『Triangle Fate stay/hearts』






第三話 「新たなる刺客?」





「貴方がマスターですか?」

そう問い掛けてくる女性に、恭也は答える事が出来なかった。
一つは、その女性に見惚れていたからで、もう一つはその問いかけの意味そのものが分からなかったため。
そんな恭也へと、女性は再度問いかけようとして、背後より迫るランサーの槍を弾く。
澄んだ金属音を耳にして、恭也は我に返ると目の前の女性に向かって叫ぶ。

「危ないから、早く逃げろ!」

しかし、そんな恭也の言葉に女性はにっこりと一つ微笑んで見せる。
その笑顔にまたも見惚れながら、恭也は僅かに違和感を覚えていた。
確かに、目の前の人物は絶世の美女と言っても差し支えはないだろう。
けれど、何か違和感を感じるのだ。
それが何か気付く前に、ランサーの再度の攻撃が恭也へと襲い掛かる。
女性は恭也を抱き寄せると、逆の腕を振るい自身と恭也の周りに鎖を走らせる。
再び甲高い音を立てて槍を弾く女性の顔を間近に見ながら、恭也はようやく違和感の正体を知る。
それは、目を大きく隠すように覆っている目隠しの所為だった。
女性は鎖の先端に付いたクナイにも似た武器の柄の部分を握ると、ランサーを見詰める。
ランサーは慎重に女性を見据えながらも、高く跳ぶと後ろの塀に身を置く。

「まさか、マスターになっちまうとはな。
 まあ、これで偵察の任務に切り替わった訳だが…。
 ふむ。消去法で考えれば、ライダーって所か。
 それだけ分かれば充分だ。今回はここまでだな。それじゃあ、またな」
ランサーは言うと屋根から屋根へと跳んで去って行く。
その後を追おうとした女性は、しかし、恭也を見てその場に留まる。

「大丈夫ですか、マスター」

「ああ、お陰で助かりました。ありがとうございます」

「マスター。礼には及びませんよ。私の事はライダーとお呼びください」

「分かりました。ライダーさん。所で、そのマスターというのは…」

恭也の言葉に怪訝そうな表情を見せかけるも、すぐに恭也を背後に庇うようにして前方を見詰める。
と、その先の角から、首から先がない骸骨が大きな剣を手に姿を見せる。

「竜牙兵っ! もう新手が」

こちらへと斬りかかってくる竜牙兵を一撃で粉々に打ち砕くと、その視線をその後ろへと向ける。
そこから、頭からローブを被った、恭也が夕方に出会った女性、キャスターが現れる。

「っ! 正面きっての肉弾戦では不利だわ。でも、そうそうマスターを失うわけにもいかないのよ!」

言ってキャスターは胸の前で指を次々と複雑な形に組み替えては印を切る。
呪文の詠唱を始めるキャスターへと、ライダーが襲い掛かる。
その速さは先程のランサーもかくやと言わんばかりで、あっという間にキャスターへと迫ると、
右手に握った刃を突きたてる。
しかし、その攻撃は以外にも空を切る。

「しまった! 幻覚」

呟いたライダーが本体であるキャスターの姿を探すよりも早く、
そこから十数メートル離れた場所に居たキャスターが掌をライダーへと向ける。
その前に三角形を二つずらして重ねた六芒星に、それを囲む円という魔法陣が浮き上がる。
薄紫色に浮かび上がった魔法陣から、光弾がライダーへと三つ飛ぶ。

「不覚! キャスターが、正面から出てくるはずがなかったか。
 下姉さま、お願いします!」

ライダーが叫ぶや、その身体が劇的な変化を見せる。
身長が縮んだかと思うと、膝裏よりも伸びていた髪も短くなり、
後ろにそのまま流していたのが、頭の上の方で二つに束ねられた髪型に変わる。
全くの別人と変化を遂げたライダー。
しかし、その顔は何処か似通っており、こちらもまた絶世の美少女は、両腕を掲げる。
すると、そこに盾でもあるかのように光弾は全て弾かれて、あらぬ方向へと飛んでいく。
少女はにやりと笑みを見せると、地面を軽く蹴る。
と、まるで背中に羽根でも生えているかのようにあっという間にキャスターとの距離を詰める。

「私、お願いね」

短く呟くと同時、またしても少女の姿が変化する。
今度はさっき少女と見分けが付かないほど瓜二つ。
しかし、恭也はそれがさっきとは違う人物であると感じ取っていた。
新たに現れた少女は、既に充分過ぎるほど近づいていたキャスターのローブを無造作に掴むと、
そのまま振り回すようにして放り投げる。

「ほら、しっかりやりなさいよ」

空中へと投げられたキャスターを見据えつつそう呟くと、最初に恭也の前に現れた長身の女性、ライダーに戻る。

「はい」

ライダーは短く返事をすると、宙に居るキャスターへとその獲物を突き立てんと跳躍する。
事ここに至って、恭也はようやく我を取り戻すと制止の声を上げる。

「ライダーさん、ストップです!」

恭也の言葉に、今まさにその背中へと突き立てられようとしていた凶器が止まり、
変わりに蹴りを放つとその反動で恭也の隣へと降り立つ。
一方、蹴られたキャスターは、蹴りが決まる瞬間に足と自らの体の間にシールドを張り、
そのダメージを押さえ込むと、空中で態勢を整えてそのまま空に浮かび見下ろす。

「正面に姿を見せるなんて迂闊だったわ。でも、貴女は何者よ。
 三つの姿を、いいえ、明らかに別人だったわ。三人が交互に入れ替わる者なんて聞いたこともないわ。
 おまけに、マスターを人質にするなんて」

悔しそうに歯軋りするキャスターの言葉に、ライダーが首を傾げる。

「貴女のマスター? 何を言っているのです。
 この方は私のマスターですよ」

「何を馬鹿な」

空の上と地面とで会話する二人の間に恭也が立つ。

「とりあえず、俺も関係しているみたいなんで、説明してもらえませんか?」

恭也に言われ、二人は渋々といった感じで武器を仕舞い、キャスターは降りてくる。
流石にこれだけ騒いでいれば、近所も騒ぎ出す。
恭也は一先ず、ここから最も近く、話を聞きやすい場所として、自宅へと二人を連れて行くのだった。



つづく







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