『刻まれる時の彼方 〜Duel Heart of Eternity Sword〜』






19話 禁書庫U 〜激化する障害〜





先行したと思われる恭也たちを追うように階段を下った大河たちであったが、辿り着いた先に恭也たちの姿はなかった。
見渡す限りは上と変わらない広さのフロア。本棚が視界を妨げ、見える範囲では恭也たちは見当たらない。
結局、仕方ないと決断を下して大河たちは下へと続く階段を探す事にする。
目的地が同じ以上、いずれ合流できるだろうと考えて。

「それに人の心配をしている余裕もないしなっ!」

言いながら斧の形状にしたトレイターを横に力いっぱい薙ぐ。
風を切る音を立てながら振るわれた斧は、その威力を遺憾なく発揮して前から迫ってきた三体のスケルトンをバラバラにする。
が、場所の事まで考えていなかったのか、それとも忘れていたのか、狭い通路で振るわれた斧はその勢いを損なう事無く、
そのまま本棚にぶち当たり、見事までに破壊の爪痕を刻む。

「ちょっ、このバ大河、何やってるのよ! もし貴重な書物だったらどうするの!」

「知るかっ! そんな貴重なもんをこんな所に置いておく方が悪い!
 それと人の名前を変な風に改名するな!」

「くっ、アークディル!」

呪文を解き放つと、リリィの前に巨大な氷の柱が現れ、目の前に迫っていた狼型のモンスターを貫く。

「場所が場所だけに炎系統や爆発系統が使えないのが痛いわね」

愚痴りつつ隙を付いて近付いてきたモンスターを回し蹴りで吹き飛ばす。
そのモンスターに未亜の放った矢が突き刺さる。
リリィたちの後方ではベリオが張った光の壁に進行を止められたモンスターにカエデが襲い掛かり一匹ずつ葬っている。

「だぁぁ、ここに来ていきなり激しくなっているじゃないか。
 まさに大歓迎かよ!」

「無駄口叩く暇があるなら、腕を動かしなさい!
 こんな入り組んだ場所では、未亜の矢が尤も有用なんだから、しっかりと未亜を守りなさい!」

「そんなの言われるまでもない事だっての! もう少し広ければ思いっきり振り回せるのによ!」

大人が二人も並ぶといっぱいになりそうな本棚に囲まれた狭い通路。
そこで両側から挟み撃ちにされた大河は分かっていても思わず口にしてしまう。
大河の武器は変化するとは言え、その殆どが長物。振り回せば本棚にぶつかる。
そこに罠があれば、現状が悪化するだけである。
勿論、ナックルといった武器にも変化できるが、それで突撃すれば今度は未亜たち後衛組みが取り残されるし、
正直、体術にはそれ程自信がある訳ではない。
こんな事なら、ナックルをただ突撃に使うだけじゃなく、素手の戦い方ももう少し考えておくんだったと後悔するも遅い。
リリィの魔法は先に本人が言ったように火力に頼って一掃とはいかない。
結果として、大河は壁役となり敵の攻撃を防ぎ、リリィの魔法や未亜の矢による攻撃で倒していく。
逆側はベリオとカエデにより、こちらは体術を得意とするカエデが突撃する形で比較的楽な形でモンスターの相手をしている。



一方、大河たちとは別行動を取っている恭也たちは、こちらもまた同様にモンスターに囲まれていた。
が、元々障害物のある場所や一対多といった戦闘も考慮され、長い歴史の中で先達によって磨かれてきたのが恭也の使う御神流である。
多数のモンスターに囲まれた所で慌てず、恭也は小太刀を振るって葬っていく。
その背中をユーフォリアは手を出す事無く見守る。
傷付いて欲しくはないが、これもまた経験となり恭也の成長となると言い聞かせて。
しかし、それでもやはり恭也がピンチになれば自然と声は出てしまう。
背後へと迫ったモンスターに思わず警告する声を上げ、同時に恭也は振り向きざまに切り捨てる。
それを見て胸を撫で下ろし、忠告なら問題ないよねと自分を納得させるのだった。

「……しかし、本格的に危なくなってきたな」

全てのモンスターを倒し終え、恭也がそう漏らす。
それは先ほど背後を取られた事ではなく、恭也が目を落とす八景にあった。

「あちゃー、本当にまずいね恭くん」

目に見えて刃毀れが分かるぐらいになった八景に視線を落とし、ユーフォリアも顔を顰める。
先ほど背後を取られたのも気付いていなかったからではなく、思った以上に切れ味の落ちた八景によって剣速が落ちたからだった。
無いものを強請っても仕方ないと恭也は小さく嘆息すると小太刀を鞘へと仕舞い、そのまま腰に戻さずに手で持つ。

「徹と合わせれば鈍器代わりにはなるだろう」

「そうだね。流石にそのままだと本当に限界を迎えちゃいそうだしね。
 今回は最悪、リリィたちに任せるとしても、早急に手を考えないと駄目だね」

「そうだな。学園長が手配してくれているみたいだが、それとは別に戻ったら、一度武器を取り扱っている店を覗いてみるか。
 出来れば小太刀、なくても刀があれば良いのだが」

気難しげな顔で言う恭也に対し、ユーフォリアはその言葉を聞いて顔を輝かせる。

「じゃあ、戻ったらデートだね♪ 何を着て行こうかな。
 この間、買ってもらったワンピースにしようかな。それとも、恭也とお揃いの黒のパンツが良いかな」

場違いと言っても良いほど明るい声を上げてはしゃぎ出すユーフォリアに、恭也は思わず突っ込む。

「ただ武器を見に行くだけだぞ」

「分かってるわよ。でも、恭くんと二人で出かけられるだけで嬉しいだもん」

本当に嬉しそうな笑顔と真っ直ぐな言葉を言われ、気恥ずかしくなったのか恭也はそこで話題を変えるように喋る。

「それよりも、さっさと下に行くぞ」

「分かったよ」

照れているのに気付いているのか、ユーフォリアはやや含んだ笑みを見せつつ何も言わずに階段を下りていく。
見透かされているような感覚に更に気恥ずかしくなりつつも、すぐに戦闘用に気持ちを切り替えるとその後に続くのだった。



「だぁぁっ、これでラストー!」

叫びながら斧で二足歩行する蜥蜴の形をしたモンスターの頭をかち割る。
呼吸を乱しつつ、大河はトレイターを剣の形に戻すと仲間たちの無事を確かめるように振り替える。
幸い、皆息は乱れているものの大きな怪我は見当たらない。

「はぁぁ、急にわんさか湧いて出やがって。もしかして、ゴールが近いのか」

「そうとも言えないかもよ。単に今までが単に少なかっただけかもね」

言いながらリリィは一冊の本を抜き取る。

「ほら、これなんか禁呪に関して書かれている魔導書よ。
 上の階に比べ、置かれているものも一層、禁書めいてきているわ」

「だから?」

首を傾げる大河にバカにするように鼻で笑った後、これみよがしに肩を竦めて見せる。
それに大河が怒り出す前に、ベリオが慌てたように二人に間に割って入る。

「つまり、上のフロア以上にここから先にある物は重要度が高いと言いたいのよね」

ベリオが少し睨むように見てくるのでリリィも流石に反省したのか、それ以上大河に突っ掛からずに首肯してから言う。

「そうよ。まあ、この禁書庫事態がおか……学園長の許可がないと入れない訳だけれど、万が一盗賊が忍び込んだとしても、
 そう簡単に持ち出せないようにしている可能性もあるって事よ。
 上の方のフロアなら許可さえあれば閲覧可能な物ばかりだったというのもあるかもね」

「どちらにせよ、ここから先は一層気を付けないって事か。
 まあ、そう簡単に導きの書とやらを手に出来るとは思ってなかったけれどな。
 しかし、下に行くほど強敵が出て来るって、益々ゲームじみてきたな」

流石に初めの頃のように単純に喜んでばかりもいられなくなってきたのか、そう言う大河の顔も真剣そのものである。

「ともあれ、早く階段を探した方が良いでござるよ、師匠。
 このままここに居れば、またモンスターが襲ってくるかもしれないでござるから」

「カエデの言うとおりだな。それじゃあ、いっちょ気合を入れなおして頑張るとしますか」

大河の掛け声を合図に再び探索に戻る未亜たち。
それから数分後、ベリオが恐らくは隠し扉だったのだろう、既に開け放たれている壁から下へと続く階段を見つけ出す。

「恭也たちが先に行ったって事なんだろうな」

「リコさんの可能性もあるけれど、今までリコさんは階段が隠されている場合でも開いたりしてなかったから、多分そうじゃないかな」

やや自信なさげに告げるも、大河たちもその言葉に同感である。

「まあ、今は考えても仕方ないしとりあえず降りようぜ」

そう言うと大河は自ら先に降りて行く。その後を追うようにリリィたちも続く。
立ち塞がる敵も罠さえもが更に激化していく予感をひしひしと感じつつ、その足を止める事はできない。





つづく







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