戯言/雑記




2009年7月〜8月

8月27日(木)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、もう夏も終わりだね、とお届け中!>



最近は大分、暑さもましになってきたよな。

美姫 「本当よね。流石にまだ昼間は暑く感じるけれどね」

それでも、ましだよ。ようやく、って感じだけれどな。

美姫 「それはそうと、今日はどうしたの?」

うむ。実は明日は更新できそうもないので、そのお知らせを兼ねてな。

美姫 「そう。とりあえず、謝れ! そして、飛べ!」

ぶべらぼげぇっ! ずみまぜんでじだー!

美姫 「ったく、アンタの都合で」

いや、そこは俺の都合になっても仕方ないかと……はい、ごめんなさい。

美姫 「そんな訳で申し訳ありません」

すみません。勿論、投稿はしてくださって構いませんので。

美姫 「ただ、更新は来週になってしまいます。……って、やっぱりもう一度飛べ!」

ぶべらっ! それでも地球は回っている!

美姫 「それじゃあ、CMいってみよ〜」







「…………」

そこに広がるのはただただ無音。
いや、幾ら閑静な住宅街の中にあったとしても、本当の無音などはあり得ない。
現に遠くからは微かに様々な物音がしている。
だが、今この場はまさしく無音と呼ぶべき空気に支配されており、声を発する者はおろか、動こうとする者さえいない。
いつもは笑顔のイメージさえあるなのはを筆頭に、レンと晶は肘がぶつかり合っているのに喧嘩はおろか、
文句さえ口にしようとはせず、美由希に到っては呼吸さえも止めているのでは、と思えるほど微動だにしない。
今、高町家にいる四人の視線はただ一点、そこにのみ注がれている。
跪き、両手を地面に着けて項垂れる恭也という珍しい、いや、もしかしたら初めて見るものに。
緊迫した空気が自ずと流れる中、事情が分からずレンが視線だけをどうにか動かして晶へと向けるも、
晶も理由は知らないと視線だけで返す。どちらが理由を尋ねるかとうい感じで静かな攻防が始まる中、
なのはがどうにかこうにか声を絞り出す。

「お、お兄ちゃん」

なのはの呼びかけに反応する事もなく、恭也はただ垂れた頭のその先だけを見詰める。
無残になったその姿を――辺りに少なからず破片をばら撒き、見事に砕け散っている盆栽を。

「…………わ、わざとじゃないんですよ、恭ちゃん」

どうにか搾り出されたと言った感じの美由希の言葉に、誰もが理由を悟る。
つまり、美由希が盆栽を割ったのだろうと。
だとしても、恭也のこの落ち込み方は、と思わずにはいられないのだが。
そう思い事情を知るであろう美由希へと三人の視線が向かうのだが、美由希は懸命に言い訳を述べるのに忙しく、
そんな視線になど気付く余裕もないようである。

「ほ、ほら、久しぶりに花壇の世話でもしようかな〜、と思った訳ですよ。
 そしたら、カラスがやって来てですね、近くにあった箒で追い払ったまでは良かったんですけれど、
 何故かその後集団で舞い戻ってきまして。結果として、恭ちゃんの盆栽が全滅しました」

最後の全滅と言う言葉になのはたちの視線がようやく恭也から離れて庭を見る。
見て、思わず顔を塞ぎたくなるような惨状に誰もが言葉を無くす。
全ての盆栽が地面に落ちたのだろう、見事に割れている。
驚くなのはたちを余所に美由希は尚も一人続ける。

「……ご、ごめんなさい、嘘を吐いてしまいました。烏が原因で3分の1壊しました。
 その後、現状に気付いて誤魔化そうと割れたのを隠し、割れていない物を並べ直そうとして手を滑らして、
 更に3分の1程割っちゃいました。それを恭ちゃんに見つかり、驚いて足を滑らして残りも……」

話を聞くうちに事態を把握していき、同時に誰もが呆れから溜め息を吐く。

「で、でも、初めて買って大事に育てていた盆栽だけは死守しようと頑張ったんだよ!
 お手玉したけれど、ほら、あそこの盆栽がある所からそこまでは何とか割れずにいたんだよ。
 でも、その、そこに石があったから……。……ね、ねぇ、恭ちゃん?
 な、何か言ってくれると嬉しいかな〜、あ、あはははは」

乾いた笑いを上げる美由希の声に応える様に、ゆらりと恭也は力なく立ち上がり、

「……美由希」

「……は、はい」

「この下郎が。それが許しを請う態度か」

「はい?」

「王の物を壊した臣下が取る態度か、と問うておる」

「え、えっと……」

恭也の変わった物言いに美由希が助けを求めるように晶たちを見るも、こちらもただ不思議そうに見返してくるだけ。
恭也の方を改めて見れば、薄っすらと恭也の頬に黒い刺青のような模様が付いている。

「え、えっと、恭ちゃん?」

「貴様如きにちゃんと付けて呼ばれる覚えはない」

「あ、あのー……」

「ま、まさか、あれは」

「知っているのか、レン」

「多分やけれど、古い文献で読んだ事がある。
 その昔、とある立派な王が居たんや。その王は民からも臣下からも慕われておった。
 けれど、その王にはアホ毛があってな。それを抜くと、途端に態度が変わったそうや」

「まさか、それが今の師匠?」

「でも、お兄ちゃんにそんな毛は」

「多分やけれど、毛じゃなくて盆栽が、あの一番大事にしていた盆栽がそうなんかもしれへんな」

そんな馬鹿なという表情で恭也を見るも、恭也はニヒルな笑みを浮かべると縁側に腰を下ろし、
ぞんざい態度で腕を組み、美由希を見上げると、

「さて、詫びる者の頭が我よりも上にあるのはどういう事だ?」

「う、うぅぅ、こんなの恭ちゃんじゃない――ふみぃ!」

美由希の文句はいつの間にか横に移動した恭也の拳骨遮られる。

「耳が遠いようなら引っ張って伸ばしてやろうか?
 大きくなれば、少しはよく聞こえるようになるかもな」

「うぅぅ、ごめんなさい」

再び腰を下ろした恭也へと頭を下げる美由希であったが、今度は腕を引かれて恭也の膝の上に座る形となる。

「え、えっと、今度は何でしょうか」

恐々と何か非があった尋ねる美由希に対し、恭也は唇の端を僅かに上げると、

「くっくっく、謝るだけでは足りん。
 足りない分は貴様自身に償ってもらわねばな」

言って美由希の両腕を後ろに回して片手で封じると、残る手を美由希の身体に伸ばす。

「ちょっ、や、やめ、こんな所で!?」

頬を赤らめる美由希に構わず、恭也はそのまま手を伸ばして頬から顎、喉へと滑らせたかと思うと、
脇腹へと持っていき、そこをくすぐり出す。

「あ、ああはっははははは、や、やめ、くる、苦しいぃ。
 っていうか、本当に止めて! お、おねが……、た、たすけ、あひゃはっははひゃひゃひゃはっ!
 い、息がで、でき、ひゃははひゅーひゅー、お、おねが、あっはははあ……、ゆ、ゆる。
 あははははは、し、死ぬ、ほ、本当にご、ごめっ」

暴れまわる美由希を押さえ込み、延々とくすぐり地獄を味わせる。
それを見ていた晶たちは言葉少なく、

「え、えげつないな、お師匠」

「昔、くすぐりって拷問の一つとして本当にあったって聞いた事があったけれど……」

「それよりも、どうやったらお兄ちゃんは元に戻るの?」

三者三様の事を口にするのだった。



これは、ダークサイドに落ちてしまった恭也を救おうと立ち上がった乙女たちの物語。
果たして、恭也を元に戻す事はできるのか。







という訳で、早いですけれど時間です。

美姫 「本当に早いわね」

あ、あははは。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


8月21日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、まだまだ残暑厳しいですね、とお送り中!>



本当にまだまだ暑い日が続くよな。

美姫 「本当にね。まあ、毎年の事なんだけれどね」

はぁ、当分は溶ける〜、という状態か。

美姫 「ずっと溶けていれば? そうすれば、夏が来る度に言わなくても済むわよ」

それはいいアイデア、な訳ねぇよ!
うぅぅ、ただでさえネタを考えて熱暴走をしているというのに。

美姫 「知恵熱じゃないの?」

ああ、そっか。にしても、いい加減、新鮮なネタを考えないとな〜。

美姫 「新鮮も何も、色々とメモっているじゃない」

そうなんだが、恋姫ネタが多いんだよな。

美姫 「色々と弄れるものね」

だろう。しかし、折角のネタだし使わないのも勿体無いし……。

美姫 「まあ、どうせ一発物なんだし、やっちゃえば?」

他に新しいネタが幾つかあるんだが、元ネタが知られているのかどうか。

美姫 「それこそ気にしても無意味ね。今までにも色々とやってるんだし」

ですよね。よし、迷いは捨てた、いざ行こう〜。

美姫 「と言うか、CM行く前にCMの打ち合わせってどうなのかしら」

…………ま、まあ、それもうちらしいという事で一つ。

美姫 「はぁぁ。まあ、私は良いんだけれどね」

はっはっは。さてさて、それじゃあ今週も……。

美姫 「CMいってみよ〜」







「ま、待ちなさい!」

怯えが多少滲みつつも、毅然とした口調で少々似合わない剣を手に構えた一人の少女が、
見るからに山賊や盗賊といった感じの男たちの前に立ち塞がる。
よく見れば、本当に追い剥ぎの類のようで、男たちは手に手に武器を持ち、
何の武器も持たない者たちにそれらを突きつけて金品を要求していた。
そんな男たちの前に気丈にも立ち塞がり、震える足を懸命に堪えている少女。
おっとりとした日向の似合いそうな顔立ちに、普段は穏やかな瞳を義憤に釣り上がらせ、精一杯に睨み付けている。
高町恭也が最初に目にした光景がそれであった。
当然、光に包まれたかと思えば、気が付けば目の前の状況。
知らず少女の姿に魅入っていた自分に気付いて頭を軽く振り、次いで自身の装備を確認する。
幸い、小太刀を初めとした装備を身に付けた状態であったらしく、確認を終えると恭也は少女の隣に並ぶ。



少女の存在に最初は胡散臭そうにしていた追い剥ぎたちも、少女の姿を見るとその顔にいやらしい笑みを浮かべる。
その笑みを前に少女は萎み掛ける勇気を振り絞り、もう一度追い剥ぎたちにやめるように宣言する。
だが、相手にもされない所か、逆に獲物と見なされて二人ばかりが近付いてくる。
剣を全く扱えない訳ではないが、腕に自信が持てる程でもない。
誰よりも己の力量を弁えている少女は歯痒さを感じながらも気丈に剣先を男たちに向ける。
そんな時だ。不意に隣に誰かが立ったのは。
思わず追い剥ぎの仲間で接近されたのかと焦った少女であったが、
その者は優しげな瞳で少女を見詰め、安心させるように落ち着いた静かな声で助力を申し出てきた。
たった一人増えただけ。
そんな状況にも関わらず、少女は何故かその男を信頼するように余裕を取り戻す。
が、追い剥ぎからすれば一人増えた程度という認識しかなく、武器を持っているのが少女とは言え、
あまりにも迂闊に警戒もせずに近付く。

