2007年9月〜10月

10月26日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、時間を時間をくれ〜、とお送り中!>



前にもやったけれど、いきなりですが……。

美姫 「CMで〜す。って、えっ!?」







「う……、うーん、こ、ここはどこ?」

意識を失っていた髪をツインテールにした少女は、薄っすらと眼を開けていき、
目の前の光景に、一気に覚醒する。

「ちょっ、なに、なに?」

周囲を見渡して慌てたようにうろたえ始める。
自分を囲む見たこともない人達。揃ってマントを羽織っており、その手には様々な大きさの棒を持っている。
いや、人が多いだけなら特に問題はないだろう。
何せ、意識を失うまで居たはずの場所もそれなりに人は多くいたのだから。
だが、その多くの人たちがこちらを見ているという状況が少女を更に焦らせる。
それだけではない。先ほど見渡した限り、自分たちの知る建物が一切見当たらないのだ。
確かに、高い建築物は目に付いた。
だが、それは少女の知識からすれば中世の城などで時折見られる塔のようなもので、
少女が馴れ親しんだビル群とはまるで違う。
自分が座り込んでいる地面にしても、緑の草が多い茂っており、
コンクリートなどの人の手など加わっていない、自然の地面そのものである。
状況が分からずに更に混乱しそうになるも、少女は自分の傍に倒れている三人の少女を見て、
少しは気持ちを落ち着ける。三人へと声を掛け、まずは無事かどうか確かめる。
妹の安全を確認するようにその肩を揺すり、現状を整理すべく頼りになる友の肩を揺する。
そして、こんな訳の分からない状況、ある意味非常識とも言える状況下においては、
多少は役に立つ友の肩を、こちらは少々乱暴に揺する。

「つかさ、みゆき、こなた!」

「うーん、なに、お姉ちゃん」

「……どうかしたんですか、かがみさん?」

呑気な声を上げながら起き上がるのは、ショートカットにリボンをした少女と、
長いウェーブのかかった髪に眼鏡の少女の二人。
残る長い髪に、この中では年下のようにも見える少女は目を開ける事もせず、どこか気だるそうに、

「う〜〜ん、あと五分だけ……」

「寝てる場合か!」

一人起きない少女に声を荒げて突っ込みを入れつつ、強制的に起こす。

「ふわぁぁ、乱暴だなかがみんは……」

「良いから、さっさと起きなさいよね。
 起きて、この状況を見なさい!」

いつになく強い口調に、さしものこなたと呼ばれた少女も起き上がり、周囲を見渡す。
先に起き上がり、現状が把握できないつかさ、みゆきのように固まる事もなく素早く立ち上がる。

「お、おお! 何ですか、この中世な雰囲気は。
 新しいゲームのイベントか何か? いやいや〜、中々雰囲気でてるよね〜」

「いきなりそれかい!」

あまりにもいつも通りなので、ついついかがみもいつものように突っ込んでしまう。
そのお陰でようやく落ち着けたのだが、それは口にせず、今度はみゆきへと視線を向ける。

「みゆきはどう思う? どう考えてもおかしいと思うんだけれど。
 そもそも、私たちは秋葉原にいたのよ。それが、目を覚ましたらこんなの」

「確かに普通では考えづらいですよね。第一、眠らされて連れてこられたのなら、それは犯罪行為ですし」

かがみとこなたのやり取りに、みゆきもいつものように落ち着きを取り戻し、
現状を把握すべく思考する。だが、答えはやはり出てこない。
そんな中、つかさが遠慮がちに口をはさんでくる。

「あの、お姉ちゃん。多分、私たち意識を失う前に変な鏡を触ったと思うんだけれど……」

つかさの言葉にかがみはそもそもの始まりを思い返す。
学校の帰り、こなたに付き合って秋葉原までやって来た。
そこまでは問題なく、その後、こなたの買い物にも付き合った。
これもまあ、いつもの事。ただし、いつもとは違うのは、こなたが裏道へと入った事だろか。
新しい店を見つけたとか言って。
で、その路地を通り抜ける途中で、宙に浮かぶ可笑しな楕円形を見つけたのだ。

「って、思い出した! こなた、アンタがあんな訳の分からないものを触ったから」

「……おおう! あれが原因ですか?」

「そうとしか考えられないでしょうが! 訳の分からないものにいきなり手を突っ込んで!」

かがみが怒鳴る横で、つかさは泣きそうな顔でこなたを見詰める。

「そうだよ、こなちゃん。その鏡みたいなものに引っ張られそうになって、私たちとっても驚いたんだから。
 駄目だよ、よく分からないものに触っちゃ」

「何だかんだと言いながらも助けようとしてくれたんだね、かがみ〜」

つかさの控え目な提言を流し、こなたはにやにやとかがみを見上げる。
そんな視線から顔を背けて、

「そ、そんなんじゃないわよ! みゆきやつかさが助けようとしているのに、私だけ何もしなかたら、
 後で何を言われるか分からないでしょうが。だからよ、だから」

「もう、素直じゃないな〜、かがみんは」

照れるかがみを散々からかい倒し、ふとこなたは思いついたように言う。

「でもさ、私も思い出したんだけれど……。
 あの時、かがみは私のもう一方の手を掴んで引っ張りだろうとしてくれたじゃない?」

「そ、そうだったかしら?」

「そうだよ。でもさ、その後……。
 手伝おうとしたみゆきさんにつかさが転んで後ろからぶつかって、それでみゆきさんも一緒に転んだよね。
 で、そのままかがみにぶつかって、結果、私は三人に押されて……。
 確かに最初に手を突っ込んだのは私だけれど、こうして見るとさ……」

「あうぅぅ。ご、ごめんね、皆〜」

泣きそうになりながら謝るつかさをかがみが即座に慰めながら、そんな事を思い出すなという目付きで睨む。

「かがみの愛が痛いよ、みゆきさん」

「まあ、あの場合は仕方ないですよ。
 突然の事で私たちも慌ててましたから」

「いや、別に怒ってないんだけれどね。
 しかし、それらから導き出される答えは……」

みゆきやかがみが頭を抱える現状を、こなたはすぐに解答を出す。

「これはもう、異世界に召喚されたと見るべきですな。
 みゆきさんやつかさは兎も角、ラノベを読むかがみなら思いつきそうなものなのに……」

「いやいや、現実にそんな事があると考えれるはずないでしょう」

こなたへと突っ込むも、実はもしかしてと頭の片隅に思っていたために強くは出れないかがみ。
それさえも含めて分かっていると言わんばかりの笑みを浮かべ、こなたはとりあえずと改めて周囲を見渡す。
見れば、多くの人たちがこちらを注目している。

「もしかして、伝説の勇者とか? いやいや、格好からするに魔法使いっぽいよね。
 だとすると、世界征服を企む魔法使いに対抗すべく、伝説の召喚魔法で呼ばれたとか?
 で、帰るためにはエルフを脱がして送還魔法の欠片を集めなければいけないとか!?
 もしくは、もしくは……」

「はいはい、とりあえず落ち着けそこ。
 どんな経緯かは兎も角、普通の女子高生である私たちに何が出来るってのよ」

呆れたように肩を竦めるかがみ。

「もう、夢がないなかがみんは。もっと夢を持とうよ」

「夢よりも今は元の場所に戻りたいわよ、私は」

「私もお姉ちゃんに賛成かな」

「そうですね。あまり長いこと連絡もせずに留守にするのはまずいですものね」

絡むこなたに、いつものようにつかさやみゆきも話の輪に加わり、ワイワイガヤガヤとやりあう四人。
そんな四人へとこの中で一番の年長者だろうか、一人の男性が近付いてくる。

「少し良いですか? さあ、ミス・ヴァリエール契約をしなさい」

「うー、何で私の使い魔がこんな……。しかも、四人も……」

ブツブツと文句を呟きながらも近付いてくるのは一人の少女。
彼女は四人に向けて杖を振りかざし、そこでこなたがそれを遮るように口を開く。

「その前に質問! 何がどうなってるんですか?
 というか、ここは何て世界? その格好からして魔法使いだよね。
 やっぱり可愛く変身したりするの? それとも派手な攻撃魔法?
 あ、魔王とか魔物が居たり? あとはあとは……」

「ちょっと落ち着け! ほら、見なさい! 皆引いているじゃない!」

「え〜、だってさ〜、異世界だよ、異世界。こんな経験、滅多に出来ないんだよ。
 今のうちに色々と聞かないと……」

「そうそうこんな経験したくないわよ!
 って言うか、アンタ順応しすぎ! もっと困惑するなり、色々あるでしょうが!」

「はぁぁ、今時これぐらいの事で驚いてたら、オタクなんてやってられないよ。
 異世界に召喚されるなんて、定番の一つじゃない」

「だ〜か〜ら〜、それはアンタだけだっての!」

またしても始まりそうになる漫才に、少女の方が怒ったように肩を震わせ、
遠巻きに眺めている同年代の少年少女たちから揶揄する声や、笑い声が巻き起こる。
そんな中、四人に話し掛けた年長の男は目つきを細くし、さっきまでの四人の会話を思い返す。
少し黙考した後、こちらを見ている少年少女たちに先に帰るように伝え、
この場にこなたたち四人と、その男性、少女しか居なくなったところで口を開く。

「さっき、君は異世界と口走っていたようだけれど……」

「そうだよ、異世界でしょうここ?」

「なにを馬鹿なことを言ってるのよ! これだから平民は!」

「おおう、平民と言うという事は……」

こなたの期待するような眼差しに少し引きつつ、少女は自分の名と貴族だという事を口にする。

「なるほど、ルイズなんとか、ああ、もう長いな〜。ルイズで良いよね」

「へ、へへへ、平民の分際で貴族に何て口を……」

怒りに震えるルイズを無視し、かがみは話の通じそうな男、教師のコルベールへと自分たちの経緯を説明する。
俄かに信じられないと口にしつつ、コルベールは現時点での帰る方法が分からないと告げる。
これには流石のこなたも驚いた顔でルイズとコルベールを見る。

「いやー、まさか一方通行な召喚だなんて。
 全く予想外ですよ」

「流石にこの事態が大変だって気付いたみたいね、こなた」

疲れた顔でこなたへと語り掛けるかがみの声にもいつものような覇気はない。
そんなかがみたちを心配そうに見遣りつつ、こなたはいつになく真剣な顔付きを見せる。

「だって、すぐに帰れないって事は、アニメを何本も見逃すって事だよ。
 今日だって帰ってから予約するつもりだったのが、何本も。しかも、ネトゲで約束してるし……。
 ああ、居ない間に初回限定の本が出たらどうすれば。お父さんに頼もうにも、電話なんて通じないだろうし」

「結局、それなのか! ちょっ、もっと他に嘆く事があるでしょう!
 何でそう良くも悪くもマイペースなのよ!」

「そうは言うけれど、最近のアニメの本数知ってる?
 たった一度とは言え見逃せば、後で全て見るの大変なんだよ。
 それに、やりかけのゲームだって気になるし、予約しているゲームもあるのに……」

ぶつぶつと文句を言うこなたに、みゆきやつかさはようやく笑顔を覗かせる。
それを見て小さく笑うこなたを見て、かがみはもしかして、自分たちを元気付けるためにと思うも、
すぐに首を横に振る。間違いなく、さっきのは本音だろうと。
またしても勝手に話をしていた四人へ、コルベールがようやく説明を始める。
ここは魔法学院であり、今は使い魔を呼び出す儀式であった事を。
故に、四人にはルイズの使い魔になってくれないかと。
行く宛てもなく、無事に帰れる方法を探す手伝いや、それまでの衣食住を条件に、
四人は渋々ながらもそれに同意する。
尤も、一人だけ嬉々として受け入れていた者もいたが。

「それじゃあ、誰から?」

「はいはいはーい、私、私から。いやー、使い魔ってのになったら、どんな力がもらえるんだろうね〜。
 希望としてはやっぱり大剣かな? 
 いやいや、キャラ的にそれはかがみんの方が良いかな? うーん、つかさは心の読める本で、
 みゆきさんは性格はちょっと違うけれど同じ眼鏡キャラだし、電子世界へとアクセスできる杖かな。
 いやいや、この世界にはパソコンとかもないみたいだから、描いたものが実体からするペンの方かな」

「ああ、もう、ごちゃごちゃ煩いわね。さっさと終わらせたいんだから、静かにしてなさいよね」

捲くし立てるこなたを呆気に取られて見ていたルイズであったが、すぐに怒鳴りつけると契約の呪文を唱える。
そして、そのままこなたへと口付けする。

「……はい、これで終わりよ」

「…………かがみ〜ん〜」

呆気に取られた固まる三人の下へとふらふらした足取りで近付くと、こなたはかがみの腰にしがみ付く。

「うぅぅ、汚された〜」

「ちょっ! 何、人聞きの悪い事を言ってるのよ!
 だ、第一、貴族にされたんだから幸運に思いなさいよね!」

「かがみ〜ん、口直し〜」

「って、やめんか、馬鹿!」

ルイズの言葉など全く聞いていないこなたに、肩を震わせる。
杖を振りかぶり、呪文を唱えようとするも、コルベールに止められる。
と、不意にこなたが頭を押さえて蹲る。
痛がるこなたにかがみがルイズを睨みつける。

「何をしたのよ!」

「大丈夫よ、ただ使い魔のルーンが刻まれているだけだもの」

「だからって。こなた、大丈夫なの!?」

ルイズの説明はよく分からないものの、苦しむこなたの方が気になったのか、その肩に手を置く。
やがて、こなたはゆっくりと顔を上げる。

「びっくりした〜。でも、もう大丈夫だとかがみ」

言って顔を上げたこなたの額、前髪に隠れているがそこに何やら怪しげな記号が刻まれている。

「まさか、これがルーン?」

「どったの、私の顔をじっと見て。……はっ! まさか、かがみんそっちに目覚めたとか?
 は、初めてだから、優しくして……ぐあっ」

台詞の途中で脳天を押さえて転げまわるこなた。
涙に濡れる瞳で見上げれば、煙を上げるかがみの左手。

「人が心配してやっているというのに」

「うぅぅ、ちょっとした冗談なのに。で、本当はどうしたの?」

尋ねるこなたの眼前に、みゆきがポケットから取り出した鏡を見せる。

「こなたさん、ここ、額に……」

言って自分の額を指差す。
それを受けて、こなたは鏡の中を覗きこむ。

「な、何ですとー! 額に何か変なものが。
 まるで二世代に渡って活躍した超人のようなものが……」

「だから、何でアンタがそんな古いの知ってるのよ」

「いや、お父さんが持ってるから。と言うか、今のが分かったかがみもどうなの?」

そんなやり取りをする二人に、またしてもいらついた声が。

「良いから、さっさと次!」

「何でそんなに偉そうなのよ。まあ、良いわ。
 次は私よ」

言ってかがみは顔を赤くしながらルイズの前に立つ。

「ああー、かがみんの初めては私が貰う予定だったのに〜」

そんな冗談か本気かも分からない事をほざくこなたを拳で黙らせ、かがみはルイズの前に立つ。
かがみを見詰め、次いでこなたを見詰めたルイズは、こちらも少し顔を赤くして視線を逸らす。

「そ、その、そういう好きとか嫌いとかは個人の自由だから何も言わないわよ。
 だから、契約の前にそっちの子とするぐらいは待ってあげるわよ」

「……ちょっ! な、何を勘違いしているのよ!
 こなた! アンタの所為で変な誤解を与えちゃったじゃないのよ!」

「いやいや、そんなに照れなくても……」

「照れてないっての!」

「い、良いから、やるんなら早くしてよね」

「だから、しないっての!」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

叫ぶかがみの頬を挟み、こなたはそのままかがみの唇を奪う。
突然の事に動きを止めるかがみ。
その反応のなさに、こなたは面白がってかがみの口内を蹂躙する。
息が続かなくなり、苦しくなったところでかがみは我に返るとこなたを突き飛ばす。

「な、なななななな……」

顔を真っ赤にし、荒い呼吸を繰り返しながら言葉にならない声を上げるかがみ。
それを悪びれた様子もなく、こなたはにやにやと笑いながら、

「いや、あそこまで前フリされたらやらないと駄目かな〜って」

「だ、だか……し、舌……」

「いや、あまりにも反応がなかったんでつい」

「あ、あ……こ、この馬鹿ー!」

涙目になってこなたの脳天に思いっきり拳を打ち下ろすかがみ。

「ぬぐおおぉぉぉ」

地面をごろごろと転がるこなたを一瞥し、赤くなって俯くみゆきとつかさの肩に手を置いて、

「二人とも、今の事は忘れなさい、忘れてお願いだから」

「えっと、わ、私は二人がそういう関係でも今までと変わりませんから」

「わ、私も……」

「だからっ! 違うって言ってるでしょうが!
 元はといえば、貴女が!」

さっきのこなたへの仕打ちを見ていたからか、ルイズは思わず後退ってしまう。
同様に呆然としていたコルベールも我に返り、何とかかがみを落ち着かせる。
こうして、何とか二人目の契約が完了する。

「うぅ、本来なら使い魔は一匹のはずなのに、何で四人なのよ」

「仕方ありません、ミス・ヴァリエール。貴女の召喚に応えたのが四人居たのですから。
 確かに、こんな事例は聞いたこともありませんが……。
 いえ、過去に一人だけ四人の使い魔を持った……いえ、何でもありません。
 さあ、それよりも残りを」

「はい……」

左手にルーンの現れたかがみと入れ替わり、今度はつかさがルイズの前に立つ。
ようやく大人しそうな子が現れ、ほっと胸を撫で下ろす。
特に邪魔などもなく、こちらはすんなりと終わる。
つかさには右手にルーンが刻まれる。

「双子らしく、左右の手にですな〜」

さっきの制裁から立ち直ったこなたの言葉に、こちらももういつもの調子に戻ったかがみが答え、
それにつかさも加わる。そんなやり取りを背に、残る一人となったみゆきがルイズの前に立つ。

「えっと、お、お願いします」

「ええ。いくわよ……」

四人目であるみゆきの契約もすんなりと済み、みゆきは胸を押さえて蹲る。

「大変だ、みゆきさんの持病の癪が。
 どれどれ、私がさすってあげよう」

「って、その手は何だ、その手は?」

両手の指をわきわきと動かしながら、みゆきへと近付いていったこなたの襟首をかがみが掴んで止める。

「いや、ほら、冗談ですよ? もしかして、焼き餅?」

「ほほう、そんな事を言うのはこの口かしら?」

こなたの口を引っ張りつつ、かがみはみゆきに声を掛ける。

「大丈夫、みゆき?」

「え、ええ。もう収まったようです。ですが、私は皆さんみたいにルーンとか呼ばれるものは出てませんね」

手、額などを確認するも、本人の言うように何処にもルーンが見当たらない。
それを聞いたコルベールがルイズを見るが、ルイズは必死で失敗していないと訴える。

「うーん、どうもルーンが刻まれる時は、その部分が熱くなるんだよね。
 みゆきさんはどこか他の場所よりも熱くなった所ってない?」

こなたの言葉に感心するつかさやみゆきと違い、かがみは少しだけ呆れたような顔を見せる。

「勉強は苦手なくせに、こういう時だけはちゃんと見ているし、推測も出来るのね」

「そりゃあ、勿論ですよ。で、どう?」

「えっと、私の場合は胸がそうでしたね」

「おおう。どれどれ」

「親父かアンタは」

こなたの態度に呆れつつ、胸元を開けて覗き込むみゆきの後ろからかがみも見る。

(うっ)

改めてみゆきの胸を見て、自分の胸と比べて落ち込む。
そんなかがみに気付いてにやにやと笑うこなた。

「な、何よ! 言いたいことがあるのなら、はっきりと言えばいいでしょう」

「いえいえ、別に何でもないですよ」

「くっ、この……」

「あ、ありました」

コルベールが気を利かせて背中を見せる中、みゆきは自分の胸元にルーンがある事を確認する。
同様に確認したルイズは失敗していなかったと安堵するも、かがみと同じように自分の胸を見下ろす。
そんなルイズの肩にぽんと手を置くのはこなた。
実に目聡い少女である。

「ある偉い人は言いました。貧乳はステータスだと!」

「……べ、別に気になんかしてないわよ!」

言ってそっぽを向くルイズであったが、ひょっとしたら元気付けてくれたのかもと、
横目でこなたを見ながら、小さな声でお礼を言う。

「い、一応、慰めようとしてくれたみたいだから、お礼は言っておくわ。
 でも、本当に気になんかしてないんだからね! 誤解しないでよ!」

そんな反応を見せるルイズをまじまじと見た後、こなたはかがみの裾を引っ張り、
信じられないという顔を見せる。
かがみもルイズがお礼を言った事に少し驚いたようであるが、続くこなたの言葉に脱力する。

「おお、ツンデレだよ、ツンデレ。しかも、本物だよ〜( ≡ω≡.)
 こんな所で本物のツンデレと出会えるなんてついてるね〜。いやいや、異世界バンザイって感じだね」

「……何を言ってるのよ、アンタは!
 大体、ついてる訳ないじゃないの!
 私たち、帰り方も分からない異世界に来ちゃったのよ!」

「まあまあ。それは追々探していけば良いじゃん」

「本当に、アンタはお気楽よね」

少し呆れたように呟くかがみに、こなたは満面の笑みで返す。

「私一人だったら、もっと混乱してたかもしれないけれどね。
 だって、かがみやつかさ、みゆきさんも一緒だから。
 何とかなるって。もし駄目でも、四人一緒なら良いかなって」

「……な、何を言っているのよ。
 でも、まあ、確かにアンタの言う通りかもね。私も皆が居て良かったと思うわよ」

「ほうほう。やっぱり本家ツンデレは違いますな〜。
 デレですか、デレなのですか?」

「……前言撤回。アンタだけはいらないわ」

「そ、そんな、かがみん。ちょっとした、いつもの冗談じゃないですか〜」

背を向けるかがみの後を追いかけるこなた。
そんなやり取りをつかさとみゆきが見て笑う。
異世界といえど、変わる事ない日常がそこには確かに存在すると示すかのように。
勿論、この先何があるのかは分からないが、それでも四人一緒ならと四人は同時に思うのであった。

らき☆ゼロ プロローグ 「使い魔四人」







美姫 「で、行き成りCMなんていってくれて。ついつい、CMコールしちゃったじゃない」

……で、俺は行き成り制裁喰らってるんですが。

美姫 「当然でしょう」

う、うぅぅ、いやいや、ついついネタがばっと来たもんだから。

美姫 「普段からこうだと良いのにね〜」

それってつまり、普段からお前に制裁されると?

