『とらいあんぐるハート 〜Another story〜』






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『対消滅!?』

それが事情を聞かされた全員が最初に発した言葉だった。
今、さざなみのリビングにて説明をしているのは、フィリスの養父でもある矢沢医師だった。
恭也の姿がリビングから消え、慌てた耕介たちは非常識な患者を一手に引き受けている医者である矢沢医師を呼んだという訳である。
そして、事情を聞いた矢沢が最初に出した答えが、それだった。

「ええ。あくまでも可能性の一つですが。フィリスたちが揃って、恭也くんをアポートしようとしたという事だったね。
 そもそも、アポートの理論もはっきりと解明できていないから、仮説になるけど……」

そう前置くと矢沢医師は説明を始める。

「例えば、フィリスたちが使うテレポート。これも原理はアポートと同じと考えられる。
 対象が自分かそれ以外かによって、名前が変わると考えて欲しい。
 でだ、物質が転移する時に、その転移先に転移させる物体の体積と同じ質量をなくす必要があると仮定する。
 この場合、転移先の体積と転移させる物体が入れ替わる訳だ」

耕介たちは矢沢の話に頷く。
矢沢をそれを見て、話を続ける。

「次に、転移させる物体を素粒子レベルで分解し、転移先で再生すると仮定する。
 この場合、転移先には転移させる物体と同質の体積が必要になる」

この時点で数人が首を傾げるが、矢沢は構わずに続ける。

「次は、物質を変化させると仮定する。この時、転移させる物体は空気に変化される。
 で、転移先の空気が転移させた物体に変化する。
 この三つのどれかがテレポートやアポートの原理だとすると、
 転移先を意識せずに転移させたとしても、そんなに問題じゃないんだ。普通はね」

更に首を傾げる者が増える中、何とか話についてきている者たちを中心に話を進めていく。

「ただ今回の場合、4人が4人共同時に転移先を考えずに転移させたからね。
 最も速かった者の転移能力で、どこかに飛ばされたと考えるのが一番良いんだけどね」

そう言って、一息つくと非常に言い辛そうに続ける。

「そうじゃなかったら、仮定1や2の場合は、恭也くんがバラバラになっている可能性がある。
 そして、仮定3の場合、恭也君が数人に、この場合は四人だね、になっている可能性がある」

「矢沢さん、ちょっといいっすか」

真雪は手を上げると、矢沢に質問をする。

「どうぞ」

「どうも。じゃあ、さっきの対消滅って奴は?」

「うん。今までの話は楽観論というか。希望的観測と言うか。
 つまり、どの仮定にしても、実際に最も大きな可能性は、転移させようという力が同時に加わった事によって、
 恭也くんを構成しているモノが形を変えるなり、失うなりしたって事」

「早い話が消えたって事か」

「そうなるね」

「そ、そんなぁ」

矢沢の言葉に美由希が力なく呟く。

「ま、まあ、まだそうと決まった訳じゃないんだし。
 もう一つの仮定として、転移する瞬間に別次元に行くという仮定もあってね。
 これは、我々の世界とは時間の流れが違う空間を移動し、こちらの世界に戻ってくるっていう仮定なんだけど…」

「それはないな。僕がテレポートするときには、そんな別次元なんて感じていないし」

「それは気付かないだけとか、色々考えられるだろ」

「まあ、そう言えない事もないけどね。でも、それも仮定なんだろ」

「まあね。それに、今回は転移能力以外にも霊力とかが影響しているかもしれないしね。
 流石にここまでくると、私でもすぐに答えを出せないよ。悪いけどね」

「いや、充分だよ」

謝る矢沢に、真雪が答え、リスティはへたり込んでいる美由希たちに明るい声で話し掛ける。

「ほら、美由希たちもいつまでも落ち込んでないで。まだ、消えたと決まった訳じゃないんだから。
 後は、私たちが恭也を見つけ出せば良いんだよ」

そう言って笑って見せる。
それに何とか美由希も笑いで返すと、ゆっくりと立ち上がる。

「そうですよね。あの恭ちゃんがそう簡単に消えたりするはずないですよ」

本人に聞かれたら、拳骨でも喰らいそうな事を言う。

「とりあえず、恭也の関係者に連絡をして、後は僕たちとフィアッセの力で世界中から恭也の反応を探そう」

方向が決まると、それぞれが今できる事をする為に散っていく。
全員がいなくなったリビングで、耕介と真雪、そして矢沢だけになる。

「で、矢沢さんはどう考えてる?実際の所は」

「……言いたくはないですけど、可能性は極めて0に近いかと」

「そう」

真雪はそれだけ言うと、咥えていた煙草に火をつけ、大きく吸い込んだ。







 〜 つづく 〜








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