「あの人たちの救出を」

そう言い置いて恭也は近付いてきた男へと素早く駆け寄り、向こうがまだ油断している隙をついて懐に潜り込む。
まだ何が起こっているのか把握していない男へと容赦ない一撃を繰り出し、
ようやく痛みを感じて前のめりになった男の後頭部へと肘を落として意識を奪う。
呆然とそれを眺めている二人目へと駆け寄り、同様に意識を奪うと残った者たちもようやく事態を把握し始める。
口々に恐喝するような事を口にしながら得物を手に恭也へと向かってくる。
それらを確実に仕留めながら、恭也が少女へと視線を向ければ、やはりというか、全員が恭也に殺到した訳ではなく、
人質となると判断したのか、追い剥ぎたちの数人は脅していた人たちの元にいる。
そこへ件の少女が一人で掛け付けたものの、下手に手を出せずにいた。
今は少女を捉えようと一人が幅も反りも大きな剣を手に迫っている。
その攻撃を手にした細い剣で防ぎ、受け流しているのだがいずれは捕まるのも時間の問題だろう。
それ以前に追い剥ぎたちが本当に人質として傍にいる者を使えば、少女は唯一の武器さえ捨ててしまいかねない。
自分がピンチな状況にありながら他人を気遣う。
戦いの中においては甘さとも捉えられかねないそんな少女の思考を恭也は既に感じ取っており、
けれど、そういうのは決して嫌いではない。
故に恭也が今すべき事ははっきりとしており、恭也は躊躇いもなく背中に隠していた小太刀を抜き放つ。
まさか相手が武器を隠し持っているとは思っていなかったのか、男たちに動揺が見えるが、
それこそ恭也にとっては関係のない事で、その隙を遠慮なく利用させてもらう。
自分と少女の間を塞いでいた邪魔な者たちだけを叩き伏せ、
こちらに気付いた男たちが人質を取ろうとするよりも先に懐へと手を伸ばし、服の内側に隠してあった飛針を取り出す。
片手で纏めて放たれた飛針は、全て外れる事無く男たちの武器を持つ手に突き刺さるか、
目などの急所を狙って放たれていた。
目などを狙われた者は、必死に庇うように己の持つ得物を振り回して打ち落とす。
だが、それで充分である。恭也は少女と対峙していた男にも飛針を投げており、少女は恭也の方を見て、
その意図を正確に読み取ると、人質となっている人たちに走ってと声を掛けて自分も走り出す。
別段、縛られたり拘束されていた訳ではないので、人質たちは少女に続くように走り出す。

「さて、これで人質の心配もなくなったな。
 遠慮なくやらせてもらおう」

それらを見届け、その隙を狙うように背後から振り下ろされた槍を振り返りもせずに小太刀で受け止めると、
静かにそう宣言する。それから数分後、追い剥ぎたちは残らず地面に転がっていた。
重症の者で手足の骨が折れていたりするが、それでも命に別状はないだろうと一目で分かる。
何度も礼を言ってくる人質だった者たちに手を振って見送ると、少女は改めて恭也と向き合う。

「危ない所をありがとうございます。私一人だとどうなっていたか。
 本当に私ってば何も出来ないですよね」

しゅんと項垂れるように俯く少女に、恭也は困惑しつつも元気付けるように声を掛ける。

「いえ、最初に立ち塞がったのは貴女ですよ。それを見たからこそ、俺も協力しようと思ったんです。
 さっきの人たちも貴女に感謝していたじゃないですか。決して何も出来ていないという事はないと思いますよ」

「でも、助けてもらわなければ、きっと私もあの人たちも……」

流石に恭也もそれ以上は何も言えずに黙り込んでしまうと、少女は気を使うように顔を上げて笑みを浮かべる。

「あはは、ごめんなさい。初対面の人に変な事を言ってしまって。そういえば自己紹介がまだでしたね」

そう言って、少女は自らの名前を口にする。

「……はい? もう一度、お願いできますか?」

思わず聞き返してしまう恭也であったが、決して聞こえなかった訳ではない。
現に、もう一度同じ名を聞きながら、恭也は別の事を考えていたのだから。
劉備と名乗る少女を前に、またしても厄介な事に巻き込まれたんだろうな、という事を。



「貴女様こそが占いによりお告げされた天の御遣い様に相違ありません!」

「は、はにゃにゃ。そ、そんな事を突然言われましても。なのはは気が付いたらここに居て……」



「月の〜、砂漠を〜……、って、見渡す限り荒野と山、山、山。
 うぅぅ、一体何がどうなっているの。恭ちゃん、フィアッセ、なのは〜、どこ〜!」



「ふふふ、姉さんたちに加えてフィアッセさんの歌声も加わったお蔭で……」

「人和〜、まだ〜。もうお腹ペコペコなんだけれど」

「先に行って食べてようか」

「天和、地和、それは駄目だよ。人和は私たちの財産を計算してくれているんだよ。
 もう少しだけ待とうね」

「は〜い」

「うぅぅ、フィアッセがそう言うのなら……」



「あらあら、駄目よ華琳ちゃん」

「何が駄目なのかしら、桃子?」

「こういうおいたは駄目だって言ったでしょう。
 華琳ちゃんたちの在り方に文句を言うつもりとかはないわよ。当人たちが納得しているんだもの。
 でもね、私には士郎さんという大事な人が居たの。そして、今もあの人だけ。
 だから、こういうおいたは他の子にしてあげなさいな」

「はぁ、分かったわ。それにしても本当に変わっているわね、あなた。
 この私をちゃん付けした上に、そこまではっきりと言うなんて」

「そうかしら? まあ、拾ってもらった恩は感じているけれど、それとこれとは別でしょう。
 それに息子が貴女に何処か似ているのよね。だからかしらね?」

「とてもそれだけの理由とは思えないわ。
 それが母親だからなのか、それともあなた自身が持っているものなのか。
 まあ、どちらにせよ構わないわ。あなたの作るお菓子には私も満足だもの。
 ちゃんとあなたの子供たちも探させているわ」

「ありがとうね、華琳ちゃん」



「お猫さま、ご飯を持ちしました」

「むー、いい加減、そのお猫さまというのを止めるのだ。
 あたしの名前は美緒だと教えただろう」

「そ、そんな恐れ多いです。お猫さまをお名前でお呼びするなんて。
 ああ〜、それにしても私は何と果報者なのでしょうか。
 まさか、お猫さまが人のお姿をお取りになってくださった上に、好きな時に尻尾や耳を触っても良いだなんて」

「にゃははは、明命だけ特別なのだ。だから、次は饅頭を頼む」

「分かりました! 次のおやつには必ず!」

「いやー、みゆきちの家に遊びに行って、気が付けば訳の分からない所に放り出され、
 どうしよかと思っていたんだけれど、これはこれで中々悪くないのだ。
 三食昼寝におやつ付き。もう少しゆっくりしていても良いかも……。
 あ、それで頼んでいた事なんだけれど」

「あ、はい! お猫さま、み、みみみ美緒さま……はぁぁ、名前をお呼びしてしまいました」

「良いから早く教えて欲しいのだ」

「はい! お友達と仰られた方々の特徴をお聞きして、
 それとなく街中で探してはいるんですけれど、まだ見つかっておりません。申し訳ございません!
 美緒さまのお願いとは言え、私用で勝手に軍を動かす訳にはいかないのです。
 ですが、必ずこの明命が見つけてさしあげますのでご安心を!」

「うむ、頼りにしているのだ」

「ありがとうございます! と、所で今日の分のふかふかもふもふは……」

「仕方ないのだ。好きなだけ触ると良いのだ。ただし、痛くしないように」

「ありがとうございます!!」



各地へと散った高町家+α
果たして、無事に再会できる日がくるのだろうか。

とらいあんぐる無双 「恭也、劉備と出会う」







そういえば、さ。

美姫 「何?」

ふと思ったんだけれど、今年はいつもよりも涼しいのか?

美姫 「急ね」

いや、俺自身は暑さに弱いからよく分からないんだけれど、ある人がそう言ってたんだよ。
いつもよりもクーラーを入れる時間が少ないって。

美姫 「うーん、地域にもよるんじゃないの」

いや、遠距離の知人とかじゃないし。

美姫 「そう言われても、私は特に何とも感じないけれど」

そうですか。

美姫 「そもそも、去年がどれぐらい暑かったなんて覚えてないでしょう」

まあ確かにそうなんだけれどな。
仕方ないじゃないか、今、本当にふと思い出して思ったんだから。

美姫 「別に悪いとは言ってないでしょうよ。あ、暑いと言えばさ」

何だ?

美姫 「今年はやけに蝉を見るのよ」

普通じゃないのか?

美姫 「そうじゃなくて、よく窓の外というか網戸に止まっているのよ」

鳴くと煩くて困るよな、それは。

美姫 「でしょう。という訳で、何とかして」

いや、どうしろと?

美姫 「アンタが捕まえる」

……すまん、よく聞こえなかったんだが、もう一度言ってくれ。

美姫 「アンタが捕まえる」

一言一句同じにありがとう。

美姫 「どういたしまして。と言うか、それはさっき言ったのも聞こえていたという事よね」

しまった! ぶべらっ!
って、何故、殴る。

美姫 「いいから、捕まえてよ!」

自分でやれよ!

美姫 「面倒だもの」

そんな事を言って本当は虫を触れないとか……そんな訳はないか。

美姫 「かなりむかつくわね」

って、握り拳はやめい!
でも、人に頼まなくても良いだろう。

美姫 「だって、手が汚れるじゃない」

それだけの理由かよ! ぶべらっ!
ごめんなさい、美姫様の美しい手を汚すなどもってのほかです!
だから、剣先でチクチクはやめて〜。変にむず痒いから!

美姫 「無駄な時間を使ってしまったわ」

いやいやいや! 何でもないです、はい。

美姫 「でも考えてみると、既に残暑という時期なのよね」

八月もあと一週間と少しだしな。
って、ふと振り返ると時間、早いな!

美姫 「それは私も思うわね。しみじみと時間が欲しいと」

俺も切に思うよ。もっと時間があれば……。

美姫 「浩を斬って、潰して、殴って、蹴って、吹っ飛ばして、扱き使って。ああ、時間が欲しい」

今、急にいらないと思ったよ。

美姫 「元からアンタの意見は聞いてないけれどね」

シクシク。いい加減、この扱いは何とかなりませんか。

美姫 「無理」

ですよね。って、俺自身まで納得してどうするよ!
奮起せよ、俺! もっと強気でいくんだ、うん!

美姫 「少し静かにしてよ」

ごめんなさい。

美姫 「って、もう時間じゃない? 浩に色々する想像している間に……」

その色々が怖くて聞けません。

美姫 「大丈夫よ、八分殺……こほんこほん」

うわー、聞きたくなっての!
って、想像の中でぐらい優しくして。

美姫 「えっ、じゃあ現実では良いの?」

しまった! 逆だ! 現実では優しくして!