美姫 「それこそいつもの事じゃない?」

ここで否定できないなんて……。
泣いても良いですか?

美姫 「鬱陶しいから、後でね」

うぅぅ。言葉の剣が突き刺さる。

美姫 「それはそうと、いよいよ『リリ恭なの』もラストバトルね」

おう! 何とか今年中に終わりそうだな。

美姫 「頑張りなさいよ」

当たり前だ! もう一気にババンと書くぐらいの気力で。

美姫 「気力だけ、なんてオチはなしよ」

先にオチを言うのは駄目駄目だよ。
本当に駄目だな、美姫は。

美姫 「す〜〜。はっ!」

ぶべらっ!

美姫 「何か言い残す事は?」

って、言い訳とかじゃなくて、言い残す事なのかよ!

美姫 「それが言い残す事で良いのね」

んな間抜けな言葉を残す奴が何処にいる!

美姫 「良かったわね、初になれるわよ」

嬉しくもなんともねぇよ!

美姫 「はいはい、冗談はこのぐらいにしててあげるわよ」

本気だっ……いやいや、うれしいな〜。

美姫 「感謝しなさいよ」

勿論だとも!

美姫 「で、実際どのぐらい進んでいるの?」

まあまあ。

美姫 「……まさかとは思うけれど」

いやいや、ちゃんと書いてるって。
まあ、当分は長編は『リリ恭なの』中心になりそうだが。

美姫 「キリキリと仕上げなさいよ」

イエッサー!

美姫 「ふぅ、返事だけは本当に良いんだから」

あっはっはっは。
ともあれ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


10月19日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今年も後二ヶ月半しかないぞ、とお届け中!>



のぉぉぉぉぉ!

美姫 「初っ端から叫ぶな!」

ぶべらっ!

美姫 「で、何があったのよ」

いや、順番可笑しくないか?

美姫 「そう? で、何があったの?」

ああ、実は……ぶべらっ!
……な、何故?

美姫「順番が可笑しいといったから、入れ替えてみたのよ」

いや、そんなやり直さなくても……。
せ、せめて、尋ねといて、何も聞かないうちに殴るのはやめろよ。

美姫 「はいはい。おふざけはこの辺で良いわ」

いや、その言い方だと俺が一方的に悪いみたいなんですが……?

美姫 「で、さっさと言いなさいよね。ゲストを待たせているんだから」

ぬぬ、そうだった。
とりあえず、先に出てもらおう。

美姫 「そう? それじゃあ、いらっしゃ〜い」

ブリジット「お久しぶりです!」

何かご機嫌だな。

ブリジット「そ、そうですか?」

美姫 「んふふふふ〜。だってね〜」

ああ、なるほど。

ブリジット「そ、それは良いです!」

まあ、その辺を色々と弄ってはみたいが。

ブリジット「そ、それよりもどうしたですか?」

ああ、そうだった。やっと冒頭の話に戻れる。

美姫 「全く、何でこんなに長くなってるのかしらね」

いや、おまえな。とと、そうじゃなくて。
実はな、今度は頂き物の一覧表示をしている方で転送量の問題が起こった。
いやー、当たり前だけれど上限ってあるよね。
で、サーバー側から通告が来て、何とか対策はしたけれど、これで大丈夫かな。

美姫 「今は様子見ね」

おう。実際に、転送量が減ったかどうか見ないとな。
という訳で、一覧表示の方、今後どうなるか分かりませんのでご了承下さい。

美姫 「無制限の所ってないわよね」

まあ、ないだろうな。

ブリジット 「難しいお話です」

確かに。

美姫 「いや、アンタは管理する側なんだから少しは知ってないと駄目でしょう!」

あ、あははは〜。とりあえず、少し休憩にしよう。

ブリジット「そうです! またお土産を持ってきているです」

おお、ありがたや、ありがたや。

美姫 「このお土産があるのなら、今週はアンタ、意味ないわね」

え、えぇぇっ! 幾ら何でも酷い!

ブリジット「まあまあ、です」

うぅぅ、人の優しさが身に染みる。

美姫 「はいはい。馬鹿言ってないで、さっさとコールしなさい」

よっしゃ! それじゃあ……。

美姫&ブリジット「CMで〜す」

って、言わせてくれるんじゃないのかよ!







オオカミさんと鴉色のお侍さん



高校3年の激動の日々を終え、人付き合いのあまり良くなかった高町恭也くんの周りに段々と人が増え始め、
そして皆が気さくに話しかけてくれるようになった事にちょっとした喜びを感じていたそんなある日、
とある人物から依頼のような頼み事をされました。
その激動の日々の中心人物の一人であったクラスメートの月村忍さん。
まぁ、今でもある意味激動の日々なのだがその辺はふれないように。

「ねぇ恭也〜。ちょっとお使い頼まれてほしいんだけど〜」

なにやら機械をガチャガチャ弄りながらその様子をみてる恭也くんに間延びしたような声をかける忍さん。
どうでもいいけど人にものを頼む態度じゃないです。

「…………“彼女”に関係する事か?」

でもそんな事は気にしない恭也くん。短い付き合いながら忍さんの性格は理解してるようです。

「……うん。実はね……」

少し真剣な表情になった忍さんは、くるっと椅子を回転させて恭也くんに向き直って話始めました。

「ちょっとノエルを直してあげるのに力を借りたい子がいてね。その子にあって、資料を貰ってきてほしいんだ」

そう言って慈しむような目をする忍さん。
その視線の先には横たわっている一人のメイドさん。
そう。彼女は今年の夏前に忍さんがお家騒動に巻き込まれた時、
恭也くんと協力して忍さんを守りきった自動人形メイドのノエルさんです。
ただ、その時無茶しすぎてかなり大掛かりな修理になるそうですが……
ちなみにかるーく聞こえてるかも知れませんが
ノエルさんは人間で言うところの“意識不明の重体”だったりします。ようするに要手術なわけです。

「ノエルを助けてやる為に必要なら遠慮なく使ってくれ」

そんな事情を間近でみて知ってる恭也くんは二つ返事でOKです。

「……ま、まぁそんなに深刻に考えないでよ。
 絶対直せるんだし、今回行って貰ってきてほしい資料はどっちかってゆーとそのー……
 まぁ早く直す為と、直った後のノエルの為だから……」

真面目な顔で快くOKした恭也くんに対して忍さんちょっと頬を引きつらせてます。
ってゆーかなんか悪い事しちゃったなぁみたいな苦笑いはなんでしょ…


チュイィィィィィィィィンッ


じゃなくって忍さんは恭也くんが快く引き受けてくれて嬉しそうに笑顔。

「……何故天井に向けて電動ドリルを?」

「……なんとなく?」

というわけでまぁ、忍さんを守る時に協力関係になって、
ノエルさんを頼りになる人と認めている恭也くんとしては、
この一人ではろくに食事も作れない忍さんの生活面もかんが…


ヒュオッッ


「……またえらくでかいドライバーもあったものだな?」

「えへっ♪ 備えあれば憂いなしってね」

ではなく今まで主従関係以上の絆で結ばれて共に生きてきたノエルさんを早く忍さんと再会させてあげるために、
恭也くんはお使いに出かけるのでした。

「で、俺は何処にいけばいいんだ?」

「御伽花市。一種の学園都市よ」



「……ふむ。ここが御伽花市か……なにやら変わった街だな」

ちなみに何処が、という具体的な話は恭也くんには出来ません。
比較対象が海鳴と、子供の頃人間失格気味なお父さんに連れられて回った場所の記憶しかないから。
それだけあれば出来るんじゃという声もあるでしょうが、
恭也くんの場合海鳴以外の記憶はどこも生きるのに必死だった記憶しかないので比較しようがないです。

「放課後の時間に合うように来てはみたものの……迎えが来るとか言ってなかったか?」

どうやら恭也くんがここに来るのは先方さんもすでにご承知の様子。
駅まで迎えが来る事になっていたみたいですが、
放課後ともなると学生さんが一杯歩いてて誰がそうなのかわからないみたいです。

「まぁどうせあそこに行く事になることだけは間違いないし、のんびり待つか」

そう苦笑いする恭也くんの視線の先には明らかに学校の校舎に見える建物。
学生さん達っぽい人達が歩いてきた方向からおおよそのあたりをつけたみたいです。さすが人外剣士。
そうして暫く黙って立って待っていた恭也くんでしたが、
やっぱり余所者の彼に向けられる視線の数は尋常じゃなく……

「……まぁもう慣れたがな」

でもお得意の朴念仁スキル発動でそれらが好意的な視線だと脳が認識しないようです。
罪な男の子ですねぇ、まったく。
そんなこんなで恭也くんが駅前で異性からの発情期中のような視線に晒されること十数分。
いいかげんそろそろ何人かが恭也くんに襲い掛かるんじゃないかなんて心配になり始めた頃……
まぁいざ本当に襲い掛かったところで恭也くん相手では性交の見込みすらないですけど……
あ、ちなみに誤字のようですが誤字ではありません念のため。
とにかくそんな頃、

「ほらほら涼子ちゃんに亮士くん、早くするですの〜」

そんな幼い間延びした声が聞こえてきました。
声のほうに視線を向けた恭也くんの目に飛び込んできたのは……

「……赤ずきん?」

のような髪型の小柄な少女。明らかに改造されたフリル付きの制服と
その小柄な体に不釣合いなほど大きなバスケットを下げる姿はまさに赤ずきんちゃんです。
そしてその後ろから長身の凛々しい少女がかったるそうに追いかけ、
そのちょっと後ろには目元が長い前髪で隠れてしまっている気の弱そうな少年が走ってます。
息ぴったりです。

「探しながらいけよりんご! まったく……亮士、どいつだか分かるか?」

「え〜っと……あ、あの人じゃないっスか? 魔女先輩の話じゃ真っ黒い男の人って」

そういって男の子、亮士くんが指差したのは当然のことながら恭也くん。
その指の先をたどるようにあとの二人の女の子、おおかみさんとりんごさんの視線も恭也くんに伸びてきます。
そこまでくればさすがにこの三人がお迎えであることは恭也くんにもわかるでしょう。
ってゆーか恭也くんがニブいのは好意的な視線、
しかも異性からのもの限定なのでこのやり取りはちゃんと聞こえてたりします。

「遅れて申し訳ありませんですの、えっと……」

りんごさんが代表でお話するみたいです。むしろ他の二人は超攻撃的なおおかみさんと対人恐怖症で視線恐怖症なヘタレくんですから当然といえば当然ですけど。

「わざわざ迎えに来ていただき、有難うございます。高町恭也と申します」

というわけでまずはご挨拶。
どうやら三人とも特徴だけ聞いて出てきたらしいです。
というか多分魔女さんが名前を教えるの忘れたんでしょうけどね。
ともあれ礼儀正しい恭也くん。半年くらい前ならこうはいかなかったかもしれませんが、
ここ数ヶ月の出来事で劇的な変化を迎えた周囲の環境に適合するように顔に感情が出始めたりしたもんですから、
ここは当然の事のように最近出来るようになった翠屋接客スマイル。
案の定りんごさんはともかく、オオカミさんまでちょっとぽーっとしちゃってます。

「あ……ごめんなさいですの高町さん。私は赤井林檎と申しますの。
 こちらは大神涼子ちゃんと森野亮士くん。
 魔女せんぱ…もといマジョーリカ・ル・フェイ先輩と同じ御伽学園学生相互扶助協会のメンバーで、
 お迎えを仰せつかりましたの。ほら、涼子ちゃんと森野くんもご挨拶するですの」

しかしここはさすがりんごさん。すぐに立ち直って、まぁほっぺは赤いですけど、とにかくご挨拶。

「あ、すいませんっス。おれは森野亮士っス。よろしくお願いしますっス」

りんごさんに促されて先に挨拶したのはなんと対人恐怖症の亮士くん。
しかもいつもより少ししゃっきりしてます。……空気でなにか感じ取ったのでしょうか?
そしてその隣のおおかみさんはというと、

「おっオレ…じゃなくってわたし、お、大神涼子です……」

なんかみょーに畏まっちゃってました。まぁおおかみさん男らしい人が好みって言ってましたからねぇ。
雰囲気からして侍そのものな感じの恭也くんはまさに直球ど真ん中かもしれません。

「……森野君」

「……なんっスか?」

「ライバル出現ですの」

短い会話せおおかみさんの豹変っぷりを分析する二人。
まぁライバルっていってもおおかみさんが妙に意識しちゃってるだけですが。
亮士くんは……まともに勝負したら勝てないですね。

「普通にしてください大神さん。そんな畏まられるような人間じゃないですよ、俺は」

「えっ? あ、で、でも……」

「わたしって、言いづらいですよね? 俺もこういう場では“自分”と言わなければとは思ってるんですが、
 そうするとただでさえ口下手なのに余計に会話しづらくなってしまって」

なにやら乙女モードになっちゃってるおおかみさんに
恭也くんはそう言って小さく悪戯小僧のように微笑んでみせてます。
おおかみさんの緊張解そうとしてるみたいですけど恭也くん、
そんな事ばっかしてるとそのうち本当に刺され…ませんね、貴方は。

「自分が砕けて話している事をアピールして相手を解すとは……なかなかやり手ですの♪」

りんごさんはりんごさんで嬉しそうに大きくて可愛らしい瞳を輝かせてますし。
そしておおかみさんにホレてる亮士くんはというと、

「赤井さん、涼子さん。こんな所で立ち話もなんですから……」

ヘタレのクセに妙に大人な対応ですね。
そんな亮士くんに二人とも驚きつつ、でも言ってる事はごもっとも。

「気が利かないで申し訳ありませんの。
 では高町さん、魔女…じゃなくってマジョーリカ先輩のところにご案内しますの」

「はい。よろしくお願いします」

「あ、どうぞ。こっちです」

そしてテクテクと歩く事十数分。
その間おおかみさん達三人はこぞって恭也くんを質問攻めにしてます。
というか亮士くんまで初対面の恭也くんに自分から話しかけたりしてますし。
なんでも歩き出してすぐ、おおかみさんを先頭に歩くという形から隣り合わせた恭也くんに、

「君は……銃か何かを使いますね? しかもかなりの腕前だ」

と言われてから妙に仲良くなってます。
まぁ恭也くんは気配を消すの得意ですから、
亮士くんが特別意識してなければ普通以下の気配に抑えることくらいわけないらしいです。
化け物ですね。
まぁそういうわけで亮士くんからすればそこにいるのに気配が薄くて
視線も気にならない恭也くんは貴重な存在らしいです。とっても嬉しそうに話してます。

「おれの武器はパチンコっス」

「ほう? 本格的な作りだな。スリングショットというやつか」

「分かるんスか? そうっス。これで魔女先輩に貰った催涙弾とか撃つんス」

……まぁ内容はあんまり気にしないであげて下さい。はしゃいでるんです亮士くんも。
恭也くんもいつのまにか喋り方が素に戻ってますし。

「……すっかり意気投合してるですの」

「ああ……やっぱこの人強いんだろうなぁ」

「森野くんの武器、一発で見破られましたの」

おおかみさんとりんごさんはそんな二人を生暖かい視線で見守ってます。
二人とも恭也くんを亮士くんに独り占めされてちょっと寂しそうですが……あれ? おおかみさんは逆かな?

「今まで聞いた話だと……君は「亮士っス」…亮士は……戦闘時は誰かの援護をしているのか?」

お? おおかみさんが飛び込めそうな話題になってきましたよ?

「……大神さん、だったか? 彼女の援護か?」

「……なんで分かるんスか?」

「ここに居るのは三人。恐らく普段から一緒に行動する事が多いのだろうと仮定した。
 亮士がスリングショットで援護系。残る二人の内赤井さんからは正直彼女の持っている間合いが感じられない。
 ということは素人だ。そしてもう一人の大神さん。
 彼女からはこれでもかというくらい至近距離戦向きな間合いを感じる。
 恐らく徒手空拳か、使っていたとしてもナックル系かトンファーなどだろう。
 なら亮士が援護するのは彼女しかいない」

あ、亮士くんの眼が尊敬に満ち溢れてます。まぁカッコいいですからね、恭也くん。

「……すっげー……」

「……はんぱないですの……」

あ。二人とも聞いてたみたい。なんか瞳がヒーローにあった子供みたいに輝いてる。
とまぁそんなこんなで四人は御伽学園に向かって歩いていくのでした。



「……………………なんの戦隊本部かここは」

そして御伽銀行本部のほうに足を踏み入れた恭也くんの第一声がこれ。
そんな一言がすらっと出てきちゃうあたり恭也くんも着実に忍さんあたりに汚染されてますね。
ちなみにキッチンから入れちゃう辺りから推測するに多分ゴ○ンジャーあたりじゃないですかね?
鷲のマークが目印の、はんたー×はんたーの主人公のお名前な喫茶店。
そして……

「あら、お帰りなさいませ、りんごさま涼子さま亮士さま」

御伽銀行のメイドさん、鶴ヶ谷おつうさんがハタキをパタパタやりながらお出迎え。
そしてすぐに恭也に気付くと慌ててハタキをしまい、

「お話は伺っております。わたくし鶴ヶ谷おつうと申します」

「ご丁寧にどうもすみません。自分は高町恭也です。
 今日は友人の遣いでマジョーリカさんにお会いしに来ました」

「はい。ただいまお呼びしますのでこちらでお掛けになってお待ち下さい」

そしてとことこと魔女さんを呼びにいくおつうさんと、
何事もなかったように進められたソファーに腰を下ろす恭也くん。

「高町さん、メイドさんみて何もリアクションないっスね?」

「見慣れているからな。俺に遣いを頼んだ友人の家にいる」

亮士の言葉にもなんでもない事のように応えてます。
というか亮士くんが自分から話しかけるって結構違和感ありますね。
そして恭也くん、目敏くりんごさんがお茶を淹れようとしてるのを見つけました。
喫茶店員の血が騒ぐんでしょうか?

