕介が呆れたように言う。

【耕介】
「真雪さん、笑い事じゃないですよ。
その手に持っているやつ、よく見てください」

【真雪】
「あん、これがどうしたって……。リモンチェッロだったのか、これ」

【那美】
「真雪さん、リモンチェッロって?」

【耕介】
「ああ、リモンチェッロ、もしくはレモンチェッロといって、イタリアで食後なんかに飲むお酒だよ。
イタリアでは、アルコールの強いお酒を飲んで食事を締めくくる食後酒という習慣があってね。
冷凍庫でキンキンに冷やしたリモンチェッロを少量、飲んだりするんだよ。
ソーダなんかで割っても美味しいんだよ」

【那美】
「はぁ、そうなんですか」

真雪に代わって説明する耕介の言葉に、那美は感心したように頷く。
その横で、瞳が、

【瞳】
「感心してる場合じゃないでしょう、那美ちゃん。
そんなに強いお酒を、あれだけ一気に飲ますなんて、何考えてるんですか、真雪さん」

瞳の剣幕に押されつつ、流石の真雪も少し気圧されつつ謝る。

【真雪】
「いやー、悪い悪い。まさか、リモンチェッロだったなんて気付かなかった。
でも、まあ、多分、大丈夫だろう。暫らく、そこで横にしておけば」

そう言って真雪は薫を椅子に横たえると、再び酒を飲みだす。
瞳も、これ以上は言っても無駄だと思ったのか、大人しく座り直すのだった。





  ◇ ◇ ◇





サイエンスステーションにある日本最大最長のジェットコースターの出口。
今、そこから美緒たちが姿を見せる。

【美緒】
「にははは。中々楽しかったのだ」

【リスティ】
「ああ、流石に日本最大最長というだけの事はあるね」

【なのは】
「本当に面白かったね、アリサちゃん」

【アリサ】
「ええ、もう一回乗りたいぐらいよね」

【久遠】
「くおんも楽しかった」

【楓】
「うちも楽しかったとは思うけど、もう一回はいいや」

【美緒】
「楓は情けないのだ」

【楓】
「いや、別に怖いとかやないで。単に、二回も連続で乗るのは別にいいというだけで」

楽しそうに話す一行の後ろから、疲れたような顔をした者が現われる。

【望】
「う、うぅぅぅ。わたし、もう駄目」

【美緒】
「大丈夫か、望」

ふらつく足取りの望を、美緒とアリサが支える。
その後ろでは、楓となのはが葉弓を支えていた。

【葉弓】
「あらあらあらあら。何か、まだ揺れているみたいだわ」

【なのは】
「葉弓さん、大丈夫」

【楓】
「葉弓さん、初めてでこれはちょっときつかったんじゃない」

【葉弓】
「そうかしら? でも、面白かったわよ」

その言葉に嘘はなく、乗っている間は楽しそうにしていたのだ。
ただ、降りた途端、ふらふらとしているだけで。

【葉弓】
「あらあら。降りた後でもふらふらふら〜。
本当に面白いわね〜」

【楓】
「いや、多分、それは葉弓さんだけやと思うで」

今のこのふらつきさえ楽しんでいる葉弓に、楓は呆れたように言うのだった。






つづく




<あとがき>

さて、次は誰の番かな、誰の番かな。
美姫 「真一郎あたりじゃないの?」
ふふふ、士郎たちの可能性もあるぞ〜。
美姫 「まあ、私はさっさと次を書いてくれたら、文句は言わないわよ」
うぅぅぅぅ。
美姫 「急にいじけないの! って言うか、さっさと書きなさいよ!」
わ、分かってらーい。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。








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