2月下旬。
今日は、恭也の中学卒業式の日だった。
恭也の通う中学は、卒業式が早く行われるのである。
因みに、だった、と言うのは、既に式も無事に済み、今恭也は部屋に居るからである。
恭也は部屋で、何やらごそごそをしている。
大方、部屋の掃除でもしているのであろう。
粗方作業を終え、恭也は一息吐くのだった。





『恭也の全国武者修行の旅』



 〜 プロローグ 〜





その日の夜、晶、レンによる豪華な食事も終え、寛いでいた時のこと。
恭也は改まった口調で、桃子に話を切り出す。
その表情に、桃子も真剣な顔になり、周りで見ていた美由希たちも思わず姿勢を正す。
そして、恭也はゆっくりと口を開くのだった。

「実は、この手続きをしておいて欲しいのだが」

そう言って恭也が桃子に手渡したのは、4月から通うことになる風芽丘学園の書類だった。

「なーんだ、そんな事か。分かったわよ。入学の手続きをしておけば良いのね。
 改まった顔をするから、一体何事かと身構えたじゃない」

桃子は一転して肩の力を抜くと、朗らかに笑いながら言うのだった。
そんな桃子に対し、恭也はもう一枚の紙を取り出し、手渡す。

「ついでにこれも頼む」

「はいはい。分かったわよ。なになに。
 えっと、はいはい休学届ね。……………………えっ?!
 ちょ、ちょっと恭也」

慌てて何か言おうとする桃子に、片手を差し上げ制する。

「とりあえず、落ち着いて」

「え、あ、うん。そうよね」

恭也の言葉に、桃子は深呼吸を繰り返し、落ち着いてから尋ね返す。

「で、これはどういう事」

「うむ。実は、少し前から考えていたのだが、しばらく武者修行の旅に出ようと思う」

この言葉に、桃子は絶句し、美由希たちはこそこそと話をする。

「恭ちゃんらしい言葉ではあるよね」

「はい、師匠らしいです」

「けど、休学届を出すぐらいやから、結構長期なんとちゃいます」

そんな言葉を聞きながら、桃子は気を取り直すと、

「一体、どれぐらいの期間?」

「一年だ。だから、一年間休学する」

桃子は恭也の目を見て、溜め息を吐く。

「はー。あんたの事だから、今更止める気なんてないんでしょ」

尋ねながらも、確信した口調で言う桃子に、恭也は頷く。

「はー。入学して、一日も行かずに休学……。
 まあ、良いわ。その代わり、たまにでも良いから連絡する事。良いわね」

「ああ、分かった」

こうして、恭也の全国を巡る旅が始まるのであった。







 〜 つづく 〜








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