「すいません、赤井さん」

「はい、なんですの? あ、もしかしてお茶の好みとかありますですの?」

「いえ。よろしければ俺に淹れさせて貰えませんか?」

そういいながらもうりんごさんのとなりまでいっちゃってます恭也くん。行動が早い。

「お客様にそんなことさせるわけにはいきませんの」

しかしここはさすがりんごさん。そう簡単には譲りません。
でも恭也くんは闘えば負けない御神の剣士です。
たとえ女の子の押しに弱くても、そう簡単には引き下がりません。

「よろしければ迎えに来ていただいたお礼をさせて下さい。多少心得がありますので」

そういって翠屋接客スマイル。無自覚に繰り出される対女性専用核兵器みたいなもんですね。
さすがのりんごさんもこれには勝てません。

「あら? そうなんですの? それではお言葉に甘えさせていただきますの」

と髪の毛と同じ色に染まっちゃった愛らしいほっぺを嬉しそうに抑えてニコニコ笑ってます。
あ、恭也くんの勝ちみたいですね。りんごさんはテコテコとおおかみさん達の所に戻っていきます。
というかおおかみさんまったく喋りませんが…………
あ、いまだに恭也くんの事をヒーローを見るような目で追っかけてますね。

「……森野君、もしかして涼子ちゃんずっとこうですの?」

「はいっス。なんかデパートの屋上とかにこんな目の子供さんいっぱいいそうっス」

「森野君そんなとこ行ったことないですよね?
 知ったかはいけないと思いますの。……まぁ間違ってませんけど……
 あぁ〜、でもホントは可愛いもの大好きな女の子なのに
 ヒーローに憧れてみてる涼子ちゃんも萌え萌えですの〜♪
  あ、でも森野君は嫉妬心とか湧かないですの?」

「あの人相手にそんなの出てこないっスよ。それに涼子さんの目が……」

「…………まぁたしかに一目惚れとかそういうのじゃなさそうですの……ちっ」

あれ? 今りんごさん舌打ちしませんでしたか? もしかして、

亮士くん → おおかみさん → 恭也くん

みたいなとらいあんぐるなシチュを期待したり……


シュバッッ


……あの、仮にもサブヒロインな愛らしい赤ずきんちゃんが空に向かって中指おったてるのはどうかと……
あ、はい、りんごさんはそんな友達で楽しんだりする人じゃありませんでしたね。
まぁそんなこんなの間に恭也くんが紅茶を淹れて再登場。
よどみなく皆の前にカップを置いて、さりげなく砂糖の瓶まで置く辺りはさすが喫茶店の店員さんですね。

「あら、アップルティーですの?」

「ええ。それを用意してくださっていたみたいだったので」

紅茶のお話になるとおおかみさんと亮士くんは出る幕ありません。
おおかみさんは豪快に飲んじゃう人ですし、亮士くんはティーバッグでもいい人なんで。

「あ…………」

「…………おぉ」

でも今回は二人もわかるみたいですね。趣味とかじゃなくて本業の人が淹れた紅茶ですから。
そしてりんごさんは……

「…………はぁぁぁぁ……とっても美味しいですの」

と大変ご満悦。
恍惚とした顔はちょっと色っぽくもあり、でもりんごさんの体型からちょっと背徳感もでてきますね。

「御満足いただけたようで、何よりです」

そして恭也くんは3人が満足げにアップルティーを口にする姿に安心して自分のに口を付けてます。
というか亮士くんはともかくおおかみさんまで味わうように飲んでいるのはちょっと萌えますね。

「…………高町恭也さん…………是非とも欲しいですの」

あら? なにかりんごさんが良からぬ事を考えているようですよ?

「高町さん、紅茶淹れるの上手いんですね? オレなんか何度もりんごに教えられてるけど全然ですよ」

お、おおかみさん恭也くんに初アプローチ。なかなかいいアプローチの仕方ですね。

「実家が喫茶店なんですよ。なので幼い頃から教え込まれました」

「へぇ、喫茶店ですか。てっきりボディーガードとか道場主とかそんな感じかと思ってました」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………え?」

気になる沈黙の恭也くん。それもそのはず。だって、

「いや、まぁ……………………あながち間違いでもない、です」

図星でした。いやぁおおかみさん鋭い。野生の感ですね。

「父の仕事を継いで、まぁ真似事のような事をやっているもので……もちろん本業は普通の高校生なんですけどね」

開いた口が塞がらないおおかみさん達。
いやまぁ普通自分達と同年代でそんな仕事をバイトでしてる人なかなか会えるもんじゃないですよね。
とまぁそんな感じですっかり恭也くんにのまれてしまったおおかみさん達ですが、
そこに狙ったようなタイミングで戻ってきたのは魅惑のメイドさん。

「お待たせいたしました高町さま」

そしてもう一人。

「おー、ホントにカラスみたいに真っ黒だヨー」

グルグル眼鏡にとんがり帽子。長すぎるブレザーが黒いマントのように見えて、
その姿はまさに魔女っ娘としか言いようがないそんなこの女の子が、

「あちきがマジョーリカ・ル・フェイだヨー。魔女さんって呼んでヨー」

恭也くんが会いに来た人でした。
マイペースな魔女さんはまわりを完全に置いてけぼりにしてガンガン話を先に進めます。

「これが忍ちゃんに頼まれてたものだヨー。もってくといいヨー」

「有難うございます」

「気にしないでいいヨー。ちゃんと交換条件だしてるかラー」

「…………交換条件?」

嫌な予感が背筋を駆け巡る恭也くん。
それもそのはず、短い付き合いながら恭也くんは忍ちゃんの性格というか行動パターンを理解してます。
忍ちゃんが恭也くんに何か頼み事をして、そこに何か恭也くんが聞いていないことがある場合
それは殆ど恭也くんが実害を被る事になるんです。

「あれ? 聞いてないのかナー? 頭取さん、恭也さん聞いてないみたいヨー? どうするヨー?」

「それじゃあ仕方ないね? どうしようかな? どうしたいかな高町くん?」

魔女さんの問いかけに答えながら現れたのは、何故か燕尾服を着た少年。
桐木リストってここの頭取さんです。となりには秘書風の女子生徒。

「……待ってください。忍と連絡を取りますので……」

そういって携帯電話を取り出した恭也くん。
二人が今までの会話を全部聞いていた事らしいとか、突然現れた事に関しては特になにもないようです。
ってゆーか絶対気付いてましたね、この人。

『はい、もしもし忍ちゃんで「忍……」……あ、怒ってる?』

誤魔化そうとしてたらしい忍さん。
でもテンション高めに電話出たくらいで誤魔化せるような相手ではないですよ、恭也くんは。

「簡潔に聞く。俺の何を交換条件として提示した?」

「…………えっとぉ…………卒業までの時間?」

「いや、語尾を疑問系にしたところで何も変わらんぞ」

「あらあら頭取さん? それって頭取さんの事ではないですの?」

「あ、あはは? 耳が痛いかな?」

「直す気はさらさらねぇーって感じだなおい」

「直してくれるなら私の苦労の大半がなくなります」

「責任取るようになったら頭取じゃないヨー」

忍さんの声が聞こえないので恭也くんの言葉のみで勝手に盛り上がる御伽銀行一同。
おつうさんはそんな皆の横で紅茶で一休み。どうやら恭也くんの淹れた紅茶をりんごさんから貰ったみたいです。
あ、尊敬の眼差しが一組増えました。

「という事はなにか? 条件は俺が卒業までここで過ごせばノエルの修復期間が短くなると……」

『正確にはそこで魔女ちゃん達に協力すればね。科学者にとって自分の研究成果って凄く大切なのよ。
 それに今回はそっちの学校の人達も関わってるみたいで、むしろその人達の資料なんだ。
 貸し借りがモットーらしくて、要するに等価交換を求められてるわけで……』

「……それで、対価が俺か?」

『うん……詳しい事は言えないけど、魔女ちゃんが提示した条件に当てはまったのが恭也だったの』

実は魔女さんの提示した条件。それは『一番大切なもの』でした。
そこで何故恭也くんなのかは……まぁいわずもがなですね。
ちなみに普段から結構交流のある二人なので、誤魔化しは利きませんでした。

『借りるだけだヨー。それに距離を置くというのも一つの手ヨー?』

微妙にあくどいです魔女さん。

「……まぁ一年はない、か。……ノエルのためだ。仕方あるまい」

『え? じゃあ……』

「受けてやる。ただし、俺が帰る時にはノエルと二人で出迎えてくれ。それが俺からの条件だ」

どうやら話は纏まったらしいです。電話を切った恭也くんが改めて御伽銀行の皆に、

「というわけで、どうやら卒業までこちらでお世話になる事になったようです。
 皆さん、よろしくお願いします」

と一礼。さすが接客業者とも言うべき見事なものです。

「あ、ちなみに住まいは森野君の叔母さんに話通しておいたから?
 生活必需品とかその他必要なものはこっちで用意するよ?
 身柄を預かってるわけだから、不自由はさせないつもりだよ?」

根回しはもう完全に終わっていたみたいです。ようするに恭也くん、端的に言って嵌められちゃったと。
まぁ巻き込まれ体質なのはもう自覚してる恭也くんですから、もう諦めもついてるでしょう。
そして見回してみると、なにやら歓迎ムードですね皆さん。
ってなわけで卒業までの期間を御伽学園で御伽銀行のメンバーとして過ごす事になった恭也くんは……



「恭也さん、いきます」

「ああ……遠慮せず撃ってこい亮士」

亮士くんとは、その二面性にちょっと驚きながらも鍛錬仲間となり……



「恭也さん! いや師匠! オレと勝負してくれっ!」

「……それは構わんが、せめてそのねこは外してくれないか?」

「あ、やっぱり駄目か?」

「どうも緊張感が……な。ボクシングのグローブでも素手でも構わんから」

「わかった!」

「…………師匠、か…………」

おおかみさんにはいつの間にか師匠扱いされて晶二号のように付き纏われ……



「さ、恭也さん。今日もよろしくご指導おねがいしますの」

「よろしくお願いします、恭也さま」

「…………あぁ……」

「今日はシュークリームを教えてほしいですの。以前頂いたの、絶品でしたの」

「わたくしは今度是非お菓子とお茶の併せ方をご教授賜りたいです」

りんごさんとおつうさんにはお菓子や紅茶を持って追い掛け回され……



「恭也くん今度はこれ試してみるヨー。今度こそダイジョブヨー!」

「いや、明らかにおかしいだろそれ?! 何で靴からジェット噴射口が出てるんだっ?!」

魔女さんには妙な発明品を持って追い掛け回され……



「……というわけなんですよ。全く頭取ったら……ってすいません。私ばかりグチを聞いていただいて」

「いえ、構いませんよ。
 俺としても貴方とこうしてお茶をしている時だけが常識の中にいられる時間になってますから」

「……わかります」

アリスさんとはなんとなく互いの苦労を共感し合いながら……



「高町恭也といいます。さて、お客様は私共のシステムをご存知でしょうか?」

なんとか楽しくやってますとさ。



それでは、おおかみさん達に恭也くんが加わったお話のはじまりはじまり〜







おお、『オオカミさんと七人の仲間たち』とのクロス。
この作品、まだ読んでないんだよな〜。
この作者さんの『先輩とぼく』は結構好きだったから、読むかどうか悩んでいる内に、どんどん続きが出てて。

美姫 「馬鹿だわ、馬鹿がいるわ」

ブリジット「いるですか?」

いやいや、何でだ!

美姫 「気になった時に即購入。基本でしょう」

そ、それはどうだろう……。
まあ、そんな事より。

美姫 「アンタのSSの進み具合?」

いやいや、そんな事より。

ブリジット「それは大事です」

美姫 「そうよ、そうよ」

あ、いえ、そうですね、はい。

ブリジット「分かればよいです」

美姫 「ふんっ。で、進んでないという結果は明らかなんだけれど?」

ほら、もう毎週言ってるし、茶飯事となってるだろう。
だから、そんな事よりと言ったん……ぶべらっ!

美姫 「アンタの責任でしょうが!」

ま、全くもってその通り……。

ブリジット「まったく困ったものです」

頑張ってるんだけれど……。

ブリジット「言い訳です」

美姫 「その通りだわ。私たちは断固戦うわよ」

いやいや、何と。

美姫 「アンタと」

ブリジット「結果は目に見えてるです」

まあな。美姫に勝てる訳ないし……。
って、酷いよブリジット。もしかしたら、万が……億が……兆、京、垓、予に一つもないかもしれないけれど。
無量大数に一ぐらいなら。

ブリジット「その数値が既にとてつもない事に気付いているです?」

美姫 「まあ、所詮は浩って事ね」

う、うぅぅ。酷いよ……。

ブリジット「落ち込んだです」

美姫 「自分で言うのならまだしも、って所かしら」

ブリジット「どうするです?」

美姫 「まあ、どうせすぐに立ち直るでしょうから、その間に」

ブリジット「分かったです!」

美姫&ブリジット「それじゃあ、CMです」







美沙斗が休暇を利用して高町家へとやって来て三日。
深夜の鍛錬にも付き合ってもらい、美由希だけでなく恭也にとっても充実した日々が続いている。
今日も美沙斗や美由希相手の鍛錬をやり終え、帰ろうかというその時、
恭也と美沙斗は使った道具を片付ける振りをしながら目を合わせる。

(美沙斗さん……)

(ああ。誰かがいるね)

美由希は気付いていないのか、呑気に一人道具を片付けている。
だが、それも仕方ないかもしれない。
恭也や美沙斗にしても、今、ようやくその気配を掴んだのだ。
相手はかなり気配を殺す事に長けているのだろう。
そっと様子を窺うも、すぐにその気配は消え去る。
もしかすると勘違いだったのではと思わせるぐらいに、一瞬だけしか感じ取れなかった気配。
時間を掛けて道具を回収するも、仕掛けてくる様子もなく、やはり勘違いかと思ってしまいそうになる。
だが、自分だけでなく美沙斗も感じたという事が、それはありえないと恭也に考えさせる。
となれば、偶々通りかかったその筋の者だったのだろか。
偶々、鍛錬中の殺気を殺し合いの場と勘違いしたのかもと。
夜中に人気のない場所で刃物を振り回す自分たちを鑑みて、そう結論をとりあえずは出す。
勿論、暫くは警戒する事にはするが、現状ではそれ以外に何か手もあるはずもなく、
その日は恭也たちもそのまま帰路につくのだった。
それが勘違いだと分かるのに、そう時間を必要としない事になるのだが。



翌日、いつもの鍛錬場所に向けてランニングをする三人の前に立ち塞がるのは六人ほどの影。
それぞれが顔全体を覆う覆面で顔を隠し、恭也たちの前に広がる。
突然の事に驚きながらも、身構える美由希を背に、恭也と美沙斗は目を合わせる。

(美沙斗さん、遠くに……)

(ああ。恐らくは昨日の、だろうね。
 ここは恭也たちに任せるよ)

(分かりました。美沙斗さんも気を付けて)

声に出さずにほんの僅かに唇だけを動かして会話をする二人。
恭也の言葉に美沙斗は小さく頷くと同時に男たちへと走り出す。
一人だけ向かってきた事に僅かに驚きを見せるも、男たちは懐へと手を伸ばす。
そこから出てきたのはナイフ。待ち構える男たちの前で美沙斗は方向を変え、壁へと跳躍する。
そのまま壁を蹴り、男たちの背後へと降りる。
半分の男が後ろを振り返るも、美沙斗は相手にせずそのまま走り出す。
逃げられると思ったのか、二人の男が後を追おうとして、聞こえた仲間の声に思わず足を止めてしまう。
振り返れば、恭也と美由希に一人ずつ男たちは倒されていた。

「お前たちの相手は俺たちだ」

言いながら恭也は目の前の四人を観察する。
ナイフを持っているが、その扱いは全くなっていない。
どうやらこういった悪行に慣れたただの素人といった所か。
恐らくは美由希一人でも相手できるだろう。
そう結論付けるも、美沙斗と合流するために恭也も前に出る。

「美由希、刃物は使うな。後の説明が面倒になる」

「分かった」

恭也の言葉に答えながら、美由希もまた前へと出る。
ナイフを前にしても怯むどころか寧ろ前へと出てくる二人に、男たちの方が思わず後退る。
躊躇を見せる男たちに構わず、恭也と美由希はほぼ同時に地を蹴り、男たちへと向かうのだった。



恭也たちにあの場を任せた美沙斗は、微かに感じる気配の主の元へと駆ける。
向こうもこちらの意図に気付いたのか、その気配が逃げていく。

(何者かは知らないけれど、恭也たちに害をなすと言うのなら……)

気配の主を追いながら、美沙斗は走る速度を更に上げる。
その距離は徐々に縮まり、とうとう気配の主の動きが止まる。
振り切れないと悟ったのか、それとも……。

「……なるほど。誘い出されたのは私の方という訳か」

気配が動きを止めた場所は、恭也たちがいつも鍛錬をしている場所よりも少し山に向かって入った所。
ここなら、恭也たちでもすぐに駆けつける事は出来ないだろう。
加え、ここに着いた途端、気配を消す事をやめ、殺気をこちらへと向けてきているのだ。

「狙いは私だったのか」

「……狙いは御神の剣士。誰でも良かったけれど、貴女が一番強いから」

自分よりも恭也の方が強いんだけれどね、と心の中で呟きつつ、美沙斗は小太刀を取り出して構える。
あくまでも、何かを守る時の話であるし、技のきれや経験ではまだ美沙斗の方が上なのだ。
故に、鍛錬を遠くから盗み見していたのであれば、そう思っても間違いではない。
捉え難い気配を探り、繁みの向こうを見据える。
本来なら言葉など口にせず、ただ相手を倒すのだが、美沙斗は気配の主へと声を掛ける。

「何故、私たちを狙う?」

「最強の座を手に入れるため」

「それはまたくだらない。そもそも、私たちを倒したからといって、手に入るものでもないだろう」

「強いものを探して倒して行く。今までも、これからも。
 そして、今度は御神の番」

相手が話し終えるかどうかというタイミングで、美沙斗は声が聞こえてきた場所へと駆ける。
木々の中に隠れ、再び気配を消した相手の場所を探るために声を掛けたのだが、
それに相手が乗ってくれたお陰で、その場所が特定できた。
故に、美沙斗は迷わずに木々の間をすり抜け、刃を突き出す。
薄暗い森の中で金属音が鳴り響く。
月明かりさえもろくに入って来ない木々の中、
美沙斗は相手の顔も見えない暗さにも問題ないとばかりに剣戟を繰り出す。
それら全てを防ぐ気配の主。相手の獲物も同じく刃物。
反撃として繰り出される剣戟を受け、躱す内に相手の間合いを掌握していく。
どうやら相手も小太刀と同じ程度の間合い、いや、どうやら獲物は小太刀のようだ。
木々の切れ間から差し込む光に照らされたのは、美沙斗たちにとってもよく目にする反りのある短い刀、小太刀。
左肩へと振り下ろされる刃を弾き、逆に体制を崩させる。
そこへ更に一歩踏み込み、横薙ぎの一撃。
決まるかと思われたそれは、しかし相手の小太刀によって防がれる。
ただし、先程弾いた右手の小太刀ではなく、いつの間にか左手に持っていた同じく小太刀によって。

(小太刀のニ刀!?)

