戯言/雑記




2010年5月〜6月

6月25日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今週はずっと雨だったはずなのに、とお届け中!>



梅雨だなと話をしたのが結構前に感じるよ。

美姫 「梅雨らしく、今週はずっと雨のはずだったんだけれどね」

週間予報とは違い、時折晴れの日もあったな。
まあ、雨よりも良いのか?

美姫 「梅雨なんだから降っておかないと、それはそれで問題だと思うけれどね」

まあ、こればっかりはどうしようもないけれどな。

美姫 「さて、六月も終盤だけれど、まだまだ頑張っていくわよ」

おうともさ。

美姫 「という訳で、早速だけれどCMいってみよ〜」







それは遙か古より伝えられし一つの物語。
語り継ぐ者は絶え、伝えるべき物も失われ、伝承さえも朽ち果ててしまえど、それは静かに時を越える。
嘗て八つに引き裂かれ、八つの地に封じられし太古の化生、名も姿さえも忘却の果てへと追いやられるも、
その危険だけは伝えられるはずであったはずの存在。
封じた地に建つ社も、そこに奉納された封印の要たる刀の存在も既に記憶の中にさえもない物語。
嘗ては伝承を伝え、封印を守る一族も既に耐え幾年。
忘れられた封印がゆっくりと解かれ始める。



「……また随分と古い巻物だな。父さんの持ち物か?」

朝から大掃除に取り掛かった高町家の面々の中で、主に力仕事をこなしていた恭也は、
がらくたをただ放り込んでいる状態と化していた物入れの中身を引っ張り出し、それらを整理していた。
そんな中、一番奥から風呂敷に包まれた横二十センチ、縦四十センチ程の物を見つけ出した。
かなり放置されていたのか、うっすらと積もった埃を吹き飛ばし、包みを解けば中には立派な装飾の箱が。
その蓋も開けてみれば、中に入っていたのは一本の巻物。
掛け軸かとも思ったが、所々損傷しており、既に価値は半減の上に父にそんな趣味があったかと首を傾げる。
ともあれ、中身が気になり慎重に紐を解けば、そこには絵などなく文字が並んでいた。

「恭ちゃん、どうしたの? って、なに、それ」

自室の掃除を終えた美由希が恭也の元を訪れ、手元を覗き込む。
が、書かれている文字の達筆さからか、僅かに顔を顰める。

「えっと、これは候? 何か言い回しがかなり古い上にかなり昔の言葉で書かれているみたいだね」

「ああ。所々、分かる字もあるが何が書かれているのかは読めないな」

「それ、もしかして士郎父さんの?」

「だと思うが……」

言いながら巻物を捲っていき、一メートル半程広げた所でようやく終わる。

「こっちの半分は字じゃなくて地図みたいだね。これは日本だよね」

「一体、何なんだろうな」

二人して首を捻るも、恭也はその巻物の一番最後に押された印に気が付き、

「これは御神家に伝わる物みたいだな」

「え、それって」

美由希が驚いたように恭也の手元を見て、前に教えてもらった印を目にする。

「どうして士郎父さんが持っているんだろう」

「これだけは無事だったので形見として持ち出したのか?
 もしくは美沙斗さん経由で父さんに渡ったか。どちらにせよ、これの処分は勝手にするのはまずいかもな」

言って恭也は巻物を巻き直すと元の箱に収め、風呂敷に包んで元の通りに戻す。

「こんな物があるなんて聞いた事はないから、今度美沙斗さんに聞いてみよう」

「そうだね。でも、一体何が書いてあったんだろう。日本地図みたいだったし、赤い印もあったから……。
 もしかして、御神の隠し財産だったりして」

「そんな夢物語を。仮に隠し財産だったとしても、巻物から見るにかなり昔だろう。
 既に掘り返されているか、価値がないかもな」

「分からないよ。昔の銭は価値があるし、金とかかも」

美由希の言葉に肩を竦め、恭也は整理を再開させる。
その背中に夢がないな、とぼやきつつ美由希もまた掃除に戻るのであった。



――かつて化生を封じたるは八の人に刀に地。
  この封を守るべく、八つの地に散りし者たちを総じて、永きに渡りその地を動く事なかれの意を込め、
  永全不動と呼んだ。――



掃除を終え、気持ちよく夕飯も頂き終えて各々に寛いでいた時、不意に地面が揺れる。
大きな揺れではなかったからか、特に倒れたり転ぶような者もおらず桃子は胸を撫で下ろす。

「また地震みたいね」

「この頃、小さいとはいえ多いな」

テレビで速報が流れるのを待ちながら、恭也は桃子の言葉に頷き返す。
その言葉には他の者たちも同意らしく、口々に最近、頻繁に起こる地震について喋り出す。

「その内、大きいのが来そうで怖いわね」

「一応、今日の昼に防災グッズの確認もしときました」

「まあ、使わずに済むのが一番なんだけれどな。食料や水に関しては俺が確認しました」

レンと晶の言葉に備えあればと言うしね、と桃子は二人の行動を褒める。
照れくさそうにする二人だが、何処か嬉しそうでもある。
そんな二人を何となしに見ながら、美由希は改めてしみじみと呟く。

「でも、本当に多いよね。それも海鳴とかだけじゃなく、全国あちこちで起こっているみたいだし」

「元々、日本は地震が多いけれど、確かにここ最近は多すぎると感じるな」

姉や兄の言葉になのはは不安に感じたのか、知らず隣に座っていた恭也の服の裾を掴んでしまう。
それに気付きながらも何も言わず、恭也は美由希と地震の事を話す。
美由希の目が何か言いたそうにしていたが、気付かない振りをしつつ今日の鍛錬メニューを少しだけ変更する。

「今、不穏な事を考えてない?」

「そんな事はないぞ」

「そう? うーん、勘が鈍ったかな?」

そう言って首を傾げる美由希を眺めながら、鋭い美由希に舌打ちしそうになるのを堪える恭也であった。



――八つの地より力失われる時、地は振るえ、天は雫を落とし、空は引き裂かれん。
  兆し見えし時、使命帯たる血に連なるものよ、封印の地に戻りて儀式を行うべし。
  行わぬ時、いよいよ封破れん。
  もし、八つの封破られし時、封じたる化生は甦り、闇を振りまく。
  永全不動の血に連なる八門たちよ、努々忘れる事なきよう、ここに警告を残す――



『ここ最近、続く雨に作物の被害も……』

テレビから流れてくるニュースに耳を傾けながら、恭也は窓の外を見る。
バケツをひっくり返したようなとはよく言うが、まさにその通りと言わんばかりの豪雨である。
時折、遠くで雷の音もする。

「ひゃっ」

結構、近くに落ちたのか思ったよりも大きな音になのはが驚いた声を上げる。

「それにしても、本当によく降るよね。もう一週間以上だよ。
 この時期にしては長いし、雷も多いし」

「風も強くなってきているよね」

ごうごうと吹く風になのはがそう付け加える。
外は昼間だというのに真っ暗で、分厚い雨雲が空を覆い隠すように広がっている。

「とうとう学校まで休みになったぐらいだしね」

何となく不気味さを感じたのか、美由希は近くに居たなのはを抱き締めながら言う。
なのはも同じように感じていたのか、嫌がる素振りどころか、どこかほっとした様子で美由希の腕の中に収まる。

「そう言えば、あの巻物の事、母さんに聞いた?」

「いや、丁度、長期の任務だったらしく留守にしていてな。
 そう急ぐ事もないだろうと戻って来たら連絡してもらうように伝言しただけだ」

「そっか」

単に話題を変えようと切り出しただけで、特にその結果には何もなかったのか、美由希はすぐに口を閉ざす。
流石に家にある本は全て読み終えてしまったし、結構暇だなと考えていると、

「折角やし、皆でゲームでもしません?」

タイミングを計ったかのように、レンが手に何かを持ってリビングに姿を見せる。
その言葉に頷きを返し、雨の日にのんびりとゲームに興じる事にするのだった。

この時点で、これが来る災厄の前触れだと気付いている者は誰もいなかった。



とらいあんぐるハート3 〜永全不動の物語〜







ぼんやりと雨を見て、ふと思いついた。

美姫 「雨の中、そんな事をするアンタの頭を心配ね」

いやいや、普通に建物の中に決まってますよね!

美姫 「なんだ、面白くない」

なにが!?

美姫 「雨の中、傘もささずに走り回っているかと思ったのに」

俺は心に何か負っているのか!?

美姫 「ううん、単に馬鹿なだけ」

……しくしく。そこまで馬鹿じゃないやい。

美姫 「はいはい、いじけて余計にじめじめさせないで」

誰の所為ですかっ!?

美姫 「でも、よくよく考えてみたら、もう六月もお終いなのよね」

綺麗に無視ですね!
コホン、まあ確かにそうだな。て、事は既に今年も半分経過、か。

美姫 「早いものね〜」

いや、全くだ。残り半分、頑張っていかないとな。

美姫 「そうよ、頑張りなさいよ」

おうともさ。

美姫 「って、綺麗に纏まったけれど、今日はまだ時間があるのよ」

……なんてこった!
綺麗に纏めた時はこれかよ! 責任者出て来い!

美姫 「アンタでしょうが!」

ぶべらっ! そ、そうでした……。
うーん、何か連絡事項があれば良いんだが。

美姫 「特に今はないわね」

だな。なら、のんびりだらだらと話でもするか。

美姫 「そうね。それじゃあ先日、アンタが落とし穴に落ちた時の話でも」

何故、知っている!?

美姫 「あれ、私が掘ったの」

お前かよ! いまどき、落とし穴って。

美姫 「いやー、なかなか楽しいリアクションだったわよ」

嬉しくない、全然、嬉しくないから。
もっと他の話題にしてくれ。

美姫 「うーん、じゃあ大型犬に襲い掛かられた時の話を……」

って、何故にそれまで知っている!?

美姫 「私が襲わせた」

って、どうやって!?

美姫 「襲えって命令して」

それで従うんだ……。
って、そうじゃなくて何故、そんな事をするかな!?

美姫 「あの時は暇だったから」

暇だからってするな! もう止めような、な。

美姫 「分かったわよ。暇でも犬に襲わせない、これで良いでしょう」

分かれば良いんだよ。

美姫 「退屈になったらにするわ」

何も変わってねぇ!

美姫 「あら、違うじゃない」

いやいやいや! そこは――。

美姫 「あ、そろそろ時間だわ」

って、ここでかよ!
可笑しいですよね! 責任者――ぶべらっ!

美姫 「同じネタよ」

うぅぅ、すみません。って、謝る所か?

美姫 「良いから、締めるわよ」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


6月18日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、梅雨らしく雨だ、とお送り中!>



ぼげぇぶべらっ!

美姫 「やられる前にやれ! これが鉄則よ!」

……い、いきなりな始まり方ですね。

美姫 「先週みたいに襲われたらたまらないからね」

……あれ〜? 先週は見事に返り討ちにされたような気が。

美姫 「でも襲ってきたのは事実よね」

うぅぅ、それを言われると。

美姫 「さて、前置きはここまでにしましょう」

って、前置きってなに!?

美姫 「それにしても、外は雨ね」

思いっきり話を変えましたね!
まあ、良いけれどさ。雨で多少気温は下がっているけれど、ムシムシするよな。

美姫 「湿度が高いのよね。でも、今日から一週間ばかりずっと雨みたいだし」

今日みたいな感じが続くんだな。

美姫 「でも、ようやく梅雨らしくなったとも言えるわね」

雨ばっかりだしな。
しかし、雨だと外に出ようという気が益々しなくなるよな。

美姫 「そこは気の持ちようよ」

そうかもしれんが。にしても、本当に蒸すよな。

美姫 「困るのが食べ物とかよね」

カビだな。

美姫 「そうそう。気を付けないとね」

だな。と言いつつ、俺に何を食わせようとしている。

美姫 「カビ」

そのものかよ!

美姫 「さて、冗談はさておき」

本当に冗談だったのか? なあ、そこで目を逸らすなよ!
って、だからって睨み付けるな!

美姫 「もう五月蝿いわね」

えー、俺が悪いの?

美姫 「当然でしょう」

ですよね〜。言われると思ったよ。

美姫 「さて、納得した所でCMいってみましょう」

いや、してはないんだけれどね……。







「じゃじゃーん!」

「で?」

そんなやけに短いやり取り。
最初に言った方はノリが悪いと肩を竦め、言い返した方は呆れたような疲れたような視線を向ける。
向き合うのは二人の美女と言っても差支えがない女性
共に長く伸びた髪を無造作に後ろに流し、けれども綺麗に梳かれている事がよく分かる。
そんな二人の美女が無言で見詰め合う光景だけを見れば、それは美しかったかもしれないが、漂う空気は少し重い。
このままでは先に進まないと感じたのか、部屋の隅に居た第三者が間に入る。

「忍お嬢様、それだけでは分かりませんよ。恭……美影様ももう少しだけお付き合いください」

向かい合う美女のうち、この家の住人たる月村忍の従者ノエルに言われ、恭也改め美影は分かったと続きを促す。
対する忍は咳払いを一つすると美影に背を向け、勢いをつけて振り返る。

「じゃじゃーん!」

「最初からやり直すな!」

思わず突っ込んでしまった美影の手が軽く忍の頭を叩く。
忍は大げさに叩かれた場所を押さえ、わざとらしく涙などを浮かべて美影を見上げ、

「暴力反対。でも、これも愛なのね……って、どうも恭也が女性だと調子が狂うわ」

あっさりと芝居を止めると忍は手に持っていた瓶を近くの台の上に置く。
そして改めて美影へと説明をする。

「この薬は夜の一族の古い書物を紐解いてようやく見つけた秘薬をアレンジしたものなのよ。
 簡単に言うと、美影を恭也に戻す為の薬よ」

忍の言葉に美影の顔に喜色が浮かぶ。
それも当たり前の事で、少し前に受けた護衛の任務で、恭也はその仕事の内容から正真正銘の女性になったのだ。
本来ならすぐにでも戻れるはずが戻る事ができなくなり、護衛任務終了後も未だに美影として過ごす日々。
責任を感じたリスティとさくらが懸命に解決策を探してくれていたのだが、元が古い夜の一族の秘術。
そう簡単に解決策も見つからないという状況だったのだから。
それが不意に電話で呼び出されて月村家へと来てみれば、元に戻れるというのだから美影の喜びは大きい。

「ようやくか」

「私もさっさと戻って欲しかったしね。とは言え、文献に載っていたのはそれそのものじゃないのよね。
 多分、これで問題ないと思うけれど実験も出来ないし」

「本当に大丈夫なんだろうな」

「多分ね。失敗してても害はないわよ……多分」

「おい」

最後にポツリと呟かれた、聞き逃せない一言に美影の視線がきつくなる。
気付いて引き攣った笑みを浮かべるものの、忍としては断言はできないので素直に言う。

「こう言った術絡みに強い人が親戚に居るんだけれど、その人でも今回の術に関しては詳しくは知らなかったのよ。
 存在していたという程度しかね。だから、文献を見て解毒剤を作り出す手法もその人と手探り状態で行ったのよ。
 その人曰く、多分問題ないと思うけれど未知の術に関して絶対とは言えないって。
 文献を読み解き、調合したのは私。そこに魔術的要素からのアプローチと術を組み込んだのはその人。
 エリザと言って前に話した信用できる親戚の一人なんだけれどね。そのエリザでも確証は持てないって。
 ただ現状で出来る事は間違いなくやっているってだけ。不安ならもう少し待っても良いけれど」