美姫 「ほら、時間だって言ってるでしょう」

何気に流すなよ! 切実な問題なんだぞ!

美姫 「時間、じ〜か〜ん」

うぅぅ、分かりましたよ。
今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


8月12日(水)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、緊急告知だよ、とお届け中!>



さて、何故に水曜日にハートフルデイズが!?
と驚きの事かと思いますが、それには理由があるのです!

美姫 「単にお盆だからよね」

…………折角の前振りが潰された!?

美姫 「ごめん、ごめん」

しかも文句までもが軽く流されましたよ!?

美姫 「しかし、世間もお盆による帰省ラッシュみたいね」

うぅぅ、いつもの事だ、いつもの事だ。よし!
だな。早い所では今日にも混んでいるみたいだし。
とは言え、やっぱり13、15がピークなんだろうけれど。

美姫 「アンタも今週は更新できないって叫んびながら、
    近所中を上半身裸で走り回って警官に呼び止められてたものね」

そうそう。ちょっと雨の中を傘もささずに走っただけで、ってそんな事してないよ!

美姫 「おおう、ノリ突っ込み」

頼むから不穏な発言はやめて。
下手したら俺が変態になっちゃうじゃないか。

美姫 「……自覚ないの?」

変態じゃねぇ!

美姫 「さて、いつもの如く浩をからかってすっきりした所で」

いやいや、聞き捨てできない台詞がありましたよ?
と言うか、お前はすっきりしても、俺はかなりいじけてますからね!

美姫 「そんな事知らな〜い」

言うと思ったよ!
うぅぅ、相変わらずの扱いです。最早、慣れてしまって涙も出ない……。

美姫 「良かったじゃない。やっぱり何事も慣れね。少しは感謝しなさいよ」

うん、ありがとう。…………なんて言うか!
良い訳あるか! と言うか、誰も慣れたくもないわっ!
更に言うなら、そもそもの元凶が言うな!
って、血圧が上がりそう……。

美姫 「あら、また良い事をしてしまったわ」

どこがだ!

美姫 「アンタ、低血圧じゃない」

ああ、確かにこれで血圧も上がって、ってこんなので上がっても意味ないし!
うぅぅ、目からしょっぱい水が。太陽がやけにまぶしく見えるよ。

美姫 「ちなみに、ここは屋内だから太陽は見えません」

…………ちくしょう!

美姫 「さて、浩が走り去ったお蔭で少しは静かになったわね。それじゃあ、そろそろ……」

って、思わず走り去ってしまう所だったよ。

美姫 「って、戻ってくるの早すぎっ!」

だって、外は暑いんだぞ! 溶けてしまう。

美姫 「もう少し根性つけなさい!」

ぶべらっ!

美姫 「はぁ、やっぱり強制的に沈黙させるのが一番早くて楽ね」

う、うぅぅ、やっぱり扱いが酷い……。

美姫 「それじゃあ、改めてCMいってみよ〜♪」







洋風の、まさにお屋敷と呼ぶに相応しい佇まいを見せる一件のお屋敷。
広大な庭を持ち、それに準じるように家屋も広く、故に電話などが鳴ったとしても気付かなくても不思議はない。
勿論、実際にそのような事があるはずもなく、静かな家に鳴った電話は三回と呼び出し音を鳴らす事もなく、
屋敷に仕える給仕の一人が取り上げる。
電話の相手が簡単な用件と名前を告げると、暫くお待ち下さいという言葉の後に保留にし、子機を手に部屋へと向かう。
ノック音に返答が返り、ゆっくりと扉を開けた先、一人の長い髪の女性が振り返る。

「わざわざ、ありがとう」

「いえ、お気になさらないでくださいお嬢様」

はっきりとした笑顔とまではいかない微笑を浮かべて礼を言う女性。
別に機嫌が悪い訳ではなく、寧ろ感謝の気持ちの篭った声に給仕は頭を下げて子機を渡すと部屋を後にする。
給仕が出て行ったのを確認し、女性は受話器の保留を解除する。

「リスティさん、お久しぶりです」

何かを期待するような声音に、電話の向こうでリスティは言い辛そうな雰囲気を作るも、おずおずと口を開く。

「あー、非常に期待させておいて悪いんだが、例の件に関する事じゃないんだ」

本当に申し訳なさそうな声色に、内容によって沈んだ気分を悟られないように心持ち声音を上げて返す。

「そうですか、それは残念ですけれど仕方ありませんね。
 それで、今日はどういったご用件でしょうか?」

「言い難いんだけれど、悪いニュースに分類される事だよ。
 それにしても、随分と言葉使いが様になってきたじゃないか、美影」

「そりゃあ、リリアンに通い始めて半年近くですもの。
 毎日、こういった言葉を使い、ましてや周りも使っていればね」

言いながら美影は首を振り、

「とは言え、やっぱりこっちの方が話しやすいですけれどね。
 それで悪いニュースというのは? わざわざ連絡するぐらいですから、まさかまた祥子に何か?」

「いや、そっちの件は完全に問題ないんだよ。
 問題なのは……」

言い辛そうに言いよどむも、すぐに続きを口にする。

「僕の方も昨日にその連絡を受けて、確認していた所なんだけれど……。
 実は、ちょっと美影の存在が噂されているみたいなんだ。小太刀のニ刀を使う女剣士の噂がね。
 その噂から美沙斗じゃないかと初めは思われていたみたいなんだが、時期的に美沙斗ではないと判明され、
 悪い事に美沙斗の件もあって、御神の生き残りが他にも居るんじゃないかという噂になっている」

リスティの話を聞いて美影は顔を顰める。
彼女が修める御神流は暗殺や護衛を請け負う一族で、
銃器の発達した現在においてなお、刀剣を使う一族として裏の世界でも名を知られている。
またその職業柄か恨みを持つ者も個人、組織を問わずに存在し、そんな組織の一つにより滅ぼされた。
そのはずであった。だが、実際には完全に滅んでおらず、今も尚御神はその数を三人と減らしつつも生き残っている。
その一人が今、電話を受けている高町美影、本名、高町恭也である。
だが、それを知られれば自身だけではなく、周囲にも害が及ぶ可能性があるため、その存在を完全に隠していた。

「小笠原のお嬢さんを狙った組織、ファースが自分たちが撤退させられる事となった理由を独自に調べていたらしい。
 で、その結果として名前や容姿までは掴めないながらも、自分たちの撤退にはニ刀の女剣士の存在があると」

「この仕事をしていればいずれはばれる事だったと思います。
 ですから、リスティさんが気にするような事ではありませんよ。
 それよりも、現状として何か問題が起こりそうなんでしょうか」

「それに関しては何とも言えないというのが現状だ。
 噂はあくまでも噂という段階に留まっているし、詳細は漏れていないからね。
 それでも君の耳には入れておくべき事だと考えて、こうして忠告めいた連絡をしたっていう訳さ」

「お心遣いありがとうございます。一応、こちらでもいつも以上に気を張っておきます」

「ああ、頼むよ。それと君の家族の事は気にしなくても良いから。
 それに関してはこちらが責任を持って気を使っておくから」

リスティの言葉にもう一度礼を口にし、軽い世間話をして電話を切る。
子機をテーブルの上に置き、美影は少し考え込む。
が、リスティが言ったように刀ニ刀という情報だけでそう簡単に特定は出来ないだろうし、
自分の身体を見下ろして変わってしまった事を思い出す。

「多分、大丈夫だろう」

言い聞かせるように口にした所で、部屋がノックされて祥子の声が聞こえる。
美影は心配させないように気を付けつつ、お嬢様を迎え入れる為に扉の傍へと近付くのだった。

この時はまだ、あんな事が起こるなどと予想できるはずもなく、
それを責めるのは酷というものであろう。



「見つけた、御神の生き残り。女という事は恐らくは御神当主御神静馬の娘……」

美影に気付かれる事無く、美影を監視する謎の人物。



「お兄ちゃん、女の人になっちゃったの!?
 えっと、お兄ちゃん、じゃなくてこの場合はお姉ちゃんで良いのかな。と、とにかく、おかーさん、大変だよ!」

慌てふためく妹の様子に、当然の反応だなと人事のように思う美影であった。



「あ、あははは、皆、落ち着いて話し合おうよ。僕らには話し合いが大切だと思うんだ。
 ほら、僕も悪気があった訳じゃないんだし……」

「わざとで恭ちゃんを女の人にされたんなら、それこそ問答無用ですよリスティさん」

「美由希さんの言うとおりです。それよりも、何でこんな事になっているんですか!?」

「ノエル、至急さくらに連絡を取って。来れないなんて言ったら、首に縄を付けてでも連れて来て」

「了解しました、忍お嬢様」

海鳴でちょっとした騒動が巻き起こったり……。



「ねぇ、美影〜、こうして善意で協力しているんだから、少しぐらい私に付き合ってくれても良いと思わない?」

「シスターマリィ! 美影から離れてください」

「嫌よ。それに、今の私はシスターじゃないもの。それと、マリィじゃなくてアニィよ」

「ちょっ、どさくさに紛れて服の中に手を入れないでっ!」

「ふふ、可愛い反応ね、美影」

頼もしい助っ人(?)も登場。

果たして、美影はこの事件を無事に乗り越えられるのか。



とらいあんぐるがみてる2







うーん、お盆のお知らせもしてしまったし。

美姫 「となると、続けて同じパターンでの終わり方なのね」

いや、実際にもう時間ないし。

美姫 「なんでよ!」

知らないよ!

美姫 「とりあえず、終わるためにアンタは吹っ飛べ!」

ぶべらっ!
いや、終わるのに俺が吹っ飛ぶ必要は必ずしもないよね?

美姫 「言われてみればそうかもしれないけれど、つい習慣で」

嫌な習慣だな!

美姫 「もう耳元で叫ばないでよ!」

ぶべらっ!

美姫 「ほら、さっさとしめて」

う、うぅぅ、了解。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


8月7日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、暦では秋なんだって、とお送り中!>



立秋から立冬の前日までが秋。という事で暦上は秋らしいぞ。

美姫 「まあ、昔の暦だし、実際は残暑でこれから暑いんだけれどね」

だよな。いや、八月はまだまだ夏だし。
暑さで溶けてるし。やる気ないし――ぶべらっ!

美姫 「そこは出しなさいよ」

ふぁ、ふぁ〜い。
まあ、何だかんだとここ数日で掲示板を幾つか改良したんだが。
いやー、これが結構手間取った。

美姫 「どう改良したのよ」

とりあえず、日本語を入力しないと拒否。また、その際に句読点がないと同じく拒否。
そして、URLの入力禁止の三つ。
他には新規投稿へ返信の際のメール欄とURL欄も削除したけれど、こちらはおまけみたいなものかな。

美姫 「逆にそこをなくすと困らないかしら」

うーん、そういった意見は聞かないけれど。
もし、そういう意見が出てきたら元に戻すという事で。

美姫 「完全に手を煩わせるわね」

そこは申し訳ないけれど、勘弁してもうしかないかな。

美姫 「まあ、私には関係ないから良いけれどね」

いやいや、掲示板の出番がないからって拗ねるなよ。
と言うか、偶に掲示板にも顔を出してますよね?
しかも、かなり高い確率で殴られてますよ!?