その事実に驚く美沙斗の動きが僅かに鈍る。
その隙に相手は地面を蹴って美沙斗から距離を開ける。
幾ら驚いたとはいえ、戦闘中だったと反省するもすぐに気を取り直して斬り掛かる。
美沙斗が繰り出す剣戟を、相手はニ刀を使って受け、弾き、流す。
それだけでなく、美沙斗の攻撃の隙をつくように反撃が出される。
ニ刀と一刀。手数の違いに美沙斗ももう一刀を取り出して応戦をする。
攻防を繰り返しながら、美沙斗はその内心で驚愕していた。
相手の強さに改めて驚いたのではない。
自分たち以外の小太刀ニ刀に驚いているのでもない。
この業界、初めてやり合うという方が珍しくもないのだ。
だとすれば、自分たちが知らない流派があっても可笑しくはない。
そんな事で戦闘中に驚いてなどいられない。それこそ、命が幾つあっても、だ。
美沙斗が驚いている理由はただ一つ。

(似ている……。いや、似ているなんてものじゃない。
 これは、この剣筋は……)

剣筋が恭也に、美由希に、そして美沙斗に似ているのである。
勿論、細かい癖などは個人差が出るし、攻め方守り方にしても違いはある。
そういう意味ではなく、大部分、基礎となる部分が似ている、いや同じなのだ。
それはつまり、目の前の主が使う流派が同じだという事。
偶然とは言えないぐらいに似通ったその動きに、美沙斗は飛針を投げて牽制した上で距離を開ける。
知らず早まる鼓動を無理矢理に落ち着かせ、目の前の相手を倒す事だけに意識を向ける。
一刀を鞘に戻し、残る一刀を持つ手を後ろへと引き絞る。
美沙斗が最も得意とし、必殺にまで昇華させた奥義。
対する相手も美沙斗同様に一刀を鞘に仕舞い、小太刀持つ手を後ろへと引き絞る。
左右反転しているものの、まるで鏡に写したかのように同じ構えを取る二人。
動揺を押さえつけ、美沙斗はこれで決めるつもりで力を篭める。
その辺りも含めた事情は後で聞けば良いと、今は目の前の相手を倒す事にのみ集中する。
開いた二人の距離、その中間辺りは空を覆う木々もなく、そこにだけ光が射す。
だが、暗闇の中に居る相手の姿をはっきりと見る事はできない。
若くも見えるし、恭也よりも上にも見える。
詮索は後だと言いながら、そんな事を考えてしまうがすぐに打ち消す。
静かに相手を見詰め、一撃を決める。
その為の隙を探す。はっきりと姿は見えないが、ぼんやりとでも輪郭が掴めるのなら、全く問題はない。
が、それは相手も同じ条件である。
対峙した両者はただ静かに、矢が弓から解き放たれるのを待つかのように。
それまで静かに吹いていた風が止み、それを合図とするかのように二人は同時に飛び出す。
御神流の奥義、射抜。両者ともに繰り出した奥義は互いの刃にぶつかる。
そこから派生した二撃目も弾き合い、三撃目。
相手が振り下ろした刃に対し、美沙斗は三撃目を放つのを止めて半歩下がる。
切っ先が眼前を通過していく。
すぐさま踏み込み、下から切り上げる。
美沙斗の刃が相手の脇腹を斬り裂くかに見えたが、その刃は何故か触れる寸前で止まる。

「……ま、まさか、君は」

月明かりに浮かんだ顔を見て、美沙斗の刃は止まっていた。
驚愕の表情を見せる美沙斗を冷ややかに見詰め返し、その影は皮肉げに笑う。

「久しぶりだね、母さん」

その言葉と同時に美沙斗は焼けるような痛みを腹部に覚える。
そこには小太刀が突き刺されており、血が流れている。
急激に抜ける力に美沙斗は膝を着き、そのまま地面へと倒れる。
それを冷ややかに見下ろし、影は、長い髪の女は小太刀を仕舞う。

「やっぱり、もう一人の男の方が強いのかな」

「ま、……待って静美」

立ち去る背中に伸ばそうとした腕はしかし、そのまま地面へと落ち、同時に美沙斗の意識も闇の中へと落ちる。
駆けつけた恭也と美由希が見たのは、血を流し倒れる美沙斗の姿であった。



「静美は、私が拾って名付け、育てた子供なんだ。
 復讐のために、御神の技を教え込んだ……。
 けれど、ある仕事の依頼を受けた時に死んだと思ってた」

美沙斗により明かされる過去の過ち。
御神の全てを叩き込まれた御神静美は、次なる標的として恭也に狙いを定める。

「あなたを倒し、私はまた最強の座に近付く」

「そんなものを何故、欲するんだ」

「……それしか、私にはないから。母さんも私を捨てて姿を消した。
 残されたのは、母さんから教えてもらったこの技だけ。
 だから、この技で……」

「違う! 美沙斗さんは貴女を捨ててなんかいない!」

届かない言葉を伝えるために、静美の思い違いを分からせるために、
そして、美沙斗の静美を思う想いを守るために、恭也は静美の前に立ち塞がる。

「私は御神の全てを知っている。無駄だよ」

「……それでも、俺は諦めない。
 御神の全てを知っていると言いながら、その力を壊す事にしか使わない貴女に負ける訳にはいかない!」

二人の御神の剣士による決着の行方は!?

もう一人の御神 近日XXX







まあ、そんなこんなで今週も終末だね。

ブリジット「幾らなんでも立ち直り早すぎです」

美姫 「まあ、浩だからね〜」

ブリジット「妙に納得です」

もしかして、馬鹿にされてる?

美姫 「そんな事ないわよ♪」

かなり怪しいが、まあ良いか。

ブリジット「あ、そう言えばケーキがあるです」

それを早く言わないか。
そんなこんなで、今週はこの辺で。

ブリジット「って、終わるです!?」

美姫 「滅茶苦茶、私用ね」

じょ、冗談だ。とは言え、そろそろお時間なのも事実。

美姫 「なら、仕方ないわね」

そうそう、仕方ないのだよ。
という訳で、本当に今週はこの辺で。

美姫&ブリジット「それじゃあ、また来週〜」


10月12日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、肌寒くもあり暑くもありと、お送り中!>



続々と新番組が始まる季節。

美姫 「深夜まで起きていられないお子ちゃまのアンタには関係ないわね」

ぐっ……。
ああ、暑い、暑い。

美姫 「変な誤魔化し方ね。でも、確かに昼間は暑いわね」

ああ。本当に。
しかし、暑さにもめげずに頑張るぜ!

美姫 「そんな訳で、さっさくだけれどCMよ〜」







それは一本の電話から始まった。
ほぼ同時に、同じ市の離れた場所へと掛かって来た電話はどちらも似たような内容であった。

「美沙斗さんが入院!?」

高町家で電話を受けた恭也は、その内容に思わず電話の相手――美沙斗の同僚である弓華にそう問い返していた。



「はい、さざなみ寮です。えっ!? 陣内さんが入院!?」

高町家に弓華から電話が掛かっているのとほぼ同時刻、さざなみ寮にも一本の電話が。
その仕事の内容を秘密にしている啓吾を思い、部下は事件に巻き込まれたと説明する。
容態が少しでも良くなれば、海鳴の病院へと移すと説明する電話の男に耕介はしつこく縋り付き、
その入院先を聞き出す。

「香港に着かれたら、今から言う電話番号に連絡してください。
 私の携帯ですので、すぐに空港までお迎えにあがりますから」

「いえ、そんなご迷惑は……」

「たいちょ……陣内さんには色々とお世話になっていますから。
 それに、慣れない土地では不便も多いでしょうから」

何度もそれを念押しし、耕介が約束するとようやく相手も納得したように引き下がる。
電話の向こうで僅かに安堵の吐息が零れるが、耕介にはその意味までは分からず、とりあえずは電話を切る。
切って、少し考え込むもすぐにリビングにとって返す。
既に耕介の話していた声を聞き、大まかに事情を察していた寮生たちは一様に表情を沈ませている。
耕介が詳しく話をしようとソファーに腰を下ろすなり、美緒が弱々しい声を出す。

「お父さんは……」

「向こうの病院に入院中らしい。その、容態もあまり良くはないみたいだ」

「とりあえず、耕介。ネコを連れて行って来い。
 流石にこいつ一人で行かす訳にも行かないだろう」

話を聞いていた真雪がそう口にし、他の面々も頷く。
耕介が電話で話をしている間に、こちらはこちらで話をしていたらしい。
真雪の言葉に素直に従い、耕介と美緒は簡単に荷物を纏めるためにリビングを出て行く。
耕介が部屋に入ってすぐ、ノックの音がしてリスティが入ってくる。

「耕介、ちょっと良い?」

「リスティ、何度も言ってるだろう。ノックしても返事する前に入ってきたら一緒だって」

いつもより多少元気がないながらも、そう言って笑う耕介。
そんな耕介にリスティは酷く真面目な表情で告げる。

「向こうに着いたら、ちゃんと電話してきた人に連絡を取るんだよ。
 後、出来る限り早く戻ってくる事」

「それは分かっているけれど、どうしたんだ偉く真面目に」

リスティのその雰囲気に思わず身構える耕介だが、この寮で啓吾の正体を知るリスティとしては、
既に今回の事事態がただ事ではないと分かっている。
だからこその警告なのだ。
だが、それをそのまま口にした所で余計な不安や心配を抱かせるだけである。
それに、こういう事は知らないに越した事もない。
だからこそ、リスティはいつものように皮肉めいた笑みを一つ見せ、

「美緒の事だから、目を離すとすぐに何処かに行ってしまうだろうからね。
 はぐれでもしたら、異国の地。そう簡単には見つけれないだろう。
 それと、耕介はこの寮の管理人なんだからさ。早く戻って仕事してもらわないとね。
 言っておくけれど、僕は愛の料理を食べるのは遠慮するからね。
 そうだね、暫くはフィリスの所にでも行くかな」

「あ、あはははは。えっと、善処します」

リスティの言葉にようやくいつもと同じとはいかないまでも、近い感じの笑みが零れる。

「そう、それで良い。
 耕介まで暗い顔をしていたら、美緒も余計に不安になるだろうしね」

リスティの言葉に耕介は素直にお礼を口にし、
それを受けたリスティは紅くなった顔を隠すように背を向けるのだった。



さざなみ寮で耕介と美緒が支度をするよりも少し前、弓華からの電話を終えた恭也は美由希の部屋へ。
そこで美沙斗が入院した事を教える。
顔を青くさせながらも気丈に振舞う美由希。

「……それで、容態は悪いの?」

「意識不明だそうだ。どうやら龍のアジトの一つを強襲して、後少しと追い込んだらしい。
 だが、そこで相手がアジトごと自爆したらしい」

「最近、小さいけれど龍のアジトを見つけたと言ってたから、それなんだね」

「いや、そこから更に情報を得て、かなり大きめのアジトだったらしい。
 恐らくはその地方を統括するぐらいの。だが、弓華さんが言うには可笑しな点があるらしい」

恭也の言葉に美由希は首を傾げる。
そんな美由希へと恭也は弓華から聞いた事を伝える。

「それだけ大きなアジトだったのに、重要な情報が一切なかったと言っていた。
 既に必要な物は全て事前に引き上げたかのようだったと」

「つまり罠だったって事?」

「恐らくな。とりあえず、美沙斗さんの入院先は聞いたから……」

「会いに行ってもいいの?」

恭也からの思っても居なかった言葉に、美由希が思わずそう尋ね返す。
それに頷きながらも、恭也は少し表情を曇らせる。

「ただ最初に言ったが、意識がまだ戻ってない」

「……うん。それでも行きたい」

「そうか。なら、荷物の準備をしておけ」

「はい!」

心配掛けないようにと元気な声を出す美由希だが、恭也はその顔に不安そうな影を見つける。
少し躊躇った後、ぽんと頭に一つ手を置いて慰めるように撫でる。
無言ではあったが、美由希は小さくありがとうと口にする。
それに気にするなとばかりにもう一つ二つだけ撫でると、恭也は部屋を後にするのだった。
自室に戻った恭也は装備一式を取り出して点検し始める。
美由希には言わなかったが、弓華から恭也へと協力してくれないかという話が持ち上がっていたのだ。
今回の件で実質、美沙斗が率いていた第四部隊に尊大な被害が出だけでなく、
警防隊副隊長である樺一号までもが一緒に行動していた為に入院中であるという。
ただでさえ人手不足にきて、今回の件で更に人手が足りなくなったのだ。
更に言うのなら、弓華が恭也に言ったように今回の件が罠だとしても、大支部一つを道連れにしているのだ。
まだ何かあると疑うのも無理もなく、万が一に備えての情報収集を現在行っているという。
故に、殊更実行部隊の手が足りないのだと。
美沙斗の事がある以上、美由希には勿論話すつもりはなく、それは弓華も同意している。
美由希はあくまでも美沙斗に会いに。数日滞在するにしても、それで良い。
恭也はそう考えていたのだが、不肖の弟子は師が持っているよりも聡く、
また師の考えを読み取るという技能においては、姉のような存在と対を成して他の追随を許さないのだ。
恭也が部屋を出て行った後、荷物を纏め始めた美由希は武装を引っ張り出してくる。
美沙斗の身を案じながらも黙々と点検をすると、
今度はどうやってこれらの装備を恭也の装備に紛れ込ませるか考える。
ばれると止められる可能性がある。
とはいえ、普通の荷物に紛れ込ませては空港で引っ掛かる。
となれば、恭也の装備品と一緒にしておく必要があるのだが。
そんな事を考えながらも、やはり頭の大半では美沙斗の事ばかり考える。
不吉な考えが浮かびそうになり、それを何度も頭を振って打ち消しながら、それを誤魔化すように、
不安を忘れるために、今は装備品をとやや強引に思考を切り替え、頭を悩ませるのだった。



薄暗い部屋、別に充分な照明がない訳ではなく、照明は満遍なく灯り等しく光を降り注ぐ。
ただ、天井に届かんばかりの大きな物体がずらりと並び、照明を遮り、その物体の近くまでは光が届かないだけ。
そんな薄暗い場所に立ち、忙しなく動き回る白衣の男。
老人というには若く、壮年と呼ぶには過ぎた白髪の初老の男。
その男の背中を睨みつけるのは、こちらは三十代前半でスーツをきっちりと着こなした男である。

「博士! 計画通りに進んではいないではないですか!」

「煩い小僧だな。進んでいるではないか。当初の予定から5%と遅れてはおらんだろう」

「5%って! この計画のために多くの……」

「落ち着け、箔圭」

「ですが!」

博士と呼んだ男に噛み付いていた箔圭を止めたのは、箔圭よりも少し年配のこれまた男である。
何か言いかける箔圭を制し、男は博士へと話し掛ける。

「博士、これ以上の遅れは勘弁してください。
 私はともかく、若い者たちを押さえるのは苦労するんですから」

「ああ、分かっておる、分かっておる。
 それよりも、あっちの方はどうなっている?」

「それでしたらご心配なく。主力となる部隊だけでなく、あの樺一号までもが巻き込まれた様子。
 暫くは前線へと出て来れないでしょう」

「そうか。ならば、安心して続けれるというものよ。
 って、こら! そこ何をしておる! 違う、違うじゃろうが!」

助手らしき男に怒鳴りつけると、その場へと走っていく博士。
既にその脳内には今まで話をしていた二人の事などないのだろう。
助手に次の指示を出し、自身もまた何かの作業を行っている。
その様子を暫く眺めた後、男は踵を返して部屋を出て行く。
その後を箔圭も慌てたように追い掛ける。
箔圭が追いついたのを視界の端で捉え、男は口を開く。

「それで、香港警防隊に新たな動きはあったか?」

「いえ、今のところはないようです。
 ただ、何人かが情報収集を始めたようですが」

「流石に優秀だな。だが、そう簡単に真実には辿り着けまい」

「そう願いたいです。
 その為に、その計画を察知されないために、わざと幾つかのアジトの情報まで流したんですから。
 しかも、今回なんて!」

「お前の気持ちも分かるが、落ち着け」

「ですが! ……今回、連中の目を逸らすために流したアジトの情報は今までと違います!
 あの地域一帯を取り締まる拠点で、その重要度も!」

「だが、小さな支部ばかりでは怪しまれるだろう。
 怪しまれないように、徐々に重要なアジトの情報を流していくというのは当初からの計画通り。
 当然、重要な書類などは全て持ち出たのだろう」

「はい、それは」

「とは言え、確かに痛いのも事実だな。
 だが、結局のところ、全て首領が決められた事だ」

「分かっています! だからこそ、あいつらに報いるためにも、
 この計画だけは何としても成功してもらわなければ……」

「若いな。博士にも言ったが、少なくとも、
 今回の件で樺一号と御神の剣士を暫くは前線に出れないように出来たのは僥倖だ。
 ……ところで、例の件はどうなっている」

「はい」

箔圭は落ち着かせるように数度深呼吸を繰り返し、再び瞳に冷静さを取り戻すと聞かれた事に答えていく。


「まず、霊刀の方ですが、これは押さえました。
 霊脈に関しては、こちらは予定通りに全ての工程の65%までこぎつけてます。
 あとは、各地の封印ですが、こちらは幾つか妨害が入りまして……」

「仕方あるまい。日本の退魔士はかなり優秀だからな。
 で、残るもう一つの方は?」

「はい。こちらも殆ど進展がありません。
 ただ、ようやく掴めた事によりますと、どうやらあの鴉と同じような獲物を持っていたらしいと……」

「小太刀と言ったか?」

「はい。こちらはまだ確証は掴んでいませんが、それもニ刀であったと……」

「……まさか、な。御神は滅んだはずだ。あの女を除いて全て。
 だが、気になるな。万が一ということもある。
 あの女という例を見ても分かるが、相当しつこい一族みたいだからな。
 まあ、良い。とりあえず、それに関しては今までと同じで構わない」

「はい」

二人の男はそんな話をしながら、他に誰も居ない廊下を進んで行く。



九州鹿児島のとある山奥、神咲一灯流本家の一室で現当主の薫は、
祖母にして前当主の和音と二人で向かい合っていた。

「さて、早速じゃが本題に入るぞ」

「はい」

和音の言葉に薫が頷き、その隣に霊剣十六夜がその姿を見せる。

「まず、現在各地で封印されておった妖魔たちの封印が解けている件じゃが、
 これはどうやら封印を解いておる者がいるようじゃ」

「封印を!?」

「ああ。故に、今は各地の退魔士と連携して封印された土地そのものを見張っておる。
 それでも、その目を掻い潜って封印を解いておるようじゃがな。
 じゃが、問題はそれだけではない。いや、恐らくはそれは囮じゃ」

「それが電話で話していた、霊脈の可笑しな動きとかいう奴じゃね」

「そうじゃ。ここの所、霊脈が可笑しな動きを、
 端的に言えば外部から強制的に干渉されたと思しき形跡が見つかった。
 元より少なかった場所では、既に枯渇しておる」

「一体、何者の仕業なんじゃろうか。目的がさっぱり分からん」

「薫の言うように、目的が見えませんね。
 妖魔の封印を解き、退魔士たちの目をそちらに向けて霊脈に干渉。
 しかし、霊脈に干渉して何をするというのでしょう。霊脈はそれだけでは何の力も意味も持ちません」

「分からん。じゃが、ここまでするような奴じゃ。
 あまり良い事ではないじゃろうな」

「海鳴には那美がいるけれど、少し心配じゃ」

「和音、海鳴はかなり大きな霊脈が一転に集中しています。
 その者の目的が霊脈ならば、いずれは……」

「ああ、姿を見せるじゃろうな。手は既に打っておる。
 海鳴には楓に数人の楓月流を率いて向かってもらっておる。
 耕介殿にも事情を説明して、御架月共々協力してもらう。
 各地の妖魔に関しては、葉弓の陣頭指揮の下、真鳴流を中心にな」

「……つまり、うちには別の案件があると?」

薫の問い掛けに上手く解答できた生徒を見るように目を細め、満足そうに頷く。

「その通りじゃ。しかも、この件は出来る限りわしと薫、お主の二人だけの秘密とするのじゃ」

和音の言葉に知らず喉を鳴らし、続く言葉をじっと待つ。
傍らの十六夜もやや表情を固くする。

「一振りの霊剣じゃ。やや特殊な霊剣でな、魔剣として封印されていた」

「いた? まさか……」

「そうじゃ。恐らくは一連の事件と同一人物だとは思うが、確証はない。
 じゃが、この霊験は何としても再び封印せねばならん。
 薫にはこの霊剣の探索にあたってもらいたいのじゃ」

和音の言葉に薫は異論もなく、すぐにその任務を引き受ける。
更に詳しく詳細を知るために和音に尋ねると、和音も詳しくは知らないと前置きして語り出すのだった。



各地で起こる様々な事件。
全ての糸はやがて一つへと寄り集う。
その中心に待つものとは一体何なのか。

とらいあんぐるハ〜ト アフター 近日……??







うーん。肩が凝ってるんだよな、最近。

美姫 「私の出番ね!」

あ、治った。うんうん、もう大丈夫だよ。

美姫 「腑に落ちないどころか、怪しさ爆発よ!」

いや、もうオチが読めてるし……。

美姫 「失礼ね。普通に揉んであげるわよ」

いや、アンタに思いっきり揉まれたら肩がつぶれますから!