その間に他の解決策がないか探したり、その文献を更に解読すると忍は言う。
今現在もさくらはそのエリザと共に世界中を探し回っているらしい。
それを聞いて美影は自分が悪いわけではないが申し訳なく感じつつ、瓶を手に取る。

「で、体にこれ以上の害は本当にないんだろうな」

「流石に毒ではないからそういった意味では飲んだ所で害を及ぼす効果はないのは保証できるんだけれどね」

暫し考え、美影は瓶の蓋を開けるのだが、それを忍が止める。

「飲むんならこっちに立ってもらえる?」

言って忍は自分の後ろを指差す。
今居るのは月村家の地下なのだが、その床には色んなコードが伸び、美影にはガラクタにしか見えないような、
機械部品が雑多に転がっている。それらを踏まないように注意し、忍に言われた所まで来れば、
そこには高さ十センチの一メートル四方の祭壇のような物が置かれており、そこから何本ものコードが伸びている。

「これは?」

「恭也が前に使った薬にはペンダントがセットになっていたでしょう。
 この祭壇がそのペンダントの代わりみたいなものよ。流石にあそこまで小型には出来なかったのよ。
 つまり、恭也はこの祭壇の上でなら前みたいに自由に性別をチェンジできるって訳」

「完全には治るんじゃないのか?」

「ごめん、説明不足だったわね。それはもう少し待って。
 今の段階では壊れたペンダントの機能を再現するのが精一杯だったの。
 その薬は言わば変身の制御をこの祭壇に移す為のようなものだと思って」

美影は忍の説明に納得するともう一度考える。が、答えは既に先ほど決めた通りである。
完全に治る訳ではないが、男に戻れるのなら良いかと。要は女にならなければ良いだけだと。
美影はすぐに結論を出すと祭壇に登り、今度こそ瓶に口を付け、忍を一度見る。
視線を受けて忍が電源を入れると足元から機械音が起こり、ぼんやりと光り出す。
忍が頷いたのを見て、美影は一気に中身を飲み干す。
それを見届けた忍が手元のスイッチをポンと押し込むと、祭壇の光が一層強くなる。

「良いわ、良い調子よ」

徐々に強まる光が美影の足首に及び、更に機械音が大きくなったかと思ったら、
ポスン、と音を立てて急速に音や光が弱まっていく。

「あ、あれ?」

忍の戸惑いの声を聞くまでもなく、これは失敗だと理解できる。
だが忍は意地があるのか、美影にその場の待機を言うとモニターに視線を落とし、手元のキーを叩きまくる。

「あった、ここだわ。単純に出力不足みたいね。用心して出力を抑えていたから。
 だったら出し惜しみなしの全力全開でいくわよ」

「貴女が言うと全壊に聞こえるのは何故なのかしら」

嫌な予感、不吉さを感じて零す美影の言葉に耳を貸さず、忍はぱぱっと設定を変更して再びスイッチを入れる。
途端、先ほどの続きだとばかりに輝き音を発する祭壇。
その強さは先ほどの比ではなく、あっという間に美影の足首は愚か下半身にまで光が立ち上る。
時折、バチという音が聞こえるような気もするが、これは美影の心の不安が聞かせた幻聴なのか。
見る限りに置いて可笑しな箇所はない。光が胸元にまで迫ると、祭壇上に不可思議な幾何学模様が浮かび上がる。

「あれ?」

「って、おい!」

思わずといった感じで零れ落ちた忍の声に不吉感をMAXにして美影がそちらを見れば、

「いや、恭也の足元に出る陣がちょっと予想していたのと違うから……」

言い終わる前に光が更に強くなり、今度は焦った声が上がる。

「ちょっ、何でここで更に出力が上がるの!?
 まずい気がするから中断するわよ!」

許可も拒否の声も上げる間もなく、忍は素早く手付きでキーを弄り出す。
それに抵抗するかのように光と音が強さを増し、あまりの眩しさに美影は目を閉じる。
瞬間、ポンとやけに軽い音を耳にする。
次いで浮遊感を感じ、すぐさま軽くジャンプした時のように地面に足が着く感触が伝わる。
風が前髪を揺らし、空気に地下独特の匂いではなく木々の香りが混じる。
何が起こったのかと目を開ければ、見事にそこは外であった。

「……失敗という事だろうな」

いつもの事と肩を竦め、ある意味感心さえする。
何をどう失敗したのかは知らないが、まさか一瞬で移動させられるとは。
思いつつ裸足なのが困ったと足元を見下ろし、そこに最近では見慣れた邪魔な物体がない事に気付く。
恐る恐る自分の胸へと手を当てれば、

「平らになっている。という事は、元に戻れたのか」

嬉しさ混じりの声が零れるのだが、髪の長さだけはそのままだったようで少し面倒だが後で切ろうと考える。

「いや、待て。何故、服がぶかぶかなんだ」

よく見れば、自分の手が服の袖に埋もれてしまっている。
嫌な予感を胸に抱きながら、美影は足元をよく見る。

「ズボンもぶかぶかな上に地面までの距離が短い」

確認を終え、それでも信じたくない思いに近くの木へと近寄りそこに自分の身長に合わせた傷を小刀で付ける。

「……さて、どのようなお仕置きがお好みかしらね。
 まさか男の姿に戻れない所か、小さくされて何処かに転移させられるなんて、もう笑うしかないわ」

実際には笑ってなどいられないのだが、美影はその幼い外見に不釣合いなほどに怪しげな笑みを見せると、
空を見て大体の時間と方位を計算する。

「北はあっちか。なら……って、ここが何処か分からない以上、どうしようもないじゃない」

やはり気が動転しているのかと自分を落ち着かせ、とりあえずは人の居そうな場所へと歩く事にする。
具体的には山のような場所なので麓と思われる方向へ、というあまりにも確証のないスタートではあったが。
が、どうやら美影の勘もそうそう捨てた物ではなかったようで、
もしくはあまりにも不憫に思った神様がこれぐらいはと運をくれたのか、
どちらにせよ、暫く歩いた所で人の気配を感じることが出来た。
美影はそちらに向かって駆ける様に歩き出す。
大きすぎる服を裾で折り畳んでいるため、走ったりするとずれてくるのだ。
それでも自然と足は速まっていくのは抑えられず、徐々に走るようになっていく。
が、気配に近付くと何やら不穏な物を感じ、美影は今までの経験からか気配を消してそっと近付く事にする。
大きな大木の陰に隠れ、こっそりと覗き見れば、

「こっちに来るなよ」

「うわ、こっちに来た」

五人程の男の子が一人の少女を囲み、棒で叩いたり蹴ったりと繰り返していた。
虐めにしてはあまりにもその力は強く、少女の着ている服は所々破れ、血が滲んでいる。
少年たちが少しでも動く度に少女は怯え、自分の体を守るように抱いて謝る。
が、それでも少年たちの手は止まらず、少女が泣くのを面白がっている。
好きな子を虐めて楽しんでいるというのでもなく、正真正銘の虐め。それもかなり悪質なものである。
まるで異物を排除するかのようであり、聞こえてくる話し声からするにそれは少年だけでなく、
周りの大人たちも日常的に同様の事をしていると窺わせた。
何故こんな事をと美影が疑問を抱くも、すぐに答えは見つかる。
少女の背中に生えた一対の白い翼。原因は間違いなくあれであろう。

「HGSか」

遺伝子の病気で中には超能力と呼ばれる不可思議な力を与える事もある。
その特徴として背中に生える翼や羽がある。
見た目は勿論、この病気自体が実はあまり世間に知られていないという事もあり、
時としてこのような虐めが発生する事もあると聞いた事がある。
自分とは違うものを排除しようとする悲しい性と言ってしまえばそれまでなのだが、
美影にはとてもではないが看過できる状況ではない。
故に当然の行動として美影は隠れていた木の陰から飛び出し少女の前に立ち塞がる。

「な、何だこいつ」

「お前、なんのつもりだよ」

突然現れ、少女を庇うように経つ美影に少年たちから誰何の声が上がる。
それだけでも恐怖心を抱くのか、少女が更に縮こまる。
そんな少女を背中に庇いつつ、美影は目の前に居る少年たちに告げる。

「一人の女の子を相手に男の子が数人で虐めるなんて恥ずかしいと思わないのかしら?」

それで止めるのなら最初からこのような事はしないだろうと思いつつ、まずは注意してみる。
が案の定少年たちは口々に少女が悪いと言いだし、終いには自分たちが正しいと言い切る。
その目に迷いも何もなく、本当にそう思っていると伝わってくる。
それ所か邪魔する美影の方が悪いと少年たちは美影も含めて襲い掛かってくる。
その理屈に小さく嘆息しつつ、美影は向かってきた少年の内、正面から来る少年の顎を打ち抜く。
脳震盪を起こした少年の体を足と手で捌き、右側へと放り投げる。
これで右から来る二人の少年の足を止めさせ、左二人へと向かい合う。
体が幼くなり間合いなどに戸惑ったものの、割とあっさりと倒せた事にほっと息を吐く。
思ったよりも少年たちの動きが早く、油断してくれたお蔭で楽だったと。
思ったよりもタフなのか、少年たちはノロノロとした動きではあるものの起き出してこちらを見てくるのだが、
既にその目に戦意は見られない。
かと言って、大人しく引き下がるのはプライドが邪魔するのか、立ち去ろうともしない。
下手な刺激一つで再び向かって来る可能性もあり、美影は多少大人気ないと思いつつも少しだけ殺気を向ける。
それにより、少年たちはその場から立ち去る事を選び、こちらを睨み付けつつも去って行く。
本当にこれで安堵できると肩から力を抜き、やり取りをじっと見詰めていた少女に向き直り近付くと、
ビクリと身体を震わせて怯えたように後退る。
しかし、半歩後退るだけでそれ以上は下がろうとはしない。
美影を信用したというよりは、下手に逃げてもっと酷い事をされると怯えているようで、
安心させる為に美影は何とか笑みを浮かべて少女の傍に屈みこむ。
それでも少女は美影の行動一つ一つに怯えたように身体を震わせる。

「もう大丈夫だから」

「…………あ、あぅ」

何か言いたいのだが言って虐められる事に怯えるように喉を引き攣らせ、視線をさ迷わせる。
そんな少女に美影は笑みを浮かべたままゆっくりと手を伸ばし、恐怖に引き攣る顔に構わず頭に手を置く。
ビクリと震えた少女は、しかし次の瞬間にゆっくりと撫でられた事にポカンとした顔で美影を見上げる。
目が合えばまた怯えたように俯くのだが、美影が撫で続けるとゆっくりと視線を上げる。
数度、視線を上げては下げを繰り返し、美影が虐めないのではと思い始めたのか、少女は徐に口を開く。

「い、虐めないの」

「虐めないわよ。そんな理由もないもの」

「だって、うちの羽……」

「羽? ええ、白くて綺麗な羽ね」

「綺麗?」

「ええ」

美影の言葉を聞いた途端、少女は泣き出してしまう。
それを宥めるように頭を撫でるのだが、益々泣き声は大きくなる。
美影は少し考えた後、少女をそっと抱き締めてあやすように背中を叩いてやる。
更に声を上げて泣く少女であったが、その手を美影の胸元に伸ばしてぎゅっと握り締める。
少女が落ち着くまでに数分を要する事になるが、その間美影は何も言わず、ただ少女の頭と背中を撫でてやった。
ようやく落ち着いた少女からここが京都だと知らされ、帰る手段を考える。
そんな美影の服の裾をぎゅっと掴み、少女は未だ少し怖がりつつもじっと美影を見詰める。

「とりあえず、家まで送るけれど家はどこ?」

「…………」

明らかに帰りたくないと態度が示しており、親に知られたくないのかと考える。
とは言え、このままにしておく訳にいかず、美影がもう一度尋ねると、少女はようやく口にする。

「あっちです」

既に身に付いた習慣なのか丁寧に話す少女にその原因を考えると何とも言えない顔になる。
が、それを勘違いしたのか少女は怯えたように謝りだす。

「何も謝るような事はしていないでしょう。そんなに怖がらないで。
 私は貴女を虐めないから、ね」

「ほ、本当ですか?」

「本当よ。ほら、もっと楽に話しても良いのよ」

「で、でも……」

躊躇う少女にまだそこまでは無理かと考え、とりあえず少女を立たせると少女が指差した先に歩き出す。
その道中、少女は口を閉ざしたまま重い足取りで美影の後に付いて来る。
その手がずっと裾を掴んでいる事には触れず、怖がらせないように色々と尋ねるのだが少女の口数は少ない。
やがて前方のかなり古びた小屋が見えて来る。
山小屋かと思った美影であったが、少女にここが家だと告げられて驚く。
壁にも屋根にも所々穴が開いており、扉には鍵なども付いていない。

「本当にここなの?」

「うん」

どうにか口調は多少砕けてきたようだが、やはりまだ警戒しているのか恐々と頷く。
そんな少女を気遣いつつ、親はと尋ねたのだがこれは失敗だったとすぐに悟る。
少女の顔が泣きそうなほどに歪み、何かを堪えるように俯いてしまう。
既に亡くなったのか、もしくは親さえもこの子を捨てたのか。
恐らくは後者だろうとあたりを付けつつ、美影はどうしたものかと頭を悩ます。

「とりあえず、お邪魔しても良いかしら?」

「はい」

美影の言葉に頷いたのを見て、美影は家の中へと入る。
中は表から想像した通り、こちらはかなりガタがきており、床の一部には穴が開いている。
家具なども本当に必要最低限という感じでしかなく、電灯などは見当たらない。
とりあえず部屋の中央に座り、同じように付いて来た少女を隣に座らせる。

「……もし行く宛てがないのなら一緒に来る?」

考えた末、美影はそう口にしてみる。恐らく桃子なら了承してくれるだろう。
流石にこの状況に少女を置いて行く事に躊躇いを覚えたためだ。
自分はお人好しという訳でもないし、それこそ世界中を探せば少女と同じような子は他にも居るかもしれない。
それでもこうして知り合い、ましてや助けに入った以上は無視する事も出来ない。
誰にでも手を差し伸ばす事はできない以上、これを偽善と言われるかもしれないが、これも何かの縁だと割り切る。
そう考えて口にした言葉であったのだが、言われた少女は意味が理解できずに美影を見てくるのみ。
もう一度口にしてみるが、少女は戸惑いの方が大きく何も言えないようである。
好意に触れたことがなく、どうして良いのか分からないのだろう。

「でも、こんなんだし……」

「羽の事は気にしなくても良いわよ。私の知り合いでそれで虐める人は居ないから。
 勿論、無理矢理連れて行く事もしないわ。貴女が思うようにするのが一番よ」

少女はかなり悩んだ後、ゆっくりと頷き、小さな声で言う。

「い、一緒に行っても良いん?」

「駄目なら始めから言わないわ。大丈夫、これからは私が守ってあげるわ」

あまりにも傷付き過ぎた少女に、美影は自然とそう口にして優しく抱き締めてやる。
少女は声もなく涙を流し、美影にしがみ付く。
小さな嗚咽を胸の中に閉じ込めるように抱き締める力に少し力を込め、美影は優しく少女の髪を撫でてやる。
ようやく少女が落ち着きを取り戻すと、美影は今更ながらに思い出す。

「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は高町美影よ。貴女の名前は?」

「刹那。烏族の刹那」

これが美影と刹那の出会いであり、後に知る事となる異世界で最初に出来た友である。



「海鳴市が存在しない? まさか、異世界?
 は、はははは……忍、恨むわよ」

「美影お嬢様は私がお守りします! お嬢様が元の世界へと戻ると仰るのなら、私も付いて行くまでです!」

――こうして奇妙な縁を作った美影は、元の世界への手掛かりを探し、

「麻帆良学園? そこには魔法使いが多く集まっているの?」

「はい。それだけではなく、そこにある図書館島にはありとあらゆる書物があると言われています。
 もしかすると……」

「帰る手段が見つかるかもしれないわね」

――二人は麻帆良学園へと入学する。



とらいあんぐるがみてる X ネギま!

