『込められし思い 第6話』
深夜の鍛錬を終え、帰路につく恭也たち三人。
そのうち、冬桜が口を開く。
「兄様たち、本当にすごかったです」
「そ、そんな事ないよ」
冬桜の言葉に美由希は照れながら答える。
「いえ、とても素晴らしかったですよ」
「冬桜さんも武術をやっていたんですよね?どのぐらいできるんですか?」
「わ、私は兄様や美由希様ほどではありません。それに、私は表ばかりをしていたので」
「そうか」
「でも、一度冬桜さんとやてみたいな」
「そ、そんな。私では美由希様の相手などとてもではありませんけど務まりません」
「ふむ。俺も見てみたいな。どうだ、冬桜。今度、一度やってみないか」
「兄様がそこまで仰られるなら・・・・・・」
「そうか。じゃあ、明日にでもやってみるか」
「はい。お願いいたします」
「楽しみだね」
美由希は明日の試合を思って楽しそうに笑う。
そんな美由希を見ながら冬桜は本当に申し訳なさそうに告げる。
「あまり期待はしないでくださいね」
◇ ◇ ◇
翌日の放課後、恭也、美由希、冬桜は家に着くなり準備を整え、道場へと向う。
「では始めるとするか」
「は、はい」
「冬桜、そんなに緊張しなくてもいい」
「は、はい。分かってはいるのですが」
冬桜は静かに数回深呼吸をする。
そうしてようやく落ち着いた冬桜は美由希と対峙する。
「ではこれより御神流、高町美由希と水翠剣舞流、水翠冬桜の試合を始める」
その言葉を合図に美由希は腰に差した二刀のうち、一刀のみを抜いて構える。
これに対し、冬桜は右手に30センチ程の鉄扇を持ち、左手には小太刀よりも更に短い小刀を持つ。
美由希は相手の出方を伺うかのようにその場から一歩も動かない。
冬桜もその場を動かず、ただ時間だけが過ぎていく。
やがて、しびれを切らしたのか美由希が冬桜へと向って動き出す。
美由希の上段からの攻撃を冬桜は左の小刀で受け止め、右の鉄扇で攻撃に移る。
が、片手で美由希の斬撃を防げずに簡単に小刀を弾き飛ばされる。
「きゃぁ」
冬桜は小さな悲鳴を上げるとその場に倒れこむ。
美由希はその冬桜の首筋に背後から小太刀を突きつける。
「ま、参りました」
「・・・・・・ふぅー」
「やっぱり、美由希様の足元にも及びませんでした」
「そ、そんな事ないですよ。今回はたまたまですよ」
美由希は困ったように恭也を見る。
何とかフォローをしてくれるように目で訴える。
恭也は小さく嘆息すると冬桜に声をかける。
「確かに強くはないな。しかし、それを気にする事はない。冬桜は表をやっていて、裏はやってこなかったんだからな」
「すいません」
「謝る必要はない。なるべくなら、力なんてものは振るわないにこした事はないんだからな」
「でも、父様と母様の娘なのに武術がほとんど駄目というのは・・・」
「そんな事は関係ないだろ。冬桜は冬桜なんだから」
そう言うと恭也は冬桜の頭に手を置き、2、3度優しく撫でる。
「あっ」
冬桜は小さな声を漏らすが、目を細め嬉しそうにされるがままになる。
それを美由希は少し羨ましそうに見つめる。
やがて冬桜から手を離すと恭也は話し掛ける。
「そうだな。武術は駄目だったが、舞の方は得意だろ?だったら、そっちを見せてくれないか?」
「あ、私も見たい」
「はい!」
二人の言葉に冬桜は嬉しそうに頷くと道場の中央へと進み出る。
それを恭也と美由希は黙って見詰める。
やがて、冬桜はゆっくりと舞はじめる。
その動きは優雅で力強く、そして繊細で。
二人は時間を忘れ、冬桜の舞に魅入っていく。
やがて、冬桜は静かにその動きを止めると二人に一礼をする。
それを見て二人は時の流れを思い出したかのように動く。
「す、すごいですよ!冬桜さん」
美由希はかなり感動し、拍手をしながら冬桜に称賛の声をかける。
「ありがとうございます美由希様。兄様、どうでしたか」
「ああ、とっても良かったよ」
そう言って微笑む恭也を見て、冬桜も微笑みを浮かべる。
「さて、とりあえずはここまでにしておこうか」
「「はい」」
恭也の言葉に二人は揃って返事をすると、道場を後にした。
つづく
<あとがき>
久々に込められしを書いたような気がするな。
美姫 「でも、今回は短いわね」
確かにな。まあ、展開を変えるための幕間といった所だしな。
美姫 「展開が変わるの?」
それは秘密。とりあえず今回は冬桜が武術は駄目という事が分かればOKなのさ。
美姫 「ふーん。何か意味があるの?」
・・・・・・ないかも。
美姫 「おい!」
はははは、まあまあ。と、とにかく、また次回という事で。
美姫 「あ、こら逃げるな!じゃあ、またね」