美姫 「益々もって失礼ね。肩の一つや二つで」

って、おい! そこは可笑しいだろう!
何が失礼なんだよ! 肩が潰れて文句言うのが失礼なのか!?
と言うか、否定しろよ!

美姫 「……意外と人って脆いのよ」

いやいや、色々と間違ってるぞ!

美姫 「アンタが弱すぎるのよ!」

いやいやいやいや、それも可笑しいから!

美姫 「ええい、煩い!」

ぶべらっ!

美姫 「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい」

いて、いて、いてててて。
か、可愛らしく言ってもやってる事は洒落になってないぞ、おいこら!

美姫 「メロンパンおいし〜」

いや、そんなネタでしたみたいな雰囲気にもっていかれても……。
既に俺がボロボロの時点でネタでも何でもないだろう。

美姫 「?? それこそいつも通りじゃない」

……シクシク。
な、何でだろう、目からしょっぱい水が。

美姫 「はいはい、馬鹿な事はこの際良いから」

へいへい。

美姫 「ようやくリリ恭なのもラストバトルね」

おう! 何とか今年中には完結できそうだよ。

美姫 「それが終わったら、今まで停滞していた分を一気に書かないとね」

まあな。他の長編を止めているからな。

美姫 「全く、全部一日で書けば良いのに」

そりゃ無理だろう!

美姫 「はぁぁ、全く相変わらず根性無しね」

いやいや、毎回ながらそれは違うからな。

美姫 「はいはい。さーて、それじゃあ、そろそろ……」

だな。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


10月5日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、涼しくなったと思ったのにまた暑く、とお届け中!>



いやー、よくよく考えたらもう10月なんだよな。

美姫 「よく考えなくても10月よ」

いや、だからね……。

美姫 「本当に早いわね」

……う、うぅぅぅ。
泣いてない、泣いてないもんね。

美姫 「それにしても暑いわね」

だよな。もういい加減に涼しくなって欲しいものだ。
日中はまだまだ暑い〜。

美姫 「本当よね。という訳で、扇いで」

いや、今の流れで何故そうなる?

美姫 「ああ、流れとかは関係なく、ただ私がやってってお願いしてるだけだから」

……シクシク。
こんな感じで宜しいですか。

美姫 「うんうん、いい感じよ。よきにはからえ」

いや、可笑しいだろう!

美姫 「あん?」

こ、光栄の極みでございます!

美姫 「でしょう。さーて、それじゃあ、気分の良いまま……」

俺はあまりよくないんだが……。

美姫 「CMよ〜」

……やっぱり聞いてる訳ないですね。







「恭介たちが帰ってきたぞ」

夜中に突如聞こえた叫び声。
その声に反応するように、とある部屋の二段ベッドから飛び降りる一つの大きな影。
影の動きに気付き、それまで眠っていたもう一つの影が身を起こす。
まだ寝ぼけたままの眼で、大男を見上げる。

「どうしたの真人」

「戦いだ」

真人と呼ばれた少年は、まだ眠たそうにしている少年――直枝理樹へとそう返すと、部屋を出て行く。
その背中を暫くぼうっと見送り、次いで少年も慌ててベッドから起き出す。

「ちょっ、戦いって何処で!?」

「ここだ!」

「ここって……ここ!? この寮でってこと!?」

廊下へと顔を出しながら尋ねる理樹へと返って来るのは、これまた短い言葉一つ。

「ちょっと待ってよ。何でいきなり」

「行き成りじゃない。やっとだ。あいつらが帰って来たんだよ」

再び口を付いて出た疑問に、真人はようやく足を止め獰猛な笑みを張り付かせたまま振り返り、
それだけを言い置くと再び背を向ける。
それでも大よその事は理解できたのか、理樹は慌ててその後を追う。
真人に遅れること十数秒、食堂に着いた時には真人の姿は既に野次馬の向こうにあった。
真人と向かい合うように立つ剣道着の男の姿を認め、理樹は人を掻き分けて前へと進む。

「ちょっとごめん」

理樹が進む間に、真人が剣道着の男――謙吾へと殴りかかる。
それを軽い身のこなしで躱し、逆に手にした竹刀を振るう。
周囲の野次馬たちから感嘆の声が上がるのを聞きながら、理樹はやっとの思いで人垣を抜け出す。

「二人ともやめてよ。と言うか、誰か止めてよ!」

理樹の声も聞こえていないのか、ハイレベルな喧嘩を繰り広げる二人。
困ったように周囲に助けを求めるも、あっさりと理樹が止めろと言い返される。
その通りではあるのだが、片や筋肉の塊とも言うべき大きな真人。
片や、長身ですらりとしているが無駄な贅肉のない引き締まった武道家の身体をしている謙吾。
この二人の身体能力の高さは、幼馴染である理樹はよく知っており、自分では止めれないと分かっている。
だから、理樹は二人を止めるべくある人物を探す。
二人が喧嘩をするのは、その人物が居る時に限ると約束させられているから、逆を言えば喧嘩をしている今、
その人物が何処かにいるはずだと。
更に言えば、今まで就職活動で留守にしていた為、二人――主に真人の方にストレスが溜まっているようで、
そう簡単には止まりそうもない。

「あれ、恭介は? 恭介をしらない?」

自分たちのリーダーでもある人物の姿を探して周囲に尋ねると、暫くして野次馬の一人が床を指差す。

「多分、何処かその辺で寝ているはずだぞ」

「そんなー」

野次馬の声に悲壮な声を上げ、周囲を見渡すも見えるのは野次馬たちの足ばかり。
すぐには見つけれないと判断し、恭介を見つける事は諦める。

「恭也、恭也は?」

「ここだが?」

「うわっ!?」

行き成り背後に現れた恭也に思わず悲鳴を上げる。

「むっ、行き成り失礼だな」

「だ、だっていきなり後ろから現れるから驚いたんだよ」

「それは悪かった。で、俺に何か用だったんじゃないのか?」

「そうだった。二人を止めてよ!」

理樹の言葉に恭也は前を向き、謙吾と真人のやり取りを見詰める。
別に放っておいても問題ないようにも思うのだが、理樹が止めたがっているのに加え、更に時間も遅い。
それらを踏まえて恭也は二人の間に割って入る。

「とりあえず、今日はここまでにしておけ二人とも」

左右の手で謙吾の竹刀と真人の拳を受け止め、恭也が仲裁に入る。
流石の二人も恭也の言葉にはそう逆らえず、渋々ながらも拳を収めるが、
やはり視線は鋭く相手を睨みつけたままである。
煮え切らない感じの二人にどうしたものかと恭也が考える間に、いつの間にか起き上がった恭介が右手を上げる。

「よし、こうしよう」

また始まったと恭也は頭を抱えつつ、半眼で恭介を見る。

「また可笑しな事を思いついたんじゃないだろうな。
 流石の俺も徒歩で東京はこりごりだぞ」

「確かに、それは失敗した。しかし、仕方なかったんだ。
 お金がなかったんだからな」

「いや、俺はあったが……。まあ、今更言ってもどうしようもないからそれは良い。
 で、今度は何を思いついたんだ」

呆れたような恭也の声に我が意を得たりと笑みを一つ見せると、嬉々として恭介は思いついた事を口にする。
こうして、男子寮の夜は深けていく……。



「よし、そういう訳で野球をしよう!」

「……何がという訳なんだ、恭介」

「恭也、今ここで話の腰を折るなよ。本来なら、今からOPへと突入という感じだったんだぞ」

「いや、そんなのないから!」

恭介の言葉に理樹が思わず突っ込みを入れれば、恭介は満足そうに親指を立てて返す。

「とりあえず、またいつもの事というのはよく分かった」

「それこそ今更だよ。だって、恭介なんだよ」

「そうだったな」

恭也と理樹が言葉を交わす間も、恭介は手にした野球のボールを弄る。

「まあ、そういう訳で放課後に部室に集合だ!」

「いや、部室って……」



――新たに始まる日常



「そういう訳で、まずはメンバー探しをする事になったんだが。
 聞いているか鈴。オーバー」

「聞いているぞ、オーバー」

理樹と真人の部屋。時刻は既に夕食も既に終えた夜。
テーブルと名付けられた箱を囲み、恭也たちは目の前のスピーカーモードの携帯電話を見詰める。
電話の相手は恭介の妹の鈴である。

「では、ミッションスタート!」

「それは、あたしがするのか?」

「さっきも説明しただろう?」

「何もしてないわ、ボケェ!」

尽かさず返ってくる鈴の言葉に、恭介はそんなバカなと信じられないような表情を見せ、
その場に居る恭也たちを見る。
が、誰もが鈴の言葉に同意するように頷く。
恭介以外の者が聞いたのは、ただ野球のメンバーを集める相談をするという事だけである。
で、部屋に来るなり鈴に携帯電話を渡し、女子寮へと戻らせたのだ。
その間、何の説明もされていない。

「こいつはうっかりしていたぜ。なら、今から説明するぞ。
 ずばり、鈴、お前は今から俺たちリトルバスターズに新たな助っ人を加えるべく行動するんだ」

「嫌じゃ」

「嫌じゃ、ではない。既にミッションは始まっているんだ」

「知るか、ボケェ!」

「恭介、人見知りのする鈴に行き成りは無理だよ」

理樹の助けるような発言を受け暫し考え込む。

「よし、ならまずは寮に入り、最初に会った人に声を掛けろ」

「無理」

「頑張れ」

「だって、何を言ったら良いのかわからん」

「そうだな。こんにちは、ってのはどうだ」

「いやいや、今は夜だからね、恭介」

つかさず入る理樹の突っ込みに頷く恭介を見て、今度は真人が口を開く。

「なら、今日も良い筋肉だな。ってのはどうだ」

「それ絶対に可笑しいから! それに初対面の人だったらどうするんだよ!」

「なら、月夜の晩ばかりだと思うな、か」

「謙吾も可笑しいから、それ! 何、その物騒な台詞は!
 恭也も何か言ってやってよ!」

「ふむ。……今宵の小鉄は血に飢えている、が良いんじゃないか」

「「「それだ!」」」

「それなのか? オーバー」

恭也の言葉に三人が指を指しながら賛同し、それを聞いていた鈴がそう尋ねる。
途端、理樹が携帯電話に向かって怒鳴るように言う。

「駄目だよ! 一番、言っちゃ駄目だからね、鈴!」

「じゃあ、どうすれば良いんだ? オーバー」

「あ、あははは。とりあえず、最初は普通に挨拶で良いかな、理樹?」

鈴の隣から美由希が理樹にそう伺いを立てる。
ようやくのまともな意見に理樹は一も二もなく頷く。

「それでお願い、美由希。後は野球に興味があるかどうか聞いて……」

「了解。オーバー」

「いや、携帯電話だから別にオーバーはいらないんだけれど」

疲れたように言う理樹に、美由希が気遣うように言う。

「頑張ってね、理樹。恭ちゃんが可笑しな事を言うだろうけれど、もうそれは病気として諦めて……」

「鈴、更に指示だ」

美由希の言葉を遮り、恭也が鈴へと指示を出す。

「鈴は美由希を連れて寮内へと潜入。
 しかる後、誰かと接触。その際、美由希を囮としてその人物の前に押し出せ」

「了解、オーバー」

「って、了解しないでよ、鈴!
 恭ちゃんも鈴に変な事を吹き込まないで!」

「いや、でも同じ人見知りでも美由希の方がまだ鈴よりはましだから、それはそれで有効かもしれないよ」

理樹のフォローするような言葉に、恭也はその通りと告げるも、美由希ははっきりと理解していた。
絶対に、そんな事を考えてなんかいなかったと。
だが、それは口にださずに、出来れば二人で一緒にと告げる。

「まあ、そっちの方が良いかもね。二人いれば、何かあった時にお互いにフォローも出来るだろうし……」

「そうだな。それじゃあ、二人で頑張って部員を獲得してくれ。
 ああ、美由希。一応、鈴に声を掛けさせてくれよ」

「分かったよ、恭介。その間、私は隣で黙ってるよ」

「何でだ!? 美由希も一緒に話せ!」

恭介が鈴の人見知りを何とかしたいと思っているのを知っている美由希は、何と言って誤魔化すか考える。
だが、中々良い案が浮かんでこない。それを察したのか、恭也が鈴に話し掛ける。

「鈴、美由希はその間、別の指示を今から与えるんだ」

「別の指示?
 ……あ、オーバー」

「いや、だからいらないって」

忘れていたのを慌てて付け加える鈴へと、思わずといった感じで突っ込みを入れる理樹。
ある意味、条件反射とも言える反応に苦笑しつつ、恭也は平然と続ける。

「とりあえず、美由希。お前は鈴の横で踊ってろ」

「了解! 華麗に踊るよー!
 ……って、それじゃあ、ただの変な人だよ」

「大丈夫だ。そんな事をしなくても、元から変な人だから」

「ひ、ひどっ!」

しっかりと、さっきの美由希の沈黙の意味を感じ取っていた恭也は、ここぞとばかりに攻撃するのを忘れない。



――それは騒々しくも楽しい日々



「という訳で、恭也。協力しろ」

「前振りも何もなしで、本当に行き成りだな、恭介」

「あはは、細かい事は気にするなよ」

「いや、全く事情が見えてこないんだが?」

「ああ、それは今から説明する」

「先にそっちをしろ、そっちを」

「今やっているバトルランキングの事なんだが、お前個人としての参加とは別に、
 隠しキャラとしてこの仮面を被って、マスク・ザ・斉藤として……」

「断る!」

「なぜだ! この最強の称号をお前に譲ろうと言うのに!?」

「いらん!」



――幼少の頃に結成された、悪と戦う七人の正義の味方、リトルバスターズ



「恭介X理樹も良いですが、恭也X理樹も捨てがたいです」

「えっと、西園さん?」

「何でもありません」



「どれどれ、お姉さんがちょっとだけ教えてあげよう」

「ぬわっ! は、離せくるがや!」

「りんちゃんも、ゆいちゃんも仲良しさんだね〜」

「あーん、姉御だけずるいですよ。私も鈴ちゃんに抱き付く〜。ほら、小毬ちゃんも」

「うん♪」

「や、やめろー、ぼけぇ!」



「わふ〜。な、何をするですか。というか、誰ですか?」

「む、すまん。つい」

「あははは、ついで頭を撫でるのは流石にまずいよ恭ちゃん」

「悪かったな、クド」

「いえ、別に構わないのですが、行き成り後ろからされたので驚いてしまったのです。
 はっ! ハロー、恭也。ハブ・ア・ナイスデイ」

「む。……アイ・ドンノウ・イングリッシュ」

「わふ〜」

「むむ」



――新たに加わるメンバーたち


「俺たち、リトルバスターズ!」

「恭介、行き成りどうしたの?」

「いや、何となく言わなければいけないような気がしてな」

「またいつもの持病だろう。理樹、放って置いても大丈夫だろう」

「う、うん」



変わる事なく続く日常を望んだ少年と、そんな彼を取り巻く人たちの何でもない日常のお話。

リトルハート 近日XXXX?







暑いとは言うけれど、朝晩はそうでもないよな。

美姫 「確かにね。まあ、こういった気温の変化で風邪をひいたりするのよね。
    私も気を付けないと。か弱い私なんて、こんな変化にはとても……」

あはははは〜。嘘ばっかり!
風邪のウィルスの方が裸足で逃げていくだろう……なんて事は当然ありませんです、はい。

美姫 「バカのアンタは風邪をひかないかもしれないけれど、私はか弱い乙女なのよ?」

そ、そうでございますです。

美姫 「それで、アンタのSSの方はどうなのかしら?
    私のことをバカにするんだから、かなり進んでいるんでしょうね?」

ば、バカにはしてませんが。えっと、進み具合は、えっと……。

美姫 「くすくす」

あ、あはあは。

美姫 「この後が楽しみね♪」

全くちっとも!

美姫 「た・の・し・み・よね?」

……はい。

美姫 「それじゃあ、今週はこの辺にしておきましょか」

……う、うぅぅ、はいでございますですお嬢様。
そ、それでは、今週はこの辺で。

美姫 「それじゃあ、まったね〜」


9月29日(土)

ピンポンパンポ〜ン
突然ですが、お知らせで……ぶべらっ!

美姫 「何がお知らせよ! このバカ! バカ! バカー!」

ぶべらぼえぇぇー!

美姫 「このバカが昨日、雑記をアップするのを忘れてました!」

う、うぅぅ、すいません。ちゃんと書いてたのに、アップだけ忘れてました」

美姫 「急いでアップしなさい!」

今からするっての!

美姫 「そんな訳で、美姫ちゃんのハートフルデイズはこの後すぐ!」

う、うぅぅ、すみません〜〜(涙)
み、美姫、許して……ください、ごめんなさい。
い、いや、いやー! 剣で内臓グリグリはや〜め〜て〜。

美姫 「あ、あははは。錯乱してるみたいなのでこの辺で。
     決して、朝からそんな事をしてた訳じゃないですよ! うん、ないない」


9月28日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、朝晩は涼しくなったのに〜とお送り中!>



ぶべらっ! …………って、開始早々何をする!?

美姫 「お仕置き」

いや、そんなあっさりきっぱりすっきりと言われましても。

美姫 「あのね、アンタ今週何してたの?」

あ、あははは……。

美姫 「笑って済むと思う?」

ご、ごめんなさい。

美姫 「どうやら、今日は後でたっぷりお仕置きが必要なようね」

あうあう……。お、お手柔らかに。

美姫 「はぁぁ、謝る暇があるのなら手を動かして欲しいわ」

う、うぅぅ。何も言い返せません。

美姫 「とりあえずはCMで〜す」







海と山に囲まれた都市冬木市。
特に観光明媚という訳でもなく、何処にでもある都市の一つである。
何も知らない普通の人からすれば。
だが、そうではない者たちにとってはただの都市ではなく、半年以上前に既に終結したとはいえ、
ここでは聖杯を巡る戦いが繰り広げられていたのだ。
そして、その時に召喚され、本来なら役目を終えて消えるはずの力持つ英霊、サーヴァントが今もなお残っていた。
とは言え、それを使役する者もサーヴァント自身も大それた野望を抱いて現世に留まっているのではなく、
単に何でもない日常を過ごしていた。
冬木にある、一軒の日本家屋――衛宮家で。
夏も終わりを告げ、すっかり秋らしくなったある日曜日。
庭にある紅く色づいた木々を眺めながら、この家の主、衛宮士郎はお茶を片手に縁側に腰掛けて寛いでいた。
午前中に家事を全て終え、魔術の師匠である凛からは休暇が出ており、
剣の師匠であるセイバーとの打ち合いは夕方から。
そういう訳で、空いた時間をただのんびりとこうしてお茶を片手に過ごしている。
だが、彼のそんな平穏な時間はすぐに終わりを迎えることとなる。
たった一人の乱入者によって。

「おに〜〜い〜〜ちゃ〜〜ん〜〜!」

廊下の向こう、曲がり角からそんな声と共に、銀髪の少女が士郎目掛けて走り寄る。

「イリヤ、廊下をそんな風に走る……ぐはっ!」

注意する言葉はしかし、士郎へと後数歩と迫ったところで勢い良く床を蹴り、
士郎へとダイブしたイリヤのボディスープレックスに潰される。
一瞬意識を手放しかける士郎に気付かず、イリヤは倒れた士郎の上に乗ったまま、
甘えるように頬を胸に擦りつける。

「イリヤ、あ、危ないからもうしちゃ駄目だぞ」

「え〜」

不満そうに頬を膨らますイリヤの頭を苦笑混じりに撫でながら、士郎はやっとの事で身体を起こす。
と、その背後から騒ぎを聞きつけたセイバーも姿を見せる。

「士郎は甘すぎます。と言いたいですが、今回はそれよりも……」

言って鋭い眼差しで士郎を見下ろす。
思わず背筋を正す士郎に、

「あの程度の攻撃、軽く避けてもらわなければ困ります」

「いや、避けたらイリヤが怪我するかもしれないし……」

「お兄ちゃん……。嬉しい! そこまで私の事を!」

士郎の言葉に感動を全身で表して抱き付くイリヤ。
それを見てセイバーの顔が強張る。
重くなり始めた空気を敏感に察知し、士郎は慌てて立ち上がると、

「そろそろおやつにしようか。ほら、俺はお茶の用意をするから、セイバーとイリヤは居間に」

おやつという言葉に僅かに口元を綻ばせ、けれども少し複雑そうな顔のままセイバーはとりあえず居間へと向かう。
その後を大人しくイリヤも従うのを見て、士郎は胸を撫で下ろすのだった。
お茶の用意をしていると、まるで計ったかのように凛に桜、ライダーも居間へと姿を見せる。