美影と刹那







いやー、久しぶりに長いCMになったかも?

美姫 「未だに美影ネタを使うとは」

いや、意外と使い勝手が良いんだよね。
始めはリリカルに飛ばそうかとも思ったんだがな。
ふとネギまにしようと思って。

美姫 「刹那と出会ったのは単にアンタの好きなキャラだと」

まあな。さて、CMに関してはその程度だな。
にしても、本当によく降るよな。

美姫 「確かにね。と、長々と世間話している暇もないんだけれどね」

そろそろ時間だもんな。

美姫 「そういう事よ。残り時間いっぱいまでアンタをぶっ飛ばすとして……」

いやいや、何の計算ですか!?
って、何発殴れるかの計算だってのは分かってるから言わなくて良いから!

美姫 「じゃあ、何を聞いているのよ?」

そこで心底不思議そうな顔しない!
普通に俺を殴るの前提なのが可笑しいって話でしょうが。

美姫 「うそ!」

いや、驚く所違う。

美姫 「ああ、そんな事を言っている間に時間に……」

残念そうな顔をするな。

美姫 「そういうアンタは嬉しそうよね」

当たり前の反応だと思うが。

美姫 「それがむかつくわ!」

ぶべらっ! 理不尽にも程があるだろう。

美姫 「って、本当に時間がなくなってしまったじゃない」

俺、悪くないよね!

美姫 「良いから締めるわよ」

へいへい。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


6月11日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、先手必勝って嘘だよね、とお届け中!>



ぶべらっ!

美姫 「という訳で今週も始まりした、このコーナー」

い、いきなり殴られたのは何故?

美姫 「アンタがいきなり殴りかかってくるからでしょう」

いや、あれは実験なんだよ。

美姫 「何よ実験って」

先手必勝は果たして本当に勝てるのか。

美姫 「結果は見ての通りね」

うぅぅ。実力に差がなければ何とかなるかもしれないが、如何せん差がありすぎる。
という訳で、PN美姫さんに下克上さんからのご質問の答えでした。

美姫 「何よ、そのPN」

いや、本当にこれで来たんだけれど。
先手必勝という言葉が言うように、俺がいきなり殴りかかれば勝てるんじゃないですか(笑)って内容が。

美姫 「かなり要約しているけれど、概ねそんな感じの内容ね」

だろう。

美姫 「でも、明らかにアンタが負けるのを前提で送って来ていると感じられる内容ね」

やっぱり?
俺も可笑しいと思ったんだ。多分、とか恐らくという言葉に加えて(笑)だったし。

美姫 「正確には(半笑)だけれどね」

まあ、そこはそれ。しかし、次は奇襲でどうかという手紙を送るか。

美姫 「って、送ったのはアンタか!」

ぶべらぼげぇ! な、何故、ばれた!?

美姫 「いや、今自分でポツリと零してたから」

しまった! 折角、美姫を攻撃する口実が出来たと思ったのに!

美姫 「中々面白い事を考えるじゃない。そこまで私を殴りたいんだ?」

い、いや、冗談ですよ。ほんの出来心です。

美姫 「どっちよ」

えっと、冗談です。俺がお前を殴れる訳ないじゃないですか。

美姫 「実力的にも無理よね」

うんうん。ほらちょっと変わった趣向を凝らそうと。

美姫 「それで襲われたらたまらないんだけれど?」

うぅぅ、ゆ、許して。チクチク剣先で突付かないで。

美姫 「来週辺り、私宛に手紙が着そうな予感がするの」

は、激しく嫌な予感がするけれど、それはどんな手紙になりそうかな?

美姫 「多分、アンタに地獄を見せろ、みたいな感じのお手紙が」

じ、自分で出す気満々ですよね。

美姫 「自業自得よね〜」

ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

美姫 「どうしようかしらね〜」

お願いします、お代官様〜。おら、おら〜。決して悪気があった訳じゃないとです。
そもそも、おらが美姫様をどうこうできるはずがある訳ないですだ〜。

美姫 「うーん、まあその綺麗な土下座に免じて……」

許してくれるだか?

美姫 「考えといてあげるわ」

うっ、許すと言わない所が恐ろしいな。

美姫 「文句があるのなら今すぐにでもお仕置きしても良いわよ」

ごめんなさい! 一回転&ジャンピング土下座!

美姫 「うん、素直に謝った感じがしないからとりあえず一発いっとくわ」

そんな!? ぶべらっ!

美姫 「それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」







海鳴市の外れ、郊外とも言えそうな住宅街にある一件の家。
もうすぐ深夜という事もあってか、既に家の中から殆どの明かりが消えており、
テレビの音は愚か話し声さえも聞こえない。
尤もそれが昼間だったとしても、この家から話し声が聞こえてくるような事はなかったが。
そんな住宅の一室で、唯一明かりの灯っている部屋に一人の少女が居た。もうすぐ梅雨を迎える六月の初め。
未だに夜中ともなれば肌寒く感じる事もあるからか、少女は座った足の上にタオルケットを掛け、
静かに読書に勤しんでいる。時折、少女がページを捲る以外に聞こえる音はなく、まさに静寂と呼ぶに相応しい。
そんな中、微かだが何か叩かれるような小さな音がする。
が、あまりにも小さな音の為、時計の音にさえかき消されてしまい少女の耳には届かない。
それが不服という訳でもないだろうが、次第にその音は大きくなっていき、少女の耳がようやく小さな音を拾い上げ、
顔を本から上げる。同時に時計の針が揃って天辺に辿り着き、物音のした方、本棚から小さな光が零れる。
一体何かと顔を向けた、いや物音に気付いて既にそちらを見ていた少女の目の前に、
本棚から独りでに一冊の本が飛び出し、少女の目の前に浮かび上がる。
この怪奇現象に慌てたように少女は遠ざかろうとして、そのまま床に投げ出されてしまう。
見れば、少女が座っていたのは椅子などではなく車椅子で、
少女は倒れた痛みに顔を顰めつつも、自由にならない下半身を引き摺るように腕を使って床を這う。
緩慢な動きで遠ざかろうとする少女の行く手を塞ぐように本が前へと回り込み、一層強い輝きを放つ。
恐怖からか引き攣った声を上げ目を閉じる少女に、敬うような声が届く。

「怖がらせてしまい申し訳ございません、我が主」

「へ?」

その声に目を開け、間の抜けたような声を漏らした少女の目の前には、臣下よろしく膝を着いて頭を垂れる者たち。
事情を飲み込めない少女へと名を問うてくるのは一際鋭い雰囲気の女性である。
その雰囲気に飲まれるように、少女は自らの名を口にすれば、その者たちは改めて頭を下げてくる。

「主はやて、改めまして、我らヴォルケンリッター。
 これより主はやての剣として、盾として、絶対の忠誠をお誓いします」

「えっと……」

少女、はやてはいまいちよく分からないと言う顔をし、
それを受けてヴォルケンリッターと名乗った者たちが説明をしようと顔を上げ、口を開いた所で、

「大事な場面だという事は分かっていますが、そろそろこちらにも気付いてもらえないでしょうか?」

不意に声を掛けられて驚いた顔で自分たちの後ろを見るのは跪いていた四人。
はやてはそれらの反応や直前の言葉から声を掛けた者と掛けられた者が知り合いではないと判断し、
今にも斬りかかろうとしていた女性を止め、改めて事情を求める。
結果、分かった事は跪いていた四人は闇の書の騎士と呼ばれる存在で、
主であるはやての願いを叶える闇の書を完成させる為に現れたとの事。
その際、一緒に説明された魔法などにも驚きはしつつも願いは特になく、
家族になって欲しいと言う願いを口にし、戸惑いつつも四人が受け入れた事でとりあえずは決着した。
問題は、その騎士たちが警戒するようにはやてを守るように位置し見詰める先にあった。
敵意を隠そうともせずに睨みつけてくる騎士たちにうんざりしたような顔をしつつ、
恭也はとりあえず自分が把握している現状について話し出す。
とは言ってもそう多くの事はなく、要約してしまえば気付いたらここに居たというものだったが。

「それをどう信じろと言うのだ」

「はぁ、信じられないかもしれないが嘘は言っていない。これに関しては他に証拠も何もないしな。
 こちらが事実として認識しているのはそうなんだから仕方ない」

いい加減、敵意にさらされて丁寧な物言いも崩れてきつつある恭也の隣で、
騎士たちのリーダーたるシグナムが発する怒気を平然と受け流し、彼の妹である美由希が口を開く。

「魔法があるのに私たちが突然現れた事が信じられないのはどうしてですか?」

「確かに転移の魔法はある。だが、貴様たちが現れた時に魔法は感知しなかった。
 それはここに居るシャマルがはっきりと断言している。どうやって入ってきた?
 それとも我らに感知できないように魔法を使ったのか」

「ですから、私たちは魔法なんて今の今まで知らなかったんですけれど」

美由希の隣で那美がそう言えば、恭也の横に居た忍も頷いてみせる。

「知らないものをどう使えってのよ。
 さっきも説明したけれど、家の地下から古い書物を見つけて皆で開いたら突然、本から光が出たのよ。
 そして気付いたらここに居た。しかも、夜になっているし」

「聞いた話、信じられないが世界は複数存在するのだろう。
 なら、俺たちの元いた世界へどうやったら戻れるのか教えてくれと言っているだけだ」

「そうそう。その子に危害を加えるつもりはないって言ってるじゃない」

恭也と忍の言葉に美由希と那美もうんうんと頷いて同意してみせるも、シグナムは話にならないと肩を竦める。
寧ろ恭也たちの方がそう言いたいと口にするのを堪え、
一言も喋らずにずっとこちらを睨んでくるヴィータという少女を飛び越し、その後ろにいるはやてへと話し掛ける。

「このままでは埒が明かないんで何とかしてもらえないか?」

「そうやね。シグナム、ちょいと黙っててな」

「主はやて、ですがこの者たちの素性も目的もはっきりしません」

「ああ、大丈夫、大丈夫やから。それじゃあ、改めてうちは八神はやて言います」

そう言って頭を下げるはやてに恭也たちも改めて名乗り、はやてに対しては丁寧に挨拶を返す。
いつでも飛びかかれるようにはやての傍に立ち、腰を落とすシグナムを無視し、恭也は改めて現状を話す。
その内、会話の中から海鳴のそれも高町家が割りと近い事が分かり、恭也たちは礼を言うと立ち上がる。
が、出て行こうとした扉の前には唯一の男であるザフィーラが立ち塞がる。

「悪いがまだ身の潔白が証明されていない。ここは管理外世界とは言え、管理局の者ではないと証明されず、
 闇の書の主の情報を漏らされないとはっきりと分からない以上、いかせる訳には……」

ザフィーラの言葉ははやてによって遮られる。
少し怒ったように見てくるはやてに一瞬だけたじろぐも頑として退こうとはしない。
他の者たちも口々にはやてを嗜め、仕方なしにはやては肩を竦めると、

「ほんなら、恭也さんたちを監視する意味も含めて皆で行ったらどうや?
 ただし、そうなると今からは遅いから明日になるけれどな」

はやての言葉に渋々ながらもシグナムたちが頷いたのを見て、はやては申し訳なさそうに恭也たちを見る。
仕方ないとこちらもその意見を受け入れ、こうしてとりあえずは落ち着く事が出来る。
尤も、今度は寝る際に怪しい者たちを一箇所にまとめて監視しておきたいシグナムと、監視は兎も角、
忍たちとは別の部屋にしてくれと主張する恭也の間で揉める事となるのだが。



明けて翌日、朝食までしっかりとご馳走になった後、時間的な問題から翠屋へと向かう事にした恭也たち。
少なくとも桃子に証言してもらえれば、自分たちがこの世界の住人だと証明できるだろうという考えだったのだが、
翠屋へと着き、知らず足が速くなる美由希を恭也が制する。

「ちょっ、恭ちゃん鼻が潰れる!」

「そんなくだらない事は良いから、中を見てみろ。
 ただし、こっそりとだ」

「くだらなくなんてないよ。全く恭ちゃんは……」

ぶつくさと文句を言いつつも恭也の言葉に従い店を覗き、そこで美由希は動きを止める。
そんな様子を見ていた那美と忍も同様にこっそりと中を見て、

「何か可笑しな事でもあった?」

「いえ、特にはありませんけれど。あ、新しい人を雇ったんですかね。
 見慣れない人が居ますけれど。でも、何か誰かに似ていますね」

首を傾げる二人に答える様に、恭也は一度深呼吸をして言う。

「あれは父さんだ」

「……はい?」

「え、だって恭也さんのお父さんは既に亡くなったって……あ、ごめんなさい」

「いえ、気にしないでください、那美さん。
 ですが、あれは間違いなく父さんです。美由希はどう思う」

「私も士郎父さんだと思う。だってかーさんも嬉しそうに笑い掛けてるし」

この会話から流石にシグナムたちも何も言わず、ただじっと待つ。
やがて、恭也たちは今更ながらに日付を聞き出し、

「さて、未来と見るべきか」

「だとしても、亡くなった人が居るのは可笑しいよ」

「とりあえず、家かさざなみ寮を見てみるってのはどう?」

「ですが知り合いに会ったら色々と困りませんか?」

顔を見合わせ、結局の所は他の場所も回る事にする。
それに対してはやては文句を言わず、その提案を受け入れてくれ、主が許可した以上それにシグナムたちも従う。
そうしてさざなみ寮や月村家を見て回った結果、

