『Present for Kyouya』
〜T〜
「す、すいません。こ、これをお願いします」
「はい、こちらですね。ちょっとお待ちください」
しばらく待って、包装された品物を受けとり代金を払うと美由希は足早に立ち去る。
そんな美由希の背中に露店のお姉さんが声をかける。
「頑張ってねー」
そんな声を背中に受け、顔を赤くしながら美由希は、少しでも早くここから離れようと駆け足になっていった。
◇◇◇
今日この日、翠屋は午後から閉店となっていた。その理由は・・・・・・
パァーンッ!!
店内にクラッカーの鳴る音が響き、その後に店内にいる人たちからお祝いの言葉が投げられる。
『誕生日おめでとう』
・・・ここ翠屋の店長、高町桃子の息子、タカマチ恭也の誕生日パーティーの為である。
しばらくの間は何事も無く、普通に進んでいた。
しかし、30分ぐらい経った頃、晶とレンが恭也の前に来て手に持った皿を目の前に差し出す。
「「師匠(お師匠)、これプレゼントです」」
「ん、なんだ。ほう、これは美味しそうだな」
「「はい」」
「では、早速頂くか」
「うん、この料理は上手いな。レン、また腕を上げたな」
「えへへ、おおきにです」
「師匠、こっちの俺が作ったやつも食べてみてください」
「ああ。・・・・・・・・・うん、これも上手いな。晶もまた腕を上げたな」
「いえーい」
恭也の感想に素直に喜ぶ二人。そんな二人を見て、恭也の顔も少しだが緩む。
しかし平穏だったのも、そこまでだった。
「「師匠(お師匠)、どっちの料理の方が美味しかったですか?」
「俺(うち)ですか」
「な、待て晶、レン。一体、何の話だ」
「お師匠、このオサルなんかに気ぃ使う事ありません。正直に、うちの料理の方が美味しかったと言ってくれて構いません」
「バカかお前は。師匠はお前に気を使ってるんだよ。
師匠、勝負の世界は非常です。変な気を使わずに、正直に俺の方が美味しかったって言っていいですよ」
「なーにを言ってるねん。うちの方に決まってるやろ」
「俺だ」
一触即発の状態で睨み合う二人。そこへ、
「こらー、二人ともいい加減にしなさい」
なのはの声が飛ぶ。その瞬間、二人は目に見えて小さくなる。
「もう、晶ちゃんもレンちゃんも、喧嘩なんかしちゃ駄目でしょう!」
「「でもっ」」
「だめ!」
「「はい」」
「なのは、晶もレンも反省してるみたいだし、そのぐらいで許してやれ」
「はーい。二人とも仲良くしないと駄目だからね」
恭也の言葉に素直に従い、晶とレンを開放するなのは。
恭也は開放されて、安堵のため息を着いている二人に話し掛ける。
「晶、レン。二人の料理はどっちも、甲乙つけがたいぐらいに美味しかった。どっちが一番とかはなしだ。いいな」
「「はい」」
恭也の言葉に大人しく従う二人。
こうして序盤にトラブル(?)らしきものがあったものの、そのまま誕生会の名を借りた宴会もどきが進んでいく。
そして数時間後・・・ほとんどの料理が食べ尽くされた頃、桃子が立ち上がり話し出す。
「さあて、そろそろ皆からのプレゼントを渡さないとね」
ちなみに桃子のプレゼントであるケーキはすでに食べられた後である。
桃子本人が言うように甘さを控えめにしたお陰か、恭也も気に入ったみたいだった。
皆が恭也にプレゼントを渡し終えたのを見た桃子は、
「折角だから、ここで開けてみたら?」
「そうだな。皆、いいか?」
全員が頷いたのを確認すると順にプレゼントを開けていく。
お守りや竿、靴など様々なプレゼントが、目の前に置かれていく。
そして最後に美由希から貰ったプレゼントの梱包を解く。
他の者たちも何がでてくるのか興味津々で恭也の手元に注目する。
そして、中から出てきた物は・・・・・・
