『とらハ学園』






第2話





閑静な住宅地から更に人気の少ない方へと進んでいくと、雑木林が見えてくる。
その雑木林を少し進み、御神、不破の家とは逆方向へと向う。
しばらく進むと、こちらも日本家屋が見えてくる。
御神、不破家よりも小さい敷地だが、庭には道場らしき物もある。
表札には神咲の名が、そしてその脇には目立たないように小さく書かれた『神咲流海鳴支部』の表札があった。
ここ海鳴は霊的に安定している事と何故か不可思議な事件がよく起きる事、その上、腕の立つ者が何人もいる。
その為、一灯流、楓月流、真鳴流、それぞれの現当主が次の当主となるであろう伝承者たちをこの地へと向わせた。
そのための名目上の表札であり、実際には門下生は一人もおらず、道場は主に住人たちの鍛練の場として使われている。
ちなみにここで暮らしている者たちは、
一灯流の伝承者である薫、楓月流の伝承者である楓、真鳴流の伝承者である葉弓と次期当主たちと、
薫の弟で表の一刀流を継ぐ和真、その妹那美と弟、北斗である。
後は彼、彼女たちの世話をするためについてきた綾野 朋美である。



朝の6時半頃、朝食までの時間を薫は庭で日課である素振りを始める。

「はっ、はっ、はっ」

薫が軽く汗をかき始める頃に楓も起きだし、庭へと出てくる。
葉弓は薫と同じ時刻に起きだし、裏庭で弓を射ている。

「薫〜、おはよ〜」

「楓、もっとしゃきっとせんね」

「そんな事言われてもまだ、眠たいし」

「はぁー、いいから早く始めんね」

「はいはい」

薫は楓に返事を返すと小太刀を取り出し薫の横で素振りを始める。
それから数分後、ランニングに出ていた和真と北斗が戻ってくる。
和真と北斗はタオルで汗を拭うと木刀を取り出し、素振りを始める。

「和真、北斗の調子はどう?」

「そうだな・・・。大分、体力もついてきてるし剣腕も上がってきているよ」

「そうか。北斗も頑張ってるね」

「そんな事はないよ。俺は霊力がほとんどないから、剣の腕を上げないと」

「大丈夫。鍛練を続けていれば強くなれるさ」

「しかし、那美にも少しは見習って欲しかね」

そう言って薫は那美の部屋があると思われる方を見上げ呟く。
その言葉に楓たちは苦笑を交わすと、すぐに鍛練に戻っていった。
それからしばらくして、一人の女性──朋美──が薫たちの前に姿を見せる。