「さざなみの方は住人の皆さんが留守にしていたので分かりませんでしたが……」

「問題は家ね。まさかノエル以外にも使用人が居るなんて。
 それどころか、対セールス用名目の対恭也訪問時撃退警備システムがないなんて!」

「色々と待て! 聞き捨てならない単語があったぞ!」

「勿論、撃退ってのは冗談よ。ちょっと性能テストしたいから新しく設置した警備システムだから安心して」

「何を安心しろと! つまり、今回は那美さんや美由希が居たから作動しなかったが、
 次にお前の家を訪ねたら攻撃が飛んでくるという事だろう」

「しまったわ。うっかり口を滑らせた。これじゃあ、不意打ちにならないじゃない!」

「反省する所が違うだろう!」

口喧嘩を始める恭也と忍とその内容に何とも言えない顔を見せる騎士たちとは違い、
美由希と那美は慣れた様子で我関せずを貫き、暢気に世間話などをしている。
ひょっとして、これうちが止めた方が良いんやろうか、とはやてが思い始めた頃、
二人は何事もなかったかのように喧嘩を止め、

「とりあえず次は学校を見てみたいんだが良いか」

「えっと、構いませんけれど……」

「ここは確かに俺たちの知っている海鳴と同じなんだが、微妙に違っているみたいでな」

「居るはずのない人が居たり、あるはずの物がなかったりしているのよ。
 で、他にもそういう事があるのか確認したいのと、恭也はもう一人の妹なのはちゃんが気になって仕方ないのよ」

忍の言葉に言い返さず、恭也ははやてに許可を求める。
当然、はやての方に否定はなくこうして一向は次に風芽丘学園へと足を向ける。
なのはの通う聖祥よりもこちらの方が近いからである。
当然、授業中の今関係のない者が入ることなど出来ず、恭也たちもこっそりと見るのを目的としている為、
揃って誰にも見つからないように隠密行動を取る。
結果として、海中の校舎に知った顔を見つける事は出来ず、続けて風校の校舎を見たのだが、

「あ、あれれ、私の目が可笑しくなったかな?」

「……流石、美由希。まさか分裂するという離れ技を使ってまで笑いを取りにいくとは」

「まさに体を使ったギャグね。いまいち面白みに欠けるけれど」

「み、皆さん、そのコメントは何か違うと思うんですけれど」

若干混乱しそうな頭を冷やし、四人は揃って校舎を後にする。
その後ろから付いて来るはやても不思議そうな顔をする中、シグナムたちは気難しい表情を浮かべる。
そちらへと気を使う余裕もなく、恭也は次に聖祥に行きたいと告げる。
そこで恭也はアリサという少女となのはが笑い合っている姿を目にし、知らず頬を緩めるもやはり驚きは隠せない。
対する忍もなのはの傍に居るもう一人の少女、クラスメイトから呼ばれた月村という名に反応する。
別に同じ苗字の者が居たとしても可笑しくはないのだが、その目は少し鋭く観察するように少女を見詰める。
逆にその辺りで特に不審な点を抱かなかった美由希は、なのはが無事な事に胸を撫で下ろし、

「とりあえず、それだけでも良かったよ。じゃあ、次はどこに行く?
 お昼もかなり過ぎてしまっているけれど、どこかでお昼にしようか?」

現状に不安を抱きつつも腹が減っては何とやら、である。
二人の空気を換えるようにそう提言してみる。
その言葉に恭也は頷きを返し、忍も遅れて頷く。
そうして那美の提案で少し離れた場所で遅めの昼食を取る事となる。
が、その途中、恭也たちは信じられないものを見る事となる。
それは大学の帰りなのか、二人仲良く腕を組んでじゃれているカップルの姿であった。
勿論、それだけなら問題ない事なのだが、如何せんそのカップルが恭也と忍という組み合わせなのが悪かった。
結果、忍はにやけた頬を抑えつつ目の前の光景に身をくねらせ、二人は憎悪や殺意を抱き、
最後の一人はあまりの事態に完全に思考を停止してしまった。
幸い、向こうがこちらに気付かなかったので鉢合わせという事態は避けれたが、
四人が元に戻るまでに実に十分ほどの時間を費やす事となるのである。



結局、一日掛けて歩き回り、もう一度月村家やさざなみ寮、高町家に翠屋と見て周り、
顔の割れていないシグナムやシャマルにはやてが頼み込んで聞きまわった情報なども合わせ、
ここは完全に恭也たちの居た世界とは別の世界であると判明したのである。
場所を八神家へと移し、そうシャマルから告げられた恭也たちは戻る方法も尋ねるのだが、
それに対する答えは無理というあまりにもあまりな答えであった。
恭也たちがはやてに害成す存在ではない事が少なくとも証明された形ではあるが、嬉しくはない結果である。
帰れない理由として色々と説明を受けたが、忍を除いてはあまりよく理解できていないようであった。

「ゼロじゃないんだから、まだ可能性はあるわ。向こうで私の家にあったあの本。
 あれがこの世界にもあれば、それを見つければもしかすれば……」

忍の言葉にどうにか光明を得て、恭也たちはその本を探す事を決意する。
とは言え、月村家にあるかどうかは分からず、気軽に探す事も出来ない。
この世界の二人に成りすます事も考えたが、ノエル相手に何処まで通用するか分からず、
結局の所は深夜に忍び込むという、あまり宜しくない方法を取る事となる。
それ以外、日中などは本屋や図書館を回る事とし、とりあえずの方針を定めたまでは良かったが、
肝心の拠点という問題がここに来て浮上する。
が、これは親切にもはやてが居候する事を言い出してくれ、あっさりと解決する事となる。
こうして、見知らぬ異界へとやって来た恭也たちは、元の世界へと戻るために動き出す。

異世界迷子たちの子守唄







どうも元気な蚊がいるらしいな。
ほれ、咬まれた。痒い〜。

美姫 「早い気もするけれど、実際に何月ぐらいから出てくるのかしらね」

何か毎年この時期に見ているような気もするな。
うぅ、それにしても痒い。

美姫 「掻くと余計に痒くなるって言うわよ」

分かってはいるんだが……。何か画期的な方法でもないものか。

美姫 「我慢する」

画期的というよりも根性だね。

美姫 「その部分を切り落とす」

いやいや、それはありえないでしょう!

美姫 「燃やす」

駄目に決まってるだろう!
というか、続けて物騒な対処法ですね。

美姫 「どうしろってのよ!」

ぶべらっ! んな、馬鹿な!
今のは俺、悪くないよね?

美姫 「私が正義でアンタが悪、と昔から決まってるのよ」

そうか、なら仕方ないか。……って、なんでや!

美姫 「はいはい。アンタの馬鹿な台詞の間にも時間がなくなっているのよ」

おおう、しまった。急いで連絡を。

美姫 「来週のまた火曜日〜水曜日に掛けて更新ができません」

ウイルス対策のサーバー移行作業というのを行うそうです。

美姫 「閲覧は問題ないそうなので」

火曜日から水曜日とまたがるのは順次行っていくので、何時になるか分からないからそうです。
とは言え、タイミング的にひょっとしたら出来るかもしれませんが。

美姫 「という訳で、投稿の方は受け付けてますので」

以上、連絡事項でした。

美姫 「それじゃあ、そろそろ時間ね」

だな。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


6月4日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いや本当に暑くなってきたな、とお送り中!>



つい最近まで寒いと言ってたのが嘘のように暑くなってきたな。

美姫 「流石に六月だしね。それでもまだ少し肌寒い日もあったわよ」

日中は暑いとしか感じないがな。
いよいよ夏が近付いてきたか。

美姫 「既に疲れた表情ね」

いや、本当に暑いのは苦手なんだよ。

美姫 「毎年聞いているわよ」

一層の事、気温が一定以上超えたら休みとか。

美姫 「学生でもあり得ない長期休みね」

まあ冗談だが。

美姫 「当たり前よ」

本格的に夏となる前に梅雨の時期もあるしな。

美姫 「じめじめしないと良いけれど」

まあ、無理だろうな。
ある意味、これも風物詩として受け入れるんだな。

美姫 「アンタを天井から吊るせば晴れないかしらね」

どんな儀式だよ。と言うか、テルテル坊主か、俺は!

美姫 「因みに足を括って逆さまに吊るす予定よ」

やめれ! と言うか、予定って既にやる気だったのかよ!

美姫 「それは言わぬが花というやつよ」

微妙に意味が違う気がする……。

美姫 「はいはい」

って、軽く流された!?

美姫 「アンタを吊った所で天気が良くなるはずもないしね」

それはそうだろう。とういか始めから分かってたよな、そこは。

美姫 「本当に何の役にも立たないわね〜」

って、ひどっ! 今更だけれど、俺の扱いが酷い!

美姫 「本当に今更よね」

うぅぅ、泣いても良いですか?

美姫 「うざいから嫌♪」

ああ、そんな笑顔ではっきりと拒絶を。

美姫 「さて、それじゃあ今週も元気にいきましょうか」

ですな。

美姫 「それじゃあ、CMいってみよ〜」







艦内に五月蝿いほどに鳴り響くブザー音。
警告の為とは言え、そのあまりの大きさに顔を顰め、ブリッジに明滅する赤い色を煩わしそうに睨む。
忙しなく行き交う怒号に既に出せる指示もなく、この艦の艦長クロノは立ち尽くしたまま拳を握り締める。
そんなクロノの元へと一つの通信が飛び込んでくる。

「クロノくん、現状は!?」

よく見知った顔が眼前のスクリーンに映し出され、幾分か落ち着きを取り戻しつつ答える。

「現場にフェイト執務管が赴き、どうにか押さえ込んでいるがそれも時間の問題だ」

幾分焦りつつ返すクロノに援軍として駆けつけたなのはの顔にも焦りの色が浮かぶ。

「既に状況は分かっていると思うが、正体不明の恐らくロストロギアと思われる物が発見され、
 近くを航海していたうちが担当する事になった。別件で居合わせたフェイト執務官に現場に出てもらったんだが」

「ロストロギアが急に動き出した、だよね」

「そうだ。現在、あのロストロギアに関して調べると共に援軍を編成中だ」

本来ならすぐにでもフェイトを離脱させたい所だが、物が何か分からない以上放って置くという事も出来ない。
故に現状、魔力でフェイトが抑えているという状況から動けないでいた。



目の前に浮かぶ掌よりも小さな球体。
そこからは信じられないほどの魔力が噴き出そうとしていた。
それを自分の魔力で抑えつつ、フェイトは目の前のロストロギアが何なのか考える。
魔力が溢れ出た瞬間、目の前の空間が一瞬とは言え歪んで見えた。
そこから推測すると最悪、次元震すら起こし兼ねないと考え、現状こうして抑え込むという形になったのだ。
とは言え、このまま抑え続ける事など出来るはずもなく、フェイトの頬を汗が伝う。
現状、もう少しすれば救援が来るとクロノからは連絡があり、元より逃げるつもりもない。
とは言え、流石に疲れが出始めており、徐々にではあるがフェイトの魔力が弱まっていく。
そんな中、それが起こったのは不運としか言い様がなかった。
フェイトの頭上、天然に出来た洞窟がフェイトとロストロギアの魔力の余波に限界を迎え崩壊する。
洞窟が完全に崩壊する程の規模ではなかったが、
それでも頭上から降ってくる瓦礫は充分な大きさをもってフェイトを押し潰そうとする。
結果、それを避けようと注意が僅かに逸れ、まるでそれを見計らったかのようにロストロギアの魔力が膨れ上がる。
その状況を見ていたクロノたちがフェイトの名を呼ぶが、その声を遠くの方に感じながら視界を白く染められ、
フェイトの意識は闇へと沈んでいった。



遠くで何かが鳴くような声が聞こえ、フェイトの意識は徐々に浮上する。
ゆっくりと明けられていく目に映るのは暗闇。
とは言え、真っ暗という訳ではなく薄暗いと表現するのが相応しい程度で、数メートル先までよく見える。
次いで感じるのは頬に当たる感触。地面にうつ伏せに倒れているのだと理解し、
フェイトはゆっくりと体を回して仰向けになる。
だるく虚脱感を感じる中、空には星が見える事からここがさっきまで居た洞窟の中ではないと分かる。
周囲が薄暗いのは今が夜だからで、真っ暗ではないのは街灯があるから。
つまりここはある程度科学が発達した世界であり、さっきまで居た未開のジャングルが広がる世界とも違うという事。
そこまで理解し、フェイトは転移させられたのではないかと判断する。
まずは何処なのか把握するため、バルディッシュに声を掛けて現在地を割り出そうとする。
同時に管理局へと通信しようとするのだが、こちらは繋がらない。
近くに受信できる艦がなく、ここが管理外世界の可能性を頭に置き、バルディッシュへと声を掛けようとした所で、

「大丈夫ですか?」

不意に背後から掛けられた声にフェイトはバルディッシュへ話しかけるのをやめる。
ここが管理外世界ならば、魔法を知られる訳にはいかないという判断からだ。
しかし、その所為で僅かに間が出来てしまい、声を掛けた主は心配そうに再度声を掛けて来る。
それに何でもないですと返しながら振り返り、フェイトは数度目を瞬かせ、

「高町恭也さん?」

見知った顔に安堵の混じった声が知らず出てくる。
が、相手の反応はフェイトの思ったものとは異なり、怪訝そうな顔をして僅かにだが警戒するような態勢を取る。
そんな恭也の後ろで、これまた見知った顔、親友の姉高町美由希が恭也へと知り合いかと尋ねている。
それに対する恭也の反応は知らないと言うもので、これにはフェイトの方が驚いた顔で恭也と美由希を見る。
が、すぐに違和感を感じてそれが何なのか思考を巡らせる。
一方、恭也と美由希は自分たちを見て驚愕したかと思えば黙り込んだフェイトを前に、知らず警戒を強くする。
無言で佇む三人であったが、不意にフェイトがおずおずといった感じで話し出す。

「あ、あの、高町恭也さんと美由希さんですよね。高町なのはの兄弟の」

「なのはを知っているんですか?」

なのはの名前を出したのは失敗だったかと二人の警戒が強くなったのを見て思いつつ、
フェイトはようやく違和感の正体に気付いていた。二人が自分の知る姿よりも若いのだ。
美由希は自分と同じぐらいの年恰好、丁度、なのはと出会った頃のように。

「ここは海鳴ですよね」

再度の問い掛けに頷く恭也。
さりげなく美由希は後ろに下がり、万が一に備えるように腕を下ろす。
明らかに警戒されているのを感じつつ、フェイトはまさかという思いを抱きつつも尋ねる。

「もしかして、なのはは小学生ですか?」

「そうだが。貴女は一体誰なんですか?」

「……未来から来たと言ったら信じてくれますか?」

少し逡巡したが、嘘はやめた方が良いだろうと判断してそう切り出す。
これで頭を疑われるかとも思ったが仕方ないと。

「俄かには信じられませんね」

「ですよね」

今がいつなのかは分からないが、既に自分となのはが出会った後ならと期待し、

「私の名前はフェイトと言います。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。この名前に聞き覚えはありませんか?」