「む、これは・・・指輪か?」
「あ、ほんまやー」
「あれ?これって、もしかして」
「どうかしたんですか忍さん」
「うん、これって確かフォーチュンリングだわ」
「あ、本当ですね」
「へぇー、美由希ちゃんも思い切った事するわね」
恭也は一人、話についていけていない様子で首をかしげている。
そんな恭也に美由希が思い切ったように話を切り出す。
「き、恭ちゃん。そ、それを、返して欲しいの」
「?ああ、返せばいいのか」
そのまま返そうとする恭也に美由希は泣きそうな顔をする。
それを見た恭也はその動きを途中で止め、
「美由希、どうかしたのか?」
と訊ねる。美由希は首を横に振りながら、なんとか笑顔を作ると、
「う、ううん。何でもないよ。そうだよね・・・私の事なんか・・・・・・グスッ」
「み、美由希。本当にどうしたんだ」
「ほ、本当に、な、何でもないよ。ただ、指輪にな、名前を入れてはく、・・・くれないんだ・・・って思っただけで・・・」
「???名前を入れて返せばいいのか?」
「む、無理にしてくれなくてもいいよ」
「別に無理はしていないが」
「えっ!じゃあ、名前を入れてくれるの?」
「ああ、構わないが・・・。それでいいのか?」
「う、うん、ありがとう、嬉しいよ」
「???」
その瞬間、恭也と美由希を囲んでいた全員からお祝いの言葉を放たれる。
『おめでとう』
「よかったわね美由希」
「///(テレ)」
泣き顔のまま照れる美由希と何が起こっているのか事態を把握できていない恭也。
いや、あと二人(正確には一人と一匹)話についていけていない者がいた。なのはと久遠である。
そんな三人を余所に他の者たちはやたらと盛り上がっている。それらの出来事を見ていたなのはが、久遠を抱き上げ問いかける。
「えーと、どういうことなの?お兄ちゃん」
「くぅん」
なのはも久遠も当事者の一人らしい恭也に訊ねるが、当の本人も訳が判らずに首をかしげ、
「さあ、俺にも、・・・『ちょっと高町君、いい?』・・・」
さっぱり判らないと続ける途中で、忍によって遮られる。忍は、自分が恭也の言葉を遮った事にも気付かずに話し続ける。
「美由希ちゃんが高町君に送った指輪はフォーチュンリングって言ってね、好きな人に告白するときに使う指輪なのよ。
フォーチュンリングを使った告白には決め事があっって、
女の子が男の子に告白するときは、空白のリングを渡して、OKなら名前を入れて返し、NGならそのまま返すの。
それ、知ってる?」
その説明を聞いた恭也は一言、
「・・・・・・知らん。と言うよりも、俺がそんな物に詳しいと思うのか」
美由希だけでなく周りにいた皆も恭也の台詞に言葉を無くし呆然とし、しばらくの間、辺りを沈黙が包み込む。
一人、忍だけが冷静にその沈黙を破り、話し出す。
「やっぱり知らなかったのね」
「ああ、当たり前だ」
「た、確かに。こういう事に詳しい師匠っていうのも変ですよね」
「そーやな。お師匠がこーゆーのに詳しい訳ないな」
「ははは、かーさんも変だとは思ったのよ。恭也がこんな事を知ってるなんて珍しいなって」
「それも、そうですね」
『・・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜』
言いたいことだけ言って、皆、一斉にため息をつく。
そんな中、桃子が恭也に質問をする。
「恭也、その指輪の意味は判ったわね。美由希がそれを恭也に渡した意味も・・・」
「ああ、判った」
「だったら、これから先、どうするのかは、あんたが考えなさい」
「う・・・ぐ・・・・・・」
美由希は恭也に涙を堪えながらも笑顔を浮かべる。