「士郎、何か食べるものない?」

「士郎、申し訳ありませんがお茶を頂けますか」

凛とライダーの言葉に笑って応える。

「丁度、おやつにする所だったから座って待っててくれ」

士郎の言葉に従って定位置に座る二人。
対し、無言のまま桜も座る。
いつもなら士郎を手伝おうとするのだが、今日は疲れているのかそのまま座る。
別に咎めたりするような事でもなく、士郎はお茶の準備をする。
と、そんな士郎の耳に凛たちの声が聞こえてくる。

「ちょっと桜、あなた顔色悪いわよ」

「桜、疲れているのなら休んでいた方が」

その言葉に士郎も桜の身を案じ、手早くお茶の用意をすると皆のところへと向かう。
お茶とおやつをテーブルに出しながら、士郎も桜の方を見れば、確かに皆が心配するように蒼白い顔で、
今にも倒れそうであった。

「桜、体調が悪いのならライダーの言うように休んだ方が良い」

「だ、大丈夫です。ちょっと気分が優れないだけで……」

だが、桜の言葉をそのまま信用できる者は誰も居ない。
それほどまでに桜の顔色は悪く、士郎は熱がないか手を伸ばす。
と、それを避けるかのように桜の身体が横へと流れ、そのまま倒れる。

「桜!」

慌てて皆が桜の元へと駆け寄る。
士郎は桜の身体をそっと抱き起こして呼びかけるも、桜はただ荒い呼吸を繰り返すだけで反応がない。
そんな桜を士郎以外の四人は鋭い眼差しで見下ろす。

「……皆も気づいたということは私の勘違いや気のせいじゃないって事ね」

「凛もやはり気付きましたか」

追随するように言うライダーに、セイバーとイリヤも頷く。
ただ一人、士郎だけが説明を求めるように見上げてくる。
それに凛は呆れたようにしつつも、今はこちらの方が先決だと説教よりも説明を始める。

「桜の体内から膨大な魔力が溢れてきているのよ」

「元々、桜は聖杯となるべくその身を改造されていたお陰で今は耐えれているけれど、このままだと……」

凛に続きイリヤが補足するように説明する。
その後、四人は一斉に口を噤むも、言い辛そうにライダーが後を続ける。

「恐らくは聖杯が関係しているのではないかと。
 いえ、聖杯以外には考えれません」

「そんなバカな。だって、聖杯はあの時セイバーが壊したはずだろう」

「はい。間違いなく壊しました。ですが、間桐の蟲亡き今、桜に魔力を流し込む事が出来るものなど」

セイバーの言葉に考え込む士郎に、イリヤが証拠を示すように言う。

「ライダーの言うように聖杯だよ、お兄ちゃん。だって私にも微量ながら流れてきているもの。
 あ、心配しなくても大丈夫だよ。
 元々聖杯を横取りするつもりだった所為か、魔力は私よりも桜の方に圧倒的に流れているし、
 私の身体はそれこそ正統の聖杯となる受け皿だから問題ないよ」

「そうか、良かった。それで、桜を戻すにはどうすれば」

「方法は簡単よ。何らかの形で復活した聖杯を見つけ出してもう一度破壊する。
 それで納まるはず。ただし、問題は聖杯の在り処よね」

凛の言葉にその場に沈黙が下りるが、こうしていても仕方ないと士郎は気持ちを切り替える。

「とりあえず桜を寝かせたら、最後に聖杯が現出した場所に行ってみよう」

「そうね、それしか今のところはないわね。それじゃあ、ライダーとイリヤはここに残って。
 万が一の場合は桜をお願い。士郎とセイバー、私の三人で聖杯の行方を探すから」

やる事が決まり、テキパキと凛が指示を出す。
のんびりとした休暇は終わりを告げ、慌しく動き出す。



それは一通の電話から始まった。

「元気そうだね、恭也」

「お陰様で。所で、今日はどうしたんですか?」

何気なく尋ねた恭也に対し、返って来たのはかなり真剣味を帯びた、押さえた低い声。

「実は恭也と美由希にお願いがあってね。
 本当はこんな事は頼みたくはないんだけれど……」

それですぐに事情を察したのか、恭也は電話の相手が美沙斗だと知ってこちらを窺っていた美由希を手招きで呼ぶ。
久しぶりの親子の会話を楽しみにやって来た美由希であったが、すぐに恭也の纏う雰囲気に気付く。
美由希の顔を自分の近くに寄せ、二人して受話器に耳を近づける。
美由希の頬が少し赤くなるのにも気付かず、恭也は美沙斗へと話の再会をお願いする。

「あまり知られていない事だけれど、龍にはオカルト研究をする専門の部門があるんだ。
 そんなに規模の大きなものじゃないけれどね。
 そして、その連中が日本の冬木という土地に向かったというのが、うちの情報網に引っ掛かった」

「冬木……ですか?」

「ああ。そこに何があり、連中の目的が何なのかはわからない。
 どうせろくでもない事だろうけれどね。
 けれど、うちは今、急に活発に動き始めた龍の対応に追われて人手が足りないんだ。
 活発に動いてくれたお陰で、幾つものの支部の在り処も分かったりしたからね。
 今ごろ、弓華の部隊はその支部の一つに強襲しているだろうね」

やはり言いづらいのか、美沙斗はそんな風に少しだけ話を変えるが、
恭也も美由希も美沙斗が電話を掛けてきた理由をはっきりと理解していた。

「つまり、俺たちが冬木に行けば良いんですね」

「すまない。部外者に頼むような事ではないけれど、恭也と美由希の実力は警防隊でも有名になってしまったから」

この間の夏休み、美沙斗に誘われて訓練をしに行ったお陰で、
恭也と美由希の事は警防隊でもちょっとした噂となったのである。

「構いませんよ。それで俺たちは何をすれば?」

「とりあえずは冬木に行って、何かおかしな事がないか調べて欲しい。
 正直、誰が冬木に向かっているのか全く分からないんだ。
 こっちで何か分かればすぐに教えるから」

「分かりました。とりあえず冬木に向かいます」

「悪いけれど頼む。……美由希、恭也の言う事をよく聞くんだよ」

「分かってるよ、母さん」

「二人とも、くれぐれも気を付けて」

その後、幾つか言葉を交わして電話を切ると、恭也と美由希は出かける準備を始める。

「大学の講義は忍に頼めば良いとして、お前の方は大丈夫なのか」

「大丈夫だよ。恭ちゃんと違って真面目に授業を受けているし、後で那美さんに去年のノートを借りれば」

「今、聞き逃せないような事を聞いた気もするが、まあ今回は聞き流してやろう。
 とりあえず、実戦装備一式、予備も含めて用意しろ」

「はい!」

恭也の言葉に勢いよく返事を返すと、逃げるようにその場を去るのだった。



何処ともしれない山の中。
月明かりのみを頼りに歩く二つの影。
しかし、その歩みに迷いはなく力強い。
その内、影の一つが口を開く。

「まさか、神咲と手を組む事になるなんて、人生とは分からないものですね」

「それはうちかて同じ事です。まさか、埋葬機関の人間と協力するなんて。
 ですが、今回の件はそれだけ……」

「ええ。聖杯戦争が終わった冬木に持ち込まれたと噂される二つのもの。
 どちらも厄介ですから」

「もう一つの方は良く分かりませんが、霊剣の方に関しては少しは力になれると思います」

「ええ、お願いします。世界でも数本しか確認されていない霊剣。
 その内の二本を受け継ぐ神咲の力を頼りにしてますよ。
 代わりという訳ではないですが、もう一つは私の方で」

「お願いします、シエルさん」

「お任せください、薫さん」

上から下までを黒い修道服に身を纏ったシエルと、白と紺の装束に身を包んだ薫の二人は、
息も乱さずに深い山の中へと入っていく。



「……アルクェイド? また居ないのか。
 シエル先輩もいないし。これで三日目。全く何処をほっつき歩いているのやら」

アルクェイドの部屋で一人ごちると、志貴はすぐに帰る気にもなれず、
何となしにテレビを付ける。
丁度、ニュースの時間だったのか、キャスターが事件を読み上げる。
チャンネルを変えようとした志貴であったが、その手が止まる。

「次は冬木市で起こっている吸血鬼事件の情報です。
 新たに入った情報によりますと、被害者が九人を越え、未だに犯人の手掛かりは不明。
 唯一分かっているのは、現場の近くで白い服を着た金髪の女性が居たという目撃情報だけで、
 捜査当局はこの目撃者を重要参考人として……」

志貴はテレビを消すと、床に座り込む。

「いや、アルクェイドはそんな事はしない。
 だとしたら、あいつ……」

シエルが居ない事も合わせ、死徒の退治にでもいったのかと検討を付ける。
そのまま放って置けば良いと思いながら、志貴はポケットを探り、ナイフがある事を確認する。
次いでサイフを取り出して中身を確認すると、アルクェイドの部屋を後にするのだった。



「琥珀! 兄さんの行き先が分かったというの本当ですね!」

「はい、秋葉さま。どうやら冬木市へと行かれたようです」

「そうですか。琥珀、翡翠、すぐに出かける準備を!」

遠野家の屋敷では、昨日から帰っていない志貴の探索が行われており、それは午後一に琥珀のよって判明する。
報告を聞いた秋葉はぞっとする程の笑みを浮かべ、すぐさま出掛ける準備を始める。
そんな秋葉に声を掛けるみつあみの女性。

「秋葉、私も一緒に行ってもよろしいですか?」

「シオンも? 別に構わないけれど……」

「ありがとう。冬木で起こっている吸血鬼事件が少し気になって。
 後、あの地は聖杯戦争の行われている土地だから」

「そういう事ですか。ですが、まずは兄さんの捕縛が先ですよ」

「勿論、協力しますよ」

顔を見合わせて微笑み合う二人の傍で、いつものように琥珀はにこにこと、翡翠は無表情に控えていた。



「で、今日は何の用なんだ橙子」

「あー、来たか。なに、ちょっとした頼み事だよ。
 冬木市に行ってきてくれ」

「何しに?」

「行けば分かる」

「断る」

橙子の言葉に和服の美女、式はあっさりと返す。
だが、橙子の方もその返答を予想していたのか、慌てる事もなく続ける。

「あそこは中々面白い土地だぞ。色んな意味でな」

「……何をさせたいんだ」

「簡単に言うと探し物。だた、どうも嫌な予感がね……」

「探し物ならアイツの得意分野だろう」

「……あー、それが既に頼んだ。で、未だに連絡なし」

珍しく歯切れ悪く告げる橙子の言葉に、式の眉が僅かにだけ動く。

「因みに、嫌な予感がしたのは連絡がなくなった後」

「……まあ良い。冬木だな」

「そう。……一応、警告はしておくけれど気を付けて。
 あの地は今、力持つ者が集いつつある」

「ふん、誰に言っている。例え相手が神であろうが、目の前に存在するのなら殺してみせるさ」

橙子の言葉に背中越しに返すと、式はそのまま外へと出て行く。
その背中を黙って見送りながら、橙子はただ小さく肩を竦める。

「おまえ、何を探すか聞いてから行けよ……」

そんな呟きは誰にも聞かれる事なく消え去り、先に冬木に入った黒桐と合流して聞けば良いかと思い直すのだった。



様々な思惑が絡まり、多くの者が冬木市へと集う。
聖杯の気配が甦った冬木市で待つものとは……。



タイトル未定 プロローグ 近日……うきゃきゃー!







美姫 「はぁ、いつものように進み具合を聞いても無駄だろうし」

おお、二週続けてここでさよならか。

美姫 「アンタの所為でしょうが!」

ぶべらっ!
こ、これは変化しないんだな……。

美姫 「アンタが一日に十本書けたらなくなるわよ」

絶対に無理な相談だ。

美姫 「少しは挑戦しなさい!」

ぶべらっ! あ、あまりにも理不尽です……。

美姫 「いいから、アンタはさっさと書け!」

う、うぅぅ、分かってますよ……。
と、とりあえず、今週はこの辺で。

美姫 「それじゃあ、また来週〜」


9月21日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いつまで残暑なんだよ〜とお届け中!>



しかし、本当にまだまだ暑いよな。

美姫 「確かにね。去年はもう少し涼しかったような気もするけれど」

うぅぅ、辛いね。

美姫 「暑さに弱いアンタには辛いでしょうね」

ああ。……って、何でそんなに楽しそうなんだよ。

美姫 「気のせいでしょう」

いや、思いっきり顔が笑ってるから。

美姫 「あら、いやだ」

はぁ、まあ良いけれどな。

美姫 「それはそうと、最近は掲示板が盛況ね」

ああ。ありがたい事にな。
嬉しい限りで。

美姫 「アンタも書きなさいよ」

既に命令ですか。

美姫 「ほらほら」

あ、あははは〜。
それはまた後で。

美姫 「はぁぁ。まあ、良いわ。それじゃあ、とりあえずは……」

CMです。







日曜の昼下がり、高町家の居間は非常に賑やかであった。
那美や忍といった面々が遊びに来ているためである。
今もなのはとゲームで対戦をしている声が聞こえてくる。
それらを背に恭也は玄関へと向かう。
井関さんの所へと注文していた木刀を取りに行くためである。
商店街へと向かいながら、恭也は落ち着かない仕種で首から下がったお守りを指先で掴み上げる。
今日、那美が来たのはこれのためである。
何でも久遠の毛と神咲の秘術を用いた強力なお守りらしい。
久遠の件でお世話になったお礼として薫と那美からのプレゼントらしい。
霊的な防御やちょっとした呪い程度なら防ぐとの事で、恭也だけでなくなのはや美由希にも渡していた。
忍もノエルや遺産の件でのお礼として、
夜の一族の秘術を貸したと言っていたのを思い出し、その事には若干の不安を抱く。
そんな風に忍本人が聞いたら怒りそうな事を考えている間に、恭也は目的の店へとやってくる。
頼んでおいた木刀を手に、帰路へと着く。

「にしても、頼みすぎだ。あのバカ」

美由希に注文を頼んだのが間違いだったと頭を抱えそうになる。
注文した後に本数を聞き、恭也は思いっきり呆れた顔でわざとらしく溜め息を吐いて見せてやったぐらいだ。
それに対し、美由希は慌てたように手を振りながらも、消耗品だから、とか、
纏めて買っておけばすぐに補充する必要はないじゃない、とか、鍛錬のし過ぎで折れたり、とか。
兎も角、徹を覚える際に爪楊枝のようにポキポキと折った事を考えてなのか、
あり得そうもない事態まで想定して木刀を発注したのである。
確かに、小太刀の木刀など珍しく予め多めに注文しておく事はある。
あるが……。
恭也は再び自分の両手に持った荷物に視線を落とす。

「流石に五十本はどう考えても多すぎるだろう、馬鹿弟子」

しかも、美由希の中ではこれは一ヶ月分らしい。
どんな事態を想定したんだ、と思わず美由希に突っ込んだのは既に懐かしい思い出だ。
そこまで想定するのなら、災害で道場が潰れる所まで想定し、
買い過ぎないようにとは思い浮かばなかったのだろうか。
そんな今となっては詮無き事をつらつらと考えながらも、
実際にはかなりの重さになろう木刀を何でもないように運ぶ。
と、ふと思いついて足を止める。

「出てきたついでに豆大福でも買って帰るか」

荷物が多いから美由希の分はなしだな、とかそんな事はしないくせに少しだけ意地悪な事を考えつつ、
恭也はここから店へと行くのに近道となる裏通りへと入る。
少し進んだ所で恭也は足を止める。
まるで恭也の進路を防ぐように、恭也の身長よりも大きなナニかがそこに聳えていた。
鏡のようだが、表面には何も映し出されてはいない。
また、厚みも殆どないようで、何よりも地面から数センチ浮いている。

「……これは」

慎重に近付いた恭也の耳に、いや、脳裏に何やら声が届く。
周囲を見渡すも、誰もおらず気のせいかと思うが、やはり声が再び聞こえてくる。
もしかしてと思い目の前に立つソレを見る。

「この向こうからか……」

とは言え、こんな訳の分からないものをどうすれば良いのか。
無視して来た道を戻るという選択肢を考え、事実そうしようとソレに背を向ける。
が、その際持っていた荷物がその表面に触れてしまう。
まるで引き止められるかのように後ろへと引っ張られるような感じを受け、
恭也が振り返った先、持っていた荷物が謎の物体に引きずり込まれていく。
咄嗟に荷物を離そうとするも、それよりも先に恭也の手首まで飲み込まれてしまう。
そこから抵抗する間もなく、あっという間に恭也の姿はその謎の物体の中へと飲み込まれてしまう。

(薫さんや那美さんのお守りは効果があっただろうに、
 忍が余計な事をした所為で、効果が逆になってしまったのかもな)

上も下も分からない、ただ色のない空間が広がる世界を落下か、上昇か、はたまた横へと飛んでいるのか、
ともかく移動させられながらも、恭也はそんな事を結構冷静に思っていたのだった。



「……それで、バカ犬。こ、こここここここ、今度は何を見てたのかしら?」

「な、ななな何も見てませんでしたよ、ご主人様」

「へ、へぇ。それじゃあ、アンタのその目がテファのむ、む、
 むむむむむむむむ胸を凝視しているように見えたのは、わたしの気のせいかしら?」

「そ、それはえっと……」

桃色がかったブロンドの少女が乗馬などで使うような鞭を手に、黒髪黒目の少年を見下ろす。
少年が言い淀んだ瞬間、少女の鞭が容赦なく振り下ろされて乾いた音を上げる。

「ってー! おい、ちょっと待てルイズ!」

「煩い、このバカ犬! ややややや、やっぱり去勢が必要かもしれないわね」

ルイズの言葉に少年――サイトは顔を青くさせる。

「テファもそうした方が安心できるでしょうし」

「あ、あのルイズさん。わたしなら大丈夫だから」

「ほ、ほら、テファもそう言っている事だし……」

「煩い! 黙りなさい」

ピシッと鞭でサイトの身体を一つ打ち、ルイズは肩で大きく息をする。
その横で鞭の音を聞いて、まるで自分が打たれたかのように身を竦ませた耳の長い少女――ティファニアは、
何とか声を出して二人の諍いを止めようと懸命になる。
だが、ルイズはまたしても鞭を振り上げ、

「おいおい、もうそのぐらいにしておいたらどうだ。
 今はそれよりも先にする事があるんだろう」

この場に姿の見えない第三者の声にルイズも鞭を握る手を止める。

「うるさいわね、このボロ剣。言われなくても分かってるわよ」

サイトが背中に背負っている剣に向かって文句を言えば、その柄部分がカタカタと鳴り、

「へいへい、そうですか。だったら、早くその用件とやらを聞いてやりな。
 さっきからお前さんのあまりの剣幕に怯えてるぜ、あのエルフの嬢ちゃん」

剣――デルフリンガーがそう言葉を返す。
デルフリンガーを一睨みした後、ルイズは改めて自分を呼び出したティファニアへと向き合う。

「それでどうかしたの?」

「えっと、その……」

ちらちらとサイトの方を窺い、その身を案じるティファニアに気にしないように伝える。

「で、テファの用事ってのは?」

サイトからもそう促され、ティファニアは思い切って切り出す。

「あの、私も使い魔が欲しいなって……」

「欲しいって。使い魔を呼び出すのは二年の最初の儀式でよ」

ここトリステイン魔法学院は、その名の示すように魔法を教える学校である。
今、ティファニアが言った魔法使いに仕える僕、使い魔を呼び出すのは二年へと進級してからである。
まだ一年のティファニアはあと約一年は待たないといけないはずである。

「そうなんだけれど……」

やはり村で世話をしていた子供たちとも簡単に会えなくなって寂しいのか、最近は友達も出来たりとしたが、
ふとした時に寂しくなるのかもしれない。だから、傍にいる使い魔を欲したのかも。
サイトはそんな風に考え、ルイズに何とかならなにかと持ちかける。
ルイズも何か考え込む素振りを見せるが、そこへデルフリンガーが割り込んでくる。