少し期待して名乗ってみるも、二人は揃って首を横に振る。
だとするなら、まだ出会う前の過去という事になる。
益々自分が怪しくないと証明できなくなり、フェイトも困ったように視線をさ迷わせる。
ここは謝罪の一つでもして逃げる事になるがこの場を去るべきかと悩む。
だが、既に名乗ってしまった事を思い出し、失敗したなと思い悩んでしまう。
見るからに怪しい人物を逃がしてくれるかという問題もあり、最悪、魔法を使うかと少し混乱した頭で考える。
が、それを止めるかのように待機モードに移行していたバルディッシュが声を上げる。
フェイトが止める間もなく、念話ではなく声を出すという行動に出たバルディッシュにフェイトは焦るが、
言われた内容に思わず恭也たちの事も忘れてバルディッシュに詰め寄ってしまった。

「どういうこと!?」

【ですから、管理局との連絡が未だに付きません】

「やっぱり管理外世界だから?」

【いえ、それ所か管理局へと呼びかけているのですが、それが全く届いている気配もありません】

「どういう事?」

【幾ら管理局が把握していない世界とは言え、いえ、寧ろだからこそ、
 管理局へと向けてあらゆる手段で通信を行っても連絡がないのは可笑しいです】

訳が分からないという顔をするフェイトであったが、恭也たちはそれに環を掛けた困惑顔を向けてくる。
それはそうだろう。いきなり宝石が喋ったかと思ったら、自分たちには分からない事を話し合っているのだから。

「って、どうして念話じゃなくて話し掛けてきたの」

今更ながらにそれを思い出してフェイトが問い質せば、

【現状、原因不明で放り出された形となっています。
 ここが過去なのかどうかはこの際置いておくとして、どちらにせよ何らかの打開策を取る必要が出てきます。
 が、その場合、ここにはマスターが頼れる者は誰もいません。
 故に……】

言ってバルディッシュが言葉を止める。
まるで自分たちが見つめられているようなものを感じ、恭也は何となくバルディッシュの考えが読めた気がした。

「未来から来たのが仮に本当だとした場合、元の時代に戻る手段が見つかるまでの衣食住に関する問題か」

【はい、その通りです。我々には他に縋る者も居ないというのが現状です。
 こちら側の事情は、他の者たちに説明はできません。
 ですが、未来において係りになるあなた方になら多少の説明はしても問題ないと独断しました。
 それ故に念話ではなく、こうして音声を出力する形を取った次第です、マスター】

迷惑を掛けるのは良くないと考えるフェイトにとってバルディッシュの発言は居心地が悪いものであった。
自分から言い出した事ではないにしろ、その言い分も一理あると思った事もあり余計に。

「未来から来たのだとして、君たちが今こうして俺や美由希と会った事により既に過去は変わったんじゃないのか」

【その可能性も否定できません。ですが、我々に他の手段がないのも確かです。
 未だに管理局との連絡もつかず、この世界において我々が居るべき場所は何処にもありません】

後の判断は任せると黙り込むバルディッシュに、恭也は小さく嘆息する。

「……未来において知り合っているのだとしたら、俺たち家族の性格もある程度分かっているのだろうな」

【はい。すみません】

素直に答えるバルディッシュを軽く見詰め、恭也は美由希へと視線を向ける。
こちらは既に笑顔を見せており、恭也が何を言うのか分かった上で賛成という事だろう。
恭也は今一度嘆息を漏らすと、

「とりあえず家に来るか? 流石にこんな夜中に女性を一人にするのも何だしな」

「良いんですか?」

「ああ。家族には明日の朝にでも説明するとして、その前にもう少しだけ詳しい話を聞かせてくれ。
 それと確認の為に聞いておくが、俺の家族に危害を加えるような事は」

「絶対にありません!」

思わず声を荒げてしまい恥ずかしげに俯くも、視線は逸らさずに見詰め返す。
暫し無言で見詰め合い、恭也は未だに地面に座り込んでいるフェイトへと手を差し出す。

「なら良い。知っているようだが、俺は高町恭也。そして、向こうに居るのが」

「高町美由希です。フェイトさん、で良いのかな?」

「えっと、その……はい」

未来では自分の方が年が下でちゃん付けで呼ばれていたために何とも言えない表情になるも、
だからと言って自分からちゃんと呼んでくれというのも可笑しな気がして暫く考えるも頷いておく。
恭也の手を借りてどうにか立ち上がり、改めてフェイトは二人に頭を下げるのだった。



高町家へと場所を移したのは良かったのだが、自分の知る高町家とは少し違う内装に思わず部屋を見渡してしまう。
そんなフェイトに苦笑しつつ、恭也と美由希はフェイトの対面に腰を下ろす。
こうしてフェイトの口から語られる事実に、改めて驚きつつ恭也は内心で読み違えた事を後悔する。
いざとなれば自分と美由希で押さえつけるつもりでいたが、フェイトから聞いた魔法の話が本当なら、
そう簡単にはいかないだろうと。もし、家族を傷付けるのが本当の目的だったとしたら、これは完全な失態である。
こうしてある程度話した今だからこそ、そんなつもりは本当にないのだろうと思えるが、
あの時点でもう少し話をしておくべきだったと反省する。
フェイトを見た時、何らかの戦闘訓練を受けているというのは分かったし、
その腕前も相当なものだと感じ取る事は出来た。
だが、それはあくまでも体術のみで魔法などというものを考えもしなかったのだ。
仕方ないとも言えるかもしれないが、目の前でバルディッシュという特殊な物を見ていたのだから、
もっと警戒するべきであったと。勿論、そんな事をおくびにも出さずフェイトの話を聞く。
その過程でフェイトが今の時代を正確に知るためにこちらの事情も話して聞かせたのだが、
それを聞いてフェイトだけでなく、バルディッシュの様子も可笑しくなる。

「士郎さんがいない? え、だって……」

顔色を若干蒼くさせるフェイトに話を聞けば、フェイトの知るなのはには父士郎が居たという事。
逆にこれには恭也たちの方が驚きを隠せず、互いに知っている交友関係を口にする。
結果、こちらとフェイトの知る世界とでは微妙に違いがある事に気付く。
特に恭也はアリサという名前に何とも言えない顔を見せるが、
とりあえずそれを隠すようにバルディッシュに視線を落とし、

「どういう事だと思いますか?」

【あまり考えたくはありませんが、別次元世界という物かと】

「別次元世界? だってそれは存在しないって……」

【ですが、現にこうして存在しています。確かに世界は無数に存在しますが、そこには同一別存在は存在しません。
 同様に同じような歴史を持つ世界もです。故に俗に言われるパラレルワールドはその存在をフィクションとされ、
 誰一人として真剣に研究するような者も居ませんでした。ですが、現状を見る限り……】

「まだ発見されていない管理外世界という可能性は?」

【それはかなり低い確率です。寧ろ、別次元世界だとした方が納得できます。
 こちらの次元では管理局が存在しないからこそ、幾ら通信を投げても返答がない】

「……だとしたら、私たちが戻れる方法は?」

【全く不明です。この世界に次元世界を渡る何らかの方法や道具があるのかどうか。
 可能性としてあげるのならば、あのロストロギアが原因でしょうから、あちら側からの救出待ちです。
 こちらの可能性の方が高いと思います。尤もロストロギアの使用許可が出るのかどうか、という問題もありますが】

はっきりと言うバルディッシュの言葉にフェイトは何とも言えない表情で肩を落とす。
それは傍で見ていても可哀相なぐらいで、美由希は掛ける言葉もなく困ったように恭也を見る。
美由希からの視線に気付きつつ、だからといって掛ける言葉がないのは恭也も同じで、結局は無難な事を口にする。

「とりあえず、家に居てくれて構わないから。
 その間に何か帰れる方法がないか探すというのでどうだろうか。
 後はそうだな、手伝える事があれば手伝おう」

項垂れていたフェイトであるが、自分を心配して言ってくれた言葉に応えるだけの気力はどうにかまだあり、
恭也の提案に何とか礼を述べる事はできた。
とは言え、やはりその顔色は先程よりも悪く、目の力も若干弱々しい。

「とりあえず、今日は美由希の部屋で寝てください。
 まずは体力の回復が第一です。疲れていては良い考えも浮かばないでしょうし。
 とりあえず、シャワーでも浴びてはどうですか? 美由希、後は頼む」

「あ、うん、分かった。えっと着替えは……私ので良いかな?
 下着は確か新しいのがあったと思うし」

力なく座り込むフェイトを気遣い、恭也と美由希は今日の所は休ませる為に動く。
それをぼんやりと眺めながら、フェイトは迷子の幼子のようにただその場に佇むのであった。



迷子のフェイトちゃん







今回は恭也じゃなくてフェイトを迷子にしてみたり。

美姫 「しかも、簡単には戻れそうもない状況よね」

可能性として一番高いのは、向こう側からのアプローチだろうな。

美姫 「あのロストロギアによる帰還ね」

そういう事だね。って、思わず後書きのように解説してしまったが、あくまでも一発ネタだから。

美姫 「はいはい、分かっているわよ」

うーん、しかし可笑しいな。フェイト分不足を補うべく、恭フェイを書くつもりだったのに。
まるで、その為のプロローグに。

美姫 「書く内容が変わるなんていつもの事じゃない」

いやいや、そんな事はないから。

美姫 「そうだったかしら?」

そうだよ。そうコロコロ変わる訳……ないよね?

美姫 「そこで言い切れないのが、浩クオリティーね」

はっはっは。

美姫 「いつもの如く、褒めてないからね」

ですよね!

美姫 「さて、もう少しアンタを弄りたい所だけれど」

俺は弄られたくないよ!

美姫 「そろそろ時間みたいね」

うん、それは大変嬉しい事だ。

美姫 「ほら、さっさと締めなさい!」

ぶべらっ! えー! 今の何で!?

美姫 「うん、何となく」

ひ、ひでぇっ! 折角、今日は殴られずに済むかと思ったのに! ぶべらっ! な、何故に?

美姫 「いや、さっさと締めないから」

うぅぅ、横暴だ……。

美姫 「もう一発ぐらいいっとく?」

激しく遠慮します。コホン……。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


5月28日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、初っ端からクライマックスだぜ、とお届け中!>



いやー、まさかまさかの巻き。

美姫 「始まっていきなり既に時間が後僅かってどうなのかしら」

そんな切羽詰まった状態で今週はスタートするという。

美姫 「と言うよりも、これもまたアンタがやろうと言い出したんじゃ」

ほら、いつも終わりの方で時間がないとあるだろう。
だから、それを冒頭でやってみようかという斬新な試み!

美姫 「単に急かされる状況になるだけでしょうが!」

ぶべらっ!

美姫 「そんな訳で、早速だけれどCMで〜す」







世は戦国時代。
数多の武将が全国を制覇せんと他国へと侵攻を繰り返していたまさに群雄割拠の時代。
そんな時代の中、陸から少し離れた所にある小さな孤島もまた、その侵攻の対象となっていた。
それは、その所在地があらゆる国へと攻め入るのに重要な拠点として位置していたからである。
当初、その孤島を攻め入った国はすぐにでもその国を落とせると考えていた。
それもそのはずで、その孤島はこれまで、争いに参加した事もなく、また人口も少なかったからである。
しかし、その孤島を治める一人の当主によって、その予想は覆される事になる。
まだ年若いながらも戦略、戦術にかなり優れ、幾度の侵攻も全て退けていた。
いつしかこの当主を中心とした島民達が守るこの孤島は、難攻不落の島と呼ばれようになった。

これから紐解く物語は、そんな孤島の当主の戦いの記録である。



「うぅぅ、もう嫌だー!」

「殿、そのような我侭を仰らないで」

難攻不落と歌われる孤島、当主の名を取り神楽島と呼ばれる島にある城の一角。
そこではこの国の主たる少年が年老いた男を前に駄々を捏ねていた。
年老いた男の名は新羅鉄斎。当主に名は神楽燃煌(ぜんこう)という。
諸国が見れば驚くような光景であろう。
幾度となく強国に攻められては全てを追い払い、政治の手腕においてもその才を遺憾なく発揮する当主が、
まるで幼子のように地面へと座り込んで駄々を捏ねているのだから。
だが、鉄斎は呆れたような表情をしつつもいつもの事と慣れた様子で燃煌が手放した木刀を拾い上げる。
そんな稽古の様子を窺っていた、急死を迎えた先代より仕え、
教育係をも務める高千穂羽宗(たかちほわしゅう)は嘆かわしいと空を仰ぐ。

「先代亡き今、私がしっかりと殿を鍛えねば」

一人、既に何十、何百度目にもなる誓いを新たに殿を嗜めるべく足を踏み出す。
が、それよりも早く燃煌へと近付く影が一つ。見事な黒髪を一つに束ねた少女である。
少女は燃煌へと近付くと懐より手ぬぐいを取り出して燃煌の僅かに汚れた顔を拭う。

「兄上、お顔が」

「ああ、日和ありがとう」

「いえ。それよりも師匠、何故兄上を虐めになるのですか」

「はぁ、日和。いつも言うておるが虐めているのではない。
 これはれっきとした訓練じゃ」

「ですが、兄上が嫌がっているではありませんか!
 兄上は戦場に立つ必要などないのです! 兄上の敵はわたしの敵。
 全ての敵はこれまで同様、このわたしが蹴散らしてみせましょう!」

難攻不落の島、神楽島。
そこには優れた君主に仕える無敗の武将あり。
守護神として島民から崇められ、敵からは戦姫と恐れられる当主の妹にして姫君。
その武は並ぶ者なしと称えられる程で、刀は元より、槍に弓、馬術までと、こと戦闘に関する事は右に出る者なし。
これが、この島が難攻不落と言われる所以であり、当主の力は全く関係ないという事はここに居る者以外誰も知らない。
そう、城の者は元より島民たちでさえも。



「殿、ですから先日の台風の影響で田畑に尋常な被害が出ていると申しているでは……」

「だから、そんな事を言われても分からないよ。千草はどうしたら良いと思う?」

「そうですね。荒れた地をすぐさま元に戻すなどは出来ません。
 幸い、備蓄に関しては以前より城にしっかりと保管しておりますから、これを民に配るという方向で。
 田畑の修繕を急がせる為にも、兵を少し割いてそちらに回しましょう。
 丁度、西の林の開拓も一段落しましたし、その兵をそのまま回せば人員も問題ないかと。
 それとは別に先日同盟を結んだ国に使者を派遣し……」