「だ、大丈夫だよ、きょ、恭ちゃん。わ、私の事なんか・・・・・・・・・き、気にしないで・・・っく・・・え・・・・・・うぅ・・・。
わ、私は大丈夫だから、・・・へ、返事をお願い」
堪えきれずに美由希の頬を涙が伝う。恭也一人は美由希の傍へと歩み寄ると、目から零れ落ちる涙を拭う
「美由希、泣くな。お前に泣かれると困る」
「ごめ・・・ごめん恭ちゃん」
「俺は自分でも判るくらい鈍感だ。特にこういう事に関しては。
だから、今まで俺も自分の気持ちが判らなかったんだが、今日の事で判った事がある」
「うん」
「今まで、俺はおまえの事を妹とか弟子として好きだと思ってた。でも、そうじゃなかったみたいだ。
いつも一緒にいるのが当たり前みたいになっていたから気付かなかったが、美由希の事を一人の女性として好きだったんだ」
「ほ、本当に?」
「ああ。こんな時にまで嘘は言わない」
「・・・う、ううぅぅぅぅ」
「何故、泣く?」
「こ、これは仕方がないよ。恭ちゃんが嬉しい事、言ってくれたから・・・。そしたら、勝手に出て来るんだよ」
「そうか」
そう言って恭也は美由希を抱き寄せる。
美由希はそんな恭也の行動に、少し照れながらも嬉しそうな顔をして、恭也の胸に顔を埋める。
「恭ちゃん・・・・・・」
「今度、この指輪に名前を彫りに行かないとな」
「うん・・・・・・」
「美由希・・・」
「恭ちゃん・・・」
そして、二人の顔が近づいていき、口付けを交わそうとした所で声が聞こえて来る。
「あー、ごめんねー恭也、美由希。でも、私たちがいる事忘れてない?いや、私はいいんだけどね」
「「あっ」」
桃子に言われて二人は自分たちが何処で何をしようとしていたのかを思い出し、顔を真っ赤にする。
「あーそのー皆、まあ、そういう訳だ」
「何がそういう訳かは判らんが、とりあえず高町、美由希ちゃんおめでとう」
「おめでとう、高町君、美由希ちゃん」
「美由希さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます、那美さん」
それぞれ親友から、お祝いの言葉を貰う一方で、年少組みたちは、
「師匠があんな事を言うなんて・・・」
「うー、お師匠もやりますな」
「あんなお兄ちゃん、初めて見た」
好き勝手な事を言いながら盛り上がる。そして、最後に桃子が声を掛ける。
「二人ともおめでとう。恭也が自分の気持ちに気付いて良かったわ」
「な、母さんは判っていたのか」
「何となくだけどね。恭也自身、気付いてないこともね。これでも母親だからね」
「だったら、教えてくれても」
「駄目よ。こういうのは人に教えてもらうもんじゃないでしょ。自分で気付かなきゃ。
それに恭也なら遅かれ、いつかは自分で気付くと思ってたわ。もっとも、見ていてもどかしかったのは確かだけど」
桃子の台詞に返す言葉の無い恭也。そんな恭也に構わず桃子は話しつづける。
「ほらほら、片付けはこっちでやっておくから、二人は先に帰った、帰った」
「え、でも」
「いいから、いいから。ほら、恭也も美由希を連れてさっさと行きなさい」
「ああ、わかった。美由希、行くぞ」
「あ、うん。かーさん、ありがとう」
皆に見送られて、すでに日が落ちて暗くなっていた店の外へと出る二人。
美由希は自分の腕を恭也の腕に絡めて歩き出す。
「美由希」
「なに?」
「その・・・なんだ。まだ少し時間もある事だし、少し・・・・・・寄り道して行くか」
「うん」
そのまま二人は海鳴臨海公園へと足を伸ばす。
人気の少なくなった公園を二人は寄り添いながら歩く。
「恭ちゃん・・・・・・」
「なんだ?」
「ううん、何でもないよ」
そう言いながらも美由希は嬉しそうに微笑む。
「何もないのに名前を呼ぶな。可笑しな奴だな」