美姫 「そんな昔の事は忘れたわ」

その年でもう健忘――ぶべらっ!
……わ、私の先ほどの発言には不適切な言葉がありました事を、ここで陳謝させて頂きます。

美姫 「宜しい。で、何の話だったかしら?」

い、いえ、何でもないです、はい。

美姫 「そう。それじゃあ、少し早いけれどCMいってみよ〜」

決して逃げた訳じゃない、日和った訳じゃないんだからね。
そう、ただ、自分が可愛いだけ――ぶべらっ!

美姫 「言い訳というよりも、ただ恥の上乗りって感じよ。全く見苦しい」







「さて、こうして今、俺たちは森の中にいるんだが。美由――グレーテルはどう思う?」

「恭ちゃ――ヘンゼル兄さん、きっと私たちは駆け落ちしたんだよ。って、痛い!」

「初っ端から話の内容を変えるな。このバカ弟子。
 母に捨てられた訳だが、パンくずを……、はて、見当たらないがどうしたんだ?」

「あ、あははは。寝る前に渡されたパンはそういう事だったんだ。
 てっきり夜食にくれたんだと」

「……まさかとは思うが、普通に食べたとか言わないだろうな」

「お、美味しかったよ」

言った途端、ヘンゼルの拳がグレーテルへと落とされる。

「うぅぅ、母親以上に兄の暴力に悩んでます」

「自業自得だ、馬鹿者め。ふむ、北がこっちだから……家はこっちだな」

「ああ、置いていかないで! と言うか、迷いもせずに帰っても良いの!?」

「誰が好き好んで森で迷いたいんだ?」

「確かに正論だけれど……。ほら、少しは可愛い妹と森での二人暮らしを考えてみたり」

「森の中は獣たちの声で賑やかだな。で、何か言ったか? よく聞こえなかったんだが」

「うぅぅ、別に何も言ってません」

「まあ、捨てられたのに帰るというのもあれだな。
 幸い、この森は木の実や動物なども大勢いるみたいだし、数ヶ月ぐらいなら暮らせるか」

「恭ちゃ……お兄ちゃんと二人暮し。
 って、ついつい良いかなって思っちゃったけれど、それだと漂流記ものだよ!」

「ぶつくさ言ってないで、寝床を探すぞ」

「うぅぅ、頼もしすぎるお兄ちゃんを持って喜べば良いのか、泣けば良いのか」

言いつつ、ヘンゼルの後を追うグレーテルであった。
そうして二人が森の奥へと進んで半日ほど過ぎた頃だろうか、

「しかし、随分と歩いた気がするな」

「だよね。そろそろ出口なり、森から抜けるなりしても良いような気もするけれど」

そう呟く二人の脳裏に、

『一晩中、顔色も変えずに歩かないでよ。いい加減、疲れたとか言わないと次の展開もできないじゃない!』

何処からともなくそんな声が聞こえたような気もしたが、きっと気のせいだろう。
そう結論つけて二人は変わらぬ足取りで更に進んでいく。
すると、根負けしたのか、てこ入れが入ったのか、暫く進んだ二人の前方に明かりが見えてくる。
人家かと思って近付いてみれば、それは壁から扉、屋根に至るまでお菓子で出来た家であった。

「ああ、女の子なら一度は夢見るお菓子の家だよ」

「ふむ、耐震性に問題ありそうだな。そもそも、屋根がチョコレートでは雨は凌げたとしても晴れた日は……」

「いやー、こんな時に現実的な意見はやめて〜」

「そもそもグレーテルよ。お前はこれを食べるつもりなのか?
 衛生的に考えてみても……」

「お願いだから真顔でそんな事を言わないで」

シクシクと口に出してまで泣くグレーテルにヘンゼルは肩を竦めて取り合えず家の中へと入ってみる。
中は床だけでなく、テーブルや椅子までもが砂糖や飴といったお菓子で出来ており、甘い香りが漂っている。
ヘンゼルは顔を顰め、

「いるだけで胸焼けをおこしそうだ」

「見て見て、恭ちゃん。ほら、ダイ――痛い、何するのよ!」

「そういうネタは止めておけ。あと、ヘンゼルだ」

「うぅぅ、ちっとも優しくない兄です。それはさておき、食べても大丈夫かな」

「食べるつもりだったんだろう」

「なんだけれど、やっぱりほら、柱とか壁として使われているんでしょう」

「まあ、食べた途端にバランスを崩して崩壊という事もあるかもな」

「色んな意味で食べるのが怖いね」

「なら、これを食べるか」

「途中で姿が見えないと思ったら、そんなの捕ってたの?」

「川があったからな。水もばっちりだ」

「た、竹筒。そんな物まで持っていたんだ……」

「文句の多い奴だな。いらないのか」

「食べる、食べます」

家の中で外から拾ってきた枝で火を起こし、魚を焼き始める兄妹。
その際に摘んできた木の実などを葉っぱで作った皿の上に置き、

「お兄ちゃん、お菓子の家でよかったね」

「そうだな。こうも簡単に床に枝が刺さるのはお菓子だからな」

「とは言え、流石に直に座るのはあれだものね」

「まあ、それは即席とは言え葉っぱで作った座布団で我慢だな」

「だね。雨露が凌げるだけましだものね」

何ともたくましい兄妹はお菓子の家を口にする事無く食料を調達して腹を満たしてしまう。

「って、食べてくれないと勝手に食べたわね、って怒って登場できないじゃないの!」

「しの……じゃなくて、魔女だよ、お兄ちゃん」

「魔女というよりもマッド……こほん、魔女だな」

「もう、間違えたら駄目だよ。マッドは白衣、魔女はほら、このように黒いローブで全く正反対なんだから」

「だが、どちらも迷惑という意味では同じでは」

「そこは強く否定できないけれど、魔女は場合によってはいい人の場合もあるよ」

「確かに、目の前のマッドと魔女を一緒にしたら魔女に悪いな」

「いや、だから目の前の人は魔女だって」

「ああ、そうだったな。迷惑を掛ける方の魔女だった」

「そうそう、悪い魔女に分類される方だよ」

「うぅぅぅ、も、もう許して。忍ちゃんのHPはとっくの昔にゼロよ!
 って、そうじゃなくて、もっと驚くなり、何なりあるでしょう!」

怒る魔女に対して兄妹は顔を見合わせ、

「わぁー、ほんもののまじょだ」

「びっくりだね、おにいちゃん。わたし、こわいよ」

「……シクシク。魔女に生まれてはや数百年。こんな屈辱は初めてよ!」

「と言うか、そろそろ帰らないとなのはが心配だ」

「あ、そうだね。多分、晶やレンが居るから大丈夫だと思うけれど、なのはまで母さんに捨てられたら大変だ」

「という訳で、結果は同じだから途中経過をすっ飛ばしても問題なかろう」

「大いにあるわよ! 私の出番をはしょらないでよ!」

「気にするな。大した問題じゃない」

「なのはの方が大事だもんね」

「そういう事だ。決して、こことは違うパラレルワールドでの防犯システムの仕返しだとかは思ってない」

「って、意味分からない事を言いつつ、刀を持って近付かないで!
 こっちの妹の方まで刀抜いているし!? 何なのよ、この兄妹は!?
 い、いやぁぁぁーー!!」

誰も居ない森に魔女の声が響き、以降、この森で魔女を見た者は誰もいないとか。
こうして、二人の兄妹は無事に自力で森を抜け出し、末っ子の元へと無事に帰り付いたのでしたとさ。
めでたし、めでたし。







いやー、御伽噺パターンは久しぶりかな?

美姫 「そうよね。って、思ったよりも時間がないわよ」

うお、先週と似たようなパターンだな。

美姫 「ほら、早くしなさい」

おう! そんな訳で、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


7月31日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、もう七月も終わりじゃないか、とお届け中!>



暑中見舞いには少し早いかもしれないが、暑い日々如何お過ごしでしょうか。
皆さんの心の清涼剤――ぶべらっ!

美姫 「夏の風物詩、アンタの打ち上げね」

ないないない。そんな風物詩は何処に行ってもないから!

美姫 「ごめん、ごめん。冒頭からいきなり可笑しな事を言うもんだから、ついつい突っ込みを」

毎度思うんだが、一度、お前と突っ込みとお仕置きとぶっ飛ばしの違いについて話し合いたいものだな。

美姫 「私はいつでも良いわよ。実演付きで付き合ってあげるから、その身で実感しなさい」

やっぱり遠慮させてください。

美姫 「いつもの如く綺麗な土下座ね」

何とでも言うが良いさ!
とまあ、冗談はさておき。

美姫 「冗談なの」

まあ、その辺りもさておいてくれるとありがたい。

美姫 「はいはい。で、何よ」

うむ、実は来週の頭、月、火、水と更新できないかも――ぶべらっ!
さ、最後まで話を聞こうね!

美姫 「いや、つい反射的に手が動いてしまったのよ。で、どうしてよ。お盆はまだでしょう」

まあ、確かに盆はまだだけれど、色々とあるんだよ。

美姫 「お盆の準備とか」

まあ、それもあるけれど、それだけか。
おい、俺の用事ってそれしかないの? というか、それで三日間って俺の作業、どれだけ遅いんだよ。

美姫 「アンタがすんなりと物事を進めれると思えないし。と、まあ、それは良いとして、じゃあ何でよ」

仕様です――ぶべらっ!
ひ、酷い。

美姫 「アンタの言い訳がね。せめて、暑さで溶けているぐらい言いなさいよ」

実際に言ったら殴るよね?

美姫 「勿論よ。ふざけるな、ってね」

どないせぇっちゅうねん!