燃煌に尋ねられた千草が問題の解決法を挙げていく。
それに嬉しそうに頷き、燃煌は千草が全て言い終えると頭を撫でてやる。

「持つべきものは賢い妹だな。ありがとう、千草のお蔭で助かるよ」

「そんな。兄様の役に立てたのなら、わたくしとしても嬉しい限りです」

仲睦まじい兄弟の様子に、羽宗は和むどころか先代へと申し訳ないと呟くばかりである。

内政、外交においても小国でありながら大国とさえ渡りあると言われる神楽島。
そこには優れた君主に仕える優れた智将あり。
智謀に優れ、状況に応じて臨機応変に策を授け、少兵をもって多兵を打ち破る。
その戦術戦略眼は常に何十手先をも見通し、先を読む先姫と呼ばれる姫君。
これが、この島が難攻不落と言われる所以であり、当主の力は全く関係ないという事はここに居る者以外誰も知らない。
そう、城の者は元より島民たちでさえも。



「兄君、新たな情報を持って帰って来ました」

「ありがとう、月乃。それは千草に渡しておいて」

「既に。今頃、千草は策を練っているかと思います」

「そうか。流石月乃は仕事が早いね。いつも月乃の情報には助けられているよ」

「そんな事は。あ、あの……」

何か言いたそうにもじもじと見詰めてくる月乃に、燃煌は笑みを見せるとその頭を撫でてやる。
それに相好を崩す月乃を見て、羽宗は人知れず溜め息を吐くのだった。

陸から孤立した小島でありながら、その情報収集能力は大陸の北から南まで網羅するとまで言われる神楽島。
そこには優れた君主に仕える闇に潜みし乱波あり。
決して表に出ることはないがその隠密性、情報収集能力において噂される影の武将。
攪乱や暗殺を得意とし、戦場に置いて気付けば大将の首が討ち取られていたという事もしばしば。
姿を見る事さえないその存在は敵を大いに恐怖へと落とし入れ、いつしか影姫と呼ばれる姫君。
これが、この島が難攻不落と言われる所以であり、当主の力は全く関係ないという事はここに居る者以外誰も知らない。
そう、城の者は元より島民たちでさえも。



兄の為に力を奮う三人の姫君たち。
後にこの事実が判明した際、その出来合いっぷりから三人の名前を元に一つの漢字が作られる異なる。
日、草、月、すなわち『萌』である。が、これはまた後世の話であり、今の三人には頭を抱える問題があった。
それは――



「やはり兄上の身辺が不安だ」

「千草姉様の仰る通りですね。わたくしたちで戦場、内政、外交に情報と担当しても……」

「肝心の兄君に何かあったらどうしよう」

「とは言え、身辺警護出来るほど頼れる武将も少ないしな」

そう、大事な兄であり当主の燃煌の身の安全についてである。
が、これはそう長くない先で解決する事となる。
突然、城に落ちてきた全身黒尽くめの異世界から来たと可笑しな事を言う青年の出現によって。

頭を取れば陥落するのではないかと思われる程に当主の力で持っていると言われる神楽島。
そこには優れた君主を守る護衛あり。
表からも影からも常に君主の傍に居て、その身を守る絶対なる楯の武将。
一度たりとも彼の守護を打ち破る事は出来ず、不破と呼ばれる一人の男。
これが、この島が難攻不落と言われる所以であり、当主の力は全く関係ないという事はここに居る者以外誰も知らない。
そう、城の者は元より島民たちでさえも。







昔、Kと練った事のあるネタをちょっと改良したCMでした。

美姫 「その始まりは萌という語源が実は……みたいな感じで出来たのよね」

うーん、懐かしいネタだ。
ふと整理していて見つけたので今回使ってみた。

美姫 「さて、CMネタはここまでにして、何かお知らせがあるのよね」

ああ。来週の火曜日、6月1日はちょっと更新できません

美姫 「サーバーのメンテナンスの兼ね合いで、閲覧は出来るけれど更新などが出来ないみたいね」

という訳です。何でも最近出てきたウイルス用の対策をするみたいで。

美姫 「という訳です。さて、それじゃあ今週はここまでかしら」

だな。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


5月21日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、寒いかと思えば暑い、とお送り中!>



うーん、肩が。

美姫 「肩こり?」

そうなのか。肩こりかどうかは分からないが、つったように痛いんだよな。
なんだろう、これ。

美姫 「だから肩こりじゃないの?」

ぬぬ。常日頃からの溜まりに溜まったストレスが肩に現れているだけかもしれないだろう。

美姫 「ストレス? 誰が? どうして?」

そりゃあ、毎日のように意味もなくぶっ飛ばされていればストレスの一つぐらい――ぶべらっ!
い、言っているそばから……。

美姫 「意味なくなんて失礼ね。アンタが悪い時だけでしょうが」

いやいや、その善悪の判断もお前次第だよな、毎回!

美姫 「私が正義!」

それだ! それ! それが俺のストレスに――ぶべらっ!

美姫 「私だって辛いのよ。よよよ」

今、目の前で堂々と目薬差してるし!

美姫 「これは単に目が疲れたからよ」

嘘だー! ぶべらっ!

美姫 「失礼ね。少しは信じなさいよ。よよよ」

って、また差した! と言うか、隠す気なし!?

美姫 「さて、私もストレスが溜まっている事だし解消させてもらおうかしら」

言いながら、どうして俺に近付く!?
そして、何故無言のままに剣を抜く!

美姫 「さあ、今日はいつもよりも二割り増しで吹っ飛べ!」

ぶべらぼげぇっ!
それでも地球は回ってるー!

美姫 「それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」







それは偶然が齎した一つの出会い。
けれど、それは一つの運命が大きく変わる可能性を含んでいた。

「高町なのはです」

「こりゃあ、ご丁寧にどうも。うちは八神はやて言います」

「はやてちゃん、で良い?」

「ええよ。うちもなのはちゃんって呼んでも良い?」

同じ年頃の二人の少女が向かい合い、やや遠慮がちに名乗り合う。
それが済むと、もう友達だとばかりに笑い合いながら話し出す二人を見ていた周りの者たちが胸を撫で下ろす。
外では蝉が忙しなく鳴いており、冷房の効いた部屋からでも外の暑さが窺えるぐらい、
庭の草木から陽炎のようなものが立ち昇っている。
楽しそうに笑うはやてを嬉しそうに眺めながら、ポニーテールの女性が隣に座っていた青年、恭也へと話し掛ける。

「恭也、感謝する。主はやてが本当に楽しそうだ」

「そうか、なら良かった。うちの妹も新しい友達が出来て喜んでいるみたいだしな。
 こちらこそ感謝するシグナム」

大人二人がそんな風に話している、なのはとはやての会話に髪をみつあみにした、
これまたなのはたちと同じ年ぐらいの少女ヴィータが加わっていた。
その足元では大型犬が昼寝でもしているのか、目を閉じて丸まっている。
何処にでもありそうな光景に目を細め、今この家にいる最後の一人が恭也とシグナムの前に冷えた麦茶を置く。

「本当に楽しそうですね、はやてちゃん」

「ああ、本当に喜ばしい」

新たに現れたショートカットの女性手には盆があり、そこにはグラスに入った、こちらはジュースが乗っていた。
それがはやてたちの分である事はすぐに察しが付き、

「シャマル、主はやてたちにも早く飲み物を。
 ああ、ただし慌てすぎて転ぶなよ」

シグナムの言葉に拗ねたような、怒ったような返事をしてシャマルと呼ばれた女性ははやてたちの元へと向かう。
その途中、あまりにも足元を気にしすぎて持っていた盆を少し傾けてしまうというハプニングはあったものの、
何とか無事にはやてたちに飲み物を届け、胸を撫で下ろして恭也たちの元へとやってくる。
その顔がどこかばつが悪そうなのは、呆れたような眼差しを向けてくるシグナムが居るからだろうか。
すっかり仲良くなったなのはたちを見守るように見詰めながら、恭也は何となしに思い返す。
自分とはやてが出会った日の事を。



その日、恭也は桃子の命令となのはの懇願により渋々ながらも病院へと向かっていた。
ここ最近、顔を出していない事が主治医のフィリスからレンに伝わり、そこから家族全員の知る所となったからだ。
別段、病院が嫌いなのではない。
自身が抱える膝の問題もよく理解しているし、行かなければいけない事も承知している。
だが、自分が通う病院はかなり大きな病院で、市内だけでなく遠くからわざわざやって来る人がいるぐらいなのだ。
当然、その規模に応じるかのように、それなりの時間待つ必要が出てくる。
その待ち時間を勿体無いと感じてしまうのである。
そんな時間があれば、ここ最近、急に力を付けつつある美由希の為にも少しでも鍛錬をしたいと思ってしまうのだ。
結果として長期休みに入ったにも関わらず、鍛錬漬けの毎日となり、病院からは足が遠のいていた。
医者の立場からすれば、それこそ何を考えているのかと言いたくなるだろう。
爆弾を抱えているが故に、口を酸っぱくして通院を勧めているというのに、
その負担になるような鍛錬ばかりに掛かり切りになっているのだから。
そういう訳で、フィリスとしては最終手段を取るべく、レンから桃子、なのはにも伝わるように手配したのだ。
その効果は言うまでもないだろう。
恭也が大きな怪我をしていないにも関わらず、誰かに引っ張られる事無く自分で病院へと来たのだから。
恭也は桃子となのはに言い包められた事を思い返しつつ、
そのやり切れない気持ちを弟子へと八つ当たりするべく鍛錬メニューに思案しながら病院の敷地に足を踏み入れる。
少し歩いていくと正面に病棟が見え、そこで恭也は一人の少女が困っているのを見掛けた。

「うーん、どうしよう。シグナムは石田先生に呼ばれておれへんし、うちがここにおる事も知らんやろうし」

「どうかされましたか?」

「へ?」

恭也が声を掛けると、驚いたように車椅子に座った少女が振り返る。
それが八神はやてと高町恭也の最初の出会いであった。
話を聞けば連れと一緒に来たらしく、その連れが今は主治医と話をしているらしい。
本来は病院の中で待っていたのだが、冷房の効きの良さから少し外へと出たらしい。
そして、そろそろ戻ろうかと思って車椅子を押してここまで来た所で途方に暮れてしまったという訳だ。
はやての目の前、車椅子用に設置されている緩やかなスロープ。
だが、その途中に恐らく子供が遊んでいたのか、それなりの太さのある木の棒が捨てられたいた。

「なるほど。ちょっと失礼」

状況を理解し、恭也はそう断りを入れるとはやての背後に立って車椅子に手を置く。

「ああ、ええですええです。そんなご迷惑……」

「迷惑なんて事はありませんよ。
 それに俺も病院に用があって来ているので、言葉は悪いですが次いでのようなものです」

「ありがとうございます。なら、お言葉に甘えさせて頂きます」

居候の一人と同じ訛りで話す少女に再度気にするなと返し、恭也は棒を退けて車椅子を押す。

「それにしても、子供がやったにしろ大人が注意しないといけないだろうに」

「あははは、子供は元気なんが一番やから。
 それにそのお蔭でこうして親切な人にも出会えたし」

朗らかに笑う少女に恭也も自然と温かな気持ちになりながら、病院の中に入っても車椅子を押す。
はやてがもう良いというのを押し退け、恭也ははやてが諦めて口にした場所まで押して行く。
と、その途中で慌てた様子でこちらへと掛けて来る女性を見掛け、

「もしかして、知り合いの人だったりしますか?」

「ああ、シグナムや。シグナム〜」

「主はやて! ご無事でしたか!」

明らかにほっとした様子で近付き、警戒した様子で恭也を見遣る。
当然の反応だなと恭也は思うのだが、はやてはそうではなかったらしく、軽く嗜めるように言う。

「あかんよ、シグナム。そんなに睨んだら。
 この人は親切に困ってたうちを助けてくれたんやから」

「すみません、主はやて。そちらの御仁も申し訳ない」

「いえ、気にしてませんよ。
 話を聞くに何も言わずに居なくなった家族の安否を気にする側としては当然の反応でしょうし」

「重ね重ねかたじけない。それと、主はやてが世話になったようで感謝する」

「大した事はしてませんけれどね。それじゃあ、俺はここで」

「ありがとうございます。えっと……。ああ、ごめんなさい。
 助けてもらっときながら、名前をまだ聞いてませんでした。
 うちは八神はやて言います。で、こっちが……」

「シグナムだ」

「高町恭也です」

「恭也さん、ありがとうございました」

礼を言いなおすはやてと無言ながらも頭を下げるシグナムに軽く言葉を返し、恭也は踵を返す。
恭也にして見れば大した事のない行動であり、特にどうよいう事のない出来事だったのだが、
その数日後、駅前で偶然にもシャマルと一緒にいたはやてと出会う事となり、向こうから声を掛けられたのだ。
改めてまた礼を言ってくる二人にやや照れつつも返し、
偶然にも行き先が同じ駅ビルの本屋という事もあって一緒に向かったのが切欠となり、

「盆栽? 恭也さんは盆栽してはるん」

「ああ。可笑しいか?」

「うーん、どうやろう。恭也さんの年齢で盆栽は珍しいとは思うけれど。
 と言うか、月刊盆栽の友って何やねん!
 あかん、うちも色んな本を読んできたけれど、まさかそんなもんがあるとは」

「ふっ、書籍の世界ははやてちゃんが思っているよりも広いんですよ」

「そうかー、うちもまだまだやな〜。って、恭也さんが威張る事と違うやん!」

などと言う会話を始めとして、その日の内にそれなりに親しくなったのである。
家もそんなに離れていない事もあり、時々街中でもはやてと会う事もあってすっかり仲良くなったのである。
その中ではやての現状を知り、同年代の友達が居ないと聞いた恭也は今日、なのはを連れて八神家を訪れたのだ。
持参したアイスが良かったのか、すっかりヴィータとなのはも仲良くやっているようである。
まあ、どちらかと言うと突っ掛かっていくヴィータをなのはが受け流しているようにも見えなくもないが。