「もうすぐ朝ご飯が出来ますからね」

『分かりました』

朋美に返事を返すと家の中へと入っていく。
薫たちは順にシャワーで汗を流し登校準備を済ませると居間へと入っていく。

「あれ、那美は?」

「そういえば、姿が見えんね」

北斗が那美がいない事に気付き声を上げる。
その時になって薫たち那美がまだ来ていない事に気付く。

「まさか、まだ寝てるとか」

「葉弓さん、幾ら那美でもそれはないと思うよ」

「和真くんの言う通りやと思うけど、なんせ那美だからなー」

楓の言葉に全員が苦笑いを浮かべる。
朋美は一つ溜め息を吐くと立ち上がり、

「薫ちゃんたちは先に食べて。那美ちゃんは私が見てきますから」

「すいません、朋美さん」

「いいから、いいから」

頭を下げる薫に軽く笑いかけながら朋美は居間を出て行く。
それから数分して、階段を慌しく駆け下りる音が聞こえてくる。

「那美ちゃん、そんなに慌てたら・・・・・・」

朋美の言葉は何かが階段から落ちる音でかき消される。

「あ〜あ。だから言ったのにねー。全く昔から変わらないねー」

「い、いたたたた」

那美は涙目になりながら立ち上がると急いで洗面所へと向う。
その後ろ姿を見ながら朋美はやれやれと肩を竦め居間へと向う。

「朋美さん、今の音は那美ですか?」

「ええ、慌てて階段から落ちたのよ」

「那美ちゃんも相変わらずね」

「ほんに、今日から高等部やと言うのに」

そんな事を言っている間に那美も居間へと入ってくる。

「おはようございます」

那美の挨拶に皆それぞれ答える。
那美はいつもの場所に座ると朝食を食べ出す。

「いただきまーす」

一口食べた所で薫が那美に話し掛ける。

「那美、もう少し早く起きたらどうね」

「んぐっ。んん、はぁー。そ、それは分かってるんだけど。
 昨日は美由希と遅くまで電話してたから・・・」

「まあまあ、薫ちゃんもそんなに怒らなくても」

「葉弓さんは甘すぎます」

「薫が厳しすぎるんだよ」

「楓、それはどげん意味ね」

「べっつに〜」

「まあまあ、薫姉も押さえて」

「そうそう、あんまり怒ってばっかりだと恭也にも相手にされなくなるよ」

「な、ななな、なしてそこで恭也の名前が出るとね」

「うん?形だけとはいえ、許婚なんやろ。まあ、そんなもんはあってないに等しいけどね」

「っく、そ、それはそうだけど・・・」

昔に親同士で交わされていた許婚の約束だったが、母の雪乃の意見によって当人同士がその気ならとなっている。
そこをつかれ、薫は押し黙る。

「し、しかし楓よりは有利な位置におるんは間違いないしね」

「!で、でも恭也は不破の伝承者候補だろ。婿になんて来れないんじゃないのかな。
 その点、うちの楓月流はそこらへん融通がきくからね」

「で、でも不破の伝承者候補は恭也だけじゃなか。月夜ちゃんがおる。だから問題はない」

「薫は恭也に御神流をやめさせるつもり?」

「そ、そげな事は言うとらん。それにそれを言うたら楓の方こそ」

「薫ちゃんも楓ちゃんも落ち着いて。それよりも真鳴流に来たらいいと思わない?」

「「はい?」」

二人を止めるどさくさに紛れてとんでもない事をさらりと言う葉弓に薫と楓の二人は素っ頓狂な声を上げる。

「ほら、そうすれば恭也さんが前面で闘って、私が弓で後方から援護するっていう理想的な形になるじゃない」

「何を言っとるとですか」

「そうやで葉弓さん」

「え、二人とも聞いてなかったの?だから、恭也さんが真鳴流に・・・」

「「そうじゃなか(くて)!」」

「和兄、止めなくていいのか」

「北斗、お前が止めてみるか?」

「・・・・・・遠慮しておくよ」

三人から少し離れて小声で話し合う二人。
もうしばらく経てば自然に沈静化するだろうと思い、ただ黙っている事に決めお互いに頷く。
しかし、加熱しだした三人に那美が油を注ぐような発言をする。

「そうか、なら私となら大丈夫なんだ。私なら薫ちゃんたちと違って次期当代って訳じゃないし」

那美がぼそっと零した言葉にすぐさま反応を見せる三人。
それを見て和真と北斗は天を仰ぐ。

「那美!なんば言うとね」

「そうやで。幾ら那美でも今の言葉は聞き逃せへんな」

「那美ちゃん、まだ寝惚けているのかしら」

先程の言い争いに那美も加わり、全然収拾がつかなくなる。

「はぁ〜。何か物凄く疲れた気がする」

「俺も」

二人は顔を見合わせると乾いた笑みを浮かべ、同時に口を開く。

「「恭也さんも大変だな」」

そんな二人の呟きもヒートアップした四人の耳には届かず、居間の畳に虚しく跳ね返り消えていく。
と、そこへ朋美が手を一つ叩き、全員を見回す。

「はいはい。朝から元気なのは良いけどね。それよりも、薫ちゃんたち。早く支度しないと遅れるよ」

そう言って柱時計を指差す。

『あっ!』

その時刻を見て薫たちは慌てて立ち上がると玄関へと駆け出す。

『朋美さん、いってきます』

「はい、いってらっしゃい」

朋美は笑いながら全員を送り出すと、食器を片付け始める。
台所の窓から見上げた空は晴れ渡り、何処までも青く澄んでいた。







つづく



<あとがき>

次はさざなみ寮編だ〜。
美姫 「いきなり次の話なのね」
おう。っと、そうだそうだ。その前にお礼を。
美姫 「そうでした。VWさん、素敵なCGをありがとうございました」
ございました〜。しかし、イメージ通りだったんでかなり驚いたな〜。
美姫 「本当よね〜。月夜と瑠璃華を描いて頂いたんだよね」
そうです。画廊のコーナーにアップしているからぜひ、見てください。
美姫 「感動よねー」
うん、うん。さて、という所で今回はお開きに。
美姫 「では、また次回ね♪」




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