「やめておけって。勝手な事をすると、それこそどうなるか分からないぜ。
 特にお前さんらは伝説の担い手だ。下手な事をしようもんなら……」

「そうよ! それだわ! 私たちは虚無の使い手として狙われているのよ」

「何を今更言ってるんだルイズ。だからこそ、保護するためにもテファを連れて来たんだろう」

「バカね。使い魔って言うのは魔法使いを護るものでしょう。
 だから、それを理由に許可を貰えば良いのよ」

ルイズの言葉にサイトは感心したように頷く。

「流石だな、ルイズ」

「当たり前じゃない、わたしを誰だと思ってるのよ」

「胸はないけれど、そういう悪知恵はよく思いつ……」

「い、いいいいいいいいい今の話の中で、どうやったらむ、むむむむむむむむむむ胸の話になるのかしら?」

ルイズの怒りをその身に感じ、サイトは素直にティファニアの胸に見惚れていたからと言おうとして、
そんな事を言えば、ただで済まないと悟り、ただ謝罪を口にする。
だが、どうやらどちらにしても結果は同じようで……。

「し、しししししししし躾が必要なようね」

言って呪文を唱え始める。

「ちょっ、ま、待っ……」

サイトが止めるよりも早く、爆発が起こりサイトが吹き飛ぶ。
一度では気がすまないのか、二度、三度と。
地面に倒れた所へと近付き、今度は手にした鞭や足でサイトを打つ、蹴る、転がす。
数分後、そこにはボロ切れと化したサイトが横たわっていた。

「ふんっ! とりあえず、学院長に話をしてくるわ。行くわよテファ!
 アンタはそこでゆっくりと反省してなさい!」

完全に気を失っているサイトにそう言い捨て、ルイズは困惑するティファニアの手を引いて学院長室へと向かう。
その背中に聞いていないと分かっていても、デルフリンガーは声を投げる。

「おーい、やめておいた方が良いってよ〜」

珍しくしつこく告げるデルフリンガーの言葉は、しかし本人が思った通りにルイズたちには届いていなかった。



その日の夜、ルイズたち三人と学院長のオスマンを加えた四人は使い魔を呼び出すための場にいた。

「それでは、これよりティファニアの使い魔召喚の儀式を執り行う」

オスマンの言葉に頷くと、ティファニアは呪文を唱え始める。
それを眺める一同の中、デルフリンガーだけは未だに注視を訴えるが、サイトに煩いと鞘に納められてしまう。
そうこうしている内に、ティファニアの前に魔法陣が浮かび上がり、そこに使い魔となるものが出てくる。
カランという乾いた音を立て、それが現れる。

「……木の枝?」

思わずそれを手に取ったティファニアは呆然とそれを見下ろし、悲しげに俯く。
が、その後に続けて何かが飛び出してくる。
行き成りの事に避ける事も出来ず、ティファニアはそれの下敷きとなる。
が、背中や頭は軽くぶつけたみたいで少し痛いのだが、それとは別に胸になにやら温かい感触を感じ、
それが少し動くと思わず声が口から零れ……ず、唇もまた何か温かなものに塞がれていた。



上も下も分からない状態で進んでいた恭也であったが、既に達観したかのように現状を受け入れていた。
そんな恭也の視界の先に光が差し込み、ようやくここから抜け出せると思った矢先、
急に身体に重力を感じる。どうやら、さっきの出口から外へと出たらしく、
かと言ってこんなに急では態勢も何もなく、なすすべもなく恭也は倒れこむ。
が、予想したような衝撃はまったくなく、寧ろ柔らかなクッションのようなもので身体を受け止められる。
少し眩む視界いっぱいに金の美しい何かが映り込み、
今の状況が分からないながらも起き上がろうと腕を地面に立て、その柔らかな感触に思わず動きを止める。
次いで、自身の口より息を吹き込まれる感触に、焦点を目の前に合わせる。
映るのは綺麗な瞳。相手も自分と同じように驚愕した様子でこちらを窺っていると分かり、
ようやく恭也は、今の自分の状態を悟る。
目の前の少女の胸を掴んだまま唇を奪っているという、傍から見れば襲っていると見える状態に。
急いで少女の上から身を起こし、未だに驚いている少女へと頭を下げる。
勿論、土下座で。

「すまない。信じてもらえないかもしれないが、決してそんなつもりではなくて、
 気が付いたらこの状態だったんだ」

「……あ、いえ、そんな」

暫く呆然としていたティファニアだったが、土下座する恭也に慌ててこちらも頭を下げる。

「ご、ごめんなさい。多分、それはわたしのせいだから……」

二人して頭を下げる光景を、離れて見ていたルイズたちも少し呆然と事の成り行きを見詰める。

「ま、また平民……」

「ふむ。ミス・ヴァルエールを狙ってきた使い魔も人であった事を考えると、
 虚無の使い手の使い魔は人なのかもしれんな」

「……もしかしたら、あいつ俺と同じ世界から来たのかも。
 服装が」

サイトの言葉にオスマンもルイズも恭也の服装を見詰め、納得したように頷く。
ただ、とりあえずは頭を下げたままの二人を何とかしようと二人に近付く。
オスマンの言葉に顔を上げた恭也とティファニア。
まずはサイトが恭也へとここに来た時の状況を聞き出す。
それは自分と全く同じ状況で、更に幾つかの話を聞いて恭也が自分と同じ世界から来たのだと確信を得る。
サイトの言葉に首を捻る恭也であったが、頭上に浮かぶ二つの月を見て言葉を無くす。
そして、遠い目をすると。

「父さん。ここ一年で色々あったけれど、とうとう異世界まで来てしまったよ。
 父さんのように色んな免許を持ってはいないけれど、色んな経験に関してはちょっと自信があるな……」

本当に遠い目をする恭也に、オスマンは気まずく感じつつも使い魔について説明を始める。

「まあ、そんな訳でお主を呼んだのは……」

「す、すみません」

「あ、いえ、こちらこそ……」

また頭を下げ合う二人にルイズが割ってはいる。

「それはもう良いから。貴方も異世界から来たのなら、帰り方は今のところ分かってないのよ。
 だったら、今はテファの使い魔になる方が良いと思うわよ。
 少なくとも、住む所と食べるものには困らないわよ」

ルイズの後ろでサイトが必死に首を横に振っているが、恭也はそれに気付かずティファニアを見る。

「……俺にはさっき聞いた使い魔の本来の役目は出来そうもありません。
 出来る事といえば、貴女を護るという事だけですが、これだって絶対にとは言い切れません。
 勿論、護ると決めたからには全力で護りますが。貴女の方はそれでも良いのですか?」

「わ、わたしは構わないけれど、恭也さんは本当に良いの?」

「帰る方法を探すにしても、衣食住は必要ですから」

「そ、それじゃあ、契約を……」

ティファニアはそう言うと呪文を紡ぎ、恭也の頭にそっと手を伸ばして口付ける。
あまりにも自然な動作だったために避けることも忘れ、恭也はそれを受け入れる。
と、サイトの背中からデルフリンガーが何とか鞘から飛び出す。

「うがぁぁ、遅かったか! ちっ、胸は、胸だけはやめてくれよー! 右手、右手ー!」

何やら騒がしいデルフリンガーの言葉に疑問を抱くよりも早く、恭也が胸を押さえる。
そこからは何やら光が零れている。

「ま、マジかよ。おい、相棒! もしかしたらやばい事になるかもしれないぜ。
 俺を持って嬢ちゃんを下がらせろ!」

「何を言っているだ、デルフ?」

「良いから、手に取れって相棒!」

珍しく焦った声を出すデルフリンガーを不思議に思いながらも手に取る。
サイトたちが見詰める中、恭也の胸の光が収まりだし、途端、再び胸元から強い光が零れる。

「なに!? なんなのよ」

恭也を中心に光だけでなく風が吹き上がる。
そこに何かを感じたオスマンは目を細めて恭也を見る。

「変わった魔力が感じられる。もしや、異世界の魔法か?」

恭也の胸元から魔法陣が浮かび上がり、その中心には……。

「これは、お守り?」

那美から貰ったお守りが光を発しながら恭也を護るように浮かび上がっている。
お守りの光と胸の光が鬩ぎ合うようにぶつかり合い、やがて光が消える。
お守りは焼ききれたようにボロボロになり地面へと落ちる。

「おい、ルーンはどうなった! 慎重に見ろ!」

デルフリンガーの言葉にサイトが恭也へと近付き、恭也の胸を見る。
確かに何かのルーンが刻まれているが、まるでそれを潰すようにX印がその上に刻まれている。

「まさかとは思うが、封じたのか」

デルフの漏らした言葉にオスマンが説明を求める。

「俺だったちゃんと覚えている訳じゃないんだが、とりあえず胸のルーンだけはまずいんだ。
 だが、どうやらその心配はもういらないみたいだな」

神の左手ガンダールヴ、神の右手ヴィンダールヴ、神の頭脳ミョズニトニルン。
そして、もう一つは記すことさえはばかれる。
前にティファニアが歌っていた事を思い出し、デルフリンガーに尋ねるサイト。
だが、デルフリンガーは再度、ただ確かにまずいとしか覚えてないと繰り返すのみであった。

「まあ、もう大丈夫なら良いんだけれど。
 でもこれだと、ガンダールヴみたいに何か力を得たりとかはないのか?」

「さあね。何せ、こんな事は初めてだしな。
 まあ、何かあればその内分かるだろうさ」

デルフリンガーはそれ以上何も語らず、サイトもそれもそうかと思い直して鞘へと戻す。
その間に恭也とティファニアの方も落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がる。

「とりあえず、これから宜しくお願いしますティファニアさん」

「わたしの事はテファで良いです。
 それと、そんなに丁寧に話さなくても、友達みたいに接してくれると嬉しいです」

「……分かった。それじゃあ、これから宜しく」

「はい」

差し伸べられた恭也の手を握り返し、ティファニアは笑い返す。
こうして、高町恭也の異世界一日目の夜は静かに過ぎていく。



ゼロの守護者 プロローグ







という事で、今回はゼロの使い魔で。
掲示板でも多かったから、ついつい書いてみたくなって。

美姫 「ルイズたちの出番が少ないわね」

まあ、仕方ないさ。
と、今回はそろそろ時間だな。

美姫 「って、早過ぎるわよ」

まあまあ。
だって、SSは殆ど進んでないし。

美姫 「このバカ!」

ぶべらっ! う、うぅぅ……。
そ、それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「って、本当に終わるのね。仕方ないわね。
    それじゃあ、また来週〜」


9月14日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、朝晩は兎も角、昼間はまだ暑いな〜とお送り中!>



うーーん、ふぅぅ。

美姫 「何をしてるのよ」

いや、ちょっと背伸びなどをね。
最近、肩がこっているみたいでな。

美姫 「どれどれ、私が叩いてあげましょう」

……遠慮しておく。

美姫 「今、何を考えたのかしら?」

いやいや、何も考えていないよ、うん。

美姫 「目が泳ぎまくってるんだけれど」

あははは。いやー、空が青いな。

美姫 「クスン、酷いわ。珍しく親切心を出してあげたのに……」

珍しくって、自覚はあるのかよ。
と言うか、そんなのだから信用されないんだろう。

美姫 「……やっぱり信用してないから断ったのね」

はっ、これが誘導尋問というやつなのか!?

美姫 「多分、違うと思うわよ。ふっふっふ。それよりも、どうしてくれようかしら」

あ、あー。是非とも美姫に肩を叩いて欲しいな〜。

美姫 「そうなの?」

うんうん。

美姫 「ふっ。私にそんな雑用を、あまつさえ、アンタの肩を叩くなんて事をやらせようとするなんてね」

おいおいおい……。

美姫 「偉くなったわね〜」

いやいやいや! 明らかにこの流れは可笑しいだろう!

美姫 「そんなに叩いて欲しいのなら、叩いてあげるわよ!
    ううん、寧ろ肩がなくなれば、肩こりもなくなるわよね」

んな滅茶苦茶なっ!

美姫 「と、冗談はさておき、普通に叩いてあげるわよ」

……………………熱はない。
何を企んでいる?

美姫 「失礼ね。ほら、座りなさい」

い、いや遠慮しておく!

美姫 「さっさと座れ!」

ぐえぇっ! な、何故叩かれる?

美姫 「言う通りにしないからよ」

したらしたで叩くだろうが、お前は。

美姫 「さあ、それじゃあもみますよ〜」

ビクビク。お、お手柔らかにお願いします。

美姫 「はーい、どうですか?」

うっ、はぁぁぁ。気持ちいい〜。
あ、そこもう少し下で。

美姫 「ここね。それじゃあ、今度は軽く叩くわよ。はい、トントン」

はぁぁぁ。

美姫 「おじいちゃん、力加減はどう?」

おうおう、中々の按配じゃ。
はぁぁ。……って、誰がおじいちゃんだ、誰が。

美姫 「まあまあ」

うっはぁぁぁぁぁ〜。

美姫 「それじゃあ、和みつつCMよ〜」







「恭也! 恭也!」

珍しく慌てた様子で店の所用で出掛けていた桃子が、裏口から駆け込んでくる。
その事を注意しようとした恭也であったが、桃子の様子が真剣なのを見てまずは落ち着かせるべく声を掛ける。

「とりあえずは落ち着いて」

恭也の言葉に桃子は深呼吸を素早く数度行うと、やや早口で捲くし立てる。

「西田さん、知ってるわよね!」

「商店街から少し外れた裏道で雑貨屋を営んでいる西田さんか?」

言いながら、恭也は老夫婦の柔和な顔を思い出す。
人当たりも良く、昔から恭也や美由希にも優しく笑いかけてくる二人の顔を。

「そう、その西田さんよ! そこに今、地上げ屋が来てて……」

「地上げ?」

「そうなのよ。最近、あの辺りを買い上げようとしている人がいるらしくて。
 当然、西田さんだけでなく、皆も自分の土地だから出て行こうとはしてなかったんだけれど……」

さっき帰りに大きな物音がしたので覗いてみれば、西田さんの家の前に黒い服を来た四人の男たちが居たらしい。
しかも、店先で西田さん二人を大声で威嚇し、店で暴れている場面に出くわしたという。
思わず間に入ろうとした桃子であったが、自分ではどうにも出来ないとすぐに思い直し、
こうして急いで戻ってきたのだと言う。
そこまで聞いた恭也は、桃子が更に言うまでもなくエプロンを外し、既に扉の外へと出ていた。

「かーさんはここに居て」

「あ、うん。恭也、無茶はしないでね」

西田さんを助けて欲しいが、やはり恭也の心配をするのも当然である。
そんな桃子に頷くと、恭也は西田さんの家へと走り出すのだった。



「とりあえず、当面必要な物は買ったな。後は……、はぁぁ。
 そう言えば、割ってしまったから、新しい茶碗を買わないといけないんだったな。
 とんだ出費だな……」

サイフを取り出して中を確認すると、少年はもう一度溜め息を吐く。
それに眉を顰めるのは、彼と手を繋ぎ隣を歩く幼い少女である。
一見、まるで人形のように可愛らしい容姿に、けれどもしっかりとした力強い意志の篭った眼差しで少年を見上げる。

「真九郎、そんなに溜め息ばかり吐くと幸せが逃げるらしいぞ。
 この間、夕乃が言っていたぞ」

真九郎と呼ばれた少年は、少女の言葉に苦笑を漏らしつつ、

「ああ、そうだね。気を付けるよ、紫」

真九郎の言葉に少女、紫は満足そうに頷く。

「それで、次は何処に行くのだ?」

「……西田さんの所に行くか。
 あそこなら、安いのがあるだろうし……」

行き先を決めると真九郎は紫の手を引いて、商店街から外れた道筋へと入っていく。
この辺りは初めてなのか、手を引かれながら紫は物珍しそうにきょろきょろと周囲を見渡す。
その仕種を微笑ましく見詰めながら、真九郎は目当ての店へと着く。
着いたのだが、そこには見るからに客とも思えないような連中が店先に陣取っていた。
困ったように立ち止まる真九郎の横で、紫は目の前の惨状を見て顔を怒りに染める。

「やめぬか、この愚か者共が」

幼い声に男たちは動きを止めて振り返る。
真九郎は顔を顰めつつ、紫を止めるのは不可能と諦めたかのような顔になる。
それでも、出来るだけ穏便に済まそうと考えるのだが、全く良い手が浮かんでこない。
その間に紫は真九郎の手を解き、倒れていた西田老夫妻の元へと駆け寄っていた。

「大丈夫か?」

「私たちは大丈夫だから、それよりも早くここから立ち去りなさい」

「おじいさんの言う通りよ。ほら、早く」

「それはできん。見たところ、悪いのはこいつらだ。
 それに、私たちは客として来ているんだ。むしろ、立ち去るのはこの者たちの方だろう」

平然と告げる紫に男たちは感情を顕わにこそしないものの、突然現れた侵入者を睨みつける。
だが、それを受けて尚、紫は決然とその場に、西田夫婦を背後に庇うように立つ。
こうなっては真九郎も覚悟を決めるしかなく、男の一人が紫に手を伸ばし捕まえる前に紫と男の間に立つ。
真九郎としては特に事を構えたりつもりもないのだが、紫に危害が及ぶのならそうもいかない。
それでも話し合いで決着がつけれないかと試みるのだが、相手は既にこちらの言う事を聞く気もないらしく、
行き成り真九郎へと殴りかかってくる。
それを後ろに下がって躱すと、真九郎は紫に向かって言う。

「とりあえず、後ろに下がって」

「分かった。後は任せたぞ」

紫の言い分に思わず苦笑が洩れるも、それを自分たちが笑われたと思ったのか、男たちは真九郎を囲むように立つ。
前から二人、殴りかかってくる。
それを前へと出て、一人は脇腹に拳を当て、もう一人は肘を下から打ち上げる。
続けざまに脇腹を押さえて前屈みになる男の顎へと蹴りを放ち、肘を打たれてボディが開いた所へと肘を入れる。
そんなに腕っ節が強く見えない真九郎の攻撃、たった二発ずつで男たちが倒れるのを見て残る二人は慎重になる。
油断している間に何とかしたかった真九郎は、それでも虚勢を張るように余裕めいた表情をして見せる。
上手く出来ているかは分からないが、紫が傍にいるからか不思議と落ち着いている。
残った男たちは交互に真九郎へと攻撃をしてくるも、それらを紙一重で躱していく。
と、不意に男二人は視線を交わす。
何か仕掛けてくると感じ取り、僅かに構える真九郎の前で一人は真九郎へと向かって来て、
残る一人は全く逆の方向、紫の居る方へと向かう。
人質にするつもりだと気付いた真九郎は前へと素早く踏み込み、
こちらへと襲い掛かってくる男の鼻っ面に拳を打ち込む。
後ろに吹き飛んだ後、地面に倒れてそのまま痙攣する男には見向きもせず、真九郎はただ紫の元へと走る。
その差は僅かに縮んだものの、男の方が先に紫の元へと辿り着き、その手を紫に伸ばす。
が、その手が遂に紫に触れる事はなかった。
横から伸びた第三者の手が男の手首をしっかりと掴み、そのまま上へと捻り上げる。
それに合わせて男の腕も上へと伸び、爪先立ちになる。
瞬間、男の腕を掴んだ青年――恭也は掴んだ手を振り下ろし、そのまま男を投げ飛ばす。
背中から落下した所に腹に恭也の拳が振り下ろされ、そのまま意識を失う。
それを確認すると恭也は後ろを振り返る。

「大丈夫でしたか、西田さん」

「あ、ああ。ありがとう、恭也くん」

「いえ、俺は特に何もしてませんよ。
 寧ろお礼は……」

言って恭也は、突然現れた自分の存在に思わず足を止めた真九郎を見る。

「大丈夫だった?」

西田夫妻が立つのに手を貸しながら、恭也は紫に声を掛ける。
掛けられた紫は大仰に頷いた後、恭也にお礼を言う。
その隣にやって来た真九郎も恭也へと礼を言う。

「どういたしまして。こちらこそ、西田さんたちを助けて頂いて……」

恭也に続き、西田夫妻も真九郎たちに礼を言う。
これが二人の鬼の出会いであり、まさか、この数日後に再会する事になるなど知るよしもなかった。



「九鳳院? あの世界屈指の大財閥にして、表御三家の筆頭の九鳳院なのか!?」

驚く恭也の言葉に、紫もまた驚いた声を上げる。

「表御三家、その言い方をすると言う事は、まさか裏十三家の者か!?
 真九郎、気をつけろ! こやつはお主と同じ裏十三家の者かもしれぬぞ!」

「……裏十三家? しかし、紅と付く家系はなかったはずだが……」

「あ、それは……」

恭也の言葉にどう説明するか迷う真九郎を助けるように、そこに新たな人物の声が届く。

「それは私から説明しましょう。
 もう、真九郎さんったら、また変な事に首を突っ込んだんじゃないでしょうね。
 めっ、ですよ」

真九郎へと人差し指を立てて軽く説教をした後、現れた美しい少女は恭也に向き合う。

「お久しぶりですね。覚えてられますか?」

「はい、久しぶりですね、夕乃さん。
 ……つまり、彼は崩月に連なる者という事ですか」

「知り合いなのか、夕乃!?」

再び驚いた声を上げる紫にただ黙って頷くと、

「恭也さんは裏十三家の者ではありませんよ。ましてや、表御三家を狙う者でもないでしょうね。
 彼は永全不動八門の者です」

「永全不動八門の? しかし、不動八門はその最後の御神が滅んで全て絶えたと聞いているぞ」

「本当に僅かながら、生き残っていたんですよ」

恭也の言葉に何かを感じ取ったのか、紫は不躾な事を言ったと謝る。
そんな紫の年よりも利発な所に感心しながら、気にしていない事を伝える。

「それじゃあ、お互いの正体もはっきりした事ですし、
 何がどうなっているのか説明してくれますよね真九郎さん」

軽く両手を合わせ、まるで夕飯は何が良いのか聞くかのような朗らかな笑みを真九郎に向ける夕乃。
だが、それを向けられた真九郎は冷や汗を一筋流し、やがて諦めたように事情を話し出すのだった。
これが二人の鬼の再会にして、共闘の始まりであった。



「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術裏・不破流 高町恭也」

「崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎」

「「いざ!」」

黒紅 「剣鬼と戦鬼」







いやー、紅がアニメ化だって。

美姫 「今まで知らなかったの? 遅いわね」

あははは。しかし、最近は色々とアニメになるな〜。

美姫 「確かにね」

Kが見るのが追いつかないと愚痴ってたな。

美姫 「そう言えば、零してたわね」

まあ、Kには勝手に悩んでもらうとして。

美姫 「確かに放っておいても良いわよね」

酷い言い方だな。

美姫 「アンタだって、大して変わってないわよ」

……えっと。

美姫 「話を逸らそうとして、何も話題が浮かばなかったみたいね」

……くっ、悔しいが図星だ。

美姫 「なら、私が楽しい話題を一つ」

何々?