美姫 「働け」

うわ〜い、簡潔なお言葉。まあ、兎に角、そういう事ですので。

美姫 「ったく、このバカは。あ、でも投稿事態は受け付けているんでしょう」

それは勿論。いつもの如く、投稿は受け付けてます。
ただアップが遅れますので、量によっては到着順にアップしていく事になると思います。
ご迷惑をお掛けしますが、ご了承ください。

美姫 「一通り連絡も済んだ所で、今週もCMいってみよ〜」







授業終了の、そして昼休み開始のチャイムが鳴り、委員長が号令を掛ける。

「起立、気を付け」

号令に合わせて席を立つ生徒たちの中、二人ばかり窓枠に足を掛ける者がいた。
礼の言葉と同時二人は身を外側へと投げ出して飛び降りる。

「飛んだ!?」

隣の席の女子生徒が叫ぶのを聞き、少女と仲の良い三人の少女たちがやって来る。
四人が揃って下を見下ろせば、二人の男子生徒は無事に着地して走って行く。
安堵の吐息を零す最初の少女とは違い、頭の両脇を団子にした少女は出遅れたと叫び、
身に着けていた白衣を脱いで広げると、パラシュート代わりにして窓から飛び降りる。

「アイキャンフライ!」

「えぇー! ま、真宵さん!?」

「落ち着きなさいよ、姫。真宵の事だから大丈夫だって」

飛び降りた真宵を心配そうに見詰める姫へと忍が笑いながら言えば、その隣で皆よりも頭一つ分は小さい少女も頷く。

「そうそう。怪我した所で誰も損しないわ」

「って、そういう問題なんですか!?」

「とは言え、忍ちゃんも真宵や恭也、伊御くんに負ける訳にはいかないのよ。
 幻のイチゴロールケーキと高級カツサンドは忍ちゃんが頂くわ」

言うや、何処からか取り出した見るからに怪しいロケットエンジンを背中に背負おうと窓から身を乗り出す。

「という訳で、ちょっくら行ってくるわ」

「あ、危ないですよ、忍さん。つみきさんも止めてください」

言われたつみきは一つ無言で頷くと忍に一歩近付き、

「牛乳をお願い」

「了解♪」

「えぇぇ!」

止める所か買ってくるものを頼む。
注文を受けた忍は親指を一つ立てて応えると、そのまま宙へと身を投げ出す。

「つみきの胸のためにも必ず手に入れてくるわ!」

叫び飛び降りた忍目掛け、怒ったつみきが机の上に忘れられていた真宵の財布を投げる。
運悪く、財布は忍の背負ったロケットエンジンに当たり、小さな火花を散らせたかと思うと、
次の瞬間には黒煙を上げて爆発する。

「何するのよ! って、真宵、どいて!?」

「にょわっ! 空中で退けとはご無体な!」

「ああー、ぶつかる!」

「こ、これが胸……いや、ナイチ……ナインの祟りか!」

「おお、ボインの対極にある事がよく分かる新語ね。って、つみき、椅子と机は洒落に、洒落にならないから!」

「って、地面、地面が近付くっ!」

盛大な音が上がる下を見下ろし、姫は青い顔で震える。

「あわわわ、つ、つみきさん」

「なに?」

「な、なんでもありません」

注意しようとした姫であったが、あまりにも鋭い視線に沈黙するのだった。



これは、高町恭也、月村忍、音無伊御、御庭つみき、春野姫、片瀬真宵、そして戌井榊を加えた七人による、
騒々しい日々の物語である。



「それにしても、あれじゃね」

「何よ」

「いや、伊御さんもだけれど、恭也さんも大概鈍いなと」

「でもでも、お二人ともとってもいい人ですよ」

「姫、それは分かってるって。
 尤も、伊御くんはいい人過ぎて誰にでも優しいから、つみきは心配でしょうがないでしょうけれど」

放課後、四人で喋っている中、つみきをからかう雰囲気を忍と真宵が醸し出す。
それに気付かない姫はのほほんとした笑みを浮かべたまま同意するするように頷く。

「そりゃあ、つみきさんとしては面白くないよね」

「「つみき(さん)、じぇ〜ら〜しぃ〜」」

「ふんっ」

からかう二人に食べていたポッキーを投げれば、見事にそれは額に突き刺さる。

「わぁっ! つ、つみきさぁぁん!」

慌てた姫の声だけが教室に響き渡る中、教室の扉が開いて伊御と恭也が入ってくる。

「流血沙汰?」

「一体、何があったのか聞きたいが、原因は御庭なのだろうなという検討だけは付いてしまうな」

教室の惨状を目の当たりにしても、落ち着いて話す二人。
その背後から手が伸びてきて、二人の首に周り少年が顔を出す。

「ふっふっふ、まだまだ甘いな二人とも。
 確かに原因は御庭かもしれないが、その根本的な理由はきっと伊御が関係し――がはっ!」

最後まで言い切る事も出来ず、榊は再び投げられたポッキーに額を打たれてもんどり返る。

「うちの教室はいつからこんなバイオレンスに」

「だが、原因はお前にあるみたいな事を榊が言いかけていたぞ、伊御」

恭也の言葉に考えるも、当然ながら思い当たる節などなく首を捻るしかできない伊御へ、
悪魔の尻尾を生やした二人が近付く。言わずと知れた忍と真宵だ。

「それは、つみきさんが伊御――ふぎゃぁっ!」

「って、つみき、ま、待った、待った! さ、流石に鼻はやめて!」

暴れる三人を呆れたように見遣りつつ、いつもの事とゴミ箱を元の位置に戻す。

「恭也くん、伊御くんゴミ捨てご苦労様です。良かったらお二人も食べます?」

言ってポッキーを手にしたまま、二人にあーんとする姫。
あまりにも自然とする姫に苦笑しつつも気を付ける様に注意する恭也と伊御の間から、
いつの間にか復活した榊が顔を出し、にやけた笑みを見せる。

「姫、そんな事をすると御庭が焼きもちをやくぞ、なぁ、御庭」

忍と真宵に制裁を加えて一息着いたつみきであったが、榊の言葉に顔を赤くして反論する。

「しょ、しょんなことはにゃわわよ!」

思いっきり噛むつみきを見て、心を癒される伊御たちであった。



とらあっちはーとこっち 近日……。

   最後に一言、年代、時代考証に口出しなし!







さて、今回は他に特に連絡事項もないし。

美姫 「ちょっと早いけれど、この辺で」

それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


7月24日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、またしても何事!? とお送り中!>



完全復活宣言も冷めぬうちに火傷。
そして、今度は……。

美姫 「もういい加減にしてよね」

いやいや、今度は俺じゃないって。
掲示板の件だよ。

美姫 「ああ。何か使えない状態ね」

だろう。復旧の見込みもあるのかどうか分からない。
という訳で、レンタルは止めてせっせと新しい掲示板を。

美姫 「頑張ってね〜」

おうともさ。
とは言え、これで完成して掲示板を変更すると、今度は困った点が。

美姫 「何?」

今まではサーバーが落ちても掲示板で連絡できたんだけれど、新しくするとHPと同じサーバーに置く事になるから。

美姫 「ああ、完全に落ちるのね」

そういう事だ。
まあ、今からそれを考えても仕方ないという事で、せっせと弄ります。

美姫 「働け、動け〜」

言われなくてもやってるよ!
と言うか、大元は元からあるのを使っているから良いんだけれど。
細かい設定とかが面倒くさい。特にアイコン設定が……。纏めてドンと入力できれば楽なんだけれどな。

美姫 「文句を言う暇があれば、手を動かしなさい」

ちゃんと動かしてますよ。

美姫 「まあ、精々早めに完成させるのね」

へ〜い。という事で、掲示板が新しくなった時、何か不具合があれば例によって「なぜなに」の方にお願いします。

美姫 「で、連絡事項も済んだ所で」

今週はこの――ぶべらっ!

美姫 「元気にCMいってみよ〜」

す、既に元気と言える状態じゃないんですが……。







彼女はどこにでも居る、ごくごく普通の女の子。
密かに想いを寄せる男性も居るし、家庭に特にこれといった不満も無い。
趣味の読書と園芸に関しては、兄が少し注意とからかいの言葉を掛けてくるぐらい。
しかし、彼女は普通とは少し違う所があったのです。
それは、普段しているみつあみを解くと……。

「はぁー、危ない所だったね。今度からはちゃんと確認してから渡らないと駄目だよ」

そう言って、今しがた車に轢かれそうになった猫を解放してやると、
まるで言葉を理解しているかのように一声鳴き、猫は去っていく。
そこへ血相を変えた少女が近付いてくるなり、その身体を心配そうに見遣る。

「み、美由希さん、大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫ですよ。猫も無事だったし良かったです」

「はぁぁ、本当にびっくりしました。まだ心臓がドキドキしてます」

猫を助けた美由希と、その美由希を心配した那美は何事もなく済んだ事を喜ぶように笑みを交わす。
が、そこへふいに影が落ち、気付いた那美が何か言うよりも先に拳骨が落ちる。

「たっ」

大して力は篭っていなかったのか、美由希は蹲る事無く後ろを振り返り、予想通りに人物をそこに見つける。

「ちょっと恭ちゃん。いきなり妹の頭に拳骨を落とすなんてどういうつもり。
 それとも、恭ちゃんの中では今、街で妹を見かけたら拳骨を落とすっていうのがマイブームなの?」

一気に捲くし立てて迫ってくる美由希の顔面を片手で押さえて引き離しつつ、恭也は渋面を作り言い返す。

「そんなマイブームなどないし、もし仮にそんなブームがやって来たとしても、妹ではなくバカ弟子に、だろうな」

「ぶー、なのはにばかり……」

わざとらしく拗ねて見せる美由希を無視して那美に挨拶をし、その事にまた文句を言ってくる美由希の口を塞ぐと、

「猫を助けるために神速を使うとはな。あれほど、神速の使用はまだ禁止だと言っているというのに」

「で、でも、神速じゃないと間に合わなかったし……。
 大体、恭ちゃんもあの場に居れば同じ事をしたくせに」

「人前でそうほいほいと使うか」

そう言いつつもその顔は怒ってなどおらず、寧ろ、

「あの、恭也さん。こういう事を言うのはあれなんですが、怒るのならもう少しそれらしい顔をした方が……」

「かなり怒った顔をしていると思うんですが?」

確かに顔を見ればしかめっ面なのだが、よくよく見れば何処か嬉しそうにも見える。
叱られている美由希もそれが分かっているのか、顔をにやけさせて恭也を見詰め返している。
居心地の悪さを感じつつ、それを誤魔化すように美由希の髪を乱雑に掻き回す。

「ちょっ、恭ちゃん、やめてよ。髪が乱れる」

「師匠の言いつけを破った罰だ」

「うぅぅ、だからそんな顔じゃ説得力がないって……。
 うぅぅ、や〜め〜て〜」

「何を言っている。珍しく褒めてやっているんだ、喜べ」

「褒めてない、絶対に褒めてない。って言うか、さっきと言ってる事が違うし」

嫌がりながらもその顔は嬉しそうにしており、傍から見ればじゃれているようにも見える。
そんな光景を微笑ましそうに見ていた那美であったが、ふと思い出したかのようにポケットからリボンを取り出す。

「美由希さん、リボン落ちましたよ」

「ありがとう那美さん」

那美からリボンを受け取ると、ようやく解放された髪を手で直してみつあみを編んでいく。
何年と続けてきただけあり、その手際はよく、あっという間にみつあみを編み上げるとリボンで括り、
ポケットに仕舞いこんでいた眼鏡を掛ける。

「それで恭ちゃんはこんな所でどうしたの?」

「別に散歩のついでに本屋へと寄った帰りだ。そっちは那美さんとのデート帰りか」

「うん。翠屋に行く途中だったんだけれど。そうだ、恭ちゃんも一緒に行く?」

邪魔じゃないかと尋ねる恭也であったが、美由希本人だけでなく、連れである那美からも是非と言われ、
恭也は美由希たちと共に翠屋へと向かう。
その一歩を踏み出した途端、

「あうっ」

何もない所で美由希が転びそうになり、恭也が腕を掴んでそれを防ぐ。

「あ、あははは、ありがとう恭ちゃん」

呆れた視線を感じつつ、引き攣った笑みで礼を言う美由希に対し、わざとらしく大仰な溜め息を吐いてみせる。

「どうしてお前はそう……」

「あ、あははは……」

「本当に不思議ですよね。さっきは物凄く早く動いても何ともなかったのに」

言いつつ、那美はさっきと今の美由希の違いを思わず探し、

「もしかして、髪を解いたら運動能力が上がるとか」

冗談っぽくそう口にし、美由希と二人で笑う。
だが、恭也は一人、真剣に考え込むのだった。

数日後、那美の言葉を実証するべく、恭也は髪を解いた状態とみつあみ状態の美由希を共に罠に掛けるのだが、
それはまた別の話。更にその結果、まさか那美の言葉が立証される事になるなど、誰も思いもしないのであった。

髪を解けば運動能力が上がる少女、高町美由希。彼女の物語は始まったばかりである(?)