「あ、そうや。恭也さん、今日は夕飯うちで食べていってくれるんやろう」

「ああ、図々しいがはやてちゃんの申し出を受けてそのつもりだが」

「そうか、そうか。なら良かった。予定が変わったとか言われたらどうしようかと思ったわ。
 結構な量、買い込んだからな。期待しててや」

「凄いね、はやてちゃん料理できるんだ」

「ああ、はやての料理はギガうまだぞ! 驚いて腰抜かすなよ」

「どうしてヴィータちゃんが自慢するのかは分からないけれど期待してるね」

「うわー、あかんプレッシャーかけんといてや、なのはちゃん」

「ううん、期待しちゃうよ。シグナムさんやシャマルさんも一緒にお料理するの?」

客が来ると嬉しそうに料理する家の二人を思い出し、特に何も思わずに言ったなのはの言葉に八神家の動きが止まる。

「……高町なのは、正気か?」

「お前、よくそんな怖い事を平然と口に出来るな」

「って、シグナムにヴィータちゃん、二人とも酷くない!?」

「えっと、もしかしてシャマルさんって」

「あ、あははは〜。まあ、シャマルも頑張ってるからな。
 まだ日が浅いだけでいつかきっと、な」

「はやてちゃん……。ありがとうございます。私、頑張りますから」

「うんうん、その意気やで。でも、今日は折角のお客さんやし、うちが一人でやるからな」

「ガーン、はやてちゃんまで……」

「ああ、落ち込まんといてシャマル。ほら、初めてのお客さんやからうちの腕を振るいたいんよ。
 でも、お手伝いは頼むから、な。」

「そういう事ですか。なら喜んで手伝いますね」

続くはやての言葉にすぐに立ち直ったシャマルであったが、目を細めて釘を刺すヴィータ。

「手伝うのは良いけれど、ぜってぇーに味付けはするなよ」

ヴィータの言葉に怯むシャマルに、シグナムは無言のまま頷いてヴィータの味方をする。
それを見て再度肩を落とすシャマルをはやてがフォローするのを見ながら、

「そこまで言うほど酷いんですか?」

「酷いと言うか、最近は見た目はまともなのだが味がな」

「塩と砂糖を間違えたり、微妙にこう変な味付けになるんだよな」

「それぐらいなら問題ないんじゃ」

「バカか、おめぇー」

「ヴィータ、言葉使い」

恭也の言葉に呆れたように呟いたヴィータであったが、はやてに窘められてはやてに謝ると、もう一度言い直す。

「おバカでしょうか、恭の字」

「大して変わっていないような気がするが、その点はまあ良いでしょう。
 で、何がですか」

「シャマルの料理ははっきり言って微妙なんだよ。美味くもないし、かと言って不味いと吐き捨てる程でもない。
 こう、なんて言うかやるせないというか……」

「うぅぅ、はやてちゃん、ヴィータちゃんが虐める」

「ああ、よしよし」

はやての足に縋るシャマルの頭をとりあえず撫でるはやて。
それを見ながら、今度は恭也が言う。

「しかし、食べれるだけましでしょう。勿論、美味しい方が良いにこした事はありませんが。
 聞く限り美由希よりはましみたいですし、上達もしているのでしょう。なあ、なのは」

「あ、あははは。お姉ちゃんも一応、上達しているみたいだけれど」

「あいつの場合、可笑しな方向へと上達しているような気がするんだがな。
 せめて教本どおりに作れるようになってからアレンジして欲しいと思うんだが、どう思う?」

「えっと……」

恭也の言葉になのはははっきりと口にはせず、言葉を濁したまま視線だけをキョロキョロとさ迷わせる。
それを見て、逆に興味を覚えたのかはやてたちが恭也となのを見て、シャマルは期待するような眼差しを向ける。

「ちなみにどれぐらいに腕前なんですか、その美由希さんという方は」

「あー、ここ数年、俺は色々な事に巻き込まれましてね」

突然、料理とは関係のない話にきょとんとするも、全員が恭也の話に耳を傾ける。

「前に簡単に話しましたが、俺は剣術をやってましてその関係でちょっとした事件に遭遇したりしたんです」

「そう言えば、色々とあったね、お兄ちゃん」

「そうだな。それこそ、全身凶器といったモノと闘ったり、
 一撃で黒焦げになるような攻撃を放つモノとやりあったり、つい最近では本当に信じられないような事件にまで」

「にゃ、にゃははは。よく無事だったね」

多少言葉を濁しつつも語られた言葉に、恭也と剣を合わせた事のあるシグナムは特に興味を抱いた様子を見せる。

「幸い、どれも辛うじて大怪我だけは避けれたのは幸いだった」

「聞いていると、本当にとんでもない目にあってたんだな恭の字。
 で、それと料理と何の関係があるんだ?」

詳しく聞きたそうにしていたシグナムを無視し、ヴィータは肝心な事を聞こうとする。
それを受け、恭也も詳しく話をするつもりはなかったのか、あっさりと話を戻す。

「唯一、ここ数年の内で俺が長期、一ヶ月ぐらい入院した事件があってな」

「だから、それが……って、おい、まさか」

「ああ、それが美由希の料理を食べた時だ。
 本当にあれは危なかった」

「突然倒れたと思ったら、顔色が赤くなって、すぐに蒼くなったもんね。
 口から泡も出ていたし。急いで救急車を呼んだよ。
 その後、晶ちゃんとレンちゃんがお姉ちゃんの作った料理を密閉容器に入れて、何重にも袋をして処分してたな〜」

遠い目で語る二人の兄妹は、これまた二人揃ってしみじみとよく生きていたと漏らす。

「それはどんな料理だよ!」

そんな二人に思わずヴィータが突っ込めば、シャマルは自分の料理がそこまで壊滅的じゃない事に胸を撫で下ろす。

「本当にあのバカだけは」

「どうやったら洗剤と油を間違えるんだろうね」

「未だにそれが分からないな。おまけに他にも色々と間違ってくれたみたいだが。
 せめてそれらが食材だったなら、一ヶ月も入院せずに済んだだろうに」

未だに過去を思い出して語る恭也となのはに、
はやてはシャマルはそうならないようにしっかりと教育しようと誓うのだった。



何事もなく平穏に続くかと思われた日常。
だが、いつだって世界は優しいだけではなく、その牙がはやてに剥かれる。

「闇の書からの侵食?」

「それがはやての命を奪うってのかよ!」

「落ち着いてヴィータちゃん」

突然倒れて入院したはやて。原因不明と診察されたものの、シャマル独自の診察でその原因が判明する。
闇の書と呼ばれる、はやてとシグナムたちを出会わせた一つの書物。
それが原因であるという事。そして、このままだとはやての命がなくなるという事も。
治すには書の蒐集という作業が必要となり、それをはやてが認めていないというジレンマに襲われつつ、
シグナムたちは一つの結論を下す。それははやてを救うという彼女たちからすれば当然の答えであった。

「恭也さんは兎も角、なのはちゃんはかなり大きな魔力を持っていたけれど……」

「流石に主はやての友に手を出すのは気が引けるが」

「けっ、別になのはの魔力なんて蒐集しなくてもその分、他で蒐集すれば良いじゃねぇか」

「しかし、彼女たちなら頼めば蒐集させてくれるかもしれないぞ」

「それはいざという時の手段にしておきましょう」

「そうだな。まずは出来る事からしていこう」

四人はデバイスと呼ばれる魔導師の杖を掲げ、その元に宣言をする。
何があろうともはやての命を助けるという一つの誓いを。



リリカル恭也&なのはA's IF 〜もう一つの物語〜







昼間はかなり暑くなってきたけれど、まだ夕方頃になる冷え込む時があるよな。

美姫 「そうかしら。ここ最近は結構、暖かいとおもうわよ」

かな。うーん、そうでもないと思ったが。
どちらにせよ、着る物に困るな。

美姫 「言われてみれば、外を見るだけでも結構バラバラよね」

半袖の人も居れば、二、三枚着ている人も居るだろう。

美姫 「でも、結構、薄着にはなって来たんじゃないかしら」

だな。少し前はまだ厚着っていうのをよく見たからな。

美姫 「そろそろ梅雨も近付いてきたしね」

うーん、梅雨でじめじめするのか。
もしかしたら、今年の梅雨は雨で気温が下がったりして寒く感じたりするかもな。

美姫 「アンタはじめじめするよりも喜びそうよね」

まあな。しかし、もう梅雨の話をするぐらいになったか。

美姫 「本当よね。つい最近まで冬って感じがしていただけに余計にね」

確かにな。まあ、梅雨だろうが寒かろうが頑張っていきましょう!

美姫 「口だけじゃなく態度でも見せて欲しいわね」

ぐっ。

美姫 「はいはい、それじゃあ時間も良い感じだし、この辺で締めましょう」

へ〜い。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


5月14日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、本当に五月? とお届け中!>



さて、気候などの話から入ってばかりだから、違う事からと思ったんだが。

美姫 「逆にこの状況でそこを突っ込んでおかないと負けかもという気持ちから」

今日も今日とて、やっちゃいます。
という訳で、いやいや幾ら何でも寒くないか?
去年もこんなだったか?

美姫 「よく覚えていないけれど、違ったように思うわ」

だよな。何か今年は寒いですよね〜。
と言うか、寒いのなら花粉よとぶな!

美姫 「あ、やっぱりそこに行き着くんだ」

当たり前だろう。
俺は寒いのは歓迎なんだから。問題は何よりも花粉に決まっているじゃないか。

美姫 「はいはい。でも、本当に冷えるわよね」

だな。雨が降ったら更に冷え込むかもな。

美姫 「逆に気温が戻るかもしれないわよ」

まあ、どちらにせよ花粉の被害はなくならない……。

美姫 「結局、そこに辿り着くのね」

ははは。

美姫 「それじゃあ、そんな花粉も吹き飛ばすつもりで」

あ、あくまでもつもりなんだ、やっぱり。

美姫 「それはそうよ」

ですよね。

美姫 「寒さも花粉も吹き飛ばし、今週も元気にCMいってみよ〜」







「うーん、どうしようかな〜」

そう頭を抱えて悩んでいるのは海鳴市は藤見町に在住している高町美由希、その人である。
珍しくと言うと失礼かもしれないが、それほどまでに深刻な表情をして一人、美由希は住宅街を歩いていた。
が、ふとその足を止めたかと思うと、キョロキョロと周囲を見渡しだし、

「ここ、どこ?」

自分のいる場所に全く見覚えがないという事態に陥るのであった。
数回、再度自分の周囲を見渡してみるも、やはり見覚えのある光景は何一つなく、
そこまで考え込んでいたかなと自嘲してみせるも、まだまだ余裕の表情で懐へと手を忍ばせる。
昨今の技術に感謝しつつ、自分の居場所を調べようとする美由希。
が、その手がピタリと止まる。
自分はそこまで文明の利器を上手に利用できただろうか、という当たり前の事実に気付き、
分からなければそういう方面では我が家一詳しい末っ子に尋ねれば良いやと再度手を動かす。
動かす、動かす、動かす、のだが肝心の携帯電話が見つからない。
まさかと思いつつも自分の覚えている限りの行動を思い返せば、

「ああ! 机の上に忘れた!」

見事に携帯電話を忘れていると言う事実へと行き当たり、美由希は肩を落として落ち込む。
が、このままではいけないと思い立ち、改めて周囲を見渡して住所の書かれた標識を見つける。

「あ、何だ隣町だ」

見覚えのある町名に胸を撫で下ろし、空を見上げて太陽の位置を確認する。

「家を出たのがお昼を食べた後……、だとすると体の疲労感から今の時間は……で、太陽の位置があそこ。
 今の季節から考えるに、北はあっちになるから……、うん、こっちに行けば帰れる」

と来た方を指差す。
が、その事に突っ込む者は誰もおらず、当の本人は本気で安堵の吐息を漏らしている。
意気揚々とまではいかないものの、これで恭也にバカにされずに済むと幾分か安心した表情で歩き出すのだが、
やはり数歩も行かない内にまた悩み出す。

「うーん、今月は色々と使っちゃったからな」

自身の懐の寒さを嘆きつつ、もう一週間とちょっとと迫った恭也の誕生日に思いを寄せる。

「やっぱりバイトしよう、うん」

何であれ心からのプレゼントであれば喜ぶであろう事は理解しているが、
やはりそれでも更に喜んで欲しいと思うのが恋する乙女心というものよ、と自分で口にする。
それに対して、だったらその相手の誕生日を忘れるか、などという無粋な突っ込みは当然ながらない。
バイトを決めた美由希は帰る足も速く来た道を戻って行く。

「でも、当日まで知られないようにしないといけないし。
 あ、その日までにバイト代がもらえるかどうかの交渉もしないと……」

実は意外と人見知りの気が少々ある美由希さん。
そこまで考えるに至り、徐々に声も覇気も小さくなっていく。
うんうんと頭を捻っている所へ狙ったかのように美由希の足元へと絡む一枚の紙。
特に考えるでもなく足を退けようとして、そこに書かれたバイト募集の文字にそれを拾い上げる。

『バイト募集。体力に自信身のある方求む!
 我こそはと思う方は来る土曜日、午後3時に下記場所まで』

その下に地図と仕事の簡単な内容が書かれていたりするのだが、
美由希の視線はそこまで行かずにある一点に釘付けとなる。

『初回バイト代、希望者には前払い』

この一文を目にした美由希は、自身の体内時計から時間がまだ大丈夫な事を確信し、
次いで場所をすぐさま確認すれば運良くここのすぐ近く。更には履歴書も不要となっている。
ならばとばかりに美由希は駆け足でその場所を目指して走り出す。
これがどこかの店や家なら迷っている現在、辿り着けるのかどうかは怪しかったが、
幸いにしてその場所は美由希も場所だけは知っている。
故に大体の方角も分かっており、それが正しいとばかりに前方に目立つ屋根が見えてきた。
こうして、美由希はバイトの面接に挑む事となる。
集められたのは周囲の家々と比べても広い敷地を持ち、
まるで何かの研究所にも見える球形の天井をした建物を庭に持つ一件の住宅、小石川家。
もしくは小石川研究所。この施設のお蔭で場所もすぐに分かり、
美由希は既に集まっているらしき者たちに混じって集合場所とされていた庭に並ぶ。
それなりに、というよりも五十人近くいる人たちをざっと見渡せば、男性の方が多い。
やはり体力絡みとなると仕方ないかと思いつつ、美由希も体力には自信がある。
負けないとばかりに背筋を伸ばし、面接が始まるのを待つ。
やがて、研究所らしき建物の扉が開き、中から一人の男性が姿を見せる。
年は二十代後半で白衣を身に付けた男性はマイクを手に集まった者たちへと面接の内容を説明する。

「えー、本日はお集まり頂きましてありがとうございます。
 今から皆さんにはある試験を受けて頂きます。ルールは至って簡単。
 あちらにある入り口から入り、ゴールである面接会場まで辿り着いてください。
 それだけです」

白衣の男が指し示す先に、確かに入り口らしきものが見える。
どうやら地下へと続いているらしく、その先は暗くてここからではよく見えない。
試験の内容に首を傾げる者も多くいる中、スタートの合図がされる。
これ以上の説明はもらえないと分かったのか、こぞって入り口へと殺到する者たちの後を眺めながら、
美由希もまた首を傾げつつゆっくりとした足取りで続く。
既に他の人たちの姿が見えなくなった頃、美由希はようやく入り口に辿り着く。
そこには張り紙が貼られており、

『中は迷路になっています。迷った方は試験が終了後に回収しますのでご安心を。
 また中には幾つかの罠も用意していますので、体力、気力、根性で潜り抜けてください。
 ささやかながら、幾つかの武器も至急いたします。この中から一つ、お好きな物をお取りください』

それを呼んで美由希が改めて周囲を見れば、確かに武器らしき物が置かれている。
大分して銃と剣。
勿論、どちらも本物ではなく銃の方はペイント弾なのか、それとも他の何かなのか。
剣の方は剣と言ったが槍であったりチェーンであったりとかなり多岐に渡り用意されている。
その中から美由希は木刀を手に取ると、早速三つに分かれている通路を取りあえず左に進むのだった。