美姫 「SSの方はどうなの?」

……リクエストSSを頑張ってます。

美姫 「そう。他には?」

こっちは当然ながら、リリ恭なのを。

美姫 「公約通りに年内に終わるのかしら?」

このペースで行けば、うん、終わるぞ。
いや、ちょっとペースを上げないといけないのかな。

美姫 「最近、落ちてるものね」

ぐっ、その通りだ。

美姫 「なら、私の出番ね!」

いやいや、お前にお仕置きされた後、数時間は活動不可能だから!

美姫 「大丈夫よ、ちゃんと加減したお仕置きをしてあげるから」

はなからしないという選択肢も作ってくれ、頼むから。

美姫 「…………考えておくわ」

……考えただけで、やっぱり無理とか言わな……ぶべらっ!

美姫 「口は災いの元よね」

……う、うぅぅ。図星だったんだな。

美姫 「なんのことかしら? あら、もうこんな時間じゃない」

はぁぁぁぁぁ、いや、まあ良いんだけれどね。

美姫 「良いの? じゃあ、これからもドンドンお仕置きと称して……」

いやいや、誰もお仕置きが良いなんて言ってないから!
と言うか、称してって何だ、称してって!

美姫 「や〜ね〜、言葉の綾よ」

うぅぅ、……今週はこの辺で。

美姫 「それじゃあ、また来週ね〜」


9月7日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、ここが桃源郷か、と幻を見ながらお届け中!>



むむむ。

美姫 「少ない頭で何を無駄に考えてるの?」

ああ、実は……って、今、かなり貶されなかったか俺?

美姫 「気のせいでしょう」

そうか、気のせいか。だったら、良いや。

美姫 「で、何を考えてたのよ」

ああ。ほら、リレー掲示板が賑やかになっただろう。

美姫 「良いことよね」

うんうん。とっても感謝です。
で、その件で何件かメールを頂いてな。

美姫 「どんな内容の?」

前に掲示板でも言ったかもしれないんだが、SSのレスと感想のレスを分けて欲しいという。

美姫 「そう言えば来てたわね」

だろう。で、実際どっちの方が良いのかな〜って。

美姫 「読んですぐに感想を書いて下さっているんだから、今のままでも良いんじゃないの?」

うーん、多数決方式を取るか、SSを書いてくださっている方に一任するか。

美姫 「でも、統一した方が良いんじゃない?」

だよな。まあ、それは追々他の意見なども聞きながらということで良いか。

美姫 「そうね。でも、別々にした際のメリットは何かあるの?」

書いた人がパスワードを入れて投稿すれば、後で右にあるスパナのアイコンで修正やロックが出来る。
ロックすれば、他の人はスレを付けれなくなるので、偶に来る悪戯というか宣伝のスレが付かない。

美姫 「なるほどね。じゃあ、逆にデメリットは?」

続きを書く場合、一旦ロックを解除しないと駄目。

美姫 「手間が掛かるのね」

そういう事。だから、出来るだけ書いて下さっている方の意見を優先にしたいな〜と。

美姫 「そういう事ですので、もしご意見とかあれば遠慮なく言ってくださいね」

それにしても、今の会話で思い出したんだけれど。
偶にくる、あの宣伝スレ。気付いたら消して、あまりにも連続するようなら色々と対処してるんだが。

美姫 「定期的に来るから、よく来るようになったら掲示板のアドレスを変更しているのよね」

ああ。あれって、わざわざ色んな掲示板を回って一々書いていくのかな。
それはそれで手間だろうに。

美姫 「まあ、削除するこっちも手間だけれどね」

……確かに。まあ、どうでも良いか。

美姫 「いやいや、話を振ったのはアンタだから」

あはは〜。しかし、まだまだ暑いな。

美姫 「話を急に変えたわね。でも、確かにまだ暑いわね。
    まあ、九月とは言っても、入ったばかりだしね」

まあな。しかし、あと今月を入れても四月もしないうちに今年が終わりだぞ。

美姫 「そう考えると早いわね」

だよな〜。

美姫 「はぁぁ」

ふぅぅ。って、思わずのほほんとしてしまったが。

美姫 「そうね。そんな先の話じゃなく、まずは今、Nowの話をしないとね」

うんうん。

美姫 「で、SSの方だけれど……」

が、頑張ってるよ。
他の長編もちょくちょく書きながら、『リリ恭なの』をメインに。
これだけは、何としても今年中に完結を!

美姫 「うんうん、頑張れ〜。でもね……」

はうっ!

美姫 「くすくす。まだ何も言ってないわよ」

い、いや、その手が、手が腰の刀に……。

美姫 「あらあら。知らなければ斬られずに済んだのに」

う、嘘吐け! 気付かなくてもお前は斬る気だっただろう!

美姫 「ピンポ〜ン、正解〜♪ 正解者には素敵なプレゼント〜♪」

い、いらない! この状況でソレが分からない程バカじゃないぞ!

美姫 「本当にいらないの?」

いらん、いらん!

美姫 「これでも? ほらほら〜。ちらちら」

ぬぬ、スカートの下にスカート?
むむむっ! 紺のロングスカートに白いフリフリ。しかも足には黒いストッキングと編み込みブーツ。
ま、まさか。

美姫 「これを頭に乗せて……」

メ、メイドか!? メイドなのか!?

美姫 「でも、いらないのよね?」

勿論、いるに決まっているだろう!

美姫 「そう。それじゃあ、プレゼント」

おおー! 久しぶりのメイドヴァージョンか!?

美姫 「メイドヴァージョンでのお仕置きよ!
    離空紅流、天鳴鳳雷!」

ぬげらぼげぎょみょぉぉぉーーーー!!

美姫 「ついでに、吹っ飛べー!」

ぎょにょっぴょぉぉぉぉ〜〜!!
そ、それでも悔いはなしぃぃぃ!
絶対に戻ってくるから、その格好で居るんだぞぉぉぉぉっ!

美姫 「ある意味、もの凄い根性ね……。とりあえず、CMよ〜」







海と山に囲まれた都市、海鳴。
穏やかな気候ながらも、特に観光地という事もないこの土地は、知る人ぞ知る霊脈が集中する地でもある。
それに引き攣られるかのように、幾つかの不思議な事件も過去には起こったようではあるが、
それこそ当事者以外には知られる事もなく、ただの一都市としてのみ存在している。
その地に新たに足を踏み入れる三つの影。

「ったく、ようやくか」

大きめの鞄を手に駅から降り立った少年は、そう不満交じりに零す。
後ろからは少年よりは小さいが、それでも身体からすれば大きめの鞄を手にし、
その重さにフラフラと身体を振るわせる、猫の耳を連想させそうな大きな帽子をすっぽり被った少女が、
重そうに鞄を地面に下ろしながら、少年の文句に偉そうに胸を逸らしながら返す。

「あれぐらいで疲れるようじゃ、まだまだだね祐一くん」

「……なぁ、名雪。何でこいつまでいるんだ?」

帽子を被った少女を指差し、祐一と呼ばれた少年は隣に立つ少女、名雪へと心底不思議そうに尋ねる。

「知らないよ。だって、お母さんが三人でって手続きしたんだし。
 私に聞かれても困るな。そりゃあ、居ても邪魔になりそうだという祐一に気持ちは分かるけれど、
 本人を前にしてそんな事よく言えるね」

「言ってるのはお前で俺じゃねぇ。ったく、本当にこの街に何があるんだか」

「うぅ、二人して僕の事を役立たずだって思ってるんだね」

泣きそうな顔で二人を見上げる少女を無視するように、祐一は空を見上げる。
その視線を追うように、醒めた目で同じように空を見上げる名雪。
二人よりも幼く見える外見の、けれども実は同じ年の少女、あゆは無視されたと喚き出す。
それに小うるさそうに顔をしかめ、祐一と名雪は互いに宥める役を目で押し付けあう。
結果、二人は面倒事を避けるべく、自分の荷物だけを手に持ちその場をさっさと後にする。
慌ててあゆも自分の荷物を手にし、遅れて二人の後に付いていくのだった。

「二人とも酷いよ〜」

そんな声を背中に聞きながら、祐一は何で秋子がここに自分たちにここへ来るように言ったのか、
その事を少しだけ理解する。

(霊脈がやけに集中しているな。
 だが、それだけで秋子さんが俺たちをこんな場所に引越させたりはしないだろう。
 また面倒な事にならなければ良いけど……)

隣を歩く名雪へと視線を一度だけ移し、すぐに前を向くと、
祐一は用意されたマンションへの地図を頼りに歩き出す。



「はい、さざなみ女子寮です。
 薫か? 久しぶりだね。今日はどうしたんだい? 那美ちゃんに用かな?」

寮に掛かってきた電話に出た耕介は、その相手が元寮生にして、
現在寮に住んでいる少女の姉だと分かると嬉しそうに話をする。
管理人である彼にとっては、今寮に居る子達も、既に寮から出た子達も久しく妹のようなものなのだ。
その後も少しばかり世間話をすると、耕介は薫の妹那美へと電話を取り次ぐ。
姉からの電話だと聞いて嬉しそうに電話を受け取り、楽しそうに話していた那美であったが、
その顔が不意に真剣味を帯び始める。
その顔付きは極一部の者のみが知る那美のもう一つの顔、霊能力者としての顔であった。

「うん、分かった。とりあえず、薫ちゃんが来るまでに調べれる事だけ調べてみる。
 大丈夫だよ、無茶な事はしないから。それに、いざとなったら久遠もいるし。
 ……うん、うん。それじゃあ、今度は海鳴で」

薫との話を終えて電話を切ると、那美は何事もなかったように振舞うため、
頬に手を当てて解すように軽く揉む。
最後に笑顔を浮かべて耕介に電話が終わった事を伝える。

「それと、薫ちゃんが近々こっちに来るって言ってました」

「そうなの? だったらご馳走を作らないとね。
 正確な日が分かったら教えて」

「分かりました。あ、私これからちょっと出掛けてきますね」

「いってらっしゃい」

耕介に見送られ、那美は外へと出る。
まずは久遠を見付けないといけないと、八束神社へと向かう。
そこにいなければ、高町家だろうと検討を付けて。



少し街から郊外へ向かうと、途端に密集していた住宅もなりを潜め、自然がそれなりに見受けられる。
そんな自然の一角、林道の続く先に建つ一軒の洋風の大きなお屋敷。
そのリビングで屋敷の主は今、一人の客を迎えていた。

「忍も元気そうね」

「まあね。それで、さくら。今日はどうしたの?」

「実はね……」

言い置いて忍の向かいに座ったさくらは、忍の隣に座っている青年へと視線を向ける。

「何でしたら俺は席を外していましょうか?」

「恭也には聞かせれないような事なの?」

青年――恭也が気を使ってそう言い出せば、忍がさくらへとそう尋ねる。
さくらは少しだけ考えた後、恭也にも聞いてもらう事にする。

「恭也くんはうちの事情を知ってるものね」

「夜の一族という事ですか」

確認するように尋ねる恭也に頷くと、さくらは自分たち夜の一族――人とは少し違う種――の事だと話し出す。

「基本的に長老、私や忍の祖父にあたる人物の元で統一されてはいるんだけれど、
 中には反発する者たちもいるの。ごく少数だけれどね。
 その少数派にしたって、表立っては何もしないわ。
 でも、ここ最近、何か可笑しな動きをしている者たちがいるらしいのよ」

「ふーん。それで?」

興味ないという感じで続きを促す忍に苦笑しつつ、さくらは話を続ける。

「その者たちが何度か海鳴に出入りしているという噂があってね」

心配そうに忍を見詰めるさくらに、当の本人よりも先に恭也が気付く。

「まさか、また忍に何かしようと……」

「それは分からないわ。ただ、忍に何かしようとしたら、それこそお爺様が黙ってないでしょうし。
 でも、半年前の事もあるし、万が一という事もあるでしょう」

半年以上前、忍の親戚が遺産目当てに忍を襲った件はまだ記憶に新しい出来事である。
その時の事を思い出し、少しだけ身体を振るわせる忍。
そんな忍を落ち着かせるように恭也はそっと手を握り、二人の後ろから頼もしい声が届く。

「ご心配には及びません。忍お嬢様は私がお守りいたします」

「ありがとう、恭也、ノエル」

ようやく笑顔を見せる忍に恭也とノエルもほっと胸を撫で下ろす。
そんな様子をただ黙って見詰めていたさくらは、改めて恭也へと向き直る。

「まだ忍が狙いだとは分からないけれど、用心しておくに越した事はないと思うの。
 だから、忍の事をお願いね。勿論、ノエルも」

さくらの言葉に恭也とノエルは揃って頷くのだった。



「おい、やっぱりこっちで合ってるみたいだぞ」

地図の通りに歩いてきたのだが、目的地が見えない事で名雪が文句を言い、
丁度大きめの通りに出た祐一は、近くの店で合っているかどうかを聞いてきたの所である。

「そう。じゃあ、さっさと行こう」

「ま、待ってよー。僕、もう疲れて……」

さっさと歩き出そうとする二人の後ろから、少し息を乱したあゆがそう言うも、二人はさっさと歩き出す。

「酷いよ……」

「だから、荷物は減らせって言っただろう」

「そうだよ。どうせ後で送ってもらえば良いんだから」

文句を言うも二人にあっさりと言い返されて言葉もなく項垂れる。
と、そこへ第三者の声が掛かる。

「ちょっ、だからそこの店でお茶でもって……」

「うん? 何だ、そいつは名雪の知り合いだったのか」

「そんな訳ないでしょう。私、この街初めてなんだから。
 祐一が道を聞きに言っている間に、何か話し掛けてたみたいだけれど。
 あれって私に話してたんだ。てっきり、見えないお友達が見える可哀想な人だと思ってた」

「相変わらずの毒舌というか、いい性格だな」

「そう? そんな事はないと思うけれど。
 少なくとも、女の子を雪の中ずっと待たせたりはしないよ」

「仕返しに二時間も雪の中で待たせるような奴ではあるがな」

「偶々、忘れてたんだよ」

「あっそ。それよりも、さっさと行くぞ」

「あゆちゃん、行くよ」

話し掛けてくる男を無視して、二人は立ち去る。
祐一がいるからか、しつこく声を掛けるのを諦めた男は悪態をつきつつも離れて行く。
それをビクビクと見ながら、あゆも二人の後に続く。

「やっぱり名雪さんは凄いね。今のナンパさんでしょう」

「そんな名前だったの?」

「いや、名前じゃなくて……」

真顔で聞き返してくる名雪に言葉に詰まるあゆ。
祐一は名雪をじっと見詰め、

「ナンパねぇ」

「なに?」

「いや、何でも」

さっさと背を見せる祐一の隣に並び、名雪は小さく嘆息する。

「本当に何を考えているんだろう。初めて会ったばかりで声を掛けるなんて」

「ナンパだからな。知り合いをナンパするとは言わないんじゃないのか」

「見たところ学生みたいだったけれど、勉強もせずに何をやってるんだか」

さっさと自分たちのペースで歩く祐一たちの後ろを必死に追いかけるあゆ。
やがて、人通りも少ない路地へと差し掛かり、前方にマンションが見えてくる。

「あそこだな」

地図と見比べてもう一度確認する。
間違いない事を確認した時、三人の前方に黒い霧のような、靄のようなものが姿を見せる。

「……邪魔だ」

祐一が一言呟き、ソレを睨みつけるとそれは霧散して消え去る。
何事もなかったかのように歩き始める二人の後を、また慌てて追いながらあゆが泣きそうな声を出す。

「ね、ねぇ、さっきのってお化けじゃないよね」

「違う。そして、多分あれが……」

「お母さんが私たちをここに行くように差し向けた理由……、もしくは、それに関係するものだろうね」

「さて、この街で何が起こってるのやら」

日常会話をするみたいなやり取りをする二人と違い、
あゆは少しだけ怯えたように二人から離れないように歩く速度を上げるのだった。



Kanongle AnotherStory WonderHeart プロローグ 「北から来た者たち」







どぁぁぁぁぁっ! がぱべっ!

美姫 「あ、顔面から着地」

ぬおぉぉぉ! メイド〜!
……って、着替えてるし!

美姫 「まあね♪」

お、おおう、おおぉぉぉぉ。こ、ここには夢も希望もありやしねぇ。
終わった、終わっちまったぜ……。

美姫 「そこまで落ち込まなくても」

ぐぅぅぅ。最早これまで!

美姫 「大げさね〜」

否! 決して否! 大げさでも何でもない!
この怒りを、虚脱感をどうしろと!

美姫 「どうもしないで良いわよ」

……くぅぅぅ。これだから、これだからおまえは。

美姫 「はいはい、バカ言ってないでさっさと書き上げなさいよ」

……僕はもう駄目だよ。
何も、何もする気が……。

美姫 「はぁぁ。ちゃんと書いたらご褒美として……」

さあ、書くぞ! やれ、書くぞ!

美姫 「……まあ、予想通りというか、いつも通りだから良いんだけれどね」

バリバリ書いて、いざメイド〜。メイド〜、メイド〜。

美姫 「ちゃんと書いているのは良いんだけれど……」

メイド服と機関銃。おお、中々面白そうだと思わないか。

美姫 「……思わないわよ」

バカな!? セーラー服があるんだから、メイドがあっても……。

美姫 「バカ言ってないで、さっさと書きやがれ、このバカ」

おう!
と、そんなこんなで慌しいですが、今週はこの辺で。

美姫 「それじゃあ、また来週〜」










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