ストみつ 近日……?







掲示板と言えば、アイコンのリクエストが幾つかあったよな。

美姫 「そう言えばあったわね」

何があったっけ?

美姫 「何、リクエストを受け付けるの」

うーん、どうしようかなと悩み中。とは言え、俺自身が作れる訳じゃないから、探してくるだけだけれどな。
とらハに関しては画像を弄っても良いから幾つか作ったのがあるけれど。
そんな訳で、とりあえずとらハは全キャラ揃えようかなとか思いつつ、そんな時間ねぇよ、と放置していたんだが。

美姫 「確かに数が多いものね」

だろう。まあ、この辺りは追々という事で。

美姫 「何はともあれ、先に掲示板を完成させて使ってみないとね」

ああ。不具合とかがないか見ないといけないしな。
という訳で、再び掲示板の作業に戻りますよ〜。

美姫 「丁度、時間だしね」

おうともさ!
そんな訳で、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


7月17日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今度は何じゃ!? とお届け中!>



完全復活! の宣言も冷めぬうちに……。

美姫 「今度は何よ!?」

あははは、両腕火傷。ぴりぴりして激しく動かすと引き攣る、引き攣る。

美姫 「いや、何をどうしてそうなったの? 一応、完治を貰ってからも大人しくしてたわよね」

ああ。だけど、ちょっと色々あってこの間、炎天下で作業をしないといけなくなったんだよな。

美姫 「ああ、洗車してたわね」

ああ。たかだが二時間程度だったのに。うぅぅ、痛い……。

美姫 「火傷じゃなくてただの日焼けじゃない!」

確かにな。だが見ろ!
真っ赤になっちゃって。うぅぅ、いつもなら外でも長袖なのに。

美姫 「そういえば珍しく作業するのに半袖だったものね」

はっはっは。
日焼けと言ったが、熱まで持ってて薬局に日焼けの薬を貰いに行ったら、火傷の薬が出てきたんだぞ。
手を腕に翳すだけで熱さを実感できるという。

美姫 「因みに薬剤師さんも苦笑したのよね」

ああ。殆ど火傷状態だから、一日中海とかで泳いでいたのかと聞かれたんだが。

美姫 「たかだが二時間ばかり洗車しただけだものね」

思わず、向こうの人もそれだけでですか、と突っ込んできたぐらいだ。
まあ、もうそろそろ一週間経つし、かなりマシになってきたが。
今度は痒い。

美姫 「で、下手に掻くと痛むのよね」

うぅぅ、堪りませんよ、本当に。

美姫 「アンタはつくづく……」

言わないで……。

美姫 「何で普通に軽い風邪とか、ちょっと擦り剥いただけとかいう感じの病気や怪我はないのかしらね」

思い返せば、過去にも可笑しな症状でばかり病院の世話になっていたな。
声が出なくなった時は医者も思わず笑ってたし。
風邪かなと思って行ったら、肺炎なりかけで怒られるし……。

美姫 「ただの腹痛だと思って我慢してたら盲腸だったというのもあったわね」

……あれ? 普通に風邪とうい診察結果を聞いた事がないような……。
しょっぱい水が目から溢れて止まらないや。

美姫 「というよりも、殆ど年中花粉症だから、風邪でも気付かないで自然と治っているだけだったりしてね」

なのかな。まあ、大事になってないなら良いけれど。
花粉症と言えば、数年前に笑われたな。

美姫 「うーん、その話は前にもしなかったかしら?」

いや、俺はよく覚えてないが。まあ、聞いてくれ。
花粉症で耳鼻科に行った時の話なんだが。

美姫 「ふんふん」

どんな花粉にアレルギーがあるのか調べると言う検査をしてな。

美姫 「見事、十二種類全部に反応したと」

ああ。お蔭でアレルギー検査した腕は全て腫れて、
本当はその腫れの大きさで重度のアレルギーが何か分かったりするんだが……。

美姫 「互いに隣り合った所が重なって、どのアレルギーがどれぐらい反応しているのか分からなかったのよね」

ああ、まあ、どちらにせよ、そこまで腫れ上がっている以上、どれも軽度ではないと判断されたが。
あの時の医者の珍しそうなものを見る反応。思い出したらまた涙が……。

美姫 「って、初っ端から話題がネガティブすぎるわよ!」

ぶべらっ!

美姫 「ただでさえ、雨でじめじめしているんだからもっと明るい話題を振りまきなさいよ」

うぅぅ、腕が、目が〜。

美姫 「良いから、起きろ!」

ぶべらっ! いやいや、酷くないですか!?

美姫 「はいはい」

やっぱり華麗にスルーするんですね!

美姫 「それじゃあ、そろそろCMいってみよ〜」

CMに行くのなら、起きろって殴られた意味は!?








「我が召喚に応えよ!」

声高らかにそう締めくくられた呪文。
それに応じるように小さな爆発が起こり、周囲に煙が立ち上る。
全く前が見えない状況下、召喚の主たる少女――ルイズは咳き込みながらも前方を見詰める。
周囲ではちょっとした騒動が巻き起こっていたが、これもまたいつもの事と傍観する者たち。
その中にあり、この場の責任者にして教師たるコルベールは生徒の安否を気遣い目を凝らす。
薄れ行く煙の中、浮かび上がる一つの影。
それはまるで杯のような形をしており、いや、煙が晴れるにつれて明らかになったその姿はまさしく杯である。
両端に取っ手のついた婉曲した、両手で持ったとしても覆いきれないぐらいの大きさの。

「見ろよ、ゼロのルイズが召喚した物を」

「おいおい、幾ら召喚が上手くいかなかったからって、買ってきた杯なんて出すなよ」

「いやいや、直前まであんな物は持っていなかったぞ。つまり、ゼロのルイズは無機物を召喚したんだ」

嘲笑や嘲りが飛び交う中、ルイズは呆然とした目で目の前の杯を見詰め、
やがて我に返ったのか、やり直しを要求するべくコルベールへと振り返る。
コルベールはルイズの言いたい事を察したが、間違いなく目の前の杯はルイズが呼び出した物である。
だとするのなら、気の毒だが杯と契約をしなければならない。
過去、無機物の使い魔を呼び出したなどという前例は聞いた事はなく、
また件の少女が並みならぬ努力をしているのも知っており、どうにかしてやりたいよいう気持ちはある。
だが、この召喚の儀式は神聖なるもの。個人的な感情からやり直しを認める訳にもいかない。
コルベールは告げるのは酷だと分かりながらも、悲壮な面持ちで首を横へと振る。
それだけで言わんとしている事を悟り、ルイズは悔しげに杯を見詰める。
と、その杯に変化が現れる。神々しい光を放ったかと思えば、禍々しい闇を噴き出したのだ。
相反する気配を発する杯に、からかっていた生徒たちも黙り込む。
が、その中でコルベールだけは何かを感じ取ったのか、ルイズを安全な場所へと連れ出すべく動き出す。
だが、それよりも早く……。



杯の限界量以上にワインを注ぎ込まれたかのように、杯から闇が溢れ出して地面へと落ちる。
だが、不思議な事にまるで黒い液体を思わせるようなその質感にも関わらず、
地面に落ちた闇の水は染みを広げるでもなく、また地面に吸収される事も無くただ地面に広がる。
それはまるで闇の絨毯を広げたかのように、ただどこまで黒い、真っ黒な影をただ杯を中心に落とす。
だが、それはただの影ではなく、蠢きながらその面積を広げていく。
見るからに良い印象を与えないソレに、しかしルイズの強張った身体は動かず、ただそれを見詰め続ける。
救出するべく動き出していたコルベールは、闇から突如として生えた同色の触手のようなものに阻まれる。
懸命にルイズの名を呼んで離れるように告げ、ようやくその声に我に返るが、
既にルイズの足元にまで広がった闇は獲物を逃がさないとばかりに一気に膨らみ、
まるで蛇のようにルイズの足を這い登り、あっという間にルイズの身体に纏わりつく。
その光景に誰もが恐怖を抱いてただ見詰めるしかできない。
初めは闇を追い払おうと懸命に足掻いていたルイズの動きが徐々に大人しくなっていき、
誰もが不吉な想像をする中、ルイズは闇の中にあって笑みを浮かべる。
それは見るものを思わずとろけさせるような妖艶なものであり、
この少女が浮かべるには少々似つかわしくないはずなのに、闇を纏ったルイズには妙に合っているように見える。
ルイズは己が唇を指先でなぞり、これまたこの少女らしくない艶のある声を上げる。
恍惚とした瞳で自分を見つめる生徒たちを撫で回し、ルイズに見られた生徒たちは男女を問わず、
言いようの無い悦楽を感じてしまう。それは教師であり、助けようとしていたコルベールとて例外ではなく、
知らず唾を飲み込み、目の前の少女を凝視していた。
そんな中、ルイズは愛しそうに自らに纏わりつく闇を撫でると、歌うように呪文を唱える。
それは使い魔の契約をする呪文、コントラクト・サーヴァントである。
だが、今ルイズが唱えているのがそれだと理解できる者はおらず、
本来なら止めるかもしれない唯一の教師でさえ気付かない状況の内に、ルイズは契約を終えてしまう。
すると、まるでそれを待っていたかのように杯が消え、後にはただ闇だけが残される。
ルイズが名残惜しそうに闇を一撫ぜすると、それまでただ影のように広がっていた闇が一箇所へと集まり、
ルイズに絡み付いていた闇もまた吸い寄せられるようにルイズから離れていく。
やがて、ルイズの隣に闇で出来たクラゲにも似た丸い頭部に複数の触手をふらふらと揺らせて宙に浮かぶ生物がいた。
その生物の中央辺りに光り輝く使い魔の証ルーンが、闇の中にあって余計に目立っている。

「良い子ね。後で名前を上げるわ」

ルイズの言葉を喜ぶようにゆらゆらと身体を左右に揺らす闇。
その表面を優しくなぞると、未だに事態が把握できていないのか、呆然としているコルベールへと声を掛ける。

「先生、コントラクト・サーヴァントは終わりましたけれど」

その声はいつものルイズのもので、その顔をまた先ほどのような妖艶なものではなく、
いつもの明るいものに戻っていた。
コルベールは先ほどの光景を幻覚だとでも思ったのか、頭を振って未だ朦朧とする意識を何とか振り払う。

「そ、そのようですね。しかし、ルーンもそうですが、そのような生物は見た事がありません。
 もしかして、その生物は幻を見せたりできるのでしょうか」

「さあ、そこまではまだ分かりませんけれど。どうして、そう思われたのですか?」

そう聞き返してくるルイズに対し、コルベールは己が見たかもしれない幻覚を口にする事もできず、
この場は適当に誤魔化す。
後日、この場にいた生徒たちから話を聞いて、コルベールは改めて口にしなくて良かったと思う事となる。
何故なら、その場に居た生徒の誰一人として、そんなものは見ていなかったからだ。
皆、口を揃えてルイズがあの生物を呼び出して、コントラクト・サーヴァントを得て使い魔としたと証言した。
だが、コルベールは己が見たものをもっと信じるべきだったかもしれない。
何故なら、コルベールの記憶が正しいとするのなら、それは生徒たちの記憶から、
この時の記憶だけがなくなっているという事を意味するのだから。
もう少し聞き方を変えていれば、誰もが数分程、記憶に空白が出来ていると気付く事が出来たかもしれなかったのに。
だが、既にそれは遅く、最早誰もその事に気づく事はなかった。



「ふ、ふふふ、あーはっはっは。これよ、この力よ!
 この魔力量、この威力。もう誰にもゼロだなんて言わせないわ」

身体に闇を纏ったルイズは一人、誰もいない森の中で笑い声を上げる。
その姿を見るものは誰もおらず、ただ天に輝く二つの月だけがそんなルイズを見下ろしている。
左頬に黒く、まるで何かの模様のように波打つ紋章を刻み、ルイズは今しがた自らが起こした惨状を見遣る。
周囲の木々がなぎ倒されている惨状を。
だが、よく見ればその切り口は様々で、まるで刃物で切ったかのように一直線のものもあれば、
凍らせて折られたのか、傷口が凍っているもの、まるで力任せに殴られて倒れたかのように、
根元からへし折れているものと様々だ。それらの中心に立ち、ルイズは足元に広がる闇を満足そうに見下ろす。
ふと、そんなルイズの隣にまた闇の生物が現れて寄り添う。

「あら、アンリ。お帰りなさい。食事はどうだった?」

アンリと名づけられた闇は声を発するでもなく、ただルイズの隣でたゆたう。
だが、ルイズには声が聞こえるのか、楽しそうな笑みを見せてアンリを優しく撫でてやる。

「そう、美味しかったの、それは良かったわね」

アンリを優しく撫でながら、ルイズは空を見上げる。
何の感情も浮かばない瞳にただ二つの月だけを映し、実に楽しそうな声を上げる。

「私……じゃなかったわ。聖杯を手に入れようと、何人かがサーヴァントを呼び出したみたいね。
 道化だとも分からず、聖杯に群がる蟲がもうすぐで揃うのね。
 精々足掻いて私を楽しませてね。ふふふ、本当に楽しみだわ。
 主賓として、最高のお持て成しをしてあげるわ。世界中を巻き込む、今までにない聖杯を巡る舞台を。
 ふふふ、きっと楽しい聖杯戦争になるわよ」

妖艶な笑みを貼り付け、ルイズはただただ楽しそうに笑い、アンリの触手を二本手に取ると、
優雅なステップを踏み出す。誰もいない森の中、月明かりを浴びてルイズはただただワルツを踊る。

(まずは最近、密かに勢力を増しているレコン・キスタを利用しようかしら。
 アンリエッタ王女も使えそうよね……。ふふふ、本当に楽しみだわ)

これからの計画を練り、妖艶で狂った笑みを貼り付けたまま、アンリと二人楽しそうに。

ゼロと聖杯 〜ダークVer.〜







という事で、前の予告どおりに。

美姫 「前回のネタ、もう一つのパターンね」

おうともさ!
そういえば、話は変わるけれど夏本番ですな。

美姫 「いきなりね」

いや、入院だ、自宅療養だ、で世間と離れていたもので。

美姫 「それでも季節の移ろいは感じられると思うけれど」

うーん、あまり感じられなかったかな。
最近、暑くなってきたな〜、とか、後は日焼けなんかで夏を感じたが。
おお、そういえば朝に蝉が鳴き出した。

美姫 「ああ、言われれば夏って感じね」

だろう。風鈴の音とか良いね。

美姫 「これから益々暑くなってくるでしょうしね」

……あば〜。

美姫 「いや、いきなりだれないでよ」

だって、よく考えたら俺暑いの苦手だから、夏って言われても……。

美姫 「またネガティブな!?」

暑すぎると溶けるんだよ。駄目なんだよ。
早く来い、冬!

美姫 「まだ夏が始まったばりよ!」

ぶべらっ!
う、うぅぅ、それぐらい苦手だって事だよ。誰も本気で来いとか思ってないよ。
四季は大事だものな。

美姫 「もし、本気で願ったら季節が変わるってなったら?」

来い、来い、来い!

美姫 「やっぱりか!」

ぶべらっ!
い、いや、誰だってすると思う。

美姫 「そりゃあ、夏が嫌いならするかもしれないけれど……。って、そうじゃないでしょう。
    さっきの四季は大事って言葉は何なのよ」

建前。

美姫 「言い切ったわね」

じょ、冗談だよ。移ろい行く季節というのも趣があって良いもんだと思ってますって。

美姫 「はぁ、アンタの暑さに弱いのも相変わらずね」

はっはっは。そう簡単に克服できるのなら、とうの昔にやっているさ!

美姫 「威張らないでほしいわ」

まあまあ、そう気を落とすな。

美姫 「別に落としてないけれどね。って、バカな会話をだらだらとしている間に」

もう時間か。早いものだ。

美姫 「本当よね。という訳で、さっさと締めなさい」

イエッサー!
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


7月10日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、まだまだ安静中 とお送り中!>



完全復活! ……だと思う。

美姫 「いや、どうして言い切らないかな」

いや〜、検査と言っても殆ど問診みたいな形でさ。
何か異常はあるかと聞かれて、今の所はないと答えたら完治って。
思わず突っ込みそうだった。と言うか、突っ込みました。

美姫 「まあね。でも、原因不明の上に検査上も問題はなかったのよね」

ああ。なので、また調子が悪くなったら来て下さいで終わった。

美姫 「……まあ、一応完治という事で良いわよね」

良いと思うが、何故、そんなに嬉しそうに素振りしてますか?

美姫 「ほら、ようやく全力で突っ込めるかと思うとね」

アンタ、療養中でも平然と吹っ飛ばしてくれてましたよね!
しかも、本気の突っ込みが真剣って色々と可笑しいから!

美姫 「細かい事を気にしすぎよ」

いやいや、細かくないから。

美姫 「さあ、そういう訳だからぼけて」

この流れでボケれるか!

美姫 「ケチ〜」

いや、ケチとかいう問題じゃないから。

美姫 「ぶ〜ぶ〜」

はぁ、どっと疲れた気がする。

美姫 「何でやねん!」

ぶべらぼげぇっ!
な、何でやねん……は、お、俺の台詞……。

美姫 「さて、多分、体調も大丈夫だろうし、そろそろCMいってみよ〜」

う、うぅぅ……。







「我が召喚に応えよ!」

声高らかにそう締めくくられた呪文。
それに応じるように小さな爆発が起こり、周囲に煙が立ち上る。
全く前が見えない状況下、召喚の主たる少女――ルイズは咳き込みながらも前方を見詰める。
周囲ではちょっとした騒動が巻き起こっていたが、これもまたいつもの事と傍観する者たち。
その中にあり、この場の責任者にして教師たるコルベールは生徒の安否を気遣い目を凝らす。
薄れ行く煙の中、浮かび上がる一つの影。
それはまるで杯のような形をしており、いや、煙が晴れるにつれて明らかになったその姿はまさしく杯である。
両端に取っ手のついた婉曲した、両手で持ったとしても覆いきれないぐらいの大きさの。

「見ろよ、ゼロのルイズが召喚した物を」

「おいおい、幾ら召喚が上手くいかなかったからって、買ってきた杯なんて出すなよ」

「いやいや、直前まであんな物は持っていなかったぞ。つまり、ゼロのルイズは無機物を召喚したんだ」

嘲笑や嘲りが飛び交う中、ルイズは呆然とした目で目の前の杯を見詰め、
やがて我に返ったのか、やり直しを要求するべくコルベールへと振り返る。
コルベールはルイズの言いたい事を察したが、間違いなく目の前の杯はルイズが呼び出した物である。
だとするのなら、気の毒だが杯と契約をしなければならない。
過去、無機物の使い魔を呼び出したなどという前例は聞いた事はなく、
また件の少女が並みならぬ努力をしているのも知っており、どうにかしてやりたいよいう気持ちはある。
だが、この召喚の儀式は神聖なるもの。個人的な感情からやり直しを認める訳にもいかない。
コルベールは告げるのは酷だと分かりながらも、悲壮な面持ちで首を横へと振る。
それだけで言わんとしている事を悟り、ルイズは悔しげに杯を見詰める。
と、その杯に変化が現れる。神々しい光を放ったかと思えば、禍々しい闇を噴き出したのだ。
相反する気配を発する杯に、からかっていた生徒たちも黙り込む。
が、その中でコルベールだけは何かを感じ取ったのか、ルイズを安全な場所へと連れ出すべく動き出す。
だが、それよりも早く……。
杯は光に包まれたかと思うと、その姿を消した。
後には呆然としたルイズたちだけが残される。

「い、一体なんなのよー!」

ルイズの叫びに答えを出せる者など誰もおらず、コルベールでさえも目の前の現象に説明を付ける事などできない。
だが、今は儀式の途中である。コルベールはどうしたものかと頭を悩ませる。
ルイズが呼び出したらしい杯は既に消え去った。
なら、どうすれば良いのか。新たに召喚させるべきなのか。それとも杯を探させるべきなのか。
悩むコルベールの前で、またしても事態は勝手に進む。
突然、ルイズが左手に痛みを感じて蹲ったのだ。

「うぅぅ、い、痛い、熱い。な、なんなのよ、さっきから」

顔を顰め、左手首を押さえるルイズにコルベールは慌てて駆け寄る。
が、痛みを訴える箇所に触れてみるも、骨に異常はないように思える。
困惑するコルベールとルイズの見ている前で、ルイズの左手の甲に赤い模様が浮き上がる。

「な、何、これ」

「まさか、使い魔のルーンですか。しかし、こんな形は見た事は……」

コルベールの言葉にまたしても回りから嘲笑が起き上がる中、ルイズは今にも消えてしまいたい気持ちになる。
ドラゴンやユニコーンなどの幻獣とまでは言わない。猫であろうが犬であろうがこの際構わない。
だが、ようやく召喚できたと思ったら、それは生き物ですらない無機物。
挙句、それは目の前で消え去り、終いには使い魔のルーンが自身に刻まれるという事実。
あまりの情けなさに泣きそうになるが、それをどうにか堪え、
目の前でこちらを気遣うコルベールに何とか笑みを返す。
半場やけくそ気味に立ち上がり、進学の掛かった今回の儀式の成否を問おうと口を開いたその先、
ルイズの目の前に直径2メートル強の魔法陣が突如浮かび上がる。
それは勉強熱心で色々な書物を読み漁ったルイズの記憶にさえないもので、
見ればコルベールも興味深そうに見詰めている。
先ほどまで騒いでいた生徒たちも、目の前で立て続けに起こる不可思議な現象にただ黙って立ち尽くしている。
先ほどと打って変わって静まり返る中、目の前の魔法陣が一瞬だけ強烈な光を放ち、
それが消えると、そこには一人の男が立っていた。
年の頃はルイズよりも二、三歳ほど上の全身真っ黒な服を着た青年。
立て続けに起こる事態に混乱気味のルイズへと真っ直ぐに向かい合うと、
静かな、けれども力強い口調で語り掛けてくる。

「貴女が俺のマスターですね。これから宜しくお願いします、マスター」

恭しく跪く青年を前に、一足先に我に返ったコルベールが事情を尋ねる。

「ミス・ヴァリエールをマスターと呼ぶという事は、君が使い魔という事で良いんでしょうか」

「はい。マスターの手の甲にある令呪、それとマスターと魔力的ラインで繋がっていますから、間違いないです」

「令呪……? そうよ、これは何なの!? どうして使い魔のあなたじゃなくて私にルーンが刻まれるのよ」

「ルーン? それは令呪です。令呪がマスターに刻まれるのは当然の事」

「だから、令呪ってのは何よ。よく考えたら、コントラクト・サーヴァントをしていないのに」

「ミス・ヴァリエール、取り合えず落ち着きたまえ。
 どうも話が食い違っている部分もあるようだし、お互いに情報を交換しよう。
 皆さんは先に戻っていてください」

コルベールの言葉に生徒たちが去って行くのを見送り、この場に残った三人は少し落ち着いて話を始める。

「そうですね、まずは貴方の名前から教えてもらえますか」

「……それはできません。マスター以外に名前を教える事は非常に危険ですから」

「ですが、それだと何とお呼びすれば良いのか分かりませんが」

「アサシンと」

「アサシン……暗殺者、とは穏やかじゃありませんね」

やや鋭い眼差しになると、コルベールはルイズを庇おうと動こうとして、それよりも早くアサシンが動く。
ルイズを人質に取られるかと思ったコルベールであったが、
思わず構えた杖の先ではアサシンがルイズを庇うように立っている。

「マスター、この男は何者ですか」

「何者って先生よ。それより、名前は何なのよ」

「ですから、今は言えません。それに、この男が信用できたとしてもマスターでないという保証も……」

「良いから言いなさい」

アサシンの言葉を遮るように命じるルイズへと僅かに驚いた顔を見せるアサシン。

「……もしかして、何も知らないのですか」

「だから、何をよ」

ルイズの言葉にアサシンは小さな嘆息を零すと、コルベールを改めて見遣り、
警戒するように話は場所を変えてと進言するも、痺れを切らしたルイズに頭を叩かれる。
渋々と納得したアサシンは、とりあえず話しの出だしとして尋ねてみる。

「聖杯戦争、この言葉に聞き覚えはありませんか」

それに対する二人の返答は共にノーであった。
その返答にアサシンは空を見上げ、

「さて、召喚時に与えられた知識に寄れば、ここは異世界とも呼ぶべき所みたいだな……。
 妹たちよ、とうとう兄は異世界に来てしまったようだ。
 それも英霊になってというおまけまでついて。しかも、呼ばれて来てみれば、何も知らないマスター。
 生前、あれだけ苦労したのに、英霊になってまで苦労の連続か。
 それとも、とことん女運がないのだろうか。俺の苦労の半分は悪友の発明と証する実験だったからな」

やおら遠くを見るアサシンに、何故か哀愁を感じてルイズたちも声を掛けるのを躊躇われる。
とは言え、このままでは話は進まないし、何よりも無知と証されてご立腹のルイズである。
遠慮するのも数秒程度で、すぐさまアサシンへとやや乱暴な口調で詰め寄る。
が、アサシンは特に気を悪くするでもなく、聖杯戦争について語り出す。
聖杯を巡る七人のマスターとサーヴァントの戦い。
聖杯を手にした者は何でも願いが叶うこと。
過去、数回行われている聖杯戦争はこことは違う世界での事。
そして、自分が元々居た世界における魔法と魔術に関して。
最後に、ルイズの甲に刻まれた令呪について。
全てを話し終える頃には、既に日は落ちて辺りを薄闇が包み込んでいた。

「な、何でも願いが叶うの。た、例えば魔法が使えるようにとかも」

「恐らくは。ですが、その為には先ほども言ったように他のマスターたちを倒さなければなりませんが。
 それに、この感じだとまだ数人、マスターが決まっていないようですね」

「ふふふ、これで私もメイジに。でも、魔法はやっぱり自力で使えるようになりたいかも。
 だとしたら……、む、むむむむむ胸を大きくしたりとか……。
 別にあんなのは邪魔だし、それにこれから成長するでしょうけれど、ま、まあ、ちょっとした好奇心よ、うん。
 あ、でも、何でも叶うのなら、ちぃ姉さまを健康な身体にも出来るのかしら。
 だとしたら……」

アサシンの言葉を聞いていないのか、ルイズは聖杯に叶えてもらう願い事に関してあれやこれやと考えていた。
が、そんなルイズたちを現実に戻すようにコルベールがいつもよりも険しい顔を見せる。

「ミス・ヴァリエール、私は聖杯戦争に参加するのに反対です」

「どうしてですか!」

「よく考えてください。他のマスターやサーヴァントと争う事になるんですよ。
 つまり、相手の命を奪うという事です。貴方が直接手を下さなかったとしても、それを命じた事になるんですよ。
 そうまでして、願いを叶える必要がありますか」

コルベールの言葉にルイズは俯き言葉を無くす。
だが、カトレアを治せるかもしれないという考えにアサシンに救いを求めるような顔を見せる。

「……マスターは人だが、サーヴァントは俺同様に英霊だ。即ち、人殺しとはまた違うとも言える。
 それに何より、向こうが黙って見過ごしてくれるかどうか」

アサシンの言葉にコルベールはその可能性を失念していた事に気付くも、最初から放棄を宣言すればと反論する。
だが、アサシンは首を横に振ると、相手がそんな甘い奴ばかりとは限らないと告げる。
結果として、三人の間で妥協案が出される。
こちらからは手を出さない事。ただし、防衛の為にはこれの限りではない事。
異世界から来た事や聖杯戦争の事は決して口外しない事。これは学院長が相手でもだ。
アサシン曰く、学院長がマスターという可能性がない訳ではないためらしい。
それらを決め、コルベールは渋々ながら納得した所で、完全に忘れているであろうルイズへと使い魔との契約、
コントラクト・サーヴァントをする事を告げる。
すっかり忘れていたルイズは改めてコントラクト・サーヴァントをし、聖杯戦争とは別の、
ハルケギニアでの使い魔契約を結ぶのだった。

「これでこっちの流儀でも貴方は私の使い魔となった訳ね。
 まあ、薬草などの知識は兎も角、さっきの説明を聞く限り、私を守るという事に関しては問題なさそうね」

ルイズの言葉に頷き返すと、アサシンは改めてルイズの前に膝を着き、姫に忠誠を誓う騎士のように頭を垂れる。

「我が剣はマスターの敵を切り裂き、この身はマスターの盾となりて、必ずやマスターに勝利を」

「ええ、期待しているわ」

その光景を眺めながら、コルベールは本当に約束を守るのだろうかと少し不安に駆られるのだが、
既にサイは投げられてしまったのだと諦めにも似た様子でただ黙って見守るのだった。



「えっと、マスターじゃなくてテファと呼んでくれると嬉しいかな」

「えっと、それじゃあ、テファ、これから宜しくね」

「ええ」

(良い人みたいで良かった。でも、恭ちゃん……。私とうとう、異世界に来ちゃいましたよ。
 おまけにエルフなんていう本でしか見たことない人がマスターだなんて。本当に人生って分からないよね。
 って、英霊でも人生で良いのかな……)

――各地でもサーヴァントが召喚されてマスターが誕生する

「我が剣の全てはマスターのために。
 マスターに害成すと言うのならば、聖杯戦争に関係なくただ斬る!」

――聖杯戦争とは関係のない事件に巻き込まれるルイズとアサシン

「ねぇ、アサシン。貴方の本当の名前は何なの。どうして教えてくれないの?
 偶に夢で見るあの光景は貴方の過去なんでしょう!」

「……恭也、高町恭也。それが俺の名です。ですが、口外はしないように気をつけてください。
 それと、夢で見た光景はもう過去の事です。だから、どうか泣かないで、優しいマイマスター」

――戦争に借り出されるルイズであったが、それとは別に遂に始まる聖杯戦争。

    果たして、聖杯は誰の手に――

ゼロと聖杯







さて、今回のCMネタにはもう一つのパターンがあって。

美姫 「それは次回ね」

えっ!

美姫 「何、驚いているのよ。まさか、考えてないのに発言したの?」

いや、そうじゃないけれど、それでもう一本と言う程でもなくですね。
単に、ああ、こういうパターンにしても良いかもという感じで……。

美姫 「いいから、書け!」

イエス、アイマムー!
う、うぅぅ、酷い目にあった。

美姫 「って、一行も待たずに戻ってくるのね」

気にするな。まあ、そんな訳で次回のCMネタも決まったな。
後はこれをもう少し考えて……。

美姫 「って、CMで続くって何なのよ!」

ぶべらっ!
んな、理不尽な!

美姫 「まあ、続きはHPで、というパターンもあったし良いか」

……良かったんなら、どうして俺は吹っ飛ばされたんでしょうか?

美姫 「気付いたのが、吹っ飛ばした後だったからよ」

そんなあっさりと……。せめて、謝罪の一言を……。

美姫 「そう言えば、最近、何かしているみたいね」

ああ、今、掲示板を色々と弄くっているんだが。

美姫 「みたいね」

ああ。でだ、一層の事、IDとパスワードを付けちゃうというのはどうかなと。

美姫 「それなら変な広告もなくなるかもしれないけれど、いちいち入力するのは面倒よね」

やっぱり、そう思うか。
まあ、たわごととして聞き流してもらって。

美姫 「これからバリバリ書いてもらわないとね」

ゴホゴホ、いつもすまないね〜。

美姫 「いやいや、そんな誤魔化しが通じるとでも?」

思ってませんでしたよ!

美姫 「だったら、やらなければ良いのに」

うぅぅ。もう少し優しさが欲しい。

美姫 「さて、それじゃあ、そろそろ時間ね」

うわ〜い、華麗なるスルーだね。

美姫 「良いから、締めるわよ」

へ〜い。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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