「……っ!」

罠らしき自分の身長よりも大きな玉を脇の通路に入ってやり過ごし、突如空いた床を咄嗟にジャンプして回避し、
先がゴムになっているとは言え、それなりの速さで放たれた矢を木刀で打ち払う。
数々の罠を突破しながら、美由希は呆れたような溜め息を吐く。

「一体、何の試験なんだろう」

前半は複雑に絡まっていた迷路も、後半は殆ど一本道か、最後には合流しているという形になってきており、
寧ろ罠の数がぐんと増えてきた。
ここまで来た者たちも殆どが罠の餌食となったようで、落とし穴の中からこちらを見てくる者や、
体力を使い果たして座り込んでいる者などが見られる。
そんな中を美由希は多少疲労感を感じつつも、足取りに翳りは見えず、黙々と歩いていく。
時折、発動する罠も躱し、木刀で弾きを繰り返し対処していく。

「恭ちゃんの罠よりは結構楽だし、恭ちゃんの地獄のお仕置き用鍛錬コースよりも温いよね。
 ……って言うか、自分で口にして少し悲しくなったのは何でだろう」

何となく出てきたように感じられる――実際は出てきていない――涙をそっと手の甲で拭い、
美由希はゴールを目指して進んでいく。
どうやらもうすぐゴールらしく、人の気配が感じ取れる。
美由希の予想は間違っておらず、それから数分と掛からずに美由希は面接会場へと足を踏み入れる。
その頭上でくす玉が割れ、おめでとうという垂れ幕が落ちて来る。

「えっと……」

「おめでとうございます! 合格です」

「え、でも面接とかは……」

「いやー、貴女の他は皆さん、既にリタイアしていまして」

照れたように笑いながら白衣の男は頭を掻きながらそう言うと、美由希へと手を差し出す。
その手を戸惑いながら握り返し、美由希は改めて尋ねる。

「所で、これって何のバイトなんでしょうか?」

美由希の言葉に男はキョトンとした顔を見せるも、すぐに破顔して寧ろ言いたかったとばかりに拳を握る。

「昨今、数多く起こる犯罪事件。しかし、警察の手も完全とは言い切れない。
 そこで警察に変わって悪を懲らしめる正義の味方が必要なのです!」

言って美由希の顔に突き出される一枚の紙。
そこには赤く大きな文字で、『正義の味方、募集中!』と書かれていた。

「初めはこれを貼るつもりだったんですよ、
 諸々の事情から普通にバイト募集の張り紙になってしまいましたが」

男はそこで一つコホンと咳払いをし、改めて美由希に手を差し出し、胸を張って声高らかに口にする。

「ようこそ、正義の味方のアルバイトへ!」

「……はい?」

そんな男とは打って変わって、美由希は未だによく分からないといった表情で首を傾げるのである。
だが、これこそが後に出現する悪の秘密組織と戦う事となる、アルバイトの正義の味方誕生の瞬間であった。



小娘ソードマスター 〜正義の味方は時給500円〜



「うぅ、このパワード・スーツのデザイン、どうにかなりませんか、のぼるさん」

「美由希さん、軍の戦車が暴走したようです。はりきって出動しましょう」

そんなぼやきもどこ吹く風、開発者たる小石川のぼるは今日も今日とて正義の味方を出動させる。

「うぅぅ、絶対にバイトを間違えた……」

これはそんな一人の少女が正義の為に、時給500円分頑張る物語。

「絶対に時給が割りにあってない!」







さて、気候の話で前半を終えてしまった訳だが。

美姫 「ここ最近は大抵そうよね」

ここらで話を変えなければな。

美姫 「言いつつ来週もやってそうだけれどね」

それこそが俺クオリティー、ぶべらっ!

美姫 「バカな事を言ってないの」

え、え、今、殴られる所だった?

美姫 「突っ込みよ」

……最近、日本語って難しいな〜と実感しています。

美姫 「そう思うのは大事よ」

うぅぅ。嫌味が通じない。ぶべらっ!

美姫 「嫌味だったのね! 酷いわ」

お、おま、お前の方が酷いんじゃ……。

美姫 「あ、時間だわ」

って、都合良すぎるよな!

美姫 「でも本当だもの」

おおう、本当だ。何故だ、神は俺を捨てたか。

美姫 「大げさな。バカな事を言ってないでさっさと締めなさい」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


5月7日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、五月だ皐月だ、とお送り中!>



よくよく考えると、一年の三分の一が過ぎたんだな。

美姫 「しみじみと語っている所を悪いけれど、怪しさ満載よ」

はっはっは。花粉対策だよ。

美姫 「とりあえず、銀行には行かない方が良いわね」

帽子にマスクにサングラス。おおう、改めて自分で見ても怪しいな。
どうりで銀行に行った時にあの警備員がじろじろと見てくるはずだ。

美姫 「行ったの!?」

行ったよ? どうしてだ?

美姫 「心底不思議そうな顔で聞くな! と言うか、さっき自分でも理解したんじゃないの!」

まあな。次からは気を付けよう。

美姫 「そう言えば去年も同じような事を言ってなかった?」

???
一年以上も前の事を覚えていろと。

美姫 「覚えてなさいよ!」

ぶべらっ!

美姫 「花粉症に関しては毎回話題にしているんだから、逆に覚えていても可笑しくはないでしょうが」

いやいや、逆に常にしているからこそ、覚えていないとも言えるんだよ。

美姫 「威張るな!」

ぶべらっ!

美姫 「あ、何か急に疲れたわ」

むむ、いかんな。何か病気か?

美姫 「アンタの所為でしょうが」

ぶべらっ!
うぅぅ、あまり殴ってばかりいると俺が病気になるぞ。

美姫 「五月病、とかありきたりな事を言うんじゃないでしょうね」

…………今日は朝から雨だったのに目が痒いし花はむずむずするし。

美姫 「って、図星だったの?」

さて、そろそろ……。

美姫 「はいはい、図星だったのね」

いや、そ、そんな事は……。

美姫 「じ〜」

あ、え、その。あ、あははは。

美姫 「はぁぁ。まあいつもの事と言えばいつもの事だけれどね」

えっへん。

美姫 「褒めてない!」

ぶべらっ!

美姫 「さ〜て、それじゃあ気を取り直して、今週もCMいってみよ〜」







四月の初旬。春の様相をはっきりと見せる若々しい木々に囲まれた川のほとり。
まさに大自然と言わしめるその光景の中に僅かばかり景観を損なう異物があった。
その異物は足場の悪さをものともせず動き回り、時折甲高い物音を上げる。
幾度と繰り返された音に混じり、一際大きな音がしたかと思えば、今度は急に静寂が辺りを包み込む。
それに合わせたかのように動いていた者たちも動きを止め、

「今日はここまで」

「はぁ〜、ありがとうございます師範代」

恭也と美由希は互いに手にしていた得物――小太刀を鞘に納めると美由希はその場に座り込む。
そんな美由希へとタオルを投げながら体を冷やさないようにと注意の言葉を掛け、自分もまたタオルで汗を拭う。
最早恒例となった春の合宿。その丁度、折り返しに来た所で恭也はざっと今日までの出来上がりを思い浮かべ、
一人満足そうに頷く。そんな恭也を横目で窺いながら、美由希は言われたように汗を拭い、軽く柔軟を行う。

「大分、良い感じで仕上がってきたな」

「本当? でも、まだ貫の感覚がちょっと掴めないんだよね」

「まあ、それは追々感覚で覚えていくとして、斬に関しては問題ないだろう。
 徹に関しても小太刀で使用する分にはもう自在に操れているな」

「うん。でも、まだ素手だと偶に上手くいかなかったりするんだよね。
 足とかだと更に下がるし。まだまだ恭ちゃんみたいにはいかないね」

「そう簡単に追いつかれてたまるか」

何処か嬉しそうに語る美由希にはっきりとそう返しつつ、恭也は美由希の出来上がりには内心で満足していた。
少し習得に時間が掛かっている所もあるが、全体で見れば順調に育っている。
本人の才能もさることながら、努力を惜しまずに取り組んでいるからでもある。
自身の才のなさを更に痛感させられつつも、順調に自分を超えるべく成長している美由希を恭也は嬉しく思う。
勿論、それを口には愚か表情からも悟らせないようにし、恭也は朝食の準備を始めるのだった。



いつもと変わらない長期休みを利用した山篭り。
日付を勘違いして予定よりも遅れての帰宅と言う事態は起こったものの、
やはり変わらない日常が続くかのように思われた。
だがこの春、恭也たちは様々な出会いをする事となる。
同時にそれは二人を戦いの場へと導く事にもなるなど、この時には思いもしなかった。



「っ、この私が、自動人形の最終形態にして最高傑作のこの私がただの人間に恐怖を抱いた?
 ありえない、そんな事は絶対に認めない! 貴様を倒して私の方が強いという事を証明してやる!」

「……貴女は確かに強い。でも、私はもっと強い人を知っている。
 どんなに強くても、貴女の強さは予想の範囲内。
 恭ちゃんを知り、恭ちゃんに鍛えられた私には、貴女の力は届かない」

淡々と、ただ事実を告げるかのように述べる美由希の言葉にイレインは更に怒りを抱く。
それは既に憎悪とさえ呼べる程に苛烈なものとなっており、
美由希の背後に立つ忍は自分に直接向けられた訳でもないのに思わず後退ってしまう。
だが、それに直接晒されているはずの美由希は至って涼しい顔でそれを受け流し、揺るぎもせずにそこに立つ。
互いに交差する視線。最初に仕掛けたのはイレインだった。



「これが祟り……」

「美由希さん、危ないから下がってください!」

久遠から引き離さた祟りと呼ばれる存在。その異様な力を前に立ち尽くしていた美由希だったが、
その手に小太刀を握ると止める那美の言葉も聞かずに踏み出す。
どういう理屈なのか、目の前に存在する霧のような、靄のようなものには物理的な攻撃が通じる。
それは先程、久遠をあれから引き離す際に確認済みである。
ならば戦える美由希は小太刀を持つ手に力を込める。

「これぐらい切り伏せれなければ、あの背中に追い付く事なんて出来ない!」

祟りへと後数メートルの距離で、美由希は覚えたばかりの神速の世界へと飛び込む。
世界が色を失う中、ゆっくりとした速度で祟りへと接近し、手にした刃を振り下ろす。



「ようこそ、高町……いや、御神美由希。
 御神最後の、そして正当なる後継者よ!」

「貴女が永全に連なる者たちに試練を与えるという……」

「その通り! 長い歴史の中で既に名さえも忘れ去られた、過去の幻影。
 そして、此度の試練を与える者。見事、試練を乗り越えて真なる御神となるか、それともここで朽ち果てるか」

「あの人と並び歩くためならば、試練だろうと何だろうと食い破るまで!」

「くっくっく、いい、実に良い殺気だ。とても心地良いよ、御神。
 流石はあの男の弟子。人としての外れ方までよく似ている。だが、まだまだと言わざるを得ないな。
 その程度の歪みではあの男のいる高みには辿り着けないぞ! もっと狂え、強さを求めよ!
 我はその為の試練を汝に課そうではないか!
 見せろ、見せてくれ、人でありながらその根本を歪め、踏み外し、ただ高みへと上っていくその姿を!
 そう、あの不破のように!」

洞窟と呼ぶのがもっとも相応しい、岩肌も露出した閉鎖された空間内。
今、そこに二人が発する禍々しい気が膨れ上がり、互いを飲み込まんとばかりに荒れ狂う。
正常な者ならばその気に触れただけでも狂いそうなそんな中にあってなお、美由希は目の前の相手のみを映し、
相手もただ楽しそうに高笑するのみ。禍々しい空間で二人の剣士がぶつかり合う。



「って言うのはどうかな?」

「どうかなって、忍さん、これ私なんですか」

昼下がりの穏やかな午後。
高町家のリビングで突然にそんな事を口にする忍。
その手には先程まで美由希たちが読んでいた脚本が握られている。

「これじゃあ、まるで私が化け物じゃないですか」

「大丈夫、大丈夫。恭也はそれ以上の化け物って事になるから」

「でも、恭也さんの出番は最初以外にはないんですよね」

「まあね。そもそも、最初は恭也でやるつもりだったんだけれど、本人がどうしても嫌だって言ってきかなくてね」

「だからって、どうして私がやらないといけないんですか!?
 って言うか、普通に御神とか出したら駄目だし!」

叫びそのままテーブルに突っ伏す美由希に那美はただ乾いた笑みを浮かべる。
一方、晶やレンは台本に目をやりつつ、

「自主映画は良いとしても、こんなの撮れるのか?」

「うちはアクションシーンは問題ないような気がするけれどな」

「ああ、それは確かに。っていうか、忍さん、俺が亀に負けるシーンしかないんですが……」

「のほほほほ、それが現実というものですよ、晶くん」

「んだと!」

「やるか?」

「映画と一緒の結果になると思うなよ!」

「面白い事を言いますな〜」

喧嘩を始める二人を無視し、美由希は顎を着いたまま恨めしそうに忍を見上げる。

「第一、恭ちゃんが賛成するはずないですよ」

「あ、許可なら貰ったわよ。他の人たちの許可を取り付けて、その上で実名じゃなければって。
 あと、裏方なら手伝うけれど役者はパスという事で、恭也の役は赤星君に頼もうって思っているんだけれど」

「あのー、私に拒否権は?」

「うふふふ」

忍の顔を見て、美由希は言うだけ無駄だったかとまた顔を突っ伏せる。
そんな美由希の疲れた様子など気にもせず、忍は拳を握り締めて更に声高に叫ぶ。

「同時公開、高町さん家のフェイにゃんも宜しくね!」







にしても、雨が降ったら花粉が飛ばないと聞いた事があるんだが。

美姫 「いや、毎度の事ながら天候に関係なく出ているんだから体験から無駄だと悟りなさいよ」

優しさの欠片もない言葉ですね。

美姫 「私の半分は優しさで出来ているのに?」

残りの半分が俺を虐めるなんだろう。

美姫 「ううん、アンタを痛めつけるよ」

余計に酷いな、おい!

美姫 「冗談よ、冗談」

目がまじでした……。

美姫 「冗談にも全力をモットーに」

初めて聞いたよ、そのモットー。

美姫 「私も初めて言った」

それ、本当にモットーにしているのか?

美姫 「してないに決まってるでしょう」

だよな!

美姫 「まあまあ、落ち着いて。ほら、これでも飲んで」

おお、ありがとう……って、これは何?

美姫 「お醤油」

ははは、醤油か、そうか〜。って、誰が飲むねん!

美姫 「冗談なのに」

いや、もう勘弁してください。

美姫 「仕方ないわね。冗談はこれぐらいにしておいてあげるわ」

うぅぅ、ありがとうございます。

美姫 「さて、それじゃあ時間も良い感じだし」

って、もう終わりなのかよ!
あれ? という事は、つまり最後まで冗談で弄られていたという事に……。

美姫 「気にしたら負けよ。ほら早く締めましょう」

お、おう、そうだな。うん? そうなのか?

美姫 「いいから早く」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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