そう言う恭也の顔にも、滅多に無い笑みが浮かんでいる。
「だって、こうして特に何かある訳じゃなくても、隣に恭ちゃんがいるだけで、なんだかとっても嬉しくて幸せなんだもん」
「・・・俺も、その、美由希がいるだけで・・・・・・」
言いながらそっぽを向く恭也。美由希は恭也の続く言葉を待って、その顔を覗き込む。
「恭ちゃん、私、続きが聞きたいな」
「うるさい」
美由希の居ない方を向き、照れている顔を背ける。しかし、美由希もまた、回り込むと、
「なんで〜。聞かせてよ。ねぇねぇ」
滅多に見られない恭也の態度に、美由希は更に恭也を責め立てる。
そんな傍から見ると、恋人同士のじゃれ合いにしか見えない事を繰り返すうちに、美由希が躓き転びそうになる。
それを恭也が咄嗟に抱き止める。
「まったく、お前は進歩が無いというか。なんで何もない所でこけるなんて技が出来るんだ」
「うぅー、ごめん。でも、これで捕まえた」
「こ、こら、やめろ美由希」
「いや!さっきの続きを言ってくれたら、やめてあげる」
「っく・・・だ、だから、美由希が傍にいるだけで・・・・・・」
「ねぇねぇ、早く」
「うるさい。そんなに五月蝿い口はこうしてやる」
そのまま素早く美由希の口を自らのそれで塞ぐ。
「・・・・・・」
「・・・・・・き、恭ちゃん、い、今・・・」
「黙らないとまたするぞ」
「いいよ。また、して・・・」
「なっ、何を言って・・・んん、んっ」
恭也の台詞は途中で遮られる。今度は美由希の唇によって。
恭也はそのまま、美由希の背中へと手を回し抱き寄せる。そして、そのまましばらくの間、二人の影は一つに重なっていた。
どちらともなく離れると、二人の唇の間に銀糸によってできた橋がプツリと切れる。
そして、二人して微笑み合う。
「好きだよ、恭ちゃん」
「ああ、俺も好きだ、美由希」
再び、口付けを交わす二人を夜空に浮かぶ月だけが見ていた。
<Fin.>
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<あとがき>
浩 「ごきげんよう、美姫さん」
美姫 「何を言ってるの?」
浩 「いや、ただの挨拶だけど」
美姫 「正気?」
浩 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
美姫 「ええーい。ネタの使いまわしをするな」
浩 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
美姫 「しつこい。(ゲシッ)」
浩 「ごめん・・・」
美姫 「途中でやめたのは賢明ね。
とりあえず、今回のこの話だけど、これはリクエストのあったPresent
for Miyukiの恭也バージョンよね」
浩 「その通り。前回、リクエストが来たら書くと言っていたSSだ」
美姫 「って事は、リクエスト来たの!?」
浩 「何故、驚く」
美姫 「別に〜」
浩 「ぐっ。な、何かむかつく」
美姫 「まあまあ。所で今回って2パターンなの?」
浩 「おう。ちょっと二つのパターンを思いついたんで、途中分岐にしてみました」
美姫 「で、もう一つのパターンの方は?」
浩 「えーと」
美姫 「まさか、またリクエストが来たら、とか言わないわよね」
浩 「当たり前だ。こっちも書いている途中だ」
美姫 「どれどれ。あ、結構書けてるじゃない」
浩 「ただ、ちょっとした事情で2、3日はSSを書けないから完成は早くても3日後ぐらいになると思う」
美姫 「じゃあ、出来る限り早く仕上げるのよ」
浩 「任せろ。と、言う訳でもう一つのパターンはしばらくお待ち下さい」
美姫 「では、今回